41. 羊たちの沈黙
《ネタバレ》 自分はハンニバル・レクターよりもウィル・グレアムというキャラクターに惹かれるもので、彼が登場せずにレクターが好き勝手やるだけの作品は、あまり好みではないのですが…… そんな中でも、この「羊たちの沈黙」だけは良く出来てると思います。 何といってもクラリス演じるジョディ・フォスターが美しくて、彼女を眺めてるだけでも楽しいんですよね。 原作者のトマス・ハリスも彼女に惚れ込んでしまい、本作の続編となる「ハンニバル」では、レクターに自己投影してクラリスと結ばれるエンディングにしたっていう与太話がありますが、思わずそれを信じそうになっちゃうくらい。 殺人鬼の許されぬ愛が描かれているという意味では「レッド・ドラゴン」と同じなんですけど、本作の方が世間に評価されたのは、彼女の存在が大きいと思います。 対するレクターも魅力的に描かれており、ドラマ版「ハンニバル」を別格として、映画という枠内に限って評価するなら、本作のレクターが一番良かったですね。 知性と凶暴性のバランスが絶妙であり、音楽が流れる中で、指揮棒を振るうように警棒で相手を滅多打ちにする姿なんてもう、痺れちゃいます。 クラリスとの別れ際、彼女の指をそっと撫でる仕草からも「娘のような年頃の女性に欲情する変態性」「初々しい恋愛感情」の双方を感じ取れて、味わい深い。 自分は「ウィルを意識する余り、凶悪な殺人鬼から恋する乙女のように変わってしまうレクター」の方が好みなんだけど…… 本作を観ると「クラリスに惹かれてしまう、純情な変態紳士としてのレクター」も、それはそれで悪くないなって思えてきます。 そんなクラリスとレクターが対面する精神病院も、古城を連想させる不気味さがあって、雰囲気満点。 しかも、恐怖映画としての不気味さがあるというだけでなく、何処かロマンティックであり「クラリスとレクターが初めて会った場所」として考えても、優れてるんですよね。 本作は歪な恋愛映画としての側面を備えているのだから、一種の吊り橋効果というか「恐怖の中に、不思議なトキメキを感じる」舞台を用意してみせたのは、もう大正解だったんじゃないかと。 「穏やかな紳士だが、実は食人鬼」はジェフリー・ダーマー 「殺人鬼が未解決事件の捜査に協力する」「腕が不自由な振りをして女性を拉致する」はテッド・バンディ。 「変身願望ゆえに、女性を殺して皮を剥ぐ」はエド・ゲイン。 「捕えた女性を自宅の穴に閉じ込める」はゲイリー・ヘイドニク。 ……といった具合に、色んな殺人鬼の逸話が反映されてる物語なので、それらの元ネタ探しをするだけでも面白いですよね。 事前に知識があれば(あぁ、あれが元ネタか)と思えるし、後に元ネタを知る機会があれば(「羊たちの沈黙」って、ここから着想を得たのか)と驚けるだろうしで、いずれにしても知的興奮が味わえると思います。 そんな本作の難点は…… クライマックスであるクラリスとバッファロー・ビルの対決にて、暗闇ならではの駆け引きなどが無く「撃鉄の音が聞こえたので撃った」ってだけなのは、ガッカリしちゃいましたね。 そりゃあ頭の良い犯人って訳じゃなかったけど「予め離れた場所で撃鉄を起こしておく」くらいの知恵は働かせても良かったと思うし…… これなら「バッファロー・ビルが何か(人質が犬を誘う為に投げて、紐から外れた小骨とか)を踏んでしまい、その音でクラリスが気付く」などの方が、よっぽど納得出来た気がします。 後は、脱獄したレクターが捕まらないまま終わるっていうのも、スッキリしない感じ。 彼の勝ち逃げエンドみたいな形で終わるからこそ、ハンニバル・レクターという存在は悪のカリスマになったんでしょうけど…… 個人的には、しっかり逮捕されて欲しかったですね。 レクターには、外界で自由気ままに人を殺す姿よりも、檻の中でウィルやクラリスに恋焦がれてる姿の方が似合うと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2023-05-10 02:23:44)(良:1票) |
42. レッド・ドラゴン(2002)
《ネタバレ》 ドラマ版「ハンニバル」を観終わった勢いで、本作も久し振りに鑑賞。 シーズン3の6話分ほどを掛けて「レッド・ドラゴン」を映像化したドラマ版に比べると流石に薄味とか、でも「刑事グラハム/凍りついた欲望」に比べれば原作にも忠実だし濃厚な作りとか、どうしても他作品と比較して論じたくなるのですが…… その場合はドラマ版「ハンニバル」の事ばかり語ってしまいそうなので、以下は、なるべく映画単品としての評価を。 まず、ウィル・グレアムを演じたエドワード・ノートンは、文句無しで良かったです。 脇役陣も豪華だし、特にハーヴェイ・カイテルがウィルの上司役で登場した際には、思わず声が出そうになったくらい。 出番が少なめなウィルの妻子に至るまで、しっかりと良い役者が揃っており、安心して鑑賞する事が出来ました。 二時間ほどの尺の中で「レッド・ドラゴン」という物語に必要な事は、大体やってくれているのも嬉しい。 冒頭にて「ハンニバル・レクターの逮捕劇」を、僅か八分ほどでスピーディーに描いてるのは見事だったし「ウィルにクリスマスカードを送ってる」「自分達は似た者同士だと語る」などの場面を挟み、レクターがウィルに抱く感情は、単なる憎しみではないと、自然に描いているのも良いですね。 物語のラストでウィルに送った手紙からしても、レクターは「自分を捕えたウィルに復讐した」というだけでなく、彼なりのラブコールを送り、そして振られたのだと感じさせるような作りになってる。 家族を守る為に傷付いたウィルと、黒幕として暗躍したレクターの二人、どちらが勝者で、どちらが敗者であったろうかと考えさせられる、この味わい深い決着の付け方は、実に好みです。 主犯となるダラハイドも丁寧に描かれており、凶悪な殺人鬼にも拘わらず(可哀想な奴だ)(盲目の女性と結ばれて、幸せになって欲しかったな……)なんて思わせてくれたんだから、お見事。 作中最大のトリック「自殺したと見せかけて、実は生きていた犯人」の場面に関しても、文字媒体ではない映像媒体で表現するのは大変だろうに、自然な仕上がりになってたと思います。 幼い息子を人質に取られたウィルが、ダラハイドのトラウマを刺激して息子を救う場面も良いですね。 ウィルの恰好良さは勿論、ダラハイド側の「こいつだけは許せない」という怒りも伝わって来る、忘れ難い名場面です。 難点としては…… 「暗い部屋で電灯を点けると同時に血痕を目撃する場面」なんかは、ちょっと古臭い演出に思えた事。 それと、終わり方が微妙だった事が挙げられそうですね。 クラリスがレクターに会いたがってるという「羊たちの沈黙」に繋がる場面で終わったのですが、ファンサービスが露骨過ぎるというか…… (これは「レッド・ドラゴン」が好きな人じゃなく「羊たちの沈黙」が好きな人の為の仕掛けだよな)と思えて、どうも喜べないんですよね。 クラリスよりウィルが、そしてレクターよりダラハイドが好きな身としては、ちゃんと「レッド・ドラゴン」の物語として完結させて欲しかったです。 [DVD(吹替)] 8点(2023-05-10 02:07:12)(良:2票) |
43. アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲
《ネタバレ》 前作の主人公カップルの娘が主人公という、正統派な続編。 とはいえ、方向性としては明後日の方に向かってるというか…… 「無理やり作ってみました」感が凄かったですね。 まず、前作の女性大統領が「実は人類の絶滅を目論んだ恐竜人である」という設定になってるんだけど、そんな伏線なんて一切無かったはずなんです。 でもって「前作で死んだはずの元月面総統は、実は生きてた」「しかも彼は、ヒトラーの弟だった」「異星人であり、人類の創始者でもあった」なんていう真相が次々に明かされるんだから、ここまで来ると驚くより先に、呆れちゃいます。 (スケールを大きくすれば面白くなるってもんじゃないよ……)と、笑いながらではなく、真顔でツッコんじゃいましたね。 この「笑いながら」と「真顔で」の差が大きいというか、荒唐無稽な馬鹿映画でも「笑いながらツッコんで楽しめる」のであれば、全然問題無いと思うんです。 事実、前作に関してはギリギリで「笑いながら」ツッコめる範疇に収まってたし、楽しい映画と言える出来栄えでしたからね。 それが続編にて「真顔で」のラインに踏み込んでしまったという形であり、実に残念。 そもそも本作は「満を持してヒトラーが登場する」という内容であり、前作にて「ヒトラーが出てこないのが惜しい」という評価を下した自分にとっては、凄く褒め易い映画のはずなんです。 にも拘わらず、その低いハードルを越えてくれなかったというか……飛び越えずに、蹴倒してみせたような内容だったんだから、困っちゃいます。 だって本作のヒトラーときたら、単なる宇宙人を「実はヒトラーです。ヒトラーは宇宙人だったのです」って設定にしただけであり、ヒトラーである必然性なんて皆無ですからね。 