601. 東京ゴッドファーザーズ
これは悪口で言うのではないのですが、話自体は70年代によくあったような古典的なストーリーですよね。そういう話を、ある意味サブカルチャー最先端のマッドハウス・今敏が手がけたっていうのが興味深いです。個人的には、熱い話に対して絵の線が細いような印象でしたが、若い方にはその方が受け入れられやすいのかもしれませんね。女子高校生ホームレスのミユキがしじゅうハナをすすっているのが、既成の女性アニメキャラの枠を壊そうとしているように思えて面白かったです。 7点(2004-05-11 17:07:43) |
602. 壬生義士伝
《ネタバレ》 中井貴一と、あと佐助(山田辰夫)が良かったと思います。ただ、「泣かせよう」という意図がミエミエで、そう思いつつもちょっと泣かされてしまったのが、なんか悔しいなあ。ところで、貫一郎(中井)は家族を愛していたからこそ、周りに嘲笑されるのもかまわず金に執着し、生に執着してたわけでしょう?いわば通俗的な「侍のあり方」を振り捨てたがゆえに「真の侍」たりえたと。だったら息子は死んだ父の後を追うのではなく、生きて家族を守ることで父の遺志を継ぐべきだったんじゃないでしょうか?この話がどの程度事実に基づいているのかは分からないけれど、今の時代に時代劇を作るならば、新しい切り口・批評性がなければ(例えば、古い作品だけど「切腹」のように)意味がないような気がするなあ、とちょっと思いました。 7点(2004-05-11 16:54:10)(良:1票) |
603. 桜桃の味
正直に告白すると、僕もかなり眠くなりました(笑)。良い映画だと思うのですが、流れがゆったりしていて、すごくストイックな作りなんで・・・。ただ、色々な点で興味深かったです。自殺願望のある主人公と彼が出会う人々(若いクルド人兵士やアフガン難民、神学生、トルコ系の老人など)の会話は中東の姿が感じられるというだけでなく人生に対する含蓄が感じられます。あと、この作品では会話をしていても、ずっと主人公の顔だけ映してたり、走る車を延々と映してたりしていて、人物の顔をなかなか見せないし、なぜこの主人公が自殺しようとしているのか、或いは後半、カップルの写真を撮るよう頼まれた主人公がなぜ自殺をためらうのか、一切説明はされないんですよね。多分観客の想像力をかきたてようとしてるんだろうけど、この手の作品をあんまり観てないとツラいかも。 6点(2004-05-11 16:41:40) |
604. パンと裏通り
アッバス・キアロスタミのデビュー作。イラン映画なのにいきなりオブラディ・オブラダやジャズっぽい音楽が流れてくるのでビックリしたのだけれど、この作品が作られたのは1970年。78年にホメイニ師がイラン革命を起こすまでイランは親米派のパーレビ国王が統治してたんですな、とちょっぴり歴史の勉強。10分ほどの短編ですが、ほのぼのしていてちょっと小津監督の「突貫小僧」を思い出しました。 6点(2004-05-11 16:11:00) |
605. エル・スール
前作「ミツバチのささやき」もそうだったが、ヴィクトル・エリセの作品では音も映像も決して叫ばない。ただ、慎ましげに密やかに、何かを語りかける。その声はとても静かで、こちらが少しでも気をそらすと聞き漏らしてしまいそうになるが、気味の悪い呟きではなく、まるで穏やかな老人の昔語りのように心を惹きつける―――本作に登場する父親が果たしてどのような人生を送ってきたのか、何を抱え、苦悩していたのか、作中ではっきりとは明示されない。観客は娘と同じ立場になって、失われた時間と記憶に思いを馳せる・・・・・・静かな、とても静かな作品。 9点(2004-05-07 18:27:17)(良:2票) |
606. 犬死にせしもの
