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 > ザ・チャンバラ さん
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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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41.  サイン 《ネタバレ》 
友人と映画館に行ったんですけど、大満足の私に対して、友人は「つまらん」と大激怒。ここのレビューを読んでも否定的な意見が目立つんですけど、一方、否定意見は「つまらん」という直感的な見解ばかりで作品の欠点を明確に指摘するわけでもありません。結局、作品の本質的な完成度がどうのとか、理屈がどうのではなく、どう感じるかが問題の映画みたいですね。監督の呼吸に見る側のバイオリズムが合うかどうかが問題みたいな。そういった意味では、私を含めこの映画を楽しめた人というのは、相当に得をしてるわけですよ。笑えたし、驚いたし、本当に最高の経験ができましたから。私はもう画面にクギ付けでした。シャマラン映画の特徴ってのは、どんなに異常な事態にも日常の視点を放さないことです。家族のリアクションには人間的な温かさや面白さがあり、それが見る側の想像力のかせともなってるんです。リアクションがあまりに日常的すぎるからこそ、見る側が飛躍的な先読みをしないんですね。そしてそれがサプライズにつながっていると。アンブレイカブルでは「主人公は大事故でも無傷でした、なぜでしょう?~それは超人だから」、サインでは「ミステリーサークルができました、なぜでしょう?~宇宙人がやってくるから」。そのまんまなんです。しかし、演出が観客の想像力を完全にコントロールしているおかげで、そこには謎が生き続けるわけです。こんな芸当ができるのはヒッチコック以来ではないでしょうか。幸い、私はシャマランとの相性がいいので、これからもシャマラン作品では楽しめそうです。シャマランは、家族の描き方や、子役の扱いが抜群にうまいのもいいですね。ちなみにこの映画は10点でもよかったんですけど、やはり宇宙人がアレなので1点だけ引きます。扉1枚破れなかったり、バット1本でボコボコにされたり、果ては水が苦手なのに地球へやってきて、結局一晩で退散するなど、映画史上最大のうっかりさんでした。まぁ、この映画でプレデターみたいなのが出てこられても困るし、あれはあれでよかったような気もしないでもないですけど。
9点(2004-08-02 23:44:35)
42.  硫黄島からの手紙
上品なんだけどどこか残念だった『父親たちの星条旗』からは一転して、姉妹編のこちらは目が覚めるような傑作として仕上がっています。憲兵の振る舞いなど多少の事実誤認はあるものの、そうした欠点以上に見どころの多い作品ではないでしょうか。 日本人が戦争映画を撮ると「戦争とは忌むべきものです」という紋切型の主張がまずあって、戦後視点の後付けの理屈であの時代を描こうとすることから決まってつまらない作品が出来上がってしまうのですが、外国人監督が撮りあげた本作にはそうしたノイズが入っていないことから非常に見やすい作品となっています。あの時代の日本兵たちがどんな状況にあったのかを切り取ることのみに専念しているため、歴史映画として極めて優秀なのです。「天皇陛下万歳!」という日本映画界では決して不可能な一言をすんなりと言わせてみせた辺りに、その真価が表れています。 また、本作を見ているとなぜ日本が敗戦したのかがよく分かります。アメリカとの間の圧倒的な物量差のみならず、現場のリーダーを育ててこなかったという組織論的な問題も大きく影響しているのです。臨機応変な意思決定を下すための訓練を受けてきていない管理職達は厳しい戦況に対応できず、精神論のみに解決策を見出してどんどん内向きな思考となり、いよいよ事態が自身の対応能力を超えると「玉砕させてくれ」と言い出す始末。こちらの計画通りに物事を進められる勝ち戦ならば強みを発揮するが、負け戦で相手に主導権をとられた途端にテンパっておかしな行動を連発し始めます。この辺りは現在の日本の組織にも引き継がれている弱みであり、日本人論としても興味深く鑑賞することができました。
[ブルーレイ(字幕)] 8点(2016-11-18 15:46:36)
43.  エリート・スクワッド(2007) 《ネタバレ》 
最近、テレビドラマの『ナルコス』にハマってしまい、ジョゼ・パジーリャ監督作品を後追いして本作に辿り着きました。ベルリン映画祭金熊賞受賞作品にして、本国ブラジルでは子供たちがBOPEごっこをするほどの国民映画となったという評価はダテではなく、社会性と娯楽性が高いレベルでブレンドされた名作として仕上がっています。 手のつけようのないほど凶悪なギャング、私腹を肥やすことのみに精を出して公僕としての機能を失った警察、違法行為に手を染める市民と、各自が好き放題をしてメチャクチャな状態となっているリオデジャネイロにおいて、唯一、高い規律と目的意識を持って行動しているのが特殊警察作戦大隊BOPEです。BOPEは「ボッピ」と読むらしく、えらい可愛らしい名前の特殊部隊があるもんだと思ったのですが、その実態はわが目を疑うほどの壮絶さです。『フルメタル・ジャケット』や『GIジェーン』をも超えるしごきで入隊の儀式を済ませると、治安組織というよりもむしろクライムファイターのような振る舞いで街の悪人たちを成敗して回ります。女子供だろうが容赦なく拷問して必要な情報を聞き出し、犯罪者を見かければとりあえず射殺。生け捕りにした犯罪者には容赦のない暴行を加え、仲間を殺った悪人はその場で処刑と、「逮捕→裁判→投獄」という一般的な司法制度をまったく意に介さないリアル・ジャッジドレッドな集団なのですが、これが実在する部隊であり、本作の脚本には元BOPE隊員が参加しているという点で二度驚かされます。 