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601.  七人の侍 《ネタバレ》 
黒澤監督の全盛期の作品って、実は観たことが無くって(乱と影武者だけ)。何かこう『観る時には正座しなきゃ駄目かな?』なんて、“世界のクロサワ”って冠に自ら敷居を上げて鑑賞。 普通に大人から子供まで楽しめる娯楽作品だったことに驚愕。肩肘張ってたところ、一気に楽な姿勢を取り戻して、戦国末期の世界感を堪能できた。『その世界に入り込める』というのは映画では結構重要な要素で、最近の邦画だと特に演者が番組とかで観る芸能人に見えた瞬間から現実に引き戻される。だけどこの作品では、三船ではなく菊千代、志村ではなく勘兵衛と、まるでこの世界で生きているように思えた。  序盤、言葉の聞き取りにくさは感じたけど、案外慣れてしまうもの。聞き取れない言葉はすっ飛ばしても楽しめるのが娯楽作の醍醐味かもしれない。 二百七分という長時間も、一部:侍集め『侍を七人集める』 二部:準備『侍と百姓の掘り下げ』 三部:戦闘『残る野武士三十三人を斬る』と、綺麗に三部構成に分かれている。それぞれの達成条件が解りやすい。 登場人物の魅力も一際で、平八の薪割りは胴に入っていて、浪人生活の長さを感じさせるし、五郎兵衛の優しそうな笑顔は仕官先を探している浪人(第一印象が大事)らしい。  利吉の女房の表情に息を呑む。目が覚めても慰み者の身は変わらず。現実世界に希望も見出だせない虚しげな表情の美しさ。一転して驚き、恐怖、恨みの笑みに変わる。凄い。ここで初めて味方側にも犠牲者が出るが、最後はとても淡白だ。あんなに魅力的な人物が、何の余韻も残さずに呆気なく死ぬ。娯楽映画とは言え、死の緊張感がある。単身闇討ちを掛ける久蔵が無事帰ってきたことへの安堵と、勝四郎が代弁する魅力。子どもたちが七人の侍遊びをしたら、きっと菊千代役と久蔵役の取り合いだったことだろうな。 魅力的な登場人物と分かり易い物語。よく出来た娯楽映画で、とっても面白かったです。
[DVD(邦画)] 10点(2022-05-15 23:21:13)(良:2票)
602.  ブリット 《ネタバレ》 
-Bullitt- 人名。ブリット群って地名にもなってる。 中学か高校の頃にテレビで観て、これぞハードボイルド!マックイーンはカッコいいなぁって思わせてくれた作品。 フランク・ブリット=刑事。ロクに寝てないのに叩き起こされて仕事するところとか、食事がTVディナーや病院食だったり、まさに職業を擬人化したような人物。これで自分の不運をボヤいていたらダイ・ハードだ。タートルネックにホルスターぶら下げたスタイルも特徴があって、一時期の刑事スタイルの完成形だったように思う。  ストーリーをろくに覚えてなくて、今回久しぶりに鑑賞。オープニングがめちゃくちゃカッコイイ。撃たれて重症のスタントン刑事に付き添ったりは、その後の一般的な刑事ドラマだと、すっ飛ばしそうな描写だと思うから、この映画にリアリティを増す要因になっていると思う。 本作の目玉と言えるカーチェイスが中盤に挟まれる。マスタングとダッジ・チャージャーのアクションは確かにカッコいい。犯人グループが中年~初老の男というのは、今の目で観ると新鮮。最後の空港での追跡も印象的。滑走路で飛行機を横目に犯人を追うシーンは、想像以上に大変だったんじゃないかな。  '68年の作品で以降の刑事アクション作品に与えた影響は計り知れない。ただアクション映画の恒で、カーチェイスも空港のアクションも、後発作品に、より派手により大袈裟に上書きされていった結果、今の目で観ると目玉とするには物足りなくも思えてしまう。 やはり偽ロスが隠れ家の鍵を開けた理由がわからない。奥さんを助けるための取り決めとかだろうけど、物語がブリットの掴んだ情報だけで進むからか、観る側として消化不良に思えた。チャルマース上院議員も、もっと事件に絡んでたんだろうけど、ブリット視点だから説明不足なのかな。その辺も“刑事=警察組織の歯車”を描きたかったんだと納得するしかないか。 スルメ要素とツッコミ要素が多そうなので、期間を開けてまた観てみようと思う。
[地上波(吹替)] 5点(2022-05-15 20:22:01)
603.  北斗の拳(1995) 《ネタバレ》 
-Fist of the North Star- “北極星の拳(こぶし)” こちらでワースト四天王(?)に挙がるくらいなので、余程酷いものを期待していたけど、案外観られる作品だったと思う。 東映Vシネマのアメリカ版とのことで、安かろう事は想像できたけど、制作費2億円は、Vシネマにしては凄い金額なのかな? 制作された'94年当時、1$=100円として2億円≒200万$。同年代の大作ダイ・ハード3が9000万$、デスペラードで700万$、あのストリートファイターで3500万$だそうだから、どのような規模の映画か想像できる。 その少ない予算で片手間にフザケて創ったのかといえば、案外真面目に制作されたんじゃないだろうか。  ベースはシンのサザンクロス編。ランデル監督らは限られた構想期間で、原作コミックではなく、TVアニメと'86年の劇場版アニメをベースに選んだんだと思われる。当時は英語版のコミックが手に入らなかったのかも。TVアニメではサザンクロス編は結構長く、カーネルもジャッカルもシンの部下で登場。そしてシン配下の怪しい南斗聖拳の使い手がいっぱい出てくる。南斗列車砲とか。 劇中処刑される南斗のマスターは、どことなくTV版のジョーカーっぽい(髪型なんかが)。 で、制作までの時間も無いから、ビデオの早送りを駆使して長いアニメを視聴して、作品に詳しい人に解説してもらって「あ、ここアニメオリジナルね、原作だとこの子(バットの弟分タキ)死んじゃうのね、そんでね…(早口)」所々勘違い(バット死んじゃうのかぁ。とか)しつつも、巨人デビルリバースは予算の関係で無理だなぁとか考えながら、更に短くまとめられた'86年劇場版も観て、コッチをベースにしたほうが良いのになぁ、このジャギってキャラ、カッコいいなぁ…なんて思いつつ、劇場版でもジャギはシンとの絡みがあるからコッソリ出して、中堅どころのクリス・ペン使っちゃって。って具合に。 シンがリュウケンを銃殺(!!)するのはショッキング。映画の序盤だったし、さすがにココは吹き出した。うん、さすがワースト映画って思ったわ。 だけどジャギだって銃は使うから、原作をよく知らない人が創ったと思えば、そんなに無理設定ではないかもしれない。  ゲイリー・ダニエルズは元キックボクサーだそうで、本当にケンシロウのように素晴らしい肉体。