61. オルランド
《ネタバレ》 見ていると、ティルダ・スウィントンの大きな瞳に吸い込まれそうである。性も年齢も感じさせない、彼女の不思議なキャラクターなくしては、成り立たない映画かも。 何百年も生き続けたり、途中で男が女に変わったり、しかもまわりはそれを不思議がることもなく、そういうものとして受け止めている。そもそも人を食った話なのだが、まじめな顔で与太とばすようなおかしみが全編に漂っている。 衣装や美術も楽しめた。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-27 17:37:45) |
62. ユア・マイ・サンシャイン
《ネタバレ》 韓国のサイトで見たため、字幕無し。 『スキャンダル』では、凛とした気品のあるたたずまいを見せていたチョン・ドヨンは、この映画での役どころは田舎のタバンのアガシで、最初は実に安い女に見える。日本語だと、喫茶店のウェイトレス、といいたいところなのだが、実際やっていることは、コールガールである。店は真昼間から営業していて、ふつうに喫茶店として利用する客もいるし、ホテルなどから電話で注文があると、コーヒーを持ってスクーターで配達(ほんとの商品はコーヒーではなくウェイトレス自身)、という調子で、妙にあっけらかんとしている。 いわゆる風俗嬢であるチョン・ドヨンに、ファン・ジョンミン演じる、農家の次男坊で、母親と暮らしている36歳のさえない独身男が岡惚れし、彼女のすべてを受入れ、まったく揺るぐことのない愛を捧げるという、純愛物語なのである。こう書くと、実にアホらしいし、実際純愛などというものは、他人から見ればアホとしかいいようのない世界なのだが、この映画は、そのような純愛を描いて、まったく飽きさせることなく、物語にきっちりとひきこんでくれる。 ファン・ジョンミンも、存在感のあるいい演技だが、チョン・ドヨンがとにかくすばらしい。にこやかでいながら、内に猜疑心を秘めたはすっぱな表情、愛に酔う幸せいっぱいの表情、そしてラストの出所してくるシーンの透明な美しさに満ちた笑顔など、彼女の顔を見ているだけで飽きない。 刑務所の内と外に引き裂かれて、面会所で泣き叫ぶシーンよりも、新婚ほやほやの幸せの中で、永遠の愛を誓い合う、見てるほうが恥ずかしいようなべたべたのシーンのほうが哀切に感じるのだから不思議なものである。 ちなみに、彼女が犯した罪は「エイズ予防法」違反で、HIV 保菌者であることを知りながら(実際は知らないのだが)、売春を続け、無防備なセックスをしたというもの。このカップルは、実在のモデルがいるのだそうだ。エイズへの偏見や差別も淡々と描かれている。 しかし、刑務所の中で、彼女が顔や腕の湿疹に気づいて発病の恐怖におびえる、というシーンがあるのだが、その次のシーンではすっかり元気そうになっているのは、いったいどうなっているんだろうか。男性にいたっては、自分が感染することへの恐怖はまったく描かれず、大事な彼女が死ぬ心配ばかりしている。さすがにこれは、ちょっと現実的じゃないような気もしたが。 [インターネット(字幕)] 7点(2007-07-27 17:34:30)(良:1票) |
63. THE MYTH/神話
ひさしぶりに大画面で見るジャッキー。老けたなぁ。アクションシーンの動きが相変わらずなのはさすがだけど、キム・ヒソンとラブロマンスを演じるにはおじさんすぎる。というか、インディ・ジョーンズのときのハリソン・フォードだって、いいかげんおじさんだったんだから、問題は年齢じゃなくて、彼のキャラクターにあるのかも。要するに、セクシーさがないのよね。永遠の少年。将軍という貫禄にも欠ける。 もうひとり、老け方にがっかりしたのが、レオン・カーフェイ。もっとも、彼を見るのは『ラ・マン』以来なのだから、これは言うほうがムリか。