作品をすべて観た訳じゃないので断言は出来ないけれど、これは80年代の井筒作品の中では最高傑作ではないでしょうか?戦後まもなくの、食うか食われるかの時代だった日本を活き活きと描いた西村望の原作は、内容がしっかりしているというだけでなく井筒監督の作風に見事マッチしているし、西村晃・蟹江敬三といった魅力的な脇役・悪役がしっかりと物語を支えている。何といっても真田広之・佐藤浩市という、おそらく当時最もイキの良い俳優二人が演じる主人公の存在感が凄い。その二人と、井筒監督の人間臭い演出が幸福な出会いをした結果、監督が愛するアメリカンニューシネマの影響を感じさせながら、同時にムチャクチャ熱い青春映画が生まれた。僕はこの作品を観た後、しばらくぼうっとなって、何をする気にもなれませんでした。井筒作品を苦手とする人にも、これは胸を張って勧められます、マジで。追記:今井美樹のヌードは確かにあまり見応えはないけれど、船べりで座り小便するシーンを堂々と演じた彼女の「役者根性」はもっと評価されてしかるべきだと思う。 10点(2004-05-06 19:47:09) |
607. インディアン・ランナー
「これだよ、これが映画なんだよ!」と、観た後叫びたくなるような、久々に映画らしい、重ーいボディ・ブローを食らったような作品でした。骨太でセンチメンタル、まるで古き良きアメリカン・ニューシネマを彷彿とさせる作風。生真面目な警察官の兄を演じるデヴィッド・モース、凛とした美しさを湛えたその妻ヴァレリア・ゴリノ、とてもキュートでイカれた元ヒッピーのパトリシア・アークェット、そして危うげでセクシーなフェロモンムンムンのヴィゴ・モーテンセン!「ロード・オブ・ザ・リング」でアラゴルンにヤラれちゃった人は、こっちを観とかないと後悔しますぜ。 9点(2004-05-06 18:43:53) |
608. クロッシング・ガード
ひょっとして、映画というジャンルで「テーマ」は何か、という事を語るのはナンセンスなのかもしれないのだけれど、それを承知であえて書くと、この作品のテーマ、それは「果たして、人と人は分かり合えるのか」という事ではないだろうか?作品の冒頭ではストリップの馬鹿騒ぎの中に佇むフレディ(J・ニコルソン)と、その元妻が参加する遺族の集いとが交互に映される。これは、人と人との間にある、容易には埋められない「溝」を象徴しているように思える。娘を轢き殺した犯人に対する復讐を誓うフレディは遊び仲間にも、また同じ立場である筈の元妻にも理解されない。尚且つ自分に想いを寄せるストリッパーに対しても心を完全に開くことは出来ず、一人自閉的な孤独を抱えている。一方犯人のジョンもまた、友人にその心中を理解されてはいないし、彼の出所後に出来た恋人(ロビン・ライト)は彼に寄り添いながらも、彼を罪悪感から解放することが出来ない(ただ、彼がある意味フレディより救われているのは、彼には彼を無条件で愛し、受け止める存在―両親―がいるということである)。しかし、そんな被害者・加害者の関係にある二人はラスト、「亡くなった娘を悼む」という点で分かり合えたのではないだろうか?両者の関係は一般的ではない、極端なものだが、人と人とが「分かり合う」ためには、単なる思いやり・同情だけでなく時に暴力的であるような「格闘」も必要なのかもしれない。余談だが、戦争前イラクを訪れたショーン・ペンはその理由を問われ「イラクにも自分達と同じような人間がいて、同じように子供がいるという事をこの目で確かめたかった」という意味のことを語っていたと記憶している。ショーン・ペン、有言実行の男である。 9点(2004-05-06 18:37:16)(良:2票) |
609. プレッジ
《ネタバレ》 僕が映画をちゃんと観るようになったのはここ数年の事で、ショーン・ペンを知ったのも「アイ・アム・サム」が最初で、尚且つその後に観たのが「俺たちは天使じゃない」だったりしたので、「ショーン・ペン=笑顔の可愛い役者さん」というイメージがずっとありました。それがこんなごっつい映画を撮っていたとは・・・。で、この映画に関してなんですけど、僕は「狂気と妄執」というより「孤独と、運命のいたずら」についての作品と感じました。この作品は謎解きが主眼ではないので、連続殺人の犯人が誰だったのかということは暗示的にしか示されてませんが(蛇足ですが「インディアン・ランナー」で、黙々と洗車する主人公に付きまとうおばちゃんを演じていた女優がこの作品にも出ていて、とても印象的でした)、もし「彼」が事故を起こさず現場に現れていたら、主人公はその「手段」に問題があったとはいえ「正しかった」と思われた筈ではないでしょうか。そんな「運命のいたずら」に翻弄されてしまう、ちっぽけな人間を、ただ淡々と描いたショーン・ペン。彼のあの笑顔の裏には物凄い「業の深さ」が潜んでいたんですね。 8点(2004-05-06 17:55:58)(良:1票) |