後半のザコ相手のケンシロウ無双は素直にカッコいい。 少ない予算でVFXも限られたシーンにしか使えなかったんだろう。やはりインパクトのある顔面破裂は使いたいし、ライバルのシンの強さを強調したいから、南斗聖拳の切れ具合も入れたいと。 あのペチペチ百裂拳は、制作陣も悩みに悩んだ末の決断だろう。実際に拳の連打を出せるゲイリーの技術を取るか、低予算の特撮でそれっぽく見せるか。結果は多くの失笑を買ってしまったけど、今のCG技術でもない限り、百裂拳を格好良く撮るのは難しいと思う。 不遇なB級肉体派俳優ゲイリー。エクスペンダブルズではジェット・リー相手に華麗なマーシャルアーツを観せる。 ゲイリーが自分の子供に“ケンシロウ”と名付けたって知り、不覚にもジーンと来てしまった。 あの素晴らしい原作と比べたら、こちらでの低評価も納得だけど、モトがTVアニメだと思うと、案外頑張った低予算映画かなって。 1点付けるつもりで観たけど、出来の悪さに怒りを覚える2点でもないし、3点でも良いんだけど、ゲイリーに愛着湧いてしまって… 平均点上げてしまってすみません。
[インターネット(吹替)] 4点(2022-05-15 17:51:14)
604.  ゆきゆきて、神軍 《ネタバレ》 
凄い作品なので、気になっている人は見るべきだと思います。 この映画の中心がニューギニアでの人肉食、兵卒処刑の真相に迫る事で、奥崎氏によって次々に暴かれる真実、その場に居た人たちがずっと心に秘めていた体験談はとても生々しく、平和な時代に生まれ育った日本人の一人として衝撃的な内容だった。 戦後36年の撮影。奥崎氏が突撃する対象は、ちょうど私の祖父と同年代だろうお爺ちゃんたちだ。処刑の実行者達だけど、軍隊という組織を解っていれば、彼ら下士官に拒否権は無いし、自分の考えで動いていた訳じゃない事は分かる筈。  戦争を体験し、戦中も戦後も苦しい思いをして、長い時間を掛けて自分の中で消化して、何とか前を向いて生きてきた人たち。そんな元兵隊たちの日常生活に、過去を引きずったまま、文字通り土足で踏み込む奥崎氏。氏のパワフルさ、行動力、信念が凄まじく、全編にわたって鬼気迫る迫力、何とも形容し難い空気が漂っているが、同時に、平和に暮らす家庭をブチ壊される恐怖も感じた。突然現れた狂人に罵倒され、思い出したくもない経験をほじくり返され、足蹴にされるお爺ちゃんを観るのは『あれが私の死んだジイちゃんだったら…』と、家族にとってもトラウマ級の辛い経験だろう。 ※だけど口を閉ざすでなく、嘘を並べていたと思わしき方には同情できませんでした。あのような上司は実際居る。もちろん戦争とは無関係の息子さんには同情します。  ラストの衝撃。これには私も「えぇ~~!?」と声を出してしまった。色んな意味で凄い作品、最後まで目が離せない問題作だけど、ドキュメンタリー映画としてはどうなんだろう。この作品を原一男監督の作品と呼んで良いものだろうか? 狂人・奥崎氏が暴れるのは、そういう人なんだと納得できるけど、例えば兵卒の肉親2人が途中から降りた理由。奥崎氏同様かなり熱意を持って問い詰めていたと思うが、何が引き金になって同行を拒否したのかが解らない。有り得ないことに奥さんや知人を使って代役を立てた事に対する、監督の考えもサッパリ伝わってこない。 ドキュメンタリーなら奥崎氏サイドだけでなく、氏を同席させない場での元兵隊たちの考えも伝えるべきではないだろうか?元兵隊たちの家庭のその後、突然アポ無しで生活を踏み躙られた家庭のケアは、監督の仕事では?これではまるで奥崎謙三監督の自己PR作品の垂れ流しだ。原監督の仕事が『こんなモンスターをカメラに収めました』以上のものが感じられない。 公式ホームページなるもののセンスにも違和感。監督自身が奥崎謙三を単なる“ファッション”として捉えているように思えて、残念に思えた。  点数は困りました。テレビでは放送できない、映画だからこそ描けた作品といえば高評価でもあり、ただ狂人を撮っただけで、作品の体を成していないといえば低評価も。私はたまたま空席の3点にします。
[インターネット(邦画)] 3点(2022-05-08 23:39:01)
605.  ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル 《ネタバレ》 
-GHOST PROTOCOL-“存在しないもの(ゴースト)として扱う取り決め”。万が一の事態が起きたら、諜報員は今まで『捕まっても当局は関与しない』いわゆる“とかげの尻尾切り”だったけど、政府が『ウチにIMF(とかげ)なんて組織、無いですよ。』って事にしてしまおうと。 Ⅲで見事に立て直し、Ⅳのナンバリングを付けなかった本作。Ⅱで披露したイーサンのフリークライミング技術。Ⅲの読心術。過去作の設定を上手に活かした所に感心する。新たに披露した似顔絵の技術は、スパイらしく凄い能力。  そして前作のイーサンの結婚は、シリーズ化を考えると足枷だった新設定を、このように処理して、新メンバーのブラントを絡めて、最後あのように安堵させる。ブラッド・バード監督の腕の良さが光る。賛否両論のⅡ(イーサンの髪型もⅡ寄り)を含めて、このシリーズの過去作を大事にするバード監督の姿勢。 本作のヒロイン、ジェーン・カーター。トムのワガママか知らんけど、シリーズで2作続けて出たヒロインは居ない。そこを踏まえて次作に出る確率の低いジェーンを、前のミッションの時からイーサンと対等のチームリーダー格にしていたんだと思うと、もうバード監督の作品と登場人物への設定愛と言って良いかもしれない。単体作品ではⅠがベストだけど、シリーズ物としてはこのⅣがベストだと思う。  自爆しない公衆電話、壁登り手袋の充電切れ、フルマスク製造機の故障…これらはブラントの磁気スーツの不安を煽る演出だけど、同時にIMFのメンテ不足、予算不足を表している。更にベンジーのエージェント化なんて人材不足の現れとも思える。それでクレムリン爆破の際、政府は隠蔽工作より楽なIMF解体(ゴースト・プロトコル)を選んだんだろう。  メインはやっぱりイーサンの活躍なんだけど、それを支えるIMFのチーム活動が、最後まで活かされていたのが良い。序盤のハナウェイの活躍なんか、イーサンのチームだけでなく他チームも活躍してることが見えて嬉しい。 前作で少しハードな方向に振れた死のシーンを減らし、ベンジーをコメディリリーフとして近くに置くことで、作品の緩急のバランスが上がっている。 最後にチラッと出てくる皆勤賞ルーサー。無事な姿を見せたジュリアとの切ない別れもあり、シリーズ物として、続き物として、大変良く出来た作品なんじゃないでしょうか?
