501. 漂流教室
《ネタバレ》 監督は大林宣彦、主演は林泰文。 この組み合わせには「青春デンデケデケデケ」という傑作があった為、期待して観賞する事となった本作。 スケールの大きい原作漫画を、よくぞ二時間以内に纏めてみせた……と言いたいところなのですが、この映画に関しては、さながら短編漫画を無理矢理引き延ばして作ったかのような印象を受けてしまいましたね。 タイムスリップする場面など、やたらと冗長に感じられるし、主人公達が「探検隊」を結成して外界に足を運ぶ件も、あまり必要とは思えません。 その一方で、原作における「醜い大人代表の関谷との対決」「時空を越えて母から子の手に渡される武器」などを再現したシーンは、あっさりと簡略化されていたりするのだから困り物。 監督さんが監督さんなので、青春映画としての側面が強くなるのは分かるのですが、主人公とヒロインの恋愛模様に関しても、あまり好感は持てず、残念でした。 二人の距離が縮まるキッカケの場面については「飲料用に支給された水を、下着の洗濯に使っていただけ」だとは思うのですが、ここって「皆のリーダーであるはずの主人公が、水を無断で持ち出しているヒロインを目撃するも、それを二人の秘密として見逃してあげる」というトンデモない場面にも解釈出来てしまうのですよね。 「誰にも喋らないで」「水は大切だもんね」という両者の台詞も紛らわしかったし、ヒロインに「水泥棒」というイメージを与えてしまいそうな演出は、避けた方が良かったのではないかな、と。 シャワーシーンや、砂漠に降る雨など、色々な場面にて「水」を象徴的に描きたかったのかも知れませんが、少し配慮が足りないようにも感じられました。 主人公がリーダーとして不適当な人物ではないか、と思えてしまうのは、恐らく意図的な演出なのでしょうね。 終盤にて、それが理由で主人公は悩み、ヒロインに慰められる展開になるのだし、マークという生徒から力量を批判され、リーダーの座を賭けて決闘を申し込まれたりもしている訳ですから。 けれど、その場合「じゃあ、どうして中盤にてアッサリと皆のリーダーに選ばれたの?」という根本的な疑問が浮かんでくるのだから、やはり失敗であったように思えます。 一応、長所と呼べそうな部分も幾つかあって「キミの涙は、どんな水よりも綺麗だ」などの台詞は、中々ロマンティックで良かったですね。 映画冒頭の、自転車で登校するシーンなんかも、オシャレな魅力がありました。 ピアノがキーアイテムとして描かれている事もあってか、劇中曲のクオリティが高いのも嬉しい。 「砂の女」を連想させる砂まみれな教室風景や、砂のシャワーを浴びる少女の姿なども、幻想的な雰囲気があったかと。 舞台をインターナショナル・スクールにした理由も「未来に撒かれた種子」が全員日本人なのは不自然という考えゆえなのだろうなと、納得は出来ます。 ラストに関しては、ちょっと観ていて恥ずかしくなるような青臭さもあるけれど、絶望的な世界を前向きに生きていくという、ハッピーエンド風に仕上げてもらえたのは好み。 手放しで褒める事は出来ないけど「良い映画」「観客に感動を与える映画」を目指して、真面目に作られたのだろうな、という事は伝わってきました。 [ビデオ(邦画)] 4点(2016-06-27 22:06:34) |
502. ワイルド・ワイルド・ウエスト
《ネタバレ》 スチームパンクな世界観は好みだし、真面目に作った馬鹿映画という雰囲気も決して嫌いではないのですが、今一つノリ切れず。 背景の書き割りが物凄くわざとらしい辺りなんかは、恐らく意図的な演出なのでしょうけど(普通に撮って欲しかったなぁ……)と、つい思ってしまいましたね。 女装ネタが二回続くのも食傷気味でしたし、黒人差別問題やら虐殺やらの陰鬱なネタと陽気な作風とのギャップも気になります。 何よりの問題は、折角ケネス・ブラナーが印象的なラスボスを演じてくれていたのに、彼を倒すシーンが呆気無さ過ぎた点でしょうか。 そういった基礎的な部分をキチッと仕上げてこそ、ふざけた部分の魅力も引き立つと思っているので、クライマックスの消化不良感は、実に残念。 けれど、本作独自の魅力も幾つかあって、どうにも憎めない映画でもあるのですよね。 特に巨大な蜘蛛型ロボットのインパクトは凄まじく、西部劇風の荒野を雄大な機械が闊歩していく様は、実に素晴らしい。 自動追跡首切りマシーンの原理が「磁石」という馬鹿々々しさも良かったし、それらを倒す方法が「二つを衝突させて自爆させる事」という辺りにも、王道な面白さを感じられます。 主人公コンビが二人揃ってヒロインに振られてしまい、憮然とした表情のまま、シンクロした動作で帽子を被ってみせる場面なんかも良かったですね。 紆余曲折はあったけれど、最後の最後で二人は息の合ったパートナー同士になれたのだな、という事が伝わって来て、ほのぼのとさせられました。 [DVD(吹替)] 5点(2016-06-24 22:29:46) |
503. バレット(2012)
《ネタバレ》 「女子供は殺さない」「義理人情に篤い殺し屋」というキャラクターを主人公に据える前時代的な潔さが、もう天晴。 とにかく勧善懲悪が徹底していて、敵を次々に殺しまくり「死んでも誰も悲しまない悪党が死んだだけ」と堂々と語ってみせるのだから、これは凄い事です。 上記の台詞に関しては、正直ちょっと引いてしまったりもしたのですが(きっと、この映画の世界では本当にそうなんだろうな……)と、納得させられる力強さがありましたね。 往年の名匠ウォルター・ヒルだからこそ、出来た事なのかも知れません。 そして、とっくに承知の上なはずだったのですが、それでもシルヴェスター・スタローンの風格と肉体美には、改めて惚れ惚れ。 主演俳優を格好良く撮るという意味合いにおいては、文句無しで合格だったかと思う次第です。 その一方で残念なのは、スタローンにばかり比重が偏り過ぎて、相棒となる刑事の影が薄く、バディムービーとしての魅力には欠けるように思えてしまった点でしょうか。 何せ一番印象に残る活躍が、携帯電話で警察のデータベースから情報収集するという、刑事なら誰でも出来そうな事だったりするのだから、何とも寂しい限り。 ラスボスとなる殺し屋を撃ってスタローンを救ってみせる場面も、あるにはあるのですが、正直そこに関しては「元相棒の形見であるナイフを首に突き刺す」という形で、復讐のカタルシスと共に終わらせておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。 