610. 天国の日々
何と言うか、異色のアメリカンニューシネマって感じでしょうか?アメリカ映画らしからぬ繊細で気品のある映像(いや、アメリカ映画が大味で下品といってるわけではないです)、起承転結を無視したようなストーリー展開、あっけないラスト。サム・シェパードに比べるとR・ギアの影が薄い感じもしましたが、良かったです、割と。 8点(2004-05-06 16:41:06) |
611. キング・オブ・コメディ(1982)
これは怖い。特に前半が怖い。デ・ニーロが快活に笑えば笑うほど、怖い。民主主義幻想と歪んだアメリカンドリームで肥大するエゴ。「ありたい自分」と「今ある自分」のギャップを、自分に対する嘘・妄想で埋める、主人公。・・・っと、あまり怖すぎて、いつもと文体が変わってしまった。んと、誘拐するまでの前半は、そんな訳でホラー顔負けの緊張感なのだけど、後半ちょっとだれたような気がするなあ。っていうか、オチはきっとTVのステージにあがったものの、主人公は緊張のあまり何も出来ませんでしたってな感じなんだろうなーと勝手に予想していたので、少し拍子抜け。んでもあれはあれで、すごーく皮肉の効いたオチなのかも。蛇足ですが、デ・ニーロが公衆電話を独り占めしてるときに絡んでくるチンピラって、ジョー・ストラマー? 8点(2004-05-06 16:19:26) |
612. ボーイズ・オン・ザ・サイド
本編観てる時はそうでもなかったけど、エンディングで本編のシーンが繰り返されるところでジワジワ感動が押し寄せてくる感じでした。悲しい話なのに、あったかい気持ちになれますね。 7点(2004-05-06 16:09:10) |
613. スクール・オブ・ロック
これは“分かってる奴”が撮った作品だ!ロックとはNo FutureでHow low?な絶望・孤独・怒り・悲しみ・否定・退廃の淵から立ち上がるものであるが、同時にそうした全ての負の要素をギリギリでプラスに転化させ、I am alive!と叫ぶことだ。分かりやすく言うと、なーんのとりえもない奴に「生きる力」を与える音楽ってこと。とゆー理屈は実はどーでも良くて、僕はあの「School of Rock」のイントロで、いつも泣いちゃうのさ。 9点(2004-05-04 18:19:22)(良:2票) |
614. ピーター・パン(2003)
あり?公開されてから結構経ってるし、全国ロードショー作品なのに、レビュー少ないですね。往年のディズニー作品のように子供の為に作られてて、尚且つ子供だましになってなくて、結構良かったですよ。ちゃんと原作を尊重しつつ、独自の切り口もありました。・・・ただ、僕がこれ観た時、他に客がゼロだったんですよ(泣)。観に行った時間が悪かったのかも知れないけど、こういう作品は、やっぱり“小さなお友達”とキャーキャー盛り上がって観たかったなあ。 7点(2004-05-04 17:52:38) |
615. チャック&バック
やましんさんの仰るとおり、これはジャンル分けの難しい、つかみ所のない作品ですね。僕の場合、あのチャックの行動を観てて、なんか不安になりました。 ただ途中からチャックが自分達の体験を元に戯曲を書いて上演するじゃないですか?別にチャックは演劇の世界に興味があったわけでも、それを職業にしようとしたわけでもなく、ただ「バックに観てもらいたい」という一心で戯曲を完成させ、上演にこぎつける。その結果、ある種の「救済」がチャックに訪れる。これっていわゆる「創作」というものの本質を描いているような気がしました。ある演劇関係の人が「自分たちは死なないため、息をし続けるために演劇をやってきた」といった発言をしたのを聞いたことがありますが、この作品のチャックも、まさにそうだったのでしょうね。 7点(2004-05-04 17:36:03) |
616. アダプテーション