彼のキャラクターの掘り下げが浅いのが、現代の場面を浅くしちゃった原因だと思う。これは脚本の問題だが。 ついでにいうと、ジャッキー、レオン、どちらも、まったく学者には見えない。 キム・ヒソンは、ひたすら美しい。気品のある公主を演じさせて、これほど似合う女優は、中国、韓国、日本と考えても、ほかに思い当たらないほど。 チェ・ミンスの出番がたったあれだけだったのには、驚いた。しかも、姫には一顧だにされないし。役の上での行動も大マヌケ。大事なお姫様が崖から落ちそうになってるんだから、まず姫を助けてから、ゆっくり決着つけろよ。パボアニヤ?(ばかじゃないの?)と心で叫んだが、公式サイトを見ると、なんとこの決闘シーンのアイデアはチェ・ミンス本人なのだそうだ。とほほ。 全体にセリフは北京語だったのだが、ラストの NG シーンを見ると、主演陣が北京語ネイティブじゃないため、セリフには苦労していたようだ。吹替えなしで全部使えたのかな? ものすごく、お金も手間ひまもかかっているのはわかるのだが、武侠映画に、無理やりジャッキー本来のアクションをくっつけようとして、消化不良になった、というところか。 [映画館(字幕)] 5点(2007-07-27 17:30:07) |
64. エリック・ザ・バイキング
ファンタジーとしての映像のちゃちさが、今見ると笑いどころになってしまっているというのが、なんともはや。まあ、それも含めて、気楽なコメディーとして、楽しく見られるけど。 マッチョさのかけらもないティム・ロビンスが、バイキングの長の息子、というミスマッチがまず笑える。脇役も存在感のある役者ばかりで、決して子供だましではない。けっこう好きかも。 [DVD(字幕)] 6点(2007-07-27 17:26:40) |
65. ヘヴン
《ネタバレ》 予備知識はほとんどなにもなく、ケイト・ブランシェット主演というだけでレンタルしたものだが、これは思わぬ拾い物だった。 約90分と短い映画で、ストーリーといえば、一組の男女が愛(復讐も広義の愛だよな)のために破滅へと突き進んでいく、というだけのものである。 彼らの行動だけを見れば、何人もの殺人を犯した挙句、自分も死に急いでるに等しいのだが、愚かにも邪悪にも無軌道にも見えないのはすごい。 ケイト・ブランシェットの名演はもちろんだが、ジョバンニ・リビジのイノセントで、それでいて暗いまなざしが実によい。リビジの父親役のレモ・ジローネが、出番は少ないにも関わらず、印象的な演技である。 舞台はイタリアで、主人公ふたりの会話は英語なのだが、それもまた、彼ら二人の世間から隔絶された立場を効果的に伝えている。 多用される鳥瞰や俯瞰。映像も緊張感があり美しい。逃亡の途中、丸刈りにしたケイト・ブランシェットは、まるで古代エジプトの王妃のように静かな美しさを湛えていた。リビジの弟役の少年の無垢な美少年ぶりがアクセントか。 [DVD(字幕)] 8点(2007-07-27 17:19:05)(良:1票) |
66. フライ,ダディ,フライ
《ネタバレ》 韓国版を先に見ていたので、その比較を中心に。結果的に韓国版の方がおもしろかったのだが、これは、日本版の欠点を研究することができる、後発の強みだろう。 まず、テンポが悪すぎる。導入部がやたらに長くてもたもた。韓国版だと、開始5分程度で、病院で教頭と話し合う場面(夜中の病院の暗さが、主人公の心情にオーバーラップして、実によいシーン)になるのだが、いったいそこまで、何分かかってるんだろう。 それと、画面のトーンが、全体に鮮やかすぎて安っぽい。堤真一と岡田准一が並んで木の枝に座り、語り合う大事なシーンのバックが、異常に鮮やかなオレンジとブルーのコントラストの夕映えで、まるで書き割り。せっかくのいいシーンがコントのようになってしまった。 なにより、堤真一がかっこよすぎるのが一番の敗因。