こうして振る舞いのみを書き出すとBOPEは悪者であるかのような印象を受けるのですが、本作は前半にてリオの現状がいかに腐っているかを描きだすため、そのカウンターとしてBOPEほどの極端な暴力装置が必要であることを観客に納得させてしまいます。この辺りの構成は実に見事だと思いました。BOPEが全力でギャングを潰しにかかる終盤の爽快感はなかなかのものであり、本作はエンターテイメントとしても非常に優れているのです。 唯一不満だったのは、「遊び人」と呼ばれる大学生がしれっと生き延びたこと。この人物は、表面上は慈善活動を目的とする左翼系サークルを主催しているのですが、同じく表面上は貧困層の支援を目的とするNGOを介してスラムを仕切るギャングとのコネクションを持ち、キャンパス内に麻薬を持ち込んで利益を得ているクズ野郎です。ギャング達にはギャングにならざるを得なかった不幸な生い立ちがあるのですが、一方でこいつは恵まれた環境でぬくぬくと育ちながら、ロクな覚悟もなく軽い気持ちで悪事に手を染めるという、一番同情できないタイプの悪人。こいつのせいでネトは死んだのですが、マチアスが真剣に尋問してもヘラヘラと受け答えをするような腐った性根を持っており、ギャングの世界がいかに怖いかを思い知ってからエライ殺され方をして欲しいところでした。
[インターネット(字幕)] 8点(2016-05-23 17:34:05)
44.  アレクサンドリア 《ネタバレ》 
拡大期にあったキリスト教が、現在のイスラム国やタリバンの如く多神教の文化や建造物を破壊しまくるという、かなり衝撃的な内容となっています。黎明期にローマ帝国より迫害を受けた歴史はしばしば語られるものの、一定の権威を獲得した後に従前の文化の破壊者となっていたという歴史はよく知らなかっただけに、本作の内容には驚かされました。 また、キリスト教の不寛容を描いた本作がカトリック国のスペインで製作されたという点も驚きなのですが、少しでも不備があれば文句がつきそうなセンシティブな題材にあって、監督のアレハンドロ・アメナーバルは文句のつけようのないほど徹底した完成度でこれに対応しており、作り手の気迫が画面ごしにも伝わってきました。CGに頼らず巨大なオープンセットを建設するという本物志向ぶり、モブシーンのド迫力など、歴史スペクタクルとして申し分のない仕上がりとなっているのです。 内容についてもどちらか一方の勢力を悪役に仕立て上げるのではなく、従前のローマ社会に大きな歪みがあって、社会システムからこぼれ落ちた弱者の受け皿としてキリスト教が拡大したという歴史がきちんと描かれています。基本的には人格者として扱われている主人公・ヒュパティアですら無意識のうちに差別的な言葉を使うという描写もきちんと挿入されており、歴史を多面的に描いて観客に問題提起しようとする姿勢も好印象でした。 問題点といえば、ヒュパティアがあまりに常人離れしていて、私を含めた一般の観客にとっては感情移入が難しいということでしょうか。信仰心はないものの、形式上はキリスト教に入信して批判をうまくかわしながら新旧文化の融和を図ろうとする弟子のオレステスと比較すると、敵対者にわざわざ攻撃材料を与えるかような言動をとるヒュパティアはうまくないなぁと思うし、その頑なさは、キリスト教側の強硬派・キュリロスと変わらないものではないかとの印象を受けました。
[DVD(吹替)] 8点(2016-01-26 16:21:14)(良:1票)
45.  インベージョン 《ネタバレ》 
原作未読、1956年版未見、1978年版・1993年版は鑑賞済です。 おおよそ15~20年毎に映画化され、それぞれの製作年代の社会背景を色濃く反映するこの企画ですが、私が過去に鑑賞した1978年版・1993年版と比較して世相がもっともストレートに反映されたのがこの2007年版だという印象です。 「自我を捨てれば暴力も混乱もない平和な世界が待ってるよ」と言う侵略者に対して、「自我を失えば私は私じゃなくなる。そんな平和に価値は見いだせない」として断固抵抗するのが主人公なのですが、ここで興味深いのが、侵略者側の理屈ってアメリカ合衆国がイラクやアフガンでイスラム教徒に対して言ってることで、「民主主義は良いよ。男女平等は良いよ。欧米の価値観でみんな幸せになれるよ」と宣伝して回り、一見不合理であるイスラム教徒の価値観を頭ごなしに否定して紛争国を無理矢理にでもハッピーにしてやろうとする姿そのものだということです。一方、それに断固対抗する主人公は、「私たちには私たちの価値観があるのだ。それは何ものにも代えがたい」と言って一歩も引かないイスラム教原理主義者の姿と重なります。 思想による侵略の恐怖を描いた1956年版に始まって、この企画はアメリカ社会を被害者の位置に据えることが暗黙の了解となっているのですが、本作は初めてそこを逆転させ、アメリカ合衆国が他国に対して行っている侵略行為をSFというフィルターを通して描く企画となっています。SFを現実社会の合わせ鏡として考えると、これは最高のSF映画ではないでしょうか。さらには、過去の映画化作品を利用して観客の側に先入観を抱かせ、それとは正反対のものを見せてくるという裏切り方もよく、観客の知的好奇心を刺激するという点で、きわめて優れた作品だと思います。この驚天動地の発想の転換は、第二次世界大戦後にアメリカによる占領政策を受け、前世代のやってきたことを全否定する代わりに平和と繁栄を得たドイツ人監督ならではのものではないでしょうか。 ただし、上記の趣旨が上層部の逆鱗に触れたのかどうか分かりませんが、本作は完成後にワーナーから大幅な撮り直しを命じられ、それを拒否した監督は解雇。当時『Vフォー・ヴェンデッタ』でワーナーと仕事をしていたチームがピンチヒッターとして雇われ、ウォシャウスキー兄弟が脚本を、ジェームズ・マクティーグが監督を担当して後半部分をまるまる撮り直すという措置がとられました。その結果、スケールの大きな見せ場は追加されたものの、社会的な考察は薄められたように感じます。前半と後半で作風がまるで変わってしまうことの違和感は相当なもので、これだけ不自然な映画はブライアン・ヘルゲランド監督が解雇された『ペイバック』以来です。オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が最初に完成させたディレクターズ・カット版を見てみたいのですが、興行的にも批評的にも大敗した本作では、それも難しいのでしょうか。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-01-19 15:01:08)(良:1票)