途中、クリスチャン・スレーターがアッサリ殺される展開に関しても(まぁ、スレーターだしなぁ……)と、彼を好きなはずの自分ですら納得してしまうような予定調和の中にあるのに、相棒の刑事は心底から吃驚して「何故殺した?」と動揺していたりするものだから、ちょっと感情移入出来なかったです。 そんな本作の価値を大いに高めているのは、斧を武器とした武骨なラストバトルでしょうね。 相手役となるジェイソン・モモアも雰囲気たっぷりで、非常に重量感のあるアクションとなっています。 ぶつかり合う斧の刃先からではなく、互いの筋肉から火花が飛び散っているかのような迫力には、大いに興奮させられました。 スタローンが相棒の肩を撃って、彼の無実を証明してみせた後に、悠然と立ち去っていく後姿なんかも、これまた素敵。 色々細かな不満はあったりしても、その格好良過ぎる背中を見つめるだけで、もう満足させられちゃうのですよね。 何とも罪作りな背中でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-24 07:31:06) |
504. ヤング≒アダルト
《ネタバレ》 序盤にて(うわぁ、嫌な女だなぁ……)とゲンナリ。 中盤辺りで(あぁ、でも結構可哀想だな。彼女なりに幸せになろうと頑張っているんだな)と同情。 そして終盤にて頭を抱え込まされるという、良くも悪くも、観賞中ずっと主人公に釘付けになってしまった映画ですね。 基本的には暗い作風なのですが、何処か軽快でオシャレな匂いも感じさせる辺りは、この監督さんの持ち味なのだと思います。 過去作の「JUNO/ジュノ」に比べると、どうにも主人公の成長を感じられない内容だったりするので、それが意図的なのかどうかも気になるところ。 印象的な場面は幾つもあるのですが、特に「離婚した旦那との写真が、実家に今でも飾られている」件なんかは、本当に上手いなと感心させられましたね。 その一事だけでも、主人公が実家に帰るのを忌避する理由が把握出来たし「失敗した結婚なんだから、何時までも飾っておくのは止めて」と訴える気持ちも分かります。 帰省する車内にて、楽しそうに聴いていた「元カレとの思い出の曲」を、彼の奥さんが歌ってみせるのを目の当たりにして、呆然とするシーンなんかも良い。 それらの積み重ねがあるからこそ、主人公が単なる「嫌な女」で終わらずに、感情移入出来る存在となっているし、無茶苦茶な行動を取っても、何処か納得させられる説得力があるのですよね。 主人公が元カレの家に乗り込んで、二人で駆け落ちしようと迫るも、当然のように断られてしまう件なんかは、本当に痛々しくて目を背けたくなりましたが、彼女が何故そんな行動を取るのか理解出来ないという事は無く、混乱せずに見守る事が出来るのだから、凄い脚本なのだと思います。 ただ、彼女の最大のトラウマが「流産した事」というのは、少々安易に思えてしまって残念。 それほど独創的なネタでもないでしょうし、それなら終盤にて、さも驚きの真実のように告白させる形ではなく、もっと前の段階で分からせていても良かったんじゃないかな、と感じられました。 元カレに固執する理由が「一番良い時の私を知っているから」というのは、過去に囚われた彼女を表す台詞として、非常に良かったと思いますね。 その後、友人の妹から「この町は最低。都会で暮らす貴方が羨ましい」と言われて元気を取り戻す事になるのですが、正直そこに関しては、どうしても賛同する気持ちになれず、カタルシスを得られませんでした。 「相手の男を放ったらかしにして、一人だけベッドから抜け出す彼女」というシーンを、序盤と終盤とに挟む事によって、彼女が成長していない事を描いてみせる表現技法などには感心させられるのですが、それが感動にまでは結び付かない。 事故で傷ついた車のまま走り出すラストシーンなんかも「傷付きながらも生きていく女性の力強さ」を象徴しているようで、爽快ではあるのですが(結局、彼女って他人を思いやる優しさを持たないまま終わっているよなぁ……)と、ついつい考えてしまいます。 最後の最後で主人公を救う解決法が「他者を否定する事によって自己を肯定する」という形であった以上、どうしても後味が悪かったですね。 丁寧に作られた、クオリティの高い品である事は、疑う余地が無いと思います。 だからこそ、ラストシーンの主人公に共感出来ない事が、勿体無く感じられる映画でした。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-23 15:45:08)(良:1票) |
505. ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
《ネタバレ》 愛する肉親の死と向き合って、それを乗り越えていくまでを描いた成長譚。 主人公の少年にアスペルガー症候群の兆候があると判明した瞬間、それまでの彼の言動に納得させられた一方で(じゃあ母親が放任主義を取っているのは不自然じゃないか?)との疑念が湧いていたのですが、それを終盤にて吹き飛ばしてくれる脚本が見事でしたね。 「あのビルにいたのが、ママなら良かった」などの痛烈な台詞が盛り込まれていただけに、最後は母子が和解出来た事に、心底から安堵させられました。 ナイーブな少年を主役とした映画という事で、何処か既視感のある作風だなと思っていたのですが「リトル・ダンサー」と同じ監督さんだと知って納得。 エキセントリックな表現が散見される中、作品全体に不思議な上品さが漂っている辺りなんかも共通していましたね。 上述のように「本当は息子を見放していた訳ではなく、ずっと見守っていたのだ」と分かる母親の件は、凄く良かったのですが、その分、途中で離脱する形となった祖父の扱いには不満も残ります。 また、ラストシーンに関しても、主人公がブランコから飛ぶ姿で終わるのかと思いきや、父親に言われた通りに「ジャンプはしない」形で終わった点に関しても、どこか興醒めするものがありましたね。 (子役に実際に飛ばせたりしたら危ないので、作中で父親に「飛ぶ必要は無い」と言わせたのではないか?) なんていう疑念が頭に浮かんで来てしまい、最後の最後で現実に引き戻されてしまった形。 勿論、観客である自分の疑い深さが悪いだけなのですが「飛ばなくていい理由」が「危険だから」というのは、如何にも寂しいのですよね。 