21. ボーン・レガシー
《ネタバレ》 ジェイソン・ボーン3部作は既に視聴済み(ただし中身は覚えていない)。 それを踏まえてのスピンオフなのに、その3部作の設定が全く活かされておらず、序盤はガチャガチャに煩雑にしただけ。 中盤から大きく話が動き出しても、重要機密を知る主人公が追手をかわしながらワクチンを手に入れて逃げるだけという。 ワクチンの在りかを知っているヒロインはおまけ程度で、 宿敵との対決もないまま終わりでは消化不良にも程がある(ヒット次第で続編も考えていたのだろう)。 アクションとしてはそれなりに楽しめるが、せめて単品として完結可能な作りにして欲しかった。 トニー・ギルロイが自分の脚本を即興で改変しまくるポール・グリーングラスとひと悶着あり、 監督も兼ねて本作が製作されたようで、むしろグリーングラスの手腕の確かさを証明してしまった。 [地上波(字幕)] 4点(2024-03-01 23:39:27) |
22. ラブライブ!The School Idol Movie
《ネタバレ》 原作テレビアニメ未見。 『映画 けいおん!』でも感じられたことだが、美少女アニオタ男子の妄想を具現化した究極のファンタジーだろう。 モブからして男性は遠景であまり映らない上、ヒロインの父親も素顔を出さないのだ。 出演声優すら100%女性という徹底ぶり。 おまけに深刻な展開になりそうなところは"無事に"スルーされ、アイドルに付きまとう負の側面は排除、 なかよしこよしな少女達の百合百合しい関係を愛でる"やさしい世界"のため、 合わない人にはある種の気持ち悪さを感じてしまうかもしれない。 圧巻は全国のスクールアイドルを巻き込んだ秋葉原のダンスシーンで、 そこに男が入る余地も陰湿さも汚物もない"地上の楽園"という様相だ(悪く言えばファシズム的な)。 テレビアニメの補完で、主要人物の描き込みは知っていること前提。 ファンタジーだと完全に割り切れないと確実に振り落とされる。 先に見ていたら、共感できたりして違う印象を持っていたかもしれないが、 別の意味での濃厚さに胸焼けして遡るにはちょっと厳しいです… [地上波(邦画)] 4点(2024-02-24 01:00:41) |
23. スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
《ネタバレ》 前作鑑賞は必須としても、他のMCU作品とも連動しているため、 アイアンマン=トニー・スタークが故人なのは劇中で分かるものの、 エンドゲームを見ていないと少々置いてけぼりを喰らうのは確か。 MCUでマルチバースの概念は既に知られていたが、それを利用した中盤のどんでん返しは上手かった。 ヴィランとしてミステリオが中心でありながら、かつて職を追われた者たちによるチームプレイで、 現実と非現実を揺さぶりスパイダーマンを追い詰める見せ方が良い。 ファクトチェックが当たり前になり、目の前の情報が真実とは限らない現代において、 これからディープフェイクが濫造されていく世界への抗い。 殺人犯として汚名を着せられてしまったピーターはどうなるのか期待を寄せる。 でも、エンドロール後のもうひと展開にスパイダーマン以外の映画を見ないといけないのは如何なものかと。 作品によってはTVシリーズにまで裾野を広げてしまい、近年のMCUの勢いが衰えた話も聞く。 フェーズ1の『アベンジャーズ』くらいの展開が限度で、純粋にスパイダーマン単体で完結させてほしいのが本音。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-02-24 00:54:15) |
24. 100歳の華麗なる冒険
《ネタバレ》 マイペースな100歳の老人とは裏腹に、金銭と名誉に目がくらみ、せっかちに死に急ぐ権力者たち。 マフィアとどう決着を付けるかと思いきや、意外とあっさりとした形で終わってしまう。 彼の後ろには死体の山。 ちょっとした偶然が歴史に残る大事件になったりするが、 歴史の中枢にいても彼は「なるようになるしかない」と生きているにすぎないのだから。 もしかしたら、一人一人の凡人もまた、 ちょっとした偶然で見知らぬ土地で死体を生む遠因になっているかもしれない。 普通に元気に生きていること自体ありがたいとしながらも、 それもまた人の業であり、人生そんなものだと達観しているようである。 [映画館(字幕)] 7点(2024-02-24 00:51:04) |
25. 映画 ゆるキャン△
《ネタバレ》 変化と不変、終わりと始まり。 いつもの緩やかな世界と付かず離れずの友人関係はそのままに、一抹の寂しさをまとっている。 大人になったからこそできるものがあれば、それ相応にしがらみも責任も伴う。 紆余曲折しながらキャンプ場を完成させていくプロジェクトX的な筋書きに、 アウトドアものならではのディテールが積み重ねられ、趣味への向き合い方の一つの答えかもしれない。 テレビアニメ未見でも話についていけるが、知っていれば分かる感慨深いシーンが数多く散りばめられていた。 彼女たちは10年後も、家庭を持っても、これからもきっと変わらないのだろう。 [映画館(邦画)] 7点(2024-02-24 00:36:44) |