ユダヤ人を特別嫌ってるって訳でもなく、ゲルマン民族の優位性を信じてる訳でもなく、人類全てを憎んで滅ぼそうとしてる異星人であり、ただ見た目がチョビ髭のオジさんというだけ。 唯一ヒトラーっぽいのが「絵を描くのが上手い」というワンシーンのみであり、これならヒトラーじゃなくチャップリンでも成立したじゃないかと、投げ槍にツッコむ他無かったです。 「核戦争で地球を汚染し、人類を滅亡寸前まで追いやった張本人」という、どう考えても一番憎むべき存在な女性大統領が、中盤で雑に退場しちゃうのも肩透かしだし…… ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模した画面作りにして、キリストに相当する位置にヒトラーを置くとか、そういうシニカルな描写も、何かズレてる感じでしたね。 そりゃあ敬虔なキリスト教徒ならショッキングに思えたかも知れないけど、そうでない自分には全然ピンと来なかったし、歴史上の偉人や権力者などが「実は人間じゃなく恐竜人」って言われても(……だから何?)としか思えない。 Facebookの創始者であるザッカーバーグも恐竜人って事にされ「人類のオツムを空っぽにした功労者」であると皮肉気に描かれてるんだけど、Facebookが理由で馬鹿になるというなら、この映画を観る方が余程知能に悪影響なのではと、意地悪く考えちゃったくらいです。 一応、良かった点も挙げておくなら…… 「ジョブズ教」に関してはラスボスを倒す伏線にもなってるし、ちゃんと意義のある設定だなと思えた事。 「頭は弱いけど、気の良い力持ち」っていうマルコムは、中々魅力的なキャラだった事。 それと、前作のヒロインであるレナーテが、聖杯の力を得てスーパーガールみたいに超人化し、恐竜を素手で倒しちゃう馬鹿々々しさは好きとか、そのくらいになりそうですね。 最後は「月にナチスが移住していたように、火星にはソ連が移住済み」ってオチになってましたし、続編も作る気満々なのが窺えるんですが…… 2023年現在「アイアン・スカイ:ジ・アーク」の製作は難航中で、続編を拝める可能性は、かなり低いみたいです。 それを踏まえて考えると、本作に関しては「一本の映画として完成している」というだけでも、御の字なのかも知れません。 [ブルーレイ(吹替)] 4点(2023-04-26 00:43:55) |
44. 抱きたいカンケイ
《ネタバレ》 セックスフレンドが恋人同士になるという、非常にシンプルなラブコメ。 主演は大好きなアシュトン・カッチャーとナタリー・ポートマンだし、これは面白そうと期待値を高めて鑑賞したのですが…… 結果としては(思ってた程には、楽しめなかった)という感じであり、残念でしたね。 この辺りは、同年公開で似たようなテーマを扱っていた「ステイ・フレンズ」(2011年)に対し(全然期待してなかったのに、面白かった)という印象を抱いたのとは好対照であり、何だか興味深いです。 上述の通り、主演の二人は大好きなので、彼らが動いて喋ってるのを見てるだけでも楽しいって気持ちはあるんですが、脚本が肌に合わなかったんですよね。 大前提として「主人公達は二人とも、父親絡みのトラウマが原因で恋に臆病になってる」「だから恋人にならず、セックスフレンドのままであり続けようとしてる」っていう設定がある訳なんだけど、それに説得力を感じなかったんです。 (別に恋人になったら、それはそれで良いじゃん)と思えちゃうし、二人が恋愛恐怖症みたいになってるのが不自然。 「愛する人を失う悲しみが大きかったからこそ、誰かを愛するのを恐れるようになった」というのであれば、その事を、もっと丁寧に描いて欲しかったです。 ラブコメお約束の「二人が結ばれる直前に喧嘩する場面」でも、大きなイベントというか、劇的な誤解や擦れ違いがあった訳でもなく、本当に意地張って痴話喧嘩してるだけなので、盛り上がらない。 恋のかませ犬にされた脇役達が、エンディングにて他の人物と結ばれてるのも唐突だったし…… 全体的に話作りが拙かったように思えます。 あと、これは男目線の偏った意見かも知れませんが、本作のヒロインであるエマに魅力を感じなかったんですよね。 「急にいなくならないで」「だって、君がそうしろって……」「言うこと聞かないでよ」のやり取りなんかは、流石にワガママ過ぎて呆れちゃいましたし。 そんなに悪い子じゃないかと思われた元カレのヴァネッサが、終盤にて「最低な女」っぷりを見せ付け、その後に「それに比べて、エマは優しい」みたいな展開になるのも「周りの人物を貶め、相対的にヒロインを持ち上げてる」って感じであり、ちょっと姑息。 好きな女優さんが演じてるという前提が無かったら、かなりキツかった気がします。 一応、良かった部分も挙げておくなら 「劇中劇の学園ドラマが面白そう」 「撮影現場で役者が煙草吸ってるのを女性スタッフが注意する様が、本当の生徒と先生みたいで愉快」 「エマがパターゴルフをやって、ホールインワンを連発する場面は痛快」 と、そのくらいになるでしょうか。 あとは、ラストにて「恋人らしく寄り添って眠る二人」で終わる形なのも、直球なハッピーエンドって感じであり、好きですね。 中盤にて、何時の間にか恋人みたいに寄り添って寝入ってた事に気付き、起きぬけに「これじゃ純愛みたい……最悪」と嘆くヒロインの姿があったからこそ、幸せそうな寝顔を祝福する事が出来たし、後味は良かったです。 思えば、その中盤の時点で「いっそ、本当に純愛しちゃおうか?」なんて提案されて、二人が結ばれるオチでも、全然問題無かったような気もするし…… とにかく「相思相愛な二人が結ばれない理由」が希薄過ぎて、観ていてもどかしかったですね。 「馬鹿な意地張ってないで、さっさとクッ付けよ」という、ラブコメ主人公の友達みたいな気分を味わえるという意味では、貴重な一本かも知れません。 [DVD(吹替)] 5点(2023-04-11 07:36:56)(良:2票) |
45. ステイ・フレンズ
《ネタバレ》 映画オタクの思考とは不思議なもので、時に「世間の評価が高く、きっと感動出来るであろう名作」よりも「評価がイマイチで、程々の満足感しか得られないであろう凡作」を観たくなる事があります。 そんな訳で、本作も「凡作」目当てに鑑賞したという、期待値の低い一本だったのですが…… これがもう、意外なくらいに面白くって、吃驚しちゃいましたね。 序盤にて「それぞれ他の相手と電話してるのに、まるで二人がデートしてるかのように話が合ってる」っていう主人公カップルの場面で、もう心奪われたし、そこから先も中弛みを感じる事無く、最後まで楽しく完走出来たんだから凄い。 本当、何でこんなに面白かったんだろうと考えてみたんですが…… まず、主人公の設定が良かったと思います。 主人公のディランって、社会的に成功してる若きエリートで、普通ならとても感情移入出来ない存在なのに、不思議なくらい「等身大の若者」としての魅力が有ったんです。 それは演者さんの力も大きいんだろうけど、個人的には彼を「初めてニューヨークを訪れ、ヒロインに案内してもらう若者」として描いてたのが、大きかったように思えます。 「新天地を訪れた、何も知らない存在」という主人公だからこそ、観ている側としても、まるで自分がニューヨークを案内されてるかのような気持ちになれた訳だし、自然な形で観客と主人公を一体化させてるのが上手い。 物語が進むにつれ、完璧なエリートと思われたディランが、意外と弱点が多くて憎めない奴なんだって分かる流れも、良かったです。 この辺りは、もしかしたら女性の観客からすると「カッコいいと思ってたのに、幻滅」って感じちゃうかも知れませんが、彼を恋愛対象ではなく、感情移入の対象として捉えていた自分としては、大いに共感。 ヒロインのジェイミーも、お姫様願望が強くて、色々と「重い」タイプだったりするんだけど、ちゃんと可愛く思えたし…… こういう「欠点が愛嬌に感じられる描き方」って、とても大切ですよね。 認知症の父という存在も、明るく楽しい物語の中で、不協和音にならない程度の「シリアスな現実」として、良いアクセントになってたと思います。 特に終盤、空港で父に倣い、ディランも一緒にズボンを脱いで話す場面は、何かもう、凄くグッと来ちゃったんですよね。 この映画って、その場面までは「普通のラブコメ」「ありきたりな展開」でしかなかったのに、ここで主人公が「普通である事」を奪われてしまった父親と向き合い、当たり前にあると思っていた「普通」が、何時かは失われる事を説かれるんです。 主人公が親しい人に説得されて、ヒロインに告白するというラブコメお約束の流れでしかないはずなのに、この「人生は短い。だから、愛する彼女と共に過ごしたい」と主人公が悟る場面は、本当に秀逸であり、魅せ方次第でこんなに印象が変わるのかって、感心しちゃったくらい。 その後に訪れる、これまたお約束な「主人公からヒロインへの告白場面」も、良かったですね。 ジェイミーが「映画のヒロインになってみたい」と呟いていた事を踏まえての「映画のヒロインにしてあげる」という告白の仕方が、本当にロマンティック。 (うわぁ……良いなぁ、これ)(すっごく良い映画だな)って、しみじみ感じちゃいました。 改めて振り返ってみても、あらすじというか、全体の流れは「王道」「普通」なラブコメ映画でしかないのに「お約束の場面」をセンス抜群な演出で決めてくれてる御蔭で、特別な映画になってると感じられましたね。 その他にも、ディランの同僚に、ジェイミーの母親といった脇役陣も良い味を出していたし、劇中で流れる曲も好みだったしで、もう文句無し。 「ラブコメ映画のエンディングで流れるNG集を観て、幸せそうに笑う二人」で終わるという、現実と虚構が二重構造になってるハッピーエンドも、とても良かったです。 109分という時間を、映画と共に楽しく過ごせました。 [DVD(吹替)] 8点(2023-04-11 07:32:06)(良:1票) |
