21. インフォーマント!
《ネタバレ》 面白かった。リアリティあるブラックコメディだなぁと思えば、なんと実話。マークという人間に周りが振り回される、しかもFBIまでってすごい話。事実は小説よりも奇なりの王道パターン。こんなのが実話だったら脚本家は本当参るね。マット・デイモンの力演も素晴らしかったし、ソダーバーグもBGMを有効に使って抑えめに正攻法で撮っていてよかった。オーシャンズシリーズからソダーバーグって尖った演出が取れて丸くなったような気がする。安定感と才気あるいい監督っていう感じで年を重ねていいキャリアを築いている感じ。ただ、若くして世に出ているから何となくだけど、あと10年もしないうちにやり切って撮らなくなるような気がする。直感だけど。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-02-20 22:08:41) |
22. ザ・マスター
《ネタバレ》 あらすじを見て結構自分好みの題材で期待していたんだけど、実際は想像していたよりこじんまりとしたお話でした。面白くない。ただ面白くはないけど内容は素晴らしいと思う。2時間近くおっさん二人の濃厚な関係性を描くだけ。最後のエンディングを迎えて、あぁ、これはフレディの魂の救済に向かう彷徨をを描きたかったのだなということが分かった。おそらくだけど最初の内は新興宗教という設定も物語上は機能はしているが撮っているうちに孤独な男の救いがどうすれば得られるのかという監督の思いが強く前面に出てしまった様な気がする。フィリップ・シーモア・ホフマンの教祖様っぷりもすばらしいのだが、やはりフレディという主役の人物造形がリアルでそれを見事に演じきったホアキン・フェニックスの演技が素晴らしかった。銀獅子賞受賞と聞いてなるほどねとは思う。 [インターネット(字幕)] 6点(2021-02-11 23:19:34) |
23. ライフ・イズ・ビューティフル
《ネタバレ》 感動させようとしないところが好感を持てます。前半のラブロマンスも日本人には結構抵抗あるかもしれないけど、ラテンのあのいい加減なノリも地球上にはあるということで。若干ご都合的だなと思うのはジョズエがガス室に送られずに生き延びるというところ。ああいう極限の状態だと自分の息子は殺されたのにという嫉妬でチクリが余裕であると思うので1点減点。うまいなと思うのは収容所解放後、連合軍の戦車が来たのを本当の賞品だとジョズエに思わせたところ。そして最後の感動の母との再会で「勝った」のセリフがゲームと戦争ですれちがっているところ。この伏線回収と落ちの2点のすばらしさで1点プラス。 [地上波(吹替)] 7点(2021-02-06 22:07:12)(良:1票) |
24. ペパーミント・キャンディー
《ネタバレ》 簡単に言えば青年時代花を愛し、それを撮っていきたいと願っていた工場労働者の繊細な男が軍隊にいき、その後警察で思想犯の取り締まりで拷問に励んだ後脱サラし、好況の波に乗って実業家として成功するも共同経営者の裏切りに遭い、没落し、最後その繊細だった頃の自分を懐かしみ命を絶つというある男の半生のお話。これだけ聞けば陳腐なドラマでしかないが、描かれる物語はキム・ヨンホという主人公個別の人生を深く描くことで世界的にも評価される名作となった。いつもながら思うのはイ・チャンドンの描くドラマはなぜ心を撃つのか考えるがやはり彼がキリスト教の「アガペー」を理解しているからではないかと個人的には思う。日本語は「愛」一語しかないので定義がバラバラで、安っぽい書家やタレントその他有象無象のそれに関する名言がありがたく消費されている状況だが、かの地ではしっかり3段階に分かれて理解されているので今後そういう安っぽい発言をする人はこの定義を当ててみてどのレベルの人間か判断するとよいでしょう。1「エロス」情欲の愛。ストーカーとか。2「フィリオ」友愛。日本でもある政治家が盛んに言っていたが自然に湧き上がる愛情。親子愛、兄弟愛とか。3「アガペー」自ら選択した愛。無償の愛。キリストが愛であるといっているのはこのこと。ひょっとしたら主人公は初恋の人ユン・スニムと除隊後愛を育むことができたかもしれない。だが、暴動制圧の任務途中に誤って無辜の女子高生を撃って殺してしまった。おそらく彼はそのことで罪悪感を持ち、ユン・スニムと一緒になって幸せになることを自ら禁じ、贖罪のために警察に奉職し、反体制派の取り締まりに邁進していく。