461. 2046
《ネタバレ》 ウォン・カーウァイの集大成であり、『欲望の翼』『花様年華』に続く3部作の完結編でもあり、そして記念碑的迷作でもある。前2作にリンクする要素があるため、既に鑑賞していた自分はそれほど混乱しなかったが、ただ右往左往して結論を出せない主人公が己の苦悩に酔っているだけだった。前作でしっかり描いている以上、何らかの形で決着をつけて欲しかった。気負いすぎて、じっくりと煮込み続けた果てに取り返しのつかないものが出来てしまった感じが残る。ちなみに当時予告編でバンバンやっていた近未来SFとキムタク要素はほとんどない。 [DVD(字幕)] 4点(2018-05-03 23:13:48) |
462. レミーのおいしいレストラン
《ネタバレ》 佳作だがモヤモヤする映画。というのも、レミーに助けられてばかりのリングイニが追いつめられて突如才能を開花するわけもなく、仲間のネズミが料理作りに協力する意外性を選んでも、どうしても衛生上の悪いイメージが頭をチラつかせる。それがばれて閉店に追い込まれるオチでカバーしているものの、偏見をテーマにするには強引さが否めない。ミシュランの呪縛から解き放たれて、新しいレストランを作っても、リングイニが変わるわけでもない、むしろレミーの寿命を考えるとハッピーエンドは雀の涙でしかないような。CGアニメであることを活かした縦横無尽、奥行きのあるアクションで魅せるし、評論家の心根を変えるほどのラタトゥーユの演出に説得力があるだけに、監督の交代劇で実績のあるブラッド・バードが全力でやったとしても、これが限界なのだろう。 [DVD(吹替)] 7点(2018-05-02 00:57:40) |
463. ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
《ネタバレ》 "リチャード・パーカー"という海難中の飢えで喰われた乗組員の名前をトラに与えることで、最後にトラが主人公に喰われるのかと思いこませて、実はおぞましき人肉食(=現実)をカモフラージュするためのミスリードだった。ベジタリアンの主人公が極限状態ゆえに寓話として捏造しなければ、その事実に心が壊れてしまうのだろう。そう思うとトラが全編フルCGで作られた意味が強調されたといえる。トラに具現化した己との闘いだった。とは言え、バナナが海中でも浮くことが現実でも証明されているので、どこまで事実か不明瞭なところに救われる。己の中の獣性がどこで目覚めるか分からない。ヒトがヒトで居続けるための信仰が無力だとしても、その均衡によって生き残れたのかもしれない奇跡がきっと存在する。 [3D(吹替)] 8点(2018-04-23 19:20:20) |
464. ラスト、コーション
《ネタバレ》 冒頭、麻雀に興じる女たちに象徴されるように、相手の心を如何に探り、撫で操るか。孤独と空虚を抱えた男は娘の肉体を求める。娘はそこから心を開かせて破滅へ導く。ところが愛してもいないのに、「逃げて」と言ってしまったのだろう。彼女もまた肉欲に耽るうちに、その孤独に共鳴してしまったのか。いつか訪れる終わりを拒絶した娘には、復讐が形だけのものであることに気付きながら意思が揺らいでしまい、成功後の虚無感を受け入れる覚悟はなかった。ごっこ遊びの域から出られなかった彼女ら活動家は死に、敗戦濃厚な日本を前にした男にも破滅が待っている。「肉欲を戒めよ」。ひとときの愉しみを求めてしまったために、胡蝶の夢のようにただただ虚しかった。 [DVD(字幕)] 6点(2018-04-23 19:17:38) |
465. ブロークバック・マウンテン
《ネタバレ》 保守的なワイオミング州と男らしさの象徴であるカウボーイに相反するように描かれる同性愛は、二人の人生に大きな波紋を広げ、大きな影を落とす。仕事上、大自然で二人だけだからこそ恋に落ちてしまう過程に説得力があり、会えない月日で広がる心の空虚さを埋めるように、ブロークバック・マウンテンだけが二人を受け止める唯一の居場所なのだろう。当然、お互いの妻は遠い世界を見ている夫とズレが生じていき、不幸になっていく。もし、二人が出会わなければ双方の家庭は幸せになっていたかもしれない。偶然恋に落ちた相手が"男"なだけにすぎないのだから。一人は死に、もう一人は孤独なトレーラーハウス暮らしに身を落とす。永遠に会えない男のシャツに「愛してる」と呟き、夢の中で己を慰めるしかない。心に残る半面、不器用な生き方しかできなかった男たちのとても悲しいラブストーリー。 [映画館(字幕)] 8点(2018-04-23 19:16:01) |
