481. 息子の部屋
《ネタバレ》 変に感動を盛り上げることなく淡々と綴っていく作風のため、拍子抜けするならともかく、息子を失った家族という普遍的なテーマから新しい発見や衝撃が見つからない。息子の友人をフランスの国境まで送って、家族は喪失を受け入れることができた。それは分かるけど、もっと踏み込める部分はあったのではないか。全て想定内で終わってしまっている。と言いながらも、棺桶の蓋をバーナーで封じ込めるシーン、もう戻れないと分かっていながら息子を海に行かせず一緒に走る妄想シーン、英語歌詞のスローテンポな主題歌"By This River"が心の片隅に残って、どうも凡作扱いにはできない何かがある。 [DVD(字幕)] 6点(2017-08-02 22:55:55) |
482. ビューティフル・マインド
《ネタバレ》 流石アカデミー賞好みの内容だけど、消去法で選ばれた感は否めない。統合失調症によるサスペンス要素を忍ばせながらも、献身的な愛の物語を描いてみました的な感じで、それ以上の驚きや感動が想定の範囲内で物足りなかった。本人は両性愛者、反ユダヤ主義者の顔もあったようなので、それも描いた方が新鮮味はあったかもしれないが、それではアカデミー賞候補にも上がらないか。その控えめ感が良いかは別にしても、トラブルメーカーのイメージの強い豪胆なラッセル・クロウが正反対の主人公を繊細に自然に演じていて(体格はともかく)、無名だったら気付かなかっただろう。本作公開からずっと後に夫婦が事故死するとは思わなかった。幾多の困難を乗り越えてきた二人には、映画以上に数奇な人生で凡人には想像できない苦闘があったのだろう。 [映画館(字幕)] 6点(2017-07-20 23:29:39) |
483. 鳥(1963)
《ネタバレ》 何故、鳥が人を襲うのかなんてどうでもいい。理由がないから恐ろしいのであって、その純粋な恐怖をヒッチコックは引き出そうとしたのだろう。最後まで逃げ場のない終末感漂う結末にこれ以上のものは考えられない。 [地上波(字幕)] 6点(2017-07-11 19:34:17) |
484. サイコ(1960)
《ネタバレ》 サイコホラーの教科書というべき映画なので、シャワーシーンが有名すぎてあまり衝撃ではない。リアルタイムでネタばれなしで見たかった。それでもモノクロの効果が絶大で、母親の正体の演出は神がかっていたかと。センセーショナルな作品は衝撃的である一方、即物的で下賤に映るが、大衆の心を動かしたもの勝ちなのでこうしたものが歴史に残るのは今も同じかもしれない。 [DVD(字幕)] 6点(2017-07-11 19:30:42) |
485. 輝ける青春
《ネタバレ》 もう一つの『1900年』と呼んでいいかもしれない。中流家庭の40年史の割に歴史に翻弄されるというわけではないが、それでも左翼活動にのめり込む妻に、複雑な弟の自殺と波乱万丈で、一度バラバラになるも再生していく過程を丁寧に掬い取る。流石に後半40分くらいは睡魔でウトウトしてしまったが、弟の幻影が主人公と弟の妻を祝福するシーンが美しく心に沁みてくる。序盤のシーンに立ち返る結末にしみじみ。大河小説を読み終えたような充実感は相当なものだ。 [DVD(字幕)] 6点(2017-07-03 19:38:35) |
486. 闇の列車、光の旅
《ネタバレ》 列車の屋根に無断に乗り込み、強い雨風を凌いで、アメリカに不法入国するヒスパニック達。アメリカに行けば希望があるとは限らない。だが暴力と貧困と汚職が根強い祖国に残っても希望も未来もないのは確かだ。幼い少年ですら真っ当に生き残るためにギャングに入る現実。そしてどこまでも地の果てまで裏切り者の主人公を追いかけてくる絶望感。彼が蜂の巣にされようが、多くのものを失ってまでアメリカに辿りつこうが、ヒロインにはハッピーエンドとは程遠い困難が待ち構えているだろう。共倒れしたくないからと、国境に壁を作ろうとする大統領。明日も分からない彼らに寄り添っているため、蝕まれているアメリカ側を忘れそうになるが、善悪を二分にできない複雑さは双方の血と涙と犠牲によって作られている。 [DVD(字幕)] 6点(2017-06-08 19:43:38) |
487. ある子供
