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コメント数 230
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21.  我が家の楽園 《ネタバレ》 
まさに力技敵な感動の渦!そしてその主役はカービーだ!モノクロのザラついた映像が光り輝くような、そんな場面の応酬です。中盤、憎きカービーがロシア人に投げ飛ばされる場面で総快感を味わい、そしてクライマックスでは反対ににカービーがロシア人を投げ飛ばすのですが、僕はこの場面で思わず涙がボワッと溢れました。このあたり、巧いなと思います、たまらないなと感じます。それに、つねにクルクル回って踊るバレリーナのエシー(アン・ミラー!)が最高ですね。これも、それまでは“変な家族”の象徴として微笑みと失笑の間で踊り続けていたのですが、ラスト、バンダーホフ爺さんとカービーが(ついに!)二人でハーモニカ演奏を始めた場面で、またしてもクルクルと踊りながら画面に切り込むように登場してきた瞬間、(おおっ!)と感嘆の声をあげてしまいました。それまでのバラバラであるが故の楽しさから一転、それぞれがグッと一体感を持ちえた素晴らしい場面だと思います。余談ですが、僕はジーン・アーサーが好きだなと思って、彼女の、キャプラ監督以外の出演作をここ最近2本鑑賞したのですが“それ程でもないな”と感じてしまったのです。ところが一転、今回本作を鑑賞して、やはり“ジーン・アーサー最高”と思い直したのです。ここに『オペラハット』『スミス都へ行く』での彼女の印象は確固たるものになりました。これもひとつのキャプラ・マジックなのでしょうか。
[DVD(字幕)] 9点(2008-10-21 06:51:21)(良:1票)
22.  クリスマス・イン・コネチカット 《ネタバレ》 
僕は『教授と美女』でバーバラ・スタンウィックに完璧に魅了され、『レディ・イヴ』でその思いは更に強くなった。以後、彼女の主演作をもっと観たいという思いが募る一方、観ることが可能な主演作に限りがあるので、観てしまうのが惜しいと思うようになった。それほど僕にとっては特別な女優だという思いが強い。これは好みの問題だけど、“綺麗な”とか“可愛い”といえば、もっと他にあげるべき女優はいると思うけど、“魅力的な”ということにかけては、これは圧倒的な存在に思える。本作においても出演時の年齢や髪形や衣装なんか超越してしまってるほどで、先にあげた2作の“悪女”ってスパイスの効いた爆発的な魅力には及ばないまでも、それでも気がつけば彼女の演技、一挙手一投足に酔いしれてしまう。内容的には随所に(そんなん普通バレるやろ?)っていうツッコミどころを、淡々とバレずにいき過ぎる展開が逆に楽しい。赤ん坊の親や看護婦といった端役(といっても結構ポイントになる)が絶妙のタイミングで現れる終盤の展開も大好き。
[DVD(字幕)] 8点(2008-10-19 10:26:53)
23.  祇園の姉妹(1936) 《ネタバレ》 
何とも堪えられない映画ですね。この時代の情景が見事に切り落とされ、尚且つ時代を経てもさほど変わらないであろう人間の内面にグッと迫っているのですから。丹念に作り上げられた作り手の気迫がジワ~ッと迫ってきます。流れゆく夜景を駆使した車中のシーンひとつとっても、当時のハリウッド映画にも無い拘りや工夫が感じ取れます。しかし70年以上も昔の日本映画ですが、レストランで“横文字のメニューが分からない”と工藤がおもちゃに任せるシーンを観ると“今の自分も大差ないな”と苦笑してしまいました。
[DVD(邦画)] 8点(2008-09-29 06:46:15)
24.  赤い河 《ネタバレ》 
とにかくダンソン(ジョン・ウェイン)が岩のようにゴツイ。肉体的にも精神的にもゴツイ。ドカッと座ってウイスキー飲むさまが決まりすぎです。もはや演じているというよりも、役柄からジョン・ウェインに引き寄せられているかのような境地。そして狂気とも言えるこの男の執念に引っ張られた(というよりも引きずられた)男たちのドラマ。“契約”という現代的な言葉と、その上下関係、信頼関係、窮地での処置。その全てに今の時代にも置き換えられるテーマが縦横無尽に張り巡らされている。意見を突っぱねられて服従するときの気持ち。ボスを追放した後の何とも言えぬ気持ち。モンゴメリー・クリフトも素晴らしい演技で立ち向かってます。
