41. バリー・リンドン
アイルランドにおいては元来裕福な家系であったレドモンド・バリーの栄華と凋落を絢爛豪華に描いたあまりにも美しい逸品。2001年宇宙の旅、時計仕掛けのオレンジと謎と暗喩に満ちた未来世界を過激に提示したキューブリックが18世紀貴族の世界をかくも丹念に描ききったその才能に改めて驚嘆する。上映時間は3時間強あるが、アイルランドの緑の草原に赤を基調とした英国軍隊の行進、貴族社会の豪華な衣装やセット(ドラえもんさんのいうとおりワンシーン毎がまさに絵画のごとし)とその裏に蠢くドロドロとした愛憎、バリーが人生の岐路に差し掛かったときに行われる1対1の決闘シーンなど見所満載で飽きることはない。それと、やはり本作でも音楽の使い方が素晴らしい。余談だが本作を見た黒澤明はそのあまりの完璧さに衝撃をうけキューブリック本人に賞賛の手紙を書いたという。 10点(2001-07-15 23:49:59) |
42. ベルリン・天使の詩
ニック・ケイブが見たいがために本作を見たときはまだ高校生だったんだけど、前半のモノローグの意味が良く分からなかったり、不必要なシーンがあまりにも多かったような印象くらいしか持てなかった。しかし、それから数年経って改めて見てみると、最初から最後まで各々のシーンの必然が理解でき、その映像の美しさに大層感動した覚えがある。やはりブルーノ・ガンツとピータ・フォークの表情がたまらなく温かいんだよね。かなり重厚な映画なので万人にはお薦めできないが、人間不信に陥っているような人には是非とも見て欲しいし、自分も死ぬまでに必ずもう一度みておきたい作品。 9点(2001-07-15 01:59:01) |
43. ブギーナイツ
個人的にはマグノリアよりむしろ好きな作品。主人公には何の取り得もなく家族にすら愛想つかされてしまうような少年なのに、たった一つナニがデカイというだけでアメリカンドリームを体現してしまうという設定がまず面白いが、実際の家族には疎んじられ、唯一見つけることのできた安住の場所は世間から軽視されがちなポルノ業界でったというのが何ともヒネリが効いてる。マグノリア同様、本作でも家族愛がテーマだけど主人公が1人であった分、明快で良かったと思います。それにしてもこの監督のキャスティングセンスは最高だ! 8点(2001-07-15 01:37:29) |
44. マグノリア
まずはあまり感心しなかった点を挙げます。やはり主たる登場人が10人以上出てきて、3時間強も上映時間があるのだから、終盤各人物にもっと絡みを持たせ一本の大きな山場みたいなものを作ってこそ映画的カタルシスが得れたのではないでしょうか。確かに微妙な繋がりはあるし、テーマが各々が抱える払拭できない過去と家族愛だということはよく分かるんですけど、それが例の雨とどのように関連付けてよいかイマイチ理解できなかったもんで・・・。ただ、脚本も書いてるポール・トーマス・アンダーソンはものすごく才能がある人でここ数年内にとんでもない傑作を作りそうな予感はあります。で、その他良かった点は、やはり音楽とキャスティングの妙に尽きるでしょう。これ見てエイミー・マンの才能には改めて惚れ直したし、トム・クルーズは前から大好きな役者だったけどここ数年、ホント新たな境地を開拓しつつあると思う。 8点(2001-07-15 01:21:49) |
45. ダンサー・イン・ザ・ダーク
本作には相反する要素を持つものがいくつか並列されている。何のBGMにも彩られずザラついた白黒に近いハンディカムによる映像(セルマの日常)とカラフルで躍動感のあるミュージカルシーン(セルマの想像)、善良であるように見せかけつつ性根悪い警察官、閉塞しきったセルマの故郷と自由のシンボルであるアメリカ、そして何より童女と母性を併せ持つセルマ(ゆえにビヨーク以外のキャスティングは考えられない)の愛と周囲に渦巻く悪意。確かに最初は唐突にミュージカルシーンが始まって、何だこれは?と違和感を抱いたが、それは冒頭に述べたように敢えて相反するものを並列させることにより、セルマが無垢なままに生きるには自由のシンボルであったアメリカでさえも現実はあまりに苛烈であり、ゆえに無垢の象徴もである往年のミュージカルに逃避せざるを得ない状況と言うものを見事に表現してるのだと気づいた。問題のラストシーンも単にペシミスティックの一言で片付けることのできるものではなく、息子に対する愛を貫き通したセルマに対する深い慈愛が溢れているように感じたし、現実にはあり得ないえないような話なのにどうしようもなくリアルに心に響いてきた。