46. AVA エヴァ
《ネタバレ》 「美人女優による殺し屋映画」という、そんな一言で片付いてしまいそうな内容。 取り立てて語るような事も無い出来栄えだったのですが…… それって要するに「際立って良い部分も無ければ、悪い部分も無い」という事であり、娯楽映画としては優れてるのかも知れませんね。 とりあえず、観ている間それほど退屈しなかったのは確かです。 あえて良かった部分を語るなら、冒頭の場面。 最初に主人公エヴァに殺される男が「聞き飽きてるかも知れないけど」と前置きしてから命乞いする様は中々面白かったし、この映画を象徴する台詞にも思えましたね。 「皆、こういうタイプの映画は観飽きてるかも知れないけど、それでも観て欲しいんだ」っていう、作り手からのメッセージみたいでした。 如何にも怪し気で、ラスボスになるかと思われたジョン・マルコビッチ演じるデュークが「実は主人公を大切に想ってる親のような存在」として終わったのが意外だったとか、逆に良い人そうな元彼のマイケルが意外と駄目な奴だったとか、程好いサプライズがあった辺りも、何か安心感がありましたね。 多分これ、完全に予想通りの展開だったら、退屈な映画って印象になってたと思うんです。 でも本作に関しては「娯楽映画に必要なだけのサプライズ要素」を、しっかり備えてるバランスであり、ここは評価に値すると思います。 映画の終わりでは「幸せな最期だった」というデュークのメッセージと共に、主人公エヴァも殺される事が示唆されるんだけど、あんまりバッドエンドとは思えなかったのも、不思議な感覚でしたね。 案外あっさり敵を返り討ちにして、エヴァが生き延びる未来も有り得そうだし、結末を観客に委ねる度合いが高かった気がします。 「ハッピーエンドでも、バッドエンドでも、好きなように解釈して良いよ」って優しさが感じられて、それが心地良いんだけど、ちょっと物足りなくもあるという…… 何か、つくづく曖昧というか、語るのが難しい一本でした。 [DVD(吹替)] 5点(2023-03-28 07:27:10)(良:2票) |
47. メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス<OV>
《ネタバレ》 良くあるサメ映画の一つなんですが、何故かシリーズ化して第四弾まで続いてるんですよね、これ。 続編で戦う相手は「巨大ワニ」「メカゴジラならぬメカ・シャーク」「進撃の巨人そっくりな巨大ロボ」とバラエティに富んでおり、シリーズ化した理由は「色んな相手と戦わせる事が出来て、話を作り易いから」だと推測出来るんですが…… 肝心の第一弾である本作が、とてもシリーズ化出来るほどのクオリティに思えないんだから、困っちゃいます。 そもそも巨大ダコって海外では人気が高いけど、日本人の自分からすると、どうもピンと来ないんですよね。 「タコ」=「食材」ってイメージが強いし、いくら巨大化されてもワニやヘビなどに比べると「怪獣」って感じがしないから、本作の対戦カードに関しても(サメとタコが戦ったら、タコが食べられて終わりでしょ)と思えて、盛り上がれないんです。 実際は相打ちに終わった為、予想が外れた形ではあるんですが…… 何か、それに対しても特段の驚きは無かったし、最後までテンションが上がる事無く、映画が終わっちゃいました。 一応、良かった所も述べておくなら、巨大ザメと巨大ダコの出番は適度に確保されており、期待外れって感じはしなかった事。 この手のモンスター映画では、危険な怪物を殺そうとする主人公達に対し、お偉いさんが「殺さずに捕まえる事」を要求して足を引っ張るのがお約束なんだけど、本作は主人公達が「生け捕り」を主張する側だった為、中々新鮮な感覚を味わえた事。 主人公カップルが性交渉を行った後「フェロモンで二大怪獣を誘き寄せる」って作戦を思い付く形なので、お約束でしかないはずの濡れ場にも、ちゃんと意味があった事。 そして、海中からメガ・シャークがジャンプし、ジャンボ旅客機に噛み付いて墜落させちゃう場面は馬鹿々々しくて良かったとか、そのくらいになりそうですね。 特に最後の件に関しては、続編の「メガ・シャークvsグレート・タイタン」(2015年)では宇宙まで飛んで、人工衛星を破壊する場面もあったりするので、事前に本作を観ておくと、より楽しめると思います。 (今度は宇宙かよ!)とツッコみたくなる事、請け合いです。 [DVD(吹替)] 4点(2023-03-16 02:42:16)(良:2票) |
48. アウターマン
《ネタバレ》 (悪役にしては恰好良いデザイン)(ヒーローにしては悪そうな顔)なんて思っていたら、それが伏線というか、正しい認識だったと明かされる展開が気持ち良いですね。 悪者なはずのシルビー星人が正義の味方になり、正義の味方なはずのアウターマンが悪者だったと判明する。 下手に扱えば「捻り過ぎ」「王道の逆をやりたいだけ」って印象になってしまいそうなストーリーラインなのに、しっかり面白く仕上がっていたんだから、お見事でした。 シルヴィ・バルタンに因んで、バルタン星人もどきの名前がシルビー星人っていうのもニヤリとさせるし、特撮好きの為の「オタク映画」としての魅力が、きちんと備わっていたのも良いですね。 作中に出てくる特撮オタク達が「平成版のアウターマンには興味無い」「やっぱり昭和のアナログな特撮が良い」的な主張をするのも、如何にもって感じだし「オタク向けな映画なんだけど、オタクを美化し過ぎていない」ってバランスなのが、これまた絶妙。 本作の主軸となるのは「シルビー星人のタルバと、浩少年との絆」であり、特撮オタク達は脇役というか、単なる添え物に過ぎないんです。 それが物足りないって人もいるだろうけど、個人的には好みのバランスでした。 (これ途中でタルバが死んじゃって、仇討ち展開になるのかな……タルバ良い奴だから、それは止めて欲しいなぁ)なんて考えていたら、ちゃんと「タルバは生きていた」ってオチになるのも、嬉しくなっちゃいましたね。 本来はヒーローではなく、宇宙の放浪者に過ぎないタルバが、地球を守る事には興味無いと言い放ち、仲良くなった浩少年との約束を守る為だけに戦うというのも、凄く熱い展開。 最後はアウターマンを倒して大団円を迎え「狙われた街」(1967年)をオマージュしたナレーションで〆るっていうのも、良い終わり方だったと思います。 そんな具合に「隠れた傑作」と呼べそうなだけの魅力を秘めた一品なんですが…… 全体的な完成度としては、ちょっと作りの粗さも目立ちましたね。 脚本に関しても、どうも話が繋がってない感じがするし(何時の間にか特撮オタク達までシルビー星人に肩入れしている、など)そもそもタルバが平成アウターマンの役者達と合体して戦うって展開も、必然性に欠けていた気がします。 「役者が本当のヒーローになるという『ギャラクシー・クエスト』(1999年)のオマージュをやりたかった」あるいは「実際に特撮経験のある俳優を色々出したかった」などが理由かとも思えますが、個人的には「地球の為ではなく、浩少年の為だけに戦うタルバ」って時点で充分に感動出来たので、合体は必要無かったんじゃないかと。 決着が付いた後、浩少年だけじゃなく、周りの人達までシルビー星人に声援を送るっていうのも不自然だったし…… ここは「アウターマンが人を殺すのを見て正体を悟る」とか「凶器攻撃などの卑怯な戦い方に反感を抱き、正々堂々と戦うシルビー星人を応援し出す」とか、そういう流れにして欲しかったですね。 20億3千万のアウター星人が引き上げていった理由が謎のまま終わるのもスッキリしないし、終盤に不満点の多い形になってるのが、非常に残念でした。 でもまぁ、鑑賞前の「ウルトラマンを悪役にしてみたっていう、一発ネタだけの映画」という印象に比べたら、ずっと誠実で真面目な作りでしたし、素直に面白かったです。 最後に主人公のタルバは行方不明となり、特撮番組「宇宙星人シルビー」が放映されるって形で、画面越しに浩少年と再会する訳だけど…… その後ちゃんと二人で会って、少年との約束を守れた事を、誇らし気に報告して欲しいな、って思えました。 [DVD(邦画)] 6点(2023-03-15 23:15:15)(良:1票) |
49. モーレツ怪獣大決戦<OV>
