41. 田舎の日曜日
本当に印象派のような画面が緩やかに続きます。印象派好きの日本人にはこたえられない逸品でしょう。光と闇のコントラストから光景の美しさを描写するならありがちですが、この作品では微妙な光の強弱のみで、風景と心情を描き出していきます。エスプリを効かすだけが能ではないということを知らしめるフランス映画の傑作。この前見たのはかなり前だったような。だいぶくだびれだしたいまの私には、あの光の美しさで洗われたいという気持ちでいっぱいです。 9点(2004-02-09 19:18:41) |
42. シックス・センス
こういった作風ではつい粗探しをしてしまう癖がありまして、すなおに楽しめなかった。まあ、「黄泉がえり」よりはマシでしたが。またブルース・ウィルスにはどうも知的な役割が似合わないように思えます。子役の坊やもいかにも子役子役しており、ちょっとかわいいだけといった感じでした。 5点(2004-02-09 18:57:28) |
43. 鏡
先日ほぼ20年ぶりに観ました。初回に比べていささかたりも感動は衰えませんでした。冒頭あたりで言葉の限界を指摘する一節があったように、この作品は記憶の交錯であって、物語ではありません。記憶の主体もさまざまで、一貫性は拒否されています。言うまでもなく物語性は人間精神に不可欠な要素ですが、最近はことに安易な物語が垂れ流しになっているため、本作品のようにイマージュを志向というか、むしろそれと戯れることが与えてくれる解毒作用。それが心地よいです。監督の父、アクセニーの詩もここではいわゆる伝達する「言葉」ではなく、言葉の根源・元型を示唆する神秘的象徴なのでしょう。また、タルコフスキーといえば当然ながら「水」が美しい(さらには妖しい)ですが、この作品ではもうひとつ「風」がすばらしい映像で描写されています。自然のなかで万物が感情と意志を持つかのような汎神論的雰囲気が懐かしい。こういった映像が感じさせてくれる「鏡」=「神」ならば、日本人としても比較的受け入れやすいでしょう。もちろん一般化はできませんが。ともかく、奇跡的な作品です。 10点(2004-02-08 15:45:43)(良:2票) |
44. スミス都へ行く
よくもわるくもアメリカだからこそ作りえた作品。そしていまやアメリカではつくれない作品。いまつくるなら、いつのまにかスミスと悪玉の立場が入れ替わり、わけがわからなくなって、、、という展開か。 7点(2004-01-30 23:30:34) |
45. サン★ロレンツォの夜
ひとつの村の中でファシスト派とパルチザン派が死闘をするというトラウマとなるような状況で、少女の視点を中心にどろくさくならないような画面展開となっています。たんに事情に通じていない子供の視点というよりも、控えめに記憶の救いを描きこんでいるような印象を受けました。もっと悲惨な体験をした人もいましょうし、正反対の体験を思い出す人もいるでしょう。この映画は中庸の良さを醸し出していました。 7点(2004-01-30 23:18:56) |
46. 解夏
なかなかの佳作ですが、ストーリーの展開がゆったりで、ことに山場のようなものがないため、どうしても不満な点が目に付いてしまいます。ゆっくりした作品ほど、緊張感を隠し味にしつつ深く練りこまれていなければなりません。たとえば、主人公が初めて病気を自覚するシーンがなんかホラー映画のよう。視力が徐々に失われていく過程はCGを使った擬似映像ではなく(あるいは使用するとしても最小限度に抑えて)、俳優の演技だけで表現すればよかったと思います。また、おそらく高校卒まで長崎で育ったであろう主人公の長崎弁がいまいち。大沢さんはなかなかの演技力の持ち主なので、言葉のほうを磨いていけばますます良くなると思います。さて、主人公の実家の窓から見える風景があまりに「名所」っぽくてリアリティがない、とはじめは思ったのですが、しかし顧みて、磯村監督の眼差しはいつも回想感覚あるいは郷愁に満ちていることにいまになって気づきました。だから実際以上に美しくてもよいでしょう。個人的に磯村監督のノスタルジックな描写が大好きです。ただ、この作品はかの傑作『がんばっていきまっしょい』の水準には到底達していません。次作を期待しています。 7点(2004-01-30 23:05:00) |
47. 新しい家族
