21. エル・スール
《ネタバレ》 【2025/6月 再々 鑑賞後】 世間の評価との乖離に納得いかないので再度原作本を読み、パンフレットを取り寄せ、映画も鑑賞、さらにはしっかり考察もしてみました。つまるところ、親になった経験もなく、他人と家庭を築いたことすらない私にとって、本作で感情移入できる人物は子供の立場しかありません。私は男なので100歩譲って娘の立場に立ってみましたが、それでもなかなか感情移入しにくいものでした。 その理由は明白で、本質的に私自身がこの映画の誰とも共感できない非常に幸せな生い立ちであるが故、本作の切なさを理解することができないようです。しかしながら何度見ても構図や音楽は大変美しい映画で、やはり本作は再鑑賞を繰り返し理解していくべき名作なのだと痛感しました。 【2025/5月 原作本 読書後】 原作本を読みました。しかし原作本は映画とは全くの別物で、家庭向きとはいいがたい親父と絶望的な家庭崩壊、そしてその中で内向的に育ってしまった娘の独白がメインの作品でした。その挙句の「南編」はほとんどがオマケみたいなもので、娘にとってはダメ押しされ半ば強制的に成長させられただけといった印象でした。しかし南編が描かれているおかげでダメ親父のことも少しは理解できたし、やはり物語としては綺麗に幕を閉じていたのもまた事実だと思います。 ある意味「南編」が抜け落ちている映画版のほうが情緒的でロマンチックです。明らかに原作より映画のほうが切ない余韻に浸れますので、どちらも甲乙つけがたい仕上がりだといえると思います。 【2025/4月 初見時】 世間の評判から察するに批判的なことを書くのは少々勇気がいりますが・・ とても期待していましたがイマイチでした。喪失・異性・他者との距離感など普遍的なテーマが沢山あることは理解できますが、それでも本作を見るにあたっては特別な前提条件が必要だったように感じました。 語弊を恐れずに書くとすれば、、「一度でも親になった経験があること」だったり「他人と家庭を築いたことがあること」など、新しい家族を得る過程で発生する喜びや悲しみ、また苦労などを知っていないとより深くは楽しめない作品だったように感じます。私は結婚も子育ての経験もなく、戦争経験もありませんのでスペイン内戦(市民戦争)の影響による家族内対立など、非常に深刻な問題があったことは理解できるものの、やはりその本質(市民が二分された内紛の本当の悲惨さ)まではちょっと理解が及びません。 結婚生活を知らないと書きましたが、同棲生活や複数の婚約失敗などは経験しましたので、そういった意味ではイレーネ・リオスのパートは少しだけ理解できたかもしれません。しかしそれも南編(後半部)が抜け落ちてしまっているため、過去の恋愛に関する謎は謎のまま物語が終わってしまいます。後半パートが無かったことで情緒的な雰囲気を醸し出している一方、本作をより難解な作品にしてしまったような気もします。(長距離電話の相手もわからずじまい) 理想論ではありますが、自分の家庭内で他者の存在(しかも異性)を匂わせてしまうような父親像は、、やはり親として失格だったと感じてしまいます。ここに感情移入できない時点でちょっと厳しいかなと思ってしまいました。私など独身男性にとってはあまりにも対局にありすぎる作品だったように思います。(ただし映画の雰囲気、風景、音楽、撮影手法等は本当に素晴らしい作品でした) [ブルーレイ(字幕)] 8点(2025-04-21 18:02:21) |
22. 瞳をとじて(2023)
今自分の中では”エリセ週間”ということで本作「瞳をとじて」をレンタルしてみました。あとエリセ作品で未見なのは「マルメロの陽光」だけになりましたが、こちらはレンタルされておらず購入するかどうか悩みます。。 率直に申し上げて、本作に関しては時間の長さが気になってしまいました。あと、自分より年上になったアナ(アナ・トレント)は見たくなかったかもしれません。エリセ監督の今までの作風と比べると本作は圧倒的にセリフが多く、ほとんど字幕を読んでいただけという印象が残る残念な作品でした。 本作は明らかにエリセ監督自身の半生を振り返った物語で、画面のあちらこちらからその片鱗が見られます。”二作目で未完の作品”といえばエル・スールですし、主人公ミゲル・ガライ監督(マノロ・ソロ)が”22年間映画を撮っていない”のも明らかにエリセ本人のことでしょう。 考察サイトなどもたくさん読みましたが、確かに劇中で映写された映画の画面とドキュメンタリータッチの本編とで撮影方法が異なっているのは流石エリセ監督といったところです。ただ劇中映画も本編もどちらも大して面白くないのはかなり致命的だと感じましたし、そもそも観客に何を伝えたかったのかがよく判らない作品に仕上がっているように感じました。無償の愛が大切ってことでしょうか?親子の愛が大切ってことでしょうか? Wikiによると海外批評家の点数はおおむね高く、総合的に85点程度の作品だそうです。これに関してはチョット信じられませんね。私の価値観や理解が浅いと罵られようが・・ 面白くないものは面白くないです。何度か再鑑賞を繰り返せば良さも見つかるのかもしれませんが、「ミツバチのささやき」のように一度見ただけで観客を虜にさせられない時点で、その作品は傑作ではないと思います。本作はセリフ量も時間も長いわりに大したことが伝わっていないように感じました、正直いってイマイチな作品です。 [DVD(字幕)] 5点(2025-04-21 17:48:09) |
23. フランケンシュタインの花嫁