46.  ブッシュ 《ネタバレ》 
オリバー・ストーンは、政治的にはブッシュを毛嫌いする一方で、その出自には共通点が多く(同い年で、出身大学も同じ。強い父親の支配に苦しんだ経験も共通している)、ブッシュに対して同情的な視点で本作が作られている点は興味深かったです。『ニクソン』もそうでしたが、ストーンは嫌いなタイプの政治家を題材としながらも、その人となりをリサーチするうちに憐れみの感情を持つようです。 父親に決められたレールに乗っているうちは何もかもがうまくいかず、ブッシュの人生が好転したのは父の影響下から離れて自力で道を切り拓くようになって以降でした。実業家としての成功も自力であれば、政治家転身の際にも父親からの支援は受けられず(優秀な弟のジェブが優先された)、その人柄の良さと目的達成意欲の強さでコツコツと地盤を作って合衆国のトップにまで登りつめた苦労人であり、優秀すぎる父親を持ったことは彼にとって重荷でしかありませんでした。一方で内情を知らない第三者からは「親の七光り」だの「苦労知らずのボンボン」だのと言われ、そこを徹底的に攻撃されるという点が印象的でした。政治や外交について定見らしきものはなく、彼の政治活動は父親から認められようとする行為の延長だったようです。そこに、911が起こります。 戦争に係る意思決定は象徴的で、従軍経験のある父ブッシュは、湾岸戦争で米兵の犠牲が最小限で済んだことを幸いとし、イラク軍からの激しい抵抗が予想されるバグダッド侵攻を見送って早々に撤退する決定をしましたが、一方ベトナム戦争時代に兵役逃れをした子ブッシュは、どれほどの犠牲が出るのかも考えずに開戦の決定をします。父ブッシュとの繋がりが深いコリン・パウエルからは「911の弔い合戦なのに、なぜビン・ラディンではなくフセインと戦うのか」「フセイン政権を倒せばイラク国民に対する責任が生じるが、それを背負っていく覚悟はあるのか」と問われるが、それに対して明確に答えられない。イラク戦争で犠牲になった米兵やイラク人には気の毒ですが、ブッシュ個人の物語として見れば、イラク戦争も父親を越えようとするイベントのひとつだったのです。 ブッシュ本人は悪人ではない、むしろ近くにいれば友人になりたくなるような人物ではあるが、あの激動の時期の大統領としては最悪の人物だった。人生で常に望まれない場所に居る人物の悲喜劇として、本作は非常に見ごたえがありました。
[DVD(吹替)] 8点(2015-08-03 18:07:24)
47.  レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで 《ネタバレ》 
エイプリルについては「自分探しをこじらせた女」との評価がありますが、それはちょっと違うと思います。パリ行きを言い出した時、彼女は自分を二の次にして、専らフランクがどうするのかを考えていました。私が働くから、フランクはやりたいことを探してくれとまで言っており、彼女の中心にあるのは常にフランクだったのです。恐らく、エイプリルはヒモを抱え込むタイプの女性です。どんなに貧乏をしても、暴力を振るわれても、それでも夢を語る時だけはまっすぐな男に憧れており、彼女が愛したのは地位も金もないのに大口だけは一人前だった若い頃のフランクなのです。仮にパリ移住を決行して、その結果、一家が貧乏暮らしとなっても、彼女だけは幸福を感じたはずです。しかし、そんな彼女の嗜好とは裏腹に、フランクはマトモになり続けている。時には常識人の顔をして説教までしてくる。もはや、彼女が愛したフランクは消えかけています。 他方、フランクは家族のため真面目に働くという自己の側面が嫌悪されているなどとは考えもつかない。それは世間的には美徳だし、会社でそこそこ評価され、人よりもちょっと良い家を買った自分に満足すらしている。このズレが悲劇の元凶でした。フランクはエイプリルが何を問題にしているのかが分からない。分からないから、自分の人格すべてを否定されていると思い込んで余計にストレスを抱え、たまに頓珍漢な対応をしてしまう。ディカプリオによる素晴らしい小市民演技と相まって、フランクには心底同情しました。 本作は終始気が滅入る内容なのですが、中でも夫婦喧嘩の描写は天下一品。ヒステリックに捲し立てる嫁→旦那のイライラはピークに達するが、かといって暴力を振るうわけにもいかず、感情のやり場を失って半狂乱となる→その無様な姿を見て勝ち誇った顔をする嫁。うちでもよくあります笑。また、夫婦喧嘩の翌日、当てつけのように良い妻を演じる嫁の姿もよく見かけます。本作のエイプリルは女優経験がある分、その演技には真に迫ったものがあり、それを見たフランクは彼女の真意をすぐには掴み損ねます。あそこでエイプリルが期待したのは「それは君じゃないよ」の一言だったのでしょうが、最終的にフランクがその演技を額面通りに受け取ってしまったことが、最後の悲劇を生んでしまいます。
[DVD(吹替)] 8点(2015-07-02 00:51:03)
48.  プリズン211
暴動が発生した刑務所に取り残されてしまった看守のサバイバルが描かれるサスペンス映画かと思いきや、思いも寄らぬ方向に話が転がっていくというサプライズに満ちた作品。よくよく考えればトンデモ展開ではあるのですが、キャラ造形がかなりしっかりしているので上映時間中は要らん疑問を抱くことなく見ていられるし、後半パートではサスペンスではなく友情ドラマへと映画の主軸が移っていくため、一粒で二度おいしい男気映画にもなっています。映画の印象とは事前の期待と実際の内容とのバランスで決まるものですが、B級丸出しのDVDジャケットからこれだけしっかりとした本編が飛び出せば、たいていの方は満足できるのではないでしょうか。
