21. ミッドウェイ(1976)
《ネタバレ》 “Midway”英語で『中間』の意味だけど、ミッドウェー島周辺で起きた日米の『ミッドウェー海戦』を意味する。 連戦連勝の帝国海軍が、この海戦の敗北を契機に、劣勢に追い込まれていく。真珠湾攻撃('41年12月)から僅か半年後の'42年6月のこと。う~ん、我が国はこの状況で'45年まで戦争を続けたんですねぇ… 初見は中学生の頃の、年末の夜中のロードショーだったでしょうか?まだロクに飲めない缶ビールをいたずらしながら、往年の戦争映画を満喫していました。そんなワケで、この映画を観ると年末だなぁ~って気分になれるんです。 当時は気になりませんでしたが、そうとうツギハギだらけな映画だったんですねぇ。実際の戦争フィルムはもちろん、過去の戦争映画のフィルムをパク…借りてきて完成させていたという、トンデモな戦争大作です。振り返ると、本作や『遠すぎた橋』を最後に、オールスタ-キャストの戦争娯楽大作映画って、創られなくなったんじゃないでしょうか?莫大な製作費も、やっぱりオールスターの出演料に消えてしまったんでしょうかね? とはいえ、今のようなYouTubeとかで色々観られる時代と違い、戦時中の貴重なカラーフィルムを、一般の人たちが気軽に観られるという意味では、一本の映画にまとめた意味はあったかもしれません。 日本側から観ると、不運に継ぐ不運が次々と重なり、歴史的大敗北へと繋がっていく様子が痛ましく思えます。映画はアメリカ視点なので、偵察機に艦隊を観られたのに音沙汰なしとか、決死の覚悟で攻撃した空母がボンボン大爆発したりと、事情を知らないアメリカ側としては幸運の連続だったことでしょう。 ただラッキーで終わっては面白くならないので、日本の暗号を解読していたとか、日系人女性と結婚しようとするパイロットとその親の話を織り交ぜたりしていますが…状況説明が多く、それほどドラマチックにはなっていません。 大金をつぎ込んだと思われるオールスターキャストも、ポツポツ出てきてはそれっきりな感じで、キャスト同士が特に物語上で絡むことなく、ツギハギ映画らしいツギハギキャストって感じでした。 [地上波(吹替)] 5点(2025-01-05 21:58:54) |
22. 駅 STATION
《ネタバレ》 大みそか~元旦に架けてのタイミングで観たい映画でした。この度、願い叶っての視聴でしたが、心地よい眠りに落ちてました。。。で、新年に再視聴。 雪深い港町。場末の居酒屋で美人の女将とNHKで紅白観て、八代亜紀の舟歌、そして深夜の初詣…日本人の心にじんわりと沁みますねぇ。でも“演歌”って、遡ると昭和40年代から昭和末期までの、20年ちょっとブームになった、当時の流行歌だったんです。ある程度年齢を重ねた男女の歌。身勝手な男と泣かされる女の、しみったれた関係を歌った、この“日本人の心=演歌”という一大ムーブメントは、この映画の頃がピークだったと思います。この映画は、そんな演歌のイメージビデオのような作品でした。 ロケーションが絶妙でした。日本海・増毛という終着駅が舞台です。そこから船で行く御冬。当時、海路でしか行けない陸の孤島でした。作中、伯父さんが語ったように、御冬は国道231号で陸路が繋がります。便利になった反面、単なる通過点の田舎町になってしまいましたが… 吉松を捕まえる上砂川駅の線路の多さに驚きです。この映画のすぐ後に炭鉱が閉山し廃線。人口も激減し、民家が点在するだけの集落と化しています。今も昔も札幌の街はにぎわってますね。パルコや西11丁目駅が懐かしい。留萌に人が溢れてて、まだ映画館があるのが時代を感じます。 北海道って札幌のようなオリンピックで急発展した都会があって、田舎は田舎のままで懐かしさを感じさせ、寂れた港町に炭鉱に陸の孤島が、まだある。徐々に近代化が進み、失われつつある懐かしい日本の風景。演歌と共に、これぞ日本人の心!ってイメージを創りあげてます。 ストーリーは、刑事ものとして森岡を追う映画かと思いきや、英次の目を通して、その時々の3人(3.5人?)の“女”の生き様を観せる映画でした。でも最初の女二人が映画の尺としては短めで、続く桐子がメインなため、一本の映画としてはバランスが悪い印象を受けます。 元妻・直子。彼女の浮気が原因らしいが、そもそも家庭を顧みない(と思われる)英次に三下り半を突き付けられる。涙を流し、笑顔で敬礼する直子…もうエンディングの画ですよね。夫婦の物語の、エンディングから、この映画は始まります。 犯罪者五郎の妹・すず子。兄思いの彼女を、自分の妹・冬子にだぶらせる。地元に置いてきた冬子が、兄とずっと暮らしてるすず子に似ているのではなく、カッとなる性格という部分が、自分と五郎をだぶらせる。すず子を使い捨てて、アッサリ他の女と一緒になる雪夫の“どのツラ下げて”感。まさに演歌の『弄ばれて捨てられた女』ですね。 そして場末の居酒屋の女将・桐子。帰る場所(家庭)の無い、英次のような男が行き着く場所として、最高の舞台です。歌登出身の桐子が、増毛で居酒屋を始めた理由は不明です。続けてる理由は何となく…でもこんな客が来ない店、当時も続かなかったろうな。英次が立ち寄るためだけに、ポツンと存在する居酒屋。ふつうこんな、独り身の美人女将の店なら、スケベオヤジが居座るか、常連のたまり場になってるか。まぁそんな連中も年越しは家族のモトに帰るんですね。 星座で相性の良さを伝える桐子。御冬神社のお守りを渡す英次。最果ての街から、ぼんやりと新しい人生を歩み出せそうな二人の悲しい結末。この時の、事情を知らない倍賞千恵子の演技の素晴らしさ。前の男が居るタイミングで新しい男が来てしまったバツの悪さから、英次が森岡を知っていることに驚き、森岡から英次(桐子は営林署の人と思ってる)を守ろうとしたところ、森岡の方が撃たれる。全てを察した桐子の「…そういうことか」で終わる二人の新しい人生。 出会い、愛を育み、別れる。三度流れる舟歌の使い方が素晴らしい。終着の増毛から留萌へと向かう汽車(電車か)。見送る人のいない出発。あぁ、日本の心・演歌の世界。 後半、お笑いパートを挟んでくるのが素晴らしい。武田鉄矢との“添い寝”はニヤニヤが止まらなかったです。劇中唯一の英次の心の声『樺太まで聞こえるかと思ったぜ』も、おしとやかな倍賞千恵子のギャップ&不器用な影でそんなコト思ってた健さんのギャップがサイコーでした。 でもね私が一番吹き出しそうになったのは、札幌へ帰る英次を桐子が駅で見送るシーンです。「まだ時間あるぜ」「…じゃね!」のあと、桐子が閉めた出口の扉が、勝手に開くのです!!倍賞千恵子が閉めたけど閉まりきらず、5cmほど隙間のあったアルミサッシの扉が、自然とスーーっと開くんです。その扉から高倉健が「桐ちゃん!」と出ていきます。あぁ扉の裏でスタッフが隠れて開けたのが、映っちゃったんでしょうね。“健さんに扉開けなんて雑用させられない”なんて、スター俳優様の扱い。なんか、凄い時代だったんですね。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2025-01-05 18:45:39) |
23. プラトーン
