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41.  ホテル・ルワンダ 《ネタバレ》 
ルワンダの虐殺は根の深い問題だ。虐殺の背景として、長年に渡る民族対立、政治対立(フツ+フランスVSツチ+ウガンダ)があるが、ラジオでの憎悪を掻き立てる民族主義プロパガンダの影響が非情に大きかったと言われている。貧困で、教育水準、民度が低ければ、偏狭なプロパガンダにも洗脳されやすく、安易に暴力に荷担してしまう。教育がいかに重要かが実感させられる。ルワンダにとって悲劇だったのは先にソマリア紛争があったこと。内戦が勃発すると、邪魔な国連軍が最初に狙われる。十人も殺せば撤退することを知っているからだ。国連はソマリアの轍を踏み、内政不干渉、軍の撤退を早々に決定した。実際にベルギー兵十人が殺された。国連軍の指令官は最低限の兵のみ治安を維持すべく駐留するが、精神を病んで辞任、帰国する。後にPTSDにより自殺未遂を起こしている。それほど過酷な任務であったということだ。死者80万人と大量の難民が発生し、一時は人口の3/4が女性だったという。その所為で女性の社会進出が実現されたとルワンダ人から聞いた。ちなみに戦後最大の紛争は、1971年のバングラデシュ独立紛争で死者300万人。どの紛争も複雑で、真実は立場によって変わる。被害者意識、家族愛、隣人愛、勇気で綴るこの映画や原作も鵜呑みにはできない。一度全てを疑ってみる必要があるだろう。何が真実かを見極める目を持ちたいと願う。映画から恐怖は伝わってこなかった。所詮は作り物だからだ。実際の虐殺場面を描いたら観客を失うことになっただろう。昨日までの隣人同士が殺しあったり、家族を殺されたりする恐怖は、経験した人にしかわからない。わからないことが幸運だ。その幸運を噛みしめながら、中断したディナーを続けるしかない。虐殺は現実だが、それを遠くから傍観視するのも又現実。立場が違えば、受け止め方が違う。対岸の火事をみて、きれいだと感じてしまうこともあるだろう。当初司令官が具申した通り、国連軍がツチ民兵の武器庫制圧を行っていれば悲劇は防げたかも知れないが、それが更なる悲劇を産むこともありえただろう。運命は気まぐれで、人間一人の力はいかにも弱い。主人公は彼にできる限りの精一杯のことをした。そして多くの人命を救うことができた。そのことに対して、いまは素直に、惜しみない賞賛を送りたい。 
[DVD(字幕)] 8点(2013-06-07 06:31:32)(良:1票)
42.  アズールとアスマール 《ネタバレ》 
特筆すべきは、水際立った美術だ。イスラムの様式美を至妙に取り入れた功がある。緻密なアラベスクとカリグラフィーの連続する壁、敷き詰められたタイルアート、ムカルナスで装飾された円天井、中庭を取り巻く列柱、庭園の水…、なるでアルハンブラ宮殿を歩いているようだ。樹木や岩などの自然も幾何学的に表現しているのも面白い。独自の神話的世界観を創り出すのに成功しており、精神の優雅さを感じる。時に陶酔さえ覚える出来栄えだ。2Dの背景に3Dの人物をあしらう手法は清新で、神秘的雰囲気を醸し出すのに一役買っている。影絵を思わせる動きの少なさと相まり、想像力をかきたてられる。異国情緒漂うイスラム的楽曲も好い。物語は、妖精伝説、育ての母、母恋の冒険者、奇妙な相棒、賢者、やんちゃ姫、山賊、奴隷商人、真紅のライオン、鳳凰もどき、謎の二つの門と、ファンタジー冒険活劇の要素が一杯詰まっている。が、冒険や謎の解決が、あっさりというか、ありきたりなところが玉に疵。物語にしても人物の感情にしても、総じて起伏に欠ける。生命が危機な場面でも危機感が伝わらない。顔の表情や動きの少なさに基因するが、監督は静的で詩的な表現が得意で、ダイナミックで躍動感のある表現は苦手なのだろう。ユーモアに欠けるのも監督の気質だろう。異色なのは異民族間の宗教・文化の偏見、差別という難しい問題を扱っているところ。アズールは、仏国では貴族の御曹子だが、他国では青い眼が徒となり酷遇される。アスマールとその母ジェナスは、仏国では貧しかったが、母国では成功者となる。立場、価値観の逆転がある。難しい要素を含むので、童話につきものの予定調和な大団円的結末とは一線を画す。主要人物が鳩首凝議して、打開策、解決策を話し合うのだ。ある意味斬新だが、意外性はなく、限界を感じる。ファンタジーと現実問題を融合させるのは至難の業だ。 結局妖精ジンの正体は何か、囚われの呪いとは何だったのかは、不明のまま。憎しみや相剋を乗り越えた崇高な魂を持つ者だけが、勝者として妖精ジンを救い、永遠の愛を得ることができたということだけはわかった。 開始早々、小人妖精が眠った二人をあやす場面があるが、これは省くべき。本当に妖精の国があるかというサスペンスを観客に持続させたい。アズールに母、アスマールに父がいない、アズールの父がどうして傲慢か、などの伏線も回収して欲しかった。
[DVD(字幕)] 8点(2013-05-26 19:23:15)
43.  ザ・グラディエーターII ローマ帝国への逆襲 《ネタバレ》 
冒頭カエサルが登場するので、時代は紀元前1世紀、初代ローマ皇帝誕生前の話。甲冑などもその時代のもの。と思っていたら、最後のナレーションは「この暴動は反乱となって帝国を滅亡へと導く。西暦410年聖なるローマは異民族に占領された」とあった。よくわかりませんね。わかるのは、円形闘技場が木造作りで小規模なのは映画の低予算の都合ということ。 ローマ軍に家族や恋人を殺され、奴隷となり、さらに剣闘士に仕立てられるという過酷な運命を疾走する女たちの話。異常なほどカット割りの多いアクションには辟易。スタント・アクションを誤魔化しているだけ。センスはあるので惜しい。女優陣の性的魅力のアピールに重きを置きすぎているきらいがある。女優陣の演技不足とおざなりの筋立で、彼女たちの悲しみ・苦悩は伝わらない。美点はある。まず音楽は一級品だ。脚本も凝っている部分がある。悪役の総督の苦悶が描かれている。辺境の属州に左遷させさられた嗟嘆が、彼を狂気へと駆り立てたのだ。元剣闘士の男も十分に描かれている。非常に個性があるのと恋愛の意外性で、作品に奥深さを加えている。好ましい。恋人を殺された悲しみ・怒りは伝わってくる。結局のところ映画の良さは、監督の情熱次第。エロに走ったところをみると、古代ローマ帝国史などには興味がないのでしょう。