それどころか、逆に映画が終ってしばらくはビヨークがセルマ以外の人格をもちこの世に存在することに違和感を抱いてしまったくらいで。監督のラース・フォントリア-自身「私の映画を見た人は必ず大好き派と大嫌い派に分かれる。今後もし万人に受けるような映画を撮ってしまったら逆にがっかりするだろう」との旨コメントしてたくらいだから、本掲示板で賛否両論あるのもいたしかたな、とも思う。だけど、例えば僕が一番好きなシーンはセルマが刑務所の中で通風孔に向かって1人歌うシーンなんだけど、演技と言うより何かが憑依してるのではないかと思うくらいの痛々しさで、本当に0点とかつける人は何も感じないのかな、と思ってしまう。 10点(2001-07-14 02:22:09) |
46. ストレイト・ストーリー
ヒトを不愉快にさせる映像を何より喜々として撮っていたあのリンチが「癒し系」などと評されてしまうとは・・・何とも隔世の感がありますが、本作は本当に美しい。確かに話のテンポは主人公が乗ってるトラクター並にゆっくりしており、せいぜいそのトラクターが暴走する程度のハプニングくらいしか用意されてないのだが、かつて、兄とともに眺めた星空をもう一度見たい、という純粋な思いが純粋に見るものの心に響いてくるのはやはり、リチャード・ファーンズワースのあまりにイイ顔のおかげでしょう。リンチの次回作も大いに楽しみ。 8点(2001-07-08 02:55:36) |
47. センチメンタル・アドベンチャー
イーストウッドがハリウッドを代表する素晴らしい監督であることに初めて気づいた作品。ロートル歌手の悲劇的なロードムービーなんだけど、その演出は当時からシンプルで美しい。そして本作ではイーストウッドの決して上手いとは言えない歌声が器用に生きることなどできない主人公とオーバーラップし、何より胸に染みる。 9点(2001-07-08 02:32:18) |
48. スペース・カウボーイ
確かにアルマゲドンの話の中の石油採掘工を爺さんに、巨大隕石をロシアの衛星に替えただけと言えばそうかもしれない。しかし、何十年も映画をつくり続けてるイーストウッドがこのような話を撮ることのデメリットを勘案しないわけないよね。たぶんこれはアルマゲドンのようなつまらん映画のプロットを敢えて借りつつも「若者よ、映画ってのはこう撮るモンなんだぜ」という宣誓的なものであり、果たしてできた映画は年取っても頑張る爺さんたちの爽快な話という、紛うことないイーストウッド印の映画となっている。また、これはワンパターンとかの批判を受ける類のものではなくハリウッドの第一線で真摯な活動を続けてきた大ベテランゆえに持てる説得力及び表現である思う。ただし、イーストウッド近作の中でもベストとまでに至らなかったのは、らしくないと思えたファイヤーフォックス同様、SFとはイマイチ相性が良くないのか・・・ 8点(2001-07-08 02:20:26)(良:1票) |
49. 恐怖のメロディ
イーストウッド初監督作品はかなりヒッチコックを意識した造りにはなっているが、例えば、主人公が女にだらしなく、ジャズが好き(原題は「プレイ・ミスティ・フォー・ミー」=エロール・ガーナーの名曲が重要な役割を果たす)という作風が既にこのころからある程度確立されていたんですね。けど、確かにラストはあまりに淡白かな。 8点(2001-07-07 02:10:33) |
50. トゥルー・クライム(1999)
眠いどころか最後までスリリングでまったく目を離せなかった。死刑目前の犯人の無実を晴らそうと新聞記者が孤軍奮闘するなどというあまりにベタな話を今時映画にしようとすることだけで感動してしまうが、演出面でもイーストウッドらしく端正かつツボが抑えられており相変わらず冴えまくっている。そして、何より清濁あわせて年取ったイーストウッドの演技(特にラストの表情)の素晴らしさときたら!映画に単なるストーリー以上のものを求める大人向きの映画。 9点(2001-07-03 00:50:08) |
51. バートン・フィンク
別に悪い映画ではないけど。これ見た後でロマン・ポランスキーのリパルジョンみたらまんまパクってたのでずっこけた。 7点(2001-07-03 00:35:29) |
52. 未来世紀ブラジル
