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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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41.  デューン/スーパープレミアム 砂の惑星・特別篇
↓おニ方が指摘されるように、冒頭の紙芝居は相当にカックンでした。リンチも、これを見て特別版には名義を使わせなかったのでしょう。ただし、あれのおかげでストーリーがわかりやすくなったのも事実。劇場版では人間コンピューターや尼さんの存在がよく理解できなかったもので。「アビス」や「ロード・オブ・ザ・リング」に匹敵する完全版の成功例じゃないでしょうか。「砂の惑星」って失敗作だなんだとよく言われますけど、僕は大好きですよ。やたら豪華なセットや悪趣味加減が絶妙です。そして、この一見さんお断り的なリンチ演出のおかげで、映像化するにあたってもっとも重要な「空気作り」に成功してるんです。なにやらスゴイ空気が全編に張り詰めてるんですよね。最近制作されたケーブルテレビ版と比較すれば、その違いがよくわかります。さらにケーブルテレビ版と比較して驚くのは、リンチ版はかなり時間的な制約を受けているにも関わらず、壮大な物語の要点は外していないという点です。リンチ版を見てしまうと、ケーブルテレビ版はものすごく長さを感じます。「リンチ版はやっぱり傑作だったんだ」って思いましたね。
8点(2004-06-27 03:29:55)
42.  黒い家(1999) 《ネタバレ》 
原作未読。 まず、内野聖陽の話し方が保険会社に勤める友人とソックリで、その時点でハマってしまいました。調べてみると原作者の貴志祐介自身も生命保険会社への勤務経験があるようで、そのためか保険会社の人たちの言動がとても真に迫っていましたが、この手の作品は異常者の極端な行動と、その異常者に巻き込まれる普通の人々のリアクションがセットになってこそ説得力が生まれるものであり、リアクション側がしっかりとしている時点で本作は半分成功したようなものだと言えます。 もうひとつの要素である異常者側のキャラクターの作りこみや、その見せ方も良かったと思います。西村雅彦は登場時点から挙動がおかしいのですが、笑わせようとしているんだか怖がらせようとしているんだか観客が掴みかねる微妙な演技と演出で数分引っ張った後、子供の首吊り死体をドーンと見せるという場の空気の作り方や間の取り方は完璧だったと思います。本作はただ惨たらしい死体を見せるだけではなく、これをやった人間は異常者であるということまでを観客に示さねばならないのですが、その点で本作には突き抜けたものがありました。 また、大竹しのぶのキャラクターも立っていました。前半は西村雅彦が表に出ていてこの人物は何者なのかがよく分からないのですが、喜怒哀楽が一切こもっていない話し方で彼女も普通の人間ではないことは伝わってきて、観客にぼんやりとした不快感を与え続けます。この人物は関わってはならない類の人間なのですが、立場上関わらざるを得なくなった主人公がこの異常者からおかしな逆恨みを受けるのではないかというゆるやかな不安感が作品への関心を維持し続けているのです。 ただし、終盤はやややり過ぎだったと思います。この手のサイコパスは精神面での異常性にとどまっていれば良く、一連の不審死への関与が警察の知るところとなった時点で映画を終えれば良かったと思うのですが、小柄な大竹しのぶがモンスター化し、やや大柄で、水泳で体を動かす習慣もある内野聖陽を直接的な肉弾戦で圧倒するという展開は突飛過ぎたし、本作に求められる恐怖とはズレているように感じました。
[インターネット(邦画)] 7点(2018-07-09 18:48:25)
43.  ダブル・ジョパディー 《ネタバレ》 
『ザ・ロック』の脚本家コンビによる作品なのですが、かなりエモーショナルな背景を持つ作品なのにおそらくは意図的に情緒的な部分が省略され、娯楽に特化した独特な作風となっています。多くを期待しすぎず、また頭を使い過ぎずに見れば、短めの上映時間はきっちりと楽しめる手堅い作品となっています。 旦那殺しの罪で投獄されたが、実は旦那と親友に裏切られ、高額な保険金付きの子供までを奪われていたことに気付く主人公。普通ならここでわが子をどうやって危険な父親と義母から引き離すのかを社会制度に沿って考えるところですが、主人公が次の瞬間にとった行動とは、復讐を誓って体を鍛え始めるということ。服役中の時間をハナから捨ててるんですね。この時点でバカ丸出しで、そこから先はこの低偏差値のまま映画は進んでいきます。 代表作『逃亡者』を見て出演依頼をされたんだろうなということが瞬時で分かるトミー・リーや、有色人種の脇役は主人公の助けになるというこの手の娯楽作の定番の流れなど、観客の予想をまるで裏切らずに物語は進んでいき、主人公はサクサクと旦那へと近づいていくのですが、圧倒的なテンポの良さとイベントの仕込み方の良さ、またアシュレイ・ジャッドの見栄えの良さで(なぜ彼女は本作以降伸び悩んだんでしょうか)、なかなか飽きずに見せてくれました。旦那をぶっ殺すというラストも非常に分かりやすく、「あ、終わったんだな」という点が誰の目にも明らかな親切設計となっています。 ところで、何度も人生をリセットし新天地でゼロからスタートしながらも、行く先々で地元の名士みたいになっているあの亭主って実はとんでもなく有能で、元嫁に殺されるような生き方をしなければ良かったのにと思いました。