[DVD(字幕)] 6点(2013-05-12 03:17:23)
44.  E.T. 20周年アニバーサリー特別版 《ネタバレ》 
地球を調査しにきた宇宙人E.T.の一人が置き去りになる。E.T.を発見した少年は彼を家に匿う。E.T.は仲間と連絡をとり、迎えにきた宇宙船で帰ってゆく。たわいもない話である。それなのに感動するのは何故だろうか。それは少年の純真な心に打たれるからだろう。相手を信用する力だ。相手は正体不明の宇宙人である。大人であれば何より警戒心が先に立つ。例えE.T.と意思疎通が出来て、彼の境遇に同情したとしても、時間がたてば危険回避心理や売名心、義務感等から当局に通報してしまうだろう。しかし、少年は違った。もしE.T.が大人に見つかれば解剖されるであろうと予想できたからである。ここには演出の妙がある。少年の父は不在だ。愛人とメキシコに旅行中という設定で、少年の母は心を痛めている。ここに大人に対する不信感がある。家族を裏切る父、即ち大人は信用できない。加えて、少年が孤独であるということ。少年は年少なので兄とその友達から仲間はずれにされていて、妹はまだ幼い。多忙な母とは距離がある。少年は気が置けない親友を欲している。そこに少年と同じような境遇のE.T.と会遇する。二人の気脈が通じ合うのも当然だ。その心の通じ方も独特で、興味深い。脳波が一致してしまうのだ。離れていても、E.T.が酒に酔えば少年も酔うし、テレビで接吻場面を見れば少年も学級の女の子と接吻してしまう。そしてE.T.の危機を暗示する蛙の解剖の授業の演出。二人の相即不離の関係を表現して余りある。もう一つの感動する要素は「浮遊感」だ。自転車がぱっと浮いた瞬間、開放感を味わう。鬱積していたものが雲散霧消し、晴れやかな気分になるのだ。浮遊だけでこれだけの効果を上げるのは、見せ方が絶妙だからだ。浮くのは子供だけで、ここにも大人に対する対比がある。不満もある。E.T.が死んだとみせる演出は観客に危機感を煽る常套手段として許せるとして、E.T.が何故瀕死の重態に陥ったのかという説明がないののだ。川辺で倒れていたが、E.T.が水に弱いということはない。動物に襲われた気配もない。大事な点がすっぽりと抜け落ちている。E.T.が飛行能力を持つのなら、宇宙船に置き去りにされることはなかっただろうと考えるのは、“大人”の考察だろうか。純真だった子供の頃を思い出させてくれる貴重な映画で、その輝きは永遠だろう。「人を信じる意味」を自問したい。
[DVD(字幕)] 9点(2012-12-23 06:13:09)
45.  ハート・ロッカー 《ネタバレ》 
ひと癖もふた癖もある映画だ。突き放して、結論を観客に想像させるタイプの映画で、好みが分かれそう。その手法は、さほど成功しているとは思えない。理由はいろいろあるが、主人公の感情が読めないことが大きいと思う。冒頭場面、3人の爆弾処理兵があまりにビビっているので笑ってしまった。爆弾処理兵たるもの常に冷静であるべきで、実際にそうだと思う。周囲に民間人がうじゃうじゃいるのに、警告もせず、避難・警戒線も張らず、X線透視カメラも無し。予想通り爆破したが、あんなに遠くで爆発したのにまさかの死亡はあ然。肉屋の携帯との関わりは不明のまま。次に芋蔓式の爆弾がでてきたけど、何のためのものなのか?米軍車が偶然にあの上を通るのを願うのか?万事この調子。どれも説明不足な上に、各挿話の結論が放りっぱなしだ。転機となったベッカム少年の挿話を例にとっても、何故少年をそんなに気にするのか。ベッカムそっくりさんの正体は?ベッカムのいた露天商の主に何故通訳をつけて質問しないの?人間爆弾のことを上に報告して、チームで調査すればいいのに、何故単独でベッカム家に乗り込んでいくの?何故おばさんにやられっぱなしだったの?ベッカムに再会出来て何故あんなによそよそしいの?など、すっきりしないこと甚だしい。「任務あけまであと何日」としつこく字幕を出しながら、その日を描かない。わざと難解にしているようにも思えるくらい。だから、いつまで経っても映画の方向性が見えてこない。戦争の狂気を描きたいのか、悲惨さを描きたいのか、主人公の英雄ぶりを描きたいのか、成長を描きたいのか、戦場での兵士心理を描きたいのか、友情を描きたいのか、イラクでの現状を知ってもらいたいのか。緊張感だけは伝わってくるが、手ブレカメラの多用は目に余る。主題が「戦争は麻薬だ」ということは序文にある通り。となれば、最後の場面の説明としては、「帰国して日常生活に戻ったものの、妻との会話は通じず、かえって孤独は増し、無力感に苛まれていったが、やがて召集通知が届き、主人公な嬉々として戦場に戻っていった」ということになる。この人、特に成長してないと思う。戦場でしか生きられなくなった自分を再確認したということ。それを戦争の悲劇の一面として描いた作品。戦争は兵士の精神を蝕む。
[DVD(字幕)] 7点(2012-12-20 05:52:48)
46.  ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 《ネタバレ》 
