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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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21.  ワルキューレ 《ネタバレ》 
ヒトラー暗殺の物語をよりによってユダヤ系で同性愛者のブライアン・シンガーが撮るというトンデモ企画だったわけですが、意外なことにシンガーはナチス時代の様式美の再現にこだわっています。それは車両や航空機の独特な美しさであったり、パリっと決まった制服のかっこよさであったり、整然とした官庁街の建築美であったりするのですが、私はこれらの描写を眺めているだけでも楽しめました。本作はアメリカ人やイギリス人が主要キャストを占めることで多くの批判を受けているし、私自身もその点は気になったのですが、他方でナチス時代の様式美をこれだけ克明に描写した作品をドイツ人の手で撮ることは政治的に不可能。トム・クルーズという大スターが身元保証人を引き受け、ユダヤ系に監督させたアメリカ映画だからこそ可能となった作品であり、ドイツ人役が英語で演じられるという欠点を補って余りあるほどの存在価値はあったと思います。 内容は極めて禁欲的で、政治的な善悪や人間ドラマといった領域にはほとんど踏み込まず、ヒトラー暗殺計画とそれに続くクーデターの成り行きを描くことのみに集中しています。『ユージュアル・サスペクツ』で映画史に名を残すコンビは端正な語り口でその顛末を描いており、ハラハラさせられる優秀なサスペンス映画となっています。彼らは歴史的事実として結末がわかりきっていることを逆手にとって、計画の首謀者達はどこでミスを犯したのかという視点で物語を組み立てています。現場でのとっさの判断ミスや(シュタウフェンベルクは急なスケジュール変更に対応するため準備していた2つの爆弾のうち1つしか使用せず、ヒトラーに致命傷を与え損ねた)、計画そのものが抱えていた欠陥(官庁街占拠という重要な役割を首謀者自身が担わずヒトラーの忠臣だったレーマーを駒として使い、彼をどれだけ騙しておけるかが鍵という不安定な計画だった)、その他の人為的ミス(一度目の計画失敗からオルブリヒトが慎重になっており、暗殺実行後のクーデターが著しく出遅れた)を浮き彫りにします。この視点は面白いと感じました。それと同時に、暗殺未遂で不意を突かれた後にもヒトラー陣営は腹の座ったところを見せており、首謀者側とはまるで格が違うということも描写されています。そもそもこのクーデターは成功しようがなかったという、冷徹な切り口で描かれているのです。アメリカ映画がここまで突き放した描写をしてくることには驚かされました。また、そんな作風に合わせてか、時に演技を張り切りすぎておかしなことになってしまうトム・クルーズも、本作では熱演アピール控えめで渋めの演技を披露しており、名門貴族出身のドイツ軍高級士官にきちんと見えるのだから大したものです。 禁欲的、それが本作の問題でもあります。人類史上最恐の独裁者の首をとりにいくとなれば、仮に計画が発覚しただけでもすべての関係者は死を覚悟せねばなりません。それほどリスキーな計画になぜ参加しようとしたのかは当然に観客にとっての関心の対象となるのですが、残念なことに本作は各当事者の背景に係る一切の描写を切り捨てています。このあたりを充実させれば重厚な歴史ドラマになったかもしれないだけに、ブライアン・シンガーの潔すぎる采配も考えものです。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2016-08-18 18:20:52)(良:2票)
22.  ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]
劇場公開時に一度見たきりのまま、私の心には特に何も残らず忘却の彼方に去っていた本作ですが、2015年のリブート版が良くも悪くも異形の大作となっていたことから、本作の出来がどうだったかが気になって10年ぶりに再見しました。 2005年当時にアメコミ実写化作品の成功作と言えば『X-MEN』と『スパイダーマン』くらいのもので、『アイアンマン』も『ダークナイト』もまだなかった時代。そんな時代に製作された本作には小難しい主張やリアリティへの目配せなどほとんどなく、高い再現度でコミックを実写化するという方向性のみで製作されています。顔だけはヨアン・グリフィスのゴム人間がびにょーんと伸びる様などは相当に素っ頓狂なのですが、お話しの方もマンガレベルなので一連の描写にも特に違和感を覚えず、物語とヴィジュアルがうまく調和しているものだと感心させられました。当時、世界一セクシーな女性だったジェシカ・アルバのお色気ギャグなども見事にハマっており、マンガ映画として求められるレベルには十分に達しているのです。 ただし、何かひとつでも大人の鑑賞に足る要素があれば良かったのですが、そうしたものが皆無であることが作品のリミッターになっています。手の込んだ仮装大会レベルにとどまっているために100分という上映時間が無駄に長く感じられるし、鑑賞後に何も残るものがありません。
[DVD(吹替)] 5点(2016-08-08 20:07:44)
23.  マダガスカル 《ネタバレ》 