《ネタバレ》 原作の流れ的には、前作「フランケンシュタイン」と本作「フランケンシュタインの花嫁」の二作品でワンセットだと思います。できればインターミッションで前作と本作をつないで、本作にあった無駄と思えるシーンを省いて一つの作品として世に送り出していただきたかったところです。 本作はかなりコメディ色が強めで、明らかに不要であろう小人のエピソードや、なんなら花嫁爆誕シーンも蛇足でしかなかったかもしれません。しかしながらこれら蛇足と思われるシーンが結構面白いから困っちゃう訳ですが・・ まあとにかく皆さん同様、ラストに出てくる花嫁が1980年代パンクなのはやはり最高過ぎました。90年前にコレはcoolすぎます。。 フランケンシュタインという作品の根底部分にあるのは、やはり「意図せず生み出され、外見のせいで疎外される人間の怒りや悲しみ」だと思いますが、本作のシリーズはそれをとてもよく表現しています。これに関しては怪物(ボリス・カーロフ)の演技によるところも大きいと思いますが、原作の根底にある部分が普遍的かつ王道であるが故だとも感じます。 無責任に怪物を生み出してしまった親の罪と罰の物語でもありますが、そういった意味では前作より本作のほうがより原作に近いかもしれません。ただ個人的には怪物がドリンクを要求したり生みの親を座らせる流れはブラックジョークが過ぎるとは思いましたが・・ でも本質的にこの作品が言いたかったことはそれだろうなとも感じます。そういった意味ではラスト、崩れ落ちる塔から博士と妻が二人でお手々を繋いで逃げるシーンは少々生ぬるいと思いましたが、しかし本作も前作に負けず劣らず素晴らしい映画でした。完全に前作からの続き物ですから続けてみることをお勧めいたします。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-04-15 16:50:59) |
24. フランケンシュタイン(1931)
《ネタバレ》 「ミツバチのささやき」と併せて再鑑賞しました。やはり本作には普遍的なテーマがあり、これは90年経った現代でも揺るいでいません。怪物を生み出すまでの流れも素晴らしいですが、やはり怪物が世に出てしまってからのほうがメインです。そういった意味ではやはり続編である「フランケンシュタインの花嫁」とセットで、初めてこの物語は完結します。 じっくり落ち着いて鑑賞してみるとフランケンシュタイン博士(コリン・クライヴ)の薄っぺらさが際立っています。「alive! alive! alive!」と無邪気にはしゃぐ博士が、怪物を生み出した途端に急に怖くなったのか弱気になって彼女の元でメソメソ。これでは生み出されてしまった怪物のほうはたまったものではありません。。対する怪物(ボリス・カーロフ)のほうは、外見から心の動きまでパーフェクトな完成度です。意図せず生み出されてしまった怪物の内面の怒りと悲しみがとてもよく表現されていますし、この怪物の佇まいを見ているだけで彼の哀愁がにじみ出ています。 キリスト圏以外の人にはいまいちピンとこない部分もありますが、それでもやはり人をつなぎ合わせて電気をスターターとして始動させる、一連の様は心底恐ろしいです。2025年に見ても凄まじい狂気を感じますが、ただ、前述の通りフランケンシュタイン博士があまりにも薄っぺらく、怪物に息を吹き込んだ途端に物語がトーンダウンしてしまうのは少々勿体ないと感じてしまいました。後半のペーシングシーンはやはり水辺で少女マリアと戯れるシーンでしょう。映画史屈指の名シーンというだけでなく、とても奥深さもあるシーンです。力加減が判らず間違って少女を放り投げてしまった怪物があたふたするシーンまできちんと描かれていて、やはりこのシーンは相当深い心の動きまで正しく表現されている素晴らしいシーンだと再確認しました。 その後は畳みかけるように物語が動き出します。「志村うしろ―!」の花嫁コントを経て、昔のアメリカ特有の過剰な集団心理で怪物狩りが過激になっていくシーンは別の意味で怖いです。ラスト、業火の中で怪物があたふたするシーンはかなり泣けるシーンの一つです。やはりこのシーンを見てしまうと怪物に感情移入してしまうと思います。ここは本当に悲しい。本作は名作小説としてもあまりにも有名ですが、他のウェルズやヴェルヌなどの古典よりもかなり上手く映画化できていると思います。本当に素晴らしい! [インターネット(字幕)] 8点(2025-04-15 16:29:09) |
25. ミツバチのささやき
《ネタバレ》 録画されていたのでスクリーンにて再見、やはりこの映画はよく出来ています。博識な人、そうでない人、またストレートな見方をする人も、、いかようにも解釈可能な映画に仕上がっているのはまさに奇跡の映画といって差し支えないと思います。この作風はフランコ独裁下での検閲回避の妙案だったと思うのですが、結果的にこの回りくどい作風のおかげで50年が過ぎた今見ても色褪せていません。ミニシアター系の先駆けとしてもこの映画は高く評価されていますが、実際、音と字幕を消して映像だけ流してもイケますし、幼い姉妹二人を見ているだけでも99分持ちます。 この映画ではどのシーンも肌寒く寂しいですが、これはやはり市民戦争で国が二分した後に発足したフランコ独裁体制の歪さを表しているのでしょうか。時代設定は1940年と丁度第二次世界大戦真っ只中のヨーロッパ。フランコ政権といえば悪名高きドイツのファシズムに近いものがあったとされており、その恐怖感たるや凄まじいものだったと推察します。 この映画が上手いのはアナ(アナ・トレント)と、姉イサベル(イサベル・テリェリア)らの純粋な表情を正しく記録している点です。例えばアナが映画「フランケンシュタイン」を真剣に見ている表情だったり、キノコの話などを真剣に聞いている表情など心底素晴らしいです。また、アナの精神的な成長と死への葛藤に、映画「フランケンシュタイン」を絡ませた点も素晴らしく、もの心がつくギリギリの頃の幼少期のピュアな感情が上手く表現されています。精霊だと信じたアナが姉の嘘を真に受けて小屋に通い、そして本当に出会うのです。この映画が唯一無二な点がここにあります。畳みかけるようなその後の展開がドラマチックで、毒キノコとフランケンシュタインのエピソードが上手く重なり合い綺麗に伏線回収されます。 子供らのシーンは本当に素晴らしく、ここに書ききれないほど。列車のシーン、猫のシーン、火のシーン、アナが井戸の周りで行う儀式めいたシーン、石鹸のシーン、ミルクを飲むシーン、もちろん小屋でアナが隙間から精霊をのぞいているシーンの愛らしさったら! 子供への演出もさることながら、大人のほうもフランコ独裁を声高に否定せずとも静かにかつ情緒的な演出が上手く使われています。序盤、母テレサ(テレサ・ヒンペラ)が手紙を書いて自転車で駅へ向かうシーンはとても印象深いです。手紙の内容は明らかに負けた側の視点で、逃げ延びた友人か家族か同志に宛てた手紙であることが判ります。終盤返事が届いた手紙を読んで不自然に封筒へ戻したうえで燃やすシーンも、【K&K】さんご指摘の通り確かに切手が見えるように燃やしていますので何かの意図があるようです。また、父フェルナンド(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)がミツバチの研究という体で詩的な録音を行っていますが、こちらもメーテルリンクの書物から慎重に言葉が選ばれていて意味深です。書いた文字を横線で無造作に消すシーンも、、まあ・・そういうことなのでしょう。 序盤は寝たふりをしていた妻が、終盤旦那を労わるシーンで前向きな印象を与えますし、同時にラストのアナの強いまなざしもまた未来への希望を抱かせつつ、この映画は幕を閉じます。本当に文句のつけようがない素晴らしい作品です。 [地上波(字幕)] 10点(2025-04-10 12:52:12)(良:1票) |