それならば父親が飛んでみせる必要は無かったと思うし「飛んだ瞬間、鳥になった気がした」という台詞も不要。 飛ばずにブランコを漕ぐだけで父親と同じ気分を味わうというエンディングは、中途半端に思えてしまいます。 主人公がブランコに乗った時点で終わらせるなり、揺れるブランコの音と着地の音だけで飛んでみせた事を表現するなりしてもらった方が、好みだったかも。 作中で嘘をつく度に回数を数えてみせたり、父親の死を太陽の消失に喩えてみせたりする主人公の姿は、とても良かったですね。 純真で、それゆえに何処か大袈裟で、他者に理解される事を無意識に拒んでみせているかのような、少年らしい魅力が感じられました。 世の中には、主演の少女を観賞して愛でる為の映画も存在しますが、それと同じような楽しみ方も出来る映画かと思う次第です。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-23 12:10:41)(良:1票) |
506. シャークネード<TVM>
《ネタバレ》 「サメ映画」というジャンルは、非常に当たり外れが大きいです。 もしかしたら当たりよりも外れの方が多いのでは……と考えてしまう事も屡々。 それだけに、本作のような掘り出し物に出会えた時は、その喜びも一入ですね。 無数のサメが竜巻によって空に舞い上げられ、それが浸水状態の市街地に降り注いでくる。 そのアイディアだけでも拍手喝采なのですが、本作が面白い要因としては、きちんとパニック映画としての基本を押さえた筋運びになっている事が大きいのだと思います。 「アイディアと勢いさえあれば、面白い映画は撮れる!」という考えも間違いではないでしょうけれど、やはり基本は大事。 まず、この作品においては「誰が死ぬのか分からない」というドキドキ感の煽り方が、とても巧みなのですよね。 冒頭にて、主要人物っぽく登場した船上の二人が、すぐに殺されてしまう辺りは少々やり過ぎ感もありましたが、それが結果的に上手く作用しており、後に登場する人物達の生存予測を、適度に困難にしてくれています。 そして、もう一つ大事なのが「観客が納得するような人物を生き残らせる」という点。 上述の「誰が死ぬのか分からない」展開と相反してしまう、この条件。 生き残りそうな人物でも死ぬからこそ油断ならない面白さに繋がる一方で、やはり観賞後の爽快感を考えると、生き残って欲しいと思わされた人物が死んでしまうのは、納得出来ないものがありますからね。 大抵のサメ映画は、この矛盾を解消する為に四苦八苦している印象がありますが、本作においては、そのバランス感覚が絶妙。 ラストには反則的な「実は生きていた」展開も駆使して、観客の後味を良くしてくれるのだから、嬉しい限りです。 サメが泳いでいる「道路」の上を、車で走って避難するという絵面だけでも面白いし、血生臭いシーンは控えめになっている辺りも好み。 主人公のフィンは「困っている人を放っておけない」という、典型的なタイプではあるのですが、決してテンプレをなぞるだけで終わっていない点も、良かったと思います。 その性格ゆえに 「私達家族よりも、他人の方が大事なの?」 と妻に責められて、家族関係が不和となっている設定など、きちんと個性が確立されているのですよね。 他人よりも家族を優先して守ろうとする事だって、決して間違いではない。 それでも主人公は、孤立したスクールバスを見かければ、避難する足を止めて、子供達を助け出そうとする。 あまりの「良い奴」っぷりに、惚れ惚れさせられます。 中盤から終盤にかけて、やや間延びしてしまった印象があるのは残念でしたが、その代わりのように「チェーンソーを携えてサメの口の中に飛び込む主人公」なんていう、トンデモないクライマックスを用意してくれているのだから、もう大満足。 愛すべき映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-06-22 11:16:24)(良:4票) |
507. ホーボー・ウィズ・ショットガン
《ネタバレ》 ショットガンという武器は好きです。 映画に登場するありとあらゆる武器の中で、どれか一種類を選べと言われたら、数多の非現実的な武器を押し退けて、ショットガンを選んでしまいそうなくらいに好き。 そんな魅惑の武器を引っ提げて、ルトガー・ハウアーが大暴れしてくれるというだけでも満足させられる一品ですね。 主人公が芝刈り機という心の癒しではなく、ショットガンという武器を選んだ気持ちも、実に良く分かる。 やたらと血飛沫が飛び散ったり、敵が本当に胸糞悪い悪党だったり、ラストが尻切れ蜻蛉に思えたりする辺りは、如何にもグラインドハウス的なノリで、少々苦手だったりもしたのですが、そんな不快感も吹き飛ばす程の勢いがありました。 冒頭、穏やかで牧歌的な風景と音楽から始まって、主人公が無法都市へと迷い込み、残虐な私刑現場を目にするという流れの早さ、急転直下っぷりには呆気に取られましたが、どこかそれが突き抜けていて、気持ち良いんですよね。 プラスの感情とマイナスの感情、両方を刺激してくれる作風なのですが、ギリギリで前者の方が上回っているというバランス。 例えば、中盤にて悪役がスクールバスをジャックし、火炎放射器で子供達を焼き殺す場面なんかは、この映画にしては珍しく直接的な殺害シーンを描いていない。 それが中途半端で格好悪いというか(何だよ、結局子供には遠慮するのかよ)という白けた想いに繋がる面も、あるにはあるのですが、やっぱり観客を心底から不快にさせない為には、そうするのが正解だったのだろうと思えます。 何にも考えずに好き勝手に撮ったように見えても、そういった見極めというか、匙加減が、きちんと出来ている印象ですね。 終盤にてヒロインが行う 「浮浪者はホームレスでは無い。ストリートをホームとしているのだから、彼らにはホームを掃除する権利がある」 という演説も、妙に説得力が感じられたりして、印象深い。 穿った見方をすれば、銃による自衛を積極的に肯定している、如何にも米国的な作品だと定義付ける事も、可能だとは思います。 でも、それよりは単なる娯楽作品として観賞し、素直に楽しんだ方が、ずっとお得だと思えるような映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-22 07:35:14) |
508. フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白