[映画館(字幕)] 9点(2022-05-06 15:51:54)
606.  キネマの天地 《ネタバレ》 
有森也実って上白石萌音に似てたんだなぁ。なんて思いながら鑑賞。 映画撮影所を舞台にした、映画俳優と製作者の話。寅さんのメンバーがどんどん出てきて、男はつらいよの劇中劇を観てるような、微笑ましさを感じました。 渥美清と倍賞千恵子の掛け合いは息もピッタリ。クズ屋の笹野高史が小春を褒めた時の父ちゃんの嬉しそうな顔。 マルクス兄弟の本をマルクス主義と勘違いして難しい顔してる財津一郎刑事、撮影所の水漏れにヒョイと足を上げる桃井かおり妃殿下可愛い。 う~ん、どうしても映画の内容でなく、出ている役者さんの話になってしまうなぁ…  昭和30年代当時は映画のことを“写真”と言っていたのか。世の中がDVDからブルーレイになっても、つい“ビデオ”って言ってしまうのと近いか? そういえばこの当時('86年)くらいまで、映画俳優とテレビの俳優には見えない線引きがあったような気がしたっけ。何というか、映画俳優が格上というか。そのうちTVドラマで観た顔が映画で溢れるようになり、役者でもないタレントが主演俳優として出てきて、メディアミックスだか何だか、映画が独立した娯楽を創る世界じゃなくなったような今の日本の映画界。垣根が低くなった結果、とても当時のような元気があるようには見えない。 『あの当時は良かった』になってしまうけど、当時はハリウッド大作ばかり観て、私自身があまり邦画に興味を示さなかったのも事実。  小田切先輩の『どうしてもっと優しく映画を観ないんだ?どんなくだらない映画でも、可能性を持っているはずだぞ?』 これは映画好きとして、レビュワーとしても心に染みる。食わず嫌いはもちろん、好みと合わないからって、テキトーな点を付けちゃダメだな。うん。
[地上波(邦画)] 5点(2022-05-05 18:12:52)
607.  誰が為に鐘は鳴る 《ネタバレ》 
-For Whom The Bell Tolls-原題まま。 ことタイトル回収についてはラストが全てかもしれません。 「アメリカの事を考えろ…出来ない。マドリード(共和国側最後の拠点)の事を…ダメだ。マリアのことなら、出来る!彼女は私と生きるのだ!」機関銃→鐘。映画を観ての通り鐘を鳴らすとは銃を撃つこと。第2次世界大戦が佳境を迎える時期、この戦争が誰のための戦争かを、観る者に問うているように思えた。  つまり『祖国アメリカの為とは言わないですよ。侵略されている国の為とも言いませんよ。あなたの愛する女のために鐘を鳴らしませんか?』と。 直接的には『独裁政権に髪を刈られ、凌辱を受けている可愛そうなマリアが、あなたが鐘を鳴らすのを待っていますよ。』と。 もっと言えば『海の向こうの戦争なんて興味ないかもしれないけれど、向こうでは字も読めないムサ苦しい現地男に囲まれて、ラテン系のマリアが、東欧系のマリアが、東洋系のマリアが、アメリカ人のあなたが銃を構えて参上するのを待っていますよ。』と。 早い話『軍に入って銃を撃て』と。  中学生くらいの頃、確かNHKでやっていたのを観たんだと思う。過去の名作ってあまり観てなかったんで、ありがたく鑑賞させてもらって、有名なキスシーンと最後のシーンだけ覚えてました。こんなに長い映画だったんだ。 パブロやピラーに比べ、マリアの浅黒メイクの、何といい加減なことか。悲壮感を感じさせる髪は、3ヶ月の間に可愛いくらいには伸びている。ここはあまりにリアルだと引いてしまう。山岳の厳しい環境でロベルトとマリアが隙あらばイチャイチャしてるのも、現実の戦場とは違って夢のある話に思う。 臆病だからとか姿を消しては戻ってくるパブロ。美人じゃないからってピラーの愚痴。作戦決行日に大事な連絡が届かないゴルツ将軍。内容と時間のバランスが微妙で、看板俳優が出演する大作だからって、無理やり170分の長尺映画にしたようにも思える。
[地上波(字幕)] 5点(2022-05-05 16:55:56)
608.  ドーン・オブ・ザ・デッド 《ネタバレ》 