《ネタバレ》 漫画「吼えろペン」にて、体調を崩すくらいに面白くないアマチュア特撮映画を観た主人公が、その後に「プロが作った映画は、ちゃんと作られていた」と実感し、これまで以上に映画を楽しめるようになったというエピソードがあります。 それを追体験したいという、邪な気持ちで鑑賞した訳ですが…… 結果としては「退屈」「つまらない」という程度で「体調を崩すくらいのクオリティ」は味わえなかった為、当てが外れちゃいましたね。 元々自分が特撮好きという事もあり、怪獣が出てきて戦ってるというだけで、ある程度楽しめてしまいました。 そもそも本作は「パチモン怪獣」にスポットを当てた映画であり、玩具の世界にしか存在しなかったはずの彼らが、実際に映画の中で動く姿を拝めるというだけでも、それなりに価値のある一品だったりするんです。 熱線獣ヒーターに、水素獣エッチなど、往年のパチモン怪獣を好きだった人にとっては、正に夢のような映画。 レトロな音楽や画面作りにもノスタルジーを感じたし、スタッフロールに「照明 太陽光」と表記されてたのにも、クスッとしちゃいましたね。 「巨人獣」(1958年)へのオマージュ(作中に出てくる巨人が、ちゃんと隻眼になってる)とか、夕焼けの中で戦うのは「狙われた街」(1967年)を意識したんだろうなとか、特撮好きなら「元ネタ探し」をして楽しむのも可能だと思います。 とはいえ、作品の出来栄え自体は、決して良くないというか…… 少なくとも「怪獣映画」という括りでは、自分が観てきた中でも最低の代物になってしまいそう。 色々欠点はあるけど、一番残念だったのは「作中に出てくる線路が、プラレール的な玩具の線路そのままだった事」ですね。 他の建物などは頑張って本物っぽく見えるよう作ってあったのに、明らかに線路だけ異質だったんです。 「こういう緩くてツッコミ所があるのが良いんだよ」みたいなメッセージ性も感じたけど、そういうのって「一生懸命作ったものに対し、観客が優しさを込めて思う事」であって、作り手が手抜きしても良い理由にはならないよなって、そんな事を考えてしまいました。 あと、自分が観たのは「GYAO!」の無料配信で、34分ほどのバージョンだったのですが、こちらにはグラビアアイドル演じる「プリティ・アサヤン」が登場しておらず、残念でしたね。 何時か機会があれば、彼女が登場するバージョンも観てみたいものです。 [インターネット(邦画)] 3点(2023-03-15 23:12:34) |
50. 映画ドラえもん のび太と空の理想郷
《ネタバレ》 「世界平和」を目的とした人物と戦うドラ映画というのは、今回が初めてではないでしょうか。 非常に大人向けというか、難解とも言えるテーマであり、ともすれば観客の子供に「レイ博士は世界を平和にしようとしているのに、どうして悪い人なの?」という疑問を抱かせてしまいそうなのですが…… そこを、しっかり分かり易く、万人に伝わるよう作ってあったんだから、お見事でしたね。 「ユートピアとは、即ちディストピアである」という事を感じさせるパラダピアの描写も秀逸であり、空に浮かんだ理想郷としての魅力と、人の心が消されてしまう地獄としての恐ろしさ、その双方を描く事に成功しているんだから凄い。 特に、ジャイアンとスネ夫が「浄化」され「穏やかな善人」に変わっていく様は、何とも言えない不気味さが漂っていて、印象深いです。 メインゲストとなるソーニャが「もう一人の、ドラえもん」として描かれているのも、見逃せないポイント。 それはのび太に対し「キミは私に似ている」と呟いたレイ博士にも通じるものがあり、彼は「もう一人の、のび太」として描かれている。 過去作でも「アリガトデスからの大脱走」(2012年)のマジメー(声もレイ博士と同じ)という前例がありましたが「一歩間違えば、のび太もこうなっていたかも知れないという悪役を倒す物語」の系譜として、本作は決定版と呼べるほどの、素晴らしい仕上がりになっていると思います。 「南極大冒険」(2017年)や「STAND BY ME ドラえもん 2」(2020年)の系譜である「時間軸を弄った脚本」としての質の高さも、特筆に値しますね。 「青い虫の正体」「晴れてるのに雨が降っていた理由」どちらの伏線も巧妙に張られており、その回収の仕方が、実に鮮やか。 思えば脚本担当の古沢良太は三丁目の夕日シリーズでも山崎貴監督とコンビを組んでいた人ですし、それゆえにスタドラ2を踏まえたような内容にしたのかも知れません。 ドラえもんに「ボク達は、皆の友達になる為に作られた」と言わせたのも印象的であり、正に現行アニメ版を象徴するような一言。 そもそもドラえもんとは原作初期において「セワシの子分」であり「のび太の見張り役」でしかなかったんです。 そこから徐々に「のび太の友達」へと変わっていった原作漫画を踏まえ「ドラえもんがのび太の友達になるまで」を描いたのが「STAND BY ME ドラえもん」(2014年)でしたが、本作は更に踏み込んで「ドラえもんが生まれた理由」まで断言させているんですよね。 そこに「自分が生まれてきた理由(作られた理由)は、誰かが決めるんじゃなく、自分で決めるものなんだ」という、強いメッセージ性を感じました。 レイ博士の過去が詳細に描かれていないのも、想像をかき立てるものがあり「パーフェクトな存在になる為には、心は不要」と言うレイ博士と「心は絶対に必要」と言うのび太との対比で(レイ博士はのび太と違い、誰かの優しさに触れる事無く、年老いてしまったんだな……)と感じて、切なくなったりもしましたね。 劇中における「ボクは、そのままの、のび太くんが……」というドラの台詞が、エンディング曲の「大好きなんだ、そのままで大好きさ」に繋がる構成も、本当にグッと来ちゃいました。 一応、不満点も述べておくなら「静香ちゃんは強情っぱりなのが欠点というのは、無理やり感ある」「0点の答案が降ってきて終わるよりは、ソーニャが生き返るという感動の余韻に浸らせたまま終わらせて欲しかった」とか、その辺りが該当しそうなんですが…… これも「エンディング絵にて、母が薦めるピアノではなくバイオリンに拘って演奏する静香ちゃんの姿に、否応無く納得させられる」「人間は駄目なまま変わらなくても良い、という誤った受け取り方をされない為、0点の答案で叱られるオチは必要だった」という具合に、不満に思えた箇所に関しても、すぐに答えが浮かんでくるし、本当に完成度が高かったですね。 「心を失うくらいなら、パーフェクトな存在になれなくても良い」というメッセージが込められてるのに、この映画自体がパーフェクトな出来栄えじゃないかって思えるのが、何とも皮肉。 でも、大前提である「心」を失っておらず、優しさに満ちた作りだったというんだから、本当にもう、参っちゃいます。 劇中にて、敵に狙われた故郷を守り切ったのび太が「この町の事を、もっと好きになった」と、満足気に呟くのですが…… 観客の自分としても「ドラえもんという作品を、もっと好きになった」と、そう感じるような、素敵な映画でした。 [映画館(邦画)] 8点(2023-03-03 12:52:06) |
51. パパはわるものチャンピオン
《ネタバレ》 あらすじを読んだ限りでは「お父さんのバックドロップ」(2004年)を彷彿とさせる映画なのですが…… 終盤で上手い具合に着地して、一味違った魅力を出してるのが見事でしたね。 「わるもの」であるヒールレスラーにスポットを当てた内容であり、単なる格闘技ではないプロレスの魅力を、きっちり描いてる。 勝ち負けよりも「相手の強さを引き出して、試合を盛り上げる事」が大切なんだと教えてるかのような内容であり、観ていて(そうだ、そうだよなぁ……)と、何度も頷いちゃいました。 本物のプロレスラーが多数出演している為、プロレス物としての説得力が段違いに高い点も、これまた素晴らしい。 自分は然程プロレスに詳しい訳じゃないけど、それでも「棚橋弘至vsオカダ・カズチカ」というビッグネーム同士の対決には心躍るものがあったし、他にも有名所が色々出演しているんですよね。 棚橋の「フライ・ハイ」の迫力や、オカダの打点の高いドロップキックにも惚れ惚れしましたし、もし彼らを知らない状態で観たとしても(この二人、凄ぇな)と魅了され、興味を抱くキッカケになってたと思います。 「オールスター的な華やかさがあって、マニアも満足」そして「新たなファンを開拓するのにも適した内容」って訳であり、完成度が高い。 勿論、子役の寺田心の可愛さを満喫する事も可能だし、とっても欲張りな映画でしたね。 主演の棚橋と併せて「レスラーなのに、演技が上手いな」「子役なのに、演技が上手いな」と感心させられたし…… 何ていうか「本職ではない」「まだ幼い」というハンデを背負ってるにも拘わらず、立派に好演してみせる姿が、作中の「膝の爆弾というハンデを抱えつつ頑張る主人公」の姿と重なるものがあり、ストーリーと演者のシンクロ率が高かった事も、評価に値すると思います。 心くんが嫌いになった悪役マスクマンの正体が、実は自分の父だと判明する流れも切なかったし…… 最後の試合が終わった後、声援を送らずに罵声を浴びせる事で、ヒールとしての父の心意気に応える展開も良かったです。 