探偵役は二人。社会派で温厚なジャーナリストのミカエルと天才ハッカーのリスベット嬢。彼女は過去のトラウマから人を愛せず、コミュニケーション障害者で攻撃的な性格という設定。この設定が十分活かされている。ミカエルは追っていた悪徳実業家の罠に嵌り、裁判で有罪となるが、リスベットが無実を証明するのが副主題。ミカエルはある大物実業家から40年前の少女失踪事件の調査依頼を受ける。少女とミカエルは実は顔見知りであるという設定が巧み。リスベットは仕事でミカエルの素行調査を行っており、彼に興味を持った。失踪事件のことを知り、彼に事件解明のヒントをメールする。こうして二人の交流が始める。失踪事件は謎が多く魅き込まれる。事故で交通止めの孤島、生死不明、一族の内部抗争、犯人らしき人物から送られる押し花、残された日記の暗号らしき名前と数字、これらから一気に未解明の連続殺人事件へと発展する様相は見ものだ。これに聖書、ナチス、ユダヤ人虐殺、性的虐待、父殺しといったおどろおどろしい要素が加わるのだから重厚さは増す。性的虐待と父殺しはリスベットとリンクする。女を嫌悪する犯人を男を嫌悪する女探偵が暴くという構図の妙もある。リスベットは交通転落事故の犯人を見殺しにする。そして最後のサプライズ。少女は生きていた!これで終わりではない。リスベットはミカエルを嵌めた悪徳実業家の悪事の証拠を突き止め、ミカエルの無実をはらし、隠し口座から大金を引き出すことに成功する。ダークヒロインとしての新鮮味。彼女は人を愛せなかったが、ミカエルとは心を通わせ、ベットを共にし、音信不通だった母との和解も果たした。彼女の従来の探偵役からかけ離れたぶっ飛びぶりと成長ぶりも見所。細部まで理詰めで練られた脚本には好感がもてた。だが不満もある。ミカエルは部屋を荒らされたり、ライフルで命を狙われたりしているのに、安閑としすぎている。緊張感が足りないのだ。真犯人は直球すぎる。もっとミス・ディレクションやレッド・へリングを配すれば老練なミステリー・ファンからも大喝采を受けただろう。それと聖書、ナチスは古臭くないか?いやしくも題名はミレニアムだ。少女は連続殺人事件の真相を知りながら何故放置しておいたのか?警察に匿名投書するくらいはできたはずである。毎年生花が贈られてきて、それが犯人からのものと思うか?リベリットの貧相なヌードは不要。
[DVD(字幕)] 7点(2012-12-19 23:40:13)
47.  マルタのやさしい刺繍 《ネタバレ》 
老人による成功物語は珍しい。主題は、夢を追いかけるのに遅いということはない。夫を亡くしてふさぎ込んでいた80歳のマルタは一念発起して、若いころの夢だったランジェリー・ショップを始める。下着のデザインも仕立ても刺繍も全て自家製という凝りようだ。しかし障害があった。若者向けで肉体美を誇示するようなデザインの下着は、保守的な農村の人々にとって”いやらしいもの”としか映らなかった。伝統を汚すと理由で様々な妨害を受け、孤立し、下着は売れない。牧師である息子からは、店をたたむように詰め寄られる。しかし支持者もいた。最大の支援者はリージという熟年婦人で、陰になり日向になりマルタを励まし、モデルを務めたり、実務作業を手伝ってくれた。リージが心臓発作で亡くなることが転機となる。リージは、若い頃恋人を追って渡米したことになっていたが、それは嘘だった。しかしマルタは、彼女が本当に渡米したかのように夢のままに生きてた、その姿を思い出して、夢を捨てない決意をする。ここから成功物語が始める。それまで耐えに、耐えていた感情が一気に弾ける。老嬢なのでとても慎ましいですが。水戸黄門でいうと印籠を出す場面です。観客の胸をスカッとさせるのが、悪役が慌てふためきひれ伏す姿。ここが勧善懲悪ものの勘所で成功出来は、そこを如何に描くかにかかっている。本作でもやってくれてます。表向きだけ道義を説く息子の不倫をずばり指摘、いつもいやがらせをする男の靴元に汚物をばらまき、「あなたには美しいものを見る目がない」と噛みつく。あとは雪崩を打ったような展開で、友人の老婦人は生きる喜びを見つけたと叫び、若い女性は下着姿で歩き回り、合唱団はマルタの作った旗を掲げる。このあたりに作為が感じられるのが残念。息子の翻心はともかくも、村人の心変わりが唐突すぎる。それにマルタは、ネット販売で、既に商業的に成功しており、耐えに耐えての状況とは違う。又村人があえて妨害する事とも思えない。リージの娘が亡き母親の思いを抱いて渡米するのは泣かせる。原題「Die Herbstzeitlosen」はイヌサフランで、最後の場面の丘に咲いている花で、花言葉は「悔いなき青春」。老人と下着という意外な取り合わせのアイデアの勝利。心温まる映画です。ただ現実的に考えれば、あの高齢の指先で、あの細密な刺繍を施すのは無理かと思う。良い夢をみた気分になりました。
[DVD(字幕)] 8点(2012-12-18 14:55:07)
48.  瞳の奥の秘密 《ネタバレ》 
時代背景として1974年はペロン大統領が死去を受け、第三夫人だったイサベル・ペロンが大統領に就任したものの、政治は不安定に陥り、右左派によるテロの応酬が激化した時代。サスペンスとラブロマンスを融合させた意欲作で、カメラワークも冴えている。死刑と私刑議論も提供する社会派で、誰にでも薦めることのできる佳作である。短所は現実的でない部分が多い事だ。素人探偵ではなく、検察による本格捜査なのに、死因、犯人の遺留品、血液、精液など犯罪に関わる情報が一切ないこと。「写真で被害者を見つめている瞳があやしい」だけでは弱い。血液型が一致するなど補完すべき。被害者とその夫の家族が登場しない。悲しんでいるのは夫だけではないはず。葬儀の場面もなく、マスコミも登場しない。新婚美人教師の強姦殺人事件なら格好の三面記事ネタ。その犯人が行政命令により釈放され、イサベル・ペロンのボディーガードをしたなら世間は大騒ぎとなるだろう。まして犯人はパブロ殺害の容疑者である。二人はと夫はどうしてマスコミに訴えなかったのか。二人の泣き寝入りは納得しがたい。ベンハミンは逃亡し身を隠したが、イレーネはどうして逃げなかったのか。同様に命は狙われていたはず。