61. Mr.ノーバディ
退屈な仕事の象徴がエクセルなのには笑いました。見終わってから知ったんですがハードコアの監督だったんですね。前作のように一人称カメラで撮られているわけではないものの、この映画もまた主人公の主観から一方的に語られる一人称的作品で、妻や子供たちの内面を全く描こうともせず主人公のものの見方が相対化されていません。ふつう複数視点で語るか主人公を現実と妄想の境目が曖昧な狂気の人物として描くような内容にするのが常道だと思うのですが、逆に暴力シーンをはじめとしてリアリティが追求されているような演出で違和感が強いです。所詮中年サラリーマンの願望充足映画なのですから、もうちょっと夢のある内容にした方がいいと思います。痛みを強調したリアルな暴力シーンを目指しているのかと思いきや終盤は普通に非現実的で馬鹿馬鹿しい銃撃戦になっちゃいますしこういうのは正直見飽きました。タイトルにも意味があるんだかないんだかという感じです。ハードコアは少なくとも斬新な挑戦を見る楽しさがあったのに、これはありきたりでつまらない内容でしかないです。それにしてもロシア人監督がロシア人を悪役にするのはどういう心境なんでしょうか(笑)。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-09-06 23:48:37)(良:1票) |
62. コーダ あいのうた
性に対してあっけらかんとしているのはフランス映画のリメイクだからでしょうか。いくらなんでも映像や編集にこだわりがなさすぎるような、なんだかテレビドラマを見ているような気分になります。家族と学校のような狭い世界の問題しか描かれないところもその印象に拍車をかけます。米国の事情には詳しくないですし漁師の生活も勿論大事ですので安易に批判するのも良くないのですが、乱獲の規制がまるで悪いことのように描かれているのも違和感があります。ろうあ者であろうと何一つ特別視するべきではない普通の人間であるというのはその通りだと思います。しかしこの映画はろうあ者を主要な登場人物に据えているところを特別視しなければ目新しいところもない平凡なドラマでしかないと思います。まあ斬新な設定や深刻なテーマ、グロテスクな描写等にうんざりしてベタなドラマを見たい時にはちょうどいいのかもしれません。アカデミー賞の審査員もそういう気分だったのでしょう。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-09-05 22:35:50) |
63. イコライザー
マーク・トウェインの引用から始まり、エドワード・ホッパーの絵画のようなダイナー、主人公が読んでいる本は老人と海、冒頭からアメリカの古典的名作を意識させる要素が次々に出てきます。一方対する敵のマフィアは血まみれのイコン、ボスのプーシキンはロシア最大の詩人の名前で明らかにロシアの古典文化を連想させる要素を意識して登場させています。この辺りで意外と深みのある内容なのかなと期待しちゃったんですが、結局特に意味のない引用でしかなく平凡なアクション映画で終わっちゃいましたね。序盤のダイナーやホームセンターでの親しい人たちとの落ち着いた温かみのあるやり取りに比べて、戦闘が始まると途端にめちゃくちゃ強い冷酷な戦闘マシーンになっちゃうのがチグハグに感じます。演出を見てもドラマシーンはカメラも編集も静かで落ち着いてるのにアクションシーンになると異様に素早くなったり、悪い意味で同じ世界の出来事とは思えません。クロエ・グレース・モレッツが序盤以降ラストまで全く出番がなく主人公の動機付けのための存在でしかないのも不満点です。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-09-04 22:24:18) |
64. ジョン・ウィック
犬を殺されてキレた殺し屋の復讐劇という情報しか知らなかったのですが、実際見てみると犬と愛情を育むような場面がほとんどないまますぐ殺されてしまうのできっかけとなるのは犬そのものではなくその犬をくれた亡き奥さんへの思いの方が強そうですね。所詮アクション映画なのでそれ以上の描写を期待しても仕方ないのでしょうが、これでは犬は戦闘マシーンのような主人公に共感させるために出てきて殺されるだけのような役割で不憫です。ここら辺を丁寧に描いていないので半分ネタ映画のようにしか語られないのも仕方ないと言えます。とにかく画が綺麗な映画でアクションも動きやギミックの面白さよりポーズや型のような止まった瞬間の美しさを追求している感じですね。やはりアクションシーンは動きの面白さを追及する方が好みなのでそこも乗れませんでした。2014年はクリミア併合が起きた年で、同じ年にロシアンマフィアを悪役にしたのは政治的意図が…あるわけないですよね(笑)。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-09-03 23:01:42)(良:1票) |