《ネタバレ》 “Platoon”『小隊』。 裕福な家庭で生まれ、順当に社会のレールに乗った“勝ち組学生”だったクリスが、若気の至りで泥沼のベトナム戦争に首を突っ込み、エリアスとバーンズという性格の極端に異なる二人の軍曹を鑑として成長していく様子が描かれます。 貧しい街の出身者がベトナムで戦っている。彼らは暴力的だったり、自堕落だったり様々ですが、おぼっちゃんで空っぽのクリスにはそんな下地はありません。そんな彼らが同じ軍服を着て“アメリカ兵”をやっています。 このアメリカ兵の小隊は、等身大のアメリカ社会の縮図として描かれます。社会って、きっとどこもそうですが、組織として一律にまとまっている訳でなく、その中にいろんな派閥があって、対抗しあって成り立っています。 小隊のトップはウォルフ中尉だけど、歴戦の分隊長バーンズ曹長が実質取り仕切っていて、オニール軍曹のような腰ぎんちゃくと一大勢力を形成しています。任務に忠実な反面、敵と見なした相手への残虐行為は目に余りますが、ウォルフは見て見ぬふりをするのが、小隊規模の組織らしい醜さを感じさせます。 一方エリアスは、ラーを中心としたドラッグパーティの一員として、オンとオフを分けることで自我を保っています。エリアス自身は優秀な兵士でしたが、彼らの派閥は組織としてはまとまりも熱意も少ない“ぬるい連中≒負け組”なため、任務ではいつも貧乏くじを引かされてます。エリアスの死で結束し掛けますが、バーンズの気迫にビビって何もできなかった連中でした。 二人の影響を受けたクリスは、村を偵察した際、怒りのままに片足の男に銃を向けるのは、バーンズのように常軌を逸した行為だし、レイプされた少女を助けるのは、こんな状況でも理性を失わなかったエリアスのような行いです。善と悪、どちらも自分の内面にありました。 エリアスが死に、バーンズも野放し。ドラッグに溺れて、祖母への手紙さえ書かなくなったクリス。最後の激戦での鬼神のような活躍は、自暴自棄にも観えますが、混乱に乗じてしっかり復讐を遂げます。 それより、激戦のなかで「陣地の上を爆撃しろ」と命じた中隊長。小隊のイザコザや確執なんてお構いなしで、末端の兵士は自分の上に味方の爆弾が降ってくるなんて知らずに、最後まで戦って、敵も味方も綺麗サッパリ吹き飛んだんですね。これが、貧しい街から“小隊”に集められたアメリカ兵の扱いなんですね。 これまで、ただ映画を見ていただけの私が、映画が趣味と呼べるものになったのは、この作品がキッカケでした。 戦争映画がアカデミー賞を取った。これって当時、とても凄い事のように思えていました。アカデミー賞といえば、その年の一番優れた映画が取る賞で、候補になるのは、大人しか観ない社会派映画か、ガンジーとか偉い人を扱った歴史映画が受賞するもので、子供の私にはまだ早い、大人の世界の話…と思っていました。言い換えると、(特に'80年代前半の)アカデミー賞なんて、子供が興味を持つ世界じゃなかったです。 そこに来て、私も何度か観た戦争映画というジャンルが受賞したっていうんだから、こりゃ中学に上がるタイミングで、大人の世界に触れるいい機会なんじゃないか?って、思ったみたいです。 「観たは観たけど、意味解らなかった」なんて事の無いよう、映画雑誌からプラトーンの情報を集めて、この映画の何が凄くてアカデミー賞なんて取ったのかを調べました。前売り券に付いていた販促のドッグタックを握りしめ、公開を待つ毎日。映画の外側の情報だけじゃ飽き足らず、ノベライズも買って、春休み中に読破してしまいました。映画を観てもいないのに、最後の方に出てくる鹿が何を意味するのかとか、そんな結末のイメージも出来て、準備万端で映画を観ました。 昨年も一緒に映画を観た友達4人を連れて、いざ劇場へ。「2回続けて観たい」という私のワガママに友人たちも同意してくれて。まずは同時上映サボテンブラザーズから始まり、本命プラトーン。そしてまたサボテン。ここで友人たちは「疲れたからゲーセンで休む」と言い出したので、私だけプラトーン2周しました。 観終わって友人たちと合流。友人たちとはサボテンの話題ばっかりでしたが、『プラトーンの凄さは、私たちにはちょっと早かったかな?でも私が理解していれば、いいや』なんて思っていました。映画を観て理解したのでなく、いろんな解説やらノベル読んでやっと理解できてるかどうか?なレベルなのにね。そんなワケで、映画を観て考える。製作者の考えを汲み取って、画面に映される以上の広がりを観て、自分なりに消化する。そんな観方はこのプラトーンから始まりました。 [映画館(字幕)] 10点(2025-01-05 17:41:54) |
24. 単騎、千里を走る。
《ネタバレ》 “千里走単騎”邦題まま。タイトルから『健さんが凄い距離を一人で移動する映画かぁ、あぁ、ラリーの奴かなぁ』と思ったんですがそれは別な映画でした。 映画人・高倉健の遺作としての『ぽっぽや』良かったです。そのあとの高倉健の蛇足『ホタル』が駄作だったので、「韓国の次は中国か…」って、不安の方が大きい作品でしたが、思いのほか見応えがあって、静かだけどとても面白かったです。 『単騎、千里を走る。』という三国志演義の関羽の…つまり、演者が仮面をかぶって踊って歌う伝統舞踊の演目の一つだったんですね。 人づきあいが苦手な剛一が、言葉の通じない雲南省で、頭を下げたり誠意を尽くしたり、徐々に目的の舞踊撮影に近づいていく様子がとても見応えがありました。 急な呼び出しでも対応してくれる通訳の女性(最初健さんの頼みを断って冷たいと思った)。日本語が殆ど解らないのに付き添ったガイドの人(最初インチキじゃないか?と怪しいと思った)。面会を許可した刑務所長(This is 中国!って政府人間だと思った)。ヤンヤンを連れ出しを許可してくれた村長(ヤンヤン孤児だから厳しくしてるのかと思った)。 なんかみんな良い人たちで。あちらに住んでる人たちって、ホントはこんな、優しくて、私たちを理解しようと一緒に悩んでくれる、ほのぼのした人たちなのかもな?って思えました。最近、中国に対して友好的な話があまり出てきませんが、この映画に出てくる人たちとは、平和で友好的な隣人関係が持てそうで、そうなると良いなと思います。 さて、日本パートというか、寺島しのぶパートは全部苦手でした。最初の面会(拒否)から、何でもう少し事前に交通整理しとかないねん!って思ってしまった。 そして中国に渡った際も、健一に言うなといわれてたのに、何で言うねん!って。そして剛一の努力を全部ぶち壊しにする健一の“単騎~”の気持ちを言っちゃうし。 最後は訃報は仕方ないにせよ、剛一にとって道半ばのあそこで、遺書読むか?しかも国際電話で!?(※剛一は移動中だし国内と違ってバッテリーの浪費は避けたい) 何かもう、李加民の舞踊が消化試合にように、どうでもよくなってしまって… 一度難関をクリアすると、次回以降その難関はスルー出来るのはちょっと気になりました。ヤンヤンの村の宴会中に鳴る電話…屋根に登らないと通話できないんじゃ?遭難した二人を助けに来た救急車と通訳…あそこは車が通れないからトラクターに乗り換えたんじゃ?簡単に入れるだけでなく観客とかグレードアップしてた刑務所のステージ…でも寂しさ倍増のパーティライトが好きさ! いろいろ書いたけど、あの当時のイメージ通りの健さんを観られて、良い映画でした。 [DVD(字幕)] 7点(2024-12-30 15:51:16) |
25. ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世紀