26. 落下の解剖学
《ネタバレ》 有罪か、無罪か? 自殺か、他殺か? そんなものはどうでも良くて、裁判によって暴かれる夫婦の拗れを中心に据えている。 親密な夫婦仲でも所詮は赤の他人。 交通事故による息子の視覚障害から始まる生活苦、作家志望の夫の嫉妬と余裕のなさ、他方では妻の成功、やがて… ある家族の一年間を断片的に見て、分かった気になって、 エンタメとして消費しているだけでしょ?と問われている気がした。 そう考えると筋書きは至ってシンプルで下手したら何も起こらない。 勝手に期待して盛り上がっている傍聴席の我々に対するフランスらしい皮肉が効いている。 [映画館(字幕)] 6点(2024-02-24 00:16:57)(良:1票) |
27. スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
《ネタバレ》 スパイダーマン=ピーター・パーカーとは誰か?に対する一つの答え。 MCU作品というより、歴代スパイダーマン映画への気配りがされており、 トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールドとの共闘だけでなく、 歴代ヴィランたちもウィレム・デフォーを始めとするオリジナルキャスト大集合でよく揃えたものだ。 一番盛り上がったのは彼ら一人ひとりが登場していき、一つに集束していくことだろう。 それ故に、マルチバース設定を使いたいがために、強引で余計な展開が際立ってしまった。 進路を理由にピーターが余計なことをしなければ何も起こらなかった話であり、メイ叔母さんはただの犬死に近い。 ヴィランの救済なんて、こちらの世界線には何の関係もありゃしない。 なので感動する展開も間延びした印象を受けてしまう。 狂いに狂った時空の歪みを修正するため、ピーターの再度の願いで彼自身、忘れ去られた存在になっていく。 アベンジャーズにいたことも誰も知らない。 自分自身に親友や恋人もいたことも誰も知らない。 孤独になったスパイダーマンは真の意味で"親愛なる隣人"としてスタートを切る。 ほろ苦さを感じさせるも重い宿命を背負う、スパイダーマンならではの完結編だった。 [地上波(字幕)] 5点(2024-01-29 21:56:30) |
28. ヴィーガンズ・ハム
《ネタバレ》 衝動的に殺した過激派ヴィーガンの肉を勘違いで売ってしまい、繁盛してしまう肉屋の夫婦。 グロはあれど臓物系・欠損死体なし、作り物感も強く、90分未満の上映時間でテンポ良く進んでいく。 さしずめ『スウィーニー・トッド』をもっと軽くポップに仕上げたブラックコメディ。 (どちらかと言えば、『シリアル・ママ』に近い)。 …と題材は面白そうだけど、期待が大きすぎた。 笑えるシーンはあれど、後半から失速して妙にシリアスになってしまったのが原因。 元から冷めているようで次第に狂気を帯びていく妻に、殺人に葛藤していく内に戻れなくなっていく夫。 経営も結婚生活も破綻寸前で、過激派ヴィーガンの言動と嫌味な同業者夫婦に一線を越えていく説得力はあるけれど、 もっとコメディに振り切っても欲しかった気がする。 ラストの一言である「ウィニー」に全てが詰まっている。 心臓病を抱え不遇な境遇を持った善人であり、彼の死で止めるか、エスカレートしていくかの分水嶺だった。 過去の発言を悔い、価値観の異なる人たちを理解して歩み寄ろうとした娘の彼氏もいたが、 夫婦にとって肉付きの良い女子供すら食糧としか見ていない皮肉。 極端なヴィーガンも問題だが、その逆も同レベルでしかない。 カニバリズムによる食欲減退で菜食主義者になりそうなメタな構図を鮮やかに切り取る。 元々胃腸が弱く、お腹に溜まりやすいので肉は消極的だが、思想を押し付けず、黙って命を頂くとしよう。 [インターネット(吹替)] 5点(2024-01-27 12:48:10) |
29. 生きる
《ネタバレ》 失うものがない人間は強い。 …なんだけど、余命を突き付けられながら自分が何をしたいのか良く分からない主人公が なぜ公園建設にエネルギーを注力するのか不明瞭すぎる。 事務職員の娘を何度も誘うシーンには気持ち悪さが勝った(活力の源を知りたい理由はあれど)。 公園完成までの経緯と衝突をじっくり描くと思いきや、話がいきなり飛んで主人公が亡くなり、 葬儀で関係者が回想していく意表性すら上手く機能していない。 ぼそぼそで上手く言葉を伝えられない人がここまで漕ぎ着けるとは思えず、 周りも建前上とは言え、主人公への賞賛ばかりでただの説明で終わってしまったのは惜しい。 '50年代当時の生活文化、今でも変わらないたらい回しなお役所体質など目を見張るものはある。 自分の生きた証、何をしたのかという普遍的なテーマがあっても、 今やネットで簡単に可視化されるだけに何も感じられなくなってしまったかもしれない。 [地上波(邦画)] 4点(2024-01-27 12:38:44) |