[DVD(字幕)] 8点(2008-09-27 22:14:29)
25.  希望の降る街 《ネタバレ》 
この時代でサスペンスの要素がある映画って、人間の行動を非現実的にデフォルメして伝えてるところが多く、今観ると肝心の緊張感がごっそり抜けおちてしまってるように感じます。よって巧いな、面白いな、と思えても、傑作とまではなかなか思えないことが多いですね。本作もそういう映画の一つかなと思います。その中でも押し寄せるデモ隊に、ライトキャップ教授が空砲一発 →ブラッケンを突き出す場面はかなりの爽快感を味わいました。本作もケイリー・グラント熱演なのですが、ロナルド・コールマンの役柄の方により感情移入してしまいます。ラストの締めくくり方、粋ですね。
[DVD(字幕)] 6点(2008-09-23 10:25:08)
26.  コンドル(1939) 《ネタバレ》 
ほとんど全編パイロット泣かせの悪天候。その極限状態で行くか戻るかの判断を常に強いられる。躊躇している暇はないのだ。任務の厳しさと、人命の尊さが常に綱引きをしているような感じて、シリアス一辺倒のドラマでないにも関わらず、観てるとグッタリしてしまう程なんです。僕が大好きな主演二人(ケイリー・グラントとジーン・アーサー)も好演だけど、個人的にはその主演二人よりも、苦い過去を持つ寡黙な男を演じたリチャード・バーセルメスの方が印象深い。滲み出るカッコよさ。男はこうでありたい。
[DVD(字幕)] 6点(2008-09-21 09:03:36)(良:1票)
27.  制服の処女(1931) 《ネタバレ》 
自分の古い映画、名作志向に関しては少なからず視野の狭さを自覚しているが、どうしても1930年代を中心とした映画が肌に合ってしまうことは、自分自身如何ともし難いと思ってもいる。そして本作のように時代も国や文化も、まったく異なる作品に酔いしれると、そういう思いは殊更に強くなってしまう。ましてやこの映画は、女しか出てこない、女の世界の物語なのだ。僕は日常から切り離され、この独特のトーン、世界観に好奇な目で引き付けられていく。そして絶対的な権力者が、一夜にしガラガラ・・・と失墜していく様を、鮮やかな演出とスリルを持って描かれるクライマックスの盛り上がりの中で堪能し、このような自分とかけ離れた“世界”の物語に、“人間”としての共感を覚えてしまう。更に少しでもこの“世紀の悪役”と言える校長先生の立場が頭を過るだけでも、鑑賞後の余韻をより格別なものへと変えていくように感じる。
[DVD(字幕)] 8点(2008-09-20 21:18:20)
28.  浪華悲歌 《ネタバレ》 
この映画を未見のときから山田五十鈴の何ともいえぬ横顔を映し出したスチール写真が印象深かった。しかし実際にこの映画を鑑賞すると、それは“印象深い”なんて言葉ではすまされない場面であると痛感する。壁を隔てた取調室で、自らが結婚を懇願した男が耳をふさぎたくなる様な泣き言を供述する。カメラは水平に移動し、隣の部屋を映し、その供述を聞く若き山田五十鈴の横顔を捉えて迫る。この息づかい、そう、まさにこのシーンだ。女の情念と悲しみと怒りと絶望と・・・すべてを包括した横顔を数秒間アップでとらえる。そしてこの鬼気迫る横顔は、この世のものとは思えないほどに美しいのだ。僕はこの映画を構成するすべての要素が、ただこの1シーンを際立たせるためだけに注ぎ込まれているようにさえ思えてくる。
[DVD(邦画)] 7点(2008-08-28 06:18:50)(良:1票)
29.  グランド・ホテル 《ネタバレ》 
この映画の豪華かつ上品な雰囲気が僕はたまらなく好きなんです。 当時のMGM看板スター揃い踏みということですが、ガルボもクロフォードも両バリモアもウォーレス・ビアリーも冴えわたる演技を見せてくれます。伯爵も社長も余命わずかの老いぼれも、それぞれ窮地に陥り、それぞれの局面の中である人は数奇な運命を辿り、またある人は希望を手に入れる。それぞれの人生模様が絶妙なバランス感覚で浮かび上がり、そして物語として完璧に調和している。この映画は何度鑑賞しても、その都度に自分も“グランドホテル”に宿泊している客の一人になって、物語の中へ没頭してしまうような気がします。またすべての人々の人生にドラマがあり、また新たなドラマが生まれてくるであろうという予感を清々しく感じてしまいます。それにこの映画にさして関係のない、赤ん坊が生まれたエピソードを加えることで、どれだけ映画に奥行をもたらしたことか測り知れません。個人的には、窮地の中で人間の尊厳にかけてギリギリの境地を明るく(そして優しく)演じたジョン・バリモアが得に素晴らしかったです。鑑賞後にもあの独特の笑い方が胸に刺さったままでした。 