26. ドクトル・ジバゴ(1965)
三時間越えの超有名大作映画が複数録画されており、意を決して「風と共に去りぬ」「ライトスタッフ」と立て続けに鑑賞。トリを飾るに相応しいであろう”壮大な映画であった”とすこぶる評判の良い「ドクトル・ジバゴ」を、飲み物とポテチを準備して勇んで取り組みました。結果あっさり撃沈。私にはあまり合わない映画でした。。(合唱) 随所に素敵な風景、雄大な風景、美しい女性が大写しになります(自宅ですが一応100インチ2.1チャンネル)が、とにかく退屈な映画であったというのが私の率直な感想です。むしろ3時間がほぼ拷問&睡魔との闘いでした。なんとなく物語のかみ合わせが上手くなくて、イマイチ全体像がまとまっていないような印象も受けましたし、そもそも、序盤前のめりになった人探し感は一体何だったのか。50分が過ぎても寒さとドロドロした人間関係みたいなものばかりで辟易してしまいました。ただ、これに関しては私自身が独身であるせいか、男女間の複雑な人間模様についていけていない部分もあったのかもしれません。要するに、、私自身がおこちゃま過ぎて、この映画に向き合うほどの男女の経験を重ねていないということなのかもしれません。 「ドクトル・ジバゴ」→「ライトスタッフ」→「風と共に去りぬ」の順番に見るべきでしたが、反対の順番に見てしまったようで、これに関しては完全にプランニングを間違ってしまったようです。とにかく、私にとってはちっとも面白いとは感じられませんでしたので、もしかすると私の感性が間違っているのかと考察サイトも読みました。賢い考察者が多く考察内容からは面白い映画のように感じさせられますが、実際に見た私自身の心の中では、ぶっちゃけ年に10本の指に入る「苦痛映画」認定となりました。ファンの皆様、本当にごめんあそばせませ・・ [地上波(字幕)] 3点(2025-03-30 14:18:56) |
27. ライトスタッフ
《ネタバレ》 本作も作品の長さ故に長年敬遠してきた映画の一つでしたが、ついに見る決心が固まり鑑賞に至りました。個人的には25~30年ほど前にイェーガーに感化されて復刻版のフライトジャケットを買いあさった時期がありました。折しも丁度ビンテージジーンズ、バズリク、マッコイ、レッドウィングなどが流行った時代で、湯水のようにお金を使った苦い思い出が蘇ります。。 さて、本作「ライトスタッフ」(原題:The Right Stuff)という言葉を検索してみると、、「正しい資質」「適性」という意味だそうです。まさに宇宙飛行士やパイロットに対して使う言葉で、序盤からイェーガー(サム・シェパード)を筆頭に泥臭い男たちがわんさか出てきて観客側の気持ちも高まります。序盤こそ頑なに己のみを信じる、まさに「男の中の男」を地で行く脳筋男がワチャワチャと盛り上がりますが、この楽しい雰囲気は早々にフェードアウトします。そして物語はアメリカ初の宇宙飛行士育成の話(マーキュリー計画)にシフトしてしまいます。 前述の通り、若い時に沢山の広告雑誌や専門誌を読み漁りましたのでテストパイロットのことは色々知っていましたし、てっきりイェーガーの映画だと思っていましたので正直テンションはダダ下がりです。テストパイロットの先にあるものが宇宙開発であることはもちろん理解してはいましたが、まさか宇宙の話(マーキュリー計画)がメインになるとは思ってもいませんでした。また、各個別の話は割と面白いものの、それらをつなぎ合わせた全体を見渡すとあまり面白くありません。全体的にはかなり散漫な印象でイマイチ乗り切れないのです。これでしたら普通にNHKのドキュメント番組でも見たほうがよっぽど面白かったかもしれません。 色んな意味でまあまあな作品でしたがラスト、イェーガーの命を懸けた挑戦は文句なしにカッコ良く、結局、色んな意味でイェーガーマンセーに尽きる作品だったように感じます。方向的にはイェーガーの話に集約させてシンプルな脳筋男サイコー映画に仕上げていただきたかったところです。(余談ですが、イェーガー役のサム・シェパード以外ではやはりジョン・グレン(エド・ハリス)が印象的で、、一際スクリーン映えしていました) [地上波(字幕)] 6点(2025-03-28 14:21:13) |
28. 風と共に去りぬ
《ネタバレ》 長いので敬遠していましたが名作を知らずに死ぬのは惜しいということで、ついに鑑賞するに至りました。結論から申しましたら、、予想よりずっと良かったです。ただし主人公に共感できる部分はかなり少なく、やはりメラニー・ハミルトン(オリヴィア・デ・ハヴィランド)、ベル・ワトリング(オナ・マンソン)、レット・バトラー(クラーク・ゲイブル)らがこの映画の真の主人公であったといわざるを得ませんでした。特に彼ら三人の言葉と行動は非常に奥深く、崇高で高貴な人間の本質を知ることができる希少な映画に仕上がっています。これは本当に心底素晴らしい部分で、この映画が名作として名高い理由でもあると思います。 女という生き物の本質なのか、あの時代特有のモノなのか、はたまたスカーレットだけがああなのか・・ この点に関して深く追求する気はありませんが、主人公スカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)の価値観や行動原理がイマイチ納得いかない感じでした。でも彼女のバイタリティやパワーは時代を超えて認めるべき部分ではありますし、本来なら10代のおぼこい女の子の時点で友人であるメラニーの内面を理解する努力をし、アシュレー・ウィルクス(レスリー・ハワード)の言葉の本質を見抜き、そして「諦めることの大切さ」を学ぶことができていれば、彼女の人生はもっと豊かで穏やかなものであっただろうと感じます。これは親のしつけの問題なのか、もしくは良い友人に恵まれなかったからなのか、彼女の若さ故なのかはよくわかりませんが、とにかくスカーレットは良い生き方ができませんでした。