65. トロール
冒頭の女の子の容姿がグレタさんっぽいと思っていたらしっかり彼女について言及する台詞がありました(笑)。こういう映画ってたいてい登山の場面で始まりますよね。その後もずっとそんな調子で、軍隊の出動、科学者の会議、怪物に対し吠える犬、地響きで揺れる地面、ああこういう場面を怪獣映画で見た記憶があるなあというシーンばかり出てきます。舞台がノルウェーという点では新鮮さがあるのですが、既視感のある画やシチュエーションしか出てこない作品でもあります。一応描かれる親子のドラマもトロールと大して関係なくほとんどどうでもいい感じです。でも逆にこういう人物造形の薄っぺらさのようなダメなところも含めて怪獣映画を見ているなあという気分にはなれるんですよね(笑)。それに陳腐とはいえおとぎ話がもし本当だったらという想像力には単純に夢があるじゃないですか。製作者もトロールハンターの時のようなモキュメンタリーではない王道の怪獣映画を作りたいという以上の野心はなかったのでしょうし、王道だけに誤魔化しがなくVFXのクオリティは申し分ないです。上映時間も短くサクッと見られますし、これはこれでいいんじゃないでしょうか。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-09-02 21:54:10) |
66. 西部戦線異状なし(2022)
西部戦線異状なしが再度映画化されるのを知った時、今更これを映画化するの?というのが正直な感想でした。この映画がアカデミー賞を取れなかったのは新しいものが何一つ描かれていないからでしょう。原作が古いというだけでなく最近の作品としても1917の二番煎じ感は否めませんし、予算もそれより少ないためかスケールでもやはり負けています。兵士も人間だった、その人間性を奪った戦争は悪である、確かにそれは正しいですし何度でも語る価値はあるのでしょうが、それはまた単純かつ素朴な認識でしかないとも思います。第一次世界大戦はそれ以降の戦争と比べると兵士の犠牲ばかり語られて民間人の犠牲があまりピックアップされないのはなぜなのでしょうか。確かにこれは現代の技術で作ることのできる最高にリアルな塹壕戦なのかもしれません。ただ1930年版と比べてこの作品の映像が本当にリアルなのかは一考に値するでしょう。汚しや特殊メイク、画面の色遣いは今の戦争映画というジャンルの流行りに合わせたものでしかなく、絵画的な美しいロングショットが何度も挿入されたり、ホラー映画じみた画面の薄暗さは果たして当時の空気感を伝えるという点で1930年版より優れていると言えるでしょうか、むしろFPSゲームに近い部分さえあります。正直陳腐化した戦場の表現よりも農家からガチョウを盗み追われる場面の方が身に迫る恐怖と後ろめたさを感じました。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-09-01 23:28:14) |
67. 対峙
舞台劇の映画化のように見えますが映画オリジナル脚本のようです。うーん、残念ながら内容は保守的なアメリカ人のための物語という感じですね。会話の中ではインターネットやビデオゲームの若者への悪影響が語られます。舞台となるのは教会の一室で部屋にはキリストの十字架が掲げられています。原題のMASSにはミサの意味もあるようです。この時点でこの映画はキリスト教的な罪の赦しの物語となるのだろうと予測できますし、実際そこから逸脱するような展開にはなりません。アメリカの銃乱射犯にはアジア系も多く見られ、アメリカの事例ではないのですがイスラム教徒が攻撃の対象になったこともあるのですが、この映画の加害者と被害者は白人のみです。今時安直な発送かもしれませんが、人種や宗教が異なる人物間の対立と和解の物語として構成していればキリスト教や白人の家庭問題という内側だけに留まらずにもう少し興味深い作品になれたと思います。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-08-31 23:44:16) |