[インターネット(字幕)] 7点(2018-02-20 19:06:50)
44.  GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 《ネタバレ》 
Windows95が発売されてようやく一般にもインターネット普及の土壌ができたばかりだった1995年の段階で、すでに電脳や情報の海をテーマにしたという先見性。また、舞台となる未来都市の作り込みの凄さや、リアリティと荒唐無稽の間で絶妙なバランスを維持するアクションなど、すべてがハイレベルで時代に囚われない普遍性を持つ作品だと言えます。スカヨハ版の鑑賞にあたって十数年ぶりに鑑賞したのですが、インターネットが当然のインフラとして定着した現在の目で見る方がよりしっくりと来て、以前に見た時よりも印象はさらに良くなっていました。とにかく凄い映画だと思います。 本作のタイトルには「抜け殻(シェル)に魂(ゴースト)は宿るのか」というテーマが集約されています。脳や脊髄を除く全身が義体化された主人公・素子は、「自分は作られた記憶を信じ込まされているニセモノではないのか」「ほぼ全身が義体である自分を人間と言えるのか」との不安を抱き続けています。しかしクライマックスで100%電脳である人形使いと接触し、その魂が生身の人間のそれと何ら変わらないものであると知ることで有機か無機かという器へのこだわりが無意味だったことを悟り、新たな電脳生命体へ進化する道を選択します。これぞサイバーパンクです。 他方で、テーマがよりはっきりと見えるようになった分、構成のまずさも見えるようになりました。実存主義を説く素子の物語が横軸だとすれば、人形使いを追う中で巨大な陰謀に巻き込まれていく9課の物語は縦軸だと言えますが、9課の物語が無駄にややこしくて観客に要らん脳を使わせているし、本来は盛り上がるべき部分に勢いがなかったりと、娯楽作としてはやや失敗しているのです。ひたすらしかめっ面をするのではなく、バカバカしくも面白い部分があれば、より素晴らしくなったと思うのですが。 この点、評判の良くないスカヨハ版は娯楽部分のまとまりが良く、本作の欠点がうまく補完された作品だと評価できます。本作を見ればスカヨハ版の良さが分かるし、スカヨハ版を見れば本作がいかに深いことを語っていたかが分かる。ニコイチで見ることで双方の味わいがより深くなるという、なかなか面白いコンビだと思います。
[DVD(邦画)] 7点(2018-01-27 02:28:55)(良:1票)
45.  ゴールデンボーイ(1998) 《ネタバレ》 
ブライアン・シンガーが『ユージュアル・サスペクツ』の次回作として製作した作品であり、主演は当時人気絶頂だったブラッド・レンフロ、おまけにスティーブン・キング原作と話題性には事欠かない企画だったのですが、シャワールームの撮影においてヌードの強要があったとのことでエキストラの少年数人から訴訟を起こされて、完成後1年以上も作品を上映できない期間が発生し、すっかり熱の冷めた状態でロクな宣伝もないまま公開されたために興行的には惨敗。結果、ブライアン・シンガー監督作中においてもっとも注目度の低い作品となっているのですが、これがなかなか見ごたえがありました。 作品では、少年が悪に飲まれていく様がじっくり描かれるのですが、元ナチの老人にも一定程度感情移入の余地を作っており、その結果、悪とは誰にでも根付くものであるという含みを持たせている点が見事でした。並みの監督であれば元ナチは純粋悪として描くしかないところですが、シンガーには自身がユダヤ人であるという強みがあるため、この辺りに創作上の自由を持つという優位性があったのではないでしょうか。なお、シンガーは後に手掛ける『ワルキューレ』においてもナチの様式美等をじっくりと描いており、彼はユダヤ人カードを結構有効に使っています。 圧巻なのがブラッド・レンフロとイアン・マッケランの演技合戦なのですが、撮影当時14歳だったブラッド・レンフロが30年超のキャリアを誇るイアン・マッケランと互角に渡り合い、時に圧倒している点には驚かされました。本作を見るに、ルックスも演技力もあったレンフロならば後に大スターに成長することもできたはずなのに、私生活の乱れから代表作を残すことができず、わずか25歳で命を落としたことは残念で仕方ありません。 作品中で良くなかった点は、入院したドゥサンダーの隣のベッドにはかつての彼の被害者が入院しており、その被害者に正体を見破られるという後半の転換点があまりに強引すぎたこと。どんな凄い偶然だよとツッコミを入れてしまいました。トッドとドゥサンダーがやってきたことの結果としてドゥサンダーの正体が暴かれるという因果にまみれた展開とした方が、内容的にはしっくりくるのですが。
[インターネット(吹替)] 7点(2017-08-19 03:14:51)
46.  U・ボート ディレクターズ・カット版