《ネタバレ》 あらすじは承知の上で観賞したのですが、冷凍保存されるまでに二十分以上も掛かる構成には驚かされました。 主人公が軍人という事も相まって、どうしても「フィラデルフィア・エクスペリメント」を連想する内容となっているのですが、あちらの品とは異なり、元の世界で一緒だった女性への一途な純愛モノとして仕上げた事に、独自の魅力を感じられましたね。 途中、現代で出会った女性も交えた三角関係に発展する事を匂わせるミスリードもあったりしただけに、主人公が初志貫徹してくれたのが嬉しかったです。 ラストシーンまで辿り着けば、上述の「元いた世界」の尺が長い事にも納得がいくのですが、それでも「序盤と最後だけ別の映画みたい」という印象も拭えなかったりして、そこは少し残念。 その分、過去からやってきた主人公と、現代で出会った少年との交流部分に関しては、凄く良かったと思います。 ツリーハウスに主人公を匿ってくれて、食べ物や飲み物なんかを届けてくれる辺りも、幼少時の「秘密基地」感覚を刺激してくれて楽しかったし、幼くして父と別れた少年との間に、疑似的な親子のような絆が育まれていく様が、とても微笑ましかったのですよね。 好きな女の子に対してどう接するべきかと恋愛相談してくれる辺りも可愛かったし、何と言っても一緒に「飛行機の操縦ごっこ」をしてみせる場面が最高。 それが終盤の「実際に二人で飛行機に乗ってみせる」展開に繋がる流れには、そう来たかぁ……と感心させられました。 ラストシーンにて、愛する女性と再会して抱き合うだけで終わりではなく、駆け寄って来た少年を彼女に紹介してみせる姿も描かれていましたが、どんな風に話してみせたのかが気になるところです。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-22 03:32:28)(良:2票) |
509. ハンター(1980)
《ネタバレ》 始まって十数分、粉塗れになる乱闘シーンで「あれ?」と思い、そこから更に三十分後の爆発シーンで、ようやくコメディ映画なのだと気が付きました。 かと思えば、クライマックスにおける電車上のアクションは中々の迫力であったりして「一粒で二度おいしい」タイプの作りとなっていますね。 これが遺作であるというスティーヴ・マックィーンが、色んな面を見せてくれたという意味においては、非常に嬉しい内容。 ただ、自分としては正直コメディ部分は退屈だったりもして、残念でした。 その分、終盤のアクションパートでは画面に釘付けになる事が出来たのですが(どうせなら両方を楽しんでみたかったな……)と、切なく感じてしまったのですよね。 好きな俳優さんの作品であるだけに、全面的に肯定出来ない事が、もどかしかったです。 ラストに関しては、ほのぼのとしたハッピーエンドで締められており、驚くと同時に癒されるものがありましたね。 西部劇、刑事ドラマ、脱獄物と、シリアスな作風の品に出演している印象が強いマックィーン。 そんな彼が、何とも優しい手付きで赤ちゃんを抱き上げて、父親として笑ってみせている。 その姿が、最高に似合っていて、最高に決まっているのだから、本当に凄い事だと思います。 映画の内容そのものよりも、最後の出演作までマックィーンは格好良くて、魅力的だったという、そちらの方に感動させられた一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2016-06-21 12:56:14)(良:1票) |
510. ハミングバード
《ネタバレ》 まさかジェイソン・ステイサム主演の恋愛映画を拝める日が来るとは思っておらず、驚かされましたね。 互いに心の傷を抱えた者同士の、束の間の交流。 二人の心情が、とても丁寧に描かれている作品だと感じました。 そこかしこにアクション映画としての要素が含まれている事に関しては、嬉しくもあったのですが、やや焦点がズレているようにも思えて、少し残念。 主人公が精神的な病を抱えているという設定も、ちょっと感情移入しにくいものがありましたね。 終盤にて「見えるか? ハミングバードだ」と言われても、今一つ共感出来なくて、どうしても距離を置いてしまいます。 一番の難点は、ヒロインがドレス姿に着替えて会いに来てくれたシーンにて、主人公ほどの衝撃と喜びを味わえなかった事でしょうか。 非常にマニアックな発言で申し訳ないのですが、彼女に関しては「眼鏡をかけたシスター」としての普段の姿の方が好みだったもので、着飾った姿には(なんか……普通の美人のお姉ちゃんだなぁ)と、あんまりテンションが上がらなかったりしたのですよね。 ラストも微かな救いはあるけれど、ハッピーエンドとも言い難いものがあり、これも好みではありません。 けれど「人並みに生きられたこの夏を、君と過ごせて良かった」という告白に対しては、胸を打たれるものがあったし、悲劇的であるがゆえの美しさのようなものは感じられましたね。 子供時代に性的虐待を行っていた大人を殺傷したというヒロインの過去には同情出来たのに対し、戦場で仲間を殺された腹いせに無関係な民間人を殺したという主人公の過去には流石に同情出来ない点がマイナスだと思っていたのですが、それに関しても(あぁ、だからヒロインと違って主人公は自殺のような末路を辿るのか……)と、一応は納得。 ビターな味わいの、大人の映画でありました。 [DVD(吹替)] 5点(2016-06-20 23:03:39)(良:1票) |
511. ミリオンダラー・アーム