今まで見た映画のなかでも相当に印象に残っている作品。圧倒的なまでに巨大なビル群、偏執的なまでに出てくるチューブ、未来的でありながらどこか懐古的な小道具など随所に拘わりまくった美術、ジェフ&マリア・マルダーの「ブラジル」を使った選曲のセンス等々素晴らしさをあげたらきりが無いが、本作の肝は、たった一匹の虫で罪も無い人を何の疑いもなく殺してしまいうような狂った官僚が統治する管理社会の恐ろしさを強烈なブラックユーモアを交えつつ描ききったテリ-・ギリアムの手腕に尽きると思う。一度みた映画は繰り返し見ることのない俺だが、本作は10回近くは見た。そして見るたびに新たな発見があった。個人的には「時計仕掛けのオレンジ」すら凌いでいると思う。 10点(2001-07-03 00:26:21) |
53. ファイブ・イージー・ピーセス
アメリカンニューシネマの傑作かつ製作陣が大好きなイージーライダーとほぼ同様と聞いては期待せずにいられなかったのだが・・・。この映画の見どころはどこなんでしょうか?俺にはまったくわかりませんでした。なんか評論家筋には極めて高い評価を得てるみたいなんだけど、話としてはジャック・ニコルソン扮する主人公と妊娠したガールフレンドが久々に実家に帰るというただ、ただそれだけの話でして。ニコルソンと口がきけなくなった親父との会話のシーンに感動せよ、とでもいうのだろうか?ただ、映像はとても美しかったが・・・ 4点(2001-07-02 23:59:40) |
54. パーフェクト・ワールド
号泣しました。後にも先にもかくも感動した映画はありません。最高の一言を献上したい。 10点(2001-06-20 23:11:07) |
55. アウト・オブ・サイト
うーん、あんまり評判良くないみたいだけど俺はすごく好きな映画だな。ま、所謂フィルムノワール的なものの評価は少し甘くなってしまうんだけど、これを撮ったのが、あの「セックスと嘘とビデオテープ」でデビューしたソダ-バーグでっせ!その吹っ切れ具合に拍手したくなりませんかね?本作の原作はE・レナードだけどこの人の作品をここまで面白く映像化したのは他にLAコンフィデンシャルくらいしか思い浮かびません。はっきり言って最近のタランティーの作品よりずっと良いと思います。 8点(2001-06-17 01:39:08) |
56. スリー・キングス
概ね不評だが、個人的にはロバート・アルトマンのMASHと並べて評価すべき傑作戦争映画だと思う。多くの戦争映画が反戦を描いているようでありつつ、実は戦争を通して主人公が成長していったり、一方の当事者国サイドの視点しか盛り込んでなかったりするなか、本作はユーモラスを交えつつ締めるところはリリと引き締め、イラン、イラク、アメリカを等価に近い視点で作品を描いている。これは映画製作の前、実際に現地に訪れ、入念な下調べをしたらしいスタッフの尽力によるものだと思う。でも、僕が一番印象にのこったのは、唐突に弾丸が内臓を貫くようなシーンを大胆にも挿入してしまうラッセル監督の映像センス。スパイク・ジョーンズあたりとともに近い将来、次代のハリウッドの中枢を担う人材だと思う。 8点(2001-06-02 23:01:17) |
57. イージー・ライダー
主人公がハーレーを駆って米大陸を横断する人物であるせいか、その魅力は地域及び期間限定のものであるかのような評もあるが、本作はあくまで偏見を持って生きることの容易さと自由に生きることの困難さをテーマに描いているのであり、そういうのって実に普遍的なことだと思う。それにしても、この頃のデニス・ホッパーって天然の才能が迸ってたんだね。激サイケなトリップシーンといいあまりに唐突なラストといい、あのゴダールでもここまでは出来んと思う。 10点(2001-05-30 23:46:18) |
58. スモーク(1995)
一つ一つの話はそんな大したことないんだけど、見終わるころには何とも暖かいものに体中が包み込まれるような感じがした。全編に通底するテーマは家族と嘘であり、マイク・リー監督の「秘密と嘘」というタイトルは本作にこそふさわしいかも、と思った。ハーベイ・カイテルもいい味出してます。ただ、続編のブルー・イン・ザ・フェイスは全然面白くなかったけど。 9点(2001-05-27 01:33:29) |
59. 間違えられた男
ヒッチはスリラー、というのが世間一般の評価らしいが個人的には理解できないな。ヒッチの上手さって巻き込まれ型サスペンスにこそ、その本領が発揮されてると思うから。だからこの作品も当然最高にスキ。 10点(2001-05-27 01:20:16) |
60. 狼たちの午後
息苦しくなるほどのテンション。アル・パチーノは銀行強盗でありながら実に人間くさいという難しい役どころを畢生ともいえる名演でこなしている。ラストシーンも閉塞感が漂い始め出したこの時代のアメリカ映画らしいか。 9点(2001-05-27 01:11:11) |