-DAWN OF THE DEAD- “死人の夜明け” 大好きなゾンビのリメイク。ピーター、ロジャーにトム・サヴィーニも出てくるファンサービスに思わず『おぉ!』となってしまった。 ロメロ版との大きな違いはやはり“走る”事でしょう。走るゾンビはバタリアンの頃からあるので、それほど抵抗はなかったかな。ノロノロ歩くゾンビと違い、やっぱり走ると強そうに見えるし、怖い。銃がないと勝てる気がしない。  アナが襲われるまでの前置きが短く、外に出たら近所は地獄絵図。逃走中に事故に巻き込まれる車の不運。バスの中で襲われる人をただ見るだけの悲しさ。正常な人間にレイプされたのか裸の女性…森で車を壊すまでで、世の中の状況がだいたい解る創りが上手い。 話逸れるけどサラ・ポーリーがバスタブに飛び込むところ、小窓から地面に落ちるところなんて、体張ってるよなぁ。  ゾンビといえばショッピングモール。デパートとスーパーのイイトコ取りで、娯楽から何から生活に必要なものが一通り揃っている。設定次第でどんな商品も置けるショッピングモールは、ロメロ版の当時も今も、最も生存率の高そうな籠城施設だと思う。今回ガンショップをモールの外に設定したお陰で、ケネスとアンディの奇妙な友情も描けた。メッセージボードに血で何かを書くシーンは悲しくなった。  だけど何でも揃ってるモールを放棄してまで、未知の無人島に武装バスで向かう必要性は弱い。ロメロ版との違いを出すためかもしれないけど、もっと『コレは仕方ない』って状況を演出してほしかった。銃は沢山手に入ったんだから、私だったらモールを死守するな。 …とまぁ、そうやって『私ならこうするのに』を想像させてる時点で、この映画もゾンビ映画の名作だと思う。 スティーブンの死体から船の鍵を探すアナ。そういえば家で旦那に襲われる時も、真っ先に車の鍵を取ってたっけ。冷静で頭の回転が速い子なんだね。 エンディングで“その後”が描かれているのも良い。プロローグ同様、短い時間で何が起きたのかが伝わる。生存ルートは考えにくいけど…
[DVD(字幕)] 8点(2022-05-04 19:39:28)
609.  サスペリア(1977) 《ネタバレ》 
-Suspiria- 造語らしい。ラテン語の-SOSPIRI-“溜息・嘆き”から来てるとか。発音から日本語カタカナ表記はススピリアに近いと思うけど、サスペンスっぽいつづりのサスペリアに落ち着いたんじゃないだろうか?偶然の産物かも。 「決してひとりでは見ないでください」覚えてる覚えてる、もうCMが怖くって。タイトルといいCMといい、日本の配給会社が頭を捻って良い具合に相乗効果が生まれてたんだろう。  バックグラウンドミュージックのワクに収まらない音量のゴブリンのロック調の不気味な音楽は、一度聞いたら忘れられないインパクト。 そして映像の美しさ。赤、青、そして緑のスポットライト。光の三原色をあり得ないポイントで当ててくるセンス。 不気味というか趣味の悪い洋館。赤い壁と赤い内装。美しいかも?だけど住みたくないわ落ち着かないわ。 ジェシカ・ハーパー顔小っさ。目大っきい。バレエ教室の名門校というのも閉鎖空間っぽくて良い雰囲気。バレエ教室だけに若い女ばかりが襲われる…と言っても犠牲者は3人とダニエルか。 古いもの(洋館、オカルト、バレエ)に、新しもの(ロック、ライト、ホラー、若い女)をミキシング。特に音と色の思い切りの良さ、振り切れ具合が、この映画を当時のホラー映画の中でも飛び抜けた存在に押し上げていると思う。イタリアンホラーの代表作と思っていたけど、何故か舞台は西ドイツ・ベルリン。  ネットで当時のパンフレットを見たけど、映画から切り取った場面写真の美しいこと。漂う名画臭…でも内容は意味不明でチープだよ。 魔女が自分の正体に近づいた者たちを殺していくって内容っぽい。でも追い出したダニエルを殺す必要性はあったんだろうか?スージーに眠くなるワイン(睡眠薬?)飲ませる意味も不明。 発端は単なる好奇心。別に何もされてないけど怪しいからついつい詮索してしまう。謎の正体にたどり着いたら返り討ちにあってしまう。そもそもパットが殺されるまで特に殺人も起きてないなら、パットとサラが余計な詮索をしたために大人しく潜伏していた魔女組織を殺人に駆り立ててしまった訳で… 舞台が西ドイツということもあって、現代の魔女狩りとも言えたナチの残党狩りを連想させる。ってそんな難しいことを考えても意味がないから、映像の美しさとゴブリン音楽の調和を楽しむのが、この映画の正しい楽しみ方。 最後のスージーの微笑みも謎だけど、安堵?苦笑い?魔女に取り憑かれた?