《ネタバレ》 ストーリーの概要を知った段階で「これは好みの映画のはず!」と予測していたのですが、それが当たっていて嬉しかったですね。 人物間の絆が育まれるまでの過程にて、さほど劇的なイベントは起こらない点。 そして、目標が「プロで活躍してみせる事」ではなく「プロになる事」に設定されている点など、実話ネタゆえの物足りなさのようなものは感じましたが、それ以上に胸をときめかされるものが多かったです。 涙腺を刺激された場面も幾つかあって、特に印象深いのは、父と子の別れの件。 母国インドを離れ、アメリカで野球に挑戦すると息子に告げられた父親が「お前なら、きっとやれる」と、強く抱き締めて送り出してあげる。 当初は息子の野球挑戦に反対していた、頑固者の親父さんとして描かれていただけに、この展開には「えっ、認めてくれるの!?」という意外性も内包されていて、凄く良かったと思います。 それは裏を返せば「何故、急に息子の事を認めて応援してくれたのか、描写が不足している」とも言えるのですが、少なくとも自分は全然気になりませんでした。 それまでは父親の言いなりになって生きてきた、内気な息子であった事が示唆されていただけに、はっきりと目を見て意思表示してくれた姿が、親父さんとしては嬉しかったのだろうな、と推測します。 上述のシーンが凄く良かったもので、そこが本作のクライマックスかなと思っていたら、それを裏切ってくれた辺りも素敵。 ラストのプロテストの場面。 「君達が成功する事は、インドの子供達に夢を与える事に繋がる」という通訳の言葉には、本当に感動させられましたね。 それによって勇気を与えられ、見事にプロ選手になってみせた二人。 そしてエンディングでは、彼らを真似して野球に興じるインドの子供達が描かれるとあっては、もう脱帽。大満足です。 良い映画だったと、確信を持って言える一品でした。 [DVD(吹替)] 8点(2016-06-19 10:05:43)(良:1票) |
512. ファーナス/訣別の朝
《ネタバレ》 クリスチャン・ベールが髭を蓄えた姿に、最初は違和感も覚えたのですが、すぐに慣れる事が出来て、一安心。 これはこれでワイルドな魅力があって良いんじゃないかと思えましたね。 特にお気に入りなのは「弟を思いやって、密かに借金を肩代わりしてみせる場面」と「別れた恋人の妊娠を祝福してみせる場面」の二つ。 主人公の優しさ、人の良さ、利己的になれない善人ゆえのもどかしさなどを丁寧に演じられており、相変わらず素晴らしい役者さんだなと、再認識させられました。 映画の内容はというと、往年のアメリカン・ニューシネマを彷彿とさせる作りとなっており、全体的に陰鬱な雰囲気が漂っているのが特徴。 鹿狩りが印象的に描かれている点などは「ディア・ハンター」へのオマージュではないかとも思わされましたね。 脇を固める俳優陣も非常に豪華であり、彼らの演技合戦を眺めているだけでも楽しかったです。 ただ、冒頭にてウディ・ハレルソン演じる悪役が、北村龍平監督の「ミッドナイト・ミート・トレイン」を観賞中に喧嘩を始めるシーンの意味は、少し分かり難くて困惑しました。 後にキーパーソンとなるキャラクターを、事前に紹介しておく事が目的だったのでしょうか。 上映作品のチョイスに関しても引っ掛かるものがあり、ともすれば映画がつまらないせいで作中人物が退屈して暴れ出したのかと邪推出来たりもするのですが…… まぁ、監督さんがあの映画を好きだから選んだのだろうなと、好意的に解釈したいところです。 基本的なストーリーラインとしては、弟を殺された兄が復讐する形となっているのですが、どうもそれだけでないような印象も受けましたね。 それというのも、主人公の境遇が余りにも悲惨過ぎて、弟の死さえもがその「不幸な要素」の中の一つにしか思えなかったのです。 老後は病に侵される事が約束されているような製鉄所での仕事。 交通事故によって人を死なせてしまった罪悪感。 刑務所で暴力に晒される日々。 愛する女性との別れ。 父親の病死。 これらの事件が次々に起こり、主人公は鬱憤を溜め込んでいた訳なのだから、弟の死はそれを爆発させた引鉄に過ぎなかったのではないかな、と。 勿論「数々の不幸に対しても感情を露わにしなかった主人公が、弟の死に対してだけは本気で怒った」訳なのだから、それだけ弟を愛していたのだと解釈する事も可能だとは思います。 けれど、その場合はラストにて悪役に「お前の弟はタフだった」と言わせた事に、疑問符が残るのです。 本当に弟への愛情だけが動機であったのならば、そんな弟の凄さを認めてもらった事に対し、主人公のリアクションを描いて然るべきだと思うのですが、彼は超然とした態度のまま相手を殺してしまう。 そして、復讐を止めようとした保安官が、主人公の元カノを妊娠させた男であるとなると…… 一連の行いには「保安官への当てつけ」という意図もあったんじゃないかと、そんな風に感じちゃいました。 単なる復讐譚としての映画であれば、ラストシーンの主人公は満足感や達成感を抱いていてもおかしくないのに、その顔に浮かぶのは、どちらかといえば「やってしまった」「これで終わった」という諦観の念。 長く、深く吐息をつく姿には、未来を捨て去った人間だけが得られる、一種の解放感のようなものが漂っていたようにも思えましたね 積み重なった悲劇が更なる悲劇に繋がるという、一種の悲惨美。 そして、全てを台無しにしてしまったからこそ得られる、後ろ向きなカタルシスを描いた映画であるように感じられました。 [DVD(字幕)] 6点(2016-06-19 04:21:51) |
513. 恋と愛の測り方
《ネタバレ》 明るいラブコメ映画は好きだけど、こういう真面目な恋愛映画は苦手だなぁ……と、自分の嗜好を再確認させられましたね。 丁寧に作られているし、主人公の感情の機微を描いたという意味においては質の高い作品なのでしょうが、どうにも好みの内容とは違っていた為、楽しむ事が出来ませんでした。 男女の浮気の違いを描いている点は興味深いのですが、どうも女性贔屓な目線であるように思えてしまった点も、マイナスポイント。 夫は妻を愛しているのに、一時の欲情に流されて同僚の女性と浮気してしまう。 そして妻の方はといえば、夫と同じくらい愛している元浮気相手の男性と心を通わせ合うも、最後の一線は越えていない。 しかも、夫の浮気相手となる女性には殆ど好意的な描写が無かったのに、妻の浮気相手である男性の方は如何にも同情的に描かれているものだから、やりきれません。 「性欲に駆られた夫の浮気は醜い」「それに比べて妻の浮気は悲劇的で美しい」という対比が窺えてしまい、どうしても賛同する事が出来ませんでした。 観賞後に調べてみたら、監督さんは女性であったらしく、何だか妙に納得。 男性贔屓な内容の映画を観て、女性が呆れてしまうのと同じような現象が、今回我が身に起こってしまったみたいです。 そんな風に、今一つ魅力が分からなかった品なのですが、そんな自分でもハッとさせられる場面も盛り込まれており、作り手の力量を感じさせてくれましたね。 特にラストシーン。外出用のハイヒールが投げ出されているのを映し出し、その後の夫婦の衝突を予感させる終わり方には、素直に「上手いなぁ」と感心。 「あの後、どうなったと思う?」「やっぱり旦那に浮気バレたよね」「最後の吐息からするに、奥さんの方から告白しそうな気がする……」 などといった具合に、観賞後にアレコレ話し合う楽しみも与えてくれる映画でありました。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-17 07:06:09) |
