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21.  友だちのうちはどこ? 《ネタバレ》 
意表を突いた結末が清烈な作品。一見、天真で無邪気な子供の小さな冒険物語のように見えて、実はかなりの“毒”を含んでいる。毒とは、子供社会と大人社会の断絶と相剋だ。子供にとって大人は時に理不尽だ。大人は理屈を一方的に押し付け、子供の主張や言い分に耳を傾けない。ネマツァデは帳面を友人の家に忘れたので、宿題を紙片に書いて提出した。宿題の義務は果たしている。が、先生は、帳面に書かなければ意味がないとし、紙片を破き、今度紙片に書いてきたら退校だと脅す。アハマッドは帰宅して、ネマツァデの帳面を間違って持ってきたことに気づいた。これが無いとネマツァデは退校させられ、それを救えるのは自分だけという差し迫った状況。彼は母にその旨を説明するが、母はそれは遊びたい口実だと一蹴し、宿題しろと命じた上、あれこれ用事を言いつける。アハマッドは母の眼を盗んで、友の救助に向かう。出会う大人は当てにならない。鉄の扉専門の大工は、アハマッドを無視し、帳面から一枚剥がす狼藉を働く。祖父は、命令されたら一度で行動することを子に教えるのが躾であり、その為に四日に一度は殴る必要があると説く。親切ごかしの老人は、一方的に自分の事を語り、間違った家に導く。結局、帳面は渡せず、帰ってくる。家では、父も祖父も無口、母は口うるさい。大人達に対する失望は隠せない。少年は明日、友に降りかかるであろう不幸を思うと、食事も喉を通らない。しぶしぶ宿題をするしかない。その時、扉が開いたて強風が吹きこんできた。漆黒の闇に洗濯物が翻っているのが見える。 強風は大人の理不尽、闇は暗愚さ、洗濯物は障害物の象徴だ。少年は悟った。結局自分も大人になるしかない。友を救うには正直一辺倒では無益で、先生を騙してでも、出し抜かなければならない。こうして、ずるさを覚えて一歩大人に近づいた。物語は、比喩になっていて、大人社会と子供社会の対峙が、そのまま為政者と民衆の対峙に置き換えられる。陋習にとらわれた蒙昧な指導者に導かれる民衆の結末は哀れなものだ。 違和感を覚えた点がある。落した鞄の中味を拾ってあげても、帳面は間違えない。子供が夜に帰宅した場面が省略されてある。ここは当然叱られる場面。夜なのに洗濯物が干したまま。宿題をしなかった子供の言い訳が、「背中が痛い」。翌朝、アハマッドが遅刻する理由が描かれない。住所記載の学級名簿とかないの?
[地上波(字幕)] 7点(2014-09-10 04:52:59)
22.  デューン/砂の惑星(1984) 《ネタバレ》 
複雑な物語。四つの勢力が入り組んで交差する上に権謀術数があり、宗教が絡む。用語をまとめないと理解不能。◆銀河帝国=皇帝、宇宙協会、大公家の三者によって支配。◆皇帝=大公家のハルコネン家とアトレイデス家を争わせ、漁夫の利を得ようと画策。◆宇宙協会=スペーシング・ギルド。恒星輸送を独占。権力は皇帝を上回る。構成員はギルド・ナビゲーター。スパイスを第一優先。◆ギルド・ナビゲーター=元は人間だがスパイスの多量摂取で芋虫のような姿に。ワープ航法に通じている。未来を予見し、ポールの暗殺を皇帝に命じる。◆スパイス=メランジ。意識を覚醒、ワープ航法、不老不死をもたらす。宇宙を支配する力。◆ハルコネン家=空中浮揚いぼ男爵、甥フェイド、グロス。アラキスでスパイスを採取していた。◆アトレイデス家=レト公爵、妾妃ジェシカ、息子ポール。レト公爵は殺される。ジェシカはフレメンの教母となる。ポールはベネ・ゲセリットの予言した超人かつフレメンの救世主となる。未来が見え、砂虫を操り、アキラスに雨をもたらす。◆クイサッツ・ハデラッハ=宗教結社ベネ・ゲセリット達が独自の繁殖計画によって産み出そうとしている超人、未来予知者。◆ベネ・ゲセリット=超能力をもつ女性種族の宗教結社。「魔女」とも。内なる獣性を懐柔し、自我の管理を目指す。◆アラキス=砂の惑星デューン。砂虫、フレメンが生息。降水量ゼロ。◆フレメン=アラキスの原住民。水を重視し、救世主思想を持つ。◆砂虫=宇宙で唯一のスパイスの補給源。◆ドクター・リエト・カインズ=生態学者。帝国の移動審判官。◆チャニ=リエトとフレメン女性の間にできた娘。ポールの妻。◆命の水=フレメンの宗教的儀式に使う水。砂虫から採取。□宇宙戦争と怪獣(砂虫)と超能力(魔女)と宗教(超人、救世主)と、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような映画だ。これにポリスのスティングも参戦するのだから賑やかなこと。が、早い展開についていけず、カタルシスは得られない。主人公のポールに感情移入する間もない。あれよあれよという間に儀式をクリア、特殊能力を身に付け、砂虫をてなづけ、結婚し、宿敵を粉砕し、最後には雨を降らすという奇跡を起こし、神に近い人物になってゆく。映像、デザインは良く出来ており、スターウォーズに匹敵する。グロ場面が結構あるのに、ユーモアと癒しの場面が全く無いので観ていて非常に疲れてしまう。
[DVD(字幕)] 7点(2013-09-16 23:42:01)
23.  古井戸 《ネタバレ》 
