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プロフィール
コメント数 2483
性別 男性
自己紹介 〈死ぬまでに観ておきたいカルト・ムービーたち〉

『What's Up, Tiger Lily?』(1966)
誰にも触れて欲しくない恥ずかしい過去があるものですが、ウディ・アレンにとっては記念すべき初監督作がどうもそうみたいです。実はこの映画、60年代に東宝で撮られた『国際秘密警察』シリーズの『火薬の樽』と『鍵の鍵』2作をつなぎ合わせて勝手に英語で吹き替えたという珍作中の珍作だそうです。予告編だけ観ると実にシュールで面白そうですが、どうも東宝には無断でいじったみたいで、おそらく日本でソフト化されるのは絶対ムリでまさにカルト中のカルトです。アレンの自伝でも、本作については無視はされてないけど人ごとみたいな書き方でほんの1・2行しか触れてないところは意味深です。

『華麗なる悪』(1969)
ジョン・ヒューストン監督作でも駄作のひとつなのですがパメラ・フランクリンに萌えていた中学生のときにTVで観てハマりました。ああ、もう一度観たいなあ・・・。スコットランド民謡調のテーマ・ソングは私のエバー・グリーンです。


   
 

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41.  唄う六人の女 《ネタバレ》 
伝説のカルト映画『狂わせたいの』や未だに熱狂的なファンがいるバラエティー番組『オーマイキー』などで知られる石橋義正の、なんと13年ぶりの監督作品です。自分はその13年前の『ミロクローゼ』しか観ていないのですが、これもかなりのオフビートで度肝を抜かれました。その後はなんの活動も耳にせず「どうしちゃったんだろう?」と訝っていたらまさかの13年ぶりの映画製作、ただただ驚きましたよ。しかも『ミロクローゼ』で一人何役も怪演した山田孝之が出演、この人はアイドル好きだったりするしユニークなことに対する審美眼の様なものを持っていて信頼できる俳優です。 とんでもない山奥で謎の六人の美女たちに囚われてなぜか森から脱出できない二人の男、私はこの不条理劇の様な前半パートが好みです。なかなかの美形を揃えたこの六人、うめき声の様なものは発するけど全編で無言・セリフなしというシュールさもいいですねえ。彼女らには一応はキャラ分けはされているけど、ずっとリクライニングチェアに横たわってただ足を上げたり下げたりするだけの女は際立ってわけが判らん存在でした。冒頭からしてやたら昆虫や蛇が出てくるので耐性がない人にはきついかもしれないが、思うに彼女たちは森に生きる昆虫や両生類などの化身というか精霊みたいな存在と解釈できるでしょう。伏線回収を図ってゆく後半部は、核廃棄物処理施設なんかが出てきて理屈っぽくなったのは自分としてはちょっと残念な感じ、もっと不条理性をつき通して欲しかったな。でも山田孝之や竹野内豊の最期にはリアルとファンタジーの境目が意識され、良い幕の閉め方だったかと思います。 この映画は石橋義正の三本しかない劇場映画の中では尺は最長だし、これでもその中でもっとも一般受けしそうな作品かと思います。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2024-10-25 21:55:53)
42.  ふたりの女王 メアリーとエリザベス 《ネタバレ》 
原題の通りでこの映画はスコットランド女王メアリーの物語で、イングランド女王エリザベスは言ってみれば狂言回しの様なストーリーテリングでした。ドロドロ・グチャグチャと言えばイングランドのチューダー朝のお家芸ですが、スコットランドのスチュアート朝も決して負けてはいませんね。スコットランド貴族たちの“裏切り御免!”ぶりは、皮肉ですけど観ていて清々しいほどです。なんといってもシアーシャ・ローナンの堂々たるメアリー女王演技には、あの少女がここまで立派になって…と感無量です。マーゴット・ロビーがエリザベス一世を演じるわけですが、天然痘を患って顔にあばたが残ったという割と知られた史実通りのメイクを再現しているところは、エリザベス女王が登場する映画で初めて観たような気がします。まあこれは、美貌でメアリーには負けるというエリザベスのコンプレックスを強調する意味合いがあるんだろうな。この映画ではメアリーがイングランドに亡命するまでのいわば彼女の人生の前半部がメインで、夫ダーンリー卿の爆殺の黒幕と疑われる根拠となった“小箱の中の秘密”事件や亡命後の数々の反乱計画などはスルーとなり、かなりメアリーに感情移入させる様な脚本になっています。あと、なぜかエリザベスの側近の一人が黒人、侍女の一人がアジア系の女優をキャスティングしているところがなんか奇妙。こういう物語上はあり得ない人種の俳優をあえて使う映画は他にも観た気がしますが、これも最近うるさいポリコレの影響なんでしょうか?そしてクライマックスでの、二人の女王は顔を合わせることがなかったという史実を超えたフィクションの会見、あの何枚ものベールをかき分けてついに果たした対面には二人の女としてのバチバチ感が緊張感を作っていました。 けっきょくエリザベスでチューダー朝は断絶してメアリーの息子ジェームズがイングランドの王になるという結末には、歴史の皮肉を感じさせるものがあります。メアリーのエリザベスへの最期の言葉は「あなたはいつか、私の流した血を思い起こすことでしょう」だったそうですが、苦悩の果てに死の間際に次王に指名したのがメアリーの血を引くジェームズだったのも皮肉です。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-22 22:55:54)
43.  探偵マイク・ハマー/俺が掟だ! 《ネタバレ》 