514. ティファニーで朝食を
《ネタバレ》 冒頭、ヒロインがティファニーの展示品を眺めながら朝食を取るシーンは凄く良いですね。 さぁ、これからどんな映画が始まるのだろうと大いに期待させられたのですが……終わってみれば、そこが最も印象的な一幕だったというオチでした。 全体的に「オシャレ」な雰囲気が漂っており、主人公達の住んでいる部屋の内装や、街並みを眺めているだけでも結構楽しかったりするのですが、肝心のストーリーが凡庸な恋愛モノといった印象で、観賞中は退屈さを覚えてしまったのも事実。 オードリー・ヘプバーンは流石の可愛らしさだし、清楚なルックスとは正反対の役柄を演じてみせたギャップも、意外と悪くないと思えただけに、話にノリ切れなかった事が残念でした。 当初の予定では、ヒロインを演じるのはマリリン・モンローのはずだったとの事ですが、もしそちらの配役で撮られていたら、どんな形に仕上がっていたのかも気になるところです。 上述のように、色々と物足りない内容ではあるのですが、古き良き映画として、その時代の雰囲気を楽しむ事は出来ましたし 「あの朝食のシーン、素敵だね」 と会話のネタが一つ増えるという意味でも、観る価値はあった映画だと思います。 [DVD(字幕)] 5点(2016-06-16 10:44:27) |
515. シーズンチケット
《ネタバレ》 この映画はハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、それを読ませないバランス感覚が、非常に優れていたと思います。 正直に告白するならば、銀行強盗を企てる直前までの流れにて、少年二人の破滅的な最後も覚悟していただけに、あの心温まる結末には意表を突かれましたし、安堵もさせられましたね。 本来望んでいた通りの形では無かったけれど、彼らなりの「シーズンチケット」を手に入れる事が出来た……というのは、凄く良い終わり方だと思います。 奉仕活動が十二ヶ月という期限付きなのも、上手いなぁと感心。 その一方で、少し気になったのは、作中で一番悲惨な境遇だと思われる主人公の姉、ブリジットの顛末が語られず仕舞いだった事でしょうか。 彼女の行方が不明のままだったので、ラストの爽快感も薄れてしまった印象があるのですよね。 意地悪な言い方をするならば、意外なハッピーエンドに繋げる為に不幸な要素を数多く盛り込み過ぎて、それを回収しそびれたという印象も受けてしまいました。 主人公達が悪事を働いているのを誤魔化すかのように、父親や教師などの「もっと酷い悪役」を登場させてバランスを取ってみせたかのような部分も、あまり好みとは言えません。 チケットを買う為の貯金を、最悪な父親に奪われてしまうのは確かに可哀想なのですが、あんまり同情的に描かれてしまうと(それって、元々は悪い事して貯めた金でもあるんだよね?)と、疑問符も湧いてきました。 でも、やっぱり全体的には「良かった」と思える部分の方が多かったですね。 特に印象的なのは、主人公が父親と一緒にサッカー観戦した思い出を語る場面。 (へぇ、あの親父さんも昔は良い人だったのかな……)などと感じていたところで、実はそれが主人公本人の思い出ではなく、親友から聞かされた思い出話を、さも我が事であるかのように語っていただけなのだと明かされる件なんかは、とても切ない気持ちに襲われました。 チケットを「二人分」手に入れるのではなく「一人分」だけ手に入れて、それを交互に使ってはどうかと親友が提案するも、主人公が首を振って否定するシーンなんかも良い。 二人で観戦しなければ意味が無いんだよ、という友情が伝わってきて、犯罪者であるはずの彼らを、ついつい応援したくなってしまいましたね。 焚火を前にして、一度はチケットを手にするのを諦めた親友が「結構、楽しかったよ」「最低の暮らしの中で見た、一つの夢さ」と語る場面なんかも、忘れ難い味わいがあります。 その後、銀行強盗で捕まり、夢破れた後も奇妙に満足そうにしていた彼の姿が、何だか象徴的。 結局、この映画ではラストにて夢が叶った形なのだけど、夢を叶えたという結果以上に「夢を叶えようと頑張る」過程にこそ、本当に大切なものがあるのかも知れないな、と思わされました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-06-15 07:05:12) |
516. オブザーブ・アンド・レポート
《ネタバレ》 モールを舞台にした映画という事で楽しみにしていたのですが、ちょっと予想していたものとは違いましたね。 まず、コメディ成分が希薄です。 主人公は精神的な病を抱えた人物であり、笑いを誘う場面よりも、重苦しい雰囲気の漂う場面の方が中心。 警官となる為の体力テストを受ける件では、クスッとさせられる一幕もありましたが、印象的だったのは、そこくらい。 露出狂の犯人がシュールで面白いという面も、あるにはあったのですが、最後は主人公に撃たれて血まみれになって終わりという形なので、どうも爽快感に欠けていたような印象を受けました。 途中から「これはタクシードライバーに近しい映画だったのだな」と気が付き、何とか頭を切り変えようとしたのですが、上手くいかず仕舞い。 病人だから仕方ないとも思うのですが、どうしても主人公に感情移入が出来なかったのですよね。 社会から疎外された可哀想な人、という訳でも無く、実際は母親に同僚にヒロインの女の子にと、周りに良い人が沢山いて支えてもらっているのに、当人だけが自分勝手に悩んで暴走しているように思えて仕方なかったのです。 何といっても衝撃的だったのが、ラストにて犯人を撃ってモール内で殺人未遂を犯しているはずなのに、彼が作中でヒーローとして称賛されるエンディングを迎える事。 そりゃあ正当防衛が成り立つのかも知れないけれど、いくら何でもやり過ぎに思えたし、途中から彼の目的が「愛する女性を守ってあげたい」から「自分を振った女性を見返してやりたい」に摩り替っていたようにも感じられて、応援する気持ちにも、祝福する気持ちにもなれませんでした。 「警官」「化粧品売り場の美女」という主人公を悩ませていた二つの要素に対し、精神的な勝利を収めてみせた終わり方となっており、観客にカタルシスを与えようとしている事は感じられましたし、決して嫌いな映画では無いんですけどね。 音楽の使い方も良かったし、主演のセス・ローゲンも難しい役どころを丁寧に演じてくれていたと思います。 個人的好みとしては、仲良くなった友人が強盗犯だと気が付き、説得を試みるも結局は裏切られてしまう件が一番面白かったので、そこをもっと重点的に描いて欲しかったところです。 [DVD(字幕)] 4点(2016-06-15 03:51:18)(良:1票) |