[DVD(字幕)] 9点(2008-08-27 07:30:40)
30.  スイート・チャリティ 《ネタバレ》 
オリジナルと比較して、悲劇のヒロインへの落され方に関しては本作の方が流れるように自然で納得できます。流石に単にミュージカル仕立てのリメイクだけに留まりませんね。特に本作のオスカーへは感情移入してしまいました。あのタイミングでのカミング・アウトと、続けざまにパーティーで目の当たりにしたことの違和感には、気持ちの動揺を抑える時間さえ無かったのではないでしょうか?よってそれまでと同じ相手の仕草や言動さえ違う色へと変えてしまっても仕方がないのかもしれません。まして違う男の名前の“TATOO”を見た日には、僕だとどんな精神状態になるのか想像もつきません。(いや、例え僕の名前であっても違う意味で嫌ですが)逆にチャリティに関しては、もっと段階を踏んでうまく話していけばハッピーエンドも可能だったのではないかと思われてなりません。純真な心は分かるのですが、やっぱり空気読めてないですよ。とはいえ本作の見どころは、何といってもミュージカル・シーンで、構成、振り付けが素晴らしいです。ところどころサイケデリックな時代を反映していますが全く古くないどころか、最高にクール。パフォーマンスも映像も音楽も完璧じゃないですか!シャーリー・マクレーンの女優としてのポテンシャルの高さが如何なく発揮された作品だと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2008-08-24 16:57:44)
31.  鴛鴦歌合戦 《ネタバレ》 
この戦前の日本が作り上げたオペレッタ!音楽にのって矢継ぎ早に繰り出される数々の楽曲、うた、台詞に正直圧倒されます。楽曲のクオリティや、うたの巧い下手なんてこの際関係ないっす。この猛烈な迫力に圧倒され、ただただ楽しい気分で満たされますねー!常に画面の後方で家来や誰かしらが大勢でリズム取ってる、この不自然な感も本当に楽しい。そしてエンディング、“娘あっぱれ~”から歌い継がれて(タンタンタタンの太鼓がカッコイイ!)カメラが空へ移行し歌が終わる、そっから空にパッと傘が開いて“うかれて しゃなりと~”のコーラスが始まった瞬間は全身の鳥肌が立ちました。それにしても、やっぱりお春さんは最高ですよね。
[DVD(邦画)] 8点(2008-08-23 10:27:28)(良:1票)
32.  モロッコ 《ネタバレ》 
何度か鑑賞しましたが、何と言うかこれは見事にディートリッヒしか印象に残らない映画ですね。台詞が極端に少ないこともあって実験作的な色合いさえ感じさせます。ただしスタンバーグ+ディートリッヒの(ハリウッド前の)前作『嘆きの天使』が傑作だと思うので、わざと(ハリウッド第1作を)ディートリッヒの売り出しに重きを置いたのかな?とも思いますが。それにしても、本作におけるディートリッヒの輝きや、放たれているオーラは相当なものですね。今観てもここで歌い、演じている強烈な個性だけは永遠に色褪せることは無いだろうなと、しみじみ感じてしまいます。名作との誉れ高い映画ですが本作に限っては、映画の出来栄え、完成度を語る以上に、その歴史的価値の方が遥かに上回ってしまっている作品だと思います。
[DVD(字幕)] 6点(2008-08-08 05:03:54)
33.  桃色(ピンク)の店 《ネタバレ》 
大人向けクリスマス映画の決定版!敢えてこう書くと確かに誤解を招きそうな、この邦題は最悪のミステイク。↓(sayzinさん)レヴューや、おそらく多くの方々が思っておられるように、この映画に関しては原題の直訳がベストの選択だったと思います。日本で洋画を鑑賞し、後世に伝えていく為の邦題の重要性を考えると本当に残念。それにしても、この小さな店での心温まるドラマは本当に気持ちのいい出来栄えですね。主役二人ももちろんいいですが(特に口喧嘩の場面はサラヴァン巧すぎです)配役で一番印象深いのが、脇役のペロヴィッチ、次いでペピ。そしてボスもいい味だしてます。(女店員二人は印象が薄く、逆に顔も声も一度も出てこないボス夫人の方が印象深いのも面白い)そしてラストで店員を食事に誘う場面のボスの“いじらしさ”に胸が詰まる思いでしたし、新入りの少年と意気投合してタクシーを呼ぶ場面、あの嬉しさが爆発した一瞬のスピード感が僕にとっては最高潮でした。  