これはある意味非常に不幸なことだと思いますが、彼女はそれをもはねのける強い心が備わっていて、そういった意味では彼女もまた非常に興味深い人物に仕上がっていました。(まあでもメラニーという素敵な友人が傍にいた訳だし、人生の節目節目にレットという素晴らしい男性もいた訳で・・) 皆さん同様、インターミッション後の流れが少々駆け足過ぎて感情移入を許さなかったのは残念です。ロンドン別居から戻ってくるまでほとんど2カットはあまりにも適当すぎるし、人生の転機であるはずの実子の死やメラニーの死すらあまりにも早足過ぎて・・ これではスカーレットが何に感化され、何を感じてラストに至ったのか観客側は全く理解できません。この適当すぎる演出やストーリーテリングはもうちょっと上手なやり方があったように思います・・ 少し辛口でしたが、全体的に見て良かった(知ることができて良かった)と思える名作映画であったことは事実です。この時代なのにカラーであったこと、また画面の構図などもいちいち素晴らしく、スパルタカス(1960)、十戒(1956)、アラビアのロレンスなどと同様、映画ファンでしたらやはり一生に一度は見ておくべき名作の一つであることは間違いありません! [地上波(字幕)] 8点(2025-03-28 14:04:59)(良:1票) |
29. マルホランド・ドライブ
《ネタバレ》 世に溢れる考察サイトにも書かれていますが、リンチ監督の頭の中(ベティ=ダイアンの頭の中というべきか)が上手く具現化された珠玉の名作だと思われます。いえ確かに、、全体的に脈絡が無く観客視点的には置いてけぼり感強めの作品であるのは事実ですが、しかし不思議なことに妙に熱中してしまうのです。イレイザー・ヘッドしかり、リンチ作品にはなんだかよく判らない不思議な魔力が詰まっているのは確かなようです。 深夜のサンセット大通りの美しいヤシの並木、小指を立てて飲むエスプレッソ、夢の中でしか会いたくない不気味な浮浪者、妙に欲しくなる青い鍵と青い箱、不気味なカウボーイの言葉、深夜のクラブ・シレンシオの司会者etc、、、 とにかく本作には引き込まれる何かがある。リンチ監督は映画体験がどういうモノかよく理解して映画を作っているような気がします。個人的には全てのシーンでの、あの”まどろっこしい間”が本当に素晴らしい。何か出そうな、でも出ないような、待ちかねるような、しかし待ちかねないような、なんともいえない絶妙な間とカメラワークが本当に素敵でした。 で、 この作品を時系列通りに並べてしまうと、、まるで退屈な作品に成り下がってしまいます。そもそも論、ベティ=ダイアン(ナオミ・ワッツ)が失恋の感傷に浸ろうが後悔して妄想を繰り広げながらオ●ニーしようが、見ている観客には割とどうでもよかったりします。しかしこのどうでもいいことを、さも大事なことのように表現されている点がこの映画の肝です。というか、心底素晴らしい点です。(いや、でも冷静に考えたら所詮妄想ネタだし、やはりどうでも良かったりする訳ですが・・) ダイナーで意味ありげに夢の話を繰り広げ、ケシャー監督がアイアンでマフィアの車を襲撃し、秘密結社が妙な電話のやり取りを行い、悪魔のカウボーイとの意味深な掛け合い等々、、これらに一体どれほどの意味があったのか?観客はリンチ監督の手の上でただ単に踊らされているだけなのか・・ 私も一度目の鑑賞時は結局何だかよく判らないモヤついた気持ちになりました。速攻で考察サイトを読み漁り翌日再トライ。内容を理解してしまえば、皆さんが高得点を付けているのがよく解ります。見れば見るほどに各シーンの奥深さが感じられる?のか?少なくともそう感じさせる何か崇高なモノが宿っていると感じます。よく考えたらイレイザー・ヘッドも3日連続で鑑賞することになったし、エレファントマンも素晴らしかった。もしかしたら私はリンチ監督の作風がもの凄く好きなのかもしれない。 ちなみに、大好きなロバート・フォスターの意味深なセリフが無意味だったのが悲しかったです。また、オーディション時にエロい演技でウディ・カッツ(チャド・エヴェレット)を官能的に誘惑するシーンはちょっとしつこかったかなと思いましたし、全体を見渡した時にやはりちょっとグロい映画なので若干減点してあります。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-02-06 18:26:49) |
30. フィラデルフィア
お涙頂戴物語なんだと勝手に決めつけていて、今まで本作を手に取ることはありませんでした。録画されていたので落ち着いて鑑賞してみると、意外にも淡々と現実を見せ切る正直路線だったので少々驚きました。トム・ハンクスは沢山の主演男優賞を受賞していますので、一般的に考えればトムハンクス・アプローチは正しいと思いますが、私は彼の過剰表現が嫌いです。しかしながら意外にも本作の彼はそんなに悪くはなかったです。 アメリカという国において、独立宣言が発せられたフィラデルフィアで偏見や差別が行われているのが皮肉として面白いといわれていますが、ソレとコレは別の話のような気がします。そもそも、主人公アンドリュー・ベケット(トム・ハンクス)は大会社の上層部に食い込みたいという野心と情熱があった割に、自身が蝕まれているエイズという特殊な病気のことをあまりにも軽んじていたように思います。彼が考える基本的人権と平等を得たいという感覚や気持ちは理解できるものの、法律に詳しいアンドリューでしたらこの映画のような流れは必然だったように感じます。訴訟大国アメリカにおいて、ゲイであることとエイズ発症を隠して大手法務部に食い込むのはあまりにもリスキー過ぎる行動だったといわざるを得ません。 しかし本作において法廷部分はあまり重要ではないのか、、法廷論争はウマく流れていません。見ている側、特に私に限ってはほとんど中身が入ってきませんでした。アンドリューの痛々しい風体ばかりが目に入って話し合っている中身が入ってきません。他の方がご指摘のように、アンドリューを助ける弁護士ミラー(デンゼル・ワシントン)もイマイチ空気と化してしまっていて、うまく鑑賞者の立場になっているようには思えませんでした。法廷部分に関しては連続ドラマ、アリー・マイ・ラブのほうがずっとドラマチックで面白かったように感じます。 鑑賞後、日を開けてレビューを書こうとするとあまり得るものが無かったように感じます。しいて挙げれば、、この当時はまだまだ世の中は偏見と欺瞞に満ちていて、エイズと聞けば同性愛、不潔、近づくとうつる、感染したら死ぬ等、未知のウィルスに対して偏見の塊で見られていました。現代、体液を介さないと感染しないと判っていても、やはり一緒に食事をするには緊張してしまいます。悲しいかな、ウィルス性の病気にはそういった怖さがずっと付きまといます。 長くなりましたが、ジョナサン・デミ監督が意図したように「独立宣言と差別」「ゲイ問題」など色々絡めてある割にはそれぞれがバラバラに独り歩きしているような映画でした。本作で名シーンの一つに挙がるであろう、マリア・カラスの「ラ・ママ・モルタ」のシーンもくど過ぎて見ていて嫌になりそうでした。。ただ、オープニング曲のスプリングスティーン「ストリート・オブ・フィラデルフィア」と、エンディング曲のニール・ヤング「フィラデルフィア」はそれぞれ名曲だと思います。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-01-26 16:28:51) |