遥か昔に井戸が涸れてしまったために、長年に渡り執念で井戸を掘り続けてきた山国の村のお話。 水を汲むためには約10キロも離れた所まで行かなければならないという苛酷な環境だが、故郷愛のため、村人は容易に村を棄てない。 父親を井戸掘事故で亡くした旺才という青年が井戸を掘ることを決意して、井戸を掘りあてるまでの物語。 ひたすら井戸を掘る物語と予想していたが、意外にも恋愛の要素が多い。旺才には巧英という恋人がいた。 しかし旺才の父と祖父は、巧英をいつか村を出る今風な娘として嫌い、勝手に喜鳳という子持ちの未亡人への婿入りを決めてしまう。 いわゆる売買婚で、旺才の弟の結婚費用を工面する意味もあった。旺才と巧英は駆け落ちを決意するが、見つかって未遂に終わる。 旺才は運命を受け入れ、婿に入り、井戸掘りに専念する。巧英は旺才のことをあきらめきれずに助手を務める。 落盤事故があり、暗闇の井戸の底で二人は結ばれるという屈折した経過をたどる。 水の少ない山国の苛酷な環境に堪え、岩盤にへばりつくように生き抜く村人の逞しい様子や風俗、風習は観ていて飽きない。井戸掘りへの不撓不屈の執念も伝わってくる。恋愛要素を絡めたのもよいアクセントになっている。良作と思うが、不満点もある。 まず、主演男優に魅力がないこと。設定では、旺才と巧英は高校の同窓。巧英は大学受験に失敗して村に戻って来たばかりなので、旺才は19歳。いくらなんでも老けすぎだ。巧英の父親にしか見えない。よって恋愛場面は感興を欠く。 旺才の婿入りにしても、本人に全く知らせずに事を進めるのは無理があるように思える。それに何故長男を婿に出すのかという疑問もある。 次に井戸。井戸を汲む場面が無い。遥か彼方から井戸を汲み、遥かな山道を運ぶ。その苛酷な姿を見せてほしかった。最も残念なのは、井戸を掘り当てる場面が無いこと。井戸を掘り当てるのが主題なのに、それを省略するのは手抜きとしか思えない。最も感動する場面ではないか。長年に渡り耐え忍んできた苦悩が歓喜となって爆発する。その村人の喜ぶ姿を観て、観客もカタルシスを覚えるのだ。
[DVD(字幕)] 7点(2013-09-01 07:09:29)
24.  マグノリアの花たち 《ネタバレ》 
女性はおしゃべりが好きだ。何でも気軽に話せ、愚痴を言い合える友達は貴重な存在に違いない。だから多少気が合わなくても、憎まれ口を叩いても、喧嘩をしても、やがて何事もなかったかのように仲直りできるのだと思う。あるいは喧嘩、和解、悪口、仲直りを繰り返すことによって、より一層強固で奇妙な友情が生まれるのかもしれない。いくら無二の親友がいても遠くにいては心もとない。遠くの親友より、相談できるご近所様ということもあるだろう。更に竹馬の友だったり、宗教もからめば、「友情」の一言では言い表せない「絆」が生まれるのだろう。その絆が本作の主題。美容院を舞台に普通の女性の日常生活がいきいきと描かれる。祝日、式、パーティ等の場面が多いのは偶然ではなく、そこは女性が活動する場だから。裏方で準備するのはたいてい女性で、頭が下がります。男といえば、近所迷惑を顧みずに鉄砲で鳥の木を脅したり、いたずらをしたりで、役に立ちません。シェルビーは、出産と子育てに命をかける女性の象徴。彼女が死して天使となり、母や子や夫を見守るのは当然でしょう。祈りとは運命を受容すること。 米南部の文化が紹介される。カラーエッグやクリスマスの家の電飾は、今でこそ珍しくないが、公開当時の日本ではまだ一般的ではなかった。プールにマグノリアを浮かべたり、アルマジロの巨大ケーキを作ったり、花婿の友達が銃を鳴らしながら登場したりと興味深い。娘の死を嘆いて涙する女性を友人が無理に笑わせる場面があるが、これこそ日本にないブラック・ユーモアのセンスで、周囲が悲しみに沈んでいるときに、わざと馬鹿をやったり、ジョークを飛ばしたりて皆を笑わせると誉められるらしい。運命を受容し、何もかも笑い飛ばすことができれば幸せでしょう。 原題「Steel Magnolias」のマグノリアは南部の州花で可憐な花だが、鋼鉄のマグノリアとなれば、伝統的に農業に携わってきた南部女性の芯の強さを指すのだろう。「鋼鉄のように強いはずの男が…」の台詞があるが、男性批判ではなく、自分の強さに気づいたということ。その強さは、それは出産し、子を育て、死を見守るという女性の役割に基づくものだろう。女性賛美の映画だ。男性の影が薄いのは、焦点を絞るための演出の妙。出産しそうな妻を乗せた車をバイクで追いかける。それも男の役割。
[DVD(字幕)] 7点(2012-12-18 23:47:49)
25.  銀河鉄道の夜(1985) 《ネタバレ》 
ジョバンニの心は押しつぶされそうだ。父親は漁に出かけたまま何か月も連絡がなく、友達からはそのことで、ラッコの密漁で刑務所に入っているなどとからかわれる。母親は寝たきりで、画面に姿を現さないほど影が薄い。それで朝は新聞配達、学校がひけるは活版所で働いて日銭を稼がなければならず、授業中は眠くて仕方がない。優しいのは親友カンパネルラだけ。牛乳は希望や生命力の象徴で、衰弱しているジョバンニには、母親にそれを届けることが出来ない。◆銀河鉄道は地上と天上を結ぶ仮想四次元汽車で、死者の魂や異次元の存在を乗せて銀河をめぐる。鳥がよく出てくるのは、古来日本では鳥は死者の魂を運ぶものとされてきたからだろう。古い地層を発掘するのは、過去や想い出は消失するのではなく、いつまでもそこに存在するという作者の信念の証明。沈没船で犠牲となった人達が乗り込んできて、銀河鉄道の正体が判明する。ジョバンニが銀河鉄道に乗れたのは、疲れた彼の心が死に近づいていたのと、親友の死を動因に、お互いを思う気持ちがスパークした結果だろう。カンパネルラは川に落ちた友人を助けるために犠牲となった。母が許してくれるだろうかと苦悩する。「誰だって本当にいいことをしたら幸せなんだね だからお母さんは許してくださるとおもう」◆旅でジョバンニは成長した。石炭袋という空の穴を見て言う。「もうあんな闇の中だってこわくない。ぼくたち一緒にいこうね」けれど親友は下車する。そこが本当の天上の入り口だから。空の穴は死の恐怖の象徴で、それを越えなければ本当の天国へはいけないことを彼は知っている。突如旅は終了する。現実に戻ったジョバンニは親友の死を知る。加えて父が無事で、間もなく戻ってくることも聞かされる。その果報を母へ早く届けたい、牛乳も飲ませたい、突然の親友の死、彼ははち切れんばかりの思いを胸に牛乳を抱え、ひたすら家に向かって走る。◆感動的なラストだ。全体的に間の取り方がうまい。前半、子供ならではの不安の演出が巧み。鳴りっぱなしの電話、終業ベルに驚いて活字を落とす、切符を落とす人、レジスターの音に振り向く、よぎる鴉の巨大な影、不気味に点滅する外灯など。映像美術、音楽はがんばっている方。◆不審なのは父親の態度。何か月も家族に便りもお金も寄越さないのに、友人(カンパネルラの父)には寄越す。原作の「みんなの幸いのために」という思想は省略されている。