[DVD(吹替)] 8点(2014-09-21 19:31:15)
49.  スピード・レーサー
1967年のオリジナル版シリーズも、1997年のリメイク版シリーズもどちらも未見。ということで特に思い入れも先入観もなく本作を鑑賞したのですが、メジャースタジオが1億ドルもの予算を投入した作品とは到底思えないブっ飛んだ内容には驚かされました。。。 コミックの実写化企画は数あれど、アニメの実写化企画と言えば他に『トランスフォーマー』と『G.I.ジョー』くらいしか見当たらず、しかもその2作は、着想こそアニメに求めていても内容は通常のSFアクションとして組み立てられていたことを考えると、アニメの完全再現にこだわった本作は非常にユニークな存在であったと言えます。その再現の度合は常軌を逸したレベルに達しており、人間とチンパンジー以外はほぼすべてが作り物、しかも60年代特有のケバケバしい色調が画面を席巻していてカッコよさとも無縁という、「一体、誰がこの映画を楽しむんだ?」と頭を抱えたくなるような壮絶な出来となっています。主人公が乗るマッハ号はオフロードもオンロードもOKで、しかもプライベートでの乗用車としても使用されていたり、車がゴムまりのようにポンポン飛び跳ねたりと、どう考えてもおかしな点まで一切の修正を加えず丸ごと実写化。「現代風にリメイク」という甘っちょろい言葉に逃げず、ストイックなまでに映画を作り込んだ監督達の執念には圧倒されました。。。 本作の1週間前には『アイアンマン』が公開されたという不運もあって興行成績は惨敗でしたが、そりゃ、ここまでやれば当然でしょう。監督の意図を理解しながら見なければヘンな映画としか映らないのですから、普通の観客ではちょっと付いて来られなかったと思います。ただし、特異なビジュアルで思考停止せず冷静に内容を評価すれば、その出来は決して悪くなかったと思います。レース場面と回想のカットバックによりアクションとドラマを融合させた序盤、『デス・レース2000年』のようなチープな展開で観客を和ませた中盤、そして、主人公一人で敵の総本山へ殴り込むクライマックスと、本編は綺麗に色分けされており、しかも、そのいずれもが高いレベルでまとめられています。定番とはいえ、クライマックスのゴール場面では大興奮させられましたとも。バカバカしいビジュアルの一方で、M&Aや株価操作といった子供向けとは思えない用語が出て来たり、やたら上映時間が長いといった歪さも含めて、私は愛すべき映画だと感じました。
[映画館(字幕)] 8点(2014-01-20 01:18:23)
50.  運命の女(2002)
エロサスペンスの巨匠・エイドリアン・ライン監督によるエロサスペンスということで大した期待もなく見始めたのですが、これが目の覚めるほど面白い映画だったのでビックリこきました。脚本・演出・演技のすべてが高いレベルでまとまっており、大した見せ場がなくとも、それぞれのパフォーマンスの高さのみで2時間を見せきっているのです。。。 本作の脚本を担当したのは、『普通の人々』のアルヴィン・サージェントと、『アポロ13』のウィリアム・ブロイルズ・Jr。トップクラスの脚本家が二人も名を連ねているという、何とも豪華な布陣となっています。人物描写を得意とするサージェントは、主人公・コニーの心境を実に丁寧に描写しており、「不倫妻の自業自得」と思われては元も子もないこの物語において、観客に共感の余地を与えています。他方、複雑な物語の交通整理に長けたブロイルズは、幸せな家庭が徐々に追い込まれていく様をわかりやすい形で観客に伝えています。。。 このジャンルの重鎮であるエイドリアン・ラインによる演出は、抜群の安定感です。若々しくてはいけないが、おばさん臭くてもいけないという難しいポジションにある主人公を、誰が見ても美しいと感じられるように画面に収めているのです。『ナインハーフ』などと比較すると露出度はかなり抑え目であるものの、それでも濡れ場はかなりエロく撮られているし、何気ない日常の風景もいちいち美しく、本作は、彼のフィルモグラフィの総決算とも言うべき仕上がりとなっています。。。 主人公を演じるダイアン・レインは、賞とは無縁のこのジャンルにてオスカーノミネートという快挙を成し遂げましたが、確かに、彼女の演技はズバ抜けています。上述の通り、「不倫妻の自業自得」と思われてはおしまいとなる本作において、彼女はひとつひとつの感情を丁寧に表現することにより、不倫に溺れる主人公の心境を観客に肯定させているのです。彼女の相手役となるオリヴィエ・マルティネスの間男ぶりや、リチャード・ギアの小市民ぶりもそれぞれ板に付いており、登場人物全員が悪いんだけど、本当の悪人は一人もいないという本作の構図が、見事に形となっています。。。 ただし、意味不明な邦題だけは何とかならんのでしょうか。当時のフォックスジャパンは奔放すぎるネーミングセンスにより不評を買っていましたが、作品の本質をとらえない邦題をつけることはやめてほしいものです。
[DVD(吹替)] 8点(2014-01-08 01:43:16)(良:1票)
51.  ザ・バンク -堕ちた巨像-