考えてみれば、原作は読んだことないしマイク・ハマーが出てくる映画と言ったら『キッスで殺せ!』しか観たことないし、確かに『キッスで殺せ!』のハマーとはかなりイメージが違うところはあります。でもどちらも助手がセクシーな美女だという共通点もあるし、製作された時代の違いはあるけど妙にエロに力が入っているところも似ているかな。原作が出版されたのが40年代ですから設定や時代背景は当然アップデートされていて、マイク・ハマーはベトナム帰還兵でなんかよく判らんが軍やらCIAが絡んだ陰謀に巻き込まれるというお話しになっとります。何が起こっているのかよく判らない説明不足気味なストーリーテリングはハードボイルド映画のお決まりなのですが、アーマンド・アサンテのマイク・ハマーがあまりにカッコ良いんでそんなことあまり気になりませんでした。私立探偵にしては珍しく愛銃がブローニング・ハイパワー、こいつは弾倉に13発も詰め込んでいる軍用拳銃で、そりゃ戦闘力は強めです。愛するペットは熱帯魚なんだけど、外出するたびに何匹か死んでしまって嘆くのが可笑しい。彼アーマンド・アサンテはイケメン過ぎて主役スターを喰っちゃうのか脇役で使われることが多い俳優だが、こうやって主役を張ると改めていい役者だなあと再認識させられました。B級ながらもテンポがよくアクションもキレてるし良作だと思います、ただ難点としてはいろいろ詰め込み過ぎて判りにくいストーリーだったということかな。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-19 21:58:20)
44.  大人の見る絵本 生れてはみたけれど 《ネタバレ》 
最近“親ガチャ”なる言葉というか概念が流行ったが、この映画のテーマはまさに“昭和初年の親ガチャ”物語と言えるでしょう。これはもうどんな人間にも付きまとう不合理かつ宿命みたいなもんで、子供は自分の名前さえ選べないんだからどうしようもないことでしょう。この映画の時代のようにそりゃ戦前の方が貧乏人と金持ちの差は大きく、一種の階級社会みたいになっていたんじゃないかな。明治時代なら勉学や努力によって偉くなる=立身出世という“坂の上の雲”があったが、国家体制の骨格が固まってしまった昭和の時代には、日本社会に階層の固定化という閉塞感はあったと思います。 そんな金融恐慌が社会につけた傷がまだ癒えない時代の、中流サラリーマン氏の奮闘物語です。勤務先の専務の居住地近くに引っ越してきた吉井氏、上司へのへつらいがが功を奏してやっと課長の座を射止める。劇中頻繁に往来する電車は池上線なんだそうで、となるとあの郊外風景は旗の台とか雪が谷大塚あたりなのかもしれないが、現代の感覚ではまるで奥多摩の奥地みたいな風景です。主人公一家はこの線路脇に住んでいてそれは頻繁に電車が走るところが映りまるで現代の山手線のダイヤの様な錯覚がおこるけど、当時にこんなに電車の本数が多いわけがない。これは小津が意図してフレームに入るようにダイヤに合わせて撮影したみたいで、彼独特の東京的なものへの拘りとして意味があるのかもしれない。前半は吉井氏の二人の男児の日常生活と近所の子供たちとの交遊がメイン、この子役たちがサイレントとは思えない瑞々しい演技を見せるんです。近所のガキ大将グループに一人だけ幼女がくっついて来るが、この子の背中に「食べ物を与えないでください」みたいなことを書いた張り紙が貼ってあるのが面白い。雀の巣から卵をかっぱらって生で食べちゃうのにはびっくりしました、これって健康に害はないんだろうか?そんなガキ大将グループには専務の息子・太郎もいて、太郎の家で観た8ミリ上映会で会社で専務に媚びて完全にピエロとなった父親の姿を観てしまい、兄弟は親ガチャの悲哀に打ちのめされるのでした。 ここからの展開はパターン通りながらもいかにも小津映画らしくて印象に残ります。あれだけ痛いところを突く暴言を浴びせたなら戦前の父親なら例え小学生でも叩きのめしそうですが、せいぜいお尻ペンペンぐらいであとは内省してしまう人物像はいかにも小津作品らしいキャラでした。サイレント映画ですから字幕はそれこそ最小限という感じでしたが、不思議と声は聞こえずとも演者の言っていることが理解できるんですよね。何でもかんでもセリフで説明するストーリーテリングしかできない監督が日本では多いんですから、少しはこういうサイレント映画から学んで欲しいもんです。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2024-10-16 22:40:31)
45.  ニュースの天才 《ネタバレ》 
アメリカでは『The New Republic』誌は政治問題を主に扱ういわゆる高級誌という位置づけなんだそうだが、例えとしては適当じゃないかもしれないが一昔前の朝日ジャーナルみたいな感じなのかな。その雑誌の若い20代の記者が書いた捏造記事のお話ですが、日本でも最近(自称)高級新聞の誤報(ほとんど捏造というのが正解)事件があったので興味が惹かれる題材です。この映画を観れば判るけど、この記者が捏造した記事は、お堅い政治記事が並ぶ同誌の中では暇ネタに分類されるような面白さを追及した記事です。こう言ってしまうと身もふたもなくなるが、国益を損なうというか国際問題にまでつながった(自称)高級新聞のやらかしとはスケールが違います。『The New Republic』誌の事件はあくまで記者個人がやらかした捏造で社の組織的な関与が疑われる日本のケースとは別種ですが、捏造された数十本の記事を解明してきちんと謝罪したこの雑誌の姿勢は見習うべきでしょう。 ヘイデン・クリステンセンが演じる捏造記者は、彼の爽やかなイケメンぶりにも関わらず終始反吐が出るほど嫌なキャラです。編集長から追及されている時には逆切れして彼に無茶苦茶な論旨で責任転嫁し、クビになって弁護士同席で査問されるまで非を認めないというクズっぷり、もっと初期に「ごめんなさい、捏造しちゃいました」と謝罪すれば良かったのにねえ。