401. 矢島美容室 THE MOVIE ~夢をつかまネバダ~
《ネタバレ》 新年一発目の映画という事で、楽しい気分に浸れそうな作品をチョイス。 元々とんねるずが大好きという事も相まってか、充分に満足のいく内容でしたね。 これまでレビューしてきたタイトルの中には「クオリティが高いのは分かるけど、どうも好きになれない」というタイプの品もありましたが、これはその逆をいく一品。 どう見ても安っぽい「アニメ的な世界観を実写で大真面目に演じてしまう作品」のはずなのに、それが妙に面白かったりしたんです。 理由は色々あると思うのですが、その一つとして「内輪ネタ」が挙げられて「細かすぎて伝わらないモノマネ」でお馴染みの方が端役が出演していたり、ノリダーとチビノリダーとのやり取りが描かれていたりするのが、元ネタを知っている身としては、もう嬉しくって仕方なかったのですよね。 こういう「分かる人には分かるネタ」って、興醒めになったり、疎外感を抱かされたりする事も多いのでしょうが、自分としては正にドストライク。 「間違いなく、この映画の世界観を共有している」「観ている自分も、この映画の仲間なんだ」という感覚に浸らせてくれました。 全体的にはコント調の作風の為、ちょっと中弛みするというか、九十八分は長過ぎたようにも思えましたが、終盤にて「ソフトボールの試合」という山場をキチンと用意してくれている為、全体としては綺麗に纏まっていたんじゃないかな、と思えます。 「友情より恋愛が大事」「だって、恋愛はすぐに壊れちゃう。大切にしなきゃ」「友情は永遠。滅多な事じゃ壊れない」という台詞の数々も、非常に好みでしたね。 燃えるボールを燃えるバットで打ち返すというベタな演出も良かったし、最後は元気良く皆で唄って、笑顔で終わるのも気持ち良い。 父親との再会は描かれなかった事や「この借りはパート2で必ず返す」という台詞など、続編が存在しないのが寂しくなってしまう部分もありましたが……まぁ、それらも「ネタ、ギャグの一種」と受け止められるような大らかさ、笑い飛ばせるような馬鹿々々しさが備わっていたのではないかな、と。 期待通りの、楽しい映画でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2017-01-05 16:15:30)(良:1票) |
402. 県庁の星
《ネタバレ》 これは面白い。 失礼ながら期待値は低かっただけに、嬉しい不意打ちを食らわせてもらった気分です。 劇中においても、こういった気持ち良い「不意打ち」が幾つかあって、特に印象深いのは主人公が婚約者に振られてしまう場面。 ここは観客の自分としても、主人公の気持ちとシンクロして「出世コースから外れたので振られてしまった」とばかり思っていたのですよね。 けれど、実際はそうじゃない。 「私の事を見てくれなかった」のが破局の理由であり、思い返せば、確かに伏線(=主人公は仕事について考えてばかりで、彼女のウェディングドレスを選ぶ際にも上の空)が張られていたのですよね。 これが「理不尽な裏切り」ではない「心地良い意外性」となっており、自分としても、この場面をキッカケとして(これは思っていたような映画とは違うぞ……)と襟を正して観賞する事が出来たように思えます。 潰れそうなスーパーを主人公が再生させる話といえば「スーパーの女」という先例が存在しており、あまり目新しさは望めないだろうと覚悟していたのですが、そんな予想も覆される事になりましたね。 あちらの作品は、ちょっと意地悪に解釈すれば「絶対的に正しい主人公が、間違っているスーパーを改革する話」という、やや一方的な内容であったのに対し、本作では公務員の主人公と店で働くヒロイン、それぞれに「正しい部分」「間違っている部分」が存在しており、対立を経て互いに認め合い、欠点を補完し合っていくという内容なのです。 それが非常に好ましいというか、自分の感性に合っていたように思えますね。 他にも「水で手を洗おうとしたら、蛇口が汚くて躊躇する主人公」という些細な描写で、その性格を端的に示してみせる辺りも好みでしたし「プライドの高さゆえ僅かなお辞儀しか出来なかった主人公が、研修期間を終えて店を立ち去る際には深々と頭を下げる」というベタな演出を挟んでくれる辺りも心地良い。 最後の最後で、店を守る決め手が「カンニング」という辺りには幻滅しかけましたが、そこで、またまたサプライズ。 それまで役立たずとして描かれていた店長が、意地を見せて店を守る形となっているのも嬉しかったです。 現実的な題材であるにも拘らず、そこかしこにリアリティの乏しい部分が見受けられる事。 主人公とヒロインが恋愛関係になる必然性は無かったように思える事。 そして、店のパートと行政パートが、あまり密接に絡んでいない辺りなど、色々と粗も目立ってしまうのですが、それでも全体としては長所の方が多かったかと。 研修を通して主人公が学んだのは「素直に謝る事」「素直に教わる事」「何かを成し遂げるには、仲間が必要だという事」と語る件も良かったですね。 完全無欠のハッピーエンドとはいかず、女性知事の狡賢さ、強かさを見せ付けるシニカルなテイストも備えており、それで後味が悪くなるかと思いきや、主人公は全て承知の上であり、前向きな姿勢と共に終わってくれたのも素晴らしい。 「そう簡単には通らないはずだ」「でも、諦めない」という、一時的な努力だけで済まさない、努力を継続する決意の恰好良さが伝わってきました。 その第一歩が、県庁におけるエスプレッソの有料化という、非常に小さなものであった辺りも、ユニークな落としどころだと思います。 面白い、楽しめたというのは勿論ですが、それ以上に「気持ちの良い映画」でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2016-12-29 08:20:51)(良:2票) |
403. 陽気なギャングが地球を回す
《ネタバレ》 導入部では、中々スタイリッシュな犯罪ドラマになりそうだと期待させられたのですが……どうもノリ切れない内容でした。 とてつもなくクオリティが低いという訳ではないと思うのですが、何かチグハグなんですよね。 例えば、カーチェイスをCGで描くシーンとか「おっ、これはそういう悪ふざけ演出で楽しませてくれる映画なのか?」と期待したのに、以降はそういうノリがあまり感じられないせいで(あれは意図的な演出ではなく、予算の都合でCGにしただけだったんだなぁ……)と、観ていて落胆させられちゃう訳です。 また、主役のギャング達には特殊な能力があり、ルックスも良くてと、魅力的に描こうとしているのは伝わるのですが、そのやり方が「周りの人間を恰好悪く描いて、相対的に恰好良く見せようとしている」ように思えてしまい、違和感が大きかったですね。 冒頭の警官をからかう件とか、自分達以外を見下している空気が伝わって来て、彼らが単なる「嫌な奴ら」にしか思えないという形。 その結果、馬鹿にされている警官やら他の強盗やらの方が「みっともないけど、必死に頑張っている」感じが伝わって来て応援したくなるものだから、主人公達が見事に強盗を成功させても、観客としては、ちっともカタルシスを得られない。 恐らくは黒幕を徹底的に嫌な奴として描く事で、主人公達を応援させようとしていたとは思うのですが「同じ犯罪者なのに、何で片方だけがさも善人であるかのように扱われているの?」