もともと背が高く、体つきも締まっているし、トレーニング前とトレーニング後の差があまり見えない。一度も脱がないし。 岡田准一はかっこよかったけど、やはり堤真一よりも小柄なので、そのあたりで損をしている。それに高校生には見えないやね。仲間のほかの子たちもそうだけど。 韓国版では、須藤元気の役は二枚目のお坊ちゃんタイプ(でも筋肉隆々)の子がやっていて、原作通り、テレビのインタビューにすごく感じよく答える、というシーンがあったんだけど、須藤元気じゃ、まるでチンピラみたいで、当然そういう表向きいい子ぶりっこのシーンもなし。 主人公がかっこよくて、敵役がわかりやすい悪人面っていうのも、物語を浅くしている。 韓国版は、主人公が走るシーンのスピード感がよかった。音楽もよくあっていたし、バスと競争する最初のクライマックスも、屋台のおじさんが水を手渡したりと、小技もきいていたし。日本版は、走るシーンのカメラワークが凡庸で、つまらなかった。 妻と娘が内緒のトレーニングを知ることになるシーンも、日本版は時系列順に出てきて、おもしろみがないが、韓国版は、最後にネタバラシをするので、カタルシスがある。 岡田クンのファン以外には、かなりびみょーなでき。 [DVD(邦画)] 4点(2007-07-27 10:18:49) |
67. ミリオンダラー・ベイビー
なかなかに密度の濃い映画で満足できた。とにかくだれるところがぜんぜんなくて、画面にずっと緊張感がただよっている。 イーストウッドって、若いときはなんかサルっぽいなぁ、と思っていたのだけど、年取ってからのほうがかっこいい。モーガン・フリーマンの演技とナレーションが全編をよく締めてたし。ヒラリー・スワンクもこの名優ふたりにはさまれて、すごい存在感を示していたと思う。悪役ドイツ人ボクサーの面構えにも、しびれましたねぇ。 「アイリッシュは世界中どこにでもいる」というのに、ぐっと来てしまった。マギーの姓、鮮やかな緑のガウン、カソリックの教会、そしてゲール語、イエイツ。ストーリーの中で繰り返し語られる「アイリッシュ」というキーワード。だが、「俺もアイリッシュ、おまえもアイリッシュ」みたいな同胞意識べたべたな場面が皆無だったのも、よかった。 [映画館(字幕)] 8点(2007-07-26 08:08:03) |
68. エレンディラ
ガルシア・マルケスの世界の見事な映像化。 美術、音楽、演出、演技、どれも、あまりに自分にとってツボで、だれかに頭の中をのぞかれたかと思うくらい。 怪演というほかない、イレーネ・パパス、あくまでも可憐なクラウディア・オハナ(むかし、時計の CM かなんかに出ていたんだが、覚えている人は年がばれますな(笑))、どちらも別の意味で美しかった。 [ビデオ(字幕)] 10点(2007-07-25 16:03:54) |
69. マイ・ビッグ・ファット・ウェディング
《ネタバレ》 ギリシャ系アメリカ人の女性が、WASP の男性に恋をし、結ばれるまでの紆余曲折を描くコメディ。 原題は "Greek" という言葉が入ってるが、邦題にはそれが抜けている。 親や親戚は、同じギリシャ系との結婚を望んでいる。なにかというと一族が集まり飲めや歌え、「すべての言葉はギリシャ語に起源がある」というトンデモが持論の濃ーいおとうちゃん。。。。コメディとはいえ、わたしのように在日韓国人の、とくに女性なら、身につまされ、なかなかシャレにならない映画でもある。 主人公はふつうにアメリカの教育を受けているのだが、親の指示で子供のころからギリシャ語の課外教室に通い、そこそこ言葉もできる。「他の友だちは、ガールスカウトに行ってるのに、ギリシャ語より、わたしもそっちに行きたい」と、子供のころは思う訳なのだが、後年自分の子供を持つと、やっぱりギリシャ語を習わせる。このあたり、なんかうらやましく見ていた。 彼女と結婚するために、恋人の男性がとった手段は、「うーん、そうしないと、やっぱりムリなんかい?」ということで、ちょっとわたしには割り切れない感じだったが、マジョリティの男性という、二重に強い立場の側が、マイノリティの女性に歩み寄る、という点では、これでよかったのかも。 [DVD(字幕)] 8点(2007-07-25 15:49:16) |