母音Aの打てないタイプライターなど使えるはずもないのに「なくても平気よ」はないでしょう。せめてワープロをプレゼントしなさい。ベンハミンはPC持ってないの?犯人イシドロは、イレーネの挑発によって自白するが、安易すぎる。検事によれば「いい仕事をした。賢い勇敢な男」のはずで、矛盾する。パブロは酒場で喧嘩をしでかし、家に連絡できずに、ベンハミンの家に預けられ、そこで遭難した。家に連絡できない理由が「1年前から電話が故障して修理人が来ない」。もう少しましな理由を考えなさい。夫は犯人を25年間軟禁してきたが、あの場所なら誰かが訪ねてきたとき大声を出せば聞こえると思う。郵便配達は来るだろう。犯人はパブロ殺しの実行犯を知っているのに夫がそれを追求しないのも納得しがたい。実行犯は野放しのままで、事件は未解決。それなのにベンハミンは「怖い」から「愛している」に変わる。そもそも、ベンハミンがイレーネを愛していたようには見えなかった。イレーネの婚約を聞かされても「幸せを願っている」と笑って答えている。イレーネもベンハミンを困った人ぐらいにしか見てなかった。一番の名演技は犯人母の電話の声。
[DVD(字幕)] 8点(2012-12-14 02:57:58)
49.  ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 《ネタバレ》 
美術的なセンスは優れているのだが、演出に問題があるのでのめりこめない。例えば幽霊が何度も出現するが、ストーリーとは無関係で、集中力を削ぐ結果となっている。二つの出来事のつなぎや感情のながれもうまく処理できていない。鳥獣バックビークは処刑されるところをハリーとハーマイオニーに助けてもらい、その後二人を人狼から救うのだが、バックビークには何の感情も表われない。両者に友情が生まれないのだ。もっと感動的に演出できるはずだ。代わりにハリーがバックビークに乗って飛翔する場面が感動的な演出で表現されているが、ハリーは日常的に杖で空を飛んでいるので観る側にさほどの感興は湧かない。ハリーの味方であったはず先生の正体が人狼で、月を見て変身しハリーを襲うのだが、翌日はもとの先生の姿に戻って通常通り親しく会話をしている。この不自然さはいかんともしがたい。ハーマイオニーが突然悪童ドラコを殴る場面があるが、殴る理由はあとにならないと分からない。わかりやすく伝える努力をしてほしい。題名が「アズガバンの囚人」なのに、アズガバンの牢獄の描写が一切ないのも不満だ。恐怖の番人「吸魂鬼」の目をかいくぐって、どうやって脱獄したのかミステリーで、それを知りたいのに、完全にスルーされてしまっている。冒頭、ハリーが人間界で使ってはいけない魔法を使っても処罰されず、その理由も明確に提示されない。メインの主題は冤罪で幽閉されていたシリウスの無実が判明するということなのに、その大団円の場面がない。ネズミ男の正体もはっきしないまま、行方不明で終わる中途半端さ。このように演出が拙劣で、この監督は「魅せる」才能に恵まれていない。◆ハーマイオニーが持つタイムトラベル時計で事件が解決されるが、これが最大の問題点だ。まず彼女がどういう経緯で入手したのかが描かれていない。何度も過去に戻って、やり直しが効くというのであれば、どんな問題でも解決できてしまう。死人だって生き返らすことができるだろう。間違いないなく、賢者の石に匹敵する重要アイテムだ。大変危険でもあり、魔法学校の生徒が持っているのがおかしい。ファンタジーであっても軽々しく登場させてはいけない類のもので、これを登場させたせいで底の浅い世界観にしか見えなくなってしまっった。
[DVD(字幕)] 5点(2012-11-19 17:05:23)(良:1票)
50.  ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 - スペシャル・エクステンデッド・エディション - 《ネタバレ》 
CGによる特撮効果の長所・美点が遺憾なく発揮されたファンタジーの最高峰。 単純な戦記ものに留まらず、独自の世界観が具現され、複雑な人間ドラマ・心理ドラマを基底に展開し、人間の本質に迫る重厚で深みのある作品となっている。これを越える作品は当分現れないだろう。あえて穿った見方をしてみる。 ◆最大の疑問は、闇の冥王サウロンと指輪の関係。「指輪が破壊されるとサウロンも滅びる」のはどうしてか?あっけなさすぎるではないか。且つ、王国の城と土地まで崩壊、地下に埋没してしまうという理由が説明されていない。指輪にはサウロンの魂(生命力)が宿っているが、サウロンの魂は指輪なしでも復活したはず。両者が同時に滅びるほどの強い絆を持つ運命共同体であるならば、サウロンは指輪のありかを常に知り得るはずだ。誰かが指輪をしたときだけ知り得るとしても、ゴラムもバギンズも何度か指輪をはめたはずである。どうして存在と場所を知られずにすんだのか。指輪の方ではサウロンに近づくと重くなることから、確実にサウロンの居場所を把握しているのに。また指輪が滅びの火口に近づいているのを知りながら、どうして防御を固めないのか。危機管理がなっていない。 ◆ゴラムは、指輪をホビットのバギンズに盗まれたとどうして知ったのか?知りながら、どうして60年間もほうっておいたのか。 ◆魔法使いガンドルフが大鷲(鷲の王)を使えるのならば、最初から指輪運びに利用すればよいものを。運び人は欲望の少ないホビットでないと務まらないので、彼を大鷲に乗せて火口近くまで運べば、ことは速やかに進んだと思われる。もし発見されたとしても戦闘能力は龍よりも上なので、安心はできる。少なくとも道に不案内なホビットが徒歩でいくより確実な方法だろう。 ◆悪の賢者サルマンは、戦闘要員として、何万ものウルク=ハイ(新種のオーク)を土中から製造する。進退極まったアラゴルンが援助を求めたのが「死者の軍団」。これらは「限りある生命」を超越した存在なので、彼らが活躍しようが、戦死しようが感情移入しにくい。「限りある生命」の大切さを教える物語であってほしい。 ◆サルマンは、手下に塔から突き落とされて串刺し死するが、あっけなさすぎである。 ◆樹木の精「エント」の造形がかっこよくない。ここだけ、まるで安っぽい漫画だ。