と白けてしまったくらいです。 同監督の「極道めし」は結構楽しめただけに、非常に残念。 恐らく、この監督さんはスタイリッシュな犯罪アクション物などよりも、コメディ、人情物の方が得意なのでは? と思えましたね。 本作においても「象を冷蔵庫に入れる為に必要な、三つの条件は?」というクイズを、シュールに映像化させてしまうセンスなどは良かったです。 劇中で「映画の終わり方に関する演説」が始まると共にスタッフロールを流し、これで終わったと見せかけて、ちょっとだけ続けてみせる辺りも好み。 クイズの答えを伏せたまま終わるような意地悪をせず、最後の最後に、きちんと答え合わせしてくれた事からも、作り手の誠実さが伝わってきました。 一応は仲間であったはずの地道こそが、黒幕の神崎であると本性を曝け出す場面にて口にする 「神崎なんて存在しなかった。いや、地道が存在しなかったのかな?」 という台詞なんかも、あぁ「真実の行方」が元ネタなんだと分かって、ちょっと微笑ましかったですね。 オシャレな恰好良さ、というものは感じられなかったけど、オシャレな面白さの断片のようなものは窺えた一品でした。 [DVD(邦画)] 4点(2016-12-29 04:13:16) |
404. 予告犯
《ネタバレ》 この映画、面白いです。 面白いんですけど……序盤の拷問シーンで「悪趣味だなぁ」と思い、終盤の感動シーンで再び同じ感想を抱いてしまったので、どうも手放しでは褒められない内容。 「良い話にしようとしているのは分かるけど、無理あるよね?」という思いが浮かんで来てしまい、中々それが消え去ってくれなかったのです。 結局のところ、本作を楽しむ上でのキーポイントは「外国人の友達が死んでしまった」→「彼は死ぬ前に父親に会いたいと願っていた」→「自分達で探しても父親は見つからない」→「日本で一番捜査力が高いのは警察。死んだ友人の名前を騙って事件を起こし、彼らを動員して父親を探させよう」という、犯人達の行動を受け入れられるかどうかに尽きるのではないでしょうか。 自分としては「死んだ友人の名前を騙って」の部分が、ちょっと受け入れられなくて、本当に友達想いの奴なら、そんな事はしないだろうと白けてしまい、残念でしたね。 作中のテーマとしては「理由があって、頑張れない奴もいる」という、社会的弱者の存在を肯定するような意図があったのだと思われます。 けれど、就職活動はともかく、父親探しにおいて主人公達が「頑張れない」理由がハッキリしなくて、真っ当な方法では探せないと諦めて、死んだ友達に犯罪者の汚名を着せるのを承知の上で、楽な手段を選んだだけとしか思えないのです。 せめて「何年もかけて自力で探したけど手掛かりすら掴めなくて、止むを得ず最後の手段を選んだ」という形なら納得も出来るのですが、そういった過程を経ていないので、主人公達が努力を放棄したようにしか見えない。 酷く典型的な台詞になってしまうのですが「そんなやり方を、本当に生前の友人は望んでいたのか?」という疑問も浮かんできます。 それらの罪を償う為の自殺オチだったのでしょうが、終盤やたらと主人公を賛美する展開になっているものだから、どうも作り手との価値観のズレを感じました。 主人公と対峙し、その思想を否定する立場だった美人女刑事にまで「全てを予告し、やり遂げた」と嬉しそうに言わせたりしたのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかなと。 生き残った犯人グループの仲間が、罪を全部主人公に被せて自分達だけ助かる件も、シニカルに描くのではなく「主人公の自己犠牲の美しさ」を強調するような演出だったりするものだから(えっ、そこで感動させようとするの?)と驚いてしまったくらい。 その他、主人公が会社での陰口に気が付く件なんかも、あまりにも非現実的な「周りの人間は皆、嫌な奴」過ぎて(これ、現実なの? それとも主人公がそういう被害妄想を抱いているって描写なの?)と戸惑ってしまったし、女刑事と犯人の追跡シーンでも(どうして応援を呼ばないんだ? 刑事なら何らかの連絡手段は確保しておくべきでは?)と集中力が削がれてしまった形でしたね。 そういった諸々が伏線なのかと思いきや、全然そんな事は無かったという意味も含めて、終盤の展開が本当に残念。 「作中で明かされた真相に納得がいかなかった」というパターンの為、ついつい文句を並べてしまいましたが、以下は良かった点を。 まず、導入部から展開がスピーディーで「異常な犯人、シンブンシの目的は何か?」と観客にも推理させていく流れは、とても楽しかったですね。 映画の構成としては、序盤は刑事側の目線で事件を追いかけていく形であり、中盤以降に主人公=犯人へと視線転換して、その背景が明かされる訳ですが、順番が逆だったら冗長な話になっていたでしょうし、この導入部には「掴みが上手い」と感心。 主演の生田斗真の力によって、新聞紙で覆面をして犯行予告するシーンでも、ダークヒーロー的な恰好良さが醸し出されており、作中で彼らの賛同者が生まれていく展開に、さほど不自然さを感じさせなかった辺りも有難かったです。 ここのハードルをクリアしてくれないと、作中の世界観が根底から崩れかねないので。 犯人グループが仲良くなっていく過程も、短いながらも丁寧に描かれており、青春ドラマとしての魅力も備えている形。 主人公の「友達が欲しい」という夢が叶っていたのを示す、和気藹々としたやり取りを、最後の最後に持って来て、カタルシスを与えて終わらせた辺りも、上手かったですね。 ここで「良い友達を持つ事が出来て、幸せだ」などと口に出しては言わせず、主人公の表情や音楽などで伝えてみせる演出は、本当に好み。 決してハッピーエンドではないはずなのに、それに近い味わいがありました。 色々と気になる点は多かったのですが、それらを差し引いても面白かったし、良い映画だったと思います。 [DVD(邦画)] 6点(2016-12-28 12:09:22)(良:1票) |
405. ライフ・オブ・デビッド・ゲイル
《ネタバレ》 クオリティの高さは分かるのだけど、どうにも作中の価値観やらメッセージやらが肌に合わなくて「面白い」と素直に言えないタイプの映画があります。 残念ながら本作もそんな一つとなってしまったみたいで、脚本の騙しのテクニックやら演出やらに感心させられつつも、観賞後は「うーむ」と腕を組んで考えさせられる破目になりました。 まず、この映画の最大のオチに関しては「無実の人が死刑された確かな証拠があれば、死刑停止に追い込める」という台詞をデビッド・ゲイルが耳にするシーンがある以上、多くの人が途中で気が付かれたのではないかな、と思います。 自分も、この台詞が飛び出す時点(映画が始まってから三十分程)でオチは読めていたので、衝撃という意味では薄かったのですが、ラストに長々と説明せず「デビッド・ゲイルも彼女が自殺であると承知の上であり、一連の計画の協力者であった」と映像で示すだけで、スパッと終わらせる演出は見事でしたね。 こういうパターンの場合、つい「こんな分かり易い伏線があるんだから、気が付くに決まっている」と作品を見下してしまいそうにもなりますが、ラストの演出で説明を最低限に済ます以上、このくらいのバランスで丁度良かったのではないでしょうか。 