[地上波(邦画)] 5点(2022-05-04 11:11:07)(良:1票)
610.  野獣死すべし(1980/日本) 《ネタバレ》 
松田優作の代表作だと思うけど、この映画はハードボイルドと言うより狂人の犯罪。徐々に伊達の狂気が表に出てきて、リップ・ヴァン・ウィンクルの話で大爆発する。柏木刑事に銃を向けて、マバタキしないで話し続ける伊達の狂気、ハッキリ言って気持ち悪さは圧巻。松田優作という俳優が、日本にとって唯一無二の存在だったことは間違いない。  伊達の独白によると、戦場で人を殺した経験がキッカケで野獣に目覚めたようだ。刑事から銃を奪い、裏カジノを襲った時の落ち着きの無さはリアル。表社会で人を殺す経験は、戦場のドサクサでの殺人とは重みが違うんだろう。 裏カジノ襲撃でそこそこの金を手に入れた伊達。どうして銀行まで襲う必要があったのか?まぁ銃を買う程度の金しか手に入れてなかったとして、どうして銀行を襲う際、サイレンサー付きの銃を使わなかったのかは謎。  柏木刑事を殺してからの浮かれ具合は別人のようで、短気で時々弱気な真田の変わらなさとは対照的。この電車内と、謎の地下洞窟(何だあそこ?)のはしゃぎ具合は、恐らく松田優作の思う“人間の内面の狂気”を、ほぼアドリブで演じたものと思われ、カメラの長回しと相まって、とても印象深い。 松田優作が松田優作の映画の中で、好き放題自分を演るのは当然と言えば当然だけど、彼の中での完璧(ここが万人の思う完璧じゃないのがミソ)を求める俳優故に「俺くらいのレベルになると、こんな狂気の役も演じられちゃうんだぜ」って言われているようで、止める者の居ないオーバーリアクションは、ちょっと鼻につく。だけど角川映画の味付けがマイルドに作用したのか、この時代の松田優作作品の中ではバランスが取れた観やすい作品だと思う。
[地上波(邦画)] 6点(2022-05-03 22:39:00)
611.  ツィゴイネルワイゼン 《ネタバレ》 
もうね、指パッチンですわ。こんな不思議で不気味な作品、よく思いついたものですよ。 原田芳雄の演じる中砂の強烈なキャラクター。「ウナギが食べたいなぁ」あの力強い声でそう言われると、私までウナギが食べたくなる。特大のうなぎの蒲焼を手掴みで食べる。焼きとうきび。すき焼きに大量のこんにゃく。蕎麦と日本酒。腐りかけの桃。なんて美味そうなんだろう。戸棚の中の鱈の子のこだわり。青池夫婦が食べるいっぱい並んだ料理も、何だか解らないけどどれも美味そう。赤い器が印象的。  印象的な赤。女の股から出てくる赤い蟹。赤くなっていく弟の骨。中砂家に吊るされた赤い提灯。中砂の眼球を舐める周子の舌の赤さ。船の渡し賃にパカパカ開いて見せる門付の女の股ぐら。観えないんだけど赤いんだろう。 門付の3人組がまた強烈なインパクトを与えてくれる。イチャイチャしたい若い2人、だけど稼ぎ場までの道を知ってるのは年重の男だけ。三角関係の結末は、コントみたいな殴り合い。  コントというより不条理に近い。「ダメダヨ」のタイミング。屋根に落ちる小石。トマソン・トンネル。小雨の中登場人物たちが勢ぞろいで見上げる花火。サラサーテのツィゴイネルワイゼンに入る声。何でか解らないモノ・現象から醸し出される不思議さ。「怖いな…気をつけなくっちゃ…」椅子の上で体育座りの中砂カワイイ。  カワイイといえば青地の腕を引っ張る園「もうじき落ちてまいりますわ、早く参りましょ」の少女のような仕草カワイイ。旦那の居ない家の中で胸がはだけて、さぁコレから。ってタイミングで入る指パッチン。怪しい雰囲気から一瞬で目を覚ますような指パッチンの可愛さ。このセンスが素晴らしい。
[インターネット(邦画)] 8点(2022-05-03 20:01:09)(良:1票)
612.  天空の城ラピュタ 《ネタバレ》 
劇場で2連続で観て以来、TVでやってても観ることなく、今回DVDを買って36年ぶり?に観ました。 やっぱり面白いなぁ。宮崎監督が実力に伴う評価をされてきた時期の作品なので、アブラの乗り具合が違う感じ。フラップターとかゴリアテとか、アイデア満載の不思議なメカを出し惜しみしないところが、才能が溢れてる感じで好き。私は特にオープニングの永遠に穴を掘れるショベルがお気に入り。 宮崎監督の才能だけでなく、当時のアニメーターの実力、久石譲さんのセンス。要塞襲撃のカメラワークとテンポと音楽は神懸かってます。 さて“血湧き肉躍る冒険活劇”については皆さんのレビューをご参照頂くとして、“思春期と成長”について書いてみます。  少年少女の冒険は、なにも宝探しや悪者との追いかけっこだけじゃない。身近な女の子を異性として意識するのも立派な冒険。 おさげアタマに地味なネイビーのワンピースを着た、いかにも幼い少女という出で立ちだったシータ。パズーの服を着て帽子を被れば女の子だとバレないくらい。パズーの家で目覚めてから靴を履くシーンの子供っぽさは、誰も見てないところだけど、彼女のあどけなさを強調するために敢えて入れたんだろう。 そんな子がタイガーモス号に乗ってからは、ウエストを絞って、猫背がちだった背筋を正し、胸を強調してきたからさぁ大変だ。まさに“カワイイは作れる”を実践するシータ。大人の海賊たちも彼女にメロメロなんだから、パズーも溜まったものじゃない。 タイガーモス前と後で、胸に限らず等身から表情まで女になるシータ。当然、わずか3日位の劇中で彼女が成長したのではなく、主人公であるパズーがシータを“同年代の子供”から“異性”として見るようになったからだろう。  パズー目線だけでなくシータの中でも成長が見られるのは、ドーラからキッチンを任されたシーン。汚いキッチンを相手に腕まくりをするシーンから、極端に胸が大きくなる(ように見える)。『さぁ男どもの腹を満たすぞ!』と、彼女の中の女“母性”が目覚めたシーン。 ラピュタに上陸して、シータが腰の紐を解こうとしてると、パズーに急に抱きかかえられた時に不意に出た声。ヘタクソならここは「キャッ!」とか言わせるところを「うわっ」と言わせる。この「うわっ」は、女性が気を許した相手だけに“素の自分を見せる”アレね。当時のアニメのヒロインは普通「うわっ」って声出さないでしょう。宮崎監督と横沢啓子さんの手腕、高等テクニック。