ジェフリー・カッツェンバーグ。ディズニー映画が一番ダメダメだった時期に同社映画部門長に就任し、『美女と野獣』や『ライオン・キング』といった大ヒット作の製作や、後に金の卵を産むガチョウとなったピクサー社との業務提携によって部門を立て直したものの、当時のCEOマイケル・アイズナーと対立してディズニーを追い出された人物です。そんなカッツェンバーグがディズニー退社後に心血を注いだのがドリームワークスSKGの設立だったという経緯もあってか、ドリームワークスアニメ部門が生み出す作品は王道に対して斜めに構えたものが多く、特にディズニーアニメに対する露骨な批判を見て取れることが大きな特徴となっていました(最近ではその傾向は薄まっていますが)。 本作も同じく。種族を問わず動物が仲良くしているというアニメでは定番のファンタジーに疑問を呈し、「肉食動物と草食動物が友達なんてありえるか」という姿勢で製作されています。『ライオン・キング』を製作した張本人が、同じく『ライオン・キング』を手掛けた作曲家ハンス・ジマーを使ってアニメ界では禁断のネタに踏み込んでおり、なかなか意欲的なテーマを扱っているものだと感心させられました。 ただし、せっかくのネタふりに対して作品は明確な結論を出せておらず、魚を食べて飢えを紛らわせることでライオンとシマウマがお友達に戻るという、何の根本解決にもなっていない残念な終わり方をします。また、娯楽作としての一山も作れておらず、地元の肉食獣フォッサとの軽い追っかけだけで映画は終了。思わず「え、これで終わり」と声を出してしまいました。ディズニー映画なら食い入るように見るうちの子供たちも本作には途中で飽きる始末であり、子供騙しにもなっていない内容にはガッカリでした。 救いだったのは、日本語吹き替えの質が高かったことです。私はタレント吹き替えには否定的なのですが、本作は適材適所のキャスティングがなされていたことと(玉木宏と柳沢信吾を組ませるなんて誰が思いつく?)、徹底的にタレントのみで固めることでキャスト間の力量差を作っていないことから(批判を受けるタレント吹き替えは、プロの声優の隣で素人同然のタレントが喋るために違和感を大きくしている)、タレント吹き替えの成功例となっています。
[インターネット(字幕)] 4点(2016-07-14 12:07:14)(良:1票)
24.  エリート・スクワッド(2007) 《ネタバレ》 
最近、テレビドラマの『ナルコス』にハマってしまい、ジョゼ・パジーリャ監督作品を後追いして本作に辿り着きました。ベルリン映画祭金熊賞受賞作品にして、本国ブラジルでは子供たちがBOPEごっこをするほどの国民映画となったという評価はダテではなく、社会性と娯楽性が高いレベルでブレンドされた名作として仕上がっています。 手のつけようのないほど凶悪なギャング、私腹を肥やすことのみに精を出して公僕としての機能を失った警察、違法行為に手を染める市民と、各自が好き放題をしてメチャクチャな状態となっているリオデジャネイロにおいて、唯一、高い規律と目的意識を持って行動しているのが特殊警察作戦大隊BOPEです。BOPEは「ボッピ」と読むらしく、えらい可愛らしい名前の特殊部隊があるもんだと思ったのですが、その実態はわが目を疑うほどの壮絶さです。『フルメタル・ジャケット』や『GIジェーン』をも超えるしごきで入隊の儀式を済ませると、治安組織というよりもむしろクライムファイターのような振る舞いで街の悪人たちを成敗して回ります。女子供だろうが容赦なく拷問して必要な情報を聞き出し、犯罪者を見かければとりあえず射殺。生け捕りにした犯罪者には容赦のない暴行を加え、仲間を殺った悪人はその場で処刑と、「逮捕→裁判→投獄」という一般的な司法制度をまったく意に介さないリアル・ジャッジドレッドな集団なのですが、これが実在する部隊であり、本作の脚本には元BOPE隊員が参加しているという点で二度驚かされます。 こうして振る舞いのみを書き出すとBOPEは悪者であるかのような印象を受けるのですが、本作は前半にてリオの現状がいかに腐っているかを描きだすため、そのカウンターとしてBOPEほどの極端な暴力装置が必要であることを観客に納得させてしまいます。この辺りの構成は実に見事だと思いました。BOPEが全力でギャングを潰しにかかる終盤の爽快感はなかなかのものであり、本作はエンターテイメントとしても非常に優れているのです。 唯一不満だったのは、「遊び人」と呼ばれる大学生がしれっと生き延びたこと。この人物は、表面上は慈善活動を目的とする左翼系サークルを主催しているのですが、同じく表面上は貧困層の支援を目的とするNGOを介してスラムを仕切るギャングとのコネクションを持ち、キャンパス内に麻薬を持ち込んで利益を得ているクズ野郎です。ギャング達にはギャングにならざるを得なかった不幸な生い立ちがあるのですが、一方でこいつは恵まれた環境でぬくぬくと育ちながら、ロクな覚悟もなく軽い気持ちで悪事に手を染めるという、一番同情できないタイプの悪人。こいつのせいでネトは死んだのですが、マチアスが真剣に尋問してもヘラヘラと受け答えをするような腐った性根を持っており、ギャングの世界がいかに怖いかを思い知ってからエライ殺され方をして欲しいところでした。
[インターネット(字幕)] 8点(2016-05-23 17:34:05)
25.  ヒトラー 最期の12日間