517. 22ジャンプストリート
《ネタバレ》 シリーズ第二弾は、前作以上にメタフィクションな笑いが増えており、それが好みの分かれそうなところですね。 自分としては「ジャンプストリートの復活なんて誰も期待していなかったし、絶対大コケすると思っていた」「23ジャンプストリートマンション建設中」などのワードの数々に、クスッとさせられて、存分に楽しむ事が出来ました。 何といっても一番笑ったのは「もう予算が無い!」の件。 作中の捜査費用を指した言葉なのですが、それが映画の予算とも掛かっているのが分かる作りとなっているのですよね。 カーチェイスにて、主人公二人が「物を壊さないように」と怯えながら車を走らせたり、実際に物が壊れるシーンはカメラに映し出さずに「また壊しちゃった」という台詞だけで済ませたりと、本当に予算が足りないから仕方なくそうしたかのような演出が、もう可笑しくって仕方なかったです。 高校で仲良くなった三人組が、今度は同僚として登場するサプライズも嬉しかったですね。 ジェンコとの間に育まれた友情は偽りではなかったと分かり、じんわり胸に沁みるものがありました。 その一方で、シュミットと恋仲になったはずの前作ヒロインが登場しないのは残念でしたが、今作で新たに登場したヒロインの設定が面白過ぎたのだから、文句は言えません。 出会ったその日にベッドインまで済ませるなんて、初心なシュミットらしくないなぁ……と思っていたら、それが伏線だったのだから、もう脱帽。 「ヒロインが実は上司の娘さんだった」という展開自体は、ありふれたものかも知れませんが、その魅せ方が抜群に巧かったと思いますね。 二度目の観賞時には、シュミットと上司が笑顔でハイタッチするシーンにて、ついつい頬が緩んでしまいました。 互いに壁を感じている主人公達を、分割画面にて表現し、それがクライマックスにて一つの画面に繋がる演出なんかも良かったです。 また、前作を踏まえて(おおっ、今度はシュミットがジェンコを庇って撃たれるのか……)と思っていたら、やっぱりジェンコの方が撃たれてしまい「なんで俺ばっかり!」という叫びに繋がる辺りも面白い。 黒幕だった女の子も、悪役でありながら妙に憎めないキャラクターだったりしたので、次回作で登場するのかどうかも、気になるところです。 前作同様に、主人公コンビは聖人君子という訳ではなく、今作でも子供に対して石を投げて追い返す場面など、多少眉を顰めさせられる部分もありましたが、何とか許容範囲内。 クライマックスの「カッコいいことを言え」「カッコいいこと!」という掛け合いを目にした際には、もう二人の事が大好きになっており、映画が終わってしまうのが寂しく思えましたね。 そんな気持ちの中で始まったエンドロールの「ジャンプストリートシリーズ続編予告集」とも言うべき演出は、素晴らしいの一言。 契約で揉めて一時的に主役交代したり、原作ドラマの重要人物が登場したり、倒したはずの悪役が復活したりと、作り手も好き勝手にアイディアをぶち込んでみせている様子が、観ている側としても、非常に面白かったです。 個人的好みとしては、金髪美女が登場する「フライトアカデミー編」授業内容が気になる「マジック学校編」辺りに興味津々。 観賞後「一番観てみたいのは、どの続編?」と誰かと語り合いたくなるような、楽しい余韻が何時までも続いてくれる映画でした。 [DVD(吹替)] 9点(2016-06-13 22:02:26)(良:2票) |
518. 21ジャンプストリート
《ネタバレ》 ジョニー・デップ主演で、彼の出世作となったドラマを映画化した一品。 作中にて、ドラマ版主人公の未来の姿と思しき役どころで、ジョニー・デップ本人が出演しており、彼のファンには嬉しい驚きを提供してくれていますね。 残念ながら自分はドラマの方は未見なのですが、それでも情報として「元々はジョニー・デップが主演していた作品」という事は承知だった為、登場シーンでは大いにテンションが上がりました。 ただ、理由は何故か分からないのですが、彼の登場以降やたらと血が流れたり、目を背けたくなるような描写が続いたりして、せっかく盛り上がった気持ちに水を差されるような思いもありましたね。 撃ち合いのシーンなのだから、血が出るのは当たり前といえば当たり前なのですが、それまでは全くそんな素振りが無かったもので、少し戸惑いました。 今となっては、あの「急に血生臭い銃撃戦になる」という切り替えも一種のギャグなのかな、と思えてきますが、真相や如何に。 そんな訳で、クライマックスにて「あれ?」と違和感を覚えたりもしたのですが、全体的には楽しめる時間の方が、ずっと長かったですね。 何といっても「もう一度高校生に戻って、やり直したい」という願望を、疑似的に満たしてくれる作りとなっているのが心憎い。 例えば、両親が旅行に出掛けた隙に、家でパーティーを行うシーン。 二人が笑いながらアレコレと準備している様が、本当に楽しそうで、観ているこちらまでテンションが上がって来るのですよね。 「酒はどうする?」「偽のID無いよな……」と、惚けた会話を交わす辺りなんかも、お気に入り。 「子供の振りをしているけど、本当は大人」というズルい立場だからこその喜びを、上手く表現していたように思えます。 その一方で、過去に囚われる事を良しとする作風ではなく、きちんと作中で前向きな答えを出して終わる辺りも、好みのバランスでした。 他にも「スーパーマンII/冒険篇」に登場したゾッド将軍が、作中で妙にリスペクトされているのも可笑しかったし、やたらと扇情的な言動の女教師なんかも、魅惑的なアクセントになっていましたね。 特に後者に関しては、もっと出番を増やして欲しいと思ったくらい。 「俺は麻薬捜査官だ」「お前の盾になっても良い」などの台詞が、伏線として機能している辺りも心地良かったです。 人気の高さゆえに続編も制作されて、三作目では「メン・イン・ブラック」とのコラボも決定したという本シリーズ。 この一作目の終り方も、続編に直接繋がるような形となっており、観賞後もテンションの高さを持続させてくれたのが嬉しかったですね。 楽しい映画でした。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-06-13 06:33:22)(良:1票) |