元はテレビシリーズとして製作された作品のようなのですが、1981年にまず149分の劇場版が製作され、それから遅れて1985年に全6話、合計313分のテレビ版、1997年に208分のディレクターズカット版リリースと、やたらバージョン違いの多い本作。ただし、劇場版とテレビ版についてはDVDの単品発売なし、ブルーレイ化もなされていないため鑑賞困難な状況となっており、現状における商品展開の主流であるディレクターズカット版を鑑賞しました。 ドイツの映像作品としては1927年の『メトロポリス』以来の規模で製作された作品だけあって、一目見ただけで金のかかり方が違うということが分かります。冒頭における出航前のどんちゃん騒ぎをとっても、だだっ広い宴会場にきちんとバックバンドを入れ、小道具ひとつにも手抜きなしで観客を作品の世界へと引き込みます。主人公であるUボートに至っては外観・内装ともに非常によくできており、本物にしか見えないほどの驚異的な再現度を誇っています。クライマックスの空襲は空前絶後の大迫力であり、ロケを行ったフランスでは「ドイツ人は昔も今も狂っている」と言われたほどの大規模な撮影を敢行(この場面だけで2トンもの火薬が使われたとか)。うまく金を使うことは映画監督の才能のひとつだと言われますが、この点でウォルフガング・ペーターゼンは金の使いどころの取捨選択が優れており、後に多くのハリウッド大作を手掛けることとなる巨匠の片鱗を窺わせています。 他方、内容は後のペーターゼンの作風からはかけ離れたソリッドなものとなっています。冒頭に登場する歌手を除いて女性は一切登場せず、むさい男達が画面を席巻。フランスに婚約者を残してきた若い航海士を除いて登場人物の背景が説明されることはなく、それどころかほとんどの人物は名前すら与えられておらず、Uボート内がどのような状況であったのかを描写することのみに映画全体が特化しています。このストイックな作風、作り手の志の高さには感銘を受けました。 ただし、そんな硬派な作風がたたってか前半部分はかなりダレます。意気揚々と出航したもののなかなか敵と出会うことができず、毎日毎日、ひたすら飯を食って寝るだけという日々が繰り返されるのですが、無名の潜水艦乗り達が狭い艦内でダラダラやってる様を長時間に渡って見せられるのは少々キツかったです。連合国にとっては神出鬼没の悪魔であったUボートも、その内情はこんなトホホぶりでしたという演出意図は理解できるのですが、最初の戦果を挙げるのが上映開始後90分を過ぎてからというのは、あまりに間を取りすぎているような気がします。
[DVD(吹替)] 7点(2016-06-21 18:04:39)(良:1票)
47.  ナチュラル・ボーン・キラーズ
本作の脚本を巡ってストーンとタランティーノが激しく対立したことは有名な話ですが、主な改変部分とは、ミッキーとマロリーの生い立ちをストーンが書き加えたという点だそうです。そもそもミッキーとマロリーとは、『トゥルー・ロマンス』の脚本執筆中に、その主人公・クラレンスに影響を与えた人物としてタランティーノが創作したキャラクターでした。クラレンスは、クールな殺人鬼カップルを以前にテレビで見ており、その模倣をする形で自分もアウトローの道に突っ込んだという話にするつもりだったとか。その後、ミッキーとマロリーのエピソードが大きくなったので『トゥルー・ロマンス』からは完全に切り離され、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』として一本の脚本にまとめられました。以上の成立過程に起因してか、本派生企画において、タランティーノはミッキーとマロリーの実像ではなく、メディアを通しての虚像を描くということを作品の骨子としており、基本的にはメディアによって取り上げられる姿のみでミッキーとマロリーの物語を構成しようとしていました。しかし、ストーンは彼らの生い立ちまでを描くことで、根本的な作品のあり方を変更したのです。タランティーノは怒って当然ですね。。。 以上の改変は是か非かというと、私は非だったと思います。タランティーノの脚本は、殺人者がメディアによってロックスターのように持ち上げられる様の異常性を訴えたものでしたが、ストーンの改変によって暴力の連鎖という主張が追加されたため、全体として何を言いたいのかが分からない映画になってしまったからです。カマキリが獲物を食べる様から原爆投下まで、実に多くのイメージが作品全体に散りばめられており、本作においてストーンは暴力に関する普遍的な考察をしようとしています。しかし、タランティーノが作り上げた脚本には異常者しか登場しないため、そのドラマから普遍性を見てとることはできません。このことが、作品全体を意味不明なものにしています。。。 ただし、既存のどの映画にも似ていない本作の斬新な手法の数々には、大いに評価の価値があります。当時、世界最高の映画監督だったストーンの発想力はタダゴトではなく、本作を忌み嫌っているタランティーノ自身が『キル・ビル』において本作の手法を取り入れたという事実が、その影響力の強さを物語っています。
[DVD(吹替)] 7点(2014-01-06 01:47:55)
48.  アポロ13