観客に対して、きちんと「推理する材料」を提示するという意味でも、非常に誠実な作りであったと思います。 で、上述の「肌に合わない」部分に関してなのですが……これ、どう考えても「死刑制度の問題点」を指摘しているとは思えないのですよね。 自分で死刑になるように行動しておいて「実は冤罪なのに殺されちゃいました」って、自業自得としか思えないし、この場合に明らかになった問題点とは「自ら積極的に死刑になろうと色々と工作した人間を死刑にしてしまう可能性がある」という話でしかない訳だから、台詞の通りに「死刑停止に追い込める」とは考えられないのです。 デビッド・ゲイルの動機としては「取材を受ける報酬として手にした大金を、別居中の妻と息子に贈りたい」「もうじき病死してしまう恋人と心中したい」という想いの方が強かったのではないかな、とも思えますが、劇中ではそれらの感情的な動機よりも、あくまで「死刑制度の是非」という点に重きが置かれている為、やっぱり「そんなやり方で死刑制度を廃止出来る訳ないじゃん」という結論に至ってしまう訳で、何とも中途半端。 本当に死刑制度の問題点を指摘したいなら、倫理的に許されないのを承知の上で「無関係な第三者を犯人に仕立て上げ、彼が必死に無実を訴えても死刑が宣告されるのを見届けてから、執行の直前に全てを自白する」という作戦を取った方が、よっぽど効果的だったのではないかと。 そんな困った人物である彼を、過度に美化する事は無く「公開討論番組で、知事に言い負かされた仕返しをしたかっただけ」「権力者を馬鹿にして、自分の方が利口だって証明したかっただけ」と示す描写も挟むなど、作り手の器の大きさというか、公平な視野を感じさせる辺りは、好ましく思えます。 それだけに、話の核となる部分から説得力が伝わってこなかった事が、実に勿体無く思える一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-22 10:36:31) |
406. パラサイト・バイティング 食人草
《ネタバレ》 面白いんだけど、それ以上に「痛い」映画。 特殊な植物の蔦が体内に侵入し、それを取り出そうと自らの身体を切り刻む女性のシーンなんて、もう画面から目を背けたくなるし、仮に背けたとしても嫌ぁ~な声と音がして容赦なく「痛み」を連想させてくるしで「そんなに丁寧に描写しなくても良いよ! 観客に痛みを伝えたりしないでよ!」と訴えたくなります。 そんな具合に、ともすれば不快感だけを味わう事になりそうな内容なのですが…… これが案外、しっかり楽しむ事が出来たのですよね。 まず、冒頭「災難に見舞われる前の、楽しい旅行風景」がキチンと描かれているのが好印象。 そして舞台となる遺跡を訪ねる際に、現地人から「あそこだけは止めておけ」という類の、お約束の台詞が飛び出す辺りが、何だかニヤリとさせられるのです。 作り手に対し「おっ、分かってるね」と拍手を送りたくなるような演出。 麻酔無しで脚を切り、これで何とか助かったかと思われたのに、その後に口から蔦が入り込んだ時の絶望感なんかも良かったですね。 じわじわと追い詰められていく描写が丁寧なので(あっ、これハッピーエンドは無理だな……)と、観客にも自然と受け入れさせてくれます。 そうして全滅も覚悟したところで、ヒロインだけは何とか遺跡からの脱出に成功するという結末は意外性がありましたし、途中(プレッシャーに押し潰されて、嫌な奴と化してしまうのでは?)と不安になったりもした一同のリーダー格、医学生のジェフが最後まで良い奴のまま、自ら囮になってヒロインを逃がしてみせるという展開も好みでした。 とにかく観ていて「痛い」と感じる場面が強烈なので、再見したくなる映画とは言い難いのですが(観て良かったな……)と、素直に思えましたね。 なお、DVD収録の別エンドでは、ヒロインも結局は死んでしまうという救いの無い結末なのですが、自分としては「何とか一人だけは助かった」という、本編の終わり方を支持したいところです。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-22 06:52:49)(良:1票) |
407. ダウト ~あるカトリック学校で~
《ネタバレ》 こういった論戦を扱う場合、どうしても「性的虐待の疑惑を受ける神父」が悪であり「真実を追及するシスター」が善であるという印象を与える事は避けられないと思うのですが、この映画は非常にバランス感覚が巧みでしたね。 前者は子供達に優しい人気者で、古臭い考えの教会を変えようとしている革新派。 後者は子供達に厳しい偏屈者で、古き良き教会を守ろうとしている保守派という対比なのですから、つい前者に肩入れしたくなってしまう。 けれど演じているのが、如何にも裏がありそうなフィリップ・シーモア・ホフマンと、とても悪い人には見えないメリル・ストリープだったりするものだから、観客としては「どちらが正しいのか?」と固唾を呑んで見守る事になる訳です。 特に「上手いなぁ……」と感心させられたのが、生徒から取り上げたトランジスタラジオを愛用していると、シスターが嬉しそうに語る場面。 正直言って、それは最低だよと呆れちゃいましたし、それによって「このシスターは他人に厳しいだけで自分に甘いという、信用してはならない人物だ」という印象に繋がり、最後まで「神父とシスター、どちらが正しいのか分からない」と観客に適度な「疑惑」を与える効果があったと思います。 そもそも彼女は「この教会に悪影響を及ぼす神父を追い出せれば、それで良い」と考えているフシがあり、本当に性的虐待があったとすれば真っ先に優先すべき「少年を神父から守らなければいけない」という意思が感じ取れない為、どうしても感情移入を拒むものがありましたね。 他の教会に転任させても、そこで別の少年が犠牲になる可能性もある以上、神父を追い出すだけでは意味が無いはずです。 彼女が善人であるとは、最後まで思えませんでした。 結論を言うと、この映画では結局「真実」は不明なままです。 勿論、神父は限りなく黒に近い反応を示しているのですが、確たる証拠は劇中で提示されていません。 劇中の「たとえ確信を持ったとしても、それは感情だ。事実じゃない」という台詞にも象徴されていると思います。 そもそも、そんな「疑惑」を抱かれた時点で迷惑だし、一度不名誉な噂に晒されれば、それが事実無根であっても取り返しがつかなくなるという事は、神父の説教の中でも語られています。 過去を探られるのを嫌がった事だって「過去にも同じような噂が立った事があるので、それを知られたらますます自分の立場が悪くなる」というだけかも知れません。 悪く考えるなら「過去には過ちを犯していても、今回は無罪だった」という可能性もありますし、良く考えるなら「少年が同性愛者である事は気付いていたので、彼を疑惑の渦から守る為に自分は立ち去った」という可能性だってあると思います。 だからこそ、ラストシーンにてシスターが「本当に自分は、自分の行動は、自分の過去は、自分の信仰は、正しかったのか?」という「疑惑」を抱く形で映画が完結したのでしょう。 上述の通り、映画だけで判断するなら「疑わしきは罰せず」「神父は無罪である」となる訳ですが、現実世界にて「神父に性的虐待を受けていた少年が無数に存在する」という悲しい証拠が、これまた観客の判断を狂わせるというか「もしかしたら?」という「疑惑」をかき立てる訳で、本当に上手くて、そして狡い作品ですよね。 こういった具合に、煙に巻くというか、あえて真相を明らかにしない映画も嫌いではないのですが、本作は論戦をクライマックスに据えておきながら「神父もシスターも、どちらも勝者とは思えない」「神父は心に傷を負ったまま栄転し、シスターは目的を達成するも罪の意識を抱いている」という、痛み分けのような形であった事が、どうもスッキリしない。 この映画のテーマを考えれば、観客にも「疑惑」を残したままで終わらせるのが正解だったと思いますが…… 自分としては明確な「真実」を示してもらいたかったなと、つい考えてしまいました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-22 03:41:56)(良:1票) |
