521. 河童のクゥと夏休み
《ネタバレ》 家族向けに作られても、比較的シビアな描写も少なくないため上級生からだろう。長い時を経て目覚めた河童と少年の交流を描いたファンタジーと、人間社会の醜さを描いた現実が地続きで、クレしんの主人公が大人の世界に半分片足を入れたようなセルフパロディ感があり。ところが、中盤マスコミから狙われているのに、クゥを撮影したビデオを見せたら行動がエスカレートするのは誰も想像できるはず。問題提起を意識するあまり、無理矢理悲劇と泣かせに突き進むあざとさには辟易してしまう。それでも、その醜い社会に一度絶望しながらも折り合いを付けて、少年もクゥも前に進んで生きることを選んだあたり、『オトナ帝国』から『カラフル』まで原監督らしいテイストが一貫しているように見えた。「目先の問題だけを見て、足元にあるささやかな幸せを何故見ようとしないのだろうか」と。一度別れても、いつか再会できると信じてやまない。 [映画館(邦画)] 7点(2018-06-01 19:46:03) |
522. グレイテスト・ショーマン
それほど期待してはいなかった。実在の興行師P.T.バーナムのダークでダーティな部分は避けては通れない。またストーリーが薄っぺらで紋切り型なのはいろいろ聞かされていたため、あの評論家のように醒めた目線でレビューしようと思ったものである。当然ながら、彼の負の側面は徹底的に排除され、家族のため、フリークスのために奔走する"救世主"として描かれる。偽善か否かの葛藤も、仲間たちのドラマも簡素に描かれていただけ。起承転結で全てが綺麗事で終わる。しかし、そんな山積みの問題など製作者側は百も承知なのだろう。ヒュー・ジャックマンのスターパワーでP.T.バーナムを善人(辛うじて俗物)として魅せ、ストーリーの細かすぎる粗もパワフルな楽曲の数々で圧倒して、強引に引きずり下ろす。フリークスを見世物にして金儲けなど当時でも倫理的に問題はあったと思うが、結果的に救われて、誇りも居場所も手に入れた人たちがいたのは事実だろう。ラストの彼の格言にて「最も崇高な芸術とは、人を幸せにすることだ」は、今日の映画興行の本質を突いている。大多数の現実に疲れ切っている人間が、タルコフスキーやミヒャエル・ハネケの作品を咀嚼して、思考を巡らせる余裕なんてない。「映画はやっぱりこうでなくちゃ」と夢を見させてくれる娯楽を求める人が多い以上、恐らく本作も細かいことは気にせずこれで良いのだろう。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2018-05-23 00:20:27) |
523. クラッシュ(2004)
現在でも燻ぶる人種問題において2時間でまとめた脚本は巧い。人間は脆くて弱くて、恐れから威嚇して、それでも人間の善性と希望を信じる。しかしながら、テーマ以上に心動かされるものが少なかった。面白いけど切り口がどこかで見たことがあって新しい発見がない。普遍的とも言えるが、「だから何?」で済まされる話でもある。「同性愛映画に作品賞あげたくないから、仕方なくそちらにしました」という印象が拭えない。 [映画館(字幕)] 6点(2018-05-21 22:06:47) |
524. カッコーの巣の上で
《ネタバレ》 精神病に対する偏見やタブーが蔓延っているだけに、当時の成人向けの理由が分かった気がする。人間らしさと尊厳のために権力に楯突くアウトローの話のように見えて、そういう単純な綺麗事ではこの問題は解決しない。一見冷酷で合理的なシステムだとしても結果的に快方に向かうように作られ、一人ひとり聖人君子のように情を持って接していては体制側の精神が壊れてしまう。そんな"異常"な世界において、逃げるならさっさと逃げればよいのに、そこに留まってしまうのは仲間たちに情を持ってしまったからなのか、それとも自分も彼らと同等で外に出ることが恐ろしいと悟ってしまったからなのか。情がある故に最悪な結果に向かってしまうが、マクマーフィーの遺志を胸に未知の世界に踏み出すチーフに悲劇ながらも力強い希望が感じられる。マクマーフィーもラチェット婦長もどちらも正しくて極端だろう。だが、双方の精神を含有した社会で誰かに委ねて生きていては、自ら尊厳を捨てることと同じだ。 [DVD(字幕)] 8点(2018-05-21 20:57:29) |
525. エド・ウッド