70. ベッカムに恋して
《ネタバレ》 劇場で公開当時、予告編を見たのだが、サッカーがテーマの、青春コメディとしか思えなかった。それでまったく興味を感じなかったのだが、後になって、どなたかの映画評でインド系イギリス人の少女の、マイノリティとしての悩みを描いたものだと知り、 DVD で見たのである。 悩み、といっても、映画自体はテンポ良く、からっとしていて、躍動的なサッカーの試合のシーン、色彩鮮やかなインド系の人々の風俗など、楽しく見ることができる。 だが、一方、同じ街に住みながら、白人とインド系移民とでは、ほとんど接点のないようす、民族的な伝統の名の下に、女性が抑圧されている状況、恋愛と自らの夢との葛藤、などなど、考えさせられる要素もあれこれと盛り込まれている。 しかし、キーラ・ナイトレイは、こういう身勝手で押しが強く、それでいて魅力的な役がよく似合うなぁ。彼女の母親の勘違いぶりもおかしかった。 特別な才能のある妹がその才能を武器に夢をかなえ、ふつーの女の子である姉が、結婚に夢を求める、という筋立ては、差別に対してなんの解決にもなってないけど、しょせんサワヤカな青春ものなので、このあたりが落としどころかな。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-25 15:45:45) |
71. スーパーマン リターンズ
小学生の子供のリクエストで見に行った。 バランスよく、たいへんよくできた娯楽作品である。ジョン・ウィリアムズの景気のいいテーマがそのまま使われていて、なつかしかった。しかし、ケビン・スペイシーは、どうもいい人イメージが強すぎて、異常にも邪悪にも見えない。 主役の俳優の顔が、まるでマネキンか CG で作ったようなハンサムで、最後まで感心して見ていた。旧作のぎすぎすしたロイス・レーンと違って、今度の人はみずみずしくてよい。柔らかい印象が強いのは、母親としてのシーンが多かったせいか? [映画館(吹替)] 7点(2007-07-25 15:43:08) |
72. フラガール
まったくノーチェックだったのだが、あるマイミクの方の日記で「激しくおすすめ」と書かれていたのを見て、急に思い立って見に行った。この時点では、監督の名前も知らなかった。松雪泰子にはぜんぜん興味なかったし、ほかの主役の女の子達は、「なんか名前聞いたことあるなぁ」程度。タイトルだけ聞くと『スイングガールズ』の二番煎じみたいだし。 しかし、これが大当たりだったのである。決して大作ではないし、アクションもラブロマンスもサスペンスもないのだが、実にバランスよく、きちんと作られた映画。役者もそれぞれの役目を確実にこなしている。 松雪泰子って、まともに演技するのを見たことなかったのだが、こんなにいい女優だとは知らなかった。都会のすれてふてくされた女が、いなかの人々のまっすぐな心に触れて、徐々に人間らしく変わっていく、なんて、実に図式的な役なのだが、炭坑町にはまったく場違いなルックスや、最初のころのとげとげしさが堂に入っているだけ、その変貌ぶりにも説得力がある。ダンスシーンも、つやっぽく迫力があって、フラをなにかの手段と見ていたダンサー候補生達が、彼女の踊りを見て、ダンス自体にめざめるという設定にふさわしいものだった。 岸辺一徳やトヨエツもよかったし、主役の蒼井優もはじめて見たのだが、表情が自然で、ダンスはちょっとバレエぽかったけど、体がきちんとできているので、安心して見られた。