その後2人は(一瞬だけ)熱いハグをしてクルクル回りだす。シータの腰に回した手。ボーっと見上げる空にはツガイの鳥(ヒタキ)。あぁもうエッチ。 そして若い2人は滅びの呪文を唱えてしまう。皆さん大好きな「バルス!」。呪文の結果はあの通りだったけど、効果の範囲が分からない呪文を唱える意思の強さ。自分たちだけでなくドーラ達も死ぬかもしれない。もしかしたら世界が滅ぶかもしれない。好きな人を守るために世界を滅ぼしてしまおう。って思える若さが良い。少年に出来るのは世界を救うことでなく、目の前の女の子を助けるので精一杯なんだ。  ラピュタは子供向けのマンガ映画のワクに収まらない青春映画。未来少年コナンのラナと同じ12歳という年齢は、当時の宮崎監督の中の、性の対象/非対象の境界線だったんだろう。最後まで子供の容姿だったラナが、いかにしてナウシカ(16)のような“女”になるか。シータは登場時ラナ(子供)っぽく、映画の終わり頃にはナウシカ(女)っぽくなっている。その成長を安直な色気ではなく、直接的な描写・表現を入れずに一本の映画で表現。 パズーも赤ら顔一つ観せず、真っ直ぐな冒険少年の姿しか観せないから見落としがちだけど、少年少女の大冒険の中に、思春期の異性への思いを織り込んでいるのは、見事としか言いようがない。
[映画館(邦画)] 10点(2022-05-03 12:05:13)(良:2票)
613.  トロン 《ネタバレ》 
-TRON- BASIC言語の“TRECE ON”がモトっぽい。他にCLU(プログラミング言語)、RAM(メモリ)、BIT(データの単位)と、コンピューターに関係した名前を持つプログラムが結構出てくる。YORIやCROMもそうなのかな?あC-ROMか。 コンピューターの中に作られた、プログラムたちが暮らす世界。1982年にこんな世界観を映画で観せてくれたことは、とても衝撃的だった。 直角軌道を描くライトサイクル。でも今思うと、当時のビデオゲームってアニメーションが少ないから、こんなカクカクした動きしてたなぁ。それを人間っぽいカタチをしたプログラムが中に入って操縦する。こんなゲームから逆算して実写化したような映画って、画期的だったなぁ。  データ盗作の証拠を掴みに本社に潜入して、逆にコンピューターの世界に取り込まれるのは面白いけど、目玉のライトサイクルゲームを過ぎると、フリンたちがどこに向かっているのか、目的に対してどこまで進んだのか、山で言えば今何合目なのか、物語の位置を見失ってしまう。そもそもフリスビーゲームもライトサイクルゲームも、フリンの目的(盗作の証拠探し)とは全然関係ないし。 主人公もフリンなのかトロンなのか、どっち目線で観れば良いのか迷う。トロンの彼女のはずのヨーリも何だか迷ってるような感じ。  トロンやフリンって、私達が思うコンピュータのプログラムと言うより、ウイルスに近い気がした。当時だとバグだろうか。アランと交信を試みるトロンを観て、ウイルス検索を連想してしまった。 内容が面白いかどうかより、コンピューター・グラフィックスの実験要素が強く出た作品だと思う。でも当時は良く理解できなかったコンピュータの世界が、パソコンが生活の一部になった現代だと、多少解るようになってるのが面白い。
[地上波(邦画)] 5点(2022-04-26 23:37:46)(良:1票)
614.  レスラー 《ネタバレ》 
-The Wrestler- これは“レスラー”という職業であり、生き方でもあるんでしょう。 小さい頃プロレスは結構流行っていて、猪木VSマサ斉藤の巌流島の戦いとかあったっけ。だけどプロレス=八百長という先入観があって、あんまり見てなかったな。当時まだお子ちゃまだったから、“相手の技を(敢えて)受ける”美学を理解できなかったんだ。  グランジの登場した'90年代をディスるシーンは物凄く共感できるし、子供とファミコン(?)するシーンも良かった。エンディングに掛かるスプリングスティーン('80年代のスーパーヒーロー)の曲も素晴らしい。輝かしい'80年代の栄光と、時代と年齢の変化に対応できなかった男の悲しさ。演じたのがミッキー・ロークだから、より心に響く作品に仕上がったと思う。 '90年代に入りパッタリ出番の減った人気俳優ミッキー・ローク。甘いマスクがいつのまにかゴツゴツのお顔になり、時々映画内のキーパーソンとして出てくる“名前だけは知られている過去の人”だった彼が、まさかプロレスラー役で映画の主役を演るなんて、世の中不思議なものですね。  「もう充分だ、俺を抑え込め」心臓に爆弾を抱えたランディを気遣うボブ(アヤトッラー)の優しさ、20年ぶりに闘う友への気遣い。観方を変えると思いっきり八百長だけど、今の私にはこのプロレスの美学も理解できる。 ランディの目線の先にパム(キャシディ)は居ない。必殺技『ラム・ジャム』を出す決心をした瞬間の、運命を受け入れた表情。もしあの場でパムの姿が見えたら、ランディは違う結末を選んでいたかもしれない。 レスラー人生の最後。そして恐らく自身の最後を、ファンの期待に応えることで自分を納得させる不器用な生き様。 ストリッパーのパムもランディ同様、歳を重ねると厳しい仕事をしている。他の生き方を選べなかった不器用さに、お互い共感できることも多かったろうに。 ボクサーの第二の人生のスタートを観せてくれた“ロッキー”のエンディングとはまた違う、だけど同じくらい熱いものがこみ上げてくるエンディングでした。
[インターネット(字幕)] 8点(2022-04-26 21:01:39)(良:1票)
615.  最高の人生の見つけ方(2007) 《ネタバレ》 