[DVD(字幕)] 10点(2012-11-11 15:39:27)
51.  TSUNAMI-ツナミ- 《ネタバレ》 
惜しい映画だ。ディザスター映画の肝心要は何といってもパニック場面。「デイ・アフター・トゥモロー」のスタッフを招聘してCGパートを作成したと聞く。これは成功している。津波が押し寄せからの場面だけでも見る価値はある。だがそれに至るまで群像劇の描き方に物足りない部分がある。主人公の男は、数年前のスマトラ地震のときに出漁中で、自らの判断ミスで叔父を死に至らしめるというトラウマを抱えている。男は妻と別れ、一人で幼子を育てている。孤児となった叔父の美しい娘とは相思相愛だが、叔父への自責の念のため、思いを伝えられないでいる。この娘へのプロポーズのときに大地震、大津波が発生する。この人間ドラマ部は悪くない。トラウマや障害を乗り越え、さらに大津波に呑まれながらも愛を貫く姿は感動的。しかし残念なことに、残りの人間ドラマ部は、皮相的であり、とってつけたような軽薄な人間関係に終始している。男の弟がレスキュー隊員で、最後には殉職するのだが、この男の恋愛が浮ついたラブコメである。恋人は浪人生なのに女子大生と偽ったり、とってつけたような恋のライバルが登場したりで、重厚な物語の主題と乖離している。これがあるための全体の印象が浮薄に感じられる。大変損をしていると思う。さらに言えば、恋のライバルでちょこまかと動き回る小男が必要以上に登場するが、これはうるさいだけの存在でしかない。もう一人の主人公である地震博士は、離婚した妻と娘との家族愛を取り戻す物語であるが、描き方が通り一遍でしかなく、ころころ性格の変わる妻にはいらいらさせられる。これに加え、漁村をリゾート化しようという開発派と、反対派の対立が描かれる。地震・津波の科学パートだが、目新しい発見や発明があるわけでもなく、見るべきところはない。メガ津波といった言葉だけが大仰で、地震観測や地震予知に関してはおざなりしか描かれていない。監督は興味がないのだろう。韓国で興行収入歴代四位を打ち立てたそうだが、よほど宣伝がうまかったのだろう。
[DVD(字幕)] 6点(2012-11-08 21:05:21)
52.  彼とわたしの漂流日記 《ネタバレ》 
これは拾い物。隠れた名作的位置づけにあたる作品だ。生きる希望を失い、孤独な生活を続ける二人の男女が知り合い、奇妙な交流を通じて自己再生していく物語。その”奇妙さ加減”が抜群に面白く、コミカルな小ネタもふんだんで、観る者を飽きさせない。意表を突く展開の連続で、先が読めない小気味さがある。丁寧なカメラワークで二人の繊細な内面を写しだす手法には感服する。韓流特有のオーバー・アクションや感情過多は少なく、むしろ控えめな演出で、日本人には共感しやすい。◆男はリストラ、離婚、借金苦で、人生に絶望し、橋から投身自殺を図るが、漢江の中洲の無人島に漂着する。最初は助けを求めたり、自殺を図ったりしてあがくが、いつかサバイバル術を覚え、そこに住み着くようになる。砂浜に描いたHELPがHELLOWに変わるのがおかしい。女は三年間、マンションの一室で引きこもり生活を続けている。両親とは会話もしないが、ネットでは別人になりすまし、偽りの対話で自らを慰めている。趣味は月の写真を撮ること。月に人類はおらず、完全な孤独なところに魅かれるのだ。年に二度、地上を撮ることがある。有事訓練で路上に人がいなくなるときがあるのだ。そのとき女のカメラが偶然に中洲の男を捉えた。男が孤独であると知った女は、内なる欲求に抗いきれず、ついに男との交流を図る。それが何とも不器用で、朴訥で、はがゆく、おかしく、そして微笑ましい。最初の返事が来るのに二月半もかかるし、メッセージも一行だけという慎ましさだ。だがこの交流で二人の心に変化が芽ばえ、徐々に人間らしさを取り戻していく。その過程はやわらかく、しなやかで、孤独がちな現代人に温かいメーっセージとなって伝わってくる。◆台風の日、女はネットでのなりすましがバレて、逃避先を失う。男も台風の清掃にきた職員に発見されて、島を追われる。絶望した男は自殺を決意する。それを止められるのは女だけだ。女は必死に走って男の乗ったバスを追い駆けるが追いつけない。もうだめだと諦めたとき、奇跡が起きる。漸く初対面を果たせた二人の眼から溢れでる涙。それは忌まわしい過去を流し、本来の自分を取り戻した喜びの涙だ。沖を流れるアヒルの船が映し出されて終了。この船は、男が住居としていたもので、男は”醜いアヒルの子”を自認していた。”醜いアヒルの子”との訣別という象徴性に富んだエンディングに拍手。才能のある監督です。 
[DVD(字幕)] 9点(2012-11-08 14:01:12)(良:2票)
53.  サブウェイ123 激突 《ネタバレ》 
