21. 燃える平原児
歌って踊って恋をするプレスリー映画は理屈抜きで楽しめる。本人は「くだらない映画」と思っていたとのことだが、明るく屈託のない役柄はエルヴィスにお似合いだと思う。対照的に、本作ではJ・ディーンを意識したかのような陰影のあるシリアスな演技を見せるが、これはこれで悪くない。白人と先住民の子という葛藤を抱え、反抗心を見せる複雑な青年像を手堅く演じた。 本作のように先住民を悪役視するだけでない映画がニューシネマ以前にいくつか製作されており、アメリカ映画の奥深さを感じた。最後は尻切れトンボが惜しい。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-10-29 13:21:15) |
22. メジャーリーグ
《ネタバレ》 全体的にひねりがなくあまり笑えない。選手の個性は型どおりでオーナーの思惑は予定調和的。魅力的な選手(俳優)がいなかったのも残念。 ヤンキースとの決戦は大声援で盛り上がるものの、クライマックスのバントには拍子抜け。ひと工夫した脚本だと思うが、それまでの展開からすれば見事に盛り下がり。ビッグビジネス(MLB)としてもショービジネス(映画)としても、“大ホームランを予告してバント”では物足りない。「あわや」と「万事休す」の演出が欲しいところ。 バントよりもっと起伏のある筋書き、例えば「予告通り大飛球を打ってあわやホームラン!というところで外野手が落下点で構えキャッチ・・・と思ったらポロリ落としてエラー・・・ランナーがホームイン」という展開の方が弱小球団インディアンスにふさわしい勝ち方だと思うよ。えっ、大飛球をヘディング?・・・いやいや珍プレー好プレーじゃないんだから。 日本のプロ野球で“ささやき戦術”に元大リーガーが怒ったこともあったが、メジャーでもこの映画のようにやってるのかな? [CS・衛星(字幕)] 3点(2023-10-15 17:28:29) |
23. 樺太1945年夏 氷雪の門
南に「ひめゆりの塔」あれば北に「氷雪の門」あり、か。 1945年8月、日ソ中立条約を無視しソ連軍が樺太を侵攻。ソ連の攻撃を受けた住民たちの逃避行と、最後まで通信を守ろうとした女性電話交換手たちの悲劇を描く。 旧満州では、ソ連軍によって悲惨な境遇を送った日本人たちの話がよく知られている。当時の苦難は宝田明など映画人の証言でも見聞きした。それに比べると樺太での苦難はあまり知られていないように思える。 概ね史実に沿った演出であり、樺太が地理的に戦地から離れているため当初は住民が楽観視していたことがよくわかる。次第に戦火が近づく中で葛藤する交換手を演じる女優陣の演技は当時の緊迫感を漂わせている。交換手たちも早く逃げれば済むことであるが、いざという時に使命感をみせる人はいつの世にもいる。たとえば天災の時など。 海上の戦闘シーンは特撮がしょぼくて残念。ラストの平和へのメッセージはとってつけたような印象で心に響かない。 [映画館(邦画)] 5点(2023-09-24 14:33:46) |
24. 裸の町(1948)
製作当時としては画期的なオールロケ撮影の傑作。臨場感抜群で、ニューヨークの街並みをリアルに捉えたセミ・ドキュメンタリータッチが光る。 警部役B・フィッツジェラルドの安定感、若手刑事役D・テイラーのやや頼りなげな初々しさ。このコンビの捜査ぶりに加え、若手刑事の私生活も描いて映像に血を通わせており、人間味ある映像にまとめた演出はフィルム・ノワールにおける類型を確立した。ウィリアムズバーグ橋での撃ち合いに代表される縦構図等、立体感のあるカメラワークも秀逸。 「裸の町には800万通りの物語がある。これはその中のひとつだ」と語るラストのナレーションが印象深く、大都会・ニューヨークを見る視線が鋭い。 [インターネット(字幕)] 9点(2023-09-03 10:53:42) |
25. パリで一緒に
《ネタバレ》 A・ヘップバーンとW・ホールデン、1954年のオスカー主演賞コンビのコメディとして肩の力を抜いて観賞。原作にJ・デュヴィヴィエが名を連ね、T・カーティスやM・デートリッヒのカメオ出演などスタッフ・キャストが豪華。パロディ精神と遊び心いっぱいで、脚本家の仕事ぶりを見せながらの展開が楽しい。リックの役名からしてもうミエミエだね。おまけに、D・マッカーサーの名セリフ「老兵は死なず・・・」をもじって「老兵のように消える」とは恐れ入った。「完璧な人間はいない」のセリフもお馴染み。少し老けたホールデンが、オードリー相手に脚本の場面を力説してブローニュの森へディゾルブ・・・気楽に観られるものの、どこでパロディが現れるか気が抜けない。 理論派気取りの俳優役カーティスが笑わせる。感情移入や自己陶酔、品のなさとメチャな言葉遣いを批判という、ヌーベルバーグやニューヨーク派に対するハリウッドの対抗意識をちょっぴり味付け。N・リドルの洒落た音楽も結構でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2023-08-20 20:45:14) |