《ネタバレ》 '68年のオリジナルと同じタイトルです。ジョニーの車が'60年代からある縦目のベンツなので、時代設定も当時のままかと思っていました。家もガソリンスタンドも、モノクロのテレビなんかもきっと当時モノなので、恐らく視聴者に『当時の作品をまんまリメイクしたんだな』ってミスリードとして、敢えて’60年代風に、始まってます。 オリジナル以上に感心した部分が、作品から滲み出る、死者を含む人間への敬意と思いやりです。事件は突然起きるので、世の中がどうなっているかまだ把握できてない主人公たち。動けないゾンビにとどめを刺す。リビングに転がる家主の遺体をカーペットでくるむ。ゾンビ映画を観慣れてると「ゾンビ=バンバン殺してOK」ってなりますが、現実に起こったらきっと、彼らのようにするでしょう。 オリジナルは主要メンバーが外部の人間ばかりでしたが、トムの叔父の家にしています。叔父の生前の写真を映したり、ベンが2階に上がるときトムにいとこの死体を見せないよう布をかけるなど、ゾンビと言えど殺しにくい事情を加味しているのは流石です。 オリジナルと本作の一番の違いは、時代に合わせた『強い女性』の登場でしょう。ジョニーに言われっぱなしの、母親の尻に敷かれっぱなしの、行き遅れの、お一人様女子なバーバラ。母が死んで、彼女は今後どう生きればいいか解らなくなっていたんでしょう。だから何度も母の墓にきて…恐らくあの伊達(!)メガネは、現実を直視したくない彼女と世間の防御壁のような存在だったんでしょう。 彼女の願いが叶ってか、世界はゾンビによって“リセット”されました。家族のしがらみ無くなった。守るものは身一つ。なんか私射撃上手い。よし!この世界なら私生きていける!!…なんかこう書くと、異世界転生もの走りにも思えますね。 最後の方で「私たちは彼らと一緒ね」って独り言のあと、ハンターたちに「楽しい?」と聞きます。コレどう考えても彼女自身がこの世界を楽しんでるんです。だってこの映画で“人間”を殺したのって、彼女だけなんですよ。 時代設定のミスリードの話をしましたが、終盤、ベンが地下に籠った時のラジオで、ようやく1989年8月23日と解ります。クラシカルなリメイクホラーと思わせつつ、公開当時の現代に繋げてますね。 警察やハンターが集まる安全地帯には、真面目に治安維持活動してる人たちと、ゾンビをいたぶって楽しんでる連中が混在してますが、コレゾンビに出てきたバイカー=暴走族たちです。 そして彼女が陣地で目覚めたとき、上空をヘリが飛んでますが、あれフライボーイのと同型のベル206なんです。スティーブン「ハリスバーグは半時間前に通過した、~もうすぐジョンズタウンだ」の、あの場所がこの場所だったんですね。※もちろん11年の開きがあるのでパラレルですが。 『ゾンビ』はフランが目覚めるシーンから始まりました。本作はバーバラが目覚めるシーンから『ゾンビ』の世界に繋がっていくんです。よく出来てますねぇ。トム・サビーニのゾンビ愛が詰まってます。 [ビデオ(字幕)] 8点(2024-12-30 13:40:19) |
26. オーメン(1976)
《ネタバレ》 “The Omen”『前兆』。つまりアレでしょうかね?被害者の生前、写真に写った不気味な影でしょうかね?でもオーメン2(Damien: Omen II=オーメンがサブタイに)、3(The Final Conflict=オーメン無くなった)って原題だったことを考えると『悪魔が本領を発揮する前兆』という意味なのかも? 確かに本作のダミアンは自らが悪事を働くのではなく、ダミアンの守護者が災いをもたらしてるみたいだしね。 アラバマ物語('62年)以降、目立った作品に出ていなかった(と思う)グレゴリーペックのヒット作でもありました。ダミアンを演じた子って、その後どんな人生を歩んだんだろう?でも、あの子のあの目が恐怖を感じさせます。舞台がイギリスというのも、近代的なアメリカの都市と違い、当時からレトロ感の演出(=宗教との繋がりの深さ)に一役買っていたと思います。 本作以前のホラーの名作をあまり観ていないので、あくまで想像ですが、この映画以前のホラーの悪魔って、特殊メイクやシルエット状の悪魔々々したイメージだったんじゃないでしょうか?エクソシストでも憑依という形で悪魔が姿を出していますね。 本作では安易な悪魔のイメージを一切出さず、自殺や事故、自然現象に見せて邪魔者を消していくやり方が、一歩進んだ斬新さだったように思います。首吊り、転落死、首ちょんぱ…無残な死を直接観せるのはホラー映画として成立させるための保険だったかもしれませんが、結果的にとてもバランスの良い、怖い映画に仕上がってます。 初見は小学校低学年の頃ですね、曇り空の日曜のお昼、ママンは買い物に出かけたらしく、いつも食べてるケチャップチャーハンと普段食べないブルボンのルマンドが置いてありました。ご飯食べて、ルマンドつまみながら、たまたま午後のロードショーで流れていたこの映画を観てしまいましたよ。自殺する家政婦さんのシーンが怖くて怖くて…だって笑顔で死んでいく彼女の心境って、どんなだろう?って。自分にはどうすることもできない力で殺される恐怖に、すっかり怯えてしまいました。トラウマですね。怖いけど目を離すことが出来ず『お姉ちゃんでいいから早く帰ってきてよぉ~』って願いも空しく、最後まで独りで観てしまいました。エンディングでダミアンを殺せなかった時の絶望感って無かったね。なんか動物を全部数えると666だそうで『これ動物図鑑とかで確かめちゃいけないやつだ、確かめたらきっとダミアンに殺される!』って思ってました。今でこそオーメン余裕で観られますが、ルマンドの紫のパッケージを見ると、休日の曇り空の昼下がりの苦い過去を思い出します。 [地上波(吹替)] 8点(2024-12-29 16:13:07) |
27. 東京ゴッドファーザーズ
《ネタバレ》 今年のクリスマス映画に選びました。ホームレスとして一緒に生活する3人。ホームレスになったそれぞれの事情…というのが、ざっくり自分の身勝手さなんですね。それが、拾った赤ん坊を助けたい一心で次々と奇跡が起きていく。 赤ん坊を拾った時から、ペンキ缶が当たりそうになる、転倒バイクに轢かれそうになる…ってわかりやすい奇跡が起きます。簡単な奇跡から巡り巡っての奇跡まで、いろんな奇跡が詰め込まれた温かい映画でした。 この映画を観たいと思ったキッカケが、春から放送されてた朝ドラ『オードリー』の再放送を観て、主演の岡本綾に光るものを感じたからです。『続けていれば凄い女優さんになったろうに、早々に引退しちゃったんだな』って。そんな彼女が恐らく最初で最後の声優をしたのが本作でした。オードリーの彼女からは想像も付かない、不貞腐れた声と独特なイントネーションがとても良かったです。 全身厚手のフル装備だからよく解らなかったけど、以前はもっとぽっちゃりしてたミユキ。父を刺した回想が面白い。横たわる父の後ろでその事件を取り上げるテレビのワイドショー。「血なんかこれで拭けばいいじゃん」美由紀からのプレゼントだけど、服装から季節は夏だし、さすがにマフラーは使わないだろう。電車で偶然会った時、父はちゃんとマフラーしてました。両親がハナたちに代わり、家が段ボールハウスになり、今の痩せたミユキになってる。この境界線があいまいな夢の表現が実に今監督らしい。 察するに夏からホームレスになったミユキ。暗殺者にさらわれた際、ここにきて自分が売られる恐怖を感じます。それまでギンに拾われたために、闇落ちせずにノビノビ育ってたのも奇跡ですね。 父の愛情を感じられなかった美由紀が、赤ん坊をさらった幸子に、必死に親元に返すよう説得する言葉が、全部自分に跳ね返ってます。 