評価の高いオリジナルにも関わらず、目を覆いたくなるほど酷い脚本に堕している。事件の概要や各キャラクターからして、地下鉄の専門職員と知能犯と市長を含めた警察の三つ巴の知能戦が繰り広げられると期待するが、これといった捻りもなく、数々の伏線も回収されずに終了、消化不良どころか、欲求不満になる。そもそも、「59分以内に1000万ドル持って来い」という要求が無茶だ。いくら市の公金とはいえ、そんな大金を簡単に用意できないだろう。ましてや場所は、地下鉄のどこか。途中、現金輸送車両が交通事故に遭うが、間に合ってしまうのだから呆れてしまう。たとえ身代金を奪ったところで、札番号が記録されているので使えない。スーツケースを要求しているが、発信機が付いているくらいの察しはつくだろう。「小型飛行機を用意しろ」という要求はどうなったのか、話題にすら上らない。身代金とは別に、金相場で儲ける算段だったようだが、地下鉄の人質事件発生程度で、金相場が変動するはずもない。発生から1時間しか経っていないのだ。犯人と職員とのやり取りだが、意味が汲み取れない恨みがある。犯人は職員に何故あれほど拘るのか。職員の収賄事件の真相はどうか。犯人が自分の事について正直に話すのは何故か。会話の意図が不明なのだ。犯人の身元が簡単に割り出されてしまうのも興ざめだ。逃げおおせるつもりなら、目出し帽くらい被るだろうに。従犯の二人があっさり警察に包囲されてしまうが、どうして犯人とわかったのか。完全包囲の状況で拳銃を撃つのは自殺行為だ。単純に馬鹿なのか。職員と妻の会話も不可解だ。妻が牛乳1ガロン要求しているのに、職員は半ガロンといい、実際半ガロンしか持参しない(ようにみえる)。4人家族なのに子供達は登場せず、子供達とうまくいっていないことが示唆されている、収賄裁判があり、ハッピーエンドにはみえない。感動が得られないのはこのため。それ以前に、事件後、職員が何の取り調べも受けずに家に返されるものは解せない。射殺して取り調べ無し!警察は、最初あれほど犯人との関係を疑っていたのに。結局、犯人によせ、職員にせよ、警察にせよ、一貫性がないので混乱させられるばかり。その他、思わせぶりの市長、職員を敵対視する同僚、パソコンのウェブカメラ、暴走電車など、好材料が生かされていない。身代金は1000万ドルだが、映画制作費は1億ドル。こちらの方が驚き。 
[DVD(字幕)] 5点(2012-10-19 03:31:02)
54.  陰陽師Ⅱ 《ネタバレ》 
平安時代中期の時代に、古事記の神話をもってこられても、当惑するだけだ。この時代錯誤ぶりが、脚本の命取りとなった。 「18年前に朝廷は、将来反乱する恐れのある出雲族を滅ぼした。その出雲族の怨念が……」という設定だが、どうにも安意過ぎる。”荒ぶる神”スサノオを復活させ、天叢雲の剣、天岩戸伝説が出てきたりと、神話を換骨奪胎しただけの薄っぺらさ。本来、平安時代の陰陽師と接点がないものなので、違和感がつよい。平和時代は、もう「大和」や「出雲」の時代ではない。それに、出雲族が恨みを持つのは、出雲族を滅ぼせと命令した天皇に対してのはずで、どうして平安京すべてを破壊し、無垢な庶民まで抹殺しようとするのか?出雲族の王、幻角の憎む「大和」の定義は?「大和」は誰を指すのか?須佐がスサノオに変貌するとして、須佐の姉、日美子までがアマテラスになるのはどういうことか。納得いく説明がない。アマテラスの肉を食べなければスサノオになれないというのなら、その理由はなにか?アマテラスが天岩戸に籠っているのは何故なのか?安倍晴明が生き返ったあと、琵琶を弾いていた幻角が死ぬのはどうしてか?等々、あいまいな部分が多く、物語に一本、筋が通ってないので、観客は置き去り食うことになる。他にも、スサノオの御印(みしるし)がヤマタノオロチであったり、出雲国が京都のすぐ近くにあったり、18年前の遺体がそのまま遺棄されていたりと、疑問点が多い。 他方、安倍晴明の活躍ぶりであるが、これがアマノウズメに女装して舞うだけという腰砕けぶりだ。あとは出現したアマテラスがスサノオをうまく懐柔しておしまい。弟を思う姉の愛に感動?し、恨みを捨てた幻角は、ある種の術を使い、晴明を生き返らせる。前回といい、生命を軽んじている傾向がある。土台、神に対して人間が立ち向かうという話に無理があるのだ。神を鬼のような姿にしたところで説得力を持たない。もっと想像力を駆り立てるような演出がほしい。ところで幻角は白髪を染めたのか?
[DVD(邦画)] 4点(2012-10-04 17:56:24)
55.  陰陽師 《ネタバレ》 
晴明と博雅が、「お前は本当に良い男だ」「お前もな」と笑い合って終わるが、これにどれほど共感するか映画を観た満足度が測れると思う。全く同感できなかった。二人が親友として認めあうには、相互扶助の関係があってこそ。なのに博雅は晴明に一方的に助けられるだけの存在。青音によれば「二つの星が一つになったのは、晴明と博雅が二人で都の守り人となったこと」を意味するそうだが、その説明が欠落している。「一方が死ねばもう一方も……」と暗示するが、博雅が死んでも、晴明には何の影響も現れなかった。悪の権化、道尊だが、この人の内面が描かれていないのが、ドラマとしての最大の難点だ。陰陽師として高い地位にあり、そこそこの暮しをしている。そこに何の不足があるのか?人間や世の中に関心はないのに、どうして天皇を亡きものとし、都を地獄と化すことに執念を燃やすのか?そのあたりの動機がみえてこない。それにあれほどの術が使えるのなら、天皇を意のままに操ることなど朝飯前だと思うのだが……。早良親王も同様で、通り一遍の描き方しかされてないので、遺恨や怨嗟は伝わらず、ましてや青音との愛は空疎にみえる。早良親王憤死の顛末を20分程費やして描いていれば、いくらか深みがでたと思う。最大の見せ場は晴明と道尊の術合戦だろうが、結果は肩透かしだ。道尊はいろいろと術を使うが、晴明は結界を張っただけ。それに嵌ったは道尊はあっけなく自死する。ここは二転、三転して盛り上がりを見せるべきところ。それに晴明が術を使うのにつぶやくだけなのは迫力に欠ける。気分が高揚しないのだ。痛快活劇伝奇映画として失格。自死といえば、右大臣の自死も物足りない。こちらは自死の理由も不明だ。技術的な不手際も目立つ。からくり仕掛け丸出しの式神烏や蛇、苦笑するしかない鬼の面、チープなCG、冬枯れの庭に無理に咲かせた花。夕日の中で博雅が笛を吹くと青音が出現するが、その場面は夜になっている。道尊が帝を追い詰めてゆくと、ほぞを固めた帝は、「自分を差し出せ」とまで叫ぶが、その後は姿を現さない。やっつけ仕事のオンパレードだ。何がなんでもこんな映画を創りたい、こんなことを伝えたいという映画愛や情熱が感じられない。こだわりがないのだ。最後に、早良親王の恋人で永遠の生命を持つ青音は、二十歳くらいの娘が演ずれば絵になるものを、年増が演じたのでは台無しである。恋愛パートも失格。