26. 片目のジャック
M・ブランドの監督・主演作。初見は吹き替えだったが字幕で改めて観るとブランドの演技の特徴が垣間見えた。内容は悪くなかったが、ぼそぼそ喋るセリフ回しに違和感を覚えた。吹き替えでは全然知ることができなかったこと。リアル志向のメソッド演技で注目を浴びた彼の演技かもしれないが観客は置いてけぼり。 日本映画含め、原語で聴いているとセリフの聴き取れないことがなんと多いことよ。そんな時は自国の映画でも字幕をつけたらどうかと思うことさえある。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-07-23 16:33:32) |
27. さらば冬のかもめ
《ネタバレ》 寒々とした光景(雪景色)と対照的な3人の友情を描くロードムービー。軍隊がもたらす人間性の変調に対する視線が暖かい。とはいえ中身は、ごく常識的な市井の人たちに対し自分らにとって都合よければの内向きの暖かさ。J・ニコルソンはホント、ちょい悪オヤジが良く似合う。だから嫌いだよ。 ハンバーガーのチーズとろりや半熟卵の要求はクレーマー養成か?ちょい悪水兵バッドアスに共感なし。居酒屋のマスターのように3人の友情のとばっちりを受ける人たち・・・思いは彼らに向く。 他人に迷惑かけておきながら「オレたちしっかり友情してるぜ」感が滲み出て後味の悪い映画だった。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2023-07-09 14:41:20) |
28. 牛泥棒
《ネタバレ》 冤罪をもたらす群集心理の怖さを描いた西部劇。後味の悪い結末であるが問題意識をはらんだ佳作。 冒頭の、何もなくつまらない街という自虐的な意識が伏線となり、つるし首を数少ない娯楽として楽しむ集団リンチへと繋がる。 付和雷同による私刑は、多くの西部劇でひとつのエピソードとして語られるが、本作ではこの問題に焦点を当てている。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-06-25 16:24:40) |
29. グッドモーニング,ベトナム
《ネタバレ》 まず「グッドモーニング、ベトナム」と朝っぱらから大声で語りかけるトークが不快。かつてNHKの朝ドラで朝から大声でわめくドラマがあったが、あの不快感を思い出した。DJは面白ければよいのか?この種の人物像における唯我独尊的な性格に嫌悪感を覚える。「M★A★S★Hマッシュ」と同じにおいがしたなあ。アメリカンジョークの連発もあまり笑えない。 主人公が破天荒ぶりを発揮するたび、逆にこちらの反骨心が湧いてくるというもの。命を懸けた戦場で機密情報厳守は常識だろう。DJひとりに機密解除を勝手に判断されたら上司はたまったもんじゃない。 さんざん米軍を笑いものにしながら少女には真摯な対応かよ。英語の授業で汚い言葉を教えたはずなのにトリンとの会話では二人とも妙にまとも。そのくせ中指立てはキッチリ覚えてるってか? 最後まで気分は乗らなかったが、60年代音楽が不快感を多少中和してくれたかな。 [CS・衛星(字幕)] 1点(2023-06-11 13:44:37) |
30. ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
第二次世界大戦中、イギリスを率いてドイツ軍と戦った典型的な“有事の宰相” チャーチルの物語。平時に向かないことは終戦後の総選挙で敗れたことが示している。人間的に好かれないことが大きな要因かなと感じる「人間チャーチル」演出は好意的に評価したい。 気になるのはジョージ6世の描き方。「英国王のスピーチ」ではドイツに対し毅然と対決の演説だったが、本作では途中で思いを変えたか初めは融和的な姿勢にみえる。どっちが本当? 地下鉄に初めて乗り、一度庶民から意見を聞いただけで戦争への決断を下すのは安易な演出で都合がよすぎる。また、ナチスとの対峙においてアメリカの存在が重要なはず。ルーズベルトとの電話1本で終わりじゃ物足りない。もっと貴重なエピソードが盛り込まれてもよかったのでは? [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-05-28 20:42:52) |