しかしその裏で心の奥底には空虚さが巣食っており、過激な拷問をするごとに彼本来の姿から遠ざかっていったのだろう。彼を愛してくれる妻に対しても根源的な彼の心の渇きを癒されることはなく、悲しいことに彼女に対して誠実に愛することができない。拷問に明け暮れても何ら自分を救えない彼は今度は富によって自分を満たそうとするが、結局は妻も見返りのない愛に嫌気がさし浮気をし、また彼自身でも空虚かエロスかそれはわからないが女子事務員と不貞をし、最後はビジネスパートナーに裏切られて富も家庭もすべてを失う。 キリスト教では罪深い人間は仮にアガペーを目指しても、結局はエロスか良くてフィリオにとどまるということになっている。彼も今際の際のユン・スニムの枕元に呼ばれて彼の本当に戻るべき場所・本来の自分を思い出し、ユン・スニムとのピクニックの時にもう一度戻れるのならという慙愧の念がラストシーンの泪とファーストシーンの泪とリンクする。このシーンに収斂するために時系列を逆行させているのだ。もちろん各断章ごとに次の章に続く情報をリレーさせることで、観客の集中を引き付ける仕組みもあるが、やはり冒頭とラストのリンクが最大の目的なのだろう。決してイキった演出ではない。必然なものだ。光州事件という監督個人の思いも当然込められてはいるが、その知識がないとしても十分ある男の普遍的で哀切で痛切な物語になっている。 [インターネット(字幕)] 9点(2021-01-25 16:53:36)(良:1票) |
25. サブウェイ123 激突
《ネタバレ》 ずいぶん点数が低い・・。みんな「スピード」みたいなアクション映画じゃないと納得しないのかしら・・。「スパイ・ゲーム」がイーサン・ハント張りのアクションがないからといって点数が低いように。このレビューで納得いかないトニー・スコット低評価作品がまた一つ増えた。これ結構レベルの高い脚本だと思う。証券マンがあそこまでハイジャックできるかというのとデンゼルが最後車を奪ってカーチェイスをするのはちょっとご都合主義だけど、それ以外は非常に丁寧に作られた交渉劇ものだと思う。冒頭の指令室のガーバーと周囲の会話で彼が胆力のあるひとかどの人物であることがちゃんと読み取れた。そのあとライダーとの会話で彼がたたき上げの優秀な人物であることをちゃんと回収し、のちに地下鉄を運転させる伏線も張っている。交渉担当刑事が彼にコーチをして速成の交渉人に仕立て上げるのも彼の人物設定がちゃんと効いているので、違和感はない。ガーバーとライダーの関係性も非常にユニークかつリアリティをもって物語の主軸を作っている。あと感心したのは市長の人物造形。本当にああいう市長はいそう。また、ヘリコプターに乗る前にカミさんに今生の別れになるかもしれない電話をあえて感動的にせず、牛乳を買ってくるのよと言うああいいう終わらせ方もガーバーの人物設定を生かしつつ、非常にリアリティがあって見過ごしがちなちょっとした場面だけど感動した。ライダーの妙にカソリック的な敬虔さと、拝金主義の証券マンという2面性も実に人間的で、すべてにおいてこの映画の登場人物ってリアリティかつ魅力的に描かれていて、地味で派手なアクションはないけど満足度の高い素晴らしい娯楽作品です。 [地上波(字幕)] 8点(2021-01-23 22:04:14) |
26. ヴィンセントが教えてくれたこと
《ネタバレ》 不良ジジイと少年の心の交流というよくあるフォーマット。二人の関係性の描写は無駄なくよく描けていて、特にビル・マーレイがダメジジイぶりをリアリティたっぷりに好演していて見心地は悪くはない。ただ、このジジイの善人性を出すために認知症の妻のところに足しげく通うという愛妻家エピソードが傷になっている。だったら、なんでそんな愛妻家が売春婦との間に子供まで作る?いや、別に遊ぶだけなら人間だもの、それぐらいの矛盾というかスケベさがあるのは認めるけど、妊娠までさせちゃったら立派な背徳じゃない?そこらへんの設定がかなりイケていない。あと、最後の聖人の発表会も感動させようという安易な演出で非常に作品を安っぽくさせてしまいかなりガッカリ。ここはしんどいけど、ビターなリアリティある締め方にしてもらいたかった。具体案が出せなくて申し訳ないけど。それでもナラティブは丁寧で安定しているので、5.5をおまけして繰り上げで6かな。 [インターネット(字幕)] 6点(2021-01-17 21:35:23) |