実に幼稚なサイト捏造や手製丸わかりの名刺、おまけに弟まで使って偽物を演じさせる、あれで何とか切り抜けられると思っていることに観ていて腹立たしくなってしまいます。こういう逆感情移入とも言うべき効果を観客に与えていること自体が、この映画の秀逸なところなんでしょう。彼を追いつめてゆく編集長ピーター・サースガードの、真相を知るにつれてどんどん無表情になって口数が少なくなってゆく演技、本当に怒った大人って確かにこうなりますよね。対するクリステンセンは追い込まれると被害者ぶって部屋の片隅でうずくまって同僚に媚びを売る、これはもう大人と子供の物語という感すらありました。 卒業した高校で成功した先輩が職業体験授業をしているという語り口が並行するストーリーテリングですが、ラストでそれがクリステンセンの妄想(捏造)だったという幕切れも秀逸でした。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2024-10-13 22:24:33)(良:1票)
46.  スイング・ステート 《ネタバレ》 
“スイング・ステート”とは、米国の大統領選挙において共和党と民主党の支持勢力が拮抗していて、選挙の度に勝利する政党が変動する州のことだそうです。報道機関によって定義の差異はあるけど、アリゾナ州やフロリダ州など12から15州がスイング・ステートだと認識されていて、本作の舞台となる中西部ウィスコンシン州は代表的なスイング・ステートだとされているみたいです。 2016年の大統領選挙後から話は始まり、予想外の敗北だった民主党ヒラリー・クリントン陣営の選挙参謀だったスティーヴ・カレルは大ダメージを喰らう。ディアラーケンというウィスコンシン州の片田舎で住民僅か5,000人の町で、住民の前で共和党的な政策に異議を唱える退役海兵隊員クリス・クーパーの動画が失意のどん底状態の彼の眼に止まる。この人物を民主党から選挙に立候補させて町長にすれば、スイング・ステートであるウィスコンシン州に次回の大統領選での民主党勝利のくさびを打ち込めるというアイデアを思いつく。クリス・クーパーを口説きに現地に赴くが、選挙戦の実務は部下に任せるつもりだったのに自身が選挙参謀になる羽目になってしまう。民主党の大物選挙参謀が片田舎の町長選を仕切るということがマスコミに取り上げられると、現職を助けるために共和党も大物選挙参謀を送り込んできた。 この女性選挙参謀がローズ・バーンなのですが、因縁の男女の選挙コンサルタントがかち合うというプロットは、17年製作のサンドラ・ブロック主演の『選挙の勝ち方教えます』と同じだけど主人公が男女入れ替わっていますね。スティーヴ・カレルのキャラは“(ワシントン)DC・ゲイリー”と町民からあだ名がつけられる様な、内心では田舎をバカにしている都会風を吹かす嫌な感じの男です。ローズ・バーンもあの手この手を繰り出して選挙戦は過熱してゆき、両党ともに巨額の資金を投入してゆきます。スティーヴ・カレル主演の割には意外とコメディ要素は少なめ、ちょっと退屈な映画だと思って観ていたら、ラストではまったく予想外のどんでん返しを喰らって「これはやられた!」と嬉しい反応をしてしまいました。ネタばれになるからこれ以上詳しくは言えませんが、ぜひとも観て確かめてください。とにかく米国選挙制度で動かされる巨額のカネと、民主・共和両党とマスコミのいい加減さというかアホさぶりを強烈に皮肉った結末になっています。この映画に出てくるセリフですが、まさに米国には“選挙経済”というものが存在するみたいです。あと「選挙は数字!」、これもなかなかの名セリフでした。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-10 22:09:21)
47.  運び屋 《ネタバレ》 
クリント・イーストウッドが闇バイトに応募して麻薬の運び屋になる!いやはや、最初にこの衝撃のプロットを聞いた時には、あのハリウッド・レジェンドが演じるような役じゃないだろって思いましたよ。実話に(あくまで)ヒントを得た脚本なんだそうですが、実際に逮捕された老人とはデイリリー園芸家だったことぐらいが共通点、この老人は逮捕されるまで20年ぐらい麻薬組織のために働き、しかも自分から組織に売り込んで運び屋稼業を始めたらしいです。逮捕されたときは90歳で認知症が進行しており、受けた刑罰は懲役三年で高齢が考慮されて一年で仮釈放されたそうです。言ってみればかなりのワルだったみたいで、この映画のアール老人はかなりイーストウッドに合わせた感情移入できるキャラになっています、まあ“事実にヒントを得たフィクション”なんだから全然OKですけどね。 とはいえこのアール老人は運び屋として得た報酬でまず差し押さえられた農場を買戻し、それからバリバリの新車のピックアップ・トラックを購入して自分が通っていた火事で焼けた退役軍人クラブの再建に寄付、挙句の果てにはジジイのくせに若い女を引っ張りこんでワン・ナイト・ラブを愉しむ、けっこうやりたい放題です。確かに孫娘の学資を援助したりもしましたが、絶縁状態の元妻や娘と違って彼を慕っていたからで、けっこう自己中な生活をエンジョイしていた感があります。このアールという男には、かなり自由奔放な私生活を送ってきたイーストウッドの内省が込められているのかもしれません。しかし日本のトクリュウが運営する闇バイトとは違い相手はメキシコのカルテル、ヘンな動きをすれば見逃してくれるはずがありません。運送仕事をすっぽかして瀕死の元妻のもとに駆けつけたんですから、組織に見つけられた時点で抹殺されてしまうのが当然だと思いますが、そこから逮捕されるまでの展開はフィクションとは言えちょっと甘い脚本だったんじゃないかな。アールと接する組織の下っ端たちが戸惑いながらも彼に親近感を持つようになってゆくところは、イーストウッドの魅力を堪能できますね。 明らかにイーストウッドに残された時間は少なくなっているのは悲しい現実ですけど、アールが法廷で家族に言う「時間がすべてだった、何でも買えるのに時間だけは買えなかった」というセリフには、イーストウッドの心情が現れていたのではと思います。闇バイトに応募しようとしている若者には、本作を観るチャンスがあるといいよな…
[CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-07 22:54:18)(良:1票)
48.  ジョジョ・ラビット 《ネタバレ》 
ビートルズで始まりデヴィッド・ボウイで閉める、第三帝国の社会生活という微妙かつ一歩間違えれば炎上必至のテーマなのにポップながらも重いテーマはきっちりと押さえている、これほど鮮やかな脚本が書けるこの監督はやはり天才なのかもしれない。考えてもみてください、太平洋戦争中の大日本帝国の市民生活をポップな基調でストーリーテリングする映画なんて、あったら面白いとは思うけどそういう発想も実現させる企画力も今の日本映画人は誰も持っていないんじゃないかな。 この映画で描かれるドイツ国内の生活は、史実とファンタジックな要素が絶妙なバランスでミックスされているのが特徴です。ドイツのどこの地方が舞台とされているのかは判らんが、屋外のシーンは終盤までは穏やかな晴天ばかりというのも興味深いところです。そこで描かれているのは平穏な市民生活で、史実でもナチスは革命が起きた第一次大戦敗戦のトラウマがあり、戦時中も国民にはいわゆる“パンとサーカス”が途切れないようにすることには熱心で、フランスやポーランドそしてソ連から略奪した食料や物資を惜しげもなく国民に供給しており、そういう意味でもドイツの一般国民にもある種の戦争責任があることは否めないんじゃないでしょうか。 主人公のジョジョ少年を観てるとどうしても『ブリキの太鼓』のオスカルを思い出してしまいますが、もちろんオスカルの様な怪物的な存在ではなく、歳が離れたユダヤ人少女にだんだんと惹かれてゆく演技には説得力を感じました。この映画では靴と靴紐が伏線の一つなんですが、広場で吊るされたスカヨハの脚と靴だけを見せてジョジョが母親の死に対面するシーンには、胸が締め付けられかつ鳥肌が立ちました。監督自身が演じたアドルフは明らかにドイツ国民を操ったナチス・イデオロギーの擬人化なんですけど、ストーリー上はあまり前面に出てこなかったところは良かったと思います。サム・ロックウェルのゲイの大尉もいい味出して泣かせてくれました。なんか『戦場のピアニスト』のトーマス・クレッチマンみたいな役柄でしたが、このゲイ大尉の方がはるかに印象に残ります。そしてビンタの後のジョジョとエルサのダンス、こういう撮り方ができる監督の才能に拍手喝采です。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2024-10-04 23:10:32)(良:1票)
49.  ジェイコブス・ラダー(2019) 《ネタバレ》 
あのカルト映画のリメイクなんだけど、海外のサイトRotten Tomatoesなどではもう酷評の嵐、『ウィッカーマン』を挙げるまでもなくカルト・ホラーのリメイクは得てしてこき下ろされがちなのは判っているが、気を引き締めて鑑賞しました。ちなみにオリジナルはずいぶん前に観ているけど、オチしか覚えてなくてあまりイイ印象は残っていなかったなあ。 ぶっちゃけるとリメイクと言いながらもかなり設定などは変えられていて、オチがある意味オリジナルとは全然違うというのが不評の浴びる要因だったのかもしれません。主人公が従軍するのはもちろんアフガン戦争にアップデートされており、主人公自体とその家族も黒人に変えられているのが今風なのかな。オリジナルと大いに違うところは主人公ジェイコブと兄アイザックの物語というストーリーテリングであるところでしょう。掴みは記憶の中では戦死したはずの兄が生きていて再会するけどヤク漬けになっていた、これはスピリチュアルに走る展開なのかと思いきや、オリジナルでのヤク漬け実験を踏襲しつつも終盤では驚きの展開、これはちょっと意表を衝かれましたね。個人的にはオリジナルに拘らなければ普通に満足できるストーリーかなと思います。 ジェイコブやアイザックをはじめこの主人公家族がみな聖書にちなんだ名前なのはオリジナル通りですが、このオチでは前作のオチを暗示していたような『ジェイコブス・ラダー』というタイトルが意味がなくなってしまった感はありました。前作のラストにあったような“魂の救い”の様な要素は観られず、本作の方がダウナ―度は高めだったと思います。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2024-09-30 23:25:16)
50.  Q&A 《ネタバレ》 
新米検事補ティモシー・ハットン以外の刑事と検事そしてアウトローの方々、みんなそろって悪人顔というところが凄い。やっぱ中でもニック・ノルティの悪徳刑事、もうプロレスラーがスーツ着て刑事やってるとしか思えない。粗野なだけでなく自分に不利益になる人間は情け容赦なく殺すし、もうほとんどサイコパスと言っていいレベルです。そんないかつい大男なのに、実はゲイだったという強烈なキャラでもある。そんな錯乱したシリアルキラーみたいになって追われているのに、警察署に戻って同僚刑事を射殺した挙句に初めて銃を撃った刑事に仕留められる最期は哀れでした。 悪徳警官とまっとうな警官が対立するというのは、NY派の巨匠シドニー・ルメットが『セルピコ』ですでに手がけているプロットなので「20年も経ってなんで今更…」感が強いです。「事件が大きすぎて手に負えない」と上層部は隠蔽・もみ消しを図るわけですが、単なる汚職警官と悪徳検事の癒着だった様な気もするしそこまで大げさな事件だったとは思えん。