ギンが助けた行倒れ爺さんがギンと(パッと見)同じ格好してる=将来の自分。娘を難病で亡くし妻を失った医者=ギンが自分語りするときの架空の自分。 そしてギャンブル好きで身を滅ぼした泰男=過去の自分。泰男を殴って言う言葉が、そのまんま過去の自分に言ってます。そんな過去の自分(泰男)が自殺しようとする幸子に「生まれ変わって、もう一度やり直そう」と叫ぶ。奇跡的に娘に会えたギンは、今後どうするんでしょうか? ホームレスが本当のホーム(家族)を再発見する奇跡の話。だけどハナちゃんどうなるんだろ?ギンが妻のもとに帰ったらそれこそ独りぼっちです。「泣いた赤鬼」の青鬼になってしまいます。なのできっとギンとハナちゃんは一緒に暮らすのかな。 2億円当選の宝くじ。やりすぎな気もするけど“赤ん坊の命はそれ以上の価値がある”って意味かなぁ? 最後、ゴッドファーザーズ(名付け親たち)のタイトル回収も巧いです。あの子が何て名前になるか一発で解る優しさ。年末にお酒を飲んで回らないアタマには、こういうのが丁度いいんだよ。ホント。 本作のモトになった西部劇『三人の名付け親』も観てみたいですね。 [DVD(邦画)] 8点(2024-12-29 11:47:08) |
28. 秋日和
なるほど、『晩春』のセルフパロディのような映画です。私はこっちから先に観てしまいました。 主役の父娘を母娘に変えていますが、娘の結婚の呼び水として親の結婚を絡めるという部分も、いつも二人で暮らしているのに、旅行先が本音を語り合う場になっているのも共通しています。 親の性別以外で大きく違うのは、前作から11年経っていること。戦後から15年も経っていることでしょうか。晩春との比較が多くなってしまいますがご容赦を~。 この15年で日本は大きく発展しました。朝鮮特需と高度経済成長。また若者の結婚に対する考え方も変わったと言えるでしょう。『晩春』の紀子が叔母の紹介でお見合いする相手(熊五郎だっけ?)が一切登場しないのに対し、本作の後藤は、最初こそ間宮の紹介だったけど、結果的には恋愛結婚をしています。心の拠り所だった父自らが、娘を結婚という未知の世界に飛び込ませ、幸せになることを何度も強調していた『晩春』と違い、本作は恋愛の延長としての結婚を描いていて、自然と幸せになれる雰囲気を感じさせます。母親の存在が“自分だけ幸せになる心残り”として描かれているように感じました。幸せを掴み取る時代から、幸せのカタチをを選ぶ時代になった。といったところでしょうか。 本作は母娘以上にオヤジトリオが目立ちます。これがまた、素直に楽しめる方は良いんですが、あの時代だから許された、今の時代にはそぐわない過去の遺物にも思えます。娘の友達にお茶を運んできた周吉の家庭っぽさに対し、外食にゴルフに酒場にと遊び盛りのオヤジたち。家に帰れば服をポンポン脱ぎ捨て、それを妻が拾って片す。このシーンを入れておいて、伊香保の旅館で秋子が「結婚して幸せになるのよ」なんて何度も強調されたら、それこそ茶番です。オヤジトリオも秋子も、古い価値観の結婚像しか描けないんでしょう。 更に、母娘以上に活躍するのが百合子です。友人思いで家族思い。頼まれてもいないのに、単身オヤジトリオを打ち負かす様子はまさに痛快です。 最もオヤジたちも、この映画の悪として描かれている訳ではないので、百合子の破天荒さを温かく見守っている存在。そんな雰囲気も感じられました。 [DVD(邦画)] 7点(2024-12-26 23:58:15) |
29. ダークナイト(2008)
《ネタバレ》 “The Dark Knight”『暗黒の騎士』。『ダークナイト トリロジー』と言われているように、この2作目がシリーズの看板タイトルです。前作が幼少期からのブルースウェインの成長を描いたのに対し、本作は宿敵ジョーカーとの戦いに的を絞っています。今回のバットマンシリーズの目玉が本作であり、本作の世界観を広げるための前作…と言えてしまうくらいの出来栄えです。 ジョーカーといえばジャック・ニコルソンの怪演が、懐かしくも記憶に新しくもありで、前シリーズではこのジョーカーを超える悪役は遂に登場しませんでした。そりゃどの作品もペンギンにせよトゥーフェイスにせよ“個性的でユーモラスな悪役とその組織”って、1作目と同じベクトルばかりだったので、ジョーカーを超えることはもちろん無理でした。 ユーモラスな悪役から、どこかリアルな悪役にベクトルを変えてきた本シリーズ。ニコルソン・ジョーカーとは全然別の、全く新しいジョーカーで、真正面から勝負してきました。ヒース・レジャー演じるジョーカーからは恐怖と狂気を感じます。犯罪を楽しんでいるけど、楽しいのはジョーカーだけ。そんな、交渉の余地のない絶対悪のような存在をぶつけてきました。口にナイフを入れての自分語りや偽バットマンへの暴行はゾッとします。それでいて看護師の恰好で病院を爆破するところでは、愛嬌すら感じさせます。凄いキャラクターの誕生です。こんな怪演を観せてくれたヒースの、あまりに短い生涯が悔やまれます。 前座の悪役としてスケアクロウを出してるところは、人を殺さない主義のバットマンらしく好感。何より重要人物レイチェルが、まさか…でした。恐らくトリロジーの時点で彼女の運命も決めていたのかと思うと、3部作と言いつつも、2作目への力の入れっぷりが伝わります。 ジョーカーとのガチンコバトルと思っていたところ、ハービー/トゥー・フェイスを本作で惜しげもなく登場させたのも凄い。光の騎士の最後と、それに続くタイトル回収は鳥肌モノでした。 そして、こんな完璧なものを観せたあとに、この後何をどう続けるんだろう??って不安にもなりました。 [映画館(字幕)] 10点(2024-12-23 23:01:00) |
30. ザ・クレイジーズ(1972)
《ネタバレ》 “THE CRAZIES”『狂気の集団』。高校生の頃、ゾンビのビデオを借りたら、『ナイトオブ~』と『マーティン』とコレの予告編が入ってました。まぁ~ま、3本とも、なんて面白そうなんでしょう!中でもこの『ザ・クレイジーズ』の期待値は相当高かったです。 細菌兵器が町でバラまかれて、ガスマスクをした全身防護服の軍隊によって隔離される。住民は反発して暴れだし、軍隊は容赦なく銃を向ける…あぁ、きっとそんな話だな。怖い怖い!「ザ!…クレイジィ~~ズ!!」ドキュメンタリータッチの映像と予告のナレーションが凄く合っていて、恐怖倍増です。だけど当時、こんなマニアックな映画は近所のビデオ屋に置いてなくて、ず~っと観られませんでした。 観たいと思ってから10年ちょっと。2000年代に入りDVDが売っているのを発見。遂に観ることができました。思えば自分で買った映画DVDの第一号だったかもしれません。ワクワクドキドキ。…感想から言いますと、期待の方が上回っちゃったかなぁ~? この映画を観るまでに、カサンドラクロスとかアウトブレイクを観てしまっていて、恐らくこの映画に求めたモノは、もうある程度満たされてしまっていたんですね。作中のディテールに光るものは多数ありましたが、全体的にのんびりした展開で、緊張感があまり感じられず… メインは主人公たちの逃避行なんですが、軍は彼らを執拗に追うでもなく、パトロールしてる軍隊と場当たり的に戦闘して逃げて。を繰り返してる印象。町の中心から、隣町とかに行けばゴールなんだろうけど、どこまで進んだかも掴めない感じ。最後のブロック積んで隠すところも、何でそこ?って思うし、時々隙間から手を出すとことか、特にハラハラしないし… ドキュメンタリータッチな映像はゾンビに通ずるものがひしひしと感じられます。感染者はいろんな行動をとります。狂暴になって非感染者に襲い掛かったり、焼身自殺をしたり。だけでなく幼児退行したり、草原にホウキ掛けしたりと様々。 妻殺しや神父の自殺、父と娘の近親相姦シーンを入れるところは問題児ロメロ監督らしいです。 ガスマスクの兵隊も釣り竿盗んだり好き放題。末端の兵士は状況を知らないのに、逃げる住人撃ち殺したり、重症の感染者を生きたまま焼いたりと手加減なし。マスクしててもじわじわと感染してたのかもしれないけど。 主人公と恋人(妊娠中)が無事逃げられるか?がメインなんだろうけど、時間とともにストーリーを忘れてしまってます。ちょっと微笑ましかったワッツ博士と助手の年配女性の恋模様や、大佐の全裸着替えとかは覚えてるのにね。 数少ないロメロ監督作品の一つで、cult的人気がある作品です。悪い映画じゃないけど、予告編の出来が本編を上回って良すぎでした。 [DVD(字幕)] 5点(2024-12-21 23:14:27) |