結局、後半で主人公は二連敗を喫する訳だけど「本物のチャンピオンベルトより、更に価値のあるものを手に入れた」って結末なので、ビターではない、甘いハッピーエンドを迎えている辺りも、嬉しくなりましたね。 「試合には負けたけど、ハッピーエンドだよ」って事に、これだけの説得力があったという一点だけでも凄い。 難点としては…… 唐突に挟まれる「トランキーロ」とか、知識が無いと意味が分からない小ネタがあるのは、ちょっと残念。 知ってる自分でも(内藤哲也の出し方、無理矢理だなぁ)と思えて白けちゃったし、ノイズになってた気がします。 小ネタにしても「石橋憲武」なんかは由来を知らなければ気にならず、分かった人だけクスッと出来る感じなので、そのくらいの見せ方の方が良かったんじゃないかと。 その他「心くんが机を叩いてクラスメイトを振り返らせる場面は、音が小さ過ぎて振り返るのが不自然」ってのも気になるし、そこかしこで作り込みの甘さが目立ちます。 総合的に判断すると、冒頭に挙げた「お父さんのバックドロップ」と同じくらい楽しめたけど、あちらは個人的に大好きなスネオヘアーが主題歌担当、神木隆之介が主演っていう強みがあった訳だし…… 純粋に物語として評価するなら、こちらの方が上かも知れませんね。 プロレスが好きな人、興味がある人ならば、必見だと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2023-03-02 06:06:29) |
52. お父さんのバックドロップ
《ネタバレ》 主題歌がスネオヘアーで、主演が神木隆之介という、自分好みな布陣だったので観賞。 個人的には「声優」という印象が強い神木隆之介なのですが「子役」としても、そして「美少年」としても卓越した存在なのだと、本作によって思い知らされましたね。 時代設定が1980年という事もあり、作中では半ズボンばかり穿いているのですが、そのフトモモが眩しくて、妖しい色気すら感じちゃったくらい。 小説などで出てくる「絶世の美少年」「天使のように愛らしい子」って、現実にも存在するんだと、彼に教えてもらったような気がします。 スネオヘアーに関しても、本来は「男女の恋愛映画」に似合いそうな曲が多いのに、父子愛を描いた本作に寄り添った曲として「ストライク」を完成させているのが、お見事でした。 で、肝心の映画本編はというと…… 良くも悪くも王道な作りであり、優等生的な一品。 際立った短所も無いんだけど、その分だけ面白みに欠けるというか……結局(神木くんが可愛い)って印象が、一番色濃く残る作品になってる気がします。 まぁ「ロッキー」(1976年)を観れば(スタローン恰好良いな)と思うし「レスラー」(2008年)を観れば(ミッキー・ロークも恰好良いな)と思う。 でもって「チャンプ」(1931年&1979年)の二作を観れば(どっちの子役も可愛いな)って思う訳だから、本作も「神木くんの可愛さを満喫する映画」と定義しても、全然悪くないんですけどね。 それでも(物足りない)(惜しい)と考えてしまうのは、それだけ観賞中に期待しちゃったというか…… 上述の傑作に並べたかも知れない可能性を、本作に感じたゆえなのかも。 そんな「可能性」の一つとして、特に着目したいのが、母親のビデオテープの件。 普通なら、こういう物語開始時点で亡くなってる母親って「完璧な存在」として扱っても、全く問題無いと思うんですよね。 でも本作に関しては、そうじゃない。 主人公の一雄から見ても、母は「いつも優しかった訳じゃない」「時々、ボクの事を打ったりした」という存在。 だからこそ一雄は、そんな母が優しい笑顔を見せた運動会のテープを、何かに縋るように大切にしていたんだって分かる形になっており、その事に凄くグッと来ちゃったんです。 口は悪いけど、実は善人というマネージャーも良い味を出しており、自分としては彼に助演男優賞を進呈したくなったくらい。 空手チャンピオンと戦う事になった一雄の父、下田牛之助(恐らく上田馬之助がモデル)を心配し「試合の当日になったら、病院に駆け込め。後のトラブルは、儂が処理する」と言ってくれる場面なんかは、特に好き。 それでいて、いざ試合当日になったら「儂は信じとるぞ」「お前が最強やて」という熱い台詞を吐き、試合後には誰より勝利を喜んでくれるんだから、たまんなかったです。 その他「煙草のようにガムを渡す場面が印象的」とか「廃バスを秘密基地にしてる少年達って設定に、ワクワクさせられる」とか、良い部分も多いんだけど…… 全体的に見ると「不満点」「気になる箇所」も目に付いたりするのが、実にもどかしい。 一番目立つのが、劇中でレスラーを辞めてしまう松山の描き方であり、これは如何にも拙くて、映画全体の完成度を下げていたように思えます。 酔って泣きながら「お前にプロレスの何が分かるんだ!」と訴え、それが感動的な場面として描かれてるんだけど、そうは言われても劇中にて「松山が如何にプロレスを愛しているか、人生を捧げてきたか」が描かれてないんだから、説得力が無いんですよね。 典型的な「唐突に出てくる泣かし所」って感じであり、こういう場面を挟みたいのであれば、ちゃんと事前に布石を打っておくべきかと。 それはタイトルになってる「バックドロップ」に関しても、また然り。 最後の試合にて、一発逆転の決着に繋げたいのであれば、事前に「牛之助の得意技」として、入念に描いておくべきだったと思います。 本当、こういう映画を観た後だと(映画を評価するって、難しいな……)と、しみじみ感じちゃいますね。 そもそも「主題歌がスネオヘアー」「主演が神木隆之介」って時点で、もう「好きな映画」になっちゃう訳だから、惚れた弱みというか、まともな判断なんか出来っこないんです。 そんな訳で、もしもスネオヘアーに興味が無く、神木くんを可愛いとも思わない人が観たら、結構厳しい出来かも知れません。 でも、自分と同じように(スネオヘアーの曲が好き)(神木くんって可愛いよね)と感じる人には、映画の後日談となる「ストライク」のPVとセットでオススメしたくなる…… そんな一品でありました。 [DVD(邦画)] 7点(2023-02-09 22:20:02)(良:1票) |
53. 決算!忠臣蔵
《ネタバレ》 関西弁で話す赤穂浪士と、やたら柄の悪い大石内蔵助。 それらに対し、最初は戸惑いが大きかったのですが…… (要するにコレは、ヤクザ映画なんだ)と気付いてからは、問題無く楽しめましたね。 現代人が忠臣蔵を観賞する際にネックとなる「浅野は加害者で吉良は被害者であり、赤穂浪士は逆恨みしてるだけ」って部分に関しても「親分の死後、残った組員が面子を守る為に復讐した」と考えれば、分かり易い。 「よう見とけ、赤穂の浪人共がする事を」と大石が静かに呟く場面も印象的であり、この映画では主人公達を立派な「赤穂義士」ではなく、庶民的なヤクザとしての「赤穂の浪人共」として描いているんです。 極端に美化された忠臣蔵より、ずっと感情移入し易い作りになってるし、この路線で仕上げたのは、正解だったんじゃないかと。 それだけでなく「経済的に見た忠臣蔵」という魅力が、しっかり描かれているのも良い。 「籠城すべきか否か」を、退職金の多寡で決める序盤の時点で、もう面白かったし、最初に軍資金が幾らあるかを分かり易く現代の価値換算で示し、それが徐々に減っていく様を数字で見せる演出にしたのも、上手かったですね。 地元と江戸を行き来するだけでも旅費が掛かるのに、何度も無駄足を重ねてる様とかもう、本当に観ていて「無駄遣いすんなよ!」って気持ちにさせられる。 そんな観客の想いを、勘定方の面々が代弁し、劇中で実際に文句を言ってくれるんだから、非常に痛快。 我らは戦の担当だからと言い訳し、勘定方を見下す同僚に対し「戦なんぞ、一度もした事無いやろが!」と大野九郎兵衛が啖呵を切る場面なんかは、特に良かったですね。 観客の喜ばせ方を知ってるなと、嬉しくなっちゃいました。 そんな勘定方の代表である矢頭長助の死を、中盤の山場として用意してあるから観ていてダレないし、吉良邸への討ち入り場面を省略し「討ち入り前の、予算内に収まるかどうかの葛藤」をクライマックスに据えたのも、結果的には良かったかと。 一応、演習として討ち入る姿を大石達が思い浮かべる形になっており、観客としても「どんな風に討ち入ったのか」を、自然と想像出来るバランスになっていましたからね。 この辺り「太鼓じゃなく銅鑼を叩くのか」と落胆しちゃう大石を描いたりして「討ち入りの際には、太鼓を叩く大石内蔵助」を期待していた観客と、主人公の心情とをシンクロさせていたのも上手い。 確実に勝利する為「一向二離(一人が相手と向き合ってる隙に、他の二人が回り込んで相手を仕留める)」の兵法を用いる事に対し「それは卑怯では?」と問う者に対し「これは戦や」と返す場面なんかも「忠臣蔵」(1990年)が大好きな自分としては、嬉しくなっちゃう部分。 赤い着物ではなく、火消し用の着物を選ぶ場面とか「経費を節約出来た時の快感」を描いているのも良いですね。 限られた予算が減っていくという、マイナスの焦燥感だけでなく、プラスの充足感も味わえる作りにしたのは、本当に上手い。 そんな節約が「討ち入り後の、残された者達を救う工作資金」に繋がるというのも、ハッピーエンド色を強める効果があって、お見事でした。 難点としては…… コメディ色が強い作りゆえか、ピー音を連発する場面なんかは、ちょっと雰囲気を壊してる感じがして、微妙に思えた事。 良い味を出していた矢頭長助が、死後は回想シーンなどでも一切姿を見せないので、寂しく思えちゃう事。 そして、忠臣蔵を代表する人気者の堀部安兵衛が、徹底的に情けなくて、良い所も無く終わっちゃうのが残念とか、そのくらいになるでしょうか。 幸い、それらの点を自分は「決定的な傷」とは思わなかった訳だけど、これを駄作と断ずる人の気持ちも、分かるような気がします。 でもまぁ、2019年にもなって「面白い忠臣蔵」を撮ってくれたという、その事に対する感謝の方が、ずっと大きいですね。 忠臣蔵という鉱脈は、まだまだ掘れるんだ、面白く出来るんだって事を証明してみせたという意味でも、非常に価値ある一本だと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2023-02-02 13:50:35)(良:3票) |