そこらへんが説明不足な脚本だったと思います。アイルランド系・プエルトリコ系・ユダヤ系とNYらしく人種葛藤を盛り込んでいるけど、それが物語に有機的に生かされていない気もします。あとティモシー・ハットンの行動も、直属ではないにしろ他の大物検事に情報を流しているのもこのキャラの線の細さが透けてしまってイラつかされる、セルピコじゃないけど完全に一匹狼のつもりで闘わなくっちゃダメでしょ!かつての恋人に未練がましすぎるのも感情移入を妨げた要因です。この映画である意味いちばん光っていたのは、やっぱアーマンド・アサンテだったと思います。なんかあっさりと退場してしまった感もありましたが、実は死んでなくてクライマックスで再登場なんてパターンもありますが、さすがにシドニー・ルメットがそんなアホな撮り方するわけないですよね(笑)。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2024-09-27 23:05:24)
51.  新・仁義なき戦い 組長の首 《ネタバレ》 
菅原文太が主演するだけでもはや『仁義なき戦い』とはなんの関係もなくなった物語で実録路線でもないフィクション、ここまで来るともはやタイトル詐欺、『組長の首』にしてもペキンパーの『ガルシアの首』のパクりですしね。ヤク中で破滅するサブキャラになんと山崎努が起用されているのが驚き、彼は東映初出演だったが本来は松方弘樹が予定されていたキャラだそうです。でも『暴力金脈』の単独主演が成功して役者としての自信が出てきた松方はキャスティングを拒否、文太も「わしゃぁもう実録路線には出演せん!」とごねた挙句の完全フィクション脚本、いろいろと製作には苦労があったみたいです。でも山崎のシャブで破滅する大物組長の娘婿というキャラはさすがにいい演技を見せてくれ、なんかお得な気分になれました。“修羅の国”北九州が舞台で文太が演じるキャラの方は単に“旅人”としか説明がない流れ者、でも『仁義なき戦い』の広能昌三とは違ってなんか脂ぎって執念深い生々しい男で、自分が対立組長を射殺して7年も懲役くらったのに出所後の対応が酷いと流れ者のくせにゴネて老舗組織をひっかきまわす。仁義とか義理なんて眼中になくひたすらカネと地位を追及する男で、考えてみればこいつさえ存在しなければ西村晃も成田三樹夫も室田日出男も死なずに済んだんじゃないかな、最後に自分だけは野望を成就して終わりってなんか酷くない?実在のモデルが存命中だった『仁義なき戦い』ではでは無理だったリアルなヤクザ像を、フィクションであるからこそ文太のキャラに投影できたんじゃないかな。あと抱いた男がみな死んでしまうという究極の死神女・ひし美ゆり子が強烈な印象を残してくれます。なんせあのアンヌ隊員が脱ぎまくるんですからね、こりゃ衝撃ですよ。薄幸の女という梶芽衣子が演じそうなキャラではなく、自分の魔性を自覚しながらしぶとく世渡りするしたたかな女だったところも良かったです。この死神女ぶりを判っているのに愛人としている成田三樹夫の(ちょっとここでは書きづらい)厄除け法が面白い、というか笑っちゃいます。けっきょく彼もジンクスは破れなかったけどね(笑)。まあ『仁義なき戦い』に拘らなければ、普通に退屈させないヤクザ映画だったと思います。
[CS・衛星(邦画)] 7点(2024-09-24 23:49:02)
52.  記憶にございません! 《ネタバレ》 
三谷幸喜の映画は久しぶりに観たけど、こんなに毒味がない作風だったとはちょっとがっかりでした。世間から嫌われている総理大臣が記憶喪失になったのを機会にイイ政治家に生まれ変わるというプロットは、すでにご指摘のある方もいる通り『チャップリンの独裁者』にルーツがあるストーリーですでに同じようなプロットの映画も存在するが、『独裁者』もだがたいていは政治家とそっくりさんが入れ替わるパターンで、本人が記憶喪失で改心してしまうのは珍しいかな。較べると『独裁者』には失礼かもしれないけど、ラストに主人公の大演説があるというのも確かに似ている。でも同じ題材ならやはり宮藤官九郎が監督したほうが面白かっただろうな、と感じざるを得ないところです、なんか弾け方が足りないんだよな。 まあリアル感が薄いメルヘンチックなお話なので目くじら立てたら野暮なのかもしれんが、あんだけ人格が変わってしまったら違和感が強すぎて世間はともかく官房長官以下の閣僚には気づかれそうなもんだけどね。政治のことは全部記憶が喪失してるのに子供のころのことは覚えているというのも、なんか都合よすぎじゃないかなこの脚本は。あとこの映画が製作されたのが19年で22年のあの事件のもちろん前ですが、現職の総理が石を投げつけられて負傷したり演説中にパチンコで狙われるなんて展開は、現在ではもうシャレにならずエンタメ化なんてもう無理でしょう。まさに“事実は小説よりも奇なり”です。 想像以上に光っていたのは女優陣で、中でも小池栄子はさすがの芸達者でした。私には前半のTV放送で突如出演する羽目になって無表情でヘンなダンスするところがツボでした、この映画で唯一笑わせていただけたシーンです。あと妙にバタ臭いニュースキャスター、まさかあれが有働由美子だったとは観てるときには全然気づきませんでした、まさにサプライズ! 不思議だったこと:なぜか総理以下の登場人物がみなスマホじゃなくてガラケーを使っていたこと、政府関係者だけかと思ったらフリージャーナリスト役の佐藤浩市も明らかにガラケーでした、90年代あたりが時代設定なら判るけどねえ…
[CS・衛星(邦画)] 5点(2024-09-21 22:33:17)
53.  スカイエース 《ネタバレ》 
