661. ブリッジ
アメリカの自殺事情には興味はあった。年間約3万人と日本と同規模だが、人口で見れば割合は少ない。自殺に良い印象のないキリスト教国という理由もあるが、遺族の吐露出来ない辛さはどこも同じ。インタビューがほとんどの単調な作りで眠くなる。そして焦点が定まってないのは、自殺というものが日本と比べてオープンではなくその覚悟に時間を要したのかも。どんな手を使っても救えない人がいて、かと言って直前に思い止まる人もいて、結局は当事者にしか分からない。自殺シーンがまるで劇映画のワンシーンみたいで実感が湧かなかった。水面というのもあるが、これが地面やコンクリートだったら、現実だと認識できるのか? 作り手はもちろん、興味本位で見る視聴者の倫理観も問われているような気がした。 [DVD(字幕)] 5点(2016-05-16 21:19:16) |
662. インソムニア
雄大なアラスカの映像美は良いにしても、不眠症の恐ろしさや焦燥感が伝わってこないのは致命的。三人の演技派を揃えてもこれかって感じで、初メジャー作品のプレッシャーで自分の持ち味を活かせなかったのか。リアルタイムで少し失望したが、『ダークナイト』で持ち直すとは思わなかった。ジャンルは違えど、フィルムノワールとしての作家性と美学を崩していないことに今更気付いた。 [映画館(字幕)] 5点(2016-05-16 20:44:35) |
663. メメント
《ネタバレ》 カラーのエピソードが逆の順番に描かれるのは分かるが、交互に差し込まれるモノクロのエピソードが順番に描かれているとは気付かなかった。そういう意味で記憶障害の追体験は出来たかと思う。あの編集がなければ平凡なノワール映画だろうが、アイディアの勝利。復讐を果たせてもすぐに忘れてしまうから、永遠に仇を追っていくかと思うと切ない。無間地獄だ。 [DVD(字幕)] 5点(2016-05-16 20:41:55) |
664. スポットライト 世紀のスクープ
《ネタバレ》 流石オスカー好みの内容。でも、作品賞受賞は消去法的。堅実な演出に、的確なキャスティング、多くの情報量を2時間強でまとめた脚本。優れた映画には違いないが、非キリスト教圏の日本では馴染みの浅い実話であり、知っていることを前提に作っているわけだから、ショッキングな題材の割に台詞と情報だけで交わされる展開についていくのがやっと。直接的な性的虐待を描写しなかったのは良いとしても、あまりの淡白さにすぐ忘れてしまうだろう。記者及び被害者が報われるカタルシスに欠けているというか、かと言って盛りすぎても不自然なので難しいところ。地道に取材を重ねるジャーナリストの執念に、ロールシャッハ(ウォッチメン)の「真実こそが正義」が頭に浮かんだ。 [映画館(字幕)] 5点(2016-04-17 23:04:44)(良:2票) |
665. アダムス・ファミリー(1991)
《ネタバレ》 2→1と遡って観賞したためか、ブラック度は1の方が上で癖が強いかも。忍者屋敷のような仕掛けの数々は楽しく、血みどろ学芸会のリアクションの面白さにしろ、次第に彼らが正常に見えてくるのだから不思議。純粋に笑うなら2の方に軍配が上がるが、ホームドラマにしては結構良い線を行っていた。 [DVD(字幕)] 5点(2016-04-15 22:12:40) |
666. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
《ネタバレ》 リアリティ皆無であるにも関わらず、現在の世界情勢を見ると現実になりそうだから笑っていられない。昔の白黒映画なのか眠くなることもあるが、「また逢いましょう」をバックにした核戦争ENDは今見ても鮮烈な記憶を残し、爽快感すら覚える。アメリカの大衆はトランプに核兵器を持たせたいのか? 大衆がそれを望むなら仕方ないけどさ。 [DVD(字幕)] 5点(2016-04-15 22:09:30) |