《ネタバレ》 未成年が親になる。女なら激痛に耐えて命を分けた子を産んで母になる実感を得るが、男は父親になる実感が湧かないだろう。子供に慣れない、あまりに未体験なことばかりで戸惑ってしまう。特に恵まれない家庭で育った男なら尚更だ。生きていくためなら金欲しさに平気で子供を人身売買業者にも渡す。ただ、事の重大さに気付いて、危うく取り返すも妻から絶縁を突き付けられる。当然の結果である。世間と上手く渡り合うことばかり顔色を伺い、接し方もぶつかり方も分からなかった。その想像力の欠如した"子供"が如何にして"父"になるか。一度は見捨てた仲間の少年のために自首し、妻が面会に来たことから本当のスタートがはじまる。簡単に道徳心が育つような楽な道のりではないことは確かだが・・・。親になることは重大な責任を背負うこと。糾弾することは誰でもできるが、社会が放置したままでは"こども夫婦"が増えるだけだろう。それがより感じられる映画であった。 [DVD(字幕)] 6点(2017-06-08 19:27:03) |
488. ロゼッタ
《ネタバレ》 真っ当に生きたい。失業率が20%を超えるベルギーでは切なる願いなのだろう。キャンピングカー暮らしで身体を売る母に嫌悪しながら、ロゼッタは新しい職を探しに奔走する。辛酸を舐め切った悲壮に満ちた強い表情を常に崩すことはない。そう、ワッフルを売る青年に出会うまでは。不本意ながら彼と微かに距離を縮めつつも、不法にワッフルを売ったことを社長にバラし解雇させる。仕事にありつけるも、女としか見ていない彼への復讐で募らせていく罪悪感。そして強く硬い心が折れた瞬間、彼に曝け出した泣き顔で終わるエンドロールに何を感じるのか。ハリウッドとは対極的なタッチで現実を映し出したダルテンヌ兄弟。ラストの"フィクション"の後、決して希望があるとは限らない。それでも前に進んで可能性を信じるしかない。ぬくぬくとこの映画のレビューをしている自分がどれだけ恵まれているか実感する。生活のために働く"だけ"で素晴らしいと思えないと、過酷な現実に気が狂うだけだ。 [DVD(字幕)] 6点(2017-06-08 19:07:42) |
489. グエムル/漢江の怪物
《ネタバレ》 ただのモンスター映画と侮るなかれ。ポン・ジュノらしい一筋縄ではいかない、まるで人を喰ったような寓話だ。序盤の意表を突いた襲撃シーンから期待を膨らませてくれる。悲壮感あふれる葬式のはずが、ドロップキックに、過剰に嘆き悲しむ光景によって不謹慎な滑稽さを生む。喜劇と悲劇は常に隣り合わせなのだろう。ところが、以降の展開からトーンが萎んでいってしまう。躍動感のある見せ場が多いのに、序盤を超えるような高揚感がなかった。グエムルを総叩きするシーンですら冗長に思えるくらいに。だが、この映画で一番描きたかったのは、どん底で逞しく生きる市井の人たちなのだろう。良い大学を卒業しても兵役を満了しても将来が保障されるわけがない熾烈な競争社会で多くの人々がこぼれ落ち、自営業を厭わざるを得ないという。本当の怪物はその歪んだ社会構造で、ソン・ガンホが足でニュース番組が流れるテレビを消す食卓シーンに、"政治や社会に無頓着な大衆"として象徴されてるような気がした。 [映画館(字幕)] 6点(2017-05-29 19:35:28) |
490. ワイルド・スピード/SKY MISSION
1以来のシリーズ鑑賞。それくらいシリーズに対する関心は薄すぎるわけだけど、ポール・ウォーカーの不慮の事故死にどうしても避けるわけにはいかない。一見さんでも楽しめるが、やはりシリーズ全部通して見ないとより面白さが見えてこないこと必至。とにかくありえない激しいカーアクションが主体なのに、肉弾戦に銃撃戦と欲張って逆に胃もたれするのに、ポールという中心的存在を失ったことで、大きな穴がぽっかり空いた感じが際立っている。テレビでは重要な部分をバッサリカットしているらしく、死んだ彼のためにもノーカットで放送して欲しかったね。DVDでしっかりシリーズを通して見るか、以後の続編を見るかは別にして。 [地上波(邦画)] 6点(2017-04-30 23:25:21) |
491. イングロリアス・バスターズ