30. スパイダーマン:ホームカミング
《ネタバレ》 今までのスパイダーマンと違い、版権問題をクリアしてアベンジャーズと関わったこと、 そして未熟で無力なりに一人前になろうともがくピーターの青春物語が強化されたことが大きい。 功名心から正義を貫こうとして、結果的に大きな事故を招いてスタークを失望させ、 学校とヒーロー業を両立できず、片思いを失ってしまう苦みと切なさが残る。 家族のために犯罪に手を染めるマイケル・キートンを配役するセルフパロディが心憎く、 貧困と格差の問題をするりと潜り込ませる。 ディズニーに買収されたことが大きいのか、異人種間の恋愛と夫婦が珍しくなく時代の流れを感じた。 スタークからの再スカウトを断り、地に足をついて"親愛なる隣人"として歩み出したのはスパイダーマンらしい。 [地上波(吹替)] 6点(2024-01-17 19:49:29) |
31. ゴジラ-1.0
《ネタバレ》 山崎貴は苦手な監督だ。 『ALWAYS 三丁目の夕日』『STAND BY ME ドラえもん』のような感動ポルノ並みのゴリ押し、 『リターナー』みたいにハリウッドの名作SFアクションのパッチワークでそこに新たなオリジナリティもなく。 未見のドラクエ映画でいろいろやらかしたことも知っている。 その本作がアメリカで、 クリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』の姉妹作に近い立ち位置の絶賛を受けており、 モノクロ版をきっかけに鑑賞することにした。 既にレビューにある通り、過剰にウェットな人情ものが迫力ある容赦ないCG演出と上手くマッチしており、 モノクロによって監督特有の作りもの感が軽減されているのも大きい。 余計なものが削ぎ落され、見易くなったとも言える。 それでも人間ドラマと演出にもう少しドライさは欲しかったし、 中盤で死んだヒロインが実は生きていたというご都合展開はどうかと思ったけどね。 もちろん不穏な要素が隠されているのは分かったし、初代ゴジラとの間にもう一本続編を作るかもしれない。 まあ、つまり言えることは、悔しいが良作ということ。 8点でも良かったが、結末が分かってしまう脚本&ミスマッチでクドいドラマパートに-1点、7点献上します。 [映画館(邦画)] 7点(2024-01-12 23:12:28) |
32. カラー・オブ・ハート
《ネタバレ》 『天国と地獄』と『シンドラーのリスト』の演出を一本の映画にした印象にも取れるが、 無機質から有機質に移り変わっていく作品の情感を丁寧に掬い取る。 作りものの世界であることを逆に利用して、モノクロとカラーを混在させた映像が美しい。 劇中劇のホームドラマには有色人種が一人も登場せず、"色"が付いた人間を差別するとかなかなか皮肉が効いている。 恐れていた予定調和から外れ、生まれ変わった町は新しい世界を広げていくが、同時に負の要素も持ち込まれるだろう。 それが現実の世界そのものだが、過酷だからこそ、ささやかなものですら美しいと感じられるのだ。 [DVD(字幕)] 7点(2024-01-12 22:46:27) |
33. RRR
《ネタバレ》 『トップガン マーヴェリック』と並び、2022年を代表する洋画ということで今更ながら鑑賞。 実在した二人の独立運動家が空白の4年間に出会っていたらを描いた、究極の"ファンタジー"であり、 ブロマンスものとしても共闘胸熱アクションが次から次へと繰り広げられ、3時間がそこまで長くない。 盛り上がりが延々と続いて、最終決戦が物足りないジレンマはあるけど。 "ファンタジー"と称した通り、史実にないインド総督を倒して歴史改変している。 (スコット総督は流石に架空の人物だがモデルはいる)。 そのためイデオロギーは感じなくもないが、あれだけ現実離れした展開ばかり続いたら、 重いテーマなどどうとでもよくなってしまう。 一応綺麗にまとまっているものの、続編の世界を見てみたいと思わなくはない。 ツッコミどころ満載を力業でエンタメに昇華させたS・S・ラージャマウリに拍手。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-01-01 20:29:24) |
34. 劇場版 SPY×FAMILY CODE: White