『ゼロ・グラビティ』にすっかり心酔してしまったこの冬、「そういえば、似たような映画が他にもあったなぁ」ということで、何年かぶりに本作を鑑賞。とはいえ『ゼロ・グラビティ』とはまったくの別ベクトルで製作された映画なので、共通点はあまりないんですけどね。。。 『アルマゲドン』や『スペース・カウボーイ』など宇宙へ死にに行く人間の映画は数あれど、宇宙からの帰還を描いた映画は案外少ないもので、そういった点で本作は参考にすべき過去作品も少なく、さらにはノンフィクションものなので自由な脚色も許されず、お話をまとめることには相当な困難があったと思います。本作の脚色を担当したのは、後に『キャスト・アウェイ』や『父親たちの星条旗』を手がけるウィリアム・ブロイルズ・Jr、彼は驚くべき手腕で本作を2時間のエンターテイメントに落とし込んでいます。何が問題なのか?、それはどれほど深刻なのか?、その解決策は何なのか?、という3点をきっちりと説明して観客に必要十分な量の情報を与えているのです。この手のノンフィクション映画においては、予備知識がなければ理解できないという作品も多く存在していますが、本作については一切の予備知識は不要。それどころか、語り口が極めて洗練されていて情報が自然と頭へ飛び込んでくるため、観客の側が内容の理解に努める必要すらありません。ここまでよくできた脚本は滅多にないと思います。。。 また、ロン・ハワードによる演出も絶好調。本作はサマーシーズン公開の大作だったにも関わらず、ド派手な見せ場と言えば序盤のサターンロケット発射シーンくらいであり、映画の大半は中年のおっさん達が悩んだり、議論したりする場面で構成されています。視覚的な見せ場はほとんどなく、演技や演出のみで観客を引っ張らねばならないという相当に困難な作品でありながら、ハワードはこれを堂々たるエンターテイメントとして仕上げているのです。ハゲやメガネのおっさん達が議論する様がこれほどかっこいい映画が他にあるでしょうか?職業映画を得意とするロン・ハワードの手腕が光りまくっています。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2013-12-24 01:09:25)
49.  アメリカン・ビューティー 《ネタバレ》 
本作は家庭の崩壊を描いた作品だと言われますが、実際のところ、家庭という要素はあまり重く扱われていないように思います。主人公であるお父さんは中盤で吹っ切れてしまい、以降は家庭に背を向けてしまうからです。嫁や娘とどう向き合うかという視点は一切なく、彼女達の存在は彼の頭からは完全に消えてしまいます。むしろ私が注目したのは、本作が1999年に製作されたという点です。1999年といえば、『マトリックス』と『ファイト・クラブ』という映画史に残る傑作が2本も生まれた年。そして両作ともに、くだらない日常を生きる男が、生の実感を求めて戦いの世界に足を踏み入れるというお話でした。本作もまた、上記2作と共通のテーマを扱っているように思います。家庭と仕事に揉まれて人生を見失っていた男が、そうした一切のしがらみを捨てて自分の歩みたい道を目指す。上記2作の主人公が追い求めたのは「全人類の救世主になる」「国中の男を束ねた組織のリーダーになる」という幼稚な夢でしたが、一方、本作の主人公が追い求めるのは「女子高生とセックスする」という実に下世話だが、実に正直な夢。目指すもののレベルはぐっと下がりましたが、レスター・バーナムはネオやタイラー・ダーデンと同根の男なのです。。。 本作の脚本は非常によくまとまっています。「この後、私は死ぬ」というつかみで一気に観客の関心を引き、その後は意外性のある展開が繰り広げられてまったく先読みさせません。コンラッド・L・ホールによる撮影、サム・メンデスによる演出も非常に手堅く、こういうものをよく出来た映画と言うのだという見本のような仕上がりとなっています。ただし、問題に感じた点が一点だけあります。クライマックスにて主人公はついに憧れの女子高生とセックスする機会を得たものの、結局彼はセックスを辞退してしまうということ。そこに大人の良識を介入させたら、青年に戻った中年男の悲劇というドラマの意義が半減してしまうでしょうよ。アメリカ社会の破壊を実行したタイラー・ダーデンを見習って欲しいところでした。
[DVD(吹替)] 7点(2013-06-21 01:25:38)(良:2票)
50.  ファイト・クラブ 《ネタバレ》 
デヴィッド・フィンチャーの前作『ゲーム』と同じく、物質的には満たされている独身男性がカルトにハマっていく物語です。『ゲーム』はかなり荒削りな内容でしたが、一方本作はより洗練されていて、映画としては俄然面白くなっています。空虚な毎日に嫌気がさしてはいるが、かと言って反発すべき敵も目指すべき目標も見当たらず、生きている実感を得られない主人公の姿などは、多くの方が共感できるのではないでしょうか。また、社会に飼いならされていた主人公が徐々に常識を逸脱していく前半部分には、爽快感すら宿っていました。フィンチャーによる演出も絶好調で、哲学的な説教を合間に挟みながらも、見事なテンポで話が進んでいきます。これほど深く、かつ見やすい映画も珍しいのではないでしょうか。。。 俳優陣も完璧です。役作りが過ぎてイヤミになりがちなエドワード・ノートンの演技も、本作では適度に抑制が利いていて極めてナチュラルです。一方、ブラッド・ピットは堂々たる存在感。大スター・ブラッド・ピットにしか演じられない役柄を演じきっており、彼のスターオーラが遺憾なく作品に活用されています。