しずちゃんは、出てきたときこそ「しずちゃん」として見てしまったが、映画が進むにつれ、女優としてすんなり受け止めることができた。こういういい作品ででビューできたというのも、この人の持っている力かもしれない。 ストーリー自体は、「あ、次こうくるな」とわかるところもけっこうあるんだけど、エピソードが多彩で、だれ場がない。次から次へと涙腺を刺激する技が繰り出されて、観客はほとんどノックダウンしてしまうのだが、あざとさを感じないのは不思議。血の気が多いが人情に厚い(というイメージがある)、炭坑町の長屋が背景になっているせいもあったかも。 ジェイク・シマブクロの音楽も、でしゃばりすぎず、いい感じだった。 斜陽の炭坑町とダンスというと『リトル・ダンサー』なんだが、日英のマッチョな父の描き方を見比べてみるのも一興かと。 いやまったく、シネカノンから目が離せないなぁ。 [映画館(邦画)] 8点(2007-07-25 15:39:14)(良:1票) |
73. ライターをつけろ
4日くらいかけて、だらだらと見た。なんというか、びみょーなできである。 キム・スンウは、そこそこ二枚目だし、ダメ男には見えないので、映画の最初の部分は、いかに主人公が情けない男であるかが、延々と描写される。ここがくどくて、思わずリタイアしそうになった。 やっと問題のライターがでてきて、チャ・スンウォンとのからみがはじまるのだが、アクションとしてもコメディとしても、なんとも中途半端。 チャ・スンウォンが、だんだん追い詰められてくると、家庭人としての顔が強調される、という演出は悪くないし、脇のイ・ムンシク(『101回目のプロポーズ』おもしろかった)や、カン・ソンジン(相変わらず、無意味にテンション高い役)、ユ・ヘジン(『王の男』のユンガプ)はいい味出してるのだが、ラストもいまいち、カタルシスがない。だいたい、ヤクザよりももっとえげつない国会議員は女性にビンタされて終わり、というのが、すっきりしない。 オレサマ意識丸出しのこのおっさんが、二言目には「自分は民主化闘争の闘士で、拷問にも耐えてきた」とやるのは、けっこうおかしかったけど。反体制でもなんでも、立場が変われば、やることはいっしょよね。 [DVD(字幕)] 3点(2007-07-25 15:36:11) |
74. ロスト・イン・ラ・マンチャ
ふつうの劇映画だと思って見始めて、結局本編丸ごとメイキングだとわかってがっかり、といううっかりさんがときどきいるようだが、最初からそういうものと思ってみれば、格別感動するほどではないが、腹を立てるほどのできでもなく、ふつうのドキュメンタリーである。 次から次とアクシデントが起こるのだが、ひとつひとつはそれほどの大事でもないのに、これで映画の制作が行き詰まっちゃうって、どの映画でも、こんな綱渡りのようなことをやってるのかしらん、と少し不思議に感じる。 撮影の裏が見られるのは楽しかったが、失われたものを思うと、手放しで楽しむわけにもいかず。『ブラザーズ グリム』が公開された後に見たので、テリー・ギリアムの将来を思って暗澹となるほどでもなし。すべてにおいてびみょーであった。 [DVD(字幕)] 5点(2007-07-25 15:33:40) |
75. プライドと偏見
凝ったセットと、イギリスの美しい田園風景の中で見せたハーレクイン・ロマンスというところ。しかし、舞踏会のシーンなど、雑踏とざわめきの中で、観客に伝えたいところをきちんと伝える手腕はみごと。この時代の地主階級の女性の置かれている立場の救いのなさ、というようなものが、かえって物語に深みを与えているようだ。 キーラ・ナイトレイが花のようにみずみずしく美しい。 最近息子ばかり注目されているが、ドナルド・サザランドがさすがの貫禄である。 [映画館(字幕)] 7点(2007-07-25 15:32:07) |