ハリウッドにとって戦争映画は娯楽の範疇に入るジャンルですが、一方敗戦国である日本やドイツにとって直近の戦争はナーバスな題材であり、これを扱うことには相当なプレッシャーがかかります。とりわけ本作の題材は国際的な物議を醸すことが分かり切っていたものだけに、ドイツ映画界は相当な覚悟を決めてこれに臨んでおり、ファーストカットから「これは並みの映画ではない」という張りつめた空気感が漂っています。それは、見ている私までが緊張させられたほどであり、他の映画ではちょっと味わえない感覚に満ちています。 物語は、一義的にはナチス崩壊の過程を知ることができる歴史作品なのですが、普遍的なリーダーシップ論や組織論として見ることもできるという、一粒で二度おいしい仕上がりとなっています。圧倒的なカリスマ社長のワンマン経営で引っ張られてきた会社が、いよいよ倒産という事態に陥った。社長のコバンザメに徹するという処世術で出世してきた幹部達は何の打開策も打ち出せず、根性のある一部の外様部長達が現実路線で粘って何とか現場が持ち堪えているという状況です。経営者は「お前らが言うことを聞かなかったからこんなことになったんだ」と部下を怒鳴ったり、現実的にありえない新規事業や大口融資を根拠とした起死回生案を側近のイエスマン達に向かって得意気に披露したりと、そこはまさに修羅場なのですが、職業柄、私が見てきたベンチャー企業の末路は本当にこんな感じです。何らかの組織のリーダーをやっている方は、本作を見ると少なからず身につまされる発見があるのではないでしょうか。 問題点は、登場人物が多すぎてドラマがやや散漫となっていることでしょうか。ドイツ人にとっては名前を聞いただけでピンとくるナチス幹部であっても、我々日本人にとっては名前こそ知っているが何をした人なのかは分からないという人物が多いため、ドラマへの没入感がどうしても薄くなってしまいます。 ドイツでの公開時には論争を巻き起こしたとされるヒトラー関連の描写については、ナチスをタブーとしない日本人にとっては大してセンセーショナルなものでもなく、こちらでもやや拍子抜けさせられました。ヒトラーは充分すぎるほど否定的に描かれているし、映画全体の内容もナチズムを賛美するものではなく、なぜこの程度の描写に怒る人がいたのか不思議に感じたほどです。ヒトラーは『イングロリアス・バスターズ』に出てきたような癇癪持ちの小男でなければならないとするのであれば、それこそ歴史を矮小化する行為ではないでしょうか。現実離れしたモンスターと、普段は紳士であるが敵と見なした相手にはいくらでも残酷になれる指導者、どちらに警戒せねばならないかと問われれば絶対に後者の方でしょう。 もうひとつ残念だったのは、冒頭とラストに主人公・ユンゲ(及び本作製作者達)の逃げ口上ともとれるナレーションを入れてしまったこと。「ヒトラーに仕えた私は愚かでした」という現在の価値観に基づく発言が入ってしまったために、歴史映画としての価値が少し下がりました。そこは徹底的に戦時中の描写に徹し、製作者は良いも悪いも判断しないという姿勢を貫徹して欲しいところでした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-02-23 14:03:59)(良:2票)
26.  マシニスト 《ネタバレ》 
脳内オチ系の話であることは冒頭から察しが付くのですが、監督もそこを隠すつもりはなく、観客にあらゆる点を疑ってかかられることを想定して全体が組み立てられています。オチを隠そう隠そうとして失敗する作品が多い中で、本作はある程度の割り切りのもとで作られているため、作り手と観客との間での温度感の差ができていません。これは見事な判断だったと思います。 虚構と現実の混ぜ方がよく、観客の先読みをうまく利用して仕掛けを作っています。例えば、主人公を取り巻く女性たちの扱い。本作には2人の女性が登場しますが、この手の作品を見慣れている観客ほど、主人公と二人っきりでの登場場面しかないスティービーを妄想の産物であると疑うのではないでしょうか。ネタが割れてしまうと、スティービーは物語の真相とは無関係なデコイであることが分かるのですが、そこにジェニファー・ジェイソン・リーをキャスティングし、ヌードまで披露させて何かしら重要なキャラクターであると錯覚させた辺りの騙し方はうまいものだと思いました。 細かい点では、何気ない日用品に現実と妄想との間の橋渡しの役割をさせている点も興味深く感じました。例えば冷蔵庫。あれだけガリガリに痩せたトレバーはこの1年まともな食事をとっていないことが推測され、ならばあの冷蔵庫は1年間ほとんど開かれていないはず。トレバーの生活において冷蔵庫はタイムカプセルのような役割を果たしており、その中には彼の妄想の源流となる何かが詰まっていると見せかけているのです。観客の深層心理においても、しばらく開けていない冷蔵庫には底知れない気味の悪さがあります。外食が続いた後で久しぶりに冷蔵庫を開くとカビの生えたごはんですよが出てくるような経験は誰もが身に覚えがあるだけに、開けてみたいけど、中にはとんでもなく怖い過去の遺物が眠っていそうで開けたくない、できればフタをしたままにしておきたいというトレバーの心境とうまくシンクロさせています。 そんなミスディレクションの一方で、妄想に入る前には主人公がうたた寝をしかける描写を毎回きちんと入れており、演出面でインチキをしていない点が好印象でした。物語は一定の法則性の中で描かれており、すべてのピースがきちんと嵌るように作られています。監督は自分自身に制約をかけて「なんでもアリ」を許していないため、見終わった後にも納得感の高い作品となっているのです。
[DVD(吹替)] 7点(2016-01-26 16:22:12)(良:1票)
27.  アレクサンドリア 《ネタバレ》 