54. 遊びの時間は終らない
《ネタバレ》 タイトル通りの結末を迎えてくれるという、とても親切な映画。 一応、劇中にて「遊びの時間が終った」瞬間も描いており(主人公の平田が捕まったら、どうなってしまうんだ?)って疑問に対する答えを、きちんと用意してる辺りも嬉しいですね。 中途半端で、投げっ放しとも言える終わり方なんだけど、この「一度は逮捕エンドを迎えさせ、その後に再開している」という構成の御陰で、後味も悪くなかったです。 人質を「レイプ」する代わりに腕立て伏せで体力を消耗するとか、原作小説で印象深い場面はキチンと映像化してくれてるし、原作には無い映画オリジナルの要素として、阪神ファンのおじさんを登場させてるのも上手い。 そもそも原作の時点で「下っ端のヒラ巡査である主人公が、警察組織を翻弄する」「上流階級のエリートの鼻を明かす」という要素は含まれていた訳だけど「阪神を応援する時みたいに、犯人役を応援し始めるおじさん」って展開のお陰で、そういう「平田が庶民のヒーローになる」までの流れが、非常に分かり易くなっているんですよね。 思えば原作が発表された1985年当時、阪神タイガースには平田勝男という守備の名手がおり、優勝に貢献していたりもする訳だから、映画版スタッフも、その辺を踏まえて「平田=阪神」という重ね合わせを行ったのかも知れません。 そんな具合に「面白い原作小説を、更に面白く仕上げた映画」って形になっており、小説の映像化としては、ほぼ理想に近い出来栄え。 あえて言うなら「原作ではエリートの深川が二枚目で、主人公の平田は二枚目じゃない」という設定なのに反し、映画版では本木雅弘が平田を演じてるのが、原作との最大の違いなんだけど…… それも「平田がアイドル的な人気を得る」って展開に合っていたし、良い改変というか、良い配役だったと思います。 深川が「実は防弾チョッキを着ていた」と主張すれば、平田は防犯ビデオの映像を持ち出し「頭を撃ってるので、防弾チョッキを着ていようと死んでる」と証明してみせる場面とか、文字媒体ではない、映像媒体ならではの面白さを描いてる点も良い。 脱出の為に「金」をバラ撒く場面も「嘘を現実に変えてみせた」という不思議なカタルシスがあるし、視覚的に派手な見せ場にもなっているしで、良かったですね。 「原作通りで面白い場面」「原作には無かったけど面白い場面」その両方を描く事に成功しているんだから、本当にお見事です。 終盤、とうとう銀行から飛び出して逃亡する際に、相棒である中野が「……ここまでヤッちゃって、大丈夫かな?」と、ふと夢から醒めたような台詞を吐く件も、妙に好きなんですよね。 このまま続けたら、遊びが遊びじゃなくなってしまうかも知れない。 警察側が再び実弾を使用し、本物の犯人みたいに撃ち殺されるかも知れない。 それでも遊びを止められず、最後まで突っ走ろうとする主人公達が恰好良くて、何だか眩しく見えてくるような、忘れ難い名場面でした。 ……以下は、映画本編には関係無い余談というか、思い出話。 実は、この映画を初めて観た頃の自分って「邦画は洋画よりつまらない」「日本には、本当に面白い映画なんて全然無い」っていう偏見を抱いていたんですよね。 今は単純に映画を観た本数も増えて、面白い邦画も沢山あるのを知った訳だけど、当時の無知な自分は、本気でそう考えていたんです。 そんなある日、颯爽と現れた「本当に面白い映画」がコレだったんだから、初見の際の衝撃は、それはもう凄いもんでした。 そんな訳で、かつての自分のように「邦画は面白くない」って考えてる人がいたら、ついコレを薦めたくなっちゃうんですよね。 今なら、他にも面白い邦画を色々知ってるし、中にはコレより面白いって思える品もチラホラあったりするんですが…… やっぱり、そういう時は、この映画が一番頼もしく思えちゃいます。 自分にとっての、ヒーローのような映画です。 [DVD(邦画)] 9点(2022-12-27 14:45:40)(良:3票) |
55. 第十七捕虜収容所
《ネタバレ》 「大脱走」(1963年)の元ネタの一つ……というより、多くの脱獄映画に影響を与えた、金字塔的作品ですね。 主人公のセフトンは、後の映画における「調達屋」達の原型となっているし、本作が後世に与えた影響は大きいと思います。 とはいえ「映画好きなら、勉強の為にも観ておくべき一本」なんて堅苦しい存在ではなく「今観ても楽しめる、愉快な白黒映画」って呼べる代物なのが、何とも嬉しい。 原作が舞台劇という事もあり、基本的に捕虜収容所の建物内で物語が進行するのですが、閉塞感だけでなく、不思議な解放感もあるんですよね。 象徴的なのが劇中曲の「ジョニーが凱旋するとき」であり、その勇壮な響きが、鬱屈とした空気を吹き飛ばしていたように思えます。 貧しいスープの食事を取る皆の前で、セフトンが目玉焼きを作る場面が美味しそうとか、極限状況ならではの「普通の事が贅沢になる可笑しさ」を描いてる点も良いですね。 こういう時、普通の映画なら羨ましがる側が主人公なんだけど、本作に関しては「贅沢をして、仲間に見せ付ける側」が主人公というのも、非常に斬新。 ビリー・ワイルダー監督としては、その辺のバランスを考慮し「贅沢する側」のセフトンだけじゃなく「羨ましがる側」のハリーとアニマルにも尺を割いて、副主人公的な扱いにしたんじゃないかと思えますが…… 自分としては、もっとセフトン中心に作って欲しかったなと感じちゃうくらいに、彼が魅力的でしたね。 皆を救う英雄としての側面、皆に嫌われる悪党としての側面、その二つをバランス良く備え持っており、七十年近くを経た今観ても新鮮に思える主人公像を描いてるんだから、本当に凄い。 「入所直後に毛布や靴を盗まれた」(=だから仲間を信用していない)というエピソードを、さらっと語らせて、セフトンの人物像に深みを与えてる辺りも良いですね。 回想シーンなどで尺を取らずとも、短く話すだけで充分に説得力があったし、この辺りは流石ウィリアム・ホールデンだなと、改めて感服しました。 仲間を密告したと疑われ、散々に殴られ傷付いた顔で「本物の密告者を見つけ出す」と宣告する場面も、震えるくらいに恰好良い。 そんな主人公セフトンが、終盤に自己犠牲な行動に出る訳だけど、それにも「ダンバー中尉の親から礼金をせしめる」という目的があるので納得出来るし、この辺りの描き方が、凄く良いんですよね。 (あの悪党セフトンが、英雄的な行動をするなんて……)という意外性の魅力と、確かな説得力、両方を描く事に成功しているんだから、お見事です。 脱走の直前「もし、どこかで会っても知らん顔しような」と、仲間達に冷たい言葉を残していくんだけど、その後に笑顔で敬礼して去っていく姿も印象的であり、セフトンの二面性の魅力が色濃く表れた、忘れ難い名場面だったと思います。 そういった訳で「主人公の魅力」に関しては、今観ても斬新だと思えるのですが…… 「密告者が誰なのか」の種明かしの方は、非常に分かり易く、少々拍子抜けしちゃうのは、残念でしたね。 本当に振りや伏線が丁寧なので「このジャンルが未熟な当時でも、観客が理解出来た展開」って意味では賞賛されるべきなんだろうけど、個人的には、もうちょっと難易度を高くして欲しかったです。 何せ、セフトンより先に「密告者が誰なのか」を観客に明かす構成になっていますからね。 これは、如何にも寂しい。 やはり、セフトンと観客を一体化させて、同時に犯人を突き止める形にした方が「ああ、そうか」と喜ぶセフトンの姿にも、よりカタルシスを得られたんじゃないかと思います。 ……ただ、そんな犯人の正体を踏まえた上で二度目の鑑賞をすると「皆の頼れる兄貴分」って感じに振る舞ってる犯人の姿が白々しくて面白いとか、やっぱり長所の方が圧倒的に多い映画なんですよね。 作中一番のツッコミ所だろう「犯人を外に出して、警備兵に撃たせる場面」に関しても(助けを求められちゃうし、口と手を縛ったままで放り出した方が良かったのでは?)と思わずにはいられないんだけど(まぁ、皆して裏切り者への怒りで頭に血が上ってたから、冷静に考えられなかったんだろう)と、好意的に解釈したくなるんです。 他にも、撃たれた後の演技が微妙で、死体のはずなのに生きてるとしか思えない場面とか、不自然で嘘臭い箇所があっても、劇中の捕虜よろしく「俺は信じるよ」って気持ちにさせてくれるんだから、本当にズルいというか、憎めない映画ですね。 きっと今後も、いつまでも嫌いになれないまま、好きな映画のままであり続ける気がします。 [DVD(字幕)] 8点(2022-12-14 00:49:52) |