27. クロッシング(2009)
《ネタバレ》 前のレビューアーさんが言ってたようにタイトルがよくない。本当おせっかいだと思う。ただ脚本は素晴らしい。3人の警官の群像劇の描き方のバランスもちょうどよく、それぞれの人生の悲哀もリアルに描かれている。イーサン・ホークは同僚警官を絡ませることでより生活苦のもがきを描写しているし、ドン・チードルも麻薬組織のボスとの友情と上昇志向のFBI女上司との確執も交え、彼の苦悩と仁義がしっかり響いてくる。リチャード・ギアだけ、前の二人に比べるとエピソードが薄いという意見もあるが、これはあえて大過なく定年まで過ごす老年警官を置くことで、くどくならないよう全体のバランスをとっているのだと思う。ちゃんとエンディングも彼のパートで終わらせている配分の良さ。すべてにおいてバランスが良い。最後に事なかれ主義で警官人生を送ってきたのに退職と同時に正義感を出すというストーリー展開も抵抗なく受け取れた。ひいきにしている娼婦に定年後一緒に暮らさないかといって、体よくフラれるのも初老の孤独な男の人生の苦み炸裂で素晴らしい。アメリカの警察のリアルを背景に(もしそうだとすれば結構すごい)3者3様の人生模様を描いた救いのないドラマ。踊る何とかの製作陣はこの映画を見たとき恥ずかしさを感じなければいけないと思う。個人的にはドン・チードルの演技が一番良かった。 [地上波(吹替)] 8点(2021-01-16 22:13:17)(良:1票) |
28. ザ・ファイター
《ネタバレ》 レビュー見て、意外とボクシングシーンのリアリティーで点数を下げている人が結構いるのが意外でした。はっきり言ってこれはボクシング映画ではないでしょ。作品のモチーフからすれば、まぁ、もっと本物っぽく撮ってもいいのかもしれないけど、デヴィッド・O・ラッセルなら必要ないと考えてもおかしくない。テーマである家族の切れそうで切れない絆を若干カリカチュアした演出だが、手堅くまとめている。ストーリの運びは優等生的で親子関係、恋人関係の葛藤もちゃんと描写し、文句のつけるところはない。ただ、この監督の特徴かもしれないけど、あまりにも手堅くまとめすぎて、展開も読めるし、こじんまりとしちゃってる感が強い。エンディングは思ったより盛り上げてくれたので、想定を少し上回ったので1点プラスしようかなとも考えたけど、この人頭がいいからそこまで計算しているかもしれず、理に勝ちすぎて心揺さぶるまでのパワーを持った作品とまでは言い難いのでこの点で。それでも登場人物の感情の動きをちゃんと設計図通り組み立てられる能力は監督としてはけなすべきものではなく、決して嫌いではないです、デヴィッド・O・ラッセル。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-01-09 23:02:34) |
29. 天気の子
《ネタバレ》 この監督の持ち味であるリアルな背景描写もあって、まぁファンタジーとして途中まではそんなに違和感なく見ることは出来た。晴れ女のバイトもやめてそろそろ物語に行き詰まりを感じるころに警察の捜査が入って来て、お、ギアチェンジが始まるな、更にリアリティの強度を上げてきてなかなかやるじゃないか、と思っていたら、主人公「一緒に逃げよう!」はぁ~?って感じ。そもそも家出の理由もわからないし、なぜそこまでする必要があるのかも理解できない。作者の都合としか感じられない点でもうダメ。さらに最初の方から善意の人ばっかしで、うすうす何かに似ているなぁと思っていたら、真面目に観るのを投げ出した後半からはジブリ映画の既視感しかない。警察があんなに間抜けに逃がすのとか、都合よくバイクで二ケツして逃亡するとか空に昇って二人一緒に落ちてくる画とか、皆さん感じませんでした?あと天気のために自分の命を削るとか世界を変えるとか他のレビューアーの方が言ってるように自意識が肥大化しているまさに中二病の言説のオンパレードだし、というかこれを作品としてリリースしていること自体結構まずいような気がする。周りの制作陣で誰か諫める人はいなかったのかしら?農工大入学とか妙にリアリティーを重視しているところでみんないけると思いこまされたのかしら。あとエンディングも前作のデジャブのように思えたのは俺だけ?「君の名は。」が結構よかっただけにこの落差は結構衝撃でした。 [地上波(邦画)] 4点(2021-01-04 00:32:04) |