拡大期にあったキリスト教が、現在のイスラム国やタリバンの如く多神教の文化や建造物を破壊しまくるという、かなり衝撃的な内容となっています。黎明期にローマ帝国より迫害を受けた歴史はしばしば語られるものの、一定の権威を獲得した後に従前の文化の破壊者となっていたという歴史はよく知らなかっただけに、本作の内容には驚かされました。 また、キリスト教の不寛容を描いた本作がカトリック国のスペインで製作されたという点も驚きなのですが、少しでも不備があれば文句がつきそうなセンシティブな題材にあって、監督のアレハンドロ・アメナーバルは文句のつけようのないほど徹底した完成度でこれに対応しており、作り手の気迫が画面ごしにも伝わってきました。CGに頼らず巨大なオープンセットを建設するという本物志向ぶり、モブシーンのド迫力など、歴史スペクタクルとして申し分のない仕上がりとなっているのです。 内容についてもどちらか一方の勢力を悪役に仕立て上げるのではなく、従前のローマ社会に大きな歪みがあって、社会システムからこぼれ落ちた弱者の受け皿としてキリスト教が拡大したという歴史がきちんと描かれています。基本的には人格者として扱われている主人公・ヒュパティアですら無意識のうちに差別的な言葉を使うという描写もきちんと挿入されており、歴史を多面的に描いて観客に問題提起しようとする姿勢も好印象でした。 問題点といえば、ヒュパティアがあまりに常人離れしていて、私を含めた一般の観客にとっては感情移入が難しいということでしょうか。信仰心はないものの、形式上はキリスト教に入信して批判をうまくかわしながら新旧文化の融和を図ろうとする弟子のオレステスと比較すると、敵対者にわざわざ攻撃材料を与えるかような言動をとるヒュパティアはうまくないなぁと思うし、その頑なさは、キリスト教側の強硬派・キュリロスと変わらないものではないかとの印象を受けました。
[DVD(吹替)] 8点(2016-01-26 16:21:14)(良:1票)
28.  ラースと、その彼女 《ネタバレ》 
かなり深刻な題材を扱いながらも、たまに笑いを入れて重くなりすぎないよう微妙な温度感まで調節された脚本と演出が素晴らしく、高評価にも納得の作品となっています。 ただし、面白かったかと言われると微妙。ラースの抱える心の闇がほとんど描かれておらず、また、ラースの異常行動に対する住民たちのリアクションも行儀が良すぎて、もうひと山を作れていないような印象を受けるのです。ドロドロの葛藤を描くべきとは言いませんが、たまにラースを傷つける人が現れて、順調に進んでいた治療が逆戻りするかもしれないというハラハラ感を出してもよかったのではないかと思います。 また、ラースの心境にフォーカスしても、マーゴとの距離が近づいた途端にビアンカを葬るという解決方法には違和感を覚えました。彼にとってラブドールのビアンカは現実の女性と同等の存在。都合が変わったからと言って、ビアンカを殺してしまうという選択肢はモラルに反しているように思いました。ビアンカはラブドールであることをラースに認識させた上で、次のステップに進ませるという解決にした方が、個人的にはスッキリしたと思います。
[DVD(吹替)] 6点(2016-01-26 16:20:03)
29.  インベージョン 《ネタバレ》 
原作未読、1956年版未見、1978年版・1993年版は鑑賞済です。 おおよそ15~20年毎に映画化され、それぞれの製作年代の社会背景を色濃く反映するこの企画ですが、私が過去に鑑賞した1978年版・1993年版と比較して世相がもっともストレートに反映されたのがこの2007年版だという印象です。 「自我を捨てれば暴力も混乱もない平和な世界が待ってるよ」と言う侵略者に対して、「自我を失えば私は私じゃなくなる。そんな平和に価値は見いだせない」として断固抵抗するのが主人公なのですが、ここで興味深いのが、侵略者側の理屈ってアメリカ合衆国がイラクやアフガンでイスラム教徒に対して言ってることで、「民主主義は良いよ。男女平等は良いよ。欧米の価値観でみんな幸せになれるよ」と宣伝して回り、一見不合理であるイスラム教徒の価値観を頭ごなしに否定して紛争国を無理矢理にでもハッピーにしてやろうとする姿そのものだということです。一方、それに断固対抗する主人公は、「私たちには私たちの価値観があるのだ。それは何ものにも代えがたい」と言って一歩も引かないイスラム教原理主義者の姿と重なります。 思想による侵略の恐怖を描いた1956年版に始まって、この企画はアメリカ社会を被害者の位置に据えることが暗黙の了解となっているのですが、本作は初めてそこを逆転させ、アメリカ合衆国が他国に対して行っている侵略行為をSFというフィルターを通して描く企画となっています。SFを現実社会の合わせ鏡として考えると、これは最高のSF映画ではないでしょうか。さらには、過去の映画化作品を利用して観客の側に先入観を抱かせ、それとは正反対のものを見せてくるという裏切り方もよく、観客の知的好奇心を刺激するという点で、きわめて優れた作品だと思います。この驚天動地の発想の転換は、第二次世界大戦後にアメリカによる占領政策を受け、前世代のやってきたことを全否定する代わりに平和と繁栄を得たドイツ人監督ならではのものではないでしょうか。 ただし、上記の趣旨が上層部の逆鱗に触れたのかどうか分かりませんが、本作は完成後にワーナーから大幅な撮り直しを命じられ、それを拒否した監督は解雇。当時『Vフォー・ヴェンデッタ』でワーナーと仕事をしていたチームがピンチヒッターとして雇われ、ウォシャウスキー兄弟が脚本を、ジェームズ・マクティーグが監督を担当して後半部分をまるまる撮り直すという措置がとられました。その結果、スケールの大きな見せ場は追加されたものの、社会的な考察は薄められたように感じます。前半と後半で作風がまるで変わってしまうことの違和感は相当なもので、これだけ不自然な映画はブライアン・ヘルゲランド監督が解雇された『ペイバック』以来です。オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が最初に完成させたディレクターズ・カット版を見てみたいのですが、興行的にも批評的にも大敗した本作では、それも難しいのでしょうか。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-01-19 15:01:08)(良:1票)