-The Bucket List- アメリカでは『死ぬ前にやっておきたいリスト』の事を“バケツリスト”って言うんだそうです。 二人があれだけ思い切ったことが出来た理由は2つ。間近に迫った自分の死を受け入れたことと、それが一人じゃなかったこと。 リストの項目は、本当に前々から夢見ていたことや、どうせ死ぬなら…と思い切ったことも含まれていた。あと実現不可能に思えることも。 私もいつ死ぬかが解っていれば、ぜひ、やっておきたいリストを作りたいけど、どこまで実現できるかは定かではない。一人だったら半分も実現できないかも。もう死ぬのに。そんな引っ込み思案な気持ちを、老後の不安と迫る死を、明るく乗り越える活力に変えてくれそうな映画。  リストの中身は、コールが大金持ちだったから実現できた事が多いのも事実だけど、これが庶民二人のコンビで、目的地到着までに体調崩して現地の病院にお世話になって…なんてのを延々見せられても夢がない。自家用ジェットでビュンとひとっ飛びして、夢の実現をサクサク消化するテンポの良さを優先したんだろう。97分という短めの上映時間にまとめたのも上手いなと思う。  後半に行くほど実現が難しい項目が残っていくけど、決して妥協しない消化方法は見事で、特に“世界一の美女とキス”は目頭が熱くなってしまった。そして世界を駆け巡った挙げ句、身近な場所へ、家族のもとへと帰納していく展開は、誰でも共感できるような気がする。 そして自分たちのやった事、二人の足跡を、誰かに残すことも大事なことかもしれない。序盤のミスリードにまんまとやられ、最後に登場する人物がトマスなのが良かった。コールの思いは娘が、チェンバーズの思いは家族が引き継ぐけど、二人が共に過ごした時間はトマスに残されたんだな。
[地上波(吹替)] 7点(2022-04-20 20:33:51)
616.  ピアノ・レッスン 《ネタバレ》 
-The Piano- 世の中に沢山ピアノがあり、演奏技術のあるエイダは当然どんなピアノでも弾けます。このタイトルの“The”は定冠詞と言うそうで、どのピアノの事を言っているか、視聴者に特定できるようにする表現です。 劇中、確か3台のピアノが出てきましたが、この映画のタイトルは“あのピアノ”で良いと思います。  “あのピアノ”はエイダの声であり、自分の体の一部であり、心を開放する手段でもあるようだ。 稲光の走る鉛色の曇り空と、荒波の海岸に放置されたピアノのダークな美しさ。 渋々案内した海岸で、ピアノを弾くエイダの開放感溢れる表情を見たベインズが、自身の財産である土地と引き換えにあのピアノを、ピアノを弾くエイダを“手元に置く権利”を手に入れたくなった気持ちがよく解る。マイケル・ナイマンの『楽しみを希う心』の何と美しいことか。  スチュアートが時間を掛けて、エイダとの距離が縮まるのを待つ気持ちは解るし、一般的には正しい手順だと思う。だけどエイダはあのピアノを弾いている自分、心を開いている瞬間の自分を好きになった、ベインズの方に惹かれてしまった。 ベインズに会うことを禁じられたエイダ。スチュワートの気持ちを考えると穏便な措置だけど、駆け落ちをするでなく、娘のフローラを通じて鍵盤を届けるということは、今後は心を閉ざして娘とともに生きていく。ということだろう。まさかのフローラの裏切りは、子供のすることとはいえショッキングだった。  あのピアノは彼女を海に引きずり込む。果たして彼女がピアノを必要としていたのか、あのピアノが彼女を必要としていたのか。 エイダの生きたい気持ちが、あのピアノを振り解き、海面に上がる力を与えた。 最初「原住民に釜茹でにされたほうがマシ!」と断った“北の町”での新しい暮らし。義指を付けて普通のピアノを弾き、徐々に声を取り戻し、ベインズに微笑むエイダ。彼女にはもう、あのピアノは必要ない。
[インターネット(字幕)] 6点(2022-04-19 22:40:21)
617.  M:i:III 《ネタバレ》 
シリーズの中で平均点は低いほうみたいだけど、2があんまりな出来だったことを考えると、上手に方向転換した作品。タイトルにⅢが入っているけど、2を飛ばしても全く問題がない創りが嬉しい。それでいて4以降の作品を観るのに、このⅢは飛ばせない創りがニクい。 いきなり拘束されて涙を流してるイーサン(なんであんなに目がキラキラしてるんだ?)。殺される女性。よくわからないけどピンチから始まる掴み方は旨い。だけど救出劇でリンジーも死んで、死が続いてしまうのは、娯楽映画としては重たかったか。小型爆弾の死に顔はあまりにリアルで無慈悲。  ちょっと特殊部隊映画っぽい出だしから、バチカン侵入はスパイ映画らしくワクワク出来る。地面スレスレのお約束シーンも、あんなスパイグッズ本当にありそうで格好良い。変装マスク制作、声真似フィルムの録音なんて見応え充分。チーム活動もそれぞれの分担が解りやすく、トム様のワンマン映画から脱却しようとしているのが伝わる。 橋の上の無人攻撃機との攻防。爆風で車のリアウインドウを割るシーンは地味だけど特徴的で、何というか“口で説明しても良さが伝わらない”シーンを見せ場に持ってくるのは、J.Jのセンスの良さかもしれない。センスといえば上海のビル侵入中を一切描かないのも面白い。ここを丁寧に描いてしまうと、スパイ色が薄まるからって判断だろうか。ゼーンのおまじないも人間味があって好き。映画の序盤に湖の名前と、唇を読む特技を観せて、その両方のフラグを回収する手腕も評価したい。  OPの拘束シーンに戻り、別人だったとホッとしたのも束の間。ここからが結構駆け足だった。久しぶりに観たら電気ショック意外殆ど忘れてた。あのタイミングでマスグレイブが顔を出す必要性がない。ヘリや無人機まで出せる組織なのに最後のボディガードショボすぎ。デイヴィアンの最後があまり印象に残らない。ジュリア銃の扱い上手すぎ。マスグレイブ生きとったんかワレ!あ死んだ。  ラビットフットって何?マクガフィンだって。映画的にはソレで良いんだけど、劇中のあの物体は何?って思ったんでこう考えた。アメリカが掴んだ中国の化学兵器で、中身はよく解らないんだけど、そこそこ厳重に管理されている。そこでデイヴィアンが欲しがりそうな性能をアメリカが勝手に盛って、ラビットフットってソレらしい名前を付けて情報を流したんでないかと。中国では別な名前が付けられてるから、アレをラビットフットって呼んでるなんて思ってない。イーサン使って手にしてみたら、掴んだ情報と性能が全然違うモンだから(そりゃそうだ)ディヴィアン激怒。って流れじゃないか?と。
[映画館(字幕)] 7点(2022-04-18 00:11:01)
618.  カクテル 《ネタバレ》 