667. コングレス未来学会議
《ネタバレ》 ロビン・ライト本人が主役のメタ設定といい、実写とアニメが混在する構成といい、こういう奇想天外さとバッド・トリップ感に乗れるか否かで評価が割れるだろう。アリ・フォルマン監督らしい、幻想的で悪夢のようなアニメーションは見ていて楽しいが、慣れると飽きるもので90分くらいで限界。夢を与える映画産業が衰退し、代わりに理想の自分になれる幻覚剤が生み出した理想郷は、争いも傷付くこともなく幸せかもしれない。ただ、ディストピアと表裏一体で、真実の世界とどちらが良いかと聞かれたら一度は迷う。今まで重要な選択を渋ってきたロビンの最後の選択は、ハッピーエンドだと解釈したい。 [DVD(字幕)] 5点(2016-02-15 19:02:33) |
668. ドッグヴィル
《ネタバレ》 言いたいことは分かる。適度な距離と本音と建前を忘れると、人間なんて犬畜生以下だということも、現実社会で生きている以上は幾度となく感じていることだ。しかし、スタジオに線で引いただけの前衛的なワンセットで170分はかなり厳しかった。最後の虐殺で今までのフラストレーションをチャラにする構成だが、あの長さでスカッとするには全然物足りず、観念的すぎて手応えを感じられなかった。頭は良いが精神は子供。だから、ミヒャエル・ハネケのような成熟さはなく、腰をどっしり据えた映画を撮れない。視野が狭くて意見すら聞かず、常に寓話に引きこもって人間の可能性を信じない。安全な場所で人のグロテスクさに安心している自分が正しい。そういう限界が垣間見えた。 [DVD(字幕)] 5点(2015-12-25 20:54:20) |
669. ダンサー・イン・ザ・ダーク
《ネタバレ》 映画を見始めた頃、ほぼリアルタイムで接して、バッドエンド一直線の物語に怒りを感じたものだった。時を経て、鑑賞経験を重ねてから再見すると「そこまで悪くないんじゃない?」と思えるようになった。映画の作りとしては、これはこれで悪くないか。とにかく独創的。母の無償の愛を描いたと世間的には言われているが、どこかの映画雑誌でトリアー監督は真っ向から否定しており、薄幸で頭の弱い女性がひたすら苛め抜かれる姿を通して、理不尽で身勝手で愚かなアメリカをただ批判したかっただけだったんじゃないの、と思えてしまう。主人公にとって厳しい現実から勝ち逃げしても、息子を始めとする周囲の人たちはそのエゴを押し付けられて不幸になっただけ。監督も登場人物も誰も責任を取らないから、メッセージ性に重みもないし本末転倒だ。反面教師的にはアリかもしれないけどね。 [地上波(字幕)] 5点(2015-12-25 20:41:50) |
670. ニーチェの馬
ミニマリズムの極致。色のない荒涼な写実主義絵画を延々と眺めるようなもので、ギャラリーに歩み寄らず(悪く言えば媚る)、むしろ「無から何かを感じ取れ」と歩み寄らせるスタンスだから、粗製濫造の娯楽映画に浸かりきった大衆が拒絶するのも無理はない(仕事に疲れ切って何も考えたくないから、劇中の父娘と同じようでダブる)。反面、今日評価されている芸術に対して、何も疑わず追従する大衆もいるという矛盾。ゼロベースから形を変えて、後世に影響を与えているのならその価値はあるかと。物質主義も精神主義も棄てた先にある答えを、後世の人たちが見つけるかもしれない。そういう意味でのタル・ベーラの遺作。 [DVD(字幕)] 5点(2015-12-07 19:11:50)(良:1票) |
671. リトルトウキョー殺人課