2013年には、日本国内で常識を疑う事件が2つ発生しました。ひとつは、某メガバンクが暴力団に融資を行っていたこと。もうひとつは、某餃子チェーン店の社長が、プロの殺し屋と推測される犯人によって殺害されたこと。この2つの事件からは、表社会と裏社会の距離は我々が思うほど遠くはないということを認識させられ、少なからず戦慄させられました。。。 本作のモデルは、1991年に経営破綻した国際商業信用銀行(BCCI)。独裁者を顧客に抱え、麻薬取引・武器輸出への関与、各国の諜報機関との関わりなど、出るわ出るわの悪行三昧。裏社会の組織ならともかく、世界78カ国に400拠点を構え、表社会で営業活動を行っていた金融機関がこれだけの悪事に手を染めていたということには、大変な驚きがありました。。。 本作は、そうした現実社会のトピックをエンターテイメント化すると同時に、熱い男のドラマとしてもまとめられており、さらには目を疑うほど素晴らしい銃撃戦もあり、非常に見応えのあるサスペンスアクション映画として仕上がっています。多少やりすぎな点もあるにはあるのですが、その辺りは「実話をベースにしております」という免罪符を使ってうまく言い訳しているので、致命傷にはなっていません。全体としては70年代風の骨太アクションであり、甘い要素はゼロ。主人公・サリンジャーは超絶美人の地方検事と行動を共にするも、両者が恋愛関係に発展することはありません。それどころか友達ですらなく、目的を共有し、かつ、仕事ができる相手だから一緒にいるのだという関係性は最高にクールでした。。。 また、敵方のブレーンであるウェクスラー大佐とサリンジャーの関係も激熱です。秘密警察での職務に人生を捧げたウェクスラーは、サリンジャーの将来の姿。職務のために尽くしてもそれが報われることはなかったという虚無感が現在のウェクスラーを支配しているのですが、悪を倒そうとまっすぐに生きるサリンジャーとの出会いによって、彼は再び「自分が信じるもののために戦う」という気概を取り戻します。他方、サリンジャーもまた、ウェクスラーから影響を受けます。まっすぐに戦うだけでは巨大な敵に勝つことができないということをウェクスラーから教えられ、そのことが、ラスト近くでの決断に繋がっていくのです。ドライな語り口の中に、以上の熱いドラマを忍ばせた本作の演出には、完全にノックアウトさせられました。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2014-01-06 00:58:02)
52.  スターダスト(2007)
『ロード・オブ・ザ・リング』と『ハリー・ポッター』の大ヒットに触発され、ファンタジー映画が乱発されていた時期に製作された一本。大したヒットにならず終わったので今の今まで鑑賞してこなかったのですが、これが見てビックリ。結構な完成度だったので驚かされました。『ロード・オブ・ザ・リング』のような重厚長大な大作ではないためジャンルの代表作にはなりえないものの、中規模作品としては、実に理想的なレベルでまとめられています。。。 ファンタジー小説では、読者は世界観を一から理解する必要があるし、登場人物の数も多くなりがちです。読み返しの利く書籍ならともかく、観客の側が能動的に情報量をコントロールできない映画という媒体においては、そのような雑多な要素をどうまとめあげるのかが大きな問題となります。『ロード・オブ・ザ・リング』のように、当初より3部作構成で製作されることが決定しており、シリーズを合計すればタップリとした上映時間を稼げる作品であれば、そうした問題への対処も容易にはなるのですが、大半の映画はそれほど恵まれた環境では製作されません。まず1本撮り、ヒットすれば続編を製作。第1作については、単品で成立する程度に話をまとめておく必要があります。そして、多くのファンタジー映画はここで躓きます。物語をコンパクトにまとめるという過程において、原作が持っていた魅力的な要素を多く切り捨ててしまい、焦点の定まらない凡作が出来上がってしまうのです。。。 本作についても、3つのパーティが同時に動き、さらには冒険に絡んでくるサブキャラの数も多く、かつ、舞台の移動も盛んであり、一本の映画の枠に収めるにはなかなか厄介な素材だったと言えます。しかし、マシュー・ヴォーンはこの複雑な物語を、奇跡的な手腕でまとめてみせています。各キャラクターの背景や行動原理を的確に伝えており、また、端正なビジュアルによって世界観の特徴も表現できており、観客に情報を与えるという作業を非常にスムーズにこなしているのです。特に感心したのは、感動の高ぶりとともにイヴェインが光を発するという処理であり、この設定を挟むことで、ドラマが非常にわかりやすくなっています。また、この原作には性や暴力が少なからず含まれているのですが、ヴォーンはそうした毒を描くという点でも躊躇しておらず、その結果、血の通った真っ当な物語として仕上がっています。
[DVD(吹替)] 8点(2013-11-18 00:46:39)(良:2票)
53.  スター・トレック(2009) 《ネタバレ》 
旧シリーズの劇場版には一通り目を通しているものの、テレビシリーズは未見。ファンではないものの、主要キャラクターや物語の背景についての知識はある程度持っているという状況での鑑賞です。。。 21世紀に入り、スタートレックシリーズは危機的状況に陥っていました。劇場版の興行成績は回を重ねる毎にワースト記録を更新し続け、テレビの新シリーズの視聴率も初回から低迷。長年、固定客のみを相手に商売を続けた結果、一般の観客・視聴者には理解不能な程に世界観が複雑化したことがその要因であり、大幅なリニューアルによって新規のファンを取り込むことしか、シリーズの維持を図ることはできないという状況にまで追い込まれていたのです。しかし、これが難題でした。少しでも気に食わない点があれば大騒ぎをする旧来のファンを納得させつつも、一般の観客をも取り込まなければならない。このリニューアル企画に最初に挑んだのはテレビシリーズのクリエイター達でしたが、話をまとめきれずに企画は頓挫。結局、スターウォーズ派を公言するJJエイブラムスにシリーズの命運を委ねることとなったのです。。。 エイブラムスは奇想天外なアイデアで、この難題を片付けてみせました。エピソード0でもリメイクでもない、タイムスリップにより時間軸が歪められたパラレルワールドでの物語としたのです。このアイデアには唸らされました。オリジナルの時系列を引き継ぎながらも、設定などについては全面リニューアルをする。これなら旧来のファンは納得するし、新規のファンは設定を一から覚えられる。このアイデアを思いついた時点で、この企画は勝ちだったのです。。。 さらに、リニューアルのメリットはこれだけではありません。旧劇場版にはテレビシリーズの俳優陣がそのまま出演し続けたため、主要キャストは中年や初老ばかり。これが娯楽作としての大きな制約条件となっていたのですが、リニューアルによって出演者全体が若返ったことから、見せ場はダイナミックなものとなりました。エイブラムスの小慣れた演出とも相俟って、スリル溢れる連続活劇に仕上がっています。ロミュラン人の逆恨みはさすがに度を越していないか?とか、ラスト、身動きがとれなくなったロミュラン船を攻撃するカークは容赦なさすぎないか?とか、細かい部分には疑問符も付きますが、そんなことはどうでもいいと思わせる程の勢いのあるアクション大作でした。