408. YETI イエティ<TVM>
《ネタバレ》 所謂「アンデスの聖餐」を元ネタとした作品。 飛行機事故で雪山に取り残され、生きる為に仲間の死体を食すべきか否かという極限状況の中で、イェティが襲い掛かってくるというんだから、余りにも無茶な組み合わせです。 作中にて「遺体を食べ続けるなんて、ケダモノにも劣る行為よ」なんて具合に、史実の事件を揶揄するような発言も飛び出すものだから、観ているこちらの方が(えぇっ……そんな事を言って良いの?)と不安になってしまいましたね。 肝心のイェティの描写はといえば、非現実的なジャンプを移動手段としているし、襲撃シーンでは男女が棒立ちのまま悲鳴をあげ続けて逃げる素振りを見せなかったりするしで、どうにも緊張感に欠けるという印象。 同じ遭難事故を元ネタとした傑作「生きてこそ」を意識したと思しき「生きる為に禁忌を犯すべきか?」と人間同士で言い争いする場面は意外と面白かったのに、本作の目玉であるはずのイェティが出てくると途端につまらなくなるという、非常に困った現象が起きている形です。 隠し持っていたチョコを食べていた事が仲間にバレて責められるとか、そういうシーンだけでも楽しめたのに、そこにイェティが絡んできちゃうものだから「来なくていいよ……」なんて思ってしまいましたね。 二通りの魅力を味わえるお得な映画、と言えない事もないのですが、自分としては「生きる為の究極の選択」「イェティの襲撃」どちらかに絞った作品を観てみたかったところです。 [DVD(吹替)] 4点(2016-12-21 10:44:00) |
409. ワンダラーズ
《ネタバレ》 昔に一度観たっきりで、美しい思い出となっていた本作を久々に観賞。 恰好良くスカジャンを着こなす主人公、坊主頭の敵軍団などは、日本の不良漫画「クローズ」に与えた影響も大きそうですね。 その他、劇中曲が有名なものばかりである点など、当時は分からなかった事にも色々と気が付けて、新鮮な気持ちで映画を楽しめたと思います。 ただ、思い出の中では「青春映画の傑作」という、非常に素晴らしい作品として記憶されていたのですが、今改めて観返してみると、少々退屈に感じる部分もあったりして、ちょっと残念でしたね。 主人公達はひたすら恰好良くて魅力的というイメージがあったのですが、実際は情けない場面も多いし、今一つ感情移入出来ない言動も多かったりしたのです。 記憶にも鮮烈に残っていた、導入部の「Walk Like a Man」の素晴らしさ。 そして「The Wanderer」のリズムに乗せて次々に仲間が集まり、喧嘩をしに向かう場面などは、今見ても胸躍るものがあったのですが、それと同時に(あっ、この場面の恰好良いイメージだけを憶えていたんだな……)と自分でも気が付いちゃったりして、何だか切なくなってしまいました。 序盤で如何にも大物といった感じで登場したペリーが、中盤以降は特に活躍する事も無く「個人の力も、大きな集団(=社会、時代などの象徴)の前では無力」劇中曲の歌詞通りに「鉄の拳があっても、何の役にもたたない」という描かれ方をしている辺りも、今となっては少々陳腐というか、単なる期待外れにも思えてしまいます。 それでも「ワンダラーズは永遠だ」という台詞は、やっぱり感動的だと思いますし、子供を卒業して大人になる事への不安、時代の変化と個人の成長、そして友との別れなど、映画の中で描かれた諸々に対し、今でも胸が熱くなるものがあったのは確かです。 勝手に思い出を美化していただけなのか、あるいは自分がこの映画に没頭出来る純粋さを失ってしまったのか、理由は定かではありませんが、かつての「青春映画の傑作」から「結構面白い、古き良き映画」という印象に変わってしまった形ですね。 確かな満足感と、ほんのり寂しい気持ち。 それらを同時に味わう事が出来た二時間でありました。 [ビデオ(字幕)] 6点(2016-12-20 12:07:29) |
410. ブッチャー・ボーイ
《ネタバレ》 冒頭、大人になった主人公が子供時代の過ちを振り返る形式で映画は進んでいく訳ですが「僕とジョーの友情に首を突っ込んだ夫人が悪い」って、全然反省していない辺りが凄い。 この主人公、殺人の被害者となった夫人以外にも、他所者を「田舎っぺ」「ブタより醜い」と見下していたりして、とかく感情移入を拒む存在なのですよね。 そんな彼に呆れかえっていたはずなのに、観ている内に段々と感情移入させてしまうのだから、作り手の上手さを感じます。 父母を失うだけでなく「血の兄弟」「唯一で最高の友ジョー」と語り、大切にしていた親友からも絶交されてしまう主人公。 そんな彼は八つ当たりのように凶行に至る訳ですが、それが完全な狂気によるものとは思えず、一応主人公なりに理屈は通っているなと納得させられてしまうのだから、これはもう恐ろしい映画です。 少年愛嗜好があると思しき神父に、性的悪戯を受けそうになるシーンでは、逆襲してみせた彼にスカッとさせられたし「ジョーにウソを言わせた」事が何よりも許せないと怒るシーンでは、ついつい彼に肩入れしてしまう。 そんな具合に、巧みに感情移入させた上で主人公に「人殺し」をさせてしまう訳だから、観ているこちらまで罪悪感を抱いてしまうのですよね。 「エイリアンの侵略」「原爆による世界の終わり」「父母の美しい思い出を否定する現実」など、彼が殺人を犯したキッカケを大量に用意してみせて、その凶行に説得力を持たせているのも上手い。 上手いんだけど……それによって「殺人犯になるまでを疑似体験出来る映画」という形になっている訳だから、後味の悪さは折り紙付きです。 上述の通り、主人公には反省の色が全く窺えません。 ラストにおいても「もう悪党ではないで賞」を取ったから釈放された、としか感じていないのです。 「トラブルは、もう結構」という独白からするに、今後彼が犯罪に手を染める可能性は低いと思われます。 それでも、彼は許されるのだろうか、自分が殺した夫人に対して「悪い事をした」「可哀想だ」と考えたりする事は無いのだろうか、と非常に悲しい気持ちに襲われましたね。 聖母マリアが彼に渡した花、スノードロップの花言葉は「希望」そして「慰め」。 果たして彼に「希望」を与えるべきなのか、彼を「慰め」るのが正しい事なのか、と観る者に考えさせてくれる。 様々な意味で、問題作と呼ぶに相応しい一品でありました。 [ビデオ(字幕)] 6点(2016-12-15 22:48:18)(良:1票) |