監修する日本人はいなかったのか。親分役でも口を出せなかったのか。あまりにぶっ飛んだトンデモ日本文化が逆にカルチャーショック。本人たちは大真面目なのだが、『キル・ビル』、『ラスト・サムライ』を経て、日本を取り扱った外国映画はこれと比べて随分マシになったものだ。短い上映時間と程良いアクション要素がアレすぎる日本文化の緩衝材になり、異文化コメディとして見るなら軽く楽しめるかと。 [DVD(字幕)] 5点(2015-12-07 19:05:54) |
672. 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語
《ネタバレ》 「引き際を見誤ってしまった」。これが第一印象。確かにビッグコンテンツになってしまったら、例え嫌でも重役の意向で作らざるを得ないだろう。そういう臭いが感じられる。そのため、ほむら以外の他の登場人物の心理描写が空虚であり、キュゥべえのネタばらしが押井守ばりの長セリフを延々と話すだけで、映像で語ることを放棄した演出が致命的。難解云々以前に商品になってしまった作品を無理に作っているから破綻している(公式の2次創作化)。だからこそのあのラストだろう。まどかを契約させない約束を果たせず、比較的マシな世界になっても諦めきれないのは理解できるが、本作で意思をハッキリさせる必要はあったか。もっとも、潔く完結させる権限を持てないから、このまま"延長戦"をずるずると続けていくのだろうが。一番の収穫は新キャラの百江なぎさの可愛いさくらいだろう。 [映画館(邦画)] 5点(2015-11-28 03:06:27) |
673. 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [後編] 永遠の物語
《ネタバレ》 テレビ版観賞済。8話分を前編130分で急ぎ足にまとめたわけだから(1話平均16分)、残り4話分を110分で描ける余裕がある。しかし、時間稼ぎ的な演出が目立って仕方なかった。挿入歌の『コネクト』がプロモーションビデオ的なのに違和感。しかも二度流す。新キャラを登場させるとか新たなエピソードを加えるとか何故差別化を図らないのか、ちょっと失望。分割したからこその良演出なのに。ただ内容自体は文句なし。全ての魔法少女ものへのオマージュであり、大風呂敷を広げながら放棄したセカイ系への決別である。契約した魔法少女が最期に救われるからと言って、希望の代償として死ぬまで戦い続けなければならないシビアな現実を忘れない、最後まで破綻しない脚本は見事だった。人生は戦いの連続だ。残酷で悲愴感溢れる世界だとしても、戦う価値はある。「絶望に負けないで。私がついているから」と、前向きに感じられる。これ以上の結末はないと思うので、後日談が不安でしかない。 [DVD(邦画)] 5点(2015-11-28 02:33:51) |
674. 夏至
実際に行ってみたら失望してしまうんじゃないかと思うくらい、ベトナムの豊潤な湿度を保った映像が美しすぎて心地よい。 冒頭の剥げかかった壁をも美しく捉えるインテリアに、ハロン湾のどっしりとした雄大な自然に心奪われる。 ただ、ストーリーはどうしようもなく陳腐でさして覚えていない。 雰囲気だけを堪能する映画。 [DVD(字幕)] 5点(2015-11-26 23:11:54) |
675. パシフィック・リム
《ネタバレ》 日本の特撮及びロボットアニメを想起させるような、巨大ロボットvs怪獣のガチンコバトルに興奮できる人には大傑作だろう。自分には合わなかった。ストーリーを気にしたら負けだけど、中国及びロシアの扱いが酷く、やはりドラマ部分がお粗末なのがどうしても看過できない。わざとかは知らないが、日本の描写は如何なものかと。主役に魅力を感じないのが痛い。搭乗者のシンクロ要素(上手く使えれば・・・)とキスシーンに走らなかった結末は評価しよう。 [映画館(吹替)] 5点(2015-11-21 18:12:53) |
676. るろうに剣心 京都大火編