[映画館(字幕)] 8点(2013-08-26 00:50:46)(良:1票)
54.  マーリー/世界一おバカな犬が教えてくれたこと
普段はヴァンダムとかスタローンばかり観ている私ですが、「たまには家族で見られる映画も借りてきてよ」と嫁に言われたので、ゲオで何気なくレンタル。子犬の可愛さを全面に押し出したジャケットと女性受けを狙った邦題から、事前には『ベートーベン』や『101』のような「犬さえ出しとけばOKなんだろ映画」だと思っていたのですが、意外や意外、これが犬のいる生活を丁寧に描いた良作でした。ラスト15分では涙腺から涙を搾り取られます。家族の前なので泣くまいと思ってたんですけど、どうしても堪えることができずに号泣。さらには、寝る前に映画の内容を思い出してまた号泣。本作の感動は、もはや暴力的とも言える領域に達しています。。。 原作はコラムニストが自身の経験をまとめたエッセイであり、基本的に実話ベースなので話のリアリティが違います。犬を飼った経験のある方であれば、身に覚えのあるエピソードの連続なのです。特に、わが家は作者と非常に酷似した歴史を歩んでいるので、他人事とは思えないほどでした。子供と犬の両方が騒ぎ出して手が付けられなくなった時に、「犬なんて飼うべきじゃなかったのよ!」と絶叫する嫁。うちでもまったく同じ光景が繰り広げられています。。。 映画化に際しての脚色では、犬に擦り寄りすぎない姿勢が好印象でした。映画の中心にあるのはあくまで主人公の人生であり、その人生において仕事の重要度が高い時期には仕事の描写を、子供の重要度が高い時期には子供の描写をと、必ずしも犬ばかりが描かれているわけではありません。さらには、子供と犬との触れ合いというビジュアル的に美味しい部分は、本作にはほとんど登場しません。なぜなら、子供と犬が遊んでいる時間には主人公は会社にいるので、その光景を見ていないから。そんな当たり前のことを貫き通し、安易なウケを狙わなかったことが、本作に動物映画を越える深みを与えています。。。 ただし、映画の視点が固定されすぎていることが凶と出ている面もあります。ヒステリックに怒ってばかりの奥さんが悪役に近いポジションになっているし(女性には女性の言い分があるでしょう)、長男が犬に対して寄せる思いも伝わってきません。そもそもの問題として、どストライクな私以外の観客・視聴者が、どれだけ感情移入できるのかは不明だし。本作には、あとわずかな客観性が必要だったと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2013-07-08 22:37:36)(良:1票)
55.  アバウト・シュミット 《ネタバレ》 
会社を定年退職し、さらには妻にも先立たれ、自分を管理していたものをすべて失った老人のお話なのですが、これが恐ろしく日本的な内容だったので驚きました。アメリカのホワイトカラーは個人主義でバリバリやっているイメージだったのですが、実際には日本のサラリーマンと同じく、組織への滅私奉公に人生の時間の大半を費やしているようです。。。 仕事をしている間にはそれなりにやることもあったし、家族と向き合わないことを正当化する言い訳もあった。プライベートで気に入らないことがあれば、妻のせいにしてればいいし。しかし、仕事を離れてそれらの制約条件がとっぱらわれた時に、それまでの人生への評価が冷酷な形で下される。以上、本作のテーマは普遍的なのですが、一方でその語り口は非常に型破りです。主人公は妻を失ってもさほど悲しまないし、疎遠になっていた娘との劇的な和解もない。娘の旦那は相変わらず好きになれないし、長旅に出ても感動的な出会いなどない。そして、主人公の偏屈な性格も一向に治らない。この手のドラマにありがちな展開は全て外してきているのです。。。 ハリウッド的な感動ストーリーに代わって描かれるのは、ひたすらに非力な老人の姿。その生き方のツケから家族にも友人にも恵まれず、その状況を変えるだけの力も度胸もない。ただ目の前にある孤独な余生を受け入れるしかない主人公の姿が、情け容赦なく描かれます。コメディとして作られているので直感的な衝撃度は低いものの、よくよく考えれば相当に欝な話です。。。 そして、オチの付け方も底意地の悪いものでした。アフリカの子供が描いた絵を受け取って涙する主人公。これを、主人公が人間性を回復した瞬間だと解釈する向きもあるようですが、私はそうは思いません。添付の手紙には、この子は英語が分からないという説明がありました。つまり、子供は主人公からの手紙の内容を分かっておらず、当然主人公の人となりも理解しておらず、恐らくは保護者から促される形でとりあえず描いた絵があれだったのです。主人公の涙は、こんなものにすがり付くしかない自分のみっともなさを嘆いたものでしょう。たまに小銭を寄付し、そのお礼に絵や手紙が送られてくるだけの関係。しかし、主人公が誰かから求められていると実感できる瞬間は、これしかないのです。本作では、家族を大事にしないと大変なことになるという重要な教訓が提示されています。 
[DVD(吹替)] 8点(2013-07-06 00:14:47)
56.  クィーン 《ネタバレ》 