31. ザ・レポート
《ネタバレ》 画面が暗いのと併せて、、ドキュメンタリー番組よりも淡々と話が進む感覚をどう見るかで評価が別れそうです。リアルなのは素敵なことですが、ちょっとエンタメ性に乏しい作品だと感じました。 まず申したいのはアメリカという国はベトナム戦争の失敗から何も学んでいないということ。そもそも9.11は90年代のアメリカのお節介精神が生んだ負の遺産だと思うわけで、いざ自国が標的にされたとたんにこのようなバカげた暴力(目には目を、、的な精神)で強引に自国ファーストにもっていこうとする国民性が、そもそも浅はかで危険を呼び込む自殺行為だといいたい。調べてみると(目には目を、、的な精神)は旧約聖書等にも似たような価値観が記されているようで、まあいわずもがな・・と言ったところでしょうか。。 これは銃理論と同じ理屈で、守るために銃を持つということはその銃で自分が撃たれるリスクが同程度発生してしまうという矛盾です。悲しいブーメランを自ら作りだしているだけにすぎません。CIAも本来であればテロを未然に防ぐための機関であったはずが何もかも後手後手で、、結果的にはただ単に傲慢な行動しか起こせていないのが厳しい。彼ら組織(=アメリカ自体)が頭がイイのは認めますが、IQの高さ故の傲慢さも目立ってしまっています。 24のジャックバウアーやスノーデンなども引き合いに出して判りやすく説明されていますが、それでも本作の結末は少々鼻につきます。結局、彼らの理論では今回の件は他人事だし綺麗事にしかなっておらず、オバマが認めたならブッシュを含め関係者は全員厳罰を受けるのが筋ですが、関係者は皆昇進していると締めくくっています。また、被害者に対して国家としては賠償していないという事実も、この問題の顛末を端的に表しているように感じます。いくら綺麗事を並べたところで、結局は自分らを正当化して終わらせただけの茶番劇にすぎなかったということです。 当時話題になったニュースの内側が見られたという意味では価値ある作品でしたが、エンタメ性に欠ける点を考慮すると少し厳しめの点数にせざるを得ないです。最後に、主人公ダニエル・J・ジョーンズ(アダム・ドライヴァー)の行動や理念は心底素晴らしい点を付け加えたいです。結局のところ、このような素晴らしい人物はどこの世界(どこの国)でもトップに座ることはないという教訓も含んだなんとも虚しい作品でした。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-01-26 14:26:15) |
32. ミスター・ガラス
《ネタバレ》 この三部作に関しては・・ とにかく流れが遅くて全体的に暗いです。しかしながら着眼点は非常に素晴らしく、他のDC系とは明らかにアプローチが異なっていて、その点はなかなか興味深いです。上手く作れば大人が見られる重厚なDC映画になり得たシリーズでしたが、残念ながらそうはならなかったのが残念でした。 そもそもDCコミック系の作品の監督にM・ナイト・シャマランは合っていないように感じます。彼は彼が得意とする「オールド」などのサスペンス系・謎解き系の作品に絞ったほうが良さそうです(知らんけど) 三部作のラストを飾る本作でしたが、結局ヒーローが生まれる理由や仕組みは解明されませんでした。特に残念だったのがラスト、あの風呂敷の畳み方はいけない。秘密結社とか組織とか・・ 最も逃げて欲しくない方向にガッツリ逃げてしまいましたね、これには心底ガッカリしました。 話題性も無く大して面白くもないシリーズでしたが、不思議なことにキャストは全員続投していて脱落者がいませんでした。これってシャマラン監督の人望?それともただ単にギャラが良かっただけ?重要な役であるダン(ブルース・ウィリス)の息子や、イライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)の母がそのまま出ていたのは良かったです。あ、あともちろんビースト=ケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)とケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)も、彼らの顛末も含めて非常に良かった。もしかしたらこちらのラブ系にもう少し話を広げたほうが面白かったかも(知らんけど) 全体的にもう少しスタイリッシュかつ明るくしてくれたら大化けしたかもしれません。例えるならダークナイトシリーズと同じ方向、リアル系の片翼を担える可能性があったシリーズなだけに、、非常に惜しいといわざるを得ません。個人的にはスプリットのほうがまだ面白かったかな。。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-01-20 17:21:52) |
33. ザ・クリエイター/創造者