411. サイド・エフェクト
《ネタバレ》 「女は小さい頃から演技を学ぶの」「多分、男が嘘を学ぶのと同じ頃に」という台詞が心に残ります。 映画が終わった後も、女は精神病院から解放される為に演技し続けなければいけないし、対する男が勝利出来たのは、嘘を吐いた御蔭。 医療問題、薬物依存をテーマに扱った社会派映画かと思いきや、騙し騙されのサスペンス映画であったという、この作品を象徴するような台詞でしたね。 序盤は重苦しい雰囲気で、これは苦手なタイプの映画かと警戒していたのですが、中盤から俄然面白くなり、以降は画面に釘付け。 エミリーが夫を刺殺したシーンの衝撃は凄かったですし、彼女が真実を告白する件も良かったと思います。 これは少々アンフェアで、人によっては不愉快に感じてしまう部分かも知れませんが、最初から視点を主人公のジョナサンに定めず、さながらエミリーの方が主人公であるかのように描いていたのが、巧妙な目眩ましとなっていましたね。 これによって、観客は彼女に自然と感情移入する形となり、騙されやすくなってしまう効果があったと思います。 自分としては、序盤の彼女の描き方が俯瞰に徹していたというか、内面描写にまでは踏み込んでいなかった点を考慮して、ギリギリセーフかと判定する次第。 そんな具合に「気持ち良く騙された!」「これは傑作だ」と大いに褒め称えたくなる一品なのですが、終盤の展開には不満もあり、残念でしたね。 幾ら何でも黒幕の女性がペラペラと喋り過ぎというか「証券詐欺に、殺人の共謀容疑」なんて丁寧に罪状まで言わせちゃって、それを逮捕の決め手にしちゃうだなんて、本当にガッカリ。 自白させる展開自体が間違っているとは思いませんが、もう少し時間を掛けるか(安易だなぁ……)と思わせない工夫が欲しかったところです。 せめて警官に「殺人の共謀容疑と証券詐欺で起訴します」と復唱させるのを止めるだけでも、少しは印象が違っていたのではないでしょうか。 結局、エミリーも精神病院に収監されて元の状態に戻っただけなので(何らかの手段でそこから脱出してしまうかも?)(主人公が復讐されてしまうかも?)と思うと、今一つ落ち着かなくて、ハッピーエンド色が薄いように感じられた辺りも残念。 失いかけた家族を取り戻す主人公の姿についても、詳しい過程が語られず「無事に元に戻りましたよ」と結果だけが示される形だったので、どうにもカタルシスを得られず仕舞いでした。 ソダーバーグ監督らしく、展開がスピーディーなのは長所でしょうし、種明かしを済ませた後は、スパッと短く終わらせるのも正解だとは思います。 それでも、もっと丁寧に描いて欲しかったなぁ……と、ついつい感じてしまった映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-15 07:35:04)(良:1票) |
412. サタンクロース
《ネタバレ》 クリスマスにサンタが人を殺しまくる映画といえば「悪魔のサンタクロース 惨殺の斧」などの前例があります。 けれど、あちらが「サンタの扮装をした殺人鬼」という扱いだったのに対し、こちらは本物のサンタという設定なのだから、よりインモラルですね。 煙突から家屋に侵入し、室内にいた人々を殺しまくる冒頭のシーンから、もう「掴みはOK」といった感じ。 こうして文字に起こしてみると、如何にも残酷な映画であるように思えますが、実際はといえば、軽快なBGMに乗せてスピーディーに、しかも様々な小道具を用いて楽しそうにサンタが殺していくものだから、どう見てもギャグにしかなっていないというバランスでしたね。 サンタクロースの恰好をスタイリッシュにアレンジして、さながらダークヒーローめいた趣きさえ漂わせている辺りも、実に効果的だったと思います。 ただ、それだけに終盤では上着を脱ぎ捨てて「サンタクロースの恰好」から外れてしまっているのが残念。 結末も「主人公達はサンタを倒す事が出来ず、北極に追い払うのが精一杯だった」という形であり、ちょっとスッキリしないものがあります。 まだまだ精神的に未熟な若者である主人公が、可愛らしいヒロインと共に「また現れるだろうけど、次も追い払ってみせる」と決意してみせた空気だったのは、成長を感じさせてくれるけれど、一応サンタを倒して決着をつけて「もし甦ってきたとしても、再び倒してみせる」という形にしても良かったじゃないか、と思えましたね。 続編を意識したのか、あるいはラストの空港でのやり取りを描きたかったのか、作り手の真意は不明ですが、もっと綺麗に完結させて欲しかったところです。 空飛ぶトナカイからプレゼント爆弾を投下するサンタの姿は、それだけでも「観て良かった」と思えるものがあるし「図書館では静かに」などのギャグも面白い。 ミニオーブン、胡桃割り人形などのアイテムの使い方も上手かったですね。 主人公とヒロインのコンビも「良い奴ら」であり、ともすればサンタ側に感情移入しそうになるのを引き止めて、素直に彼らを応援させてくれるのに成功していたかと思います。 ラストにて二人が結ばれる事も併せ、デートムービーとしての魅力を備えている辺りも素敵。 何もかも理想通りとはいかないけれど、全体的には楽しめた時間の方が、ずっと長かったという、それこそ現実のクリスマスのような映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-13 20:00:18)(良:1票) |
413. 四十七人の刺客
《ネタバレ》 とにかく展開が早い早い。 なんせ冒頭いきなり「大石内蔵助は既に藤沢を出て、鎌倉に潜入していた」とナレーションで語られるくらいですからね。 大石内蔵助とは何者なのか、何故鎌倉に潜入したのか、などの説明は放ったらかしにして、どんどんストーリーが進行していくという形。 忠臣蔵映画には上下巻に分かれている代物も珍しくない為、もしや下巻に相当するディスクから再生してしまったのだろうかと、確認してしまったくらいです。 全体的に「観客の皆は、忠臣蔵のストーリーくらい当然知っているよね?」という前提で作られているようであり、予備知識が備わっていない人にとっては不親切な作りにも思えましたね。 せっかくナレーションで色々と説明してくれているのに、それも「コレはこういう役職であり、この人はこういう人で~」と理解を促すような内容ではなく、あくまでも状況説明に留まっている感じ。 大石側と色部側の謀略戦にスポットが当てられているのは面白かったのですが、どちらかといえば宮沢りえ演じるヒロインとの恋模様が中心となっているのも、ちょっぴり不満。 幾らなんでも男女の年齢差があり過ぎて、アンバランスな組み合わせに思えるのに、描き方はといえば「普通の男と女」といった感じでスタンダートに仕上げられているのが、観ていて居心地が悪かったのですよね。 ラストシーンといい、ともすれば宮沢りえのアイドル映画と言えそうなくらいの登場比率なのですが、自分としては彼女は脇役に留めておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。 その一方で「襲撃者に足音を消されぬよう、屋敷の周りに貝殻を敷き詰めておいたりして、入念な準備を整えた上で敵を返り討ちにする大石親子」などの場面は、実に良かったですね。 