革新派やフェミニストからの強力な支持もあって存命中は持ち上げられもしていましたが、死後15年経った現在から振り返ると、やはりダイアナ妃は魔女だったと思います。英国王室のあり方について国民レベルで賛否が割れることはあっても、少なくとも王室に嫁いだ人間には、その家族が大切にしてきた価値観を共有し、守っていくことが求められます。しかし、彼女はそうしなかった。自分に好意的なマスコミへ王室のスキャンダルを流したり、自ら王室批判を繰り返したり、挙句の果てには二人の息子がいるにも関わらず自由恋愛に明け暮れたりと、名誉と格式を重んじる英国王室が反論できないことにつけ込んで、彼女は好き放題をやっていたのです。。。 「我が家の籍を離れた人間なのだから、葬儀はご実家でやっていただきます」、常識的な感覚から言えば、ダイアナの死に対してエリザベス女王のとった対応は妥当なものでした。しかし、死亡事故にパパラッチが関与していたことへの負い目もあってかマスコミは一斉にダイアナを持ち上げはじめ、国葬をしろと騒ぎ出します。伝統を否定した人間に対して英国王室が最大級の敬意を表するなど前代未聞のことですが、異様な熱狂の中で正論はどんどん掻き消されていきます。まずは、自身の人気取りを優先したいチャールズ皇太子が落ち、次に、マスコミの異常なバッシングに怯えた王室ご意見番が落ちます。ブレアは善人ではあるものの、長く革新政党にいたため伝統というものへの理解は不足しています。「英国王室は400年の歴史を背負っており、現在の国民がどう思うかということとは別次元で生きている」という当たり前のことが理解されない。そんな状況の中でエリザベス女王は孤立無援へと追い込まれ、最終的にはマスコミとダイアナの力に負けてしまうのです。。。 以上、題材はかなりハードなのですが、あくまでこれをある家庭のドラマとして描いた脚本が秀逸。世間知らずの夫とバカ息子に挟まれ、対応を一手に引き受けねばならなくなったエリザベスの苦悩が非常に分かりやすく描かれています。ただし注意せねばならないのは、本作で描かれるドラマはあくまで脚本家の憶測に過ぎないということです。史実をベースに、その当事者達がどう考えていたのかを推測してドラマを組み立てるこの手法は、倫理的にはギリギリの技術だとも言えます。
[DVD(吹替)] 8点(2013-06-26 01:11:39)
57.  マーターズ(2007) 《ネタバレ》 
最近観たジェシカ・ビール主演の『トールマン』が、映画としての出来はイマイチだったもののその構成には目を見張るものがあったため、パスカル・ロジェ監督の作品を後追いして本作に辿り付きました。『トールマン』があの出来だったので大した期待も気負いもなく本作を見始めたのですが、そんな腑抜けた鑑賞姿勢に冷水をぶっかけられるかのような凄まじい鬼畜ぶりには参りました。あまりに気分が悪くなったので、点数としては1点でもくれてやろうかと思ったほどです。しかし、よくよく考えてみれば「人を不快にさせる」という点において本作は極めて優れたホラー映画であると言えます。撮影や特殊メイク等技術面でのレベルも高く、二転三転する構成も考え抜かれており、映画としてはメチャクチャによく出来ているのです。個人的な意見としては二度と観たくない作品ではあるものの、客観的には傑作だと言えます。。。 冒頭、子供達を写し出す8mmフィルムの何とも言えない気持ちの悪さが本作の特徴をよく象徴しているのですが、全体に漂う湿っぽい空気感、一片の救いもない絶望感が作品全体の不快度数を大幅に引き上げています。後半の展開なんて、ハリウッドであれば主人公の脱出計画やら外部からの救援やらを織り込むことで娯楽性を含ませるであろうパートなのですが、本作ではそうした装飾が一切排除されており、主人公は黙って拷問を受け入れるのみという何ともあんまりな内容とされています。その他にも、地下室で発見された女性がどうやっても救われない状態であったり、監視員達は一切の感情を挟まずに淡々と拷問をこなしていたりと、設定のあらゆる点において鬼畜ぶりが徹底されています。死後の世界を知りたいが、自分達が痛い思いをするのはイヤだからと若い人間をさらって拷問している年寄り連中なんて、まさにゲスの極み。フィクションだと分かっていても、思い出すだけで怒りがわきます。観る者の神経を逆撫でするという点において、本作は芸術的ですらあります。。。 なお、多くのレビュワー様が、この監督はホンモノのキ○ガイではないかと危惧されているようですが、この点については、監督の前作『Mother/マザー』があまりに地味でほとんど注目を浴びなかったことへの反省から、本作では意識してスプラッタを過剰にしたとのことであり、これは意図した鬼畜であることは申し上げておきます。
[DVD(字幕)] 8点(2013-04-07 04:08:48)
58.  ニュースの天才 《ネタバレ》 
面白かったです。この題材であれば「ジャーナリズムとは何ぞや」を説く小難しい社会派映画になるのだろうと思っていたのですが、そんな予想に反し、本編は部下との信頼関係を作り損ねた上司の物語という普遍的な切り口で作られていたため、非常に感情移入して観ることができました。。。 コミュニケーション不足が原因で一方的に嫌っていた上司が、実は自分を守るために陰で戦ってくれていたということは、社会人をやっていると一度は経験するものです。本作でピーター・サースガードが演じる編集長は、就任のタイミングのマズさや淡々とした仕事ぶりから「人情派の前編集長を蹴落とした冷徹な新編集長」と勘違いされ、現場からの総スカンを喰らいます。しかし、記事の捏造をした部下が他社の追跡取材によって丸裸にされそうになった時、その部下の将来をもっとも案じ、最善の着地点を探そうと奔走したのは彼でした。もし、上司と部下との間に信頼関係が築けていれば、困った時に泣きついていける間柄であれば、外圧よりも先に対応策を打って傷を最小限に出来たかもしれなかったのですが、悲しいかなこの部下は最後まで上司を信用せず、嘘を嘘で隠そうとするうちに時間切れを迎えます。