[地上波(邦画)] 7点(2012-09-03 15:52:01)
26.  古都(1980) 《ネタバレ》 
戦後一貫して日本の美を追い求めた川端康成が、京都を描くために京都に住みついて原作を執筆した。違う環境で育ち、偶然出会った双子美人姉妹の物語。姉の千重子は捨て子にされたが、育て親に恵まれ、呉服問屋の令嬢として乳母日傘で育てられた。捨てられた理由は、貧困と「双子は育ちにくい」という迷信のため。苗子は実の両親の元で育ったが、幼い頃に二親とも逝去。苦労して育ち、今は北山杉の土地持ちの住み込み奉公と山仕事を兼業して暮らす。特筆すべきは苗子の驚嘆するほどの奥ゆかしさ、慎み深さだろう。自我を前に出さず、相手を思いやる心、謙遜の情にすぐれている。原作者の説く日本の美の体現者だ。両親が亡くなったのは、姉を捨てた神罰と信じ、両親が亡くなった後は、その罪はいつか自分に降りかかるものと覚悟している。姉に対して何も望まない。北山杉で会う場合も、村人の目を憚って山中で会うという気の使いよう。姉の家も訪ねる折も、わざわざ夜にする遠慮深さ。それを迎える姉の両親の気配りも良かった。呉服問屋で一緒に暮らさないかという申し出は断わる。贈られた帯も付けない。姉と同泊したのを今生最上の喜びと表現。優しさも兼ね備える。山で雨に降られた時は姉にかぶさり、寝る前には姉の布団を温めたる。別れるとき、姉の差し出した傘を受け取ったのは、形見替わりとしてだろう。姉を慮ってもう積極的に会う気はないのだ。典型的な相手に尽くす型の女だが、自分の生き方を貫く強い女でもある。一方千重子は素直に育ち、良妻賢母型で、両親のいう事に逆らわない生き方で満足している。両親の持ってきた結婚話も受諾する。運命を受け入れているだけのように見えるが、実は運命を切り拓いている。未来の夫の忠告に従って、家の商売の勉強を始めるのもその証左。捨子ながら幸福な家庭環境の下で育ったのも偶然ではないだろう。”紅殻格子の前に捨てられる”という運命を引き当てたのだ。巫女的な力を宿しているように思う。これは双子を演じた山口百恵が、恵まれない家庭環境に育ちながらも国民的スターになれたことと重なる。苗子は、彼女が「赤いシリーズ」で演じた”薄幸ながら力強く生きる少女”の分身だ。彼女の二面性を合わせ鏡のように見せてくれる映画のように思える。偶然の産物だろうが、彼女の引退作品としてはこの上ないものだったと思う。アイドルを越えた女神、山口百恵が”日本の美”として記録された。
[DVD(邦画)] 7点(2012-08-16 23:52:54)
27.  2010年 《ネタバレ》 
冒頭フロイド博士とソ連関係者が、大型レーダーの並ぶ場所で内談するのが心象に残る。ここで米ソ冷戦を暗示し、伏線となり、最後の紛争和解場面につながる。うまい手法と思うが、原作に無い冷戦紛争を持ってきて成功しているか疑問。主題はあくまで、人知を超えた”何者か”による新生命の誕生と操作の筈。冷戦が終わって、めでたしという結末はいささか筋違い。実際の歴史で冷戦が終結し、SFとしての風化が早まる結果となった。◆女性飛行士がフロイド博士にしがみついたり、一人が過呼吸に陥ったり、あるいは腐った匂いでパニックになったりと、実に写実的だが、この映画には不要と思う。壮大な主題にふさわしい神秘的演出が望ましい。ひたすら理知的、科学的に葉緑素の発見やモノリスという謎に迫るハードSFがベター。知的好奇心こそが人類の進歩の源なのだから。◆モノリス探査船が放電現象で吹き飛ばされ遭難するのは原作には無い。モノリスが拒絶したか、モノリスと一体化したボーマンのエネルギー体が地球に向かったのに遭遇したという解釈が可能だ。いずれにせよ、ボーマンがこの事故について釈明しないのはおかしい。彼はクルーの命を尊重し、土星から離れろと何度も警告しているのだから。◆最大の緊迫場面は、チャンドラー博士のHAL9への説得。前作を観た人なら、はらはらすること請け合いだ。説得にぎりぎりまで時間を要し、辛くも脱出に成功するが、博士がHALを一人の人格として扱い、真実を語った結果だ。コンピュータと人間間の友情であり、HALの犠牲的精神ともとれる。「コンピュータの反乱」という副主題に対する答えだ。博士は、SAL9000に「私は夢を見るか」と尋ねられ「見るとも、知的生物はみな見る」と答えている。しかし同じ質問をHALに問われ「わからない」と答える。実はこれが最大の謎だった。夢を見るに決まっているではないか。推察するにHALの質問は死を意識したもの。だから博士はとまどってしまったのだろう。死に行く人に安易な言葉はかけられない。◆未来のエウロパ。植物が生い茂り、生物が繁栄する。聳え立つモノリスが映る。知的生命としての進化を待つ。やがてここから新たな宇宙の旅が始まるだろう。宇宙の旅は、生命を継ぐ旅だ。◆蛇足だが、新太陽出現の熱量で地球温暖化が進まないか心配。そのあたりはきちんと調整してくれているんですよね、ミスター、モノリス。ところで、モノリスの見る夢ってどんな夢?