31. 機動警察パトレイバー2 the Movie
《ネタバレ》 ロボットアニメなのにレイバーの活躍は僅かで、騒々しい特車二課第二小隊の面々を、前作以上に脇役にして、両隊長を事件の中心に置いてます。もともとがOVA版『二課の一番長い日』のリメイクともいえる作品です。そこから更に押井テイストが前面に出た本作。観はじめは「私たちが知るパトレイバーらしくない」…って感じもしましたが、観ているうちにグイグイ引き込まれてしまい、最後のレイバー戦すら不要だったんじゃないか?って思えるくらい、見応えのあるSFアニメでした。 この映画のハイライト、幻の空爆が凄いです。平和ボケと言われた当時の日本で、かつて無いヤバい事が起きてるのがビシビシ伝わってくる。追撃に上がったウィザード隊が撃墜された時の衝撃。映像はF-15の編隊が飛んで、管制室と交信しているだけ(!)なのに。無機質なデジタル映像と、淡々とした登場人物のセリフ。場面にマッチした川井慶次の音楽。それら素晴らしいマリアージュが、あの何とも言えない緊張感を産み出したんですね。 ここはビデオテープが擦り切れるくらい何度も観ました。今回初めてサウンドリニューアル版も聞きましたが、俗にいう“素人バージョン”の方が伝わり具合が上回っているように感じます。 ※最初リニューアル版で観ようとしましたが、オープニングに曲を被せたりと、ちょっと違和感を感じたので、結局オリジナルバージョンで通し観しました。 この場面で荒川が急に車を飛ばします。ここから物語の勢いが急加速するので、今まで考えたこと無かったけど、荒川はどこに向かったんでしょうかね?まさか、首都圏から逃げたとか?後藤と南雲はどこに連れて行かれて、そこで何を見たんでしょう??今になって謎が生まれました。 当時の状況を思い出すと、湾岸戦争を機に、自衛隊がついに海外派遣('91年~)を始めたばかりで、OPの“戦場で発砲できずに撃墜される自衛隊レイバー”に、妙な説得力、リアルな未来を感じました。そしてベイブリッジ爆破、たった一発のミサイルで崩れ去る安全神話と繋がるから、実被害ゼロの幻の空爆に緊張感があるんですね。野明が暮らす寮にアジア系(ブラジル系?)の外国人。同じ屋根の下に外国人って、当時はまだ珍しかったんですよね。そして日常世界に武装した自衛隊が居る違和感。映画の中の架空の物語ですが、数年後にこの映画のような緊張感を現実に味わいます。地下鉄サリン事件('95年)で表面化したオウム事件です。都市部での毒ガス散布の脅威、破壊活動防止法。毎日の報道特番を観ながら、悪い意味で時代がSF映画に追いついたような、不思議な怖さを感じましたね。 どういう訳か、作品全体から冷たい印象を受けますよね。冬が舞台なのと、パトレイバーらしいアツい登場人物の出番が抑えられてるから…というだけでなく、なるほど、登場人物同士が、意図的に目を合わせてないんですね。 並んで正面(同じ方向)を向いていたり、人物の横顔を見ていたり。実際には向き合っている場面でも、話し相手を反射するガラスに映したり、敢えて顔を見切れさせたり…押井さんの実験とも取れますが、徹底してます。そして最後、しのぶが柘植に手錠を掛けたあと、無言で見つめ合う二人を映します。それをヘリから見る後藤。どれだけ思っても、しのぶがあの表情を後藤に向けることはない。手袋越しとはいえ、指を絡め、少しの時間でも一緒に居るため手錠の片側を自分に嵌めるしのぶ。ある意味普段のパトレイバーらしい気持ちの行き違いが、押井さんの抑えた演出により、大人の恋愛の切なさを感じさせます。 [映画館(邦画)] 10点(2024-12-19 23:29:48)(良:1票) |
32. 晩春
《ネタバレ》 大失敗!秋だったからって『秋日和』を先に観てしまったわっ!なので、こんな季節に『晩春』です。 父娘の物語の合間・合間に、平和で穏やかな日本の風景、文化をちりばめていますね。茶道教室でお茶を点てる所作を静かに観せる。中盤の能のシーンも印象的。ここでは紀子が父の再婚相手に複雑な感情を抱くシーンだけど、能に結構な時間を割いている。親子最後の京都旅行では、清水寺や竜安寺の石庭といった有数の観光地を観せている。終戦から4年後のお話ですが、まるで戦争なんて無かったかのごとく、時間が止まっているかのごとく、日本の美しい原風景が映し出されます。 今から振り返ると“懐かしい、古き良き日本”の映像ですが、公開当時は古い時代(戦前からあるもの)と新しい時代(戦後に出来たもの)の、日本の過渡期を表現していたように思えます。序盤の日本情緒あふれる鎌倉と比べ、近代的な銀座は外来のカタカナ看板が目立つ。若者がサイクリングで向かう先にはローマ字表記とコカ・コーラの看板。まだ進駐軍が残ってるんでしょうか、戦後らしいです。 紀子の友人アヤは、離婚してステノグラファー(速記)なんて仕事をしています。女性が手に職をつけて、社会で働く時代が目の前まで来てるんですね。働くだけでなく、旦那さん探しも大切なことです。紀子の同級生は、働くか、結婚しているようです。多くの若い男が戦争で命を落とし、女性が生きていくには、どちらかの道を選ぶ必要があったと思います。 周吉は、紀子と友人にパンと紅茶を運んできます。当時の日本の父親像といえば、亭主関白や一家の大黒柱といった“家長”としての立ち位置が思い浮かびますが、ずいぶんと柔らかい父親ですよね。紀子が『このままお父さんと居たい』といった気持ちがわかります。 周吉は56歳。まだ若い!と思うのは今の感覚。当時は(戦後の労働力不足の時代でさえ)55歳で定年退職でした。もう死を考えていい歳です。 紀子は27歳。全然若い!と思うのは今の感覚。当時は30過ぎて独身だと“行かず後家”と後ろ指刺されます。一世一代の嘘をついても、ここで嫁に出すしか無かったんですね。『ファザコン娘を父離れさせたい件』…なんて呑気な話ではなく、欧米化が進む戦後激動の時代、自分の死後、自活能力のない愛娘の、残り半分の人生をどうするか?という切実なお話だったのでした。 壺…特に気にならずに観てしまいましたが、私はこの父娘に性的な暗喩は感じませんでした。だって、この映画の主役は父でしょう? 壺は本来、食料を入れたり、花を挿したりするものですが、あの壺はそのような用途には使われていません。泊まり客の目を楽しませる、本来の用を成さない“置き物”です。おそらく、父と娘で仲良く暮らす、今のままの紀子を表しているんでしょう。二人一緒だと楽しいけれど、人として生まれながら、何の用も成せない、置き物のような存在になってしまう。 寝室の壺の後に、竜安寺の石庭が映ります。400年以上変わらないものを見つめ、ガラッと変わった戦後の日本を生きていく人間として、娘だけでも変えてあげなくてはいけない。そんな決意を固めたんでしょう。 「なるんだよ、幸せに」娘の幸せを一番に思う父の気持ちに、一人リンゴを剝く背中に、温かい気持ちになれました。 [DVD(邦画)] 9点(2024-12-18 22:54:01) |