切り裂く時の音が空振りしているようにしか聞こえない点など「えっ?」と思わされる瞬間もありましたが、ハードボイルドな高倉内蔵助の魅力が堪能出来たワンシーンでした。 終盤にて、黒尽くめの刺客が吉良邸の門前に集い「四十七人」と総数を読み上げられる場面もテンションが上がりましたし「握り飯と水を補給する」「刃毀れに備えて替えの刀を用意しておく」といった兵站面を重視した描写も良い。 吉良屋敷に迷路が拵えてある点などは、冒頭で知らされた際には「えっ、何それ」「そんなコミカルな忠臣蔵だったの?」という戸惑いの方が大きかったのですが、それも実際に戦う場面では、予想していたよりもシリアスな見せ方で「殺し合い」という空気を決定的に損なってはおらず、上手いなぁと感心。 いざ討ち入りになってから、唐突に「実は吉良屋敷は迷路になっていたのだ」と種明かしされる形だったら、流石に「なんだそりゃ!」と衝撃を受けてしまい、テンションだだ下がりになっていたでしょうけど、この場合は映画が始まってすぐに「迷路になっているよ」と観客に教えておく事により、自然と消化されるのを待つというテクニックが用いられているのですよね。 それが効果を発揮してくれたみたいです。 ラストの大石の一言「知りとうない」に関しては、色々と解釈の分かれそうなところ。 「武士の意地を見せる為に決起したのだから、本当は真相など、どうでも良い」 「最初は真相を知りたいという気持ちもあったが、もはや自らの死も覚悟して討ち入りした以上、真相究明などは些事に過ぎない」 などと考える事も出来そうな感じでしたね。 以下は、自分なりの解釈。 「討たれる覚えはない」「いきなり浅野が喚いて、儂に切り掛かってきたのだ」「二人の間に遺恨などあろうはずがない」という吉良側の証言を信じるなら、恐らく真相は「浅野が乱心した」というものであり、吉良を含めた幕府側が口を噤んでいたのも、浅野の名誉を慮っての事だったのではないでしょうか。 つまり、大石が「知りとうない」と言い放ったのは「真相に興味がない」ではなく「真相を知りたくない」という意思表明。 吉良の口を永遠に塞ぐ事こそが、討ち入りの目的の一つだったのではないかな、と。 そもそも大石は情報戦の一環として「浅野内匠頭は賄賂を行わなかった正義の人である」という噂を流すなど、主君を美化しようとする意志が窺える男です。 内心では薄々「殿は乱心めされたのだ」と勘付きつつも、序盤で仲間に語り聞かせた通りの「優しい殿」であって欲しかったという願いゆえに、吉良の口から真相を聞かされる事を拒み、浅野のように派手に刀を振り下ろす事なく、冷静に突き殺してみせたのではないか、と感じられました。 もし、本当にそうであったとすれば、何とも切ない映画だと思います。 [DVD(邦画)] 6点(2016-12-06 19:47:57)(良:1票) |
414. 忠臣蔵 花の巻・雪の巻(1962)
《ネタバレ》 正統派の「忠臣蔵」映画としては、これまで観てきた中でも五指に入る出来栄えではないかと思われます。 (ちなみに、正統派ではない変化球で真っ先に思い付くのは1990年のドラマ版です) とにかく、余計な事をしていないというか、必要なエッセンスだけを抽出した感じがして、観ていて安心させられるものがありましたね。 基本的には1954年版の同名映画のリメイクと言って良い内容なのですが、あちらが当時としては斬新な演出や解釈を色々と盛り込んでいるのに対し、こちらは旧来通りというか、真っ当な娯楽映画に仕上げてみせたという印象です。 岡野金右衛門が大工の娘と恋仲になる件の尺が長いのと、三船敏郎演じる俵星玄蕃の存在感が強過ぎて浮いているように感じる辺りは難点でしたが、きちんと作中のクライマックスを「討ち入り」に定めている為、全体のバランスとしては整っているように思えました。 特に感心させられたのが、吉良上野介の描き方。 冒頭にて「前々から浅野には怨みがあった事」「上司から浅野への復讐を促されていた事」などが語られている為、何故わざわざ意地悪をしたのかと、観客に疑問を抱かせない形になっているのですよね。 そういった情報を前もって提示する事で吉良側の動機を補強しつつ、浅野に対する場面では存分に「嫌味、吝嗇、欲深な爺様」っぷりを披露して(こりゃあ浅野が怒るのも分かるわ……)と思わせてくれるのだから見事。 作り手としては、恐らくそんな意図は無く、吉良の悪役っぷりを際立たせる為の台詞だったと思われますが「臆病と言われれば、それはいっそ儂には自慢になる」と言い放つ姿なんかも、妙に人間臭くて、自分としては好感を抱きました。 加山雄三が内匠頭を演じるというのは驚きでしたが、生真面目で、気が強くて、病的なくらいにプライドが高いという、難儀な人物を見事に演じており(こういう役も出来るんだなぁ)と感心させられましたね。 刃傷を起こした後、乱心したという事にすれば罪も軽くなるのに、それを潔しとしなかった堅物っぷりにも、説得力があったと思います。 内匠頭を描く上でネックとなるのは「自分の行いによって家臣達が路頭に迷うとは思わなかったのか? 本当に名君なのか?」という点なのですが、本作においては「賄賂が横行する現在の政治は間違っている」という正義感が動機の一つとなっている為、一応浅野側の言い分も理解出来ます。 松の廊下の件でも「先に手を出したのは吉良」という形になっており、浅野側が正しいという作中の価値観に対し、反感を抱かずに済むようになっていますね。 討ち入りの場面に関しても、二十分ほど掛けて丁寧に描いており、充分に納得のいく出来栄え。 雪を踏む足音に合わせるように流れる伊福部音楽は、最初こそ「ゴジラかよ!」とツッコませてくれますが、慣れれば「忠臣蔵らしい、重厚な迫力がある」と思えました。 暗い屋敷内に、侵入者側が蝋燭を配置していく流れなんかも面白くて、堂々とした合戦ではなく「夜陰に乗じて寡兵で攻め込んだ奇襲戦」である事を実感させてくれます。 また、吉良を殺害する場面を直接描かない事、事件後の切腹の様子をナレーションだけで済ませた事も、効果的でしたね。 それによってネガティブな印象が薄れ、本作は「主君の仇討ちを果たした赤穂浪士が、誇らしげに町を歩く姿」という、鮮やかな印象のまま完結を迎える形となっており、若干の苦みを含みつつも、後味は爽やか。 自分が忠臣蔵モノで何か一つ薦めるとしたら、上述の1990年のドラマ版なのですが、そういった変化球作品を楽しむ為には、やはり本作のような真っ当な魅力の「忠臣蔵」も味わっておくのが望ましいのでしょうね。 久々に、王道の魅力を堪能させてもらえた一品でした。 [DVD(邦画)] 7点(2016-12-05 18:23:50) |
415. ミシシッピー・バーニング