《ネタバレ》 策士策に溺れる。ハンス・ランダ大佐はわざと泳がせておいて大量の利益を得ようと自滅したように、タランティーノも似たような気がする。バスターズのパートとショシャンナのパートを交互で映し出す構成だが、あえて共闘することはせず、主役のアルド中尉とランダ大佐の対峙も蚊帳の外に放り出されるという、意外性を選んだ。その結果、ヒトラー暗殺成功という歴史を塗り替えてしまう展開ですら、偶然によって引き起こされた産物にすぎず、あまりカタルシスの感じられないものに。第3章までは良かっただけに、第4章以降の失速ぶりが痛い。初めての正攻法に加えて、会話劇に鋭さを感じられず、ウトウトしてしまった。ただ、クリストフ・ヴァルツを見つけ出したタランティーノの貢献度は大きい。凄い巧い。優雅で知的でユーモラスで世渡りが上手くて最悪の人格がマッチしている。逆にブラット・ピットは起用した理由が分からないくらい影が薄かったなぁ。 [映画館(字幕)] 6点(2017-04-28 22:58:20) |
492. ラ・ラ・ランド
《ネタバレ》 監督の前作は未見のまま、授賞式直前に観賞。 巧みなストーリーテリングやメッセージや感動を求める映画ではない。 原色の万華鏡に彩られた'50年代のロマンティック・ミュージカルに オマージュを捧げた"ザ・エンタメ"にひたすら徹した姿勢に好感が持てる。 冒頭のハイウェイの長回しは圧巻で期待が膨らむが、中盤あたりから雲行きが怪しくなり、 もう少し短くできたのでは?と思ってしまった。 ワクワクするような鳥肌ミュージカル演出が次第に減っていったのが原因か。 エマ・ストーンの"夢追い人の歌"にしんみりしつつも、ラストで一気に挽回するかと思えば、 期待したほどの爆発力もなく、あっけなく終わった感じ。 それは主役の男女が夢を叶えた"大人"になってしまったのも大きいかもしれない。 お互いの夢は叶えたが理想の恋を成就することができなかったほろ苦さの残る甘い夢。 現実を忘れさせてくれる往年のハリウッド映画に捧げるラブレターだと思えば納得できる。 業界人ならむせび泣くほど絶賛するかもしれないが、ド素人の自分にはどうも醒めて見てしまった。 全体のメリハリのなさがこの映画の弱点。 至福感でも『シカゴ』や『アーティスト』にも劣る。 これで作品賞含む歴代最多11部門受賞タイはいくのか・・・と思いきや、まさかの作品賞落選。 納得なのか可哀想なのか、甘い夢から覚めるような結末そのものだった。 [映画館(字幕)] 6点(2017-02-28 23:33:44) |
493. 人生に乾杯!
《ネタバレ》 日本に囁かれる社会保障の破綻、年金受給の年齢引き上げ検討を見るに他人事で済まされない。ハンガリーと言えば、ブダペストの美しい街並みを思いだすが、この映画にそのシーンは全くなく、素朴な田園風景がほとんど。ただ、生活が厳しく、複数の仕事を掛け持ちしないとやっていけないそうだ(ツアーに行った時の添乗員より)。かつて社会主義にどっぷり浸かった老夫婦が強盗する行為に説得力がある。勇気さえあれば失うものなど何もないと言わんばかりに。とは言っても、基本はのほほんなロードムービー。行き過ぎた資本主義にちらっと風刺しながらも、あの二人は希望に生きた。人質だった婦警の妄想に過ぎないが、あの伏線の数々に唸る。突破口を切り開き、青い海を眺める二人を思い浮かぶ開放感がそこにあった。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-31 23:54:31) |
494. ザ・ロード(2009)
《ネタバレ》 原作既読。終末SFという『ノーカントリー』原作者らしかぬ題材だが、根底にあるものは変わっていない。純文学のテイストを損ねることなく、分かりやすく映像化している。ひたすら救いのない重いトーンを貫くも、詩情すら感じさせる映像。自分たち父子を"火を運ぶ者"として言い聞かせないと、妻のように自殺し、または人喰いになり果てる絶望の世界。いつ野垂れ死ぬかわからない熾烈なサバイバルに生存本能と倫理と生きていく意味を問う。やがて父を失った少年は、同じ"火を運ぶ者"に出会うが、本当に希望があるか定かではない。火を絶やさないための戦いはこれからも続くのか、いずれ人食いに堕ちるのか。「幸せなことより、辛いことの方が記憶に残る」。人生に対する諦観を感じさせる映画である。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-31 23:51:40) |