原作は第一次世界大戦西部戦線での英軍の塹壕戦をテーマにした戯曲で、いわば『西部戦線異状なし』の英国版みたいな感じだそうです。それを航空隊の物語に変更して、志願したパブリックスクール生の若者が、部隊配属から戦死するまでの7日のストーリーとして脚色されています。この若者が配属された第76飛行中隊の指揮官は実はパブリックスクールの先輩で姉の婚約者、つまりもうすぐ義兄になる人で演じているのがマルコム・マクドウェル、すでに23歳で少佐のベテラン・エース戦闘機乗りで同窓の英雄というわけです。製作されたのが76年でマクドウェルにはまだ『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスのイメージが残っている頃ですが、そんなパブリック・イメージにはそぐわない有能で老獪な戦闘機乗りです。設定は1917年の10月ですけど、史実としては西部戦線の航空戦は激しさを増していて、少数のエースパイロットが奮闘しているけど新人として配属されてくるパイロットはバタバタと撃ち落されてゆき、7日で戦死というのは実情に近かったんじゃないでしょうか。そんなわけでパイロットたちは酒に女と戦闘後はひたすら快楽を求めますが、中には精神が破綻して離脱する者も出てくる始末です。 空戦シークエンスにはレプリカの複葉機が使われていますが、英軍機はけっこう再現度が高かったと思います。それに反して独軍機の方はイマイチどころかイマサンぐらいの代物で、一次大戦の独軍戦闘機は赤く塗装しておけばそれらしく見える、というのは大間違いですぜ。とはいえ空戦シーンはそれなりのものでしたが、英軍機のパイロットが撃墜されたときに全身が燃えながらパラシュートなしで空中に投げ出され、地面に激突するまでをワンカットで見せるところは強烈でした。 『レッドバロン』や『ブルー・マックス』の様な派手な空戦映画を期待すると肩透かしを喰いますけど、塹壕戦と同じように消耗品として消費されてゆく戦闘機乗りにスポットを当てた地味ながらも英国映画らしい佳作でした。ジョン・ギールグッドやクリストファー・プラマーなどの渋い大物俳優たちも脇を固めています。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-18 22:14:46)
54.  ウォーク・ザ・ライン/君につづく道 《ネタバレ》 
正直なところ、ジョニー・キャッシュやジューン・カーターはかろうじて名前を聞いたことあるぐらい、ジェリー・リー・ルイスに至ってはこの映画で初めて知った程度の予備知識でした。この当時のヒットソングは、カントリーミュージックなのかロカビリーなのか区別しにくい感じのサウンドで、自分がイメージするロックンロールよりも泥臭い感じがします。そんな50年代からのレジェンド・シンガーであるジョニー・キャッシュとジューン・カーターの伝記映画なのですが、ホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンという癖が強いキャスティングですのでけっこう胃もたれがするような映画になったかなと思います。なんせあのホアキン・フェニックスですから、観ていていつキレだすかドキドキしてしまいますが、かえってこれが妻との不和や薬物中毒に溺れるエンターテイナーとしての迫真の演技につながっています。リース・ウィザースプーンはその癖のある顔つきで日本では人気があるとは言い難いし自分にも苦手な女優の一人ですが、オスカーをゲットするのは納得の熱演です。そして演技以上にすごかったのは二人の歌唱力で、これがプロ歌手の吹き替えじゃないってのは信じられないぐらいです。ほんとにハリウッド俳優たちは、音楽については芸達者な人が多いですね。ホアキンが演じるキャッシュは幼いころに兄を事故死で失ったトラウマや父親との不和など根性がねじ曲がりそうな要素があることは判りますけど、あまりに自己中的な言動が目立ってとても感情移入できるキャラではなかったですね。実話なのかは知らいないけど、コンサート中に途中で歌唱を中断して「結婚を承諾してくれなければ、もう歌わない」とジューン・カーターにプロポーズするなんて、いやこれはプロとしてはやっちゃいけないことでしょ(笑)。劇中にも登場するキャッシュの最初の妻との娘は、自分の母親の描き方が酷いと激怒したそうですが、たしかに前妻ヴィヴィアンは夫に理解のない嫌な女という観方になってしまう撮り方でした。関係者が存命なうちに製作する伝記映画には、いろいろと厄介なことが付きまといますね。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2024-09-15 22:49:59)
55.  オール・ザット・ジャズ 《ネタバレ》 
巨匠・名匠と呼ばれるぐらいの映画作家は大なり小なり自分なりの『8 1/2』を撮る傾向があるけど、これぞまさにボブ・フォッシー版の『8 1/2』でございます。ぶっちゃけて言うと、フェリーニの『8 1/2』を知らなかったり好きではない人には響かない作品なのかもしれません。 この種の映画はその時の監督自身が抱える悩みや迷いがテーマになるけど、本作ではずばり“死への恐れ”だと言えるでしょう。実際フォッシーはこの後8年しか生きれなかったし、すでに自分の健康状態に不安を持っていたんじゃないかな。その他にも劇中で完成に苦労する映画『スタンド・アップ』は明らかに『レニー・ブルース』のことですし、女性関係のイザコザも赤裸々にぶっこんでいます。あのケイティを演じたアン・ラインキングに至っては実生活でも劇中通りのフォッシーの愛人(の一人)であり、いわばセルフパロディみたいなもんです。オードリーは妻のグウェン・ヴァードンで娘のミシェルはニコル・フォッシーがモデルであり、ほとんど私小説みたいな感じです。 やっぱ圧巻なのはラスト三十分の“Bye, Bye Love”のミュージカル・シークエンスでしょう。このキレッキレッのパフォーマンスはボブ・フォッシーのミュージカル集大成という迫力を感じます。自虐的なネタも光っていて、毎朝目薬さしてヤクでキメて「イッツ・ショータイム!」と気合い入れするのが繰り返されたり、ギデオンが入院して舞台制作が危ぶまれたときにプロデューサーたちが保険会社を呼ぶと、実は手術が失敗してギデオンが死ぬ方が彼らは儲かると判明するところなんか強烈な皮肉になってます。そうは言ってもショービジネスの非情さを糾弾するのではなく、どっぷりとショービジネスの世界に浸ってきたフォッシーのショーを創る喜びの方が強く感じられました。 人間は死ぬときには過去の人生が走馬灯のように流れるとよく言われますが、わずか六十歳で他界したフォッシーが見た走馬灯はきっと本作のラスト30分だったんじゃないだろうか。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2024-09-12 22:18:39)