30.  イン・ザ・カット 《ネタバレ》 
これは女性の性の開放を描いたフェミニズム映画ですよね。主人公姉妹が対になっていて、妹は結婚願望・愛されたい願望の塊で、既婚男性に騙されたのに相手への思いを断ち切れず、ストーカーになってしまいます。女性から見たバカ女ですね。一方、姉は異性との付き合いなんて厄介事が増えるだけだし、基本オナニー、時々セックスで欲求が満たされれば充分と考えています。そのため、愛を求めてくるケビン・ベーコンは捨てられ、セックスだけのマーク・ラファロは残されました。また、女性に対する暴力に対して、男への精神依存度の強い妹は負けましたが、自立した女性である姉は勝った。本作では随所に対立構造があり、それらによってテーマがわかりやすくなっています。そういえば、本来はJJリーが姉役でメグが妹役だと思うのですが、あえてその逆をいった配役も面白いですね。 この映画になぜメグ・ライアンという意見もあるようですが、私はメグの出演は必然だったと思います。 90年代のメグはロマコメ(死語)の女王だったし、落ち目だった頃のデニス・クエイドに寄り添い、彼をヤク中から立ち直らせた良妻としても評判でした。しかし、『プルーフ・オブ・ライフ』の現場でラッセル・クロウと不倫したことで、そのパブリックイメージは崩壊。それまでの陽のイメージが強かった分だけ不倫の反動は強く、ビジネス的にはもうロマコメをやれなくなったのですが、一方で個人的には「10年も良妻をやってきたのに、たった一度の不倫でここまで叩かれるの」という思いもあったことでしょう。そこに、女性の性の開放を訴える本作がやってきたわけです。これはニコール・キッドマンが95年から温めてきた企画であり、彼女の初プロデュース作でもあります。そんな大事な企画でありながらも、今のメグが演じるべきとして気前良く譲ったニコールの男前っぷりには感心します。 問題は、映画として全然面白くなかったこと。猟奇殺人事件とそれに絡む犯人探しがどうでもいい上に、主題にもうまく馴染んでおらず、さらにはドンデン返しにも大したサプライズがなくて、メグが脱ぐシーン以外では眠くて仕方ありませんでした。隠語を吐き、全世界に裸をさらした挙句に「痛々しい」だの「乳が垂れてる」だの言われたメグはお気の毒でしたが、人生、ダメな時はそんなもの。一方、7年も企画に携わりながらギリギリでイグジットした当時のニコールの強運には驚かされます。
[DVD(吹替)] 4点(2015-08-30 01:58:16)
31.  きみに読む物語 《ネタバレ》 
公開当時には否定的意見の方が目立っていたものの、10年かけて評価を逆転させ、現在では21世紀を代表するラブストーリーの一本になった本作。クラシックになりかけている現在になって見返してみましたが、残念ながら、それほど質の高い作品であるとは思えませんでした。 本作は意図的に紋切り型に徹している作品なので、新たな発見や感動はありません。良い人が出てくる良い映画であり、最後の最後まで観客の思い通りに物語は進んでいきます。そもそもラブストーリーというジャンルが好きな方であれば、この予定調和を心地よく感じるのかもしれませんが、私はこれを退屈に感じてしまいました。 唯一、面白いと感じたのは、ジョアン・アレン演じる主人公の母親。物語上は二人の関係を阻むヒールの立ち位置なのですが、主人公達と同じ選択を迫られた過去が明らかになってから、この人物には一気に感情移入できました。彼女は、かつて本気で恋した貧乏青年ではなく、生活の安定を保障してくれる今の旦那との人生を選択しました。頭では「この選択で正しかったのよ」と考えているものの、感情的にはその選択をいまだに飲み込めていないようです。彼女は、かつての恋人の成れの果ての姿を今でも見に行くと言います。いまだに肉体労働やって生きている惨めな様を見て、「私は正しい選択をしたのね」と自分を納得させていると言いますが、その眼差しには今でも恋心が残っており、あの時、この人と結婚していれば人生は意義深くなったのではないかという未練が見て取れます(この複雑な感情をセリフなしで表現してみせたジョアン・アレンの名演!)。皮肉なことに、成就しなかったことで彼女の恋は永遠になってしまったのです。女としてのホンネを押し殺して、現状を是とするしかない彼女の苦境が印象的です。人生ですべてを得ることはできない。ある選択をすることは、他の可能性を捨てることであるという厳しい真理が突きつけられた名場面であり、白黒がはっきりした本作において、唯一、善悪では割り切れない人生の機微が描かれた一幕でした。
[DVD(吹替)] 5点(2015-08-29 00:48:21)
32.  テイラー・オブ・パナマ 《ネタバレ》 
左遷、それはサラリーマンがもっとも恐れるもののひとつです。本作の主人公は、上司の奥さんを寝取ったことで組織から睨まれ、地方支局へ左遷された凄腕(と思われる)スパイ。そのキャラ設定と言い、ピアース・ブロスナンの演技と言い、まんまジェームズ・ボンドなのですが、現実は『007』のようにはいかないというひねくれた展開が笑わせます。また、左遷先で思わぬ事実に遭遇して主人公が孤軍奮闘し、最後には組織や上司を見返すという展開がこの手の物語の定石ですが、現実はそれほど容易なものではありません。左遷先にはネタらしいネタなどそうそう転がっていなくて(だからこその左遷先)、本人に頑張ろうとする意欲があっても、結局はくすぶったまま謹慎期間をやり過ごすしかないのです。それが普通のサラリーマン。しかし本作の主人公はタダモノではなく、ネタがないなら自分で作ってしまえという切り返しに出ます。 もう一人の主人公は、虚言癖のある仕立て屋。