《ネタバレ》 「町の黒人は幸せだった」「運動家が混乱させるまではな」という台詞が、非常に印象的。 差別を行う人々にとっては「黒人に白人と同じ権利を与えようとする行為」こそが悪であり、平和な町に混乱を齎す元凶なのだという事が伝わってくる、恐ろしい場面でしたね。 FBI側が絶対的な正義という訳ではなく「非合法な捜査を組織ぐるみで行う集団」としての面も描いている点は、好印象。 特にジーン・ハックマン演じる「ミスター・アンダーソン」に関しては、それが顕著であり「密造酒屋から賄賂を貰っていた」と平気で話すものだから、悪徳警官と称しても良さそうな感じです。 では、そんな彼が人種差別を目にして眠っていた正義感を目覚めさせる話なのかと思いきや、どうも少し違った印象を受けてしまいました。 それというのも、彼が本気で怒り、KKKを相手に鮮やかな逆転劇を決めてみせるキッカケというのが「黒人が殺された事」ではなく「白人女性がKKKメンバーから家庭内暴力を受けた事」だったりするのです。 個人的に親しくしており、不倫のような関係にあった女性が被害に遭ってから初めて本腰を入れるだなんて、正直「なんだそりゃ」と思ってしまい、終盤の展開にてカタルシスを得る事が出来ず、残念でした。 作中にて「消えたのが白人でなくても来てた?」という台詞をFBIに対して言わせている辺り、作り手としても意図的に「白人が白人の為に捜査を行っただけ」という主張を織り込んでいたのかも知れませんし、あるいは「黒人だけでなく女性も差別を受けているのだ」と示す効果があったのかも知れません。 ですが、映画として観た場合「黒人が殺されてしまう」→「白人が入院する」という流れで、後者の方が重大であるかのように描く演出は、流石にマズかったのではないでしょうか。 自分としては「人種差別を否定する人物の代表」であるところのウィレム・デフォー演じるウォード捜査官に、もっとスポットを当てて、彼が正攻法でKKKを追い詰めていくところが観たかったものです。 映画としてのクオリティは非常に高く、例えば導入部の水飲み場のシーンで一気に観客の興味を惹き付けるのも上手いし、KKKの襲撃を受けた主人公達が銃を手にして外に飛び出すシーンの緊迫感も凄まじい。 アンダーソンとウォードの正反対なコンビからは、バディムービーとしての面白さも感じられましたね。 レストランにて「黒人の席だ」と注意されても、気にせず座ってみせる白人のウォード捜査官という描写なんかも、非常にスマートで魅力的。 ラストにて明かされる犯人グループの量刑の軽さには、唯々呆然とさせられ、差別に対する怒りが込み上げてきましたし「見て見ぬふりをした者は皆、有罪だ」という一言にも、大いに頷かされるものがあります。 そんな風に、褒めるべき点が幾らでもあって、傑作と呼べそうな一品なのですが「それだけは、やっちゃいけないだろう」という終盤の展開があった為「結局のところ、白人本位の内容なんだ」との印象を拭い去る事が出来なかった、惜しい映画でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2016-12-02 18:46:34) |
416. ペリカン文書
《ネタバレ》 タイトルは知っていたけれど、ストーリーに関しては全く知らないという状態で観賞。 「仮説を唱えた論文程度を恐れて殺人を犯す訳が無い。きっと何かもっと深い理由があるはずだ」と思っていたのですが、中盤以降で「そんな深い真相なんてない」と気が付いてしまい、何だか大いに落胆させられましたね。 勝手に深読みし、期待しちゃっていた自分が愚かというだけなのですが、それにしても終盤において「どんでん返し」が無いのは寂しいし「真実を明らかにしてみせたカタルシス」も薄かったように感じられます。 理由を分析してみるに、こういった映画の場合は視点を「論文を書いた法学生」に定め、巻き込まれ方のサスペンスとして描く事が多いのですが、本作はその視点を意図的に分散させているのですよね。 それによって、法学生が明確な主人公ではなくなり「彼女も殺されるかも知れない」と緊迫感を抱かせる効果があったのかも知れませんが、自分としては「彼女に感情移入出来ない」「敵方も何を考えて、どんな行動をしているのか丸分かりなので、不気味さに欠ける」という結果に終わってしまった気がします。 若き日のジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントンの組み合わせは新鮮で、ただ立って話しているだけでも好感を抱いてしまう雰囲気が漂っているのは、流石という感じ。 総じて真面目に作られており、クオリティも決して低くはないのですが…… 何だか、その優等生っぷりが「面白みに欠ける」と思えてしまうような、物足りない映画でありました。 [DVD(吹替)] 5点(2016-11-23 15:02:09)(良:1票) |
417. ハウス・オブ・ザ・デッド2<TVM>
《ネタバレ》 前作からは一転、かなり真面目に作られているゾンビ映画。 こういった形で作風が分かれた以上「1の方が好き」あるいは「2の方が好き」という論調で語りたかったところなのですが、正直に感想を述べると「どっちも同じくらい……」という結論に達する為、困ってしまいますね。 分かりやすいところで比較すると、主人公に関しては、本作の方が圧倒的に好感が持てます。 如何にも有能そうなルックスに反し、作中の行動はドジが多くて頼りないのは玉に瑕ですが、観客としては応援したくなるタイプの人物でした。 キーアイテムとなる血液サンプルの価値を「売却によって齎される金額」でしか考えられない悪役に対し「それによって救える命の数」を語ってみせる辺りも、良い奴っぷりが伝わってきましたね。 作中にて、ユーモア部分も適度に取り入れつつ、それらは大体ゾンビ達に担当させて、主人公側の人間達は出来るだけシリアスな雰囲気を保てるよう配慮しているのも、良いバランスだったのではないでしょうか。 特に、図書館では静かにするよう「シーッ」と言い出すゾンビなんかは、自分もお気に入りです。 では、難点はというと……何だか根本的な話になってしまうのですが、緊張感が無いのですよね。 蚊に刺されただけでも感染してしまうという設定は非常に驚異的なのに、何故か主人公達は返り血ばんばん浴びまくって、口にも血が入っているはずなのに、全然平気で人間のままなのです。 (えっ? 感染しないの?)という混乱が先立ってしまい、折角真面目にゾンビ映画をやってくれていても、その世界の中に没頭出来ない形。 その他、暗闇の中の人影を「人間か」と思って近付いたら「実はゾンビだった」ってパターンが連続して発生するので(またかよ)とゲンナリしてしまったのも大きいですね。 序盤の段階で、こういう演出への不信感みたいなのが芽生えてしまうと、中々払拭するのは難しいみたいです。 極め付けは「大切な血液サンプルを失ってしまった」という展開を、終盤の短時間の内に二度も見せられた事で、これはもう、正直ガッカリ。 これまでの事は全部無駄骨だったなんて、観ているこちらまで落ち込んじゃいます。 主人公とヒロインの二人は生き延びる為、後味が最悪という事はなく、その点に関しては安心。 作り手は色々と頑張ったのは伝わってくるだけに、もう少し達成感というか、カタルシスを与えて欲しかったなぁ……と思わされた一品でした。 [DVD(吹替)] 4点(2016-11-21 10:05:15) |
418. ハウス・オブ・ザ・デッド