飲んだくれの男どもに振り回される、しかしたくましい母親というのがロシア人の家族一般のイメージだけど、この作品では男性が血のつながりの有無を超えた子供たちを抱えて彷徨する物語となっており、この意味で「新しい家族」と題されたのであろう。勝手な推測だが、いまではもう珍しくもなんともないんだろうなあ。けなげな娘ポリーナの父親を見守るがごとき眼差しに、なんとなくロシア的「母」さらにいえば聖母の面影を読み取るのは、深読みに過ぎるだろうか。また口の利けない、なんとなくアジア系に見える養子の少年が、主人公パーヴェルの包容力を暗示しているようで印象深かった。 8点(2004-01-24 23:06:00) |
48. ガン・ホー
公開時は日本に関する誤解満載というわけで評判最低だった作品だが、ときは移り、いまや日本の経済的脅威なんて誰も感じなくなり、本作品も「博物館入り」。ばかにされるうちが花やなあ、と感じる。作品自体も、まあ凡庸。ニカウ氏が出演していた『ブッシュマン』同様、「非文明人」をわらってうさばらしをしようというアメリカ人が思いつきそうなもの。 5点(2004-01-22 22:41:49) |
49. ミラクル・ワールド/ブッシュマン
ただひたすら主役を演じた(?)ニカウさんの魅力を感じればよい映画。いまにして思えば、ブッシュマンと呼ばれる人たちを自称文明人がおもちゃにしているような印象はいなめない。そこには自然な暮らしに対する憧憬もなかったようだし。高田馬場の映画館で20年ほど前に観たけど、数人のアメリカ人がうけまくっており、彼らの反応を見るほうが面白かった。なお、当時ニカウさんがソルボンヌ大出身だといったようなガセネタが多く流れたが、眼力のない小生でも、さすがにそれはないと彼を一目見ただけでわかった。ご冥福をお祈りしております。 6点(2004-01-22 22:22:56) |
50. 大人は判ってくれない
子供が主人公の映画は、その舞台となっている町をより身近なものとして描き出してくれる。わたしにとりもっともパリっぽさを感じさせてくれたのが本作品だ。懐かしさすらなぜか感じさせるあのパリの街の真ん中で生活できた主人公たちに羨ましさすら感じる。じつに勝手な想像にすぎないことはわかっているのだが。なぜか町の印象が強く残った作品。それだけでも十分貴重である。 8点(2004-01-22 22:14:05) |
51. ふたりの駅
ごく平凡な中年男女の恋を描いたコメディ。しかし笑いというよりもせつなさが前面に出ている点に、いかにもロシアといったお国柄が現れている。恋愛ものにしろ、家族ものにしろ、ソ連・ロシアの作品は日本人の感性にほどよくあう。間合いというか駆け引きの表現といったところで欧米ものとは一線を画しており、興味深い。最近のロシア映画はどうもぱっとしないので、がんばってほしい。20年ほど前、吉祥寺で観た記憶がある。リャザーノフ監督もプロモーションで当時来日していた。 7点(2004-01-22 21:52:50) |
52. マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ
静かな画面展開のなかで、やはり静かな共感を揺り起こす映画だと思う。子供から大人へと向かう成長過程で自己の確立を図るに際し、核になる思いを短い一節に込めることがよくある。「あんなことは子供じみている」とか「大人はうそつきだ」とか。でも「ぼくはあのライカ犬よりもまだましだ」とは哀しいなあ。でも言いえて妙でもあるなあ。さてぼくが幼いときは何だったっけ?「勉強はクラスで一番」とか?うーむ、なんかそのへんぽくて、なさけない。。。 8点(2004-01-21 20:24:36) |
53. エンジェル・アット・マイ・テーブル
な、な、なぜ誰も投稿していないのだ。信じられない、、、と思わずつぶやいてしまいそうな傑作です。天性の詩才をもつ少女がたどった揺れ動く成長過程を、カメラはときにリアリティに徹しつつ、またときに詩情豊かに描き出します。顧みるに平凡な人間としてわたしは、この主人公のように一見すれば見苦しくて扱いにくそうな、しかしじつは「神」の声を聴く人たち、つまりは「預言者」たちを、いままでずいぶんと無視したり、蔑んできたなあ、と思われてなりません。そういった意味でとても辛くなりました。自分を反省する契機としてもとても貴重な作品なので、思い切って10点満点といきたいと思います。ともかくもう一度観るのが恐いような傑作です。 10点(2004-01-20 22:34:29) |
54. 眼下の敵