《ネタバレ》 描かれている内容はいつものSPY✕FAMILYです。 劇場版のため、相応のスケールになっているものの脚本が大味すぎる気がする。 第一印象としては映画クレヨンしんちゃんを少々シリアスにスタイリッシュにしながらも適度にギャグ多めと。 『暗黒タマタマ大追跡』『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』ぽさが随所に見られる。 タイプFはともかく、スナイデルとドミニクとルカがボコられてそのまま退場は消化不良。 末路等もう少し掘り下げて欲しかったなと。 ロイドもヨルも立ち回りが凄すぎて、アーニャに隠す素振りも見せず、 三者三様、互いに正体がバレてもおかしくないのに。 ロイドの異動危機や浮気疑惑や伝統菓子がクーデターに絡むには弱めで、 早い段階で解決かあちらから自滅という形で収束。 フォージャー家以外の準レギュラーは顔見せ程度のちょっと台詞があるくらいで(フィオナはやや優遇)、 興行成績次第ではシリーズ化を見込めることも視野に、彼らの活躍は次回に持ち越しかもしれない。 そういう意味であえて腹八分目でこれからを手探りしているとも言える。 世界観とキャラクターの最低限の説明があるため、原作及びTVアニメ未見の人でも楽しめるだろうし、 一種のお祭り映画やファンムービーとして見ても作画もアクションもクオリティが高い。 とは言え、一本の映画として見るなら期待値を下げて見ることを勧める。 [映画館(邦画)] 6点(2023-12-29 01:16:51) |
35. 伯爵
《ネタバレ》 チリで悪名高い反共独裁者アウグスト・ピノチェト。 失脚した彼は2006年に死んだが実は偽装であり、250年も生きている吸血鬼だった…。 そんな大胆な設定をモノクロで綴った風刺劇がヴェネチア国際映画祭で脚本賞受賞とのことで鑑賞。 そもそもピノチェトとはどんな人物か?を理解できないと退屈な作品。 新自由主義を推し進めて、チリ国内の格差を拡大させたらしく、血肉=富の隠喩であることは確か。 意外とゴア描写が多く、モノクロだからこそのお伽感が増す。 荒涼とした土地に建つ古びた屋敷で惨めに暮らす彼は死を願っていた。 そこに妻子たちへの遺産相続問題、軍服という権力に縋り付くロシア人執事に、 会計士として忍び込んだ悪魔払いのシスターと、それぞれの思惑が働いて二進も三進もいかなくなる。 若さに執着したピノチェトから吸血鬼にされたシスターが信仰から"自由"になり、空を舞うシーンが美しい。 終盤に明かされる、英語でナレーションしていた女性の正体は、なんと英首相だったマーガレット・サッチャー。 彼女も吸血鬼でピノチェトの母親だったというトンデモ設定のおかげで一気に映画が締まる。 底なしの自由を求めることは底なしの強欲を求めること。 ラスト、二人は吸血鬼の心臓を食べて、さらに若返る。 少年になったピノチェトを小学校に送り出すサッチャーの構図に、独裁政権と新自由主義の萌芽が潜む不気味さ。 "吸血鬼"は世界中、どこかに潜んでいる。 政治の中枢を担っている増税しまくりの総理大臣もきっとそうに違いない(苦笑)。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-12-22 21:06:27) |
36. シークレット・サンシャイン
《ネタバレ》 見えるものが全ての人間にとって、信仰は救いになるのか? 息子を殺されたシングルマザーのシネは、自分を如何に大きく見せようと振る舞い、 その誘拐犯に対する赦しも優越感によるものである。 だが、犯人は信仰で既に赦され救われていた。 宗教に失望した彼女にとって、これほどの生き地獄はないだろう。 神はただそこにいるだけで何もしてくれない。 代わりに片思いのジョン・チャンが、壊れていく彼女の傍に何も言わず寄り添う。 神も仏もない不条理の世界において、俗物であろう彼の存在は生きていく上の"密陽"ではないか。 誰も目にも映らない小さな小さな希望。 死ぬことすらできなかったシネは彼の存在にいつ気付くのだろう? たとえ自分自身を赦せなくても、既に誰かから赦されているのに… 残酷な世界に淡く小さい陽光の差すラストカットが秀逸。 [DVD(字幕)] 7点(2023-12-09 22:36:08) |
37. ブギーナイツ
《ネタバレ》 弱冠26歳でハードコア・ポルノを題材としながらも濃密な人間ドラマを撮り上げたP.T.アンダーソン監督は凄い。 幾度となく多用される長回しは技巧をひけらかすような幼稚なものではなく、 登場人物の背景と当時の空気を的確に捉えている。 業界で成功するも驕り高ぶる青年、作品の質を重視したい職人肌の監督、 親権を奪われドラッグに溺れる女優、家族に愛されなかったウェイトレス… 表社会から偏見にさらされ、その世界から抜け出せられなかった彼らは疑似家族として、 傷を舐め合うようにかつての栄光を演じ続ける。 一時的に楽しまれては忘れ去られていく消耗品。 それでも必要とされていた時代があったことに想いを馳せる。 絶対的な自信はあったかは知らないが、もう少し短くできた。 [DVD(字幕)] 6点(2023-12-09 22:30:35) |
38. デリシュ!