[DVD(字幕)] 7点(2012-07-09 03:37:20)
28.  陽炎座 《ネタバレ》 
男に弄ばれた女の魂の怨念をこの世とあの世、現実と幻想、生と死が表裏一体、万華鏡のように入り混じる世界として描く。◆品子は老婆から死女の魂入りの鬼灯を買う。山崎は縁あってそれを引取る。二人は死者が見えるようになり、二人に絆が生じる。品子の亭主玉脇は遊びの限りを尽し、生きる興味を半ば失い、いつ魂を抜かれても不思議でない状態。妻に飽きた玉脇は妻と山崎に心中させようと企む。二人は、男女の契りを結ぶ。◆松崎は品子そっくりの女イネに会う。玉脇の前妻でドイツ人。髪と眼の色を変え、和装して夫の好みに合わせる。玉脇にとってイネは月光で変化する姿を愛でる人形でしかなかった。松崎が会ったとき、イネは既に死んでいた。◆品子から恋文を貰った松崎は金沢へ向かう。舟に乗る品子とイネを目撃。玉脇は二人を心中させようとするが山崎の拒否に会い失敗。山崎は和田という男に不思議な人形を見せられ、人形の裏に死後の世界があることを知る。◆品子とイネは不思議な友情で結ばれ、表裏一体の関係。品子の恋にイネは嫉妬し、山崎に迫る。恋文を送ったのはイネ。玉脇から幻扱いしかされず、山崎と情交し、もう一度生きてみたいと願う。死者と交わった山崎はあの世へ近づく。◆山崎は陽炎座という芝居小屋に入る。玉脇も品子もいる。そこの狂言方(脚本家)は魂入りの鬼灯で、魂の半生を役者に演じさせていた。イネの魂が現れ、苦悩と怨念の半生を演じる。玉脇は堪らず鉄砲を撃って退席するが、その鉄砲にはイネの灯籠が付いていた。芝居は続き、イネは生き返った。品子は芝居の先が知りたくなったが、今度は品子が演ずる番だという。品子は夫への復讐心から不義をしたと告白。死んで決着つけると言う。愛憎の一念が小屋を崩壊させ、品子は棺桶で怨念の鬼灯を吐き出す。その頃現実の世界で玉脇と品子は心中した。夢の世界が現世を変えた。「うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき」は復讐の和歌だった。精神崩壊した山崎は万華鏡の先に死後の世界の自分と品子の姿を見る。ドッペルゲンガーを見た山崎は死期が近いことを悟る。◆鬼灯を売る老婆、品子の髪を掴む老婆、芝居小屋の老婆が脚本家であり、現実世界での脚本家でもあった。○△□は現世で表現不能なあの世文字。品子が帳面に書き、人形の中の女が男の背中に描き、万華鏡の中の品子が山崎の背に描き、山崎の最後の言葉。美しいが残虐絵が不快だった。
[ビデオ(邦画)] 7点(2011-09-28 17:24:01)
29.  レインマン 《ネタバレ》 
自閉症とサヴァン症候群を世界に知らしめた功績は大きい。ただ数字が得意で、絵も描き、ユーモアを解し、飛行機や高速道路を避ける危機回避能力を持っている人がいるとは思えないが、そこは演出。◆弟は2歳で母親を亡くし、16歳で冷たい父に耐えきれず家出、父親と縁を切る。父が死ぬと遺言があり、弟は車がもらえるだけ。秘密の第三者に300万ドル渡すという。めったにない遺言である。息子なのだから半分はもらえる権利がある。裁判で訴えれば勝つだろう。それはともかく、主題は家族愛を知らない弟が兄と触れることにより、家族愛を取り戻す話。◆弟は第三者を見つけ出し、それが自閉症の兄だと知る。兄の存在を隠していた父への憎しみが増す。兄を騙して誘拐し、保護権を楯に遺産を半分を戴こうと企む。恋人はそんな姿を見て去る。弟が兄を誘拐したのはお金が欲しさもあるが、父に踏みつけにされた事への反発が大きい。◆兄は自閉症だが記憶は確かだった。弟と一緒に住んでいたこと。父が面会に来て自動車の運転を教えた事。母がレインマンの歌をうたってくれたこと。弟は兄レイモンドをレインマンと呼んでいた事。母が死に、兄が弟をお湯で火傷させそうになった事件があり、兄は病院にやられたこと。その日は雪が降っていて、弟は「バイバイ、レインマン」と腕を振っていたこと。これらの事情を知って弟の心は軟化する。先ず母のかすかな思い出を確認することが出来た。そして父が兄の事を黙っていたのは、兄の存在を隠すことが兄弟にとって良いことだと判断した事、父が兄にほとんどの遺産を残したのは、自分が父を拒絶したせいであることを理解した。こうして兄との絆が芽生え、父親と精神的に和解できた。優しい気持ちになれたところで恋人に素直に電話。恋人は弟が変わったことを感じ取り戻ってきた。◆弟はお金が必要になった。兄の能力を利用してカジノのポーカーで必要な分を儲ける。しかし兄の能力がばれて、二度と出入りできなくなる。弟は兄を尊敬するまでになる。◆兄がぼや騒ぎを起こす。パニックになる兄の姿を見て、弟は一緒には暮らせないと悟る。誰かがついて終始めんどうを見ていないと危険なのだ。弟は別れを決意。兄を病院に戻し、遺産は辞退する。愛に飢えていた弟が家族愛を知って変わったのだ。兄も弟との旅で様々な経験をし、成長した。弟をメインマン(親友)と呼ぶ。兄の奇行ばかりが目につくが、メインは弟。
[DVD(字幕)] 7点(2011-09-20 04:03:22)
30.  AKIRA(1988) 《ネタバレ》 
原作をなぞるのではなく、映画のために再構成したのは評価できる。それでも余分な部分があり、必要以上に複雑な印象が残る。例えば、大佐のクーデター、新興宗教、根津などは不要だろう。逆に、最高幹部会、反政府革命分子等の説明不足。つまり世界観をより充実させ、鉄男と覚醒者、金田とケイに話を集中すべきだった。◆物語の核となるのは、人間の秘めた力と進化。人間内部には、アメーバーから人間へと進化させた未知の力が働いており、核兵器にも匹敵する爆発的なエネルギーを宿しているという。だが肝心なその部分の掘り下げが浅く、説明不足は否めない。ハードSFとしては成立せず、単なる超能力同志の喧嘩で終わっている印象。科学の暴走はありがちなテーマだが、この部分でも踏み込みが足りない。科学の暴走を徹底的に批判する人物をだし、対比させればよかった。 ◆鉄男が覚醒してゆく様子や抑圧された精神と苦悩は丁寧に描かれており、評価できる。欲望のままに新能力を使うとろくなことにならないということ。 ◆最大の問題点は、血と内臓の露出過多、つまりグロ。意味なく人が死ぬ事。つまり残虐描写が多く、観客を選んでしまう。興行成績不振の理由はここ。バイク疾走シーンの滑らかな動きは秀逸で、細部にわたる描きこみがあるのに残念。 【疑問点】 ①第三次世界大戦と新型核爆弾とアキラの関係が不明確。 ②標本のアキラなら何故あんなに恐れる?アキラの覚醒とその後の挿話がない。生きたアキラが登場しないのは最大の失望点。結局アキラは再生して再覚醒し大エネルギーを発するのだから、眠っているアキラでよかったはず。ここでもグロの悪い方へ向かってしまった。 ③金田は孤児で貧乏な学生なのに何故あんな最新鋭の特殊バイクを持っている? ④冒頭、金田が店を出るときCDをかけるが、聞かないのに何故? ⑤暴走族が手榴弾?やりすぎでしょ。 ⑥老人少年は何故成長がとまり、顔の老化が速いのか?声は子供だが、実年齢は40歳くらいのはず。 ⑦老人少年が逃げ出した理由は?空を飛べる能力を何故使わない。反政府勢力が彼を連れ出した意図も不明確。 ⑧ヒロインに魅力なし。不美人で、声はおばさんで、人殺し。恋愛ものとしては失格。 ⑨3人の覚醒者は自らを犠牲にしてまで金田がアキラに取り込まれるのを助けたのか?「だってあの人は関係ないもの」と説明しているが、カオリなど他の犠牲者との違いは何だったのか。
[DVD(邦画)] 7点(2011-05-07 00:00:58)
31.  ディーバ 《ネタバレ》 
物語は少し複雑。メインは郵便配達人ジュールとディーバであるシンシアの純愛。ジュールは運命のいたずらで3つの組織に追われる。買春組織の暴露テープを持っていることで警察に。同じ理由で殺し屋に。そしてレコーディングしないシンシアの録音テープを持っていることでレコード会社に。さらに複雑なのは売春組織のボスが、警察の殺人課の上司であること。このため捜査状況が殺し屋に筒抜けとなる。レコーディングテープはベトナム人少女アルバに預けて置いて無事だった。暴露テープは殺し屋に奪われそうになるが、謎の男(アルバの恋人)に助けられる。暴露テープは謎の男が殺し屋のボスに売る。後にボスはジュールを殺そうとして、謎の男に殺される。 ◆感情移入を損ねる要素がある。アルバが平気で万引きする。ジュールもそれを咎めない。ジュールがシンシアへの愛の代償として黒人娼婦を買う。ジュールは逃げ回っているだけで最後まで成長せず無力である。主人公なのだから活躍して欲しい。最初は無力でも途中からヒロイズムを発揮するか、知力でピンチを乗り切るかすべき。謎の男に助けられているばかりでは、シンシアの愛を獲得する資格は無い。要するに主人公の印象が薄いのだ。ここが最大の不満点。謎の男ばかりが目立ちすぎる。ジュールがライブを録音し服を盗むのは、幼い愛の表現として許容できる。 ◆最大の魅力はシンシアの歌だろう。実に力強い。随所にユーモアの要素もある。二人の殺し屋のキャラも立っている。何でも嫌いな殺し屋は特に印象的。ジグソーパズル、動く波の模型、壁の画、バイクなどガジェットも豊富。構図やマ撮り、彩使いなど映像がスタイリッシュ。 ◆不可解な点もある。①レコード会社の人は、テープを探してジュールの家に押し入ったが、何故テープをずたずたにしたのか。腹いせだろうか。また謎の男から違うテープを渡されるだけだが、何故確認しないのだろうか。②最後の場面、唐突に無人の舞台となる。説明が欲しい。テープが途中で止まって、また始まるが誰が操作しているのか。③謎の男は、テープを売った金をどうしたのか? ◆ミステリー要素も恋愛要素もそこそこの出来で、良くまとまっている。アクションは陳腐。普通に考えれば、ディーバが狙われてジュールが助けるのだけれど、意表を突く展開が好ましい。本筋と離れた部分で、謎の男と不思議少女の抜群の存在感が映画を稀有なものにしている。
[DVD(字幕)] 7点(2011-02-13 11:59:21)(良:2票)
32.  カラーパープル(1985) 《ネタバレ》 
【違和感】①苦労知らずの白人男性監督が昔の黒人女性の過酷な人生を描く。②手紙が届かないというが、義父や親類や知人に頼めばいい。学校の先生や友達もいるでしょうに。教会宛に事情を説明して出せば、手渡しで届けてくれると思う。そうしなくともアフリカに立つ前に一度は訪ねなさい。比較的恵まれた生活をしているのだから。③主人公セリーの夫がネティの手紙を後生大事にしまっておくのは何故?焼き捨てるでしょ。④夫のキャラが、美人歌手シャグが登場してから別人のように変化してしまう。虐待キャラから憎めない男に変身。⑤セリーの子供をネティが育てるなんて、偶然が過ぎる。⑥自立した筈なのに実父の遺産が転がり込んで商売を始める。その商売がズボン店で、それまでの彼女と縁が無い。良い話が台無し。⑦セリーは父に強姦されて子供を産んだと思っていたが、実の父では無く義父だった。彼女は妹と子供と再会し、遺産を受け取る。シャグは神父の父と和解する。強い女ソフィアは夫と元の鞘に戻る。セリーの夫は改心してセリーと妹の再会を助ける。何もかもうまく収まり過ぎ。余韻が残らない。【感想】描く対象が絞り切れず、締まりが無い。単純な女一代ものにすればいいのに、他の女性の人生や時代を描こうとして冗長的。一本の映画で描ける内容は限られている。クライマックスが手紙を読むところなので、その余韻で家を出、再会させてすぐに終わればすっきりした。ゴスペル場面など不要。◆骨子は、父や夫によって人権を無視され、教育も受けず、虐待され続けた女が、自立した女性と出会うことにより、魂が目覚め、生きる喜びを知り、自立すること。映画では夫に対する怒りが協調され、女の成長過程が十分描けていない。刃物を突きつけ、罵り、他人に頼って家出するのが自立だろうか。感動が薄いのはこのため。再会が感動のクライマックスとしてもそれは成長した結果の神様からのご褒美ようなもの。原作は感動的、監督は天才、映像は詩的、演技は文句なし、でも脚本の出来が悪ければ、良い映画にならない好例。原作の矛盾点を改善し、無駄なキャラを削り、ラストも改変するくらいでないと成功しない。小説と映画は別物だからだ。小説では自由に表現できる心理描写も映画では科白と映像で表現しなければならない。おのずと構成に違いが出てくる。極端な話、シャグを主人公にすればもっと起伏にとんだ物語になったろう。