かつてのピットは鼻持ちならないアイドル俳優と見られており、同性からの支持はほとんどなかったのですが、本作をきっかけに男性ファンをも取り込み、同世代の俳優の中では突出していたトム・クルーズに比肩する人気を得るに至りました。それほど、本作のタイラー・ダーデンはかっこいいのです。フィンチャーもブラッド・ピットの扱いには慣れたもので、難しいところはノートンにやらせながらも、美味しいところではちゃんとピットを目立つようにしています。この采配は見事なものです。。。 残念なのは、後半があまりに飛躍しすぎるということ。社会からはみ出すだけでは満足できず、社会そのものを破壊しようとするに至っては、共感の度合いがぐっと下がってしまいました。後半では演出のテンポも悪くなるし、タイラー・ダーデンの正体が判明した時点で映画が終わってもよかったのではないかと思います。。。 なお、現在では傑作と評価される本作も、公開時には興行的に失敗し、批評的にも苦戦しました。その時にぶつけられた悪評についてはプレミアム版DVDに付属しているブックレットに評論家の名前付きで載っているので、映画の価値を見抜けなかった評論家達の恥ずかしい言動も併せて楽しむことができます。
[DVD(吹替)] 7点(2013-06-03 22:18:26)(良:2票)
51.  ユージュアル・サスペクツ 《ネタバレ》 
クライムサスペンスとしての硬派な空気作りと同時に、娯楽作としての軽快なテンポも終始維持できており、難解ながらも愛嬌のある映画となっています。ラストでは『リーサル・ウェポン』のような大掛かりな見せ場まで準備されており、非常にバランスの良い映画だと感じました。公開当時にリピーターが続出したのも、本質的に面白い映画だったからこそ。後に巨匠となるブライアン・シンガーの演出は、29歳だった本作の製作時点ですでに完成されていたようです。。。 ただし両手を挙げて評価できないのは、あまりに不可解なオチに納得できなかったためです。「ソゼ=キートン」説を警察と世間に信じ込ませ、みんなが亡霊を追うよう仕向けることがキントの目的だったことは理解できます。しかし、そのために警察の前に姿を現し、挙句に似顔絵まで描かれ、最終的にはニアミスで逃げ切るという幕切れを迎えたのでは、まったく逆効果だったのでは?「今まで披露してきたお話はすべてウソでした」という豪快な語り口は嫌いではないものの、最後の最後で設定に大穴が出来てしまった点は非常に惜しいと感じました。
[DVD(吹替)] 7点(2013-04-18 01:16:44)
52.  セブン
傑作として名高い本作ですが、現在になってあらためて見返してみると、「よく出来た娯楽作止まりの映画」という印象です。公開当時の熱狂を知らない若い世代が本作を観た時に、果たしてこれを傑作と感じるのかどうかは疑問です。。。 本作の脚本を書いたアンドリュー・ケビン・ウォーカーはペンシルベニアのド田舎出身。脚本家を目指してNYに出てくるも、舞い込んでくる仕事は低予算ホラーの手伝いばかりで生活は困窮を極めていました。そんな中、スラッシャー映画の題材として目を付けたのがキリスト教の七つの大罪であり、このネタを足がかりとして、社会に対する個人的な恨みつらみをぶつけていくうちに『セブン』の原型が完成したのだとか。当初はホラーを志向していた作品だけあって、殺人の方法はバラエティに富んでいます。さらには、恵まれないインテリ特有の余計な薀蓄にも溢れており、作品にはなかなかのオリジナリティが宿っています。そして何より素晴らしかったのが、ウォーカーが社会に対して抱く怒りが、作品にドラマ性をもたらしているという点です。普段はホラー映画に出ることのないモーガン・フリーマンやブラッド・ピットが本作への出演を望んだのも、この部分が魅力的だったためでしょう(両者とも、キャリアの初期には貧しい下積み時代を経験しています)。。。 本作の演出を担当したデヴィッド・フィンチャーはサンフランシスコの高級住宅街出身。父親のコネを駆使して17歳で映画界入りし、25歳で自分の製作会社を設立、27歳で『エイリアン3』の監督に抜擢されるという、機会にも才能にも恵まれたキャリアを歩んできました。そんな彼は、持てる技術を総動員してこの企画を磨きあげ、当初はB級ホラーだった本作を、芸術レベルのビジュアルで彩っています。すべての場面が美しく仕上がっており、さらには娯楽映画としての呼吸も整えられ、文句なしに面白い映画となっているのです。ただし、ドラマ部分の訴求力が弱い点が気になりました。サマセットの抱く絶望感やジョン・ドウの抱く怒りがどうにも空虚であり、脚本に込められた思いがうまく映画に反映されていないのです。常に社会の表舞台を歩んできたフィンチャーは、ウォーカーとは正反対の人物。ウォーカーが社会に対して抱く怒りを感覚的に理解できていなかったのではないでしょうか。この点の弱さが、本作のリミッターとなっています。
[DVD(吹替)] 7点(2013-04-17 01:52:59)
53.  王妃マルゴ