56.  首(2023) 《ネタバレ》 
北野武の“戦国版『アウトレイジ』”というか“戦国版『日本統一』”といった感じでしょうか。戦国武将たちの国盗り合戦をヤクザ組織の抗争を透写したようなストーリーテリングは、たしかに北野武にしか許されないプロットだったなと思います。『アウトレイジ』で山王会の若頭に出世したのに大友=たけしに復讐されて散った加瀬亮に織田信長を怪演させるので余計に『アウトレイジ』味が感じさせられるのですが、いっそのこと三浦友和・西田敏行・塩見三省あたりまでキャスティングしたらと思ったりしたけど、いくら何でもやり過ぎか(笑)。でも三浦友和は明智光秀には適役のような気がします。■“全員悪人”という『アウトレイジ』のキャッチコピーを引き継いだような武将たちのキャラ付けなんだけど、羽柴秀吉=たけしがここまで悪辣なキャラを演じたというのは北野映画で初めてなんじゃなかろうか。たけしって自作ではヤクザや刑事などのいかにもワルと世間ではイメージされるキャラを演じているけど、ワルなのにどこか人情味があったりお人好しな部分がどの役にもあるんだよな。北野武という人は突き詰めるとナルシストだと自分は分析していてそれがたけしが主演する北野映画には独特の臭みがあると感じるのですが、本作では徹底的にずる賢くて冷酷な秀吉となって今までのパターンからついに脱皮したと思います。だけど彼の年齢を考えるとちょっと遅きに失したの感もあります。でも秀長=大森南朋との掛け合いには往年のビートたけしらしさが見えて面白かったです。また大島渚の影響なのか武士=男色の世界が強調されてまるでBL映画的な様相を呈していますが、百姓出自で無類の女好きだった秀吉にはまったく理解の及ぶ世界ではないという対比は面白い観点だったと思います。■難を言えばやはり極端に走り過ぎた信長像となるでしょうね。終始尾張弁でがなり捲るサイコパスに過ぎないという感じで、いくら何でもあわや天下布武を成し遂げようとしていた傑物にはとうてい見えない。せめて本能寺ではカッコよく果てるのかと思いきや、これまた予想をはるかに超えた最期、これじゃ光秀がいくら血眼になっても信長の首が見つかるわけないですね(笑)。■けっきょく本能寺の変は秀吉が仕組んだというのが北野説となるわけですが、考えてみると『アウトレイジ』で山王会や花菱会の城壁を突き崩せなかった大友=たけしが、ついに雪辱を果たして天下を盗る物語だったとも解釈できるんじゃないでしょうか。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2024-09-09 22:03:01)
57.  リトル・ミス・サンシャイン 《ネタバレ》 
ロードムービーではその物語の根幹を造る旅の目的が重要なプロットになるけど、ドン詰まってバラバラな関係となってしまった家族と親族の六人がおんぼろマイクロバスに乗ってカルフォルニアのチャイルドミスコンを目指すというというのは、よく考え抜かれた脚本だと思います。実質この六人だけで進行するストーリーだけど、六人が皆で素敵な演技のアンサンブルを見せてくれます。アメリカと言う国は異常なまでに勝者と敗者に拘る社会なんで、人々は”敗ける”ということには屈辱と恐怖を持ってしまう傾向が見られます。日本のようにいわゆる判官贔屓というような感情はアメリカ人には無さそうですね。本作のオリジナル脚本家は、知事時代のシュワちゃんが「私がこの世で一番嫌いなものは負け犬だ、私は彼らを軽蔑する」と高校生相手にドヤったことに腹がたったのがこの脚本を執筆するきっかけだったそうですが、その後のシュワちゃん自身がケネディ一族の妻から離婚されてからは転落していまや負け犬になってしまったのは皮肉なことです。 やっぱこの家族の中でいちばん光っていたのはエロ・ヤク中爺さんのアラン・アーキンであることには異論がないでしょうが、それでも特定のキャラに重点を置かずに個性派俳優たちの演技の化学反応を愉しませてくれる演出が秀逸です。とくにミスコン会場に到着してから家族総出で舞台に上がってダンスするクライマックスへの流れは脚本が上手過ぎて感心しました。2000年代以降に撮られたロードムービーとしては、今のところ最高傑作なんじゃないかと思う次第です。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2024-09-06 23:08:44)(良:1票)
58.  十三人の刺客(2010) 《ネタバレ》 