68. スクールガールズ
舞台となる1992年は長く続いたフランコ独裁が終わってから15年が経ちオリンピックと万博が公開された年であり、スペイン人にとっては日本にとっての1964年オリンピックと同じような意味を持っていそうです。とはいえこの作品はそんな世相とはほぼ関係ないシングルマザー家庭の少女が主人公で、その学校と家庭での出来事が淡々と描かれているだけです。スペイン人ならば当時の空気感が再現されていると評価もできるのでしょうが、激しいドラマもメッセージ性もないため当時のスペインの雰囲気をよく知っている人間以外が楽しむのは難しいと思います。ミツバチのささやきのアナ・トレントを生んだスペイン映画らしく主演のアンドレア・ファンドスはかわいいのでそこは救いです。劇中で映画を見る場面もありますし意外と意識しているのかもしれませんね。他にも保守的なカトリックの学校に通い母親との軋轢もあるというプロットはグレタ・ガーウィグ監督のレディ・バードに似ているところもありますね。修道院学校の押し付ける窮屈な道徳と世俗的な文化のもたらす自由という対比ですが、アメリカに比べると世俗文化の力が弱いためかどうしても暗く陰鬱な印象の方が強くなってしまっています。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-08-30 23:11:18) |
69. 静かなる侵蝕
《ネタバレ》 冒頭の昆虫や眼球の大写しが不気味な雰囲気を煽りSF映画としてのつかみはバッチリなのですが、残念ながら本編はSFではなくこのオープニングから期待させられるような展開は全くありません。エイリアンと戦いもせずに子供たちとのロードムービーのような場面が続くのでなんとなく察せるのですが、エイリアン関係は全て病んだ父親の虚言という設定です。それならそれで家族を守るために戦う父親像への批判がテーマかと思っていたら、最後は結局親子愛に着地しちゃう陳腐な展開です。スティーブン・スピルバーグ監督の宇宙戦争を思い出させるところもありますが、あちらはなんだかんだ言ってもSFスペクタクルの醍醐味は味わえましたし家族観もずっと厳しく冷めたものでした。主要キャストはインド・パキスタン系の俳優が占めているようですが、物語は白人の退役軍人を想定して書かれているかのようでそこも違和感があります。大きく見えていた父親の背中が小さくなっていくのは王道の作劇とも言えますが、映画自体の期待外れでがっかりする印象と悪い意味でダブって見えます。ただシナリオはいまいちでもカメラマンは優秀で画は本当に綺麗です。撮影の素晴らしさのおかげで最後まで付き合う気にはなれました。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-08-29 23:19:27) |
70. 83歳のやさしいスパイ
スマホもまともに使えないおじいちゃんが虐待の告発のために老人ホームに潜入する、こう書くと重苦しい社会派映画のようですが作品から受ける印象は真逆で朗らかで優しくかわいらしい感じの映画です。お年寄りって子供みたいなところがありますよね。妙にずれたことを言ったり、またある時は素直だったり、そこがおかしみを生んだり時にはもの悲しさを感じさせたりもします。この映画はチリが舞台ですが日本でもどこの国でもあり得ることでしょう。ドキュメンタリーとは思えないほど絵作りや色づかいは凝っており、ストーリーの構成も明確です。悪く言えばやらせっぽくもあり、そこが気になる方もいるかもしれません。しかしもし劇映画ならば役者の自然な演技が上手すぎますのでやっぱりこれはドキュメンタリーなのでしょう。カメラマンやマイクが映り込むのも演出のうちで、見ているこっちまで本来の目的を忘れそうになるとちゃんと劇中でもツッコミが入ります(笑)。聖フランシスコ特養ホームという名前を見ても舞台はカトリックが運営している老人ホームらしく、あちこちにキリストの十字架や像が置かれており、それが意図的にカメラに収められています。これは宗教的押し付けがましさというよりも、この映画が人間を愛することについての物語だということを象徴しているのだと思います。やさしいスパイという邦題は内容を的確に表現できています。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-08-28 23:36:28) |