ウソをつく時には一瞬、良心が咎めるものの、「つまらない現実を話すより、面白い作り話の方が相手は喜ぶ」と自分を納得させてウソにウソを重ねていきます。利己的な目的でのウソではない分、良心の呵責は少ないようです。実際、たいていの聞き手はこの男の話はウソであることを了解した上で会話を楽しんでおり、実害は少なかったと言えるのですが、ネタを求めるスパイに目を付けられ、ありもしない国際危機がでっち上げられたことから、ウソが現実を侵食しはじめます。仕立て屋も途中から「これはヤバイ」ということに気付くものの、借金を肩代わりしてもらったことの負い目もあって降りられない状況となっており、何の策も打てないまま事態はどんどん悪化。悪魔的なスパイに取り憑かれて右往左往する男の姿が滑稽であり、ジェフリー・ラッシュの小市民演技が光っています。 当事者全員が作り話だと認識し、現地を知っている者であれば誰も真に受けないようなウソが軍事侵攻にまでエスカレートしていく展開にはある種のカタルシスがありますが、一方で恐ろしさもあります。実際、初動段階で現地へ行って聞き取り調査をすればすぐにおかしいことが分かる程度のウソや事実誤認が国際問題にまで発展した事例はわが国周辺でも少なからず発生しており、フィクションだと言って笑ってもいられないところがあります。
[DVD(吹替)] 7点(2015-08-06 16:04:37)
33.  ブッシュ 《ネタバレ》 
オリバー・ストーンは、政治的にはブッシュを毛嫌いする一方で、その出自には共通点が多く(同い年で、出身大学も同じ。強い父親の支配に苦しんだ経験も共通している)、ブッシュに対して同情的な視点で本作が作られている点は興味深かったです。『ニクソン』もそうでしたが、ストーンは嫌いなタイプの政治家を題材としながらも、その人となりをリサーチするうちに憐れみの感情を持つようです。 父親に決められたレールに乗っているうちは何もかもがうまくいかず、ブッシュの人生が好転したのは父の影響下から離れて自力で道を切り拓くようになって以降でした。実業家としての成功も自力であれば、政治家転身の際にも父親からの支援は受けられず(優秀な弟のジェブが優先された)、その人柄の良さと目的達成意欲の強さでコツコツと地盤を作って合衆国のトップにまで登りつめた苦労人であり、優秀すぎる父親を持ったことは彼にとって重荷でしかありませんでした。一方で内情を知らない第三者からは「親の七光り」だの「苦労知らずのボンボン」だのと言われ、そこを徹底的に攻撃されるという点が印象的でした。政治や外交について定見らしきものはなく、彼の政治活動は父親から認められようとする行為の延長だったようです。そこに、911が起こります。 戦争に係る意思決定は象徴的で、従軍経験のある父ブッシュは、湾岸戦争で米兵の犠牲が最小限で済んだことを幸いとし、イラク軍からの激しい抵抗が予想されるバグダッド侵攻を見送って早々に撤退する決定をしましたが、一方ベトナム戦争時代に兵役逃れをした子ブッシュは、どれほどの犠牲が出るのかも考えずに開戦の決定をします。父ブッシュとの繋がりが深いコリン・パウエルからは「911の弔い合戦なのに、なぜビン・ラディンではなくフセインと戦うのか」「フセイン政権を倒せばイラク国民に対する責任が生じるが、それを背負っていく覚悟はあるのか」と問われるが、それに対して明確に答えられない。イラク戦争で犠牲になった米兵やイラク人には気の毒ですが、ブッシュ個人の物語として見れば、イラク戦争も父親を越えようとするイベントのひとつだったのです。 ブッシュ本人は悪人ではない、むしろ近くにいれば友人になりたくなるような人物ではあるが、あの激動の時期の大統領としては最悪の人物だった。人生で常に望まれない場所に居る人物の悲喜劇として、本作は非常に見ごたえがありました。
[DVD(吹替)] 8点(2015-08-03 18:07:24)
34.  機動戦士ZガンダムIII 星の鼓動は愛
3部作完結篇はMS戦の連続。ボリューム・テンションともに凄まじいレベルに達した見せ場が連続し、息つく暇がありません。さらには新作カットの分量も多く、3部作中、もっとも気合を入れて作られていることが素人目にも分かりました。例を挙げると、コロニーレーザーの内部構造がより精緻に描写されたことから、主要登場人物が勢揃いしての大乱戦の戦況や位置関係が分かりやすくなっており、誰が何をしているのかがイマイチ掴めず没入感の薄かったテレビ版と比較して、戦闘シーンのテンションは格段に上がっています。これぞリメイクの恩恵です。 また、エピソードのリストラがしばしば問題視される当3部作ですが、本作ではかなり的確な取捨選択がなされています。テレビ版ではウザくて仕方なかったカツ・コバヤシやロザミア・バダム関係のエピソードが大幅に切られており、特にロザミアについては居ないも同然の扱いで、これによりストレスなく鑑賞できるようになりました。これもまたリメイクの恩恵ですね。 そして、これまた賛否の分かれるクライマックスですが、これはこれで良かったのではないかと思います。ただし、「新訳Ζ」を謳った割には改変が少なく、もっと凄い展開が見られると勝手に期待していた私としては、多少の落胆もありましたが。
[DVD(邦画)] 7点(2015-07-10 17:19:54)
35.  機動戦士ZガンダムII 恋人たち