466. カードキャプターさくら 封印されたカード
意見が分かれるのは当然。対象年齢が本来狙っている客層から大きく外れているのもあるが、最低でもアニメ版の設定を把握しておかないと全くついていけない、ファンのためのオマケみたいなものだから。ある程度の情報を踏まえて見てもTVスペシャルで十分かと。ラストの切り方が潔くて、ある意味清々しい。 [地上波(邦画)] 5点(2018-04-01 23:00:47) |
467. ベンジャミン・バトン/数奇な人生
《ネタバレ》 画に対するこだわりが随所に感じられるも、言わなければデヴィット・フィンチャーの映画だとはほとんど気付けないだろう。アメリカの現代史とリンクする点では『フォレスト・ガンプ』に近いが、ベンジャミンは表舞台に立つことはない。逆行していく男の人生をあたかも普通の人たちと同じように淡々と綴っていくだけだ。特に時間という概念が強調される。少しの誤差でデイジーには違った人生があったかもしれないし、互いの適齢期が交差したときに生じるささやかな日々ですら愛おしく感じる。だからこそ終盤、歳を取るごとに若者になっていくベンジャミンと老けていくデイジーの対比が孤独感を増していくようで切なかった。彼はいろんな人々に出会い、その人たちもどこかで影響を受けて、それぞれの人生を生きていく。時が経つに連れ、余韻という水が喪失感を埋めるように少しずつ心を満たしていく。そんな作品。 [DVD(字幕)] 7点(2018-03-31 20:57:04) |
468. パニック・ルーム
《ネタバレ》 当時としては珍しかったデジタル撮影に、ヒッチコックタッチで密室を描いた本作。ワンシーンワンショットで捉えた印象的なカメラワークといい、中盤までは緊迫感いっぱいで良かったものの、立場が逆転したあたりから失速し、最後は強盗の仲間割れ、というよくある御都合展開で終わった残念なスリラー。『セブン』、『ゲーム』みたいに後に残るものもなく、フィンチャーの力量を持ってしても、最後は脚本だということを改めて実感する。 [映画館(字幕)] 5点(2018-03-31 20:26:06) |
469. エイリアン3
正当なシリーズものでは『3』しか見ていないので、本作に限って言えば、凡庸なSFホラーという感想しか出てこない。フィンチャーの長編デビュー作であるが、スタジオの圧力に、トラブルの連続に、と撮りたいものが撮れなかったと不満だったらしい。その屈辱を得て、今や鬼才であることに想いを馳せられる、若き日の監督の原点を見たい人向けだろう。 [ビデオ(吹替)] 4点(2018-03-31 20:16:50) |
470. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
《ネタバレ》 完結編なのにどうも物足りない印象を受けるのは、合戦シーンが二つの塔の焼き直しに見えてしまったことが大きく、指輪を捨てる顛末が霞んで見える。エンディングも監督が気に入っているからかどれも捨てられず、何度も見せられるような冗長さがあった。それだけ原作への思い入れが大きいということだろう。アカデミー賞の歴史において例外中の例外で、作品賞含めての総ナメということは、それほど実写映像化不可能と言われたファンタジー小説をあらゆる制約と困難を乗り越えて、最高の完成度で応えた功績を称えての"努力賞"だと言える。他の候補作で相応しいものがなかった運の強さもあるかもしれないが、常に多くの人の支持される映画は大衆迎合か否かなのだ。合計11時間以上の3部作の完全版を見てこそ真価が発揮される。そういう意味でこの点数。 [映画館(字幕)] 7点(2018-03-30 23:33:41) |
471. ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔
《ネタバレ》 旅の仲間が不満だった人には「お待たせしました」と言える。3組に分かれることによって物語の単調さは避けられ、作中の世界観もより広がった。最大のハイライトは終盤の激しい籠城戦で料金の元はまず取れるくらいに迫力満点。一方、対比するようにフロドの影が薄く、案内人ゴラムとの張り詰めた三人旅で何とか持ち堪える。今作だけでも十分に面白いが、パーティーがバラバラに散らばったことで世界を救う旅をしている一体感が薄れてしまったことが個人的には一番寂しい。 [映画館(字幕)] 7点(2018-03-30 23:23:42) |
472. 宣戦布告
《ネタバレ》 ある共産主義国が侵入した時の政府の対応を描いたシュミレーション作品。時代の先見性があったのか、自衛隊が武力行使している点がタブー視されているかは分からないが、真っ当な発言をしている若手の発言権がなく、トップ陣がズブズブドロドロで身動きが取れないあたり、現在の日本の縮図を見ているよう。そういう意味で価値はあると思うが、純粋に映画としては凡作。軍事アクションと政治ドラマを何とか両立しようとして支離滅裂になり、クサいメロドラマを見せられるのはちょっと・・・ [DVD(邦画)] 4点(2018-03-23 22:42:07) |
473. 夜と霧
《ネタバレ》 32分で人生に影響を与えるかもしれない映像体験。 カラーで描かれる青空と緑の平野と対比するように、かつてここが強制収容所だったこと、 そして虐殺があったことをモノクロの映像で淡々と綴っていく。 死体の山をブルドーザーでかき集めていく有名な映像がかつてテレビでも放映されたが、 生首と人皮の工芸品のくだりは実際にあったのかと思考する余裕を与えないほどの"生々しい非現実さ"があった。 終戦からわずか10年で虐殺に向き合った事実に本作の真価があるだろう。 現在までに世界中で虐殺が繰り返され、他方で他人事のように見て見ぬふりをする我々もまた共犯者だろう。 [DVD(字幕)] 9点(2018-03-23 22:31:53) |
474. パワーレンジャー(2017)
《ネタバレ》 近年のハリウッドのヒーロー映画は、覚醒までの葛藤に時間を割くことが主流である。『ダークナイト』以降のリアル路線、『クロニクル』の青春映画の流れを踏襲していて、5人それぞれに家庭や人間関係に問題を抱えている。ただ、そのシリアスな背景が東映のスーパー戦隊とあまり噛み合ってない。深刻な内容を徹底的に描けば良いわけでもないが、まだまだ掘り下げが足りない。ジェイソン(レッド)が友人と悪質なイタズラをしたきっかけが不明だし、キンバリー(ピンク)が友人を失ったエピソードが台詞のみで感情移入しづらい。列車に衝突後、5人がどう帰宅したのか、ビリー(ブルー)の母の車を壊したお咎めすら描かれていない。トリニー(イエロー)が自宅で襲われたとき、普通に警察沙汰どころか、周囲の事件で既に戒厳令レベルなのに。そんなツッコミは置いておくにしても、終盤20分の戦闘シーンは視覚効果にものを言わせたロボットバトルばかりで、肉弾戦があまりないのは寂しい。ちなみに本作は日本で大コケして、続編の製作は絶望的とのこと。荒唐無稽で子供向けのイメージが強すぎるスーパー戦隊をアメコミの世界観に合わせようとして、誰を狙っているのか分からなくなってしまった。 [DVD(字幕)] 4点(2018-03-23 22:27:33) |
475. 新感染 ファイナル・エクスプレス
《ネタバレ》 新幹線と駅構内のみの限定的な空間で危機をすり抜けていくスリル、極限の状況で繰り広げられる人間ドラマ、一人ひとり脱落していくメインキャラ、とゾンビ映画のお決まりをなぞりながらも、残酷描写がほとんどなく、適度な恐さと緊張感で緩急つけながら2時間を一気に見せる。多くの人に薦められるパニックアクションの秀作。こういう大作を撮れない邦画のダメさを痛感させされる。製作姿勢に落差がありすぎる。感傷すぎる嫌いはあれど、ラストに落としどころを用意し、下手に後日談を描かない潔さが良い。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2018-03-12 20:33:32) |