当時はトップガン→ハスラー2と、飛ぶ鳥を落とす勢いのトム・クルーズ人気。その勢いで、このカクテルも結構流行っていた。少なくとも知名度はあって、堺正章が新春かくし芸でフレアバーテンディングをやると知ると“あぁ、トム・クルーズのアレね”ってみんな解ってたくらい。トムがあの甘いマスクでアルコールのボトルをクルクル回す姿は、本当に格好良かった。  でも映画自体を見る機会がなく、今回ようやく初視聴。アイドル映画だとは理解していたけど、あまりに中身が薄っぺらい。 金持ちになるのが目的で、日中は学業、夜はバイトの2足のわらじ。眠い目を擦って成功に向かって頑張るかと思いきや、早々に学業をリタイア。一方バイトは活き活きと楽しんでて、ロクに練習シーンもなくボトルをクルクル回してる。単にブライアンに才能があったってことだろうか?自分の店を持ちたいのは解るけど、リゾート地ジャマイカで楽しくバーテンダーやってるなら、それはもう、その時点で成功者なんじゃないか? ジャマイカで金を稼ぐブライアン(NYでバーテンのバイト辞めた)。ジャマイカに新婚旅行に来るダグ(NYの金持ち女のヒモ)。ジャマイカに遊びに来てるジョーダン(NYのレストランのウェイトレス)。NYにとってジャマイカって何なんだろう?  ブライアンにとってのダグの存在がよく解らず、ブライアンの彼女を寝取り、数年ぶりの再開でブライアンをからかいながら、金持ちの女を落とせとけしかける。このダグとブライアンが、フレアバーテンディングの大会とかに出て成功を収める映画だと思っていた。放り投げたオリーブを口に咥えた楊枝でキャッチするシーンが出てくると勝手に思ってたから、後半ほとんど“カクテル”関係なくなってくるこの映画の着地点、ゴールはいったいどこなんだ? 失敗はしても挫折することも教訓を得ることもなく、ただただブライアンが欲しい物を手に入れていく映画。トム・クルーズの格好良さ、エリザベス・シューの可愛さを観るぶんには文句なし。前の方も書いているけど、トム自身の歴代ワースト4に挙がる作品らしい。じゃ他の3本は何だろう?ちょっと調べたけど出てこないところを見ると、トムはこの作品だけ突出してワーストの評価をしていたのかもしれない。
[インターネット(字幕)] 4点(2022-04-17 22:54:48)
619.  M:I-2 《ネタバレ》 
今回M:Iシリーズを一気観しようと思ったけど、どうしてもこの2は観る気が起きなくて。これほど、私が望んだものと、出来上がった作品に乖離があった作品も珍しいかも。 そもそも当時の多くの映画は、売れたら続編を制作するもので、今ほど続編制作やシリーズ化を前提にした作品は少なかったと思う。だけど“その作品が何故売れたか?”“どこがウケてヒットしたか?”はしっかり検証した上で、続編は制作されるものだと思う。  映画公開直前、トムとジョン・ウーが来日して、特にトムがハイテンションで、この作品の満足感を全身で表現していたのが記憶に残っている。あの名作の続編なんだし、きっと面白いに違いない。そう思って劇場に行きましたよ。 飛行機墜落からロック・クライミングまでは期待通りのものを観せてもらえたけど、大袈裟な指令内容の受け渡し、サングラス投げてから爆発のタイミングの格好良さで、ちょっと嫌な予感。こんな映画だったっけ?  普段は冗談も言うけど腕は確か。冷静な判断力で逆境を乗り越えるイーサン・ハント。だけど今作では余裕がありすぎて緊張感が感じられない。ヤバい状況でもヘラヘラしてる感じで緊張感なし。ロン毛になったのも影響して、前作で追い詰められた表情をしていたイーサンと同じ人物に思えない。 車が有り得ない軌道でクルクル回ったり、白い鳩が主人公を横切って飛んだり、宙を舞うほどの勢いのバイクから空中衝突したり、ジョン・ウー監督のカラーが出すぎてて受け付けなかった。前作に満足した人は、今作のような超人アクションが観たかったわけではないハズだ。 前作のどういう所がウケて大ヒットしたのか、リサーチした結果がコレなのか? トム様「カッコいい俺を観て!」ウー様「ど派手な俺のアクション映画を観て!」わかった、わかった。 わかったからこういうのは、ミッション・インポッシブルではなく、他の作品でやってほしかったわ。
[映画館(字幕)] 3点(2022-04-10 21:57:39)(良:1票)
620.  悪魔のいけにえ 《ネタバレ》 
-THE TEXAS CHAINSAW MASSACRE- “テキサス・チェーンソー虐殺(事件)” 記録フィルムのような淡々としたナレーション。ストロボの光と浮かび上がる遺体。死者に対する敬意のカケラも無い遺体損壊オブジェ。アルマジロの死骸…最初っから生理的に受け付けない気色悪さ。 旅行中の若者が被害に遭うホラー映画って言うと、序盤はもっとこう、キャッキャウフフと盛り上がっているところを、徐々に不幸が忍び寄って…って印象だったけど、序盤からイヤな予感しかしない。  良くない運勢の占い話、牛の屠殺話。みんな若いんだから、もっと明るい話題はないのか?って思ってるうちに拾ってしまう最悪のヒッチハイカー。演じた役者さんには申し訳ないが、笑顔が行動が空気が全てが生理的に気持ち悪い。 突然出て来て突然殴り殺すレザーフェイス。ガァーッダンッと閉められる鉄の扉。恋人が切り刻まれて殺される様子を、吊るされながら見せられるパム。この交渉の余地のない絶望感。なんか落ち込んでるレザーフェイス。病んでる。  男は一撃でアッサリ殺されるけど、女は時間を掛けてじわじわ殺される。すみません私アッサリでお願いします。 ヒッチハイカーとガソリンスタンド親父とレザーフェイスがひとつ屋根の下に暮らす家族。よくこんな設定思いつくわ。サイコを彷彿とさせる祖父母のミイラ…と思いきやジイさん生きてる!血チュッパチュッパ吸ってる!!ヒィィッ~~! サリーの絶叫とエメラルドグリーンの瞳のアップ。力無く振り下ろされるハンマーでの処刑。いつまで続くのコレいつ終わるのぉ~~~!?? 急展開の脱出劇から、朝焼けの中踊り狂うレザーフェイスの映像の美しさ。不快感満点の映像美。 墓地を出て以降マトモな人が出てこないんだけど、会話が続くたびに仕事をめるガソリンスタンドの窓拭き係が可愛い。
[ビデオ(字幕)] 7点(2022-04-10 20:58:46)
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