フランス映画史上最大規模で製作された歴史大作ですが、大規模な合戦や巨大セットによる分かりやすいスペクタクルではなく、歴史の完全再現に予算のほとんどを費やしている辺りがなんとも大陸風。一つ一つの場面が異常なこだわりをもって作られているので、画面を眺めるだけで楽しめる作品となっています。フランス映画界が誇る俳優陣をズラっと並べた豪華キャストも壮観であり、彼らの演技合戦も大きな見所となっています。。。 一方内容の方ですが、外国人である我々にとってはかなり不親切な作りとなっています。まず、登場人物の紹介場面がありません。フランス人なら誰もが知っている人たちなので、今さら説明するまでもないのでしょう。また、話が飛び飛びとなっていてドラマがうまく繋がっていません。観客が物語を脳内補完できることが前提となっているためでしょう。私は30分ほどWikipediaを熟読して本作に挑みましたが、ここまでの準備を要求される映画をどう評価していいものかは悩みます。フランス人目線であれば8点、日本人目線であれば6点という印象なので、その間をとって7点とさせていただきます。
[DVD(字幕)] 7点(2012-12-04 01:37:34)
54.  コン・エアー
90年代を代表するバカアクション超大作。長年のパートナーだったドン・シンプソンと死別後、ジェリー・ブラッカイマーが単独で仕切ることとなった初の大作であり、本作はブラッカイマーにとってキャリアの分岐点となった作品でもあります。『クリムゾン・タイド』や『ザ・ロック』の頃にはまだ企画力で勝負しようという姿勢のあったブラッカイマーですが、本作以降は完全にB級バカ街道を突っ走ることとなるのです。。。 とはいえ、B級路線であってもマジメに仕事をすることがブラッカイマーのエライところで、基本設定のバカさ加減を除けば、意外なほど丁寧に作られている映画でもあります。この手の映画にありがちなご都合主義(なぜか現場に居合わせる主人公、戦いが終わったところで都合よく駆けつける警官隊etc…)がほとんどなく、すべてのイベントについては事前に理由付けがなされています。登場人物は多いものの埋没したキャラはおらず、全員にきちんとした個性が与えられている点でも感心しました。VFXの完成度は非常に高く、現在の目で見てもアラがほとんど見当たりません。同時期に製作された『エグゼクティブ・デシジョン』や『エアフォース・ワン』にミニチュアやCG丸出しの場面が散見されたことを考えると、このクォリティは驚異的だと思います。キャスティングはかなりの邪道で、ジョン・キューザックを除けばブサイクなおっさんばかり。当時のニコラス・ケイジは大作に主演するクラスの俳優ではなかったし、コンエアーに乗り込む唯一の女性はヒスパニック系の微妙なおばさん。普通の映画であれば、このふたつの役柄くらいは美男美女で固めてくるところなのですが、そういった王道は完全に外してきているのです。そして、こんなにもヘンテコなキャスティングで映画を成功させたわけですから、ヒットメーカーとしてのブラッカイマーの勘の良さは相当なものだと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2012-11-10 15:36:54)(良:2票)
55.  リービング・ラスベガス 《ネタバレ》 
初見は高校時代ですが、当時はこの映画の良さがまったく理解できませんでした。ひたすら淡々とした内容だし、主人公が当初の予定通りに死を選ぶ展開にも納得がいかず(大事な人が出来たのなら、うだうだ言わずに人生やり直せよ!)、本作はそのまま忘却の彼方へ。しかし、最近になって何気なく再見してみると、幸か不幸かこの映画に深く感動できるようになっていました。いまだに中学生感覚を引きずっている私ですが、一応は人生を重ねてきているようです。。。 物事で大きく躓いて、努力すればまだ巻き返せるのかもしれないけど、肝心のガッツが残っていない。できることなら何もせずにこのまま消え去ってしまいたいという心境、社会人をやっていれば一度や二度は味わうものです。この映画がリアルだと感じたのは、絶望の底にいる主人公が、人や社会をまったく恨んでいないということです。会社からクビを言い渡された時の上司との会話が特に印象的で、主人公は怒鳴ったり取り乱したりせず、礼儀正しくお礼を言って職場を出ていくのですが、真っ白になった人間というのは往々にしてこういうものです。何かを恨み、怒るだけの余力がある人間は、まだ何とかなるのです。。。 その後のラスベガスでの展開は、ある意味では男の夢です。大人としての責任をすべて放棄して、体が壊れるまで好きなことをやり続ける。でも一人じゃ寂しいので、最後の時を一緒に過ごしてくれる恋人は欲しい。そんなわがままが実現されるのですから、私は爽快感すら感じました。一方、その相手となる女性にとっては地獄絵図です。愛する人が死にゆく様を見ているしかないのですから。その点、この女性も主人公同様に絶望の中にいて、死ななければやっていられないという心境を理解できている、だからこそ彼の自殺を受け入れてやれるという設定は非常に合理的だと感じました。まさに昭和枯れすすきの世界なのですが、そんな世界をセンスある楽曲でデコレーションした監督の手腕も見事でした。
[DVD(吹替)] 7点(2012-11-07 00:14:29)(良:2票)
56.  ニクソン