僕には十歳以上年の離れた姉(ちなみに「エイリアン」レビューで書いた、あの姉)がいるのだが、映画の好みが180度、とは言わないが160度位違う。ニコラス・ケイジが大好きで彼を「ニコちゃん」と呼んでたりするのはハタから観てると「なんだかなあ」なのだが(もっとも我が心の兄貴ことジョニー・デップを俳優の道に誘ったのはニコラス・ケイジなので、縁が無い訳ではないのかも)、その姉が「せっかくわざわざDVD買ったのに全然面白くなかった)と言ってたのが本作。姉ちゃん、悪いけど、そう言われると観たくなるんだよ。と、前置きはここまでにしておいて、結構面白かったです。非常に多層的な作りになっていて、脚本家が脚本を書きながら映画に登場する(?)という変化球のコメディとしても見られるし、モノ創りのしんどさを描いた話とも取れるし、才能はあっても人間的に駄目な男の成長箪としても読めるし。僕はお互いに足りないものを補い合っているチャーリー・ドナルドの双子が、ドナルドの死によって一つとなり、成長する・・・という、一種のファンタジー・寓話として観たんですけどね。 7点(2004-05-02 20:06:06) |
617. 靴をなくした天使
これは久々にめっけもんでした。人間を皮肉な視点で捉えながらも、愛情のある描き方をしていて、キャプラの映画やO・ヘンリーの小説を彷彿とさせます。ラストはなんとなく予想できるのだけれど、話の運び方が巧みで飽きないし、ダスティン・ホフマンやアンディ・ガルシアも良い味出してます。同じダスティン・ホフマンが出演してた「ワグ・ザ・ドッグ」と同じでマスコミ批判が盛り込まれているけれど(「マスコミに演出された分かりやすいヒーロー」は、まるであの「ジェシカさん救出」を連想させる)、「ワグ~」より上手く作品化されてると思います。ただ、惜しいなあ、ラストをオシャレに決め過ぎたのがちょっと個人的にマイナス。もっとホロ苦い感じにすれば、より余韻の残る作品になったと思うのだけれど・・・。 8点(2004-05-02 19:37:57) |
618. Q&A
個人的には「セルピコ」より好きです。人種的緊張もはらませながら、ジワリジワリと事件の核心に迫る過程が実にスリリング。欲を言えば、ラストがちょっとロマンチック過ぎたかな? 8点(2004-04-30 19:06:45) |
619. ウィズ・ユー
この手の話は嫌いじゃないんですけどね。も一つ何か足りなかったような・・・でもところどころいいシーンはあったし、子役のエヴァン・レイチェル・ウッドが可愛かったので。 7点(2004-04-30 18:56:36) |
620. ビッグ・ショー!ハワイに唄えば
うむむ。自称「ゲロッパ切り込み隊長」のワタクシは(切り込んだはいいけど、誰もついて来てくれないという説あり)、「ゲロッパ!」そっくりな雰囲気・テンポがそれだけで心地良かったのだけれど・・・確かに欠点を挙げる事はできるんですよ。加藤茶を初めとする日系ハワイ人が不自然すぎるとか、竹内結子が一人浮いてるとか(いや、結構好きなんですけど)、尾藤イサオの親父ギャグがさぶすぎるとか。何より「演歌」という若者ウケしないものを題材にしたのが致命的なのでしょう。確かに僕も演歌や都はるみには興味ないし、今までこの映画を積極的に観たい気持ちにならなかったのは事実。たださぁ、例えば戦争嫌いな人でも「良い」と思える戦争映画はあるし、ヤクザ嫌いでも「すげえ!」と思えるヤクザ映画はあるじゃん。そういう意味でこの作品は演歌嫌いでも面白いと思える演歌映画だと思うのだけれど・・・。話は変わりますが、以前インタビューか何かで井筒監督が語っていた所によると、彼にも何度か「映画監督をやめよう」と思った事があったそうです。確かに過去の作品を見てみると、中には「あちゃー、やっちゃったよ」と言いたくなるような作品もあるんですよね。だからひょっとすると、いつまで経っても芽が出ず、肝心な所で失敗してしまう赤城麗子というキャラクターには、井筒監督自身の姿が投影されてたりするのかなあ、と思ったりもするんですよね。確かに、「潔くやめる」という行為はカッコ良いのかもしれないけれど、失敗を繰り返してもしぶとくタフに物事を続けるというのも、やはり尊敬に値する姿なんじゃないか、と僕は思います。もし監督をやめちゃってたら「ゲロッパ!」は生まれなかったわけだしね。 7点(2004-04-28 18:56:37)(良:1票) |