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-20 06:15:27)
33.  野獣死すべし(1980/日本) 《ネタバレ》 
戦場カメラマンとしての数々の体験が、伊達から人間らしさを奪い去った。戦場で大勢の人の死を目撃し、その都度精神的ショックを受けた彼にとって、死とは甘美なものへと変貌を遂げていた。クラッシックを聞きながら拳銃自殺のまねをし、恍惚の表情を浮かべる。それがストレス解消法だ。ニーチェの「善悪の彼岸」思想と、ハードボイルド小説の影響を受けている。◆そんな彼が一線を越えた。殺人を犯したのだ。他人の生命を自由に弄ぶことで、神をも超越した美しい存在であると感じた。「あの輪廻という忌まわしい長い歴史をたった一発の銃弾でキミは否定してしまったんだ。そのくだらない時の流れを止めてしまったんだ・・・なんて素晴らしい悪魔の時間だ」◆悪魔と化した伊達は銀行強盗を計画。自分と同じ「死んだ目」を持つ真田を仲間にする。仲間になる条件として恋人殺しを強要する。綿密な計画を立てたようだったが、実際は行き当たりばったり。金銭目当てより、殺人目的のような凄惨な犯行。偶然に伊達を慕う女性が客として居合わせるが、少し躊躇しただけで容赦なく射殺。◆逃走途中でこれまた偶然居合わせる刑事。刑事は夜の電車の中で尋問を始める。その後伊達の狂気が暴走し、刑事、目撃者、真田までをも殺していまう。◆真田の精神は完全に破壊された。彼はもう音楽を聞いても感動を得られない。コンサート会場でも眠ってしまう。「アーッ!アーッ!」と叫ぶのは、生きていることを自覚するため。会場を出るとどこからか銃弾が飛んできて命中。刑事の亡霊が見える。二度目の銃弾に当たり、もんどりうった姿で映画は終了。血が出てないので、実際に銃弾が飛んできたのではなく、フラッシュバックに襲われたのだ。伊達にとって恐怖の象徴が刑事の亡霊。自分では神を超越したと思っていたが、実際には自分のアイデンティティーを失っていた。戦争体験が人間の精神に及ぼす影響の悲惨さを表現した映画。時折見せる左手を上げるポーズは釈迦誕生をもじった野獣生誕のポーズ。【疑問点】①銃を密売人から入手できるのに、何故刑事を殺して銃を強奪したのか。②オナニーショーを観ているわりには、女には手を出さない。③「ラム、クアントロ、それにレモンジュースを少々、シェイクする」「X、Y、Z」「そう『これで終わり』って酒だ!」XYZの意味不明。④軍隊経験がないのに、急に軍人モードになるのが不自然。
[DVD(邦画)] 7点(2010-08-02 22:45:42)
34.  太陽の帝国(1987) 《ネタバレ》 
冒頭場面は、揚子江に漂う棺桶を軍艦が蹴散らす。最終場面は揚子江に漂うジムの鞄。川は時の流れ、棺桶は死、鞄はジムの少年らしい心の象徴。死と共に戦争がやってきて、ジムの少年らしい心を奪っていった。それは時代の流れであり、個人にはどうすることもできない。「太陽の帝国」とは、多感で夢見がちであり、ロマンと冒険を求める少年の心のことである。戦闘機マニアの少年が、戦争が始まっても敵国の戦闘機に思いを寄せるのは実に子供らしい。しかし戦後には、もう何かにあこがれる心を持ってはいない。一足飛びに「大人の打算世界への精神的脱皮」を強制させられたのだ。不憫でならない。原作者は「奪われた少年時代」を批判するわけではなく、乾ききった目で淡々と述する。事実としては、原作者は捕虜収容所を家族と一緒に過ごした。独りだったとするのは体験の異常さを強調するためだろう。監督は原作に忠実でありすぎた。その為観客は肩すかしを食い、感動できない。主題が解りにくいのだ。 【肩すかし】①ジムは日本軍に入りたいと言い、あこがれの零戦を撫でて飛行兵に敬礼していたのに、米軍のP51ムスタングに狂喜乱舞する。②米国人ベイシーとの友情物語と思って観ていると、ベイシーはジムを利用しているだけ。蘇州行の車に乗せようとしなかったし、地雷地帯に行かせるし、脱走も置いてきぼり。③少年と日本人との友情物語と思って観ていると、最後までナカダ(伊武)とは心が通じないし、唯一心の通じていた少年兵は頓死。④ジムの成長物語として観ていると、生存のためとはいえその世知辛い世渡りぶりは痛い。心が豊かになるのではなく、空虚になり崩壊してゆく。⑤反戦映画として観ると、戦争の悲惨さは最低限にしか表現されていない。爆撃シーンでは死も記号的。原爆を神の写真などと変容させている。⑥家族との愛情物語かと思って観ると、ジムは家族の顔も思い出せない。再会時の父親の存在の薄さ。 【日本人】美しい映像が際立つ。夕日が美しい。火花が背後の零戦が美しい。P51の爆撃場面、原爆の火が美しい。音楽も美しい。ベイシーや医者も躍動している。だが日本人だけは美しくない。トラックから降りてすぐに石を持たせて運べなどとは言わない。飛行場に重機関銃も高射砲もない。少年飛行兵がとってつけたように殺される場面は失笑。
[DVD(字幕)] 7点(2010-07-06 10:48:04)
35.  うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー 《ネタバレ》 