56. 大脱走
《ネタバレ》 全員主役の群像劇ってイメージが強かったんですが…… 改めて観返してみると、完全にスティーヴ・マックィーン主演の映画ですね。 「独房王」のヒルツは冒頭から出てくるし、見せ場も一番多いしで、間違い無く彼が主人公なんです。 後は精々「調達屋」のヘンドリーが副主人公と呼べそうなくらいであり、原作小説では一番存在感があった「ビッグX」ことバートレットも、三番手くらいのポジションに思えました。 では、何故「全員主役」ってイメージを抱いてしまったのだろうと考えると、やはりそれだけ脇役達が光ってたからなんですよね。 自分としてはダニーとウィリーの「トンネル王」コンビが好きというか、印象としては、この二人こそ「主人公、あるいは副主人公と呼べる存在」と思っていたくらい。 再見して、意外と出番が少なかった事には驚かされたけど、それでもこの二人が無事に逃げ延びる結末には、心底ホッとさせられました。 本作ってバッドエンドに近い結末なんですが、不思議と爽やかな後味となっているのは、飄々と生き延びた主人公ヒルツの存在だけでなく「脱走に成功する」という、決定的な勝利を収めた二人の存在が大きかった気がします。 そんな二人だけでなく「製造屋」のルイスも逃げ延びるのに成功したって辺りも、何だか興味深いですね。 列車から飛び降りたり、バイクで柵を越えたりした派手な連中は捕まって、自転車や手漕ぎボートというノンビリした逃走手段を選んだら成功しちゃうという展開に、不思議なユーモアを感じます。 それは「情報屋」マックが捕まってしまう場面も、また然り。 「引っ掛かるな、初歩的なワナだ」と味方を諭してたマックが、その初歩的なワナに引っ掛かり、正体がバレてしまうって展開でしたからね。 当人達は命懸けの脱出作戦を繰り広げてるんだけど、緊迫した状況下でも、どこかユーモアがあって、それがこの映画の得難い「愛嬌」になってる。 ひたすら陰鬱でシリアスなだけの内容だったら、こうまでも「愛される映画」にはならなかったでしょうし、適度に「皮肉な笑い」「ほのぼのとした空気」を挟んだのは、もう大成功だったんじゃないかと思います。 他にも、誰もが知ってる終盤のバイクアクションに、盲目のコリンが死んでしまう場面の物悲しさなど「この映画の、ここが好き」って事を語り出したら、止まらなくなっちゃうくらいですね。 BGMも秀逸であり、この映画が「コメディ」としても楽しめるのは、あの惚けた魅力の曲あってこそと思えます。 自分としては、ヒルツが初めて独房に入れられる際の「兵士から盗んだ鍵を返す場面」の音楽とのシンクロっぷりが、特に好き。 堂々と胸を張ってヒルツが連行される場面では勇壮な音楽が流れ、扉が閉まり、独房の中を映す場面では悲壮な音楽に変わるという、その変幻自在な様も、お見事でした。 ヒルツの相棒であり、中盤で無謀な脱走を企てるアイブスに関しても、独房の中で座り込む姿と音楽だけで「彼は精神的に限界」って事が伝わってきたし、本当に音楽の使い方が上手かったと思います。 後の脱獄物で頻繁に模倣されてる「土の捨て方」が描かれる場面でもテンションが上がったし、この映画って後世に与えた影響が大きいから、そういう「元ネタになってる場面」を鑑賞するだけでも、知的な興奮が味わえるんですよね。 パッと思い付く限りでは、洋画の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年)でも本作は「主人公のリックが主演していたかも知れない映画」として、眩しい存在として扱われていますし、邦画の「波の数だけ抱きしめて」(1991年)でも、さり気なく本作のクライマックスがオマージュされていたりするんです。 勿論、本作より昔の映画を観て(あっ、ここが「大脱走」の元ネタになっているのか)と気付いた瞬間なんかも、凄く嬉しくなっちゃいます。 「大脱走」は偉大な映画であり、単品として観るだけでも充分に面白いのですが…… この映画を観ておけば、他の映画も更に楽しくなるという意味でも、オススメの一本です。 [DVD(吹替)] 9点(2022-11-30 12:55:35)(良:3票) |
57. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
《ネタバレ》 実際に起きた悲劇をハッピーエンドに変えた映画としては「ザ・チェイス」(1994年)などの先例がありましたが、そういったジャンルの決定版とも言うべき品ですね。 何せ(これは、あの事件が元ネタなのでは?)と観客に想像させるだけでなく、思いっ切り「シャロン・テート」って人名を出しているんだから、恐れ入ります。 現実では悲痛な死を遂げた彼女を、映画の中で救ってみせた形であり、そんな「優しい作り話」を、元ネタを知らない観客でも楽しめるように仕上げてるんだから、本当に見事でした。 上述の通り「シャロン・テート」という存在ありきの内容ではあるんですが、この映画って「主人公のリックとクリフ、二人の友情の物語」としても、綺麗に成立しているんですよね。 離れ離れになってしまうかと思われた二人が「これからも、ずっと一緒だ」「友情は不滅だ」と感じさせる結末を迎えてくれるんだから、もう嬉しくって仕方無い。 作中で「兄弟以上、夫婦未満」なんて言葉が出てくるけど、事件後の描写からすると、この二人の絆は夫婦以上としか思えなかったくらいです。 ……で、ココがこの映画の上手いところなんですが、そういった「友情の映画」としての側面もあるからこそ、本作は「分かる人だけが分かれば良いという、独り善がりな映画」ではなく「色んな人が楽しめるような、立派な娯楽映画」になってるんですよね。 例の事件を知っている身であれば(良かった、シャロン・テートが殺されずに済んだ……)とホッと出来る訳だけど、知らない人からすれば、そういうカタルシスは得られ難い。 そんな弱点を補うように、誰もが理解出来る要素として「主人公二人の友情」を追加したのは、本当に上手かったと思います。 自分としては、ブラッド・ピット演じるクリフに肩入れする気持ちが強かったんですが、ディカプリオ演じるリックも魅力的だったし、二大スターの見せ場のバランスも良かったですね。 中盤でリックが見事な演技を披露し、監督や子役に称賛される場面には感動しちゃったし「落ち目の俳優が、意地を見せて業界にしがみ付く物語」としても、充分に楽しめる出来栄え。 アル・パチーノやカート・ラッセルまで出てくるし、かつての映画小僧タランティーノが「何時か、こんな映画を撮ってみたい」と夢見ていた品を、そのまま形にしたようであり、豪華な出演陣にワクワクするという以上に、ほのぼのしちゃいました。 この映画の世界では、チャールズ・マンソンが「悪のカリスマ」と持て囃される未来も訪れず「単なる犯罪者」という、至極真っ当な扱いを受けるんだろうなと思えるような、皮肉なユーモアが備わってる点も面白い。 犯人の一味が「俺は悪魔だ。悪魔の仕事をしに来た」という有名な台詞を吐いた後、クリフに倒されちゃう展開とか、実に痛快でしたからね。 ただ、ちょっとクリフが強過ぎるというか…… 敵側の戦力が少な過ぎて(こんな奴ら、リックとクリフなら返り討ちにするだろ)と展開を予想出来ちゃったのは、少し残念。 映画本編の情報だけだと、彼らが事前に殺人を犯していた事も明かされていないし、クリフ達に痛めつけられる姿が、可哀想に思えてくるのも難点ですね。 この辺りは「マンソン・ファミリーが殺されて当然の連中だって事くらい、観客は分かってるはず」という、慢心のようなものがあった気がします。 もっと分かり易く「こいつらは極悪人なんだよ」と、事前に説明しておいてくれたら、より強いカタルシスを得られたかも。 恐らくは映画オリジナルの台詞で「みんな、テレビを観て育つよね」「アイ・ラブ・ルーシー以外、全部殺人の話だよ」「殺しを教えた連中を殺そう」っていう、犯行動機のようなものが語られているのも、興味深いものがありましたね。 そんな事を言ってた連中が、映画やドラマを作る側であるリック達に一蹴される展開な訳だし「テレビから影響を受けて人を殺した」と主張するような輩に「馬鹿言ってんじゃねぇよ」と、作り手側がメッセージを送ってるようにも思えました。 そんな具合に、シンプルに観ても面白いし、色々深読みしても楽しいという、贅沢な一本。 「シャロン・テート事件を扱った映画の中で、一番好き」「昔の作品をパロってみせてる、オタク気質な部分が好き」「男二人の友情映画として、凄く好き」って感じに、色んな観客の、色んな形の「好き」を受け入れてくれそうな…… 懐の広い映画でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2022-11-24 07:56:40)(良:2票) |