71. マネーボーイズ
監督はアジア系で中国で幼少期を過ごしてはいるもののオーストリア在住のほぼヨーロッパの人間であり、台湾で撮影されていながら舞台設定は架空の中国の都市という複雑な背景の作品です。頻出する水のモチーフ、曇天の中の薄暗い映像、ロングショット中心で長回しを多用、同性愛やセックスワーク、田舎の貧しさと抑圧的な価値観、まあ確かに私もこのような映像美やテーマに期待してこの映画を見たわけなのですが、物語に没入するよりも今はこういう要素を散りばめとけば映画祭等で作家性がある作品として高く評価されるだろうという戦略のようなものが見えてくるのでうんざりしてきます。こういういかにもアート映画っぽい要素を取り除けば、内容はややシリアスな恋愛映画程度のものでしかないと思います。嬉しそうにバイクで相乗りする場面なんか何度も同じようなシーンを過去の映画で見た気がします。ヨーロッパの人間が監督した架空の都市を舞台にした作品であることを考慮すれば、これが現実の中国の同性愛者の境遇や社会問題を描いたものとしてそのまま受け取ることもできないでしょう。別にステレオタイプだとか差別的とまでは言いませんし真面目に作られてはいるのですが、新しい視点を得られるような作品ではなかったです。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-08-27 22:21:26) |
72. 道化師の夜
1950年代のグンナール・フィッシェルと組んでいた頃のイングマール・ベルイマン監督の作品は画が保守的でつまらないと思ってるのですが、スヴェン・ニクヴィストと初めて組んだこの作品は冒頭からバッチリですね。なぜ処女の泉まで再度組むことがなかったのか不思議なぐらいですが、この作品は興行的に大赤字だったみたいなので映像が斬新すぎたと判断されたのでしょうか(笑)。道化師が主人公のためどうしてもフェデリコ・フェリーニ監督の道と印象が被るのですが、あちらと異なり女性が決して男の犠牲になろうとしない辺りが作家性の違いですね。演劇の監督に侮辱される場面は映画監督という当時は賤業に近いものに携わっていたという監督の自虐でしょうか。雨の表現やクライマックスが男同士の決闘である点は黒澤明監督の羅生門からの影響が伺えます。冒頭の回想シーンでの大砲のカットバックは男根の暗喩という演出であることがあからさますぎてあまり好きではないですね。話は重苦しい割に後の作品ほど深いテーマはなく通俗的なメロドラマに近づいてしまっているとも感じます。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-08-26 23:21:49) |
73. アルゴ探険隊の大冒険
《ネタバレ》 誰もストーリーについてまともに語ろうとしない映画なのは納得です。大きく分けて二部構成の内容で前半のブロンズ島の場面までは主人公は女神ヘラに助けられ、後半は王女メディアに助けられるという構成になっています。前半は確かにわくわくする展開です。仇ペリアスの策略、冒険のための仲間集め、そしてブロンズ島での銅像ゆえにダイナメーションのカクカクした動きが見事にハマったテイロスの恐ろしさ、しかしこのわくわくする前半を受けて展開する後半が酷いのです。ストーリー上何の意味もない怪鳥に襲われる老人の場面で始まり、そこが終わるとハイドラまでダイナメーションのシーンすらなく変なデカいおっさんまで見せられる始末。テイロスとの戦いの後に主人公以外では一番キャラが立っているヘラクレスを途中退場させているので有名な骸骨戦士のクライマックスも誰か誰だかよくわからない人物と骸骨の戦いを見せられるだけなので合成の完成度こそ感動的ですが物語のクライマックスとしては盛り上がりに欠けます。それにこの話ってまるで敵の王国が邪悪みたいな描き方をされてますが、冷静に考えてみれば主人公たちのやっていることって劇中で指摘される通り盗賊・海賊のたぐいでしかないんですよね。序盤で提示されたペリアスへの復讐について回収されず投げっ放しのまま終わってしまうので、自分がやられたことを別の国でやり返しただけで気分が悪い結末です。ギリシア神話を知っていれば描かれなかった部分を補完できるのならまだ良かったのですが、なまじギリシア神話の知識があるとこの幸せそうなカップルが後々血生臭い悲惨な最後を迎えることがわかってしまい素直に楽しめなくなるおまけ付きというオチです。レイ・ハリーハウゼンが特撮を担当していることが唯一の価値で映画としては結構ダメダメな作品だと思います。 [映画館(字幕)] 3点(2023-08-25 19:52:21) |