『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』に『フロスト×ニクソン』、果ては『ウォッチメン』に至るまで、アメリカ人にとってニクソンとは気になって気になって仕方のない特別な政治家であるようですが、そんな数あるニクソンものの中でも本作は決定版とも言える堂々たる仕上がりとなっています。3時間超えという上映時間にも関わらず一瞬たりともダレることはなく、ムダな場面、ムダなセリフは一切なし。大変に見応えのある作品でした。。。 本作で意外に感じたのは、ハリウッドきってのリベラリストであるストーンが、ニクソンに対して非常に同情的な目を向けているという点です。金なしコネなし学歴なし(ハーバード大には合格していたものの、実家が貧しく東部で下宿する費用を捻出できなかったため、仕方なく地元の大学に進学した)の状態から人並み外れた努力によって大統領にまで登り詰めたものの、マスコミから嫌われたために国全体から悪意を向けられ続け、最終的には唾を吐かれながら大統領の座を失った悲しい男の物語として本作は製作されています。政治面では並みの大統領数人分に匹敵する実績を残したにも関わらず、その功績はほとんど評価されず、外交面での目覚ましい成果に至っては部下だったキッシンジャーの手柄にされてしまったという彼のあんまりな人生が、かなりフェアな目線で描かれているのです。ベトナムから撤退した際に「国民やマスコミが望んだ通りにしたのに、なぜ俺が叩かれるんだ」と嘆いた場面などは、特に気の毒に感じました。本作を観れば、ニクソンに対する評価が大きく変わるはずです。。。 一方で問題に感じたのは、客層があまりに限定されすぎているという点です。60年代から70年代のアメリカ社会や世界情勢についての知識を持っていることは当然、ウォーターゲート事件に至っては、リアルタイムで事件を見ていた世代でなければわからない程の不親切な描写となっており、80年代以降に生まれた私のような世代にとっては、かなり厳しい内容となっています。誰でも理解できるように作られていた『JFK』と比較すると、ちょいと不親切過ぎではないでしょうか。
[DVD(吹替)] 7点(2012-10-17 01:57:16)
57.  フォレスト・ガンプ/一期一会 《ネタバレ》 
本作は、インフレ率を考慮すると後の『スパイダーマン』や『ダークナイト』をも超える興行収入を叩き出しているのですが、アニメでもスペクタクルでもないヒューマンドラマがここまでの数字を出した例は後にも先にもこれ一本のみ。今回、十数年ぶりに鑑賞してみたのですが、確かにこれはアメリカ人から熱狂的に支持されて当然の映画だと感じました。。。 本作の舞台となる60年代から70年代にかけて、アメリカはまっぷたつに分裂していました。大統領を含む政治的リーダーはしょっちゅう命を狙われ、公安組織は市民のデモ隊に対して容赦なく暴力を振るうという世相であり、それはもはや内戦状態とも言える有様でした。そんな時代を反映するかの如く、このドラマには二人の人物が登場します。国家に対して従順なフォレスト・ガンプと、反権力に生きるジェニー・カランです。通常の映画であれば反権力に身を置く者が主人公とされるところなのですが、本作では権力に寄り添うフォレスト・ガンプが主人公となっています。そして、ガンプが堅実に生きた結果としてアメリカン・ドリームを手にする様は、あの時代のアメリカ社会の肯定を意味します。これまで真っ暗闇として描かれてきた60年代から70年代のアメリカは、本作によってようやく復権したというわけです。一方、反権力のジェニーはと言えば、ガンプやババが戦場で命を張っている間、仕事も勉強もせずに仲間と遊び呆けて暮らしています。彼女は権利ばかりを主張して義務を果たすつもりはないという身勝手な生き方をするのですが、それは反権力とかプロ市民に対して一般人が持つ反感を見事に具現化したものです。自堕落な人生のツケを払わされるかの如く、彼女がエイズで命を落とす様は、もはや勧善懲悪の世界でした。。。 以上の通り、本作は強烈な政治性を帯びているのですが、コメディを得意とするロバート・ゼメキスの演出によって程よくマイルドに落ち着いており、アメリカ人以外でも楽しめる仕上がりとなっています。あき竹城みたいな東洋人を連れて久しぶりに姿を現したダン中尉が、爽やかな笑顔で「俺にもフィアンセが出来たんだ」と言う場面なんて、涙が出る程笑ってしまいました。また、ノンフィクションものを得意とするエリック・ロスによる脚色も見事であり、歴史的事実とファンタジーとの間で絶妙なバランスをとっています。
[DVD(吹替)] 7点(2012-10-17 01:55:08)(良:3票)
58.  ツイスター
公開時には中坊なりに「えらく中身のない映画だなぁ」と感じたのですが、今回16年ぶりに再見して印象は変わりました。どうやらこの映画、「雑に作られたハリボテ大作」ではなく、「面白くなりようのない題材を高い構成力でまとめあげた苦心作」であるようです。スピルバーグが子飼の優秀なスタッフを大勢提供しながらも自ら監督しなかった点や、ユニバーサルがワーナーに共同出資を持ちかけてリスク分散を図っている点から見ても、本作が着地点の見えないリスキーな企画だったことが窺えます。。。 考えてみれば、竜巻とは長編映画にとってえらく不向きな題材です。地震、土石流、火砕流、溶岩流、火山灰と災害のフルコースだった『ダンテズ・ピーク』と比較すると、何の前触れもなく現れ、短時間で壊滅的な被害を与えるという竜巻を扱った本作では、映画全体の構成が非常に困難であったことが容易に想像できます。