495. 僕の村は戦場だった
《ネタバレ》 水を多用した幻想的な映像美と戦争の残酷さが鮮烈なコントラストを生み出す。戦争で家族を奪われたイワンには失うものは何もなく、ナチスへの憎悪は知り合いの指揮官たちに邪険に扱われる。戦争は大人のものであり、将来を担う子供にそれをさせたくない裏返しであり、優しさだろう。医療に従事する娘のエピソードはイワンと繋がりがないため蛇足で、息抜き的な部分があるかもしれないが。戦争が終結し、映像には至るところに子供の死体、死体、死体・・・そしてイワンも。物質文明による大人の戦争に巻き込まれた子供の悲劇が、それとは無縁の黄泉の世界で遊ぶ笑顔のイワンたちを更に引き立てる。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-01 14:19:17) |
496. カンパニー・マン
ヴィンチェンゾ・ナタリのヴィジュアルセンスには目を見張るものがある。ゴダールの『アルファヴィル』を彷彿とさせるレトロフィーチャーな近未来の美術セットといい、映像と空気だけなら『CUBE』を遥かに超えているだろう。ただし、素材の切り取り方が浅く、脚本が弱いため、途中で結末が読めてしまうのが致命的。 [DVD(字幕)] 6点(2016-12-19 22:18:05) |
497. HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス
《ネタバレ》 製作費もスケールもパワーアップしたせいか、前作よりは面白い印象。相変わらずのチープ感とギャグは可笑しく、スパイダーマン2へのリスペクト満載。当然ながら、今までのキャリアをかなぐり捨てて続投した鈴木亮平のプロ根性と怪演に尽きる。カンヌ最年少受賞の柳楽も安田もブッ壊れています。カッコいいけど変態。どうしようもなく下らないけどその力の入れように笑える(良い意味で)。個人的にはニューヨークの摩天楼で決着して欲しかった気が。完結編は明らかにスパイダーマン3を匂わせるものになるのだろう。 [DVD(邦画)] 6点(2016-12-19 22:14:54) |
498. 潜水服は蝶の夢を見る
《ネタバレ》 「ある日僕は自分を憐れむことをやめた」。この台詞に衝撃を受けた。閉じ込め症候群により、左まぶた以外が動かなくなった元ELLE編集長の、極限の絶望的な心境を考えると非常に勇気が要ることだ。似たような状況の映画で『海を飛ぶ夢』があるが、ほとんどの人だったらラモン・サンペドロと同じ選択をするだろう。成功者と自由人の違いなのかもしれない。他の実話ものとは違い、感動的な演出、過剰な演出は極力避け、危険と隣り合わせの美しい蝶が舞う日常のように淡々と綴っていく。なので、いつのまにか本が出版され、彼の死もテロップだけで済まされる。崩れ落ちる氷棚が逆再生される静かなエンドロール。瞬きだけで言葉を発した男の想像力が無常な世界に抗うかのよう。 [DVD(字幕)] 6点(2016-11-26 00:38:47) |
499. DEATH NOTE デスノート the Last name
蛇足感のあった原作の不満を解消し、前後編できちんと決着をつけたことは評価したい。当然ながら、そこに至るまでのラスト以外は月並み。月(ライト)だけに藤原竜也の成り切れないオーバーアクトが浮いていた。 [DVD(邦画)] 6点(2016-11-26 00:31:07) |
500. ブラック・スワン
《ネタバレ》 方向性は違えど、監督の前作『レスラー』と共通するものは、強烈な渇望=承認欲求そのものだろう。毒親から受動的に狭い世界で生きてきたバレリーナにはそれしか心の拠り所がない。過度の重圧と葛藤から己を解き放ち、一線を超えるのはバレエのみならず、アスリートにしても俳優業にしてもほんの一握りのみ。頂点に立つことは孤高になるということ。リアリティを考えれば、リフトで失敗、鏡の破片が刺さったまま踊るなんてありえないため、無理して初演に向かうシーンから彼女の妄想だと思えば全て納得がいく。彼女は初演だけで満足し燃え尽きてしまった。そういう残酷で儚い夢物語。前作と違って遠い世界のように感じられてしまって、あまり鳥肌が立たないので6点とさせて頂く。 [映画館(字幕)] 6点(2016-08-29 19:23:14) |