76. リバティーン
《ネタバレ》 ちらちらするろうそくの明かり、外のシーンでも、雨降りか霧、足元はひどいぬかるみか土ぼこり、というわけで、ずっと画面は薄暗く煙ったようで、これは劇場で見ないと、なにがなんだかわからないかも。 デップの黒い瞳の輝きは堪能できたが、ほんとの見所は、病気で目が曇り、皮膚がただれて、美しさなどかけらもなくなってからの演技だろう。 さんざん好き勝手なことをやったあげく、身も心もぼろぼろになった反逆児が、死を前にして、いちばん愛した女に「おまえと結婚したかった」だの「おまえとの間に子供がいれば」だの、まともな人間らしいセリフを言うのを見ると、なんだかそっちのほうが世迷言に聞こえる。しかも、自分が見出して、売れっ子女優に仕立て上げた愛人には、「もう借りは返したから五分五分ね」とばかりに、袖にされるというありさま。この結末は、ほんとにトホホだった。最後まで突っ張りきれない人間の弱さを描く、という意味では、大成功だったわけだが。 サマンサ・モートンじゃ、顔立ちも雰囲気も現代的すぎてあわないんじゃ? と思ったが、役柄自体も、ものすごく現代的だったので、これでよし。マルコビッチは、無表情な中に、なんともいえない存在感があった。 ロザムンド・パイクは『プライドと偏見』では、まったく煮え切らない役で、キーラ・ナイトレイの引き立て役になってしまっていたが、プライドと夫への愛の間で苦しむ姿が、さまになっていた。トム・ホランダー、ルパート・フレンド、ケリー・ライリーも、『プライドと偏見』で見たばっかりで、4人も出演者がかぶっているので、なんかへんな感じ。韓国ドラマじゃあるまいし。イギリスものっていうと、こうなっちゃうのかしら。 [映画館(字幕)] 6点(2007-07-25 15:30:36) |
77. ティム・バートンのコープスブライド
《ネタバレ》 ティム・バートン、そして、ジョニー・デップとくれば、そりゃあ見るしかない。だが、残念ながら劇場では見逃してしまった。こういう映画は色が重要だから、劇場で見たかったんだけど。 声の出演は、ほかにもバートン作品でおなじみの面々が担当している。どの人もよかったが、クリストファー・リーがやはり貫録勝ちだろうか。 生者の世界は、人形はもちろん、建物などのセットの色合いも、モノクロかと見まがうような、彩度を押さえた色調で統一されている。あざやかな色は死者の世界にこそある。夜の夢こそ真、というところだろうか。 バーキス卿の正体とか、物語の結末とかは、途中ですぐわかるのだが、バートン印全開の映像に集中するためには、安心して見られる古典的なラブストーリーのほうがよかったのだと思う。 死体の花嫁の造形もすばらしいが、単なる怨念に凝り固まった妖怪でもなく、生者の世界への執着を失った聖女でもなく、その間を揺れ動く彼女の心情がくっきりと描かれていたのがよかった。 ヴィクトリア・ヴィクターのカップルが、絵的にはいちばん地味でさみしいのだが、フリークスが主役のバートンの世界では、まともなキャラの影が薄いのはいたしかたあるまい。 [DVD(字幕)] 8点(2007-07-25 15:28:31) |
78. ブロウ
犯罪者を描いた映画で、主人公を道徳的に断罪したって意味はないのだが、この映画では、麻薬ビジネスがまさしく「犯罪」ではなく「ビジネス」として描かれていて、主人公は捕まることは恐れていても、自分のやっていることへの罪悪感は皆無である。マリファナやコカインの密輸は、自分の度胸と才覚を試す冒険であり、莫大な富を得る手段でもある。そして、自分がアメリカ国内に持ち込んだ麻薬がその先でどんな事態を引き起こすかは、まったく頭に浮かばない。 ふつうは、そんな人物像を見せられたら、一般の人間は鼻白んで共感などできないものだが、多彩な表情で主人公の魅力を引き出しているのは、もうジョニー・デップの力技としかいいようがない。 