[DVD(字幕)] 8点(2008-08-05 06:05:32)
34.  丹下左膳餘話 百萬兩の壺 《ネタバレ》 
今まで日本の映画をあまり観てなくてすみません。と謝ってしまうくらいの映画でした。感謝をこめて(ありがとうございます)とお礼を言いたい気持ちです。素晴らしい内容に関しましては、あらためて書くことは何も御座いやせん。この居候の気風のいい丹下左膳像、それにお藤との男女像(この微妙かつ絶妙な味わい)を存分に堪能できるのです。人間味が溢れ出ている人物像にこそ、羨望の念を抱いてしまいます。何を言ったところで常にお藤に頭があがらない丹下左膳。そのお藤とて、口の悪さと裏腹に毎度情に絆されるおかしみ。これらを簡略化した場面転換でもって味わいつくせるのです。お約束の展開で先が読めてしまうことでおかしみを増す“剣術”と“寺小屋”の場面なんて最高でした。そして丹下左膳が簡単に主張を引き下げることに、誰も一言も触れず、ただ(おかしみ)だけがジワ~ッといっぱいに拡がるのです。男をたてることと、女をたてることで自然と拡がるおかしみ。言いたいことを口に出すように促されること以上に、言わなくていいことまで口に出してしまうことを、もっと自分達は戒めるべきではないだろうか?と現代に生きながら考えてしまいました。
[DVD(邦画)] 9点(2008-08-03 08:29:04)
35.  望郷(1937) 《ネタバレ》 
以前、一度鑑賞した時は(古臭いメロドラマ)くらいに思っていて、今回あらためて鑑賞したのですが、ちょっと参りましたね。ペペ(ギャバン)はカスバを逃れられない現実を受け止めながらも、日々パリへの“望郷”が募る。そんな中「風景までもパリに変えてしまう女」ギャビーと出会ってしまった。そのペペの心情が、多彩な配役との裏切りや嫉妬を交えて、映画全編に渡って余すことなく伝わってきます。ラストシーンの汽笛にかき消された叫び、この瞬間のペペの絶望の深さは、発作的にかもしれませんが自ら命を絶たんとしたことをも必然と思わせるほどの名場面ですね。それにしてもペペはレジスの“匂い”を最初から嗅ぎ分けたのに、何故スリマンを受け入れていたのだろうか?おそらくスリマンも密かにギャビーに思いを寄せてしまった故に、たまらなくなって罠をはったのだろう。と、思い巡らせてしまいます。様々な嫉妬が絡み合って、あのラストへと疾走していく(骨太なメロドラマ)だなと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2008-08-02 12:52:25)
36.  マタ・ハリ(1931) 《ネタバレ》 
グレタ・ガルボってこれぞ「伝説の女優」ってイメージなのですが、この映画のガルボにはヤラレましたね!実在したマタ・ハリも憶測だらけで神秘的な感じですが、それ以上にガルボが演じるための『マタ・ハリ』だと思いますね、この作品は。それに映画の出来栄えも相当いいな、と思います。マタ・ハリ(ガルボ)がロザノフ中尉(ラモン・ノヴァロ)を初めて部屋まで送らせた夜、別れ際にカーテンを全部閉めずにおくのですが、そこで(アレッ)と思います。そんで翌朝にロザノフ中尉が浮かれに浮かれきってやって来る、ここで(ははぁ~ん)と思います。それを冷たくあしらうガルボのガウンが肌蹴て胸が出そうな感じのとことか、こういう意味深なシーンの流れとかがとても楽しめるんです。ガルボ目当てで観ても充分値打ちがありますが、それだけではなく非常に観応えのある映画だなと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2008-07-27 00:56:03)
37.  ニノチカ 《ネタバレ》 