《ネタバレ》 史上最低と呼ばれた映画監督の伝記が面白いとは皮肉すぎる。女装癖があるエド・ウッドと過去のドラキュラ俳優ベラ・ルゴシとの交流、二人を取り巻く奇人たちのパーティは普通の方からすれば傷の舐め合いでしかない。だが、そこはティム・バートン監督らしく日蔭者に向けた優しい眼差しが感じられる。可笑しいけれど物哀しい。事実にはない史上最高の映画監督オーソン・ウェルズとの邂逅を入れることで、クリエーターの情熱と苦悩に上下はないことを謳いあげる。土砂降りのプレミア上映会でエドは未来の伴侶であるキャシーに言う。「走っているうちに、雨はきっと止むさ」。結果的に彼は貧困とアルコール中毒死という悲惨な最期を遂げることがテロップのみで済まされるが、時代が違えばヒットメーカーになっていたのか、才能がないから真っ当に働いていれば平凡でも幸せになれたのか、未来は誰にも分からない。彼の他にも貧しく無名で終わった映画人は数えきれないほどいた。それでも希望を持って夢を追い続けたからこそ、ハリウッドは今日も大衆から憧れの念を抱き続けられるのだろう。 [地上波(字幕)] 8点(2018-05-21 19:55:37) |
526. エタニティ 永遠の花たちへ
《ネタバレ》 極力台詞を抑え、絵画のように艶やかな映像に徹した作りは、フランス映画には珍しくないことだが、これが今までアジアを舞台に映画を撮ってきたトラン・アン・ユンだとすると意味合いが違ってくる。上流社会の多生多死を一定の穏やかさで淡々と描く点では初期作品『青いパパイヤの香り』に似ており、原点回帰と言える。現代みたいに医療が発達していない19世紀末、早死にする子供も少なくない。女は命を賭けて繁栄の象徴である多くの子孫を残そうとする。新たな命に多く巡り会うも、先立たれてしまう命も多い無常感があり、東洋思想とは無縁ではなかろう。家族の繋がりが濃密で、人と人との繋がりを大事にし、お互いに助け合う当時において、女性の社会進出、他者との関係が希薄になっていく現代の多様な価値観とは相容れない部分がある。それでも、いくら裕福で幸せの形が時代と共に変質しても、出会いと別れは人間の器を大きくする。 [DVD(字幕)] 6点(2018-05-06 18:06:41) |
527. グリーン・デスティニー
身勝手なヒロインに付き合えるか否かで評価が変わる。良く言えば古い慣習から抜け出して自由になりたいわけであるが、当然その代償を支払わなければならない。にしては印象に残らないシーンばかり。ハリウッドの中国ブームを決定づけた武侠もの、そしてオリエンタルでエキゾチックな世界観が欧米には目を引くものがあるだろう。ただ、同じ東洋人からすれば、それを打ち破る新鮮味が欲しいもの。テーマに普遍性はあれど、これは凄いと思えるものに出会えなかったのが正直な感想。 [DVD(字幕)] 5点(2018-05-03 23:29:52) |
528. 2046
《ネタバレ》 ウォン・カーウァイの集大成であり、『欲望の翼』『花様年華』に続く3部作の完結編でもあり、そして記念碑的迷作でもある。前2作にリンクする要素があるため、既に鑑賞していた自分はそれほど混乱しなかったが、ただ右往左往して結論を出せない主人公が己の苦悩に酔っているだけだった。前作でしっかり描いている以上、何らかの形で決着をつけて欲しかった。気負いすぎて、じっくりと煮込み続けた果てに取り返しのつかないものが出来てしまった感じが残る。ちなみに当時予告編でバンバンやっていた近未来SFとキムタク要素はほとんどない。 [DVD(字幕)] 4点(2018-05-03 23:13:48) |
529. ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
《ネタバレ》 "リチャード・パーカー"という海難中の飢えで喰われた乗組員の名前をトラに与えることで、最後にトラが主人公に喰われるのかと思いこませて、実はおぞましき人肉食(=現実)をカモフラージュするためのミスリードだった。ベジタリアンの主人公が極限状態ゆえに寓話として捏造しなければ、その事実に心が壊れてしまうのだろう。そう思うとトラが全編フルCGで作られた意味が強調されたといえる。トラに具現化した己との闘いだった。とは言え、バナナが海中でも浮くことが現実でも証明されているので、どこまで事実か不明瞭なところに救われる。己の中の獣性がどこで目覚めるか分からない。ヒトがヒトで居続けるための信仰が無力だとしても、その均衡によって生き残れたのかもしれない奇跡がきっと存在する。 [3D(吹替)] 8点(2018-04-23 19:20:20) |