《ネタバレ》 今でこそよく見られるレストランという形式が如何に誕生したか。 18世紀末のフランス革命前夜まで、美食は貴族のものであり、 庶民は飢餓と隣り合わせで食べることに必死だった。 旅籠には簡単な食事が提供されることはあれど、 それまで貴族も庶民も一緒に、個別のテーブルで、メニューから料理を選択することが今までなかった。 この視点でレストラン誕生の経緯を知ることがなかったので目から鱗である。 天に近い食材ほど至高で、土に根差したジャガイモやトリュフというポピュラーな食材が かつて貴族から豚の餌扱いされていたということも。 主人公と女性の織り成すロマンスは控えめで、 抑制された色遣いによる絵画のような映像美が美味しい料理を引き立てる。 そして傲慢な伯爵への強烈なカウンターパンチ。 封建社会の理不尽を受けてきた先人たちの努力によって新たな活路が見出され、 食文化が成熟・変遷していったかを興味深く見られた。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-12-09 22:24:42) |
39. 西部戦線異状なし(2022)
《ネタバレ》 1930年製作のハリウッド版は視聴済みであるものの、本作はリメイクではなく古典の反戦小説の再映画化であり、 現代の観点で脚色されたのもあるからか、似通ったシーンがほとんどないに等しい。 せいぜい冒頭の生徒たちの出兵を煽る教師と、中盤の妻子持ちの敵兵を直接殺してしまった狼狽ぐらいだろうか。 死んだ兵の服をはぎ取り、洗濯・お直しして新兵の服として提供するところからして、 ただの部品としか見ていない戦争の非情さを良く表している。 憔悴していく主人公の青年と並行する形で軍部上層部のやり取りで見られる豪華な食事もそう。 あと少しで停戦なはずがお偉いさんの大義のために無理矢理突入させられ、 理不尽な形で消費されていく主人公を含むその他大勢の兵士たちの死… 非常にオーソドックスながらハリウッド版とは違ったドライさが突き刺さる。 確かに今の時代だからこそ見るべき映画なのかもしれないが、現代ならではの新しい切り口が欲しかった。 もし本作みたいなことが日本で起こったら、我々にできることは国外脱出するか、 国会議事堂を包囲して大規模な反戦デモを敢行することくらいだろう。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-12-09 21:37:02) |
40. バード・ボックス
《ネタバレ》 演出と演技が上質なため、低予算ならではのチープさがあまりない。 "何か"を見たら自殺するという序盤の大混乱を見せることによって、外への行動と視界が制限され、 映画のほとんどを占める室内シーンと山林シーンを受け入れることができるからだ。 2年後のコロナ禍で"鳥かご"の中に閉じ込められてしまったことを予言しているみたいに。 過去と現在を交互に見せるため、退屈さはあまり感じられず、伏線回収が上手い。 主人公を気に掛ける男性がいつか本性を表して襲い掛からなかったのは意外。 この手の不条理パニックもので言えることだが、最後に謎が明らかにされるわけではない。 既に精神を病んでいる人ほど自殺に陥らず、目隠しなしで健常者に襲い掛かる新たな設定すら、ただの脅威で終わっている。 盲学校に辿り着いて、今後もここで生きていくにしても食料や衣類はどうするの?という疑問が湧く。 そういう意味でオチは弱いが、見て損はないと思われる。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-12-07 22:15:24) |