導入部、宝石売却の指令を受けた3人のロシア人中心に進む展開が、惚れぼれするくらいに楽しいですね。この3人は全編に渡っても、練り上げられた台詞を絶妙なかけあいで楽しませてくれます。このあたり、いいなぁ、本当にいいなぁ、と思います。ただ1本の映画として思うのは、(素晴らしく面白い要素の集合体が、その完成品としてはそこまで面白い作品として仕上がっていないな)という皮肉めいた表現になってしまいます。一番引き付けられたのは、ガルボとメルヴィン・ダグラスが初めて出会ってから、キスシーンまでの流れです。後にワイルダーが監督した『お熱いのがお好き』でモンローとトニー・カーティスが、ちょっと捻って(立場も替えて)演じたキスシーンより、こっちの方が色気を感じてしまうのは、演出が巧いのもあるでしょうけど、「科学的には既に共鳴し合ってる」という邪念の無さが観る者に伝わってるからなのでしょう・・・。こういう随所にいいな、楽しいな、と思えるシーンが散りばめられていることだけは確実だと思いますし、好きな映画であることに違いはありません。
[DVD(字幕)] 7点(2008-07-26 09:18:41)
38.  残菊物語(1939) 《ネタバレ》 
ようやく溝口健二監督作品初鑑賞です。初鑑賞がこの映画でよかったのかは分かりませんが・・・、鑑賞を終えて深い溜息と感慨に包まれています。とにかく立派な映画やなーと感嘆します。オープニング・クレジットから長回しの移動撮影(笑)ですが、その丁寧な文字のセンスから既に格調高い香りがたちこめています。内容はもちろんのこと、素人目にも感じる目も眩むような素晴らしい構図と、完璧に作りこまれた家屋内外のセットにさえ微塵の隙も感じさせません。汽車や駅構内の造りから、風鈴を売る屋台まで、僕には知る由もない当時の情景さえも、たまらなくその時代を偲ばせてしまうのです。そして映画の本筋ですが“芝居の世界には家柄というものが無くてはならない”この事実をお徳は最初からどこか冷静に理解していたから、大阪へと向かった時点でさえ下積みだけを共にする覚悟が出来ていたのでしょう。こう簡単に書いてしまうのも気が滅入るほど壮絶な覚悟ですが、それをお徳が求めたというこの一人の女の生きざまが、痛々しいほどに、しかもさりげなく描ききられているように思える。これは何ということだろうと思う。それにしてもテンポがいい映画とは思えないのに、観ていて時間がアッという間に過ぎていきます。これぞ静かなる躍動感、この出来栄え、この時代、この日本映画の力量に感無量です。
[DVD(邦画)] 9点(2008-07-12 06:31:48)
39.  旅路の果て 《ネタバレ》 
遥か70年も昔に作られた、この地味なフランス映画に詰め込まれた豊潤な味わいを何と伝えればいいのでしょう?サンクレール、カブリサード、そしてマルニー。この三老俳優の人生そのものを描き出したかのような表情や語り口、ひっくるめて書くと演出や演技力なんでしょうけど、それぞれに、そのように生きてきたようにしか見えないんです。それに例えば老人ホームにサンクレールが初めて来たときの老女優たちの目の輝きだけで、これがどういう男だったのか察しがつくとか、または僕はフランス語がまったく解りませんが、全ての俳優の言葉(発音)がくっきりと耳に入ってくるとか、演劇的な発見がいろいろと楽しめます。でもこの時代だからこそかもしれませんが、生き抜いた男と生き抜いた女を比較すると女のほうが肝が据わってるような気がしますね。単に能天気なだけでは無いなとな思いました。 
[DVD(字幕)] 8点(2008-06-15 16:03:51)
40.  カビリアの夜 《ネタバレ》 
この映画は、どうしても普通にハッピーエンドではないと分かって鑑賞してしまいます。だからカビリアが喜々として家財を整理しているシーンあたりでも幸せそうに見えず、嫌な胸騒ぎを感じるのです。そして持参金を持って喜び勇んで現われたカビリアに対し、オスカーの曇った表情と流れ落ちる汗が不幸な結末を観る側に確信させ、後はどんな不幸な終わり方になるのかという絶望へと誘われていくのみ!と諦めつつ鑑賞してしまいます。ただし鑑賞後、逆にこれは何という後味のいい映画なんだろうと思わせるのです。それはやはり特筆すべきラストシーンが本当に素晴らしいからで、純粋なこの魂一つ、この魂のみが希望への道しるべと謳いあげます。何とも力強い生きる力と喜びさえ感じてしまいます。それにしても、この映画もジュリエッタ・マシーナだからここまでの傑作になったと思えるほど、圧倒的な表現力でした。
[DVD(字幕)] 8点(2008-06-08 11:24:40)
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