自分に係る誤解を早期に解き、良好な職場環境を作る努力を怠った編集長にも問題があるのですが、そうとは切って捨てられない難しさがあるのも確か。これは多くの組織に存在する問題であり、それを突いたという点で、この企画は非常に鋭いと感じました。。。 ヘイデン・クリステンセンは『スター・ウォーズ』に続き、何でも上司のせいにする青二才を熱演しています。人当たりは良いのだが、点数稼ぎとも受け取れる小手先の親切ばかりでホンネが見えてこないヤツ、こういう人っていますよね。人を騙して利益を得てやろうという意思があるわけでもないのに、まったく必要のないウソをつくヤツ、こういう人もいますよね。主人公を特殊な人格ではなく、誰にでも心当たりのある人物像に設定した点でも、この脚本は巧いと感じました。この主人公にあったのは虚栄心でも功名心でもなく、コミュニケーションの手段として自然についてきたウソが、いつの間にか巨大化して収拾がつかなくなってしまったという程度のものなのです。社会派映画を期待して本作を鑑賞された方にとってはガックリきた結論かもしれませんが、私は事実の一側面を的確に切り取っていると感じました。
[DVD(吹替)] 8点(2013-03-05 01:10:29)(良:2票)
59.  ブロークバック・マウンテン
本作は男同士の『ロミオとジュリエット』。悲恋ものとしてはかなり王道をいく内容なのですが、登場人物をゲイにするというコロンブスの卵的な発想によって陳腐化した物語を見事に蘇らせており、企画自体の目の付け所はかなり良かったと思います。何百年にも渡って全人類に愛されてきた物語を映画の骨子としているのですから、ある意味では負けるわけのない企画なのです。アン・リーもそのことをよく理解しているようで、奇をてらった演出は一切せず、素材の魅力だけで勝負しています。演出しすぎてバッシングを受けた『ハルク』の経験からきた判断なのでしょうが、この方向性は正しかったと思います。。。 ただし問題は、ゲイの性をどう描くのかという点にありました。男同士が抱き合ったりキスをしたりする場面なんて、実写でやると笑っちゃうしかないわけですから。かのイーストウッド御大ですら、『J・エドガー』では直接的な性描写を避けています。そこにきてアン・リーはこれを正々堂々と描いてみせるというチャレンジを行い、かつ、それに成功しました。裸の男が抱き合って会話する場面なんて見れたもんじゃないのに、この映画ではきちんとしたドラマのパーツとして生きているのです。これには驚きました。性描写に説得力があったのでドラマにも深みが増し、最後の密会で喧嘩別れする場面なんて、悲しくて涙が出そうになったほどです。。。 主演4人の演技もすべて最高です。本作の後、この4人は全員売れっ子となったのですから、後付けではありますが非常に的確なキャスティングだったと言えます。ゲイの末路を知っているために感情を押し殺そうとするヒース・レジャーと、気持ちを隠しきれないジェイク・ギレンホールの対比は面白かったし、20年という時間経過を伝える演技が出来ている点でも感心しました。ロマコメのイメージが強くて女優として伸び悩んでいたアン・ハサウェイは本作で思い切った役柄を演じ、見事イメージチェンジに成功しました。女優さんがキャリアに弾みを付けるためにヌードとなることは日本でもよくありますが、ここまで成功した例はかつてないのではないでしょうか。
[DVD(吹替)] 8点(2013-01-26 22:06:07)
60.  トロピック・サンダー/史上最低の作戦
役者が本物の戦闘に巻き込まれるというありがちな物語ではあるのですが、ベン・スティラーの人脈を駆使して揃えられた豪華キャストによって他作品との差別化が図られています。『オーシャンズ11』や『エクスペンダブルズ』を見ればわかる通り、この手のオールスター映画はキャストの動かし方が難しいのですが、本作は遊んでいるキャストがいないという点で感心します。コメディを本業としている俳優達は専らサポートに回り、コメディとは無縁の大物に思い切った役柄を割り振るという配置は、なかなか斬新でもありました。。。 とにかく凄いのが、トム・クルーズとロバート・ダウニー・Jrの大暴れです。トムが演じるのは、ジョエル・シルヴァーをモデルにしたと思われる映画プロデューサー。このキャラの狂い方が非常に素晴らしくて感動してしまいます。とにかく勢いで捲し立て、相手に反論の隙を与えず強引に話を結論に持っていく。本格的なコメディは初となるトムのハジケっぷりは楽しいし、「笑わせようとしてはいけない。不真面目な設定を真面目に演じることが笑いにつながる」という鉄則を守った演技には感心させられました。『マグノリア』でも感じたのですが、この人は脇に回るととんでもない演技と存在感を披露します。。。 一方ダウニー・Jrが演じるのは、サミュエル・L・ジャクソンになりきろうとするラッセル・クロウ(笑)。得意げな表情でブラザー言葉を使い、語尾で「メ~ン」と言う様には笑ってしまいました。かつてはメソッド演技を極めた実力派として名を馳せていたダウニー・Jrが、メソッド演技のやりすぎで自分を見失ってしまった俳優を演じるというセルフパロディとなっている点にも注目なのです。。。 最後に、本作の字幕の酷さについて触れます。笑いを理解していない人が字幕を担当したようで、せっかくの笑いどころがことごとく潰されています。例えば、「retard(知恵遅れ)」という言葉が「愚か者」と訳されているため、あえて差別用語を使った作り手の意図が伝わっていません。英語のジョークを原語で理解できる方以外は、本作を吹き替えで鑑賞されることをオススメします。笑いの量が3倍に増えますから。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2012-12-12 00:51:30)
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