519. 欲望のバージニア
《ネタバレ》 どうやら史実を基としたお話であるらしく、お酒をガソリン代わりに使って車を動かしたシーンなど、何処か微笑ましさを感じられましたね。 完全にフィクションであった場合、もう少しコミカルさを抑えた陰鬱なストーリーになりそうだっただけに、そういった「隙のある、ちょっぴり緩い感じ」が好ましく思えました。 主演のシャイア・ラブーフに関しては「トランスフォーマー」や「イーグル・アイ」で馴染みの顔なのですが、本作は少々感情移入しにくい役柄だったかと。 元々頼りないキャラクターを演じる事が多い俳優さんなのですが、今回は肝心な場面で兄の名前を出して難を逃れようとしたりして「虎の威を借る狐」感が強かったりしたのですよね。 クライマックスにて、そんな頼りない弟が兄に代わって敵役に銃弾を撃ち込むシーンに関しては、確かにカタルシスもあるのだけど、ちょっとそれまでが情けなさ過ぎて「最後だけ唐突に活躍した」という印象を受けてしまいました。 何せ、その数分前に「敵地に勇ましく乗り込んだかと思ったら、あっさり撃たれて倒れた」という、少々情けないシーンがあった直後の話でしたからね。 もう少し段階を踏んで、主人公が成長していくのをじっくり描いてくれていたら、ラストにも感動出来たかも。 監督さんは「ザ・ロード」と同じ人という事もあり、こちらにもガイ・ピアースが出演しているのには、何だかニヤリとさせられます。 他にもトム・ハーディにゲイリー・オールドマンと、脇を固める俳優陣も非常に豪華で、魅力的。 主人公とヒロインの恋模様なども描かれており、犯罪映画というよりは、若者を主役に据えた青春映画という印象の一品でした。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-08 22:39:19) |
520. 隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS
《ネタバレ》 映画をリメイクするというのは、勇気のいる事だと思います。 それが原作小説や原作漫画の存在しない「オリジナル」の映画であり、しかも名作と呼ばれる品であるならば、尚の事。 本作に関しては、元ネタである1958年版の後に、立て続けに観賞する形を取ったのですが、中盤以降の展開を大胆にアレンジしているのが特徴ですね。 最初、主人公の名前は「武蔵」で松本潤が演じると聞いた時には「えっ、何それ? 全く新しい人物を主役に据えるの?」と思ったものですが、蓋を開けてみれば「太平」の名前を「武蔵」に変えただけ、と言っても差し支えない程度の変更でした。 アイドルに疎い自分でも知っているようなビッグネームが主人公とヒロインを演じている訳ですが、ちゃんとある程度「汚れた」デザインを心掛けており、役者当人の顔立ちの違いはあっても、全体的なイメージはそれほど離れてはいなかった事も好印象。 特に男性側に関しては、美男子であるにも拘わらず髭ぼうぼうで小汚い乞食のような格好で終始通した事には、思わず感心。 「追っ手を欺く為に」とか何とか理由付けして、途中で髭を剃って髪を整えて、小奇麗な身なりに変身するのも可能だったでしょうからね。 その点に関しては、オリジナル版の下層階級と上層階級の対比を守ろうとしたのだろうなと、誠意を感じました。 女性の肌の露出度が下がっているのは、残念といえば残念ですが、まぁコレは元々がサービス過剰というか「ちょっと黒澤監督、助平な観客に媚び過ぎじゃないか?」と思っていたりもしたので、肌を晒さない衣装にした気持ちも分かります。 他にも、色々と小ネタも盛り込まれているし、スタッフはオリジナル版を愛し、リスペクトした上で真面目に作ったのだろうなと思いました。 ただ、どうしてもある程度は比較しながら観てしまうので、気になる点も多かったですね。 まずは、演出が物凄く分かり易くて、大袈裟な点。 六郎太に斬られて死んだと思われた武蔵が、実は生きていたと分かる場面なんかも、勿体付けてさも驚きの展開みたいに描いているのですが、いくらなんでもそれは生きてるって分かるよと、ついつい苦笑してしまったのですよね。 こういう万人向けの演出は好ましいと思っているのですが、本作は流石に分かり易過ぎたのと、その頻度が高過ぎるように感じられて、食傷気味になってしまいました。 また、一本の映画として観た場合には意味不明に感じられる「オリジナル版のパロディ演出」も多くて、好きで盛り込んだのは分かるけど、何もそこまでしなくても……と思ってしまいましたね。 武蔵と新八が籤引きをするシーンなんて、オリジナルと違って目の前で姫様が無防備な寝姿を晒している訳でもないのに、道端で急に始めるものだから、唐突感が否めない。 極め付けは「裏切り御免」の使い方で、いやいや今までそんな喋り方してなかったじゃない、オリジナルにあった台詞を無理やり真似させてるの丸分かりだよ! と、冷めた気持ちになってしまいました。 でも、リメイクならではの長所も幾つかあって、関所をオリジナル版と同じ手法で通過出来てホッとした後に、突然呼び止められてドキッとさせられるサプライズなんかは、素直に驚かされて、嬉しかったですね。 阿部寛演じる六郎太も貫録があって良かったし、兵衛さんが元ネタと思しき悪役の鷹山なんかも、面白いキャラクターだったと思います。 何より興奮したのが、オリジナル版でほぼ唯一の不満点だった「クライマックスでの主役不在」が解消されている事。 ちょっとそこの「姫を助け出す」パートが長過ぎるよ! と思ったりもしたのですが、それでもやっぱり、喜びの方が大きかったです。 民を信じて金を預けた姫様が裏切られる事なく、笑顔で出迎えられた結末も、それに伴う主人公との別れなども、良かったと思います。 その他、友人から「ダースベイダーのそっくりさんが出るよ」と聞かされていたもので、覚悟して観賞していたら「これ、蒲生氏郷じゃん!」とツッコまされたという余談もあったりして、何だかんだで楽しい時間を過ごせた映画でした。 [DVD(邦画)] 5点(2016-06-08 11:32:52) |