[DVD(邦画)] 6点(2012-10-04 03:31:45)(良:2票)
56.  シャーロック・ホームズ(2009) 《ネタバレ》 
登場人物中、最も頭脳明晰なのはドワーフ(小男)だろう。電波受信装置、遠隔操作装置、防御システムなど、新発明ふんだんの青酸ガス発生兵器を完成させている。シャクナゲ毒の擬死薬や銅と反応するしびれ薬、石を繋ぎ止めておけるが雨で流れる蜜の接着剤、無味無臭で発火性の強い粉末、青酸ガスの解毒剤(本当にあったら大発明)なども作っている。まさに天才。対してホームズは、拳銃の消音装置は失敗。首吊実験は自力で降りれない。せいぜい或音階で蝿が回転飛行する習性のを発見した程度。その蝿を捕まえるのに6時間もかけている。小男なら腐臭を利用するだろう。大人と子供で比較にならない。こんなに利用価値の高い男を殺してしまうブラック・ウッド卿は愚者です。◆19世紀のロンドンを再現したセットやCGは見る価値がある。ハイスピード撮影された連続爆破場面が最大のスペクタクルだった。アイリーンの立ち位置が秀抜。ホームズの元恋人で盗人、男勝りでやたらナイフや拳銃を取り出す、敵であり、味方であり、ある人物に恐喝されている。演出を次第でもっと活きた。裸で手錠はかんべん。ホームズはやんちゃで、ワトソンと別れたくない甘えん坊。二人は共依存。探偵ものだが、謎解きや推理要素は希薄。例えば絞首刑で死なないトリックは、フックと隠しベルトとかの小学生レベル。服を調べれば判ることで、関係者全員を買収しないかぎり無理。アクション重視の娯楽映画だ。そのアクションだが、屠殺場の機械でアイリーンが屠殺されそうになり悪戦苦闘するが、電源を切ることを思いつかない。大男と対決する造船所の場面が最も大仰で華やかなのに、タワー・ブリッジでの最終対決はスケール・ダウン。前半あれだけ強調されていた、ホームズの相手の行動を予測して打ち負かす戦闘能力が中盤後半失われるなど、ちぐはぐだ。さりとてテンポが早く映像もスタイリッシュなので退屈はしない。【気になった点】①メアリーの事を知っていた女手相見はホームズの仕込み?②ブラックウッド卿が父トマス卿から指輪を抜き取った理由。家督継承の意味?③ホームズが医者に化けてワトソンを治療する意味。医療技術あるの?変装がメアリーに見破られてる!④自分の血を垂らしてまで、悪魔の儀式を再現する理由。⑤ホームズがワトソンに贈った婚約指輪のダイヤは、アイリーンから奪ったブレスレット?⑥警察所の遺体を自宅アパートに運んで調べる?論外。
[DVD(字幕)] 7点(2012-09-22 17:01:33)
57.  母なる証明 《ネタバレ》 
 母性が理性に勝ったという映画。それだけではなく、きれいごとでは済まされない母性の本質をえぐり出した問題作。世に氾濫する勧善懲悪の御都合主義映画などとは無縁。「母の愛は永遠」などと考える楽観主義者にビンタを食らわせるような衝撃があり、実に見ごたえがある。単純にサスペンスとしてみても面白い。知恵遅れの息子が殺人の冤罪、ど素人の母親が探偵役で、容疑者が次々に登場、遂に真相にたどり着くが、そこには悲劇が待っていた。どんでん返しの妙があります。しかしこの作品の主題は母性。正直母親は怖いと思いました。愛は盲目の箴言の通り、母にとっては知的障害の子供はどうしても過保護になりがちで、自分と同一化してしまう傾向にある。自分が辛くなったときには殺してしまおうと考える。これが心中未遂。息子の冤罪を晴らすためには、全てをなげうって一心不乱に邁進する、その姿には心打たれる。息子が真犯人だと判った瞬間、逆上して目撃者を撲殺し、証拠隠滅の放火までする。総て母性のなせる業、愛こそは全て、善も悪も超えている。しかし因果応報の理あり。息子が心中未遂事件を思い出して、「母が僕を殺そうとした」と復讐される。息子が焼け跡から針道具を回収してきて、罪の意識が決して逃れることがないことが暗示される。母と子の関係が一生消えることがないのと同様、罪の意識は永遠に母親を苛む。そして真犯人にされた無実の男との対面。男は息子と相似で、軽い知的障害がある。しかし母親はいない。そのことに涙するのは、男はこの先、誰の愛も受けられれず、殺人の汚名を着て生きていかなければならないことを知っているから。この男への罪の意識も重い。これから二重、三重の苦しみが待っているが、母として息子のために生きていかなければならない。夕日の中の踊りは、苦しくとも、明日に向かって生きる勇気を振り絞る決意の表れだろう。◆警察の杜撰すぎる捜査や堕落しすぎている弁護士など、リアリティに欠ける部分があるのは惜しい。「ゴルフボールだけで逮捕」はありえない。伏線の回収は見事でした。息子はバカと言われたら暴力で立ち向かうように躾られていた。被害者は常日頃から鼻血を出しやすい体質。屋上に置かれた死体の謎。廃品回収の人は善い人。ゴルフクラブの血というミスリードもナイスショット。息子の悪友の容疑者から捜査協力者への転換なども見事、映画の勘所を心得ている監督です。
[DVD(字幕)] 8点(2012-09-10 18:20:29)
58.  96時間 《ネタバレ》 