そこで苦し紛れに登場させたのがストームチェイサーという科学者グループだったわけですが、自ら竜巻に突っ込んでいく人々を主人公にしたのでは、生きるか死ぬかという緊張感やドラマは当然薄くなってしまいます。そのためディザスター映画にありがちな湿っぽいドラマはスッパリと落してしまい、夫婦の再生の物語を映画の横糸としたわけです。これはジェームズ・キャメロンの『アビス』と同じ構成なのですが、男女の役柄を入れ替えることで話の印象をガラリと変え、安易な二番煎じにしていない点には感心しました。出演者は知名度よりも実力重視。翌年にオスカー女優となるヘレン・ハントを筆頭に、無名時代のフィリップ・シーモア・ホフマンやジェレミー・デイヴィスを配置するという先見の明には恐れ入りました。。。 ヤン・デ・ボンは企画が本質的に抱える弱点をよく理解しており、ドラマは深掘りせずに徹底して勢いで乗り切るという作戦に出ています。マーク・マンシナの軽快な音楽に乗せてテンポよく見せ場を繰り出し、なんとか2時間をもたせているのです。見せ場に平凡なものはなく、どの場面もアイデアに溢れて目を飽きさせません。人と竜巻との追っかけがしつこく続くラストの力技はさすが『スピード』の監督と言える仕事であり、スピルバーグでもこのレベルは不可能だったのではと思います。
[ブルーレイ(字幕)] 7点(2012-08-14 20:30:10)(良:1票)
59.  シビル・アクション
普通の法廷ものを期待すると裏切られる作品です。本作における取捨選択の基準は独特で、哀れな公害被害者や法廷闘争の扱いはあくまで控えめ、物質主義者だった主人公が人情で動く弁護士に生まれ変わるまでの過程が映画の中心となります。最大のクライマックスであるはずの評決がラストでテロップ処理された時にはさすがに驚きましたが、これは脚本・監督を務めたスティーブン・ザイリアンの潔さの表れでもあります。すべてを描けば3時間超えの散漫な映画になるかもしれなかった物語を断腸の思いで整理し、描く対象を絞り込むことで上映時間を2時間に収めてみせたのですから。。。 まずはっきりさせるべきは、これは法廷闘争をメインにすべき物語ではなかったという点です。というのも部が良いのは圧倒的に原告側であり(そもそも主人公が案件を引き受けたのは勝つのがわかりきった訴訟だったからだし、実際、被告企業はかなり早い段階で和解を申し込んできている)、これでは勝つか負けるかのスリルが生じえないからです。この物語がドラマチックなのは、金で幕引きをしようとする被告企業からの申し出を拝金主義者だった主人公が断り、借金を重ねてでも巨悪を暴こうとした点にあります。この映画はその点を思いっきりクローズアップしますが、この判断は正解でした。主人公は財産も友人も失い、被害者たちからは「こんな安い賠償金で納得できるか」と罵られてたった一人になるのですが、それでもなお戦い続けて公害企業を廃業にまで追い込みます。この執念をきっちりと描くことに成功しているからです。また、爽快な部分はあえて削ぎ落とし信念に固執することの苦しみを中心に据えることで、「エリン・ブロコビッチ」や「レインメーカー」のような爽快感重視の作品とは一味も二味も違う独自の立ち位置を確立できています。
[DVD(吹替)] 7点(2012-07-04 01:50:08)
60.  カリートの道
カリート・ブリガンテが麻薬帝国を築き上げるまでを描いた「カリートの道」と、服役後のカリートを描いた「それから」が本作の原作としてクレジットされていますが、映画で描かれるのは主に「それから」。”若き日のカリートを知りたければ「スカーフェイス」をご覧ください”という作りとなっています。やたら絡んでくる新興ギャングを邪険に扱うカリートに向かって、昔の友人が「なぜ奴を嫌う?昔のお前だからか?」と問う場面なんて、嬉しくて笑っちゃいましたよ。。。 安穏を求めるヤクザ者が、その意思とは裏腹に暴力の世界に引きずり込まれていくという物語はヤクザ映画でよく見るパターンであり、おまけに本作は特に捻りも加えていないためお話はあくまで紋切型です。紋切型ではあるのですが、デ・パルマの演出力とパチーノの演技力、そして背後に大傑作「スカーフェイス」を控えさせているという抜群の安定感により、この手の映画としては最高の仕上がりとなっています。ヤクザ映画に興味のない人であっても、本作は十分に楽しめるのではないでしょうか。。。 と、クォリティの高さは十分に評価するのですが、傑作にはなりきれていないという印象です。その理由は脚本にあって、個性的な演出や演技と比較すると脚本は月並みに感じられます。本作の脚本を担当したのはデビッド・コープという人物なのですが、この人は恐ろしくクセのない脚本家で、その仕事は常に可もなく不可もなく。個性や主張は極力抑え、オーダーされたものをオーダーされた通りに作るというもはや”業者”ともいえる脚本家であるため、脚本に力がないのです。例えば「スカーフェイス」にはオリバー・ストーン特有の訳のわからん勢いがパンパンに詰められていて、その爆発力が映画をグイグイと引っ張っていたのですが、本作にはそれがありません。このことが、本作を”よくできた佳作”の域に留めているように感じました。
[DVD(吹替)] 7点(2012-05-05 01:49:06)(笑:1票)
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