30. SPY/スパイ
《ネタバレ》 面白い映画。英語でいうinterestingとfunnyの二つの意味で。最初の面白さはメリッサ・マッカーシーみたいなタイプをスパイ映画の主役に持ってくる斬新さ。二つ目の面白さは単純にコメディーとしての。ずっと見ていて突っ込みをしていたのはCIAの内勤職員がこんなにスーパーエージェント然として戦えるか?というそれ1点のみ。この監督って漫画チックに撮る傾向があるけど、そこそこ見入ってしまうクオリティーがあるので、文句をいいながらも結局は許せてしまう。それでも職場の友人まで現場に送り込むのはやりすぎだし、独身ハイミス二人の友人関係を前面に出すのはあまり脚本的に成功しているようには思えない。でも、なんかメリッサ・マッカーシーが最後にモテモテになるのも決して無理筋でなく、本当に魅力的に見えるのもやはりポール・フェイグが主演女優を魅力的に撮れる監督としての力量があるのだと思う。この人の作品って、何度も言っちゃうけど、文句言いながらもなんか結構許せてしまう、不思議なエンタメ職人監督です。 [地上波(字幕)] 7点(2020-12-29 23:27:21) |
31. ショーシャンクの空に
《ネタバレ》 無実の罪で刑務所に服役させられたエリート銀行家が刑務所内で己の才覚で様々な改革をし、最後は脱獄をして、別人として生きるというある意味ファンタジー的な映画。映画の肝は刑務所内での人間関係と様々な事件。ストーリはよく練られており、エンターテイメント作品としては申し分ないとは思う。ただやはり脱獄とレッドとの最後の再会が都合よすぎて減点2。まずアンディが汚水管をくぐって脱獄したのに翌日はスーツを着て別人然としていられるのがおかしい。また仮釈放中のレッドが簡単に国境を越えられるのもおかしい。この2点の傷以外はエンディングも含めてケチの付ける点はない。グリーンマイルよりはこっちの方が個人的には好き。 [地上波(字幕)] 7点(2020-12-29 23:03:17) |
32. ボーダーライン(2015)
《ネタバレ》 リアル一辺倒で大変すばらしかった。リアルでなかったのはエミリー・ブラントが捜査官の割には華奢すぎるのとデル・トロが一人で宿敵のボスのところにたどり着けるのがちょっとご都合主義かなというところぐらい。この作戦の全貌もすごいといえばすごい。毒をもって毒を制す。コロンビアの組織とアレハンドロという毒を使用してコントロールできる毒で麻薬組織を支配するアメリカの覇権主義。途中でワクチンの例えも使っているし。脚本のテイラー・シェリダンはそういう自国の汚さを告発しているのかも。「ウインド・リバー」を撮っているぐらいだから。それにしてもデル・トロとジョシュ・ブローリンはしっかりハマっていました。その中でもやっぱりデル・トロの存在感は光っていましたね。役柄もおいしいいい役だしね。それにしても麻薬組織っていうのは映画の題材にどれだけ貢献しているのやら・・。悲しい事実だけど。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-11-28 22:22:59) |
33. シンプル・フェイバー
《ネタバレ》 他のレビューアの方が言っている通りテレビの2時間ドラマに限りなく近い映画、しかも非常にきわどいところでドラマに流れずに保っているという感じ。ただ主役二人のキャスティングはばっちりハマっていた。でも、背の高さまで差をつけているのはカリカチュアが過ぎてちょっとドラマ感が強いような・・。また、ステファニーが謎解きをてきぱき進めていくのもちょっとご都合主義的だし、最後にエミリーが車に轢かれるのも、漫画チック。それでも、映画らしく凝っているところもあり、双子というタネ明かしも言われればなんだかもしれないけど、よく練っているし、エミリーとステファニーそれぞれが秘密を明かす場面、供述は嘘だが、映像では真実を流すのをそれぞれ配置しているのも演出の意気込みを感じるし、途中でステファニーの悪女の部分を初めて観客に漏らすやり方など後半の相手をハメて勝つ伏線にも繋げているし、一概にけなすことはできないクオリティーはあるともいえる。結果としては鑑賞後、ステファニーが魅力的な主役と映った、まぁ面白い映画だったのでは。決して2時間ドラマに堕さずに。 [インターネット(字幕)] 6点(2020-11-23 22:41:30) |