33. 若き勇者たち
《ネタバレ》 “Red Dawn”『赤い夜明け』。血の赤とか、共産圏のアカとか、そんな意味合いだと思います。 当時、第三次世界大戦が起きるとしたら、高い確率で全面核戦争で、東西両国家は滅ぶものと思っていました。戦車や歩兵が戦う戦争というのは、過去のものか、小規模な地域紛争で行われるものと考えていました。 初視聴はテレビのロードショーでしたが、最初のテロップの記憶が無かったです。米、英、中国(!?)連合VSソ連、ニカラグア、キューバ他東側諸国の戦争で、ヨーロッパは中立でNATOは解散。ソ連に核攻撃を受けた後の、映画本編でした。…こんな話だったんだぁ。 平和な街の日常に、ふわりとパラシュート部隊が降ってきて、担任の先生にいきなり機銃を撃つ非日常感。壊されていく日常風景。訳が分からないうちに始まる逃亡生活が、呆気ない核戦争とは違う恐ろしさを感じさせました。 それと同時に知恵と工夫次第では戦争でも生き残れることを示唆しているように感じて、まるでパニック映画やサバイバル映画の一つのように、私ならどうしたろうか?と考えを巡らせながら観る事ができました。 子供たち(と言っていいのかな?)だけで考えて、家族や街を滅茶苦茶にした連中に一泡吹かせる。撃墜された空軍大佐が来るまで、戦況もロクにわからずに、ただ抵抗運動を続ける(=アメリカの正規軍と連携をとっていない)様子が、『銀河漂流バイファム』のようで、不謹慎ながらワクワクして観ていましたね。 2度目以降の視聴では、結構ドンパチが多めで、ドラマが少ないな…って思いましたが、仲間がやられたり、捕虜を捕えたり、裏切りがあったりと、戦争では避けられない悲劇と、その場その場の判断を子供たちだけで決めていく様子に、とても共感して、時には驚いて観ていました。 敵の将校が人間味のある人物でしたね。当時の共産圏の敵将校だから、もっと憎々しい悪者か、殺戮が好きな狂人として描かれても不思議じゃなかったと思いますが、まっとうな考えの人物として描かれていたのは意外でした。 [地上波(吹替)] 6点(2024-12-16 23:16:56) |
34. ブレイド2
《ネタバレ》 “BLADE II”邦題まま。 始まってすぐ、『ウィスラー、生きとったんかワレ!…格好わる』って驚きと共に、人気あったから無理っくり続編を作ったんかなぁ?って不安も大きかったです。今度の相棒スカッドが、なかなかいい味出してるんだから、あの状況でわざわざウィスラー復活させんでも…とは思いました。 今度の敵はリーパーズ。ヴァンパイアものだから前作からホラーテイストはありましたが、口の裂け方とか結構グロい。血が噴き出すとかでなく内臓系のグロさ。この辺はデル・トロの持ち味発揮だろうか? まさかのブレイドとバンパイアの共闘がワクワクさせてくれました。それも対ブレイド用に結成された部隊・ブラッドパックってのがかっこいい。日本刀には日本刀、無口で強いスノウマンがかっこいいですね。もっと活躍してほしかったですが、呆気ない最後…。チュパの名言「地獄行きまでマン毛一本だったぜ」は当時の私の流行語大賞でした。運よく使う機会は無かったですが。 ヴェルレーヌとライトハンマーのカップルって、日本のサイバーパンク系ボンデージファッションのキャラクターがモトのハズ(作者やタイトル失念しました)。そんなワケで、この長さの映画で、一度っきりの登場にも関わらず、ブラッドパックの面々の残した存在感はかなりのものでした。 ヴァンパイアと共闘しつつも、敵にも味方にも裏切りがあったりと、気の抜けない展開が飽きさせません。裏切者がハッキリして、本当の黒幕が割れて、ノーマックが戦う意味が分かり、さぁ最後スッキリ戦うぞ!って所から、なんか期待してたのと違う展開でした。でも2作続けて満足度は高めです。 3作目はイマイチだった記憶があるので、ここまでにしときます。 [映画館(字幕)] 6点(2024-12-16 22:25:22) |
35. サルバドル/遥かなる日々
《ネタバレ》 “Salvador”スペイン語で『救う者』。男性名詞のElが頭に付いて国名『エルサルバドル』になる。プラトーンの大ヒットを受けて、オリバー・ストーン監督の一つ前の作品ですが、日本で劇場公開されました。私もプラトーンに衝撃を受けた影響で本作も劇場で観ようと思いましたが、上映期間が短かったため、レンタルビデオになりました。劇場で観ていたら、恐ろしすぎてトラウマになっていたかもしれません。ビデオでも充分怖かったです。今日まで再視聴しようって気にならなかったくらいですから、充分トラウマ級です。 戦争だと、敵と遭遇すると殺される危険性が理解できますが、内戦って、いつ、どこで、誰に殺されるかわからない。市民を殺しているのも右派の政府軍。こんな怖い国が、アメリカと地つづきで、騙された友人を乗せたボロ車で、ふらっと行ける距離にある。恐ろしいですね。ボイルたちがエルサルバドルに入国して以降、ずっとテンション張りっぱなしで観てました。 セジュラ(許可証)がないからと殺される青年も、処刑場の死体の山(新しいのから古いのまで)も衝撃でした。あまりに辛すぎて参ってしまいますが、友人ドクが清涼剤として機能していました。尻に注射打たれるシーンとか、いけ好かない女性リポーターの飲み物にLSD混ぜたりと、観てる私を救ってくれてます。 ボイルのアロハシャツにも注目です。南国とはいえ内戦で荒れた国に、能天気にも柄違いのアロハを6着ほど持ってきたみたいです。スマートでチャラい役のジェームズ・ウッズにアロハがとっても似合ってます。 また現地の恋人マリアも、ボランティアのキャシーも共にキュートです。エルピディア・カリロはプレデターでもヒロインやってましたし、シンシア・ギブは当時の映画雑誌(特にロードショー)の表紙に何回か出ていて、ダイアン・レインやリー・トンプソンと並び、新時代のアイドル的存在でした。それだけに、彼女たちに待ち受ける運命があまりに酷い。 キャシーを含む修道女のレイプはかなりショックです。当時ゴールデン洋画劇場で(このシーンも)放送されたので、記憶に焼き付いた人は多いかと思います。劇中キャシーの献身的な姿を観ているため、殺されると解って十字を切る姿、その後土の中から掘り起こされる無惨な姿が本当に痛ましい。この事件は実際に起きた事件で、最高齢のシスターは68歳だったそうです。 国境で殺されそうになるボイルが、間一髪助かった後、自分を殺そうとした連中と笑顔でビールを飲む。狂気です。この国の全てが病んでるって思えます。その病んでるちっぽけな小国の政府軍を、レーガン新政権が強力に支持していた事実。まだネットのない時代、まだ世界が広大だった時代。映画から学ぶことって沢山ありました。 [ビデオ(字幕)] 7点(2024-12-08 22:33:33) |
36. ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生
《ネタバレ》 “NIGHT OF THE LIVING DEAD”『生ける屍の夜』。 全てのゾンビ映画の起源。モノクロでレトロな雰囲気が漂うけど、'68年と意外と新しい。この作品までの『ゾンビ』とは、ヴードゥー教の“畑とかで奴隷労働をさせられる死体”が原点で、人を襲うことはしません。本作よりもっと昔、'32年に『恐怖城』というゾンビ映画があったようですが、怖いのはゾンビではなく、ゾンビを作り出すマスター(祈祷師)の方だったみたいです。なので、この作品からゾンビ自体が恐怖のモンスターとなりました。 そして本作で追加された新設定①人を襲う。②頭を破壊しないと死なない。…といった今ではスタンダードな設定が誕生しました。また⑤火を怖がる。⑥動きが遅い。といった、宗教ルーツのモンスターらしい特徴も備えていますね。ここは恐らく次作までは継承されてます。 ※だけどベンの話だと猛スピードの給油トラックを襲ったらしいので、新鮮なゾンビは足が速いのかも? 作中ではモンスターを『ゾンビ』とは言ってなくて、これらの設定は、映画の中で徐々に解っていくようになっていきます。 ※基礎として、多くの人が本作を観る前にゾンビの設定を知っているので、徐々に明かされるモンスターの特徴を、新鮮な気持ちで観る視点は要求されます。 本作で一番の衝撃設定が、人を襲うだけでなく③襲った人を食う=カニバリズム。でしょう。ゾンビを怖いものにした最大の要素がこの“共食い行為”で、映画も残すところ20分って辺りに行われます。この映画のハイライトですね。人間の形をしたモンスターが、第三者ではなく映画の登場人物・トムとジュディの手や内臓を食う映像は、当時は倫理的に相当際どい描写だったと思います。’68年なのにモノクロ作品だったのも頷けます。 そして④噛まれた者もゾンビになる。この描写は、残り10分って辺りに、クーパーの娘と、バーバラの兄の登場で明らかになります。ゾンビが延々と増え続ける絶望感に繋がっていますが、作中では、クーパーの娘が父を食い、母を刺し殺すというおぞましい描写が描かれます。更に普通の映画だったら助かるヒロイン・バーバラが兄ジョニーに抱き抱えられて連れ去られます。その場で殺すのでなく“集団で女性を連れ去る”という行為が強姦(しかも兄妹)を連想させます。 物語も終盤に来て、カニバリズム、親殺し、近親相姦(を連想させる描写)といった、宗教倫理上の“禁忌行為”をバンバン入れてきます。この辺りが作中のモンスターを“ヴードゥー教のゾンビと同一のモノ”としなかった要因だったのかもしれません。後々を考えると、宗教ではなく原因不明(彗星や隕石とも言われますが)としたことが、他のモンスターと比べ、ゾンビの使い勝手の良さを拡大させたんでしょう。 恐怖の夜が明け、保安官達によって、ゾンビ騒動の鎮圧が成功しそうな方向で終わります。そうでもしないと、あまりに救いがなかったからでしょう。 ちなみに私が最初に観たの(レンタルビデオ)は、今となってはレアな着色カラーバージョンでした。普通のカラーと比べてそんなに違和感はなかったけど、炎の表現は透明感のないベタ塗りのオレンジでしたね。 [ビデオ(字幕)] 8点(2024-12-08 11:44:27) |
37. ブレイド(1998)
《ネタバレ》 “Blade”『刃』。日米問わず、吸血鬼と刃の相性って良いみたいです。先日ハイランダーを見ましたが、ロングコートに日本刀の正統進化型ヒーローがこのブレイドでしょうかね?アメコミ原作のヒーロー物のようですが、初登場は'73年と結構古いみたいです。 初めて観た時、このダークな世界観とスタイリッシュでスピーディーな展開に結構ハマりました。主人公が“吸血鬼に噛まれた妊婦から生まれた子供”というのも斬新だったし、吸血鬼の血が入っていながら太陽の下を歩ける『デイウォーカー』って名前もセンス良いです。 ブレイドのビルでの大ジャンプ。警官が連射するアサルトライフルがドアに開ける穴(細かいな)。迫りくる弾丸を避けるフロスト。多数の警備員(警官)が守るビルエントランスでの銃撃戦。何ともマトリックスと被るシーンが結構ありますが、本作の方が半年早く上映されています。一般人の知らない社会の裏側で、強力な組織が世界を支配しているのも、吸血鬼とコンピュータの違いはあるけど、よく似ています。偶然の一致なのか、部分的に参考にしたのか解りませんが、どちらもよく出来た作品だと思います。 マトリックス同様、この作品からも日本の漫画やアニメの影響を感じますが、マトリックスに比べ、相当ディープなところをリスペクトしている様に思えます。古文書の部屋でキュートな黒人少女が、正体を表し連続ハイキック…格闘ゲーム真っ盛りの時代、まさにギャップ萌えです。大阪出身のバンドBang Wa Cherryの歌う、その名もズバリ「chin chin」…t.A.T.u.が世間に認知される以前に、このアングラ丸出しでディープすぎる女子高生ファッション・バンドをチョイスするセンス。アジア系のオッサン(何故かみんなサングラス)が、じっとりとした目で彼女たちを見つめる画がシュールで素敵すぎます。 決めポーズが可愛いブレイドも、ガソリン撒きながらタバコ吸う相棒ウィスラーも、バンパイアにドSなお仕置きをするカレンも魅力的ですが、スティーブン・ドーフ演じるライバル・フロストが、現代の王子様みたいな甘いルックスで、また格好いいんだぁ。見た目で言えばブレイドよりフロストのほうがヒーロー顔だよね。クインの腕を斬る冗談が怖カッコイイのです。あぁ、もう少し活躍してほしかった。欲を言えば勝ってほしかった。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-12-06 22:58:55) |
38. バットマン ビギンズ
《ネタバレ》 “Batman Begins”『バットマン~始まり~』。タイトルの通り、徹底してバットマンの誕生秘話の作品です。よく見知った姿のバットマン(完全体)が登場まで約1時間、それまでブルース・ウェインの成長物語が続きます。 この当時、過去の名作と言われたSF映画がどんどんリバイバルされていて、作品の質も玉石混交。そんな中、バットマンは前作 Mr.フリーズからたった8年。当初は『ずいぶんと期間を開けた続編だなぁ』なんて思っていましたが、まさかたった8年で新シリーズを立ち上げるとは。当時はまだ、バートン版から4作続いたシリーズの記憶が鮮明過ぎて、どうにも新シリーズを観たいって気持ちにはなれませんでした。 渡辺謙が出てる。装甲車のようなバッドモービルと、何かと関心はありましたが、公開当時の周りの反応は『地味で暗い作品』だったと記憶してます。確かに前のシリーズが独特な世界観と漫画っぽいキャラクターが印象的だったので、シリアスでリアル路線の本作に違和感を感じたのもわかります。 本作はバットマン映画であり、同時にブルース・ウェインの映画でもありました。 バットマン映画として見ると、この作品は、続く『ダークナイト』を盛り上げるための序章に思います。映画1本まるまる使った序章って言うんですかね?。最後、カードを使った次回作への続きかたは、とてもワクワクする引っ張り方でした。そしてダークナイトが期待以上の作品だったため、本作の割り切った誕生物語が際立ちます。 単体で考えると、ブルース・ウェインの映画として観るのが一番の楽しめます。コウモリのトラウマ。両親殺害の犯人への復讐心がしっかり描かれていて、とても人間らしいウェインになっています。素顔の時はウェイン産業の大富豪として、プレイボーイの仮面を被って生活をし、夜はマスクを被って悪を倒す。この逆転現象も魅力的でした。 [DVD(字幕)] 7点(2024-12-04 22:34:39) |