オリジナルが持つ無常観は微塵もないけれど、『七人の侍』的な要素というか戦闘・チャンバラのシークエンスを前面に押し出したリメイクと言えるでしょう。この江戸版テルモピュライの戦いともとれるシチュエーションで、やはり重要となるのは決戦の地である落合宿の要塞化であることは戦術の基本であり、隘路に大軍を入り込ませて戦力を分散させるというのは合理的です。本作ではこの落合宿要塞化の描写に力を入れているけど、あんな短時間であそこまでの仕掛けを造るというのは、ちょっと嘘くさくなり過ぎの感もあります。まあそこはとかくやり過ぎるところが持ち味の三池崇史が監督ですからね、サービス精神が過剰になるのは必然でしょう。 とにかくこの映画は、稲垣吾郎のサイコパス殿様がおいしいところを全部持って行ってしまったと言えるでしょう。こんだけ狂っていれば排除されるのも当然と言えば当然、この殿様のキャラ付けこそがオリジナルになかった要素で、あまりに酷いので鬼頭半兵衛=市村正親が主君を守ろうとすること自体が悪事の片棒を担いでいるような微妙な感じになってしまいます。対する島田新左衛門=役所広司は相変わらずの飄々とした演技、とても大博打に打って出る凄腕武士には見えないんだよな。自分ははっきり言ってミスキャストだと思うんだが、2010年以降は彼が主役という日本映画が多すぎるとも思います。俳優にはそれぞれ演技パターンに応じた役柄があるもので、大物俳優の層が薄いというよりもぶっちゃけ役所の名前を出せば企画が通りやすいという風潮があるのかもしれない。彼の演技の最大の難点はとにかくセリフが一本調子でなおかつ聞き取りにくいというところで、映画館ではどうだったかは判りませんが普通にTVで視聴するとまったく聞き取れずヘッドホン着用が必須でした。まあ他の俳優たちのセリフも聞き取りにくかったのは共通で、これはやはり監督の責任でしょう。 けっこうエグい場面が多かったが、戦闘シーンでは意外と血しぶき描写が少なかった印象もあります。いちばん?だったのは伊勢谷友介の復活で、「こいつは化け物か…」と絶句してしまいました。まあこういうところが三池崇史らしいと言えますけどね。 地上波では絶対放送できない本作に、よくTV朝日が出資したもんだ。これもまだSMAPだった稲垣吾郎が出演するのであの事務所に対する忖度が働いたのか、はたまたプロデューサーに騙されたのか(笑)。
[CS・衛星(邦画)] 7点(2024-09-03 23:35:28)
59.  戦争の犬たち(1980・アメリカ) 《ネタバレ》 
未読だが、原作は緻密な背景描写とフォーサイス自身が係わった闇社会の武器取引をリアルに落とし込んだいかにも彼らしい作品らしいが、本作はそのドンパチ要素以外をかなり端折っているので、成功した映像化とは言い難いらしい。どこまでが明かされているのかは真偽不明だけど、本作の様な独裁者打倒のクーデターをアフリカで実行しようとしたなんて、こんなぶっ飛んだ作家はもう現れないことでしょう。 監督がジョン・アーヴィン、これが劇場映画デビューでこの人は後に『ハンバーガー・ヒル』や『プライベート・ソルジャー』などの戦争映画の良作で名を残す人です。やっぱ本作ではクリストファー・ウォーケンの存在感が光っていて、彼を引っ張ってきたのは脚本のリライトに係わったマイケル・チミノだったそうで、やっぱこの頃はウォーケン&チミノは名コンビというか腐れ縁だった感じですね。彼がこの映画で使用するまるでおもちゃみたいなグレネード・ランチャーXM-18は実在の銃なんだそうでですが、確かチャック・ノリスもなんかの映画で使っていた記憶があり、出てくるとB級映画っぽくなるのは困ったもんです。端折り過ぎてクリストファー・ウォーケンのクーデター計画が判りにくいしロマンスめいたエピソード余計だったとしか言いようがないけど、サクサクとストレスなしに観れるのは良いんじゃないかな。フレデリック・フォーサイスの作品は、どれも映画化するには尺が最低三時間は必要ですね。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2024-08-30 23:33:41)
60.  親不孝通り 《ネタバレ》 
日活の石原裕次郎&浅丘ルリ子と並ぶ、当時の大映のゴールデン・コンビ川口浩&野添ひとみ、この二人と増村保造は相性が良かったんじゃないかと思う。自身の出自もあるけど、川口浩は育ちが良いけどちょっとグレた若者や大学生を演じさせたらほんと自然な感じで上手いんだよな。本作でも賭けボウリングで稼ぎ銀座の裏通りあたりで毎晩飲み歩く卒業間近の大学生、でもマメに会社訪問をして就職活動は怠らないのである。「あの人は六大学のボウリング・チャンピオンなのよ」女子学生のセリフもあり、自分の勝手なイメージでは法政大生って感じかな。彼の姉=桂木洋子は服飾デザイナーで証券会社員の船越英二と結婚を夢見て交際するけど、妊娠してしまい中絶することに。面白いというか不思議なところは、桂木洋子には中絶することには大して抵抗がない感じでそれよりも船越英二に結婚する気がないという事の方がショックだったみたい。今ではちょっと考えられないことだけど、人口爆増中の高度成長期に入った当時の日本では中絶に対する社会の認識がけっこう軽かったみたいなことを何かの本で読んだ記憶が甦りました。それを知って激怒した弟・川口浩は、溺愛する女子大生の妹=野添ひとみをモノにし妊娠させて捨てて船越英二に復讐することを画策する。二人が出会って知り合うところはちょっとご都合主義が過ぎた気もしますけどね。思惑通りに野添ひとみを孕ませたけど、彼女の決断で事態は思わぬ方向へ向かう。 まあ予想が付きやすいストーリー展開だけど、増村保造流のテンポの良い演出と川口浩の好演でサクサクと観れます。脇では学生たちのたまり場になる居酒屋の主人=潮万太郎が良い味出してました。この人は当時の大映作品には欠かせない名バイプレーヤーです。銀座界隈には親不孝通りなんてものはなく、本家は福岡の予備校が立ち並ぶ通りのことなんですが、劇中では川口浩も野添ひとみも親は出てこないのは笑っちゃいます。けっきょく、どう転んでも船越英二が川口浩の義兄になるのが運命でした(笑)。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-27 23:38:51)
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