476. エネミー・ライン
先に『ブラックホーク・ダウン』を見てしまうと迫力負けするかも。全責任を背負って主人公を救出しようとする上司役のジーン・ハックマンが画を引き締め、反面、主人公役のオーウェン・ウィルソンの終始情けない顔で安心感なくて良い。MVPはどこまでも追ってくるジャージ姿のセルビア兵スナイパー。陰の纏い方が半端ない。 [DVD(字幕)] 6点(2018-03-12 20:28:26) |
477. RETURNER リターナー
『M:I-2』、『マトリックス』、『E.T.』、『ターミネーター』・・・それぞれの美味しい要素を取り込んだら、水と油が混ざらない、表面的なパチモン映画になってしまった例。もちろん模倣と意識しているだろうが、元ネタのような面白さもスピード感もない。ハリウッドに挑戦しようにも、そもそも相手にすらされていない。現に15年以上経った現在でも、ハリウッドに迫るクオリティを獲得できないどころか、むしろ劣化しまくっているではないか。志の低い、粗製乱造の漫画実写化ばかりの邦画を見るに、これからも変わらないまま日本という狭いマーケットの中で自滅していくのだろう。だからダメになる前に稼ぐだけ稼ぐ魂胆なんだろうけれど。 [地上波(邦画)] 2点(2018-03-08 19:10:37) |
478. ホワイトアウト(2000)
ほぼリアルタイムで学校の上映会で鑑賞。何もかも中途半端で既視感づくしの劣化版『ダイ・ハード』。いくら邦画がハリウッド風の娯楽大作を撮っても、結局その程度のものしか作れないし、見たあと何も残らない。ネットの普及もあり、このあたりから先人たちの遺産を食い潰す現状が可視化していった。観客も馬鹿ではないが、ホワイトアウトの如くもう視界に入っていないのだろう。お偉いさんとスポンサーへの忖度しか作ってない自己満映画です。 [映画館(邦画)] 2点(2018-03-08 18:59:03) |
479. スター・ウォーズ/フォースの覚醒
《ネタバレ》 ファンではないので普通に見る限りでは面白い方だけど、ヒロインが主役で相棒が黒人というあたり、時代の流れ、多様性を象徴する(オバマからバトンを渡されるヒラリー・クリントンの暗喩か)。ハン・ソロの死はもう歳だし今更という感じで驚かなかった。今後は同性愛要素もあるそうだが、本来のSWとかけ離れていきそうで懸念するオールドファンも少なくないだろう。ルーカスの制御から距離を置くにも行き過ぎは危険。多様性も見方を変えれば、逆差別・価値観の押しつけでしかない要らぬ配慮だ。新しいファンを獲得するためには仕方ないのか。 [地上波(吹替)] 5点(2018-03-03 17:56:50) |
480. スラムドッグ$ミリオネア
《ネタバレ》 人口11億人、面積が日本の8倍以上を有するインド。 それだけ広いのだから、映画では描き切れない社会の暗部もカオスさも想像以上で、 熾烈な世界で必死に生き抜こうとする市井の逞しさは相当なものだ。 日本のおける深刻な悩みが小さく見える。 悪臭の立ち込めるスラム街を追われ、貧困ビジネスの魔の手から逃れ、生きていくためにあらゆる手段を総動員する。 この映画では"運命"と片付ける。 壮絶な体験を経て賞金とヒロインを手にした主人公と、ダークサイドに堕ちた兄と、薬品で目を焼かれた少年の違いは何なのか? 不条理を感じるも、自分を信じてがむしゃらに生きていくだけだ。 マサラムービーでお馴染みの歌と踊りがエンドクレジットで流れるのに底なしの陽気さが感じられないのは、 かつて宗主国だったイギリス人監督ならではのどこか醒めた視線がある。 良レビューにある通り、ゴミのように死んでいく現実と対比した、主人公の見た幻にしか見えない。 [映画館(字幕)] 7点(2018-03-02 18:34:48)(良:1票) |