乗り切れない映画。主人公が17歳の少女の父親としては老け過ぎていて違和感が。元CIAで、海外での仕事が忙しく、家庭を顧みなかったことが主因で離婚、今は退役という設定。別居している娘を想う気持ちはわかるが、「娘のことだけ考えている」「娘と会いたいから娘の近くに住んでいる」「娘さえいればいい」と、クドすぎる。どこか嘘っぽい。そしてこの娘が、感情過多で観ていていらいらさせられる。17歳になっているのに誕生日のプレゼントに大はしゃぎしたり、旅行を父に反対されると泣いて店を飛び出したり。挙句の果てに父を騙して旅行し、ナンパされて誘拐されてしまう。あまり同情できない。父が救出に向かうのだが、警察には届けないし、一緒に誘拐された女友達の両親にも知らせないという無軌道ぶり。パリに警察幹部の知人がいるのだから、連絡しない手はないはずだ。犯罪組織に警察の目こぼしがあるのは、あとでわかる話。捜査方法にも疑問が多い。ナンパ師が事故で死んでしまったあと、ナンパ師の仲間の黒人を問い詰めないのはどうしてか?売春婦のボディガードの男の服に盗聴器をしかけ、「建築現場で新商品のトラブル」とだけ聞いて、どうやってあの現場に行けたのか?建築現場にいバラックでカーテンで仕切っただけの売春宿があったけど、パリではそんなものが実在するのか?警察幹部の妻の腕を銃で撃つのは筋違い。妻とは古くからの知り合いだし、隣室に子供達もいるのに。撃つのは警察幹部の方。喜んでるけど、ハッピーエンドじゃない。娘の友人が変わり果てた姿で死んでも何にも感じないのか?何にも感じないんでしょうね。 
[DVD(字幕)] 6点(2012-09-10 01:01:41)
59.  ゼロの焦点(2009) 《ネタバレ》 
有名な原作。改変や補追が多いが、全体的に人物の性格や行動に一貫性がなくなってしまっているように思える。 室田儀作社長は後妻、佐知子の過去を調べ、元パンパンだったという事実を知ってからも彼女を愛し、彼女が殺人犯と知ると、その罪をかぶるため拳銃自殺する。しかしそれ以前の社長は、従業員を情け容赦なく馘首する経営者であり、水商売の女給達を家に呼びこむ女好きであり、妻との約束は忘れるし、妻の政治活動を冷笑していた。あまりにも違いすぎる。 佐知子が娼婦になったのは、戦争で両親を失い、自ら糧を得る必要に駆られるた事と弟の学資を稼ぐため。ところがその弟、画家になったはよいが、昼間から酒を飲んで目つき鋭く、不気味な雰囲気で登場。何故か姉の肖像画を制作中。それも大邸宅なのに応接間をアトリエにしているという不自然さ。弟は事件に絡まず、後半普通のキャラに。禎子は終始慎ましい態度をとるが、最後では演壇の佐和子に向かって「マリー!」などとアジる。◆不自然な点もある。憲一の兄が死ぬ場面。前のめりに倒れ込むのに、次のシーンでは後ろ向きに障子ごと倒れる。本多の”立ち往生”も疑問。女性に包丁で背中から一突きされただけなのに、体を貫通して壁に串刺しになったような印象。その前に勝手に留守宅の座敷に上り込むなと言いたい。憲一の兄が佐知子に「田沼って女、米軍相手のパンパンじゃなかったかと思うんですよ」と言うが、その根拠は何か?田沼とは一度会っただけである。実はホームズ並みの推理能力の持ち主だったのでは?惜しいことをした。佐和子が憲一を突き落す時「このまま背中を押せば誰が見ても自殺……」などと心中を縷々披歴するが、総て観客にはわかっていることで蛇足そのもの。映像で感情を伝えるのがプロ。◆原作との最大の違いは、佐和子の運命、苦悩をクローズアップしている事。戦争被害者の立場を強調し、運命に翻弄される弱い女性を演出し、初の女性市長誕生のために奔走する姿を描く。狙いは分るが、細部に不自然な点が多く、彼女の苦悩は伝わってこなかった。
[DVD(邦画)] 4点(2012-08-17 21:24:19)
60.  ティンカー・ベル 《ネタバレ》 
今まで秘密のベールに隠されてきた妖精たちの誕生の様子や仕事ぶりが堪能できる。夢のある話で、家族向けのそつのない仕上がりという印象だが、大人目線で見るとアラも目につく。鑑賞後わが意を得たと気はしない妖精と風景のデザインは、かろうじて合格ライン。それなりに可愛いし、それなりに精緻で美しいレベル。残念なのは妖精たちの動きがぎくしゃくしているところ。顔の表情も「豊か」とはいえなず、手抜き感がある。 内容面で、不満という程ではないが、いくつかの疑問がある。 まず「走りアザミ」の正体がわからないこと。植物なのか、妖精の類なのか、妖精がいたずらしているのか。まあ、これは大した問題ではない。妖精の国の話だから。この「走りアザミ」の暴走で被害がでて、メインランドに春を届けるには数ヶ月も遅れるということだが、さほど被害が甚大とは見えなかった。 それから他の妖精は”妖精らしく”魔法を駆使しているのに、もの作り妖精達だけは手作業中心なのも気になった。tinkerは「鋳掛屋」なのでそうしたのだろうけど。人間の国から流れてきた忘れ物を改造して妖精の道具を作るのだが、出来たものは人間の使う道具に似すぎている。もっと妖精にふさわしい、夢のあるものにしてほしかった。道具作りが進化すると、妖精の谷「ピクシー・ホロウ」でも「モダン・タイムズ」のような事態になりはしないか心配になった。そもそも妖精は自らの喜びのために自然や人間のためにいろんなことをするのであって、労働やノルマとは無縁と思われる。「赤ん坊が初めて笑ったときに妖精が生まれる」ということなので、子供達に奉仕するのが喜びなのだろうか。妖精社会が遊びと自由の楽園ではなく、緩やかとはいえ労働社会・管理社会であっては子供達の夢もしぼみがちではなかろうか。子供たちが観たい妖精の姿は、自由気ままに飛び回り、遊び、いたずらする姿と思う。自分達のあこがれの投影として、妖精を観る。子供達が自由で気ままなのだから、妖精はそれ以上のものであってほしい。考えてみれば生まれてすぐ労働というのも過酷ではないか。 才能を決める儀式でせっかく得た石斧を使わないのは惜しい気がした。キーアイテムにできたのに。 妖精が鷹に追われことに対して疑念がわく。雛のときに飛ぶ手伝いをしてあげなかったの?それとも天敵?まさか。実際の天敵は上記のような理屈をごたごたこねる大人でしょうけどね。
[DVD(字幕)] 7点(2012-08-13 11:42:18)(笑:1票)
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