3部作全体の評価については『星を継ぐ者』にてレビューした通りで、私としては新訳Ζに対して肯定的な立場をとっています。語り口が荒っぽい点については目を瞑り(そもそも、50話を費やしてもわかりづらい話だったのですから)、リファインされた映像面に注視しましょうというのが、本3部作に対する私の姿勢です。 その点で、もっとも評価が苦しいのがこの『恋人たち』です。戦闘シーンに際立ったものがなく、テレビ版のダイジェストを見ているだけという印象なのです。映像面での恩恵が少ないため、評価はやや低めにせざるをえません。 ただし、良かった点もあります。もっとも評価できるのは、フォウ・ムラサメをスードリで殺したこと。テレビ版ではスードリの爆発を生き延び、後にキリマンジャロで再登場するのですが、カミーユの成長物語として考えれば、フォウはスードリで死ぬべきでした。新訳版ではそうした自然な形に修正されたことで、私としては腹落ちの良い展開となりました。また、作品の緊張感がピークに達したところでアクシズが仰々しく現れ、「この先、どうなるんだ」という期待と不安を抱かせたところでブツっと終わるという幕引きには興奮させられました。3部作の中編という立ち位置をうまく使い、映画らしい展開を作れているのです。完結編への期待を煽る、見事なクライマックスだったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2015-07-10 17:19:12)
36.  機動戦士Zガンダム 星を継ぐ者
リメイクではなく「新訳Ζ」。つまり、オリジナルありきの映画版ですという立ち位置をコンセプトの段階より明確にした作品であり、ゆえに、テレビシリーズを踏まえていない観客には徹底的に不親切な作りとなっています。驚いたのは冒頭、カミーユがジェリドに殴りかかるという、すべての発端となった事件をカットしていること。「この時点で分からない人は、この映画を見ても仕方ないよ」と、監督が冒頭で宣言しているのです。以降の展開も恐ろしい程の駆け足で、かつ登場人物の紹介も一切なく、テレビ版を見ていない人は論外としても、見たことはあっても記憶が曖昧な人では、ついて行くのはちょっと難しいのではというレベルです。そもそも、50話を費やしてもよく分からなかった『Ζ』を90分×3部作でやるには相当な無理があるわけで、観客の方で脳内補完をしてもらうことが作品の前提条件となっているようです。 では、本作の存在価値は何かというと、新規作画により大幅にパワーアップしたMS戦をタップリと堪能できることであり、「こういう戦闘を見たかった!」と満足できるクォリティの見せ場が次々と展開されます。本作のクライマックス、アッシマー隊との追撃戦のスピード感やテンションには凄まじいものがあり、これだけでも見る価値は充分にありました。また、Ζはシリーズ中でも特にMSのバリエーションが充実した作品であり、21世紀の技術でエゥーゴやティターンズのMSが続々と登場するだけでもワクワクしました。 1988年の『逆襲のシャア』でも感じたのですが、富野監督は音響へのこだわりも相当なものです。テレビ版のモノラルから5.1チャンネルにパワーアップした音響は素晴らしい迫力だったし、ガンダムMk-Ⅱのヘッドバルカンの効果音を変更するなど、細かい部分にまで気の利いた演出には感心させられました。賛否両論ある本作ですが、最新技術でΖを再リリースするということの意義は、きっちりと果たせていると思います。
[DVD(邦画)] 7点(2015-07-10 17:18:29)
37.  レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで 《ネタバレ》 
エイプリルについては「自分探しをこじらせた女」との評価がありますが、それはちょっと違うと思います。パリ行きを言い出した時、彼女は自分を二の次にして、専らフランクがどうするのかを考えていました。私が働くから、フランクはやりたいことを探してくれとまで言っており、彼女の中心にあるのは常にフランクだったのです。恐らく、エイプリルはヒモを抱え込むタイプの女性です。どんなに貧乏をしても、暴力を振るわれても、それでも夢を語る時だけはまっすぐな男に憧れており、彼女が愛したのは地位も金もないのに大口だけは一人前だった若い頃のフランクなのです。仮にパリ移住を決行して、その結果、一家が貧乏暮らしとなっても、彼女だけは幸福を感じたはずです。しかし、そんな彼女の嗜好とは裏腹に、フランクはマトモになり続けている。時には常識人の顔をして説教までしてくる。もはや、彼女が愛したフランクは消えかけています。 他方、フランクは家族のため真面目に働くという自己の側面が嫌悪されているなどとは考えもつかない。それは世間的には美徳だし、会社でそこそこ評価され、人よりもちょっと良い家を買った自分に満足すらしている。このズレが悲劇の元凶でした。フランクはエイプリルが何を問題にしているのかが分からない。分からないから、自分の人格すべてを否定されていると思い込んで余計にストレスを抱え、たまに頓珍漢な対応をしてしまう。ディカプリオによる素晴らしい小市民演技と相まって、フランクには心底同情しました。 本作は終始気が滅入る内容なのですが、中でも夫婦喧嘩の描写は天下一品。ヒステリックに捲し立てる嫁→旦那のイライラはピークに達するが、かといって暴力を振るうわけにもいかず、感情のやり場を失って半狂乱となる→その無様な姿を見て勝ち誇った顔をする嫁。うちでもよくあります笑。また、夫婦喧嘩の翌日、当てつけのように良い妻を演じる嫁の姿もよく見かけます。本作のエイプリルは女優経験がある分、その演技には真に迫ったものがあり、それを見たフランクは彼女の真意をすぐには掴み損ねます。あそこでエイプリルが期待したのは「それは君じゃないよ」の一言だったのでしょうが、最終的にフランクがその演技を額面通りに受け取ってしまったことが、最後の悲劇を生んでしまいます。
[DVD(吹替)] 8点(2015-07-02 00:51:03)
38.  追撃者(2000)