《ネタバレ》 映像は素晴らしいものの既視感アリアリでした。ハッキリいってローグワンに似てますよね。。上映時間もローグワンと同じでしたが、本作は時間の長さを感じませんでしたので熱中指数は本作のほうが上みたいです。 率直な感想としては「可哀そうなAIと無慈悲な人間」程度の構図しか読み取れませんでした。高度なAIといえば、見た目に反して難しいことをやらかすべきアイコンの典型ですが、本作では超兵器(アルフィー)が可愛い子供の見た目以上の行動をしません。 今後アルフィーが育っていくのかもしれませんが、高度AIは数日で人知を超えるとも言われていますので、やはり高度なAIが手を合わせて電源をON/OFFするだけという「バカなの?死ぬの?」程度の機能しか持たせなかったのはシュールすぎました。これでしたらAIびいきの人間スパイにON/OFFボタンをもたせてノマドに潜入させた方がよっぽど早いです。 ただし、セリフでは「ネアンデルタール人より極悪な人類が彼らを絶滅させた」とか「AIに愛してるといわれ、騙された息子(ハウエルの)は殺された」とか・・ かなり意味深な話が多く、ギャレス監督(兼脚本)やクリス・ワイツ(脚本)は、裏では何か深い意図をもってこの作品を作っていることが伺えます。(ただ、その意図が何なのか私にはよく理解できない) 最初にミサイルのボタンを押したのが実は人間のミスだった事実、その上でなおAIは「戦争せず平和に暮らしたい」と表明している以上、既に人間側が優位に立っているのは明らかです。このような世界観で、人間は頭に穴が開いたロボットを簡単に見分けることができるし、人間が人相手と同様にAIに愛情を注ぐかどうかは各自個人の趣向(や判断)になってきます。それなのにやたらと軍人が気張って全面戦争したり、ノマドという超兵器を作ってまでロボットを排除しようとする行動原理自体が全く理解できないものになっています。 また、主人公にマザーの延命治療をストップさせた意味もよく理解できませんでした。結局、AIを生み出した元の人間と、そこから生まれたAI、そしてそれらの間で揺れ動くパパさん家族の中だけの話に集約してしまっていて・・ この世界の人々の行動原理自体が全くよく理解できないものとなってしまっています。 とにかく、本作はとても綺麗にまとまっているように見えて、実は全くとっ散らかった作品だったように感じました。壮大な映像美、素敵な自爆型ロボットなどに免じてかなり甘めの評価です。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-01-17 16:35:21) |
34. フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白
《ネタバレ》 初志貫徹、タイトル通りに若いメルギブとお婆さん(ヘレン=イザベル・グラッサー)の純愛を描き切って頂きたかったです。ぶっちゃけ、、急激に年を取ってメルギブをヘレンと同じ年格好にする必要性があったのか大いに疑問でした。(冬眠した意味ないじゃーん) この映画の主題をサブキャラが体現するシーンが素敵でした。主人公とナッド君(イライジャ・ウッド)の交流が面白いのはもちろんですが、ナッド君の初恋のおかげで「愛する人に自分の気持ちをきちんと伝えることの重要性」が教訓として判りやすく表現されています。その後のナッド君の告白シーンも素敵でしたので、できればナッド君の初デートシーンくらいはラストカットに入れていただきたかったところです。 あと何気に気になったのが、割と重要な立ち位置であったハズのクレア(ジェイミー・リー・カーティス)や医師であるその彼氏さんがメルギブのせいで空気と化してしまっていたのが気になりました。メルギブがキャラとして強過ぎるので仕方がないにせよ、FBIを騙してFBIとカーチェイスしたり昔の飛行機を飛ばすというド派手な展開があるにもかかわらず、絵的には派手に見えないというのは映画としてはかなりイタかったです。結局主人公(メルギブ)のアップシーンが全て持って行ってしまう展開は、、映画としてはちょっとどうかなとは感じてしまいました。 前半から中盤にかけては割と面白かったものの、終盤凡作に成り下がってしまったように思います。先述の通りFBIが投入されてから絵的には大掛かりになった反面、それが悪い方向に作用してしまって全く空回りしています。コメディにもアクションにもなれず、大したが感動もないよく判らない恋愛映画に成り下がってしまいました。色んな意味で軽い気持ちで流し見する程度の作品だと思われます。 [地上波(字幕)] 5点(2025-01-13 16:46:27) |
35. ラストエンペラー
中国最後の皇帝といえば紫禁城と愛新覚羅溥儀は非常に有名ですが、溥儀の人生や史実に興味がない人にとっては実はほとんど知られていない物語かもしれません。本作では私も含めて世界の素人さんに向け、溥儀の自伝を原作として美味しい部分だけをダイジェストで見せてくれます。内容の良し悪しはともかく、歴史の一片という意味でも見て損のない映画に仕上がっています。当然のようにアカデミー作品賞、監督賞を含む主要9部門を受賞し、名作としても世に認められています。 しかしいくら名作認定されているとはいえ、見終わった後に「面白かった?」と聞かれると微妙かもしれません。少なくとも中国や満州の歴史にほとんど興味がない私にとっては、響くものがほとんどありませんでした。ひょっとすると紫禁城を訪ねたことでもあれば、、もう少し熱中することができたのかもしれませんが。 主人公「溥儀(ジョン・ローン)」の人生が気の毒すぎて見ていて痛々しいわけですが、しかしながら本人はその都度自分が置かれた状況を精一杯楽しんでいるように見え、意外にも彼自身は悔いのない人生だったように感じます。世の中には万年底辺人生の人間も沢山いますので、そういった意味では波乱万丈とはいえ溥儀はラッキーなほうだったのではないでしょうか。(個人的には溥儀がイイ人に描かれすぎていて違和感もありました。私の知る限り彼はもっとクズ人間、国賊レベルだったはずです) 一般的な普通の日本人としてこの映画を見た時、一体どんなカタルシスを得、どんな気持ちでこの映画を見終えるのが正解だったのかとても難しいです。日本人であれば天皇と重ね合わせるべきだったのか?満州のシーンも結局は溥儀とその妻にフォーカスされ、イマイチどこに感情移入すべきかよく理解できません。私はシンプルに、よその国の他人の物語として淡々と見て終わってしまいましたが、中国や満州の歴史に詳しい人や教養のある人がこの作品を見た時、一体どんな感銘を受け、心に何が突き刺さるのか大いに興味が湧きます。 私なりの持論に当てはめると、アカデミー受賞作品で面白いと感じた映画は非常に少ないです。退屈するほどではないけれど特別感銘を受けることがなかった映画です。映画としてはある意味最も致命的な評価の作品かもしれません。ちなみに、、皆さん同様、多数の中国語のカンフー映画が反乱している中、英語で紫禁城と溥儀の映画を撮影したのは大きな失敗だったと感じます。ここはやはり中国語を死守すべきでした。 [地上波(字幕)] 7点(2025-01-13 16:39:00) |