34. ウインド・リバー
《ネタバレ》 雪に閉ざされた先住民居住地の諦念と絶望ぶりがよく描かれています。実話か設定かはわかりませんが主人公が先住民女性と結婚し、娘が同様の悲劇に遭っているというのもリアリティがあります。FBI捜査官を外界の視点、異文化の顕在化として機能させ、かつバディとして事件に絡んでいくのも映画の王道です。最初から最後のヤマ場の銃撃戦、主犯の死亡までも変に盛り上げず淡々と描く一定のナラティブも雪山というロケーションと合致し、非常に引き締まっていて好感が持てます。テーマの先住民女性に対するレイプ被害の告発とサスペンスが程よく調和し、アメリカの陰の現実描写とエンターテイメントを両立させたいい映画だと思います。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-11-23 22:10:29) |
35. グリーン・カード
異文化の衝突を好んで描くピーター・ウィアーは今度はアメリカとフランス男女の衝突を描く?といっても今回は異文化というほどでもなく、どちらかというと国の違いというよりは成育歴の違い程度。いずれにしてもよくあるラブロマンスとなった。ピーター・ウィアーが単なるそういう作品を撮るつもりだったといえばそれまでだが、結果標準的な作品になった。設定は細かくリアリティを出そうとはしているが、やはり作り物臭く感じてしまう。そしてフランス臭を出そうとしてジェラール・ドパルデューをキャスティングしたのかもしれないが、どうも脚本にあっていないような気がする。いかんせんデカすぎるし、アーティスト感がない。下層階級出身の粗野なフランス人という設定ならもっと他のいい俳優がいると思うのだが・・。コンパクトにまとめたのを悪いとは言わないが二人が恋愛関係に発展していくのを描くのに尺が足りないような気がする。もっとじっくり描いても良かったと思う。彼ならできたと思うし。才人監督のきっちりとした小品恋愛映画というところです。 [地上波(吹替)] 6点(2020-11-14 22:23:15) |
36. クリムゾン・タイド
《ネタバレ》 冒頭から最後まで無駄な場面がなく一本の映画を撮り切った感がある作品です。タランティーノの脚本とトニー・スコットの演出は相性がいいのかも。たたき上げの上司とエリート部下の葛藤という昔ながらのフォームを使いながら潜水艦内の活動をしっかりリアリティを追及して描き、核戦争を引き起こすかもしれないという緊迫した事態の中で艦長派と副艦長派という周りの部下の人間関係もしっかり絡めて狭い空間内の権力闘争というドラマを見せて飽きさせません。一番感心したのは最後の査問委員会以降のやり取りですね。上層部は艦長に対してかなりシンパシーを抱いているが、当然組織としては今回の艦内の擾乱は到底見過ごすことはできない。しかし、彼らは結果は出したのでどう処分すべきか悩むところだが、今回の件で艦長自らの引き際を理解し引退を申し出、さらに副艦長に後を譲るという提案を容認し、そう決定を下した。登場人物の感情の流れと物語上の軍規違反の裁定が見事にシンクロしているエンディングはまさに体操競技での着地も決まり満点という感じ。ただ一つリアルじゃないのは潜水艦に犬は絶対ないだろう・・ただそれだけ。 [地上波(吹替)] 9点(2020-11-08 23:06:30)(良:1票) |
37. オアシス
《ネタバレ》 この映画が素晴らしいのは主演二人が美男美女ではなく、華のない(見た目の話ね)二人で撮っていること。邦画でもハリウッドでもこういうキャスティングはしない。その結果入り口でがっちり監督の世界観に没入することができる。互いに阻害された者同士の愛の話と抽象することはできるが、脚本が濃厚かつ精緻だからから、そんな一言で終わらせられないほど、言葉を費やせずにはいられない作品だ。ジョンドゥがコンジュを犯そうとしたのにそこから恋愛に発展させるのも彼が花束を贈ったことから自分を性のはけ口としてみたのではなく、一人の女性と見たのでは?と思うことができたからこそのリアリティが担保され、彼がその後はしっかりと体を求めず異性として自分とデートをしたことで、二人の関係性の進展に何の違和感もなく見ることができた。また、彼が発達障害であろうという設定もよく効いている。そして、なぜジョンドゥの家族が彼を切らないのかという疑問も後半にちゃんと種明かしもし、ここでもしっかりとリアリティを担保している。