全盛期における態度の悪さが祟り、14年間もハリウッドを干されていたミッキー・ローク。あれだけ大勢いた取り巻き達はいつの間にか姿を消し、いつも入り浸っているレストランで一人過ごしていると、たまたま居合わせたスタローンから声をかけられて仕事をもらった上に、その日の飯代まで出してもらいました。これを恩義と感じていたロークは、後にスタローンから『エクスペンダブルズ』の出演オファーを受けた際、すでにスターに返り咲き多忙の中にあったにも関わらず、これを快諾したのでした。。。 以上はアクションファンなら誰もが知る有名な逸話ですが、その舞台となった作品こそ、この『追撃者』なのです。本作が製作された当時は、ロークだけでなくスタローンも背中に火がついた状態にありました。90年代後半にニコラス・ケイジがアクション大作の主演を務めるようになって以降、筋肉を売りにしたアクションスター達は急速にその地位を失いつつありました。スタローンですら、このまま大作路線を続けていれば後がないことはほぼ確実という状況にあったのです。そんな中で、渋いハードボイルドに挑戦したのが本作でした。スタローンにとってチャレンジングな企画だったためか、その布陣はあまりに異様。アメリカの元優男・ロークに、イギリスの元優男・ケイン、アイドル女優として高い人気を誇っていたレイチェル・リー・クックに、当時美人女優として注目されていたグレッチェン・モルと、キャストだけ見ると何の映画だかサッパリわからないほどの闇鍋状態。これを新人監督に任せた結果、物凄く中途半端な仕上がりとなっています。。。 内容は極めて単純。ラスベガスで武闘派ヤクザとして鳴らしていた男が、弟の復讐のため地元に帰って大暴れするというだけのもの。ヒゲ面で高級スーツを着込んだスタローンは役柄によくハマっており、シンプルに描けば相当面白いハードボイルドになったと思うのですが、スタローン自身が掲げていた「脱・アクション俳優」という目標に走りすぎた結果、どうにも不抜けた内容となっています。肝心のアクションを極力見せないという作りとなっているため、見るべきものが何もないのです。チャカチャカした音楽とチカチカした編集はウザいだけだし、回りくどい謎解きにはイライラさせられるし、「そこは頑張らなくていいから!」と、鑑賞中何度もツッコミを入れてしまいました。
[DVD(字幕)] 4点(2014-09-26 01:44:28)
39.  ミュンヘン
本作製作当時、アメリカは対テロ戦争の着地点を見失いつつありました。フセインとタリバンを政権から引きずり下ろしたことで911の弔い合戦が一区切りできるかと思いきや、根本的なことは何ひとつ解決していない。それどころか、事態はより悪化しているのではないかという不安を抱え始めていたのです。同年にはリドリー・スコットが『キングダム・オブ・ヘブン』を発表し、「一度はじめてしまった戦争をこちらの都合でやめることはできない。好むと好まざるとに関わらず、アメリカは戦いきるしかない」という辛辣なメッセージを発していましたが、本作もこれと同じく、アメリカの厳しい現実を描いた作品となっています。面白いのは、そのどちらもが現代アメリカを描くためのモチーフとしてイスラエルをチョイスしていることであり、修羅の道に落ちてしまった国としてイスラエルを否定的に描いています。。。 本編は意外なはじまり方をします。選手村を襲撃しようとする黒い九月のメンバー達が、閉まっている門の前で困り果てています。どうやらこいつらは、明け方には門が閉められていることすら想定していなかったらしい。いよいよ襲撃を開始してもいちいち手際が悪く、何人かの選手を取り逃がしてしまいます。この時点では、黒い九月は洗練された組織ではなかったのです。これはイスラエル側も同様。事件への報復を開始した時点では主人公達は殺しに慣れておらず、銃を突き付けている相手が丸腰の民間人であってもビクビクしています。しかし、報復合戦が続くうちに両者とも洗練されていき、死体の数は増える一方。こちらの攻撃によって相手がより先鋭化し、さらに厄介な敵が生み出されるという負の連鎖に突入したのです。。。 そのうち、匿名の殺し屋だった主人公達にも死の影が迫ってきます。すっかり精神をやられた主人公は戦線を離脱するものの、いつか殺されるのではないかという恐怖は消えません。これは前半、文化人やビジネスマンにしか見えない相手をテロリストとして殺してきたことの裏返し。殺しの現場から離れても、職業を変えても、一度血で染まった者を敵は忘れてくれないのです。。。 本作公開から9年、スコットやスピルバーグの心配は現実化しました。アメリカはいまだに対テロ戦争をやめられないどころか、従来のイスラム諸国すら恐れをなすほどの危険勢力・イスラム国までが誕生する始末。今こそ見返すべき作品だと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2014-09-24 01:55:17)
40.  プリズン211
暴動が発生した刑務所に取り残されてしまった看守のサバイバルが描かれるサスペンス映画かと思いきや、思いも寄らぬ方向に話が転がっていくというサプライズに満ちた作品。よくよく考えればトンデモ展開ではあるのですが、キャラ造形がかなりしっかりしているので上映時間中は要らん疑問を抱くことなく見ていられるし、後半パートではサスペンスではなく友情ドラマへと映画の主軸が移っていくため、一粒で二度おいしい男気映画にもなっています。映画の印象とは事前の期待と実際の内容とのバランスで決まるものですが、B級丸出しのDVDジャケットからこれだけしっかりとした本編が飛び出せば、たいていの方は満足できるのではないでしょうか。
[DVD(吹替)] 8点(2014-09-21 19:34:49)
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