36. オッペンハイマー
個人的にアカデミー受賞作品はハズレという持論をもっていてなかなか気乗りせずアマプラ入りしてようやく鑑賞しましたが、やはり自分の勘は当てになるようです。ちなみに自宅アマプラではありましたが、100インチ2.1ch環境と十分大画面で鑑賞できたと思います。音楽がやたらと過剰でやかましく、できればもっと落ち着いて静かに鑑賞したかった印象です。 個人的には、、意欲的だったインセプションの成功に裏打ちされたインターステラーまでがノーランの最高傑作だったと思っています。まあ確かにインセプションの成功の陰にはメメントやバットマンシリーズがある訳ですが、思い起こせばメメントやバットマンシリーズもちょっと小難しくて見るのがしんどい映画でした。この”ややこしい”感覚が最近では益々行き過ぎてしまって、テネットではまさに観客を無視して独走状態といったところまで加熱してしまいました。 上記の通りダンケルク、テネットと益々判り辛くなっていたところでしたが、本作オッペンハイマーは割とシンプルな作品でした。ただしそもそも論として題材は極めて退屈なもので、、NHKで放送されるドキュメンタリー番組に原爆の悲劇的な写真が挟み込まれてようやく見る気になるような暗い題材であったのは事実です。これをエンターテイメントとして見せ切った勢いには感服しますが、日本人=原爆を投下された側の国民なので作品が意図していない方向に感情が動きそうになるのを抑えるのに必死になりがちです。ノーランお得意の時系列を細切れにした演出ですが、本作ではさほど複雑にはなっていません。むしろ別の意味で効果的に機能しており、悪意を持って鑑賞する一部の層や、日本人の感情を上手く退ける効果はあったと感じます。 (当時の政治的思想や物理学者などのことをある程度知っているという前提ですが、)本作はあくまでオッペンハイマーの心の内を表現した作品で、きちんとそういう見方が出来た人には評価は高いと思います。ノーランお得意の時系列バラバラ作戦をもって、なんとか原爆を投下された側の気持ちをうやむやにさせる仕組みは機能していたものの、実際問題「原爆を投下された側の人間が世の中には確実に存在している」以上、事実は事実としてきちんと言及していただきたかったような気もしました。 そういった意味では少々ずる賢さすら感じてしまいましたし、原爆を投下した側のアメリカが自国で主催するアカデミー賞を自国で受賞してしまうのは・・ 「やはりあの国ってそういう国なんだろうな」とも感じてしまいました。そもそも、冒頭にオッペンハイマーを「プロメテウス」として表現してしまったのは大きな間違い・奢りではないのか?色んな意味でちょっと難しい映画でした。 [インターネット(吹替)] 6点(2025-01-07 15:39:43)(良:1票) |
37. FALL/フォール
《ネタバレ》 撮影方法やストーリーの流れは本当に素晴らしい映画ですが、しかしながら一般常識をもった観客にはこの物語の根幹部分が全く理解できないため、、まともな人にとっては共感を呼ばない駄作に成り下がってしまいました。 今時と言ってしまえば確かにそうなのですが、この映画を端的に表すとすれば「迷惑系ユーチューバーの末路」という程度のドラマ性しか表現できていません。主人公たちの生き方や理念(理念=根本的な考え方)に全く共感できない、むしろ嫌悪感すら抱いてしまうドラマ性のおかげで、一般的な大人にとってはこの映画は残念なものになってしまいました。 ダンとベッキー夫婦はフリークライミングという、命の危険が伴う趣味を自ら進んで行っています。自分から死ぬ可能性がある行動をしておきながら、パートナーが死んでしまったら一年以上も酒に逃げる生活をするような人間性には共感できないし、立ち直る切っ掛けが600mの建造物に違法に登ることだなんて・・ 大人が見たら開いた口がふさがらないとしか言いようがありません。挙句はハンターの激白で”あんたの旦那と浮気してました”。。まあ似たもの同士なのでしょうあなたたちは。(これに関しては、遠巻きながらパパから意味深なセリフが用意されています) ただ、後半判明する実はアレだったというカラクリは心底素晴らしかったし、ピザサイズしかない頂上でのワンシチュエーションで60分もたせたストーリーの組み立て方は本当に上手かったです。皆さん同様、下半身がヒュンヒュンしっぱなしな映像ラッシュは、、もう本当にお見事としかいいようがありませんでした。 何気に気になった点を書いておきます。あれほど不安定かつ小さな場所に二人でいる場合、普通なら真ん中の支点に何かを巻き付けておかないと手を離せないハズですが、普通にカメラ片手に上向いたり色んなポーズを取っていたのは気に入りませんでした。あと、トラックにドローンが衝突するシーンもご都合主義すぎるかなって思います、動いているものがあれば普通は気になるし注意するハズ。最後に、、予備のロープくらいは持っていけよって思います。15mが二本あれば二人とも助かったかもしれません。 辛口レビューでしたが、この映像表現は唯一無二のものだと思いますので、そういった意味では本作を手に取る価値は大いにあります。少しオマケしておきます。 [地上波(吹替)] 7点(2024-11-21 18:30:47) |
38. エレファント・マン
《ネタバレ》 映画ファンを名乗りながら今更「エレファント・マン」を見ました。恥ずかしながら私は「どうせファンタジーみたいなおとぎ話でしょ?」って今日まで思っていました。 デヴィッド・リンチ作品といえばやはり名作(迷作?)「イレイザーヘッド」が思い出されますが、本作もモノクロで時折イレイザーヘッドを思わせるようなシーンもあって意味深な気持ちにさせてくれます。また、壁の絵や一つ目の頭巾などの雰囲気もとても素晴らしく、序盤から映画に引き込まれる演出はなかなか素晴らしいです。エレファント・マンことジョン・メリック(ジョン・ハート)の半生を綴る本編は基本的にリアル志向で無理な描写がありません。むしろ的確に彼の心理描写を作品に落とし込むことに注力しているようで、物語の進行もドラマチックというよりは淡々とした印象でした。 やはりトレーヴェス博士(アンソニー・ホプキンス)と彼の妻(ハンナ・ゴードン)、舞台女優のケンドール夫人(アン・バンクロフト)、婦長(ウェンディ・ヒラー)らが優しくて目頭が熱くなります。