ある意味ハンディキャップを負った男女二人の純愛という安直になりそうな話をこうまで腹に深く響かせられるのは、それぞれの登場人物の自己中をうまく共鳴させることで、その結果としてドラマが生まれ、悲恋となるという作品世界を作り出せるイ・チャンドンの人間理解が優れているからだ。この映画で一番心を抉られたシーンは最後警察署で調書を取る前に刑事が言った「あんな子を(犯すとは)人間として理解できないね」ということでコンジュの尊厳を踏みにじり、周囲の人間のエゴに搾取されまくり、自分が差別により健常者と同じように愛する男と性愛すらできないこの現実世界に苛立ち、車いすを自ら暴走させ自傷しようとする場面だ。コンジュのみがこの映画の登場人物のなかで唯一自己中に生きられない一番の被害者であるからより胸に響いた。エンディングで一筋の希望を見せるのもイ・チャンドンのスタイルだし、彼の弱者に対するまなざしだろう。それにしてもこの女優の演技は本当にすごい。初めの方から観ていて目のいき方なんかを見ていたらひょっとして本物?と思ったほどだ。レインマンのダスティン・ホフマンよりもうまいと思う。あと、インド人と象のシーンだけはどうしても安っぽく、そこだけは唯一興ざめしてしまいました。ごめんなさい。 [インターネット(吹替)] 9点(2020-10-24 23:37:38)(良:1票) |
38. モリーズ・ゲーム
《ネタバレ》 実話ベースということであまり盛り上がりはないのもしようがないかなと途中までは見ていました。ナラティブは手堅く、ダレずに見ていられたので7点くらいかなと思っていましたが、なんと、アイススケート場以降のシーンで予想を裏切れましたね。実は親子の確執と和解をサブテーマとしていたとは。そこから一挙に伏線を回収するという超圧縮展開。弁護士が主人公の弁護を引き受けた理由とさらにもう一つの父と娘の確執をそこでさらにサラッと描く。うーん、やるなぁ。そしてドンデン返しとハッピーエンド?と最後のシーンもまた、しっかり伏線回収と回想がシンクロしているという高度なテクニック。素晴らしい脚本です。というか監督がもともと「ア・フュー・グッドメン」の脚本家だったから当たり前か。こんなに見ている間と見終わった後の評価がガラッと変わった映画は初めて。すごい得した気分。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-09-26 22:32:06) |
39. 母なる証明
《ネタバレ》 成人の息子の母親が主人公というのも珍しい。その母親が謎を解いていくという今乗りに乗っているポン・ジュノの前の作品。やっぱり彼独自のナラティブは引き込まれるし、謎解きも物語の推進力として機能し、最後までダレずに見ることができる安定の実力。彼の作品ってなんか登場人物に得も言われぬおかしみがあるんですよね。ダウンタウンの松本が言うように悲惨さの中にある笑い(彼が具体例で挙げた父親がブリーフに「お父さんの」と書いて銭湯で笑われるというエピソードが非常にわかりやすい)。個人的に微笑ましく感じたのは自分を容疑者にしようとした母親を何事もなかったかのよう助けてあげるジンテとか。やっぱり独特の世界観がある人の作品は強い。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-09-22 22:37:05) |
40. バーニング 劇場版
《ネタバレ》 うーん、一言いえるのは前の方も言っていたように村上春樹の小説を借りずにイ・チャンドン独自の世界観の作品を見たかったなというのに尽きるかな。やっぱりスケールが小さくなってるんですよね。そもそも元ネタも短編で謎を謎のままで放り出してるような作品だし。もちろん映画のクオリティは高いし、あの小説をここまで昇華しているのはさすがですし、ただイ・チャンドン基準で考えると・・物足りない。元ネタを借りて韓国の格差社会を若者の失恋・蹉跌・嫉妬を通して詩情豊かにそれこそ元ネタよりも文学的に描いている。並みの監督基準からみれば文句なく5ツ星ですよ。「パラサイト」が盛り盛りにブラックコメディ的に格差社会を描いたのと対照的だけどね。でも、イ・チャンドン基準だとね・・・。はぁ~残念。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-09-22 22:16:25) |