◆文化祭の前日が永遠に続くという不思議な現象が起る。前日の記憶な消えてゆく。この現象に初めて気づいた温泉マーク先生が家に帰ると、部屋は埃と黴まみれになっていた。長い月日が経っていたのだ。種を明かせばバカバカしい夢オチの一種だったが、その前のサスペンス部分は中々なもの。世界が滅んだと思わせる導入部は衝撃的だ。絵柄が古く、表現が大げさであることを除けば、今でも楽しめるアニメだ。 ◆偽現実世界の正体はラムの夢だが、「皆が楽しく暮らしていればいい」という無邪気すぎる夢が現実となったもの。あまりにも単純すぎるが、宇宙人だから納得できてしまう。無邪気な夢に無邪鬼が絡むという洒落。一人の見る夢に巻き込まれた人たちはさぞかし迷惑だろうと推察するが、「特に害がないので別にいいじゃん」という連中が多い。そこが「うる星やつら」の世界観。今が楽しければそれでいい、物事を深考えない。それが青春であり、思春期の若者の特権である。「永遠に続く青春」が原作の世界観で、それを逆手に取った脚本となっている。 ◆人間には今住んでいる世界と別の世界に行けたらという願望がある。これと楽しいときが永遠に続いたらという願望が結びつき、そしてそこへ全員がタイムスリップしたら、現実との違いは何だろうという哲学的な内容を具現化したもの。 ◆美しい時間、楽しい時間が永遠に続くのは残酷なことでもある。日常と違うことが起るから感情が湧き起り「楽しい」と感じる。しかしそれは続かないから意味がある。大好きなゲームに熱中していても、いつか飽きがくる。刺激に慣れ、別の刺激が欲しくなるのだ。だから大人から順番に変事に気付いてゆく。 ◆映像で見るべき場面がある。喫茶店の会話で水の入ったガラスに二人が映る場面、しのぶと風鈴が交差する場面、冒頭の荒廃した世界でラムがジェットスキーで遊ぶ場面など。又文化祭の催しが「第三帝国喫茶」で本物の戦車が教室に据えられるというハチャメチャぶりなどギャグも満載。夢を食うバク(子ブタ)のキャラも意表を突く。他人に夢を見させる仕事をしているが、一度も自分の夢を見たことがない無邪鬼のアイロニーも興味深い。深読みできるアニメです。 
[ビデオ(邦画)] 7点(2010-07-05 00:15:46)(良:1票)
36.  ミス・マープル/スリーピング・マーダー(1987)<TVM> 《ネタバレ》 
子供時代に目撃した殺人事件らしきもの。大人になって偶然その家の所有者となる。自分探しのために過去に母親と関係のあった人物を探し出して、当時の真相を聞き出そうとする。だが新たに殺人事件が起る。過去の殺人事件と関係があるのか?マープルの活躍はあまりありませんが、興味深い展開で、十分楽しめました。ただ、あの犯人の動機のぶぶんがよく理解できません。愛しているがゆえに独占したくなる心理で、アガサ・クリスティの作品には時折見られる動機ですが。ミス・ディレクションのための設定として思えないのですが。主人公の女優さんは演技力ばつぐんで魅力的です。
[DVD(字幕)] 7点(2009-03-15 00:48:46)(良:1票)
37.  タイタンの戦い(1981) 《ネタバレ》 
「タイタン」とは何か?タイタンはオリンポスの神以前に世界を支配していた巨人族。クラーケン(北欧神話)はギリシア神話には登場せず、アンドロメダを襲うのはケートス(鯨系の怪物)だが、ゼウスはクラーケンを使ってタイタンを倒し、後にクラーケンを地下に封印したという異説もあるらしい。本作品では、ゼウスが「最後のタイタン、クラーケンを解き放て」と言っているので、クラーケンはタイタン族という設定のようだ。◆アルゴス国王アクリシウスは、罪を犯し国を辱めたとして、娘ダナエとその赤子ペルセウスを箱に閉じ込め、海に流した。ペルセウスはゼウス神の神子だったため、怒ったゼウス神は、大海獣クラーケンを放ち、アルゴス王国を民もろとも滅亡させた。これが物語の発端だが、「罪を犯し国を辱め」だけでは何のことか不明だ。ギリシア神話では「王は彼の孫によって殺される」という神託を得たため、娘と孫を川に流した。◆女神テティスの子、カリボスはヨッパ国の王女アンドロメダの婚約者だったが、「月の泉」を動物狩りに利用して、ペガサスを絶滅寸前に追いやったことでゼウスの怒りを買い、世にも醜い姿に変えられた。悲嘆にくれたテティスはゼウスへの意趣返しとして、アンドロメダに結婚できない呪いをかけ、ペルセウスをヨッパに瞬間移動させ、この世の辛酸をなめさせるよう謀り事を巡らす。テティスは、アンドロメダの母が娘と女神の美を較べる発言を聞きとがめ、アンドロメダを30日後にクラーケンの貢物にさせると宣告。これが冒険の前段階で、非情に凝ったものだが、複雑すぎて把握しにくい。◆要衝は、ペルセウスとカリボス、双頭の犬ディオスキロス、蛇女メデューサ、スコーピオン、クラーケンとの一連の戦闘場面だが、今となっては古い撮影技術で、まどろっこしい。クリーチャーの美的センスは素晴らしいものがある。ペルセウスは剣、兜、楯を労せず得るが、何らかの献身、奮闘によって獲得する展開の方が望ましい。困難が大きい程、見所があるし、感情移入も容易になるからだ。主人公の俳優の容姿が凡庸で、神の子には見えないのも減点だ。途中から金属フクロウが一行に加わり、思いのほか大活躍するのが嬉しい。フクロウはペットのような存在で、物語に彩りを添え、癒しを与え、格好のアクセントになっている。映画を退屈せさずに観せるためには、こういったものが必要だと認識させられた。
[DVD(字幕)] 6点(2013-06-11 18:28:23)
38.  マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ 《ネタバレ》 
不思議な映画。異文化のせいで不思議なのか、もともと不思議なのか。時代は、スプートニク2号の飛んだ1957年11月3日と、ボクシングのインゲマルが世界チャンピオンになった1959年6月26日の間。不思議はたくさんある。次々と家庭で問題を起こすイングマンが、不幸な運命に見舞われ、それを克服する物語のはずが、あまりにモテすぎ。お医者さんごっこできる仲のガール・フレンドがいて、田舎に行けば男装の美少女サガとクラスメートの一人から好かれ、優しいグラマー美人にも可愛がられる。最後も男装を解いて少女となったサガと添い寝。バラ色の人生である。どうして二枚目でもないのにモテる設定にしたのか?母親が重篤となり入院し、伯父の元で育てられる次第となるが、そんな大変なときにどうして父親が戻らないのか。治癒が難しい結核であれば尚更のこと。可愛い息子たちに電話もよこさないのか?不思議な人が多く登場する。緑色の髪の少年や男装の少女は置くとして、おちゃらけたレコードばかりかけ、他人の土地に東屋を建てる人、ランジェリー・カタログが好きな老人、乳房のモチーフが好きな芸術家、がらくたで宇宙船の乗り物を作る人、屋根を修繕し続ける人、自転車で綱渡りする人、雪の川で泳ぐ人、みな魅力的だが、揃い過ぎると作為がみえてしまう。