大学生から50代までを演じていて、でずっぱりなので、デップファンには見所が多いともいえるのだが、その一方70年代や80年代の今見ると奇矯なファッションや髪型、中年以降の出っ腹、最後には鼻のラインまで鉤鼻にしているとあっては、かっこいいデップもだいなしである。とくに、刑務所から出所してきて娘の通う学校に会いに行くあたりの衣装は、あまりにダサいので、見てて泣けてくる。 2時間以上という長さは、だらだらしすぎのような気もするが、主人公の両親や、ふたりの妻、仲間たちなどの脇が、それぞれ内実のある人物像を描き出しているので、それなりに見られる。フランカ・ポテンテの地に足のついた雰囲気と、ペネロペ・クルスの浅薄な感じが対照的でよかった。しかし、レイ・リオッタはせっかくの好演なのに、脳みそ食べられちゃう役なんかをほかで見ちゃうと、顔を見ただけで、最初はぎょっとするな。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-25 15:26:41) |
79. チャーリーとチョコレート工場
《ネタバレ》 冒頭の工場の内部から外観、ウォンカ印のトラック、チャーリーの住む傾いた家、などの絵を見るだけで、わくわく。あとのほうで、ウォンカマークの赤い自転車が出てくるのだが、あれいいなー。 いくつかのエピソードを付け足しただけで、大枠は原作どおり。あのウンパ・ルンパのへんな歌もすべて原作にあるんだよね。チャーリー以外の子供たちの辿る運命も忠実に作られている。 「ナルニア国物語」の公開ももうすぐだが、今の技術だと、ほんとうにこういう長く読まれてきたファンタジーを、納得いく形で視覚化することができるんだよね。これがいいことなのか、悪いことなのかはよくわからないが。 原作では、ウィリー・ウォンカは、まるでチョコの妖精みたいで、ほとんど人間味の感じられないキャラクターだったのだが、ジョニー・デップの描き出したウォンカ氏は、白塗りでわけわからん衣装と髪形、気持ち悪い裏声の笑い声、と、フリーク性を強調しつつ、感情の部分もきちんと表現している。 彼が人間にほとんど興味がなく、とくに子供は嫌い、「両親」という単語を発音しようとしただけで、吐き気がする、という演出を、父との葛藤という原作にないエピソードで根拠付けるのだが、このへんの臭さがファンタジーにうまくとけあっていてよかった。 何十年ぶりかで生まれ育った父の家に行ってみると、街がまったくなくなっていて、生家だけがぽつんと残っている。これで、ウィリーの帰りを待って父が引っ越さなかったのがわかる。そして、部屋にはウィリーの活躍を報じる新聞のスクラップ。でも、実際顔を見ても息子だとはわからない。歯科医である父が、口の中を見てはじめて息子だと認識するのがおかしい。 前作の『ビッグ・フィッシュ』でも、父子の関係が主題になっていたが、この映画でも、母は不在である。 『ビッグ・フィッシュ』といえば、魔女役だったヘレナ・ボナム=カーターが、チャーリーの母親役で出ていた。 しかし、ウンパ・ルンパは強烈だわ。夢に出そうだ。 [映画館(字幕)] 8点(2007-07-25 15:24:06) |
80. 妹の恋人
お兄ちゃん役のエイダン・クインが、実にいい男で思わぬ拾い物。印象的なブルーの瞳がいかにもアイリッシュ。この映画、ジュリアン・ムーアも出てたんだ。 妹役のメアリ・スチュアート・マスターソンは、どうもこの髪型とこの性格だと、柳美里を連想してしまう。不吉な長い顔。 映画としてのできは、退屈はしないけど、それほど感動作でもないし、といった小品。ジョニー・デップ演じるサムのキャラクターが現実離れしているので、なんとなしにおとぎ話めいた印象が残る。 [DVD(字幕)] 6点(2007-07-25 15:21:37) |