58. ザ・チェイス
《ネタバレ》 無駄な説明を省いて、映画が始まって直ぐに「ヒロインを誘拐してからの逃走」→「主人公と警官達のカーチェイス」という流れに突入するのが気持ち良い。 こういう構成の場合「面白さのピークを序盤に持ってきたせいで、途中からダレてしまう」って形になる品も多いのですが、本作に関しては最後までピークを維持出来ていたし、その一事だけでも傑作と呼べると思います。 基本はコメディでありながら、程好くシリアスな要素を織り交ぜているのも見事であり「安心して楽しめる娯楽映画なんだけど、結末は読めない」ってバランスに仕上げてあるのも良い。 本作の元ネタって、恐らく「パティ・ハースト事件」(お金持ちの令嬢が誘拐され、犯人と恋仲になってしまう)じゃないかと思うんですが、それがまた「悲劇的な結末」に辿り着くのを示唆しているんですよね。 あの事件を知っている観客であれば、単純なハッピーエンドにはならないだろうと考えるし、それゆえに主人公が追い詰められ、物悲しい音楽が流れる「ニュー・シネマ的な射殺オチ」を見せられても、納得出来ちゃう。 ところが、この映画はそこで終わらせずに、更に一歩踏み込んでみせたんです。 上述の射殺シーンは主人公の妄想(=目を瞑った間に考えていた未来予測)だったと判明し、底抜けに明るいハッピーエンドに着地する。 この「実際にあった事件をハッピーに変えてみせる」という手法は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年)でも用いられているし、本作が先駆的な品であった事を証明してる気がします。 劇中にてThe Offspringの曲が使われているのも嬉しかったし、マスコミが事件を面白可笑しく報道する様を、皮肉たっぷりに描いてる点も良いですね。 そういったマスコミ連中や、ヒロインの父親が適度に憎たらしい存在であるからこそ、彼らを出し抜いて主人公カップルが逃亡成功するのに喝采を送れる訳であり、本当に上手い作り。 チョコバーを銃に思い込ませた事が伏線の「もうキミを人質には出来ない。銃を食っちゃったし」って台詞も洒落てるし、カーチェイスだけでなく、会話劇としての面白さもあったと思います。 難点を挙げるとしたら……主人公が無実の罪を着せられた「ピエロ強盗」の真犯人の顛末が不明なので、モヤモヤが残っちゃう事が挙げられそうですね。 あそこに関しては「実は交通事故で死んでいた」とか「他の事件で有罪になって服役中」とか、そんな情報を主人公の弁護士が伝えてくれていたら、よりスッキリとした結末になっていたかも。 チャーリー・シーンは好きな俳優さんだし、誰もが知ってる名作映画にも数多く出演されてる方ですが…… そんな彼の「隠れた傑作」を教えて欲しいと言われたら、本作を紹介したくなる。 オススメの一本です。 [地上波(吹替)] 8点(2022-11-15 02:54:26)(良:1票) |
59. 就職戦線異状なし
《ネタバレ》 ナレーションも相まって、学校の授業で見せられる教材ビデオみたいでしたね。 実際に「面接の作法」なども作中で語られているし、そういう意味では「為になる映画」と言えるかも。 バブル期は就職し易くて良かったという以上に「残業を嫌がる事」「有給めいっぱい取る事」が悪徳のように語られてるのも印象的であり、そういった具合に「今との違い」を感じられる内容なのは、史料的価値があるように思えます。 ただ、面白い映画とは言えそうになくて…… 根本的に「なんだかんだで就職は上手くいきました」「ヒロインとも結ばれました」ってだけの粗筋でしかないので、どうも盛り上がりに欠けるんですよね。 こういう場合、せめて登場人物が魅力的であれば(彼らが頑張る姿を眺めてるだけでも楽しい)って気持ちに浸れるんですが、本作はそうじゃない。 織田裕二が好きな自分ですら(傍迷惑な奴だなぁ)と思えちゃう主人公だったし、かなりキツかったです。 酔って喧嘩した相手が就職の面接官だったとか、そういう王道な魅力はあるし「自分探しならぬ職場探しを通して若者達の絆が深まる青春物語」って雰囲気自体は、決して悪くなかったんですけどね。 ただ、そんな美味しいキャラである面接官の雨宮に関しても、終盤で主人公にネクタイを貸す場面とか(何で急に良い奴になったの?)って戸惑っちゃうんです。 友人である北町との別れも同じ調子であり、感動的な場面として描いてるけど、それまでに北町との友情を感じさせる描写が希薄だから、心に響かない。 なんていうか「こういう感動的な場面をやろう」っていう意思は伝わるし、その場面だけ観れば、それなりに決まってるんだけど…… 「その場面に至るまでの過程」が描けてないから感動出来ないってパターンが多いんですよね、この映画。 金子修介監督の品は好きな映画が多いのですが、本作を撮った当時は未熟だったのかな、と思ってしまいます。 最後はスポーツメーカーに勤める結末だったけど、それならいっそ高校野球の監督を目指す結末の方が良かったのでは? と思えちゃう辺りとか、細かい不満点も多いですね。 いつもタクシーが捕まらない主人公が、十数台ものタクシーを一度に止められるようになるとか、いきなり飛んできた謎のボールを投げ返すとか、漫画的な場面が続出して終わるのも、何か無理してるというか「主人公の不運さや、野球のトラウマに対して無理やり決着を付けた」って感じであり、ハッピーエンドなのに褒めるのが難しいです。 上述の通り、主演俳優は大好きな織田裕二だし、エンディングに流れる「どんなときも。」は名曲だしで、色々と「好きになれる」要素は揃っていただけに、惜しい出来栄えですね。 この後、金子監督と織田裕二が再びタッグを組んだ「卒業旅行 ニホンから来ました」(1993年)は自分好みの傑作だった訳だし、何かもう一つでも違う方向に転んでいれば、本作も好きになれたかも知れません。 [ビデオ(邦画)] 4点(2022-11-01 17:41:31) |
60. 七人のおたく cult seven
《ネタバレ》 これは七人のおたくを描いた映画……というより「内村光良のアクション映画」ってイメージが強かったりしますね。 そのくらい終盤の格闘シーンが衝撃的だったし、実に痛快。 ウッチャン演じる近藤に対し、それまで散々「弱いぞコイツ」って印象を与えておいて、それがいざ本気で戦ったら強かったっていう、そのカタルシスが半端無いんです。 本作はメインとなる七人全員、ちゃんとキャラが立っているし、群像劇と呼べる構成なんですが…… それでもなお「ウッチャンが全部オイシイとこ持っていってる」って、そんな風に感じちゃいます。 監督や脚本家が苦心して整えたであろうバランスを、一人の演者さんのパワーが引っ繰り返してみせた形であり、ここまで来るともう、その「バランスの悪さ」が気持ち良いし、天晴と拍手を送りたいですね。 そんな訳で「ウッチャンのアクションが楽しめるだけで満足」「それ以外の場面は、正直微妙」って評価になっちゃいそうな作品なのですが…… 一応「おたく達が仲良くなって、夢を叶える青春映画」としての魅力もあるし、全体のストーリーや雰囲気も、決して嫌いじゃなかったです。 とにかく作りが粗くて、脚本のツッコミ所も多いんだけど、何となく庇いたくなるような愛嬌があるんですよね。 例えば、山口智子演じる湯川リサは、設定上はレジャーおたくって事になってるけど、明らかに「普通の人」であり、この時点で「七人のおたく」って看板に偽り有りじゃないかって話になるんですけど…… 劇中にて、主人公の星が「キミも同じ目になろう」とリサに計画書を渡す場面があるし、今回の冒険を通して「彼女も、おたくの仲間入りを果たした」って事なんだろうなと、好意的に捉えたくなっちゃうんです。 他にも、ダンさんの秘密基地で模型作りする場面とか、皆で竹筒の皿を使って食事する場面とかも、妙に好きなんですよね。 「仲間で集まって、ワイワイ遊ぶ楽しさ」が、しっかり描かれてたと思います。 飛行機の玩具で始まり、玩具のような飛行機で終わる構成も綺麗だったし、空から見た島の景色が、ダンさんと作った模型そっくりだった事にも感動。 最後に「皆、同じ目になった……」と満足気に呟く星に対し、他のメンバーが「そんな目はしてない」とツッコんで終わるのも、仲良しな雰囲気が伝わってきて好きですね。 自分にとっての映画もそうなんですが、おたく趣味の持ち主って「それが面白いから」というより「それが好きだから」ハマってしまい、おたくになったってパターンが多いでしょうし…… 本作も「おたく映画」らしく「面白い」って言葉よりも「好き」って言葉が似合うような、そんな一本に仕上がってると思います。 [DVD(邦画)] 7点(2022-10-21 17:23:40)(良:1票) |