31. 地球の静止する日
不思議だな。今の時代にあってもこの古典的なSF映画に価値を感じるとは。冷戦も核の恐怖も過去のものでなく現在進行形の問題であり、暴力の克服が人類にとって永遠のテーマだからだと思う。 宇宙からやって来た知的生命体の警告という形を通じて、いつの世も変わらぬ人間の本質を描いている。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-05-14 17:39:55)(良:1票) |
32. 白鯨
優れた映画文学と言いたくなる秀作。実写と特撮の融合が見事で、白鯨の巨大さ・重量感に圧倒される。暗い画面での特撮が迫力アップに効果的。 公開当時はG・ペックをミスキャストと論じる向きもあったと聞くが、半ば狂気ともいえる執念の荒々しいエイハブを、彼は的確に演じたと思う。スターバックの理性とエイハブの執念のせめぎ合いが物語に奥行きを与え、スターバックさえ最後はエイハブに同調するという、人間の持つ魔性が深い。 白鯨とエイハブが互いに引き寄せ合い、最後は一体化する顛末に自然への畏怖が感じられる。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-04-30 19:55:01) |
33. キネマの神様
映画づくりを通して描いた人生賛歌。映画界の内幕話をさりげなく散りばめている。女優のトイレ難は福本清三氏の著書にも書かれており、世間一般でも似たような話を聞いたことがある。 飲んだくれでギャンブル好きの主人公はステレオタイプだが、沢田研二はハチャメチャぶりが足りない印象。逆に寺島しのぶは演技を少し抑えた方がよかった。宮本信子は二人の思いを受け止める夫人役を手堅く演じた。全体的に、家族愛の物語としてはちょっと弱いかな。 コロナという時事も絡めながらいかにも山田洋次らしい演出。スクリーンから抜け出した園子とゴウのシーンはF・キャプラのテイストだね。映画のスタッフが映画を観ながら死ぬ展開は、かつてテレビ「相棒」で同じようなシークエンスがあったことを思い出す。 腹を壊しピーゴロゴロでゲーリー・クーパー・・・懐かしい。かなり前に職場で先輩が話していたネタだね。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2023-04-16 19:31:49) |
34. グッバイ、レーニン!
ドイツ統合をめぐって起こる家族の悲喜劇。あまり笑えず心が揺さぶられることもなかった。 冷戦終結・東西ドイツ統一と家族愛、二つの物語が絡み合い歴史の大きなうねりに巻き込まれる庶民の姿を描く。親子の愛情に重きを置いたテーマ設定はよいが展開が単調。 架空の設定で相手を信じ込ませる手法はG・シートンの映画「36時間」やテレビ「スパイ大作戦」等でお馴染みだが、本作は家族の物語が主とはいえ、場所が場所だけに “嘘もつき通せばそれが真実になる” プロパガンダに通じる怖さがある。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-04-02 13:42:15) |
35. 善き人のためのソナタ
冷戦時代の東ドイツを舞台に、オーウェルの小説を思わせる「1984年」から始まるディストピア。シュタージの監視・密告社会がいかに過酷なものであったか、マスコミ報道で知識はあったが映像で可視化されると改めて実感が湧いてくる。言いたいことが言え、やりたいことがやれる社会がどれほど大切か痛感させられる。人間性を押し殺した無表情の主人公や、無機質で殺風景な街並みが「社会主義」の現実を見せつける。 独裁国家における監視社会の実態を暴きながら、一人の男の心の変遷を丁寧に描いている。監視する側が監視対象の人間味あふれる行動に心揺さぶられ、最後は人間としての尊厳と自由に目覚める。音楽が重要な役割を果たし、邦題はそれを象徴的に表して秀逸。 かつて「〇〇と△△をむすぶ」という定期刊行物に、東ドイツの訪問記を寄稿した連中がいた。散々かの国を礼賛した彼らはこの映画を観て何思う? [CS・衛星(吹替)] 7点(2023-03-19 13:39:06) |