530. ラスト、コーション
《ネタバレ》 冒頭、麻雀に興じる女たちに象徴されるように、相手の心を如何に探り、撫で操るか。孤独と空虚を抱えた男は娘の肉体を求める。娘はそこから心を開かせて破滅へ導く。ところが愛してもいないのに、「逃げて」と言ってしまったのだろう。彼女もまた肉欲に耽るうちに、その孤独に共鳴してしまったのか。いつか訪れる終わりを拒絶した娘には、復讐が形だけのものであることに気付きながら意思が揺らいでしまい、成功後の虚無感を受け入れる覚悟はなかった。ごっこ遊びの域から出られなかった彼女ら活動家は死に、敗戦濃厚な日本を前にした男にも破滅が待っている。「肉欲を戒めよ」。ひとときの愉しみを求めてしまったために、胡蝶の夢のようにただただ虚しかった。 [DVD(字幕)] 6点(2018-04-23 19:17:38) |
531. ブロークバック・マウンテン
《ネタバレ》 保守的なワイオミング州と男らしさの象徴であるカウボーイに相反するように描かれる同性愛は、二人の人生に大きな波紋を広げ、大きな影を落とす。仕事上、大自然で二人だけだからこそ恋に落ちてしまう過程に説得力があり、会えない月日で広がる心の空虚さを埋めるように、ブロークバック・マウンテンだけが二人を受け止める唯一の居場所なのだろう。当然、お互いの妻は遠い世界を見ている夫とズレが生じていき、不幸になっていく。もし、二人が出会わなければ双方の家庭は幸せになっていたかもしれない。偶然恋に落ちた相手が"男"なだけにすぎないのだから。一人は死に、もう一人は孤独なトレーラーハウス暮らしに身を落とす。永遠に会えない男のシャツに「愛してる」と呟き、夢の中で己を慰めるしかない。心に残る半面、不器用な生き方しかできなかった男たちのとても悲しいラブストーリー。 [映画館(字幕)] 8点(2018-04-23 19:16:01) |
532. カードキャプターさくら 封印されたカード
意見が分かれるのは当然。対象年齢が本来狙っている客層から大きく外れているのもあるが、最低でもアニメ版の設定を把握しておかないと全くついていけない、ファンのためのオマケみたいなものだから。ある程度の情報を踏まえて見てもTVスペシャルで十分かと。ラストの切り方が潔くて、ある意味清々しい。 [地上波(邦画)] 5点(2018-04-10 22:33:49) |
533. ベンジャミン・バトン/数奇な人生
《ネタバレ》 画に対するこだわりが随所に感じられるも、言わなければデヴィット・フィンチャーの映画だとはほとんど気付けないだろう。アメリカの現代史とリンクする点では『フォレスト・ガンプ』に近いが、ベンジャミンは表舞台に立つことはない。逆行していく男の人生をあたかも普通の人たちと同じように淡々と綴っていくだけだ。特に時間という概念が強調される。少しの誤差でデイジーには違った人生があったかもしれないし、互いの適齢期が交差したときに生じるささやかな日々ですら愛おしく感じる。だからこそ終盤、歳を取るごとに若者になっていくベンジャミンと老けていくデイジーの対比が孤独感を増していくようで切なかった。彼はいろんな人々に出会い、その人たちもどこかで影響を受けて、それぞれの人生を生きていく。時が経つに連れ、余韻という水が喪失感を埋めるように少しずつ心を満たしていく。そんな作品。 [DVD(字幕)] 7点(2018-03-31 20:58:40) |
534. パニック・ルーム
《ネタバレ》 当時としては珍しかったデジタル撮影に、ヒッチコックタッチで密室を描いた本作。ワンシーンワンショットで捉えた印象的なカメラワークといい、中盤までは緊迫感いっぱいで良かったものの、立場が逆転したあたりから失速し、最後は強盗の仲間割れ、というよくある御都合展開で終わった残念なスリラー。『セブン』、『ゲーム』みたいに後に残るものもなく、フィンチャーの力量を持ってしても、最後は脚本だということを改めて実感する。 [映画館(字幕)] 5点(2018-03-31 20:29:34) |
535. エイリアン3
正当なシリーズものでは『3』しか見ていないので、本作に限って言えば、凡庸なSFホラーという感想しか出てこない。フィンチャーの長編デビュー作であるが、スタジオの圧力に、トラブルの連続に、と撮りたいものが撮れなかったと不満だったらしい。その屈辱を得て、今や鬼才であることに想いを馳せられる、若き日の監督の原点を見たい人向けだろう。 [ビデオ(吹替)] 4点(2018-03-31 20:16:50) |
536. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
《ネタバレ》 完結編なのにどうも物足りない印象を受けるのは、合戦シーンが二つの塔の焼き直しに見えてしまったことが大きく、指輪を捨てる顛末が霞んで見える。エンディングも監督が気に入っているからかどれも捨てられず、何度も見せられるような冗長さがあった。それだけ原作への思い入れが大きいということだろう。アカデミー賞の歴史において例外中の例外で、作品賞含めての総ナメということは、それほど実写映像化不可能と言われたファンタジー小説をあらゆる制約と困難を乗り越えて、最高の完成度で応えた功績を称えての"努力賞"だと言える。他の候補作で相応しいものがなかった運の強さもあるかもしれないが、常に多くの人の支持される映画は大衆迎合か否かなのだ。合計11時間以上の3部作の完全版を見てこそ真価が発揮される。そういう意味でこの点数。 [映画館(字幕)] 7点(2018-03-30 23:36:26) |
537. ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔
《ネタバレ》 旅の仲間が不満だった人には「お待たせしました」と言える。3組に分かれることによって物語の単調さは避けられ、作中の世界観もより広がった。最大のハイライトは終盤の激しい籠城戦で料金の元はまず取れるくらいに迫力満点。一方、対比するようにフロドの影が薄く、案内人ゴラムとの張り詰めた三人旅で何とか持ち堪える。今作だけでも十分に面白いが、パーティーがバラバラに散らばったことで世界を救う旅をしている一体感が薄れてしまったことが個人的には一番寂しい。 [映画館(字幕)] 7点(2018-03-30 23:23:42) |
538. パワーレンジャー(2017)
《ネタバレ》 近年のハリウッドのヒーロー映画は、覚醒までの葛藤に時間を割くことが主流である。『ダークナイト』以降のリアル路線、『クロニクル』の青春映画の流れを踏襲していて、5人それぞれに家庭や人間関係に問題を抱えている。ただ、そのシリアスな背景が東映のスーパー戦隊とあまり噛み合ってない。深刻な内容を徹底的に描けば良いわけでもないが、まだまだ掘り下げが足りない。ジェイソン(レッド)が友人と悪質なイタズラをしたきっかけが不明だし、キンバリー(ピンク)が友人を失ったエピソードが台詞のみで感情移入しづらい。列車に衝突後、5人がどう帰宅したのか、ビリー(ブルー)の母の車を壊したお咎めすら描かれていない。トリニー(イエロー)が自宅で襲われたとき、普通に警察沙汰どころか、周囲の事件で既に戒厳令レベルなのに。そんなツッコミは置いておくにしても、終盤20分の戦闘シーンは視覚効果にものを言わせたロボットバトルばかりで、肉弾戦があまりないのは寂しい。ちなみに本作は日本で大コケして、続編の製作は絶望的とのこと。荒唐無稽で子供向けのイメージが強すぎるスーパー戦隊をアメコミの世界観に合わせようとして、誰を狙っているのか分からなくなってしまった。 [DVD(字幕)] 4点(2018-03-23 22:27:33) |
539. 新感染 ファイナル・エクスプレス
《ネタバレ》 新幹線と駅構内のみの限定的な空間で危機をすり抜けていくスリル、極限の状況で繰り広げられる人間ドラマ、一人ひとり脱落していくメインキャラ、とゾンビ映画のお決まりをなぞりながらも、残酷描写がほとんどなく、適度な恐さと緊張感で緩急つけながら2時間を一気に見せる。多くの人に薦められるパニックアクションの秀作。こういう大作を撮れない邦画のダメさを痛感させされる。製作姿勢に落差がありすぎる。感傷すぎる嫌いはあれど、ラストに落としどころを用意し、下手に後日談を描かない潔さが良い。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2018-03-12 20:33:32) |
540. エネミー・ライン
先に『ブラックホーク・ダウン』を見てしまうと迫力負けするかも。全責任を背負って主人公を救出しようとする上司役のジーン・ハックマンが画を引き締め、反面、主人公役のオーウェン・ウィルソンの終始情けない顔で安心感なくて良い。MVPはどこまでも追ってくるジャージ姿のセルビア兵スナイパー。陰の纏い方が半端ない。 [DVD(字幕)] 6点(2018-03-12 20:28:26) |