《ネタバレ》 同監督作の「ウォールストリート・ダウン」が、危険な内容ながらも中々面白かったので、期待を抱きつつ観賞。 ところが序盤、主人公が他の登場人物を紹介するパートにて(友達相手のはずなのに、悪口ばかり言っているなぁ……)と思ってしまった時点で感情移入が出来なくなり、以降も第一印象が覆る事はなく、残念でしたね。 「実は主人公こそが、後にゾンビを大量発生させる元凶である」という、2にも繋がる伏線である為、嫌な奴として描いておくのは仕方ない事なのかも知れませんが、それならそれで「最初は善人だった主人公が、事件を通して狂気に囚われてしまった」という形にしても良かったのではないでしょうか。 この手の映画の主人公は「駄目な奴」だったとしても「実は良い奴」だからこそ(生き残って欲しい)(頑張って欲しい)と思える訳なので、今作のように一貫して「嫌な奴」だったりすると、それだけで観るのがキツくなっちゃいますからね。 唯一、ヒロインへの愛情だけは本物だったのでしょうが、流石にそれだけでは肩入れ出来なかったです。 決定的に(これはダメだろう)と落胆してしまったのは、クライマックスの場面。 何故かラスボスが「主人公に首を斬り落とされるまで、剣を手にしたまま無防備に突っ立っている」という不自然な態度を取っていたりして、これはもう完全に興醒め。 背中を向けていた恰好なので、振り向き様に首を斬られるだけでも充分だったと思うのですが、何故ああも無抵抗だったのか、本当に謎です。 勢い良く突っ走るタイプの映画に、こんなツッコミをするのは野暮かも知れませんが(勢いを重視する作風だからこそ、こういう細かい部分で観客にブレーキを掛けさせるような真似はしないで欲しい)と、つい思ってしまいました。 とはいえ、ゲームの爽快感を再現した中盤の大袈裟なアクションシーンなんかは、結構好み。 作中で「ロメロゾンビ映画の四作目」が「多分やらないだろう」と言われているのも可笑しかったですね。 冒頭、ヒロインについて「フェンシングにのめり込んでいる」との情報があり(何その分かりやすい伏線)とツッコませておいて、終盤で本当にチャンバラをやらせてくれちゃうノリの良さも、嫌いじゃないです。 ゾンビ映画に必要なものが、面白さではなく愛嬌だとしたら、それは間違いなく備えている一品だと思います。 [DVD(吹替)] 4点(2016-11-21 09:33:06) |
419. モンスター・トーナメント 世界最強怪物決定戦
《ネタバレ》 プロレス映画だなぁ、というのが率直な感想。 一応、ゾンビが肉を食い千切ったり、サイクロプスが目からビームを出したりもする訳ですが、そういった非現実的な描写はオマケという感じで、あくまで「モンスター達にリング上でプロレスをやってもらう」というのが目的だったみたいですね。 基本的な戦い方も、トップロープから飛び掛かったり、ドロップキックをかましたりで、如何にもプロレス的。 それを象徴しているのがウィッチ・ビッチの扱いで、魔術の類は使わずに素手で戦い、ようやく道具を使ったかと思えば包丁だったりして「魔女である必要ないじゃん!」とツッコませてくれます。 試合前にトレーナーから「魔女として虐げられ続けた怒りをぶつけろ」「呪いも黒魔術も全て忘れて戦士になれ」と言われ、素手で戦う特訓を続けてきた訳だから、魔術を使わないのは納得なのですが、それなら包丁も使わないで欲しかったし、何だか中途半端なのですよね。 優勝者となったフランケンシュタインの扱いに関しても同じ事が言えて、彼のストーリーとしては「父と呼び慕っていたイゴール博士が殺されてしまい、その仇であるクロックシャンク大佐と戦う事になる」という流れな訳ですが、その博士が殺された理由も「セコンドであるにも関わらず、乱入してフランケンシュタインを助けるという反則を行ったから」なので「それって博士が悪いのでは?」と思えてしまい、どうも筋が通っていない感じ。 にも拘らずフランケンシュタインが殺された博士に手を伸ばす描写は、如何にも同情を誘うような描き方だし、オマケにフランケンシュタインVS大佐が始まるところで映画が終わってしまうしで、最後まで消化不良。 世界中からモンスターを集めて、誰が一番強いのかリングで決めるという浪漫溢れる設定に関しては、文句無しで好きです。 その馬鹿々々しいノリならではの面白さは伝わってきたし「放送事故」の演出や「ハデス、次はお前だ!」という台詞には、クスッとさせられるものがあったのも確か。 それでも、全体的には退屈に感じる時間の方が長かったので…… 多分、もっとプロレスを愛する人こそが観賞すべき映画だったのでしょうね。 [DVD(吹替)] 4点(2016-11-17 14:46:41)(良:2票) |
420. 武士の一分
《ネタバレ》 姉妹作とも言うべき「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」については、何年も前に観賞済み。 何となく観そびれていた本作にも、ようやく手を出してみたのですが、上記二作と変わらず楽しむ事が出来ましたね。 とにもかくにも主演に「現代のアイドル俳優」というイメージが強過ぎる為、最初の内は「武士という割には軽過ぎる」という違和感もあったのですが、それが中盤以降の悲劇的な展開との落差を生む事に繋がっており、結果的には良かったと思います。 妻の加世、中間の徳平に軽口を叩く姿も、ちょっぴり嫌味なのに愛嬌がある辺りなんかは、正に木村拓哉という存在だからこそ、という感じ。 また、真っ当な殺陣の魅力に関しては一作目の「たそがれ清兵衛」で存分に描いている為、二作目と三作目においては「隠し剣」「盲目の武士の戦い」という変化球で攻めた辺りも正解だったのではないでしょうか。 歴代の中でも、間違いなく本作が一番不利な状況下での戦いであった為、前二作と同じ流れで最後は主人公が勝つだろうと安心しつつも「本当に勝てるの?」という緊張感を、適度に抱く事が出来たと思います。 あえて言うなら「決闘の場所の下調べくらいはしておくべきじゃないか」とも思えましたが、それをやるのは卑怯という価値観なのかなと、何とか納得出来る範疇でした。 それよりも個人的に残念であったのは、タイトルにもなっている「武士の一分」の使い方について。 復讐の動機は、妻が辱められた事にあると言い出せず「武士の一分としか申し上げられません」と絞り出すような声で訴える場面は凄く良かったと思うのですが、その後も「武士の一分」という言葉を繰り返し用いるものだから、ちょっと重みが薄れたように感じられてしまったのですよね。 全ては「あの御仁にも、武士の一分というものはあったのか」という台詞に繋げる為だったのかも知れませんが、それならせめて使用は二回までに留めて欲しかったなぁ、と。 脇役に関しては魅力的な顔触れが揃っており、本人に悪気は無くとも傍迷惑な叔母さんは妙に憎めなかったし、意外な名君であった殿様の存在感も良かったですね。 特に後者に関しては、主人公の失明後も「大儀」と一声掛けるだけであり、所詮は家臣の事など軽く考えている天上人なのだと示す場面があっただけに、その後に真相が明かされる場面には、完全に参ってしまいました。 家老の結論を覆し、藩主自ら主人公を庇ってみせたのだと判明する、あそこの件が、この映画のクライマックスだったのではないでしょうか。 結局、決闘については周りに知られぬまま、主人公の仇討ちが咎められる事も無く、離縁した妻とも再び結ばれるハッピーエンドを迎えた本作。 ですが、あの殿様であれば、たとえ事情を知ったとしても、きっと公明正大な処置を下されたのではないかな、と思えました。 [DVD(邦画)] 6点(2016-11-17 12:10:58)(良:2票) |