36. ナイト・オン・ザ・プラネット
《ネタバレ》 人生の交差点ともいえるタクシー内での一期一会。 【ロサンゼルス】 全く異なる世界の住人である女性同士の出会いがもたらす運命の行く先は…微かに残るアメリカンドリームだが、それを断るタクシー運転手の誇りに現代性をみる。 【ニューヨーク】 黒人と移民の出会いを通じて彼らに暖かな視線を送る。黒人のお節介なアメリカ人気質が良い雰囲気で、犯罪志向に走らない描写が良い。 【パリ】 アフリカ人同士の差別意識や、アフリカ移民と盲人というマイノリティ同士の出会いを描く。立場の違いで「ああ言えばこう言う」やり取りが秀逸。意見は違っても大きなトラブルに発展せず、敵意は見せないコミュニケーションが心地よい。盲人といえど対等な立場で皮肉も交える自然な会話が印象的。 【ローマ】 イタリア艶笑喜劇の悪い面を見せられているようで面白くない、マシンガントークも上滑り気味で全然乗れない、乗客の神父のように具合悪い気分で笑えない・・・・・以上の“ない”3連発。 【ヘルシンキ】 市井に生きる人々の不幸自慢(?)を赤裸々に描く。人生の悲哀を感じさせるがもうひと捻りほしかった。さりげなく”夜明けもある”ということが示されたのは好ましい。 総じて人生賛歌である。が、登場人物の喫煙シーン見せ過ぎには辟易。意図はわからなくもないが、(製作年を考慮しても)過剰なタバコ演出には違和感が残る。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2023-03-05 14:36:29) |
37. 陸軍
《ネタバレ》 幕末から日中戦争に至るまで、愛国的な家族が戦争と向き合う姿を描いた作品。 穏やかな役柄の似合う笠智衆と上原謙が強硬な軍国主義を語る場面など、国策映画として後援した陸軍省の要請に応じたと思われるシーンが随所にみられる。だが、戦意高揚を意識しながらも庶民の悲哀を織り込み、戦争に対する心情(あえて反戦とは言わないが)を巧みに忍ばせている。 ラストのシークエンスは、出征する兵士と田中絹代の演技を対比した長回しの撮影が光る。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2023-02-19 13:29:07) |
38. ラヂオの時間
コメディー・タッチの会話劇として、ユーモアあふれるセリフの応酬を楽しんだ。誇張とはいえ三谷幸喜の体験と重なるような、製作現場のドタバタぶりがいいね。突拍子もないアイディアが続出する展開は魅力だが、少々飽きてくるのが難点。 ドタバタが続く中、アナウンサー役並樹史朗の落ち着いた語りが滑稽味を醸しながら画面を引き締めており、心に残る。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2023-02-05 17:13:55) |
39. 舟を編む
辞書を作る過程を通して言葉の奥深さを語り、一風変わった青年と周囲の人々の交流を温かみのある視線で描いている。 言葉は生き物で常に変化するもの。ゆえに「大渡海」のようなものはいつの世にも必要だろう。たとえそれがデジタルであろうとなかろうと…。1995年(ウィンドウズ95発売年)というIT化初期の時代設定が絶妙。何度も何度も校正を重ねる様はプロとして当然であるが、何といっても言葉に対する愛着が深い。 岸辺みどりが登場してから展開が一変してちょっとがっかり。古風な顔立ちとギャル風の役柄がミスマッチ。 映画の象徴的な話題、「右」とはどういう言葉で説明するか問われれば“〇〇から見て△△の方角”と答えるのはごく自然な反応だね。子どもの頃、「右」を答えるなぞなぞで“石の上に頭を出した子ども”の解答を思い出した。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2023-01-22 17:15:55) |
40. 続・荒野の七人
第1作の構成をなぞって手堅くまとめたものの、キャストに魅力が乏しい。Y・ブリンナーとR・フラー以外あまり華がなく、C・エイキンスやW・オーツはモロ悪役向き。 複雑な心情を表す家父長ロルカの性格設定が興味深い。この人物像にもっと焦点を当てれば面白いが、「七人」シリーズとは別な映画になっちゃうしなあ…。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2023-01-08 15:49:18) |