《ネタバレ》 上映時間等の制約がある以上、改変は仕方ない。 ただ、佐之助の"二重の極み"を会得する展開、青紫が剣心を狙う理由付けは変更・削除しないで欲しかった。 これによって、京都行きに重みもなく散歩がてらな印象を与える。 激しいアクションも途中から単調気味。 薫の誘拐イベントに必然性を感じず、端の折り方や原作の抽出方法を制作陣があまり理解していないように感じた。 [地上波(邦画)] 5点(2015-11-09 21:52:14)(良:1票) |
677. インヒアレント・ヴァイス
話が複雑でついていけない、と思いながらも、筋が破綻しない程度に70年当時のロサンゼルスのゆるくて猥雑な空気を堪能する映画なのでしょう。だから見ても何も残らない(笑)。ポール・トーマス・アンダーソン監督だからこそ期待した部分が大きいのも一因か。ホアキン・フェニックスのどっぷり浸かったヒッピーぶりが物語をさらに可笑しな混沌に拍車をかけていてハマり役だった。 [DVD(字幕)] 5点(2015-10-18 23:22:18) |
678. 素晴らしき哉、人生!(1946)
《ネタバレ》 公開当時、過剰にセンチメンタルで楽観的な演出に"キャプラコーン"と揶揄されて監督は干されてしまった。しかし、25年後のベトナム戦争で疲弊した兵士によって再評価された名作である。確かに溜めに溜めたクライマックスの爆発力は凄いが、時代が変われば評価も変わる。社会に出れば、どう足掻いても変わらない理不尽な現実に捻くれて、素直に感動することが出来ない人も少なくないのではないか。自己肯定感が低く、不幸を嘆くジョージはハンサムで家庭があるだけまだマシだ。ただ、今は貧困格差固定で結婚も子育てもできる余裕もなく少子高齢化、自殺や孤独死が顕著になった無縁社会で、現実逃避するようにネットでクリエイターぶって他者から承認欲求を満たそうとしても飽和して見向きもされない、もはや"代わりはいくらでもいる"時代である。努力しても報われるとは限らないことを誰もが理解しているし、食い繋ぐための非正規雇用で心身消耗して死を待つだけの下流中高年が見ても、当たり前のことが出来なかった自分にむしろ絶望してしまいそう。そういう意味では、感動的な大団円には歯痒さを感じてしまうのである。既存の価値観が崩壊していく現在、21世紀の『素早らしき哉、人生!』を撮れる監督はもう現れないかもしれない。 [DVD(字幕)] 5点(2015-09-11 19:03:11) |
679. ラ・ジュテ
《ネタバレ》 アイデアの勝利。今だったら動画サイトで嫌ほど見られる手法だが、一枚一枚のスチールに情感あり。30分で締めたのは正解で、飽きてきたところで動画を一瞬挟み込んだのは心憎い。利用されるだけ利用されて、撃たれた男の崩れ落ちる姿が、フランス映画らしいディストピア感があって目に焼きつく。 [DVD(字幕)] 5点(2015-09-06 15:49:13) |
680. ユリシーズの瞳
《ネタバレ》 採点不能に近い。ハリウッド俳優のハーベイ・カイテルを主演に据えているものの、3時間近い上映時間に長回しと政治的要素が強いため、映画館で観ていたら確実に寝ていた(本来のアンゲロプロスはこんな感じだろうが)。しかし、映像に目を見張るものがあるのは事実で、白黒からカラーに移り変わる際に現れる青い船、ワンカットで捉えた数年に亘る元旦、運河を渡る巨大なレーニン像、雪のサラエボ市街の交響曲と霧の中の虐殺が目に焼きつく。映画の歴史とは常に真実の記録と表現の闘いの歴史であって、独裁国家であったギリシャや旧ユーゴとは無関係ではないはず。1995年のカンヌ映画祭では、クストリッツァの『アンダーグラウンド』が最高賞、本作が次点であると見るに、当時の旧ユーゴ内戦の関心度の高さが伺える。 [ビデオ(字幕)] 5点(2015-09-01 20:32:13)(良:1票) |