61. アメリカン・ヒストリーX
《ネタバレ》 いい脚本だと思います。全体を通してドラマの割り振りのバランスも良く、最後デレクが説得を要請されるところで、彼が死ぬのかなと予想しましたが、うまく裏切られ良かったと思います。白人至上主義者集団の姿はカリカチュアしていると思いますが、デレクのように個人的な悲惨な体験と知性がある人間はあのように上に立って指導もできますが、大部分は負け犬の己のダメさを他人に転嫁しているアホタレどもとして描いているのがグーです。デレクが刑務所で友人となるリネン係の黒人のように自分をアホだと言いながら地に足がついている人間が結局は賢いのです。大体苦労知らずのボンクラは抽象観念に酔いしれますが、真の賢者は辛酸をなめつくすことで具体と因果・連関が現実のすべてであることを知るのです。そして人をコンバートするのはそういう苦労を知った者が見せる他者に対するやさしさなのです。デレクは彼から自分の行き過ぎた主義が間違いであること、そして人間としての高潔さの一端を垣間見たのだと思います。また、デレクの父親の回想シーンを通しても洗脳が容易に行われる怖さというのも考えさせられました。環境に左右されずに偏らない主義を抱くのは中々難しいものである、としっかり釘を刺す脚本、憎いです。 もちろんエドワード・ノートンの演技が素晴らしいのは言うまでもないですが、やっぱり彼は知性を持った役が似合いますね。本当なかなかアカデミー賞がとれないですね。第二のアル・パチーノか? [インターネット(字幕)] 8点(2020-06-20 23:53:44) |
62. 恋人たちの予感
《ネタバレ》 ロマンチックコメディなのは確かだけど、自分としては都会に住むスノッブの孤独な男と女の姿を抉っていて素晴らしい脚本だと思った。これがもっと皮肉な視点を強調するとまた違った映画になっていたと思うけど、たぶんそれだとこんなにはヒットしないでしょう。さすがにハリウッドの人間たちは商売がよくわかっている。実際ハリーにほんとに似た知り合いがいて、ああいう知的で皮肉屋で小児的な部分が多少残っている彼の姿が目に浮かんで、映画を見ている間自分としてはいたたまれなくなった。ただ、ハリーの方がもっと素直で、結果幸せになったけど。一方サリーの方はジョーが結婚すると聞いてひどく自分のプライドが傷つけられ、大騒ぎするなど自分は男だけど30過ぎたスノッブなプライド高い独身女性の心情もなんかリアリティがあって理解できた。その後の一夜を共にして逃げたハリーをなかなか許せないところなども。バブル世代のおっさんから偉そうに今後婚期がどんどん伸びていくであろう若い男女(大学生くらい)にアドバイスとして言わせてもらえば、それぞれ異性の機微を理解する参考書としてなかなか優れた映画だと思う。「機微」とか死語?分かるかな~? [地上波(字幕)] 9点(2020-06-13 22:18:39) |
63. トレーニング デイ
《ネタバレ》 レビューが意外とあまりよくないですね。1日に話を詰めすぎだというのは確かに。リアリティがないのも娯楽映画だからと割り切って許せる範囲かなと。減点1くらいで。この映画はやっぱりデンゼル・ワシントンにフォーカスして見るといいかも。個人的にはアロンゾのいろいろな逡巡を経た結果きっぱり腐りきったダークヒーロー誕生!みたいな姿があっぱれという感じ。結構魅力的な人物に描かれていると思うけど。イーサン・ホークの振り回され新人感もよかった。でも、これでデンゼル・ワシントンがアカデミー主演男優賞受賞はちょっと、びっくり。クリムゾン・タイドの演技が振りとして効いていたのかな。もちろんすごい役者さんですけど。 [インターネット(字幕)] 6点(2020-06-13 13:10:30) |
64. 交渉人(1998)
《ネタバレ》 職業人の手の内を明かすのを見るのが個人的には大好き。交渉人のプロスキルを見せつける前半は特に大好物。デヴィッド・モース演じる特殊部隊の隊長も本当にいそうでこれもプロの姿として拝見できた。真相を追及する後半が若干ダレたように見えたのが少し残念。立て籠もりの前半の緊張感と均衡するよう後半の演出をもう一工夫すると、もっと後世に伝えられる作品になっていたと思う。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-06-12 00:02:59) |
65. M★A★S★H/マッシュ
《ネタバレ》 テレビ版のキャスティングよりもエリオット・グールド、ドナルド・サザーランドの映画版の方が圧倒的にいい。若かりし頃のドナルド・サザーランドはホークアイ役が一番いい。こういうエピソードの羅列の映画って珍しいといえば珍しい。アルトマンの割り切りかそれとも投げ遣りの勝利か。こういうのをつまらないと思う人がいるのもよくわかる。私はむしろ大好きで、個人的にはアルトマンの最高傑作はこの後の作品よりも断然こっちではないかと思う。全編おふさげがすぎる主人公たちだが、ロバート・デュバルが衛生兵のミスをなじって「お前が殺したんだ」といった場面を偶然見たエリオット・グールドが義憤に駆られて呼び出して殴るシーンはある意味この映画のスパイスになっていて好き。こういうところもアルトマンは手練れだと思う。 [地上波(字幕)] 8点(2020-06-10 19:17:18) |
66. リンカーン弁護士
《ネタバレ》 ストーリ展開がスムーズで非常に見心地がよく、満足度が高い作品。主役の弁護士が魅力的に描けていて、物語前半で丁寧に拝金主義で下世話な姿を描きながら、中盤で悪役である依頼人が実は過去の依頼人を陥れ、自分もまんまと騙されて司法取引で無実だったその男に無理やり罪状を認めさせ服役させてしまったことに気づく。そして、そのことを悔いて、全力で悪役である依頼人を逆にお縄にしようと司法のテクニックを駆使して奮闘する。実は職業倫理に篤く正義感の強い熱い男だったことを描いていく。そのシフトチェンジも自然で演出も実に手堅い。見終わった後の感興も決して安っぽいウェルメイド・ハッピーエンド的なB級作品に堕さない品格があり、非常に質の高い娯楽作品だと思う。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-06-10 18:27:14)(良:2票) |
67. スパイ・ゲーム(2001)
《ネタバレ》 CIAのスパイリクルートから実際の海外での妨害・暗殺活動、CIA内の会議の様子、オフィスの様子、作戦の実行、組織の非情さについてリアルに描かれながらもちゃんと師弟関係とロマンスをちりばめながらエンターテイメントに仕上げている。キャスティングもレッドフォードとブラピはバッチリはまっている。最後にブラピがヘリの操縦士に作戦名を聞き返すところはカタルシスと感動を覚える大好きな場面だ。あと個人的にハマった場面はダンカンが中国人に賄賂の値切り交渉するところで彼が交渉しながら熱心にテレビで流れているお色気番組を見ているのをダンカンの大きな図体で遮ってしまい、「もういい、わかった。それで手を打とう」といったのが妙にリアリティがあってよかった。このように全般的にリアリティを追及はしているのだが、この映画の肝である作戦の偽造があんなに簡単にもできるものなのか?と思わせてしまうところが唯一の傷で1点減点。それでも録画したのを何度も繰り返し見てしまうほど大好きな作品だ。 [地上波(字幕)] 8点(2020-06-08 22:17:27)(良:1票) |