39. さかなのこ
《ネタバレ》 さかなクン(男)を、のん(女)が演じる。…なんで?どんな理由があるの?って、ここに食い付いた人も多かったと思う。 始まってすぐに『男か女かは、どっちでもいい』って、一番期待ハズレの解答が来ました。ウソでも良いから何か理由を用意してほしかったかなぁ。でも私のことだから、物語を散々引っ張った挙げ句、最後の方で『実はどっちでもいい』って結論になったら、それはそれで、残念な気持ちになったかもなぁ。 この映画、好きな部分と嫌いな部分がハッキリ分かれてます。初っ端からガッカリした反動で、幼少期は作品のノリに付いていけませんでした。ミー坊の過去に、さかなクンそのものが出てくる意味が解らず。このギョギョおじさんって、さかなクンのモトになる人が実際に居たんだろうか? ミー坊が捕まえた巨大な“タコさん”。お母さんの許可で飼うはずだったのを、お父さんがビッタンビッタンと殺す(絞める)…イヤちょっと、子供も観る映画っぽいのにさぁ、なにこのブラック・ユーモア。 再登場のギョギョおじさん。今度はお父さんが遊びに行っちゃダメというのを、お母さんが行っていいと許可する…イヤちょっと、子供も観る映画っぽいのにさぁ、なにこの犯罪誘発臭。実話だとしても、どうしてこう、観てて消化不良起こしそうな、児童性犯罪を連想させるエピソードを入れたのか?映画オリジナルか?原作の自叙伝を読めば納得できるのか?映画は映画で完結してほしいものです。 モモコが好きとハッキリいうミー坊を、男の子たちが「エロス!!エロス!!」とからかうとか、冒頭『どっちでもいい』と書いてた割には、性に関するエピソードを入れてくる。 青年期に入り、いよいよのん登場。ヤンキーの抗争に巻き込まれるのも、ほのぼのというか、漫画チックというか…どうにも方向性が私の好みではない。でも、この映画を小さい頃に、児童集会とかで友達と観てたら、きっと楽しめたかもしれない。 内心“子供向けな映画”と切り捨てながら観続けて、カブトガニの散歩あたりから、不思議と面白く感じてきたのだ。のんが本物の活きたアジを捌くところから、序盤のノリで終始フザけてるだけの映画じゃないように観えてきたんです。 …いや相変わらずフザケちゃいる。服切らないでアミ買ってこいよ。歯医者の要求に応えたい→大きな鯛を捕まえる→でも水槽にはマニアックな地味な魚…何この雑なエピソード?相変わらず構成は決して上手とは言えない。 調べたらミー坊の子供時代も女の子でした。ミー坊の性別は徹底して女性でしたが、上京してようやく、さかなクンをのん(女)が演じた効果が発揮されます。 ヒヨが彼女とのディナーにミー坊を呼ぶ。一見、両手に花のヒヨだけど、ミー坊は男の子。ミー坊と彼女で三角関係とか、無いのだ。頭が軽く混乱する。 ミー坊のアパートにモモコと連れ子が押し掛けてくる。川の字で寝る3人。一見、女友達のお泊りだけど、ミー坊は男の子。連れ子が居るとはいえ、内心ドキドキ展開なハズだけど、映像からはそんな事、思い浮かばないのだ。ますます混乱する。 さかなクンをのんが演じることで、男女間のエピソードが脳内で反転し『なぁんだ、さかなクンもただの男じゃん』ってならず、男女間の友情という妙なバランスをしっかり保ち、さかなクンの存在を際立たせることに成功している。 金銭面で無理してるミー坊と、モモコが出ていく場面は、お互いの性別を超えた思いやりと悲しさを見事に表現していました。後半はもう、素直に良い映画だと思います。序盤のイマイチさを、後半見事に盛り返した印象です。 映画を観て、さかなクンについて、思ったことがある。ミー坊は魚のことを「◯◯さん」と呼ぶよね。「タコさん」とか「アジさん」とか。これって、さかなクンは大好きな魚を“異性(女性)”として考えてるから、“さん付け”なんじゃないだろうか? だから男性の自分は「さかな“クン”」なんじゃないかな?更に、恋愛の対象じゃない友だちを呼ぶ時は、男も女も「ヒヨ」とか「モモ」とあだ名や呼び捨て。 なんかこう考えると、冒頭の『男か女かは、どっちでもいい』って言葉に、意味があるような気がしました。いや『どっちでも』良くはないと思うけど、この映画に関しては、さかなクンをのんが演じて良かったと感じています。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-12-03 22:40:18) |
40. ハイランダー/悪魔の戦士
《ネタバレ》 “Highlander”高地に住む人の意味だけど、本作のは『スコットランドのハイランド地方の戦士』です。 現代の大都会。ロングコートに日本刀の組み合わせの妙は、この映画から生まれたんでしょう。目付きの悪いクリストファー・ランバートとダークな世界観。テレビで観た当時、ターミネーターに引けを取らない、それはもう相当な衝撃を受けました。 当時も話題だったカメラワークは今観ても秀逸です。ドローンもない時代、大きく重たいカメラを、吊るしたり振り回したりして、あの映像を撮っていたんでしょう。大変な労力を想像すると頭が下がります。 主人公コナーは影があって暗いんですが、彼の周りは明るい奴らが多くてバランスを保っています。特筆すべきは名優ショーン・コネリー演じる“スペイン孔雀”。作中最高齢だろうけど、いつもチャラくて安心感がにじみ出てます。クルガンも悪党らしい悪党で、教会で嬉しそうに蝋燭の火を消すシーンが子供っぽくて大好きです。秘書のおばさんレイチェルとの出会いの秘話。けっこう色んな作品に影響を与えてますよね。ちょっぴりホロリとさせます。 最も衝撃だったのがクイーンの“Who Wants to Live Forever”の美しさと悲しさです。不死を恐れられて故郷を追われたコナーは、明るく美しいヘザーとずーっと一緒に暮らします。ずっと容姿の変わらないコナーと、年老いても明るいままのヘザー。避けられない死の悲しみと残される者の孤独。当時中学生でしたが、この楽曲と相まったこのシーンの美しさを超えるものは、映画史上そう多くは無いでしょう。 『永遠の命など 誰が欲しがる』このシーンを観て、この歌詞を付けたブライアン・メイの才能が光ります。私も早速、そうご電器YESでクイーンのアルバムをレンタルしてきましたよ。『アイアン・イーグル』のテーマ曲も入ってお得なアルバムでした。 この曲の邦題『リヴ・フォーエヴァー』って言うんですが、なんかそっちだとOasisの同名曲のイメージが強いです。そしてこの映画に関しては、邦題で省略されてる“Who Wants to”の部分がとても大事だと思いません? この映画以降、もっとダークな世界観を上手に表現した映画がたくさん出てきたので、思った以上に本作が脳内美化されてました。 私と同世代で、当時衝撃を受けた方。あの時以来、久しぶりに観てみようかな?なんて思うかもしれませんが『ネバーエンディング・ストーリー』と並んで、当時の美しい思い出に留めておいても良い映画かもしれません。もちろん、この映画の輝きは一生涯変わることはないんですが。 [地上波(吹替)] 7点(2024-12-01 16:07:29)(良:1票) |