対するバイツ(フレディ・ジョーンズ)や夜警の男(マイケル・エルフィック)らの仕打ちは極めて残酷で、こちらは違う意味で目頭が熱くなります。いじめのシーンは容赦がなく見ごたえ十分ですが、ここでもメリックは告げ口をせずこの人物の人の好さがにじみ出ます。奇形者の見世物興行のシーンは痛々しく描かれていますが、実際には和気藹々と人気者街道を歩んでいたようで、彼のIQの高さとポジティブ思考、そして人の好さで意外ときちんと過ごしていたことが伺えます。(映画ではそう描かれていませんが) この映画のクライマックスはやはり駅で叫ぶシーンだと思います。「僕は象人間じゃない、これでも人間なんだ」”これでも”という言葉が涙を誘います。とにかくメリックの人柄が素晴らしくて、神様は心底残酷なことをなさると感じた映画です。この後に配置されている劇場のシーンでは、、演者でなくメリックのほうがスタンディングオベーションを受けますが、これもなかなか泣かせるシーンに仕上がっています。 ある程度事実に基づいているようですが、映画版のラストは非常に素晴らしいです。頭が大きすぎて横になると窒息の懸念がある彼が「いつかは普通の人のように横になってベッドで眠ってみたい」という願望を実践、そのまま亡くなってしまったであろうラストカットが素晴らしい。ストーリー上は安住の部屋を与えられ、友人には人並みに扱われ、初めての演劇で高揚していたようで、普通にベッドで眠ろうとする彼の仕草が本当に健気で泣けます。(演出上は亡くなったかどうかは不明ですが、”横なって寝てはならない”という伏線から考えると亡くなったと考えたほうが自然) 「もしも自分が化け物のような外見だったら?」と思うと生きた心地がしません。五体満足で身体の各部位が正しい位置についているだけで幸せだし、コンプレックスなど些細な事だと感じられる映画です。多少事実と異なる点はあるものの彼の心情がとても良く描かれていて素晴らしい作品でした。一生に一度は見ておくべき名作。 [インターネット(字幕)] 9点(2024-11-19 16:41:42) |
39. 巴里の女性
《ネタバレ》 コメディではない&チャップリンが出ていないということで私も敬遠していましたが、ファーストナショナル以降は全て見てしまったのでついに本作も鑑賞しました。残りの超初期短編シリーズは流石にディスクを購入しないと網羅できそうにないですね。 結論から書くと本作「巴里の女性」は素晴らしい映画でした。もちろん多少粗削りに感じる部分も無い訳ではありませんが、この作品が101年前のものであるという事実を考えると無視できる問題です。また本作はサイレント映画であるのにシリアスなロマンスを詳細に描いてあるという事実にも驚きます。そしてチャップリン映画ではお馴染みの相手役エドナ・パーヴァイアンスを主役とし、チャップリン自身は出演せず監督に徹しているということも、この映画を見るべき理由の一つです。 上記の通り、チャップリン作品の中では極めて異例な本作ですが、落ち着いて鑑賞してみるとこれがとても完成度の高い映画であることに気付きます。現代人として意識せずに見ていますが、サイレント映画なのに人間の感情がとてもよく表現されていることに驚きます。他の方もおっしゃるようにコントラストや陰影を上手く取り入れてあり、影だけで人と成りや状況までも表現しており、これは紛れもなくチャップリンが製作者としても一流であることを示しています。 有閑紳士ピエール・ルヴェル(アドルフ・マンジュー)の振る舞いや仕草が本当に素晴らしく、この映画をより奥深いものへと昇華させています。元来田舎の底辺人種であるマリー・サン・クレール(エドナ・パーヴァイアンス)が真珠を拾いに行くシーンにそれぞれの価値観が象徴されていて、これを腹を抱えて面白がるアドルフ・マンジューの表情や仕草はとても意味深く、この映画随一の見せ場になっています。そもそも全てを自由にできるピエールが面倒なマリーに執着する必要性など全くなく、なぜ彼女を手放さないのかも興味が尽きません。 マリーお抱えのマッサージ師の表情もとても興味深く、友人の裏切りを告げ口するフィフィ(ベティ・モリセイ)の言葉にシッカリ聞き耳を立てていて、サイレント映画でここまで表現してしまうともう恐れ入りましたとしかいいようがありません。 後半、ピエールと決着をつけたマリーが駆け付けた部屋で、ジャン(カール・ミラー)と母との会話を聞いてしまった時の心情を後ろ姿だけで表現したり、ラストに泣きすがる姿も「絵」として完成されていて言葉が必要ないシーンに仕上がっています。オチのつけ方も100年後の私たちが見ても納得いくもので、極めてよく出来た映画でした。チャップリンファンでしたら見抜かっていはいけない重要な作品の一つです。 [インターネット(字幕)] 9点(2024-11-15 10:40:33) |
40. チャップリンのニューヨークの王様
《ネタバレ》 チャップリン最後の映画ということでしたが、イマイチ何を描きたかったのかよく判らない作品になっています。色々と考察等読んでみると、どうやらアメリカの政治や社会に不満があってそれを皮肉っているようですが、イマイチそれも届いていないように感じます。そもそもアメリカを追放された後にそのようなメッセージを発しても負け惜しみにしかならず、このようなことはすべきではなかったようにすら感じました。 本作と併せて見た「ライムライト」のほうがずっと地に足がついた作品に仕上がっています。ただ、本作も酷評するほど悪くもなく、まあいってしまえば可もなく不可もなくといった凡唐な作品でした。チャップリン最後の作品として映画ファンとしては押さえておきたい作品ではありますが、個人的には本作ではなく「ライムライト」のほうを押さえるべきだとも感じます。 想像の域を出ませんが、第二次世界大戦が終わり10年も過ぎた時代です。アメリカ的にいうなら”アメリカの黄金期”ですので、色んな意味で新しい価値観や生き方が芽生えていた時期でしょう。そういった新しいジェネレーションの中で、チャップリンの価値観ではもう世の中にはついていけず、アメリカからもつまはじきにされた彼の心情をつづった作品なのかもしれません。しかしそれすらもイマイチ観客の心には届いていないように感じる寂しいラストを飾った作品だったといわざるを得ないです。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-11-14 16:52:54) |