最重要な母の死を直接描かないのでわかりづらい。悲劇があってこそ、豊かなユーモアに溢れた周囲の人間の姿やみずみずしくも美しい子供たちの成長していく姿が輝いて見えるのに。クライマックスに欠けるのだ。描かないことで想像させ、詩的に昇華させる手法だろうが、高尚すぎる。ところで母親な本当に死んだのか?犬が死んだ時のほうが落ち込んでいる。コップの水は飲めるのにコップの牛乳を飲めないのはどうしてか。犬の死を知り東屋に閉じこもるが、このとき終始ニヤついているように見える。演技に難あり。犬のふりして吠える姿が心に響かない。サガはどうして犬が死んだのを知っていたのか?イングマルとサガはどうして世紀の一戦のラジオを聞かないで寝ているのか。わざわざそれを聞くためにサガの家に行ったのに。遊び疲れて寝たのだろうが、納得しかねる。最後は屋根の修復を続けるおじさんで締め。これは「人生とは心の傷を修復し続けることだ」というメタファーだろう。これはわかり易い。
[DVD(字幕)] 6点(2012-12-24 09:20:39)
39.  薔薇の名前 《ネタバレ》 
時代考証を重ねて忠誠を忠実に再現しているのは好感が持てる。だがわざわざ欧州中の醜い顔の役者を集める必要があったか疑問だ。特殊メイクはなしという。まるで動物園のようで、悪趣味としかいいようがない。中世のキリスト教に恨みがあるのだろう。ヒロイン?の女性もしかり。がさつで下品で汚く撮っている。性愛場面は醜悪だ。あの場面はラストの題名の意味を明かす重要なパートにつながる甘美な想い出でなければならない。青い体験描写として失敗。そもそも女はどうして少年修道士を強姦したのか?その背景が描けていない。食料を求めて侵入した筈だが。◆ミステリーとして弱い。黙示録の予言通りに殺人が進む、というのはフェイクで終わってみればただの偶然。何のために血を貯める大壺があるのか疑問だ。まぎらわしく風呂で溺死するなと言いたい。最初のは殺人ではなく飛び降り自殺。理由は禁書を見せてもらう見返りの男色行為を恥じたから。納得ずくの筈だし、自殺は重い罪なのだが。しかも嵐の夜に塔から飛び降りるというややこしい死に方。◆犯人は盲目の長老で、禁書に毒を塗っておいただけ。それを二人が盗み見して死んだ。盲目なのにどうやって秘密の迷宮図書館に独りで出入りできるのか疑問です。また何しに図書館に行くのか?また禁書は焚書にすれば済むわけで、どうして収蔵しておくのか?理由がさっぱりわからない。笑うことが罪だというオチに笑ってしまう。◆事件を裁くべくやってきた異端審問官だが、一目みてどういう人物が分るので意外性がない。暗愚で、杓子定規。主人公との対決も肩透かし。この人物は民衆に崖から馬車ごと突き落とされるが、そんなに悪人だろうか?民衆がこの人物をどれだけ知っていたというのか?自らの信念に則って異端審問しただけだ。一方的に悪者にされる理由もないだろう。女には火をつけなかったのだし。修道院が火事なったら逃げだしたのも腑に落ちない。◆主人公はどうやってあの炎の中から脱出できたのか?あんなに諦め顔だったのに。知恵を絞り秘密の抜け穴を見つけ出すのが筋だと思うが、何も描かれていない。又修道院長や長老の姿が見えないのはどういうわけだろうか?主人公が真実を説明し、修道院長らが感謝したり謝ったりする場面があって当然ではないか?◆欧州と日本ではヒットしたがアメリカでは酷評で終わった。理由は上記に説明した通り、話がすっきりしないからだろう。
[DVD(字幕)] 6点(2011-09-12 15:15:38)(笑:1票) (良:2票)
40.  天城越え(1983) 《ネタバレ》 
劇中「紀元二千六百年」の歌が流れるので時は昭和15年。少年は誰しも女性に対してあこがれと思慕の念を抱くが、劇中の少年は女性に対して屈折した感情を抱いていた。母親とその義弟とが男女の関係にあることを知っていたからだ。少年には父親がおらず、鍛冶屋という稼業を嫌悪していることもあり、ある日いたたまれず家を飛び出した。少年は山中で遭遇した美しくも妖艶な遊女に魅かれる。年上の女性に対する純粋な憧憬と愛慕の気持ちが生起したのだろう。だが途中で別れ、遊女と土工の性交を目撃するに至り、母親へのどす黒い感情がフラッシュバックとなって押し寄せ、発作的に土工を殺害してしまう。少年には神聖な女性を凌辱する男の存在が許せなかったのだ。これは動機として成り立つ。 ◆宿の主人は浮浪者同然の土工を憐れに思い、紙幣を恵んでやり、万が一男が行き倒れになった場合に備え、紙幣に「此人を宜敷」と書き添えていた。これが重要な証拠品となるのだが、どうして他人にそんなに親切にするのか疑問である。ちなみにそばが15銭の時代で、1円は現在の三千円程度の価値。 ◆少年が氷小屋で一夜を明かすが、濡れたおがくずの上に板を敷いて寝る、そういう知恵をどうやってつけたのか。 ◆あらかじめ遊女が犯人と決め付けた上で、自白を迫る強引な取り調べ。これは現代でもあるが、戦前では猶の事あったのだろう。冤罪は無くなりそうもない。「はばかりに行かせて!」と叫ぶ遊女を刑事が床に投げつけるシーンがあるが、あれは人形を投げている。刑事の遊女に対する贖罪の気持ちがさほど描かれていないのは減点。あればもっと悲劇が盛り上がった。 ◆遊女は犯人が少年と知っていた。そして少年を許した。少年は遊女からもらったマッチを生涯お守りにしていた。そして40年後遊女が拘置所で亡くなったことを知る。かくも儚い恋を他に知らない。 ◆田中裕子の演技は素晴らしい。彼女を美しく撮ったカメラワークは賞賛もの。本作品でモントリオール世界映画祭主演女優賞を受賞したのもうなずける。当時28才で、連続テレビ小説『おしん』で主役を演じていた頃だ。一方で貞女、一方で娼婦を演じ分ける。女優として最も脂の乗っていた時期。一方で老人に見えない刑事には失笑する他はない。
[DVD(邦画)] 6点(2011-07-25 12:26:28)
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