子どもの頃、なんどとなくTVで観た作品。ピリピリした心理戦ともいえる駆け引きが、ドンパチ系の戦争映画にはない人間の痛みを感じさせていたと思います。静と動、沈黙と轟音、この反復こそが戦争の緊張感を生み出すのでしょう。うるさいだけの映像は一見リアルにみえても、じつはうそだと思います。もっとも、本作品はこの意味でのリアルさを必ずしも追求したものではないと思いますが、登場している潜水艦のなかにもし自分がいたら、、、という緊張感は十分に感じました。 7点(2004-01-20 22:20:52) |
55. インデペンデンス・デイ
エイリアンがじつはタイムマシーンに乗ってやってきた未来のアメリカ人だったら面白いのに。まあ、こんな哲学的(?)なテーマはいまのアメリカ人には無理じゃとて。 5点(2004-01-20 22:10:26)(良:1票) |
56. 殺したい女
一度観たら脳裏に焼きつくベット・ミドラーの快演ならぬ怪演。ストリーも面白おかしく難点がない。アメリカ人って劇場でも感情をあらわに表現するから、この作品がアメリカで公開されたときは、映画館はさも笑い渦巻く空間と化したことであろう。よいな、よいな。久しぶりに観てみたいと心から思う作品だ。 9点(2004-01-20 21:55:59) |
57. Love Letter(1995)
「時熟」という言葉がありますが、記憶も時間が経つにつれ、不純物が濾過され、発酵し、甘美なものに変わっていくことがあります。ことに若い日の恋の思い出は。まさに少女マンガ系ですけど。 この映画の回想シーンはさほど樹(♂)のことを気にかけていなかった樹(♀)によるものですが、まるで博子が夢見ているような美しさを湛えています。あるいは昔のことを回想する際には、この時熟効果というか美化効果が自動的に発動しているのかもしれません。ともかく、あなたにもそんなノスタルジックな思い出のひとつくらいあるでしょ。REMEDIOSの音楽が映像とじつにぴったりと合っています。酒井美紀がいい。メール時代の今では失われた手紙の時間感覚・距離感が心地よい。冬が来れば観たくなる逸品。(とはいえ、わたしは恋人の過去をあそこまで知りたいとは全然思わないのですけど。) 9点(2004-01-20 21:45:47) |
58. 月はどっちに出ている
在日コリアンの雰囲気がそれなりに出ていて興味深かった。タクシー運転手の切羽詰った生活感が、いまの勤め先の状況がちと危なそうなわたしには、なんとなく恐かった。うう、おれも運ちゃんになるかも。差別するつもりはないけど(だって、とりあえず車が運転できれば誰でもなれるあの業界で、生き抜いている人はさすがですから)、身近な日銭稼業だもんね。以前、大阪の鶴橋という在日の人が多く居住する町のすぐ近くに住んでいたが、よくおっさんが街中で昼日中からド喧嘩していた。たまたまそこに通りがかっかわたしは、ぽこぽこ殴られているおっさんから「ニイチャン、警察呼んでやっ!」て言われたこともあった。「まあ、殺されることはないやろ」と無視したが、当時の気分を思い起させてくれる作品だった。岸谷五朗はええ味だしていたし、なんといってもルビー・モレノががんばって大阪弁しゃべっていたのが嬉しかった。 7点(2004-01-20 21:10:30) |
59. タクシードライバー(1976)
ええっと、、、作品そのものは大好きなのですが、他方、評することは難しいです。うまく統合できないんですよ。愚鈍なわたしのオツムでは。で、むしろ現在のアメリカ人がこの作品をどう捉えているのかが気になりますね。トラビスの狂った行動が彼らの目にどう映るのでしょうか。ベトナム戦争の傷跡って、どこやらの最近ドンパチやった戦争のその後を予想させたりして。「少女」を救い出したことで、感謝のお手紙をもらったりして。最近とみに安全になったというニューヨーク。嗚呼、トラビスは何処へ行かん?! 8点(2004-01-19 20:58:07) |
60. ミッション
西洋人の、西洋人による、西洋人のための作品。結局自分たち自身はもとより、インディオもキリスト教も救いえていない。正義と信仰の対比も図式的で深みがない。ロバート・デ・ニーロは素晴らしい俳優だが、この作品にかぎっては、かれの色が強く出すぎて、観るものに無益な安心感を与えてしまっているような気がする。無名の俳優を起用すれば、興行的にはだめでも、作品の問題提起はもう少し明瞭に描きえたのではないだろうか。もっとも、無理な注文だとは思うが。。。 映像はきれいでよい。 6点(2004-01-19 20:44:35) |