74. 果しなき欲望
機関車の映像に合わせて立体的に文字が流れていくオープニングクレジットからイカしてますねえ。犯罪者の5人組以上に庶民の方がしたたかでえげつないという皮肉な視点で描かれているところがキモですね。銭湯の主人(菅井一郎)がいいキャラしています。「人は冷とう、湯は熱い方がええねん」名言ですな。ポン・ジュノに一番似ている日本の監督は今村昌平だと思っているんですが、この映画は特に雰囲気が似ているかもしれません。地上と地下を対比させた演出なんてまさにそうですよね。スタンリー・キューブリックの現金に体を張れから2年後、そしてジャック・ベッケルの穴の2年前にここまで日本の風土に適ったケイパーものを成立させているのは大したものです。この映画を見ると今村昌平監督はもしかしたら黒澤明監督に並ぶかそれ以上に世界に通用するエンターテインメント監督として名を揚げられたのではないかと思えてきます。純粋なブラックコメディと言えるのはこの作品ぐらいで後は日本の性や土俗的な問題を描く方に関心が向いていってしまったのが残念に感じられるぐらいです。 [インターネット(邦画)] 8点(2023-08-24 23:17:15) |
75. 伯林 大都会交響楽
明確なストーリーやメッセージ性はなく1927年当時のベルリンの様子を映した、本当にそれだけの内容です。1920年代にはこの映画のように実験映画とドキュメンタリーの中間に位置する作品の流行があったようです。一瞬だけ行進する軍隊のショットが唐突に挿入されており、後のナチスの台頭を考えると予言的で意味深なショットと言えなくもないでしょうが、当時の製作者の意図としては街を歩く人々の姿がまるで軍隊の行進のようだと示す程度のものでしょう。車窓や飛行機、ジェットコースターのような動く乗り物の中から撮られたショット、工場の機械や風が生み出す回転運動、リズミカルな編集と合わせて映像には流れるようなスピード感があり、昔のベルリンの姿を眺める歴史資料程度の価値しかありませんがその分には十分楽しめます。ただこういう映画はプロパガンダの要素もあるとはいえ、政治だけでなく美学的にも明確な思想があるソ連の方が一枚上手だなあとは感じます。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-08-23 21:12:19) |
76. 蝿男の恐怖
青を基調とした夜の場面とプレス機はターミネーターに継承されているのかもしれません。序盤の雰囲気は結構悪くないとは思ったのですが、結局ほぼ原作を忠実に映像化しただけの作品でしかないので物足りませんでした。原作にはない映画独自の演出と言えるのは転送に失敗した猫の鳴き声が静寂の中で聞こえる場面と蝿男の複眼の主観ぐらいでしょうか。手紙での語りを回想に変えるのは単純な置き換えでしかなく、舞台が一軒家からほとんど移動がないのも映画としては明確な欠点です。カラー撮影であるため今でも見やすく、そこは50年代のSF映画としては強みです。しかしこの映画に限ったことでもないのですが、この時代のハリウッドのシネマスコープ画面の映画はクローズアップをあまり用いずにほとんどロングショットだけで物語が語られるため映像のメリハリがなく見ていてダレてくるところがあります。この映画でクローズアップが用いられているのは蝿と文字を映す場面ぐらいのものです。文字は大きく映さないと読めないというだけですし、結果として蝿が映される場面が一番刺激的にはなっています。 [DVD(字幕)] 5点(2023-08-22 23:19:42) |
77. ブラック・デーモン 絶体絶命
環境問題をテーマにしているとの評を見かけ実はまともな内容ではないか一縷の望みを託して見てみたのですが、まあやっぱりダメな映画でした(笑)。一応米国の石油企業による現地の自然破壊という社会派の視点が持ち込まれてはいるのですが、どちらかというと作品の比重が置かれているのは目新しさもない家族愛の物語の方です。キャストの大半がヒスパニックなのは今時という感じです。下手なパロディ演出には走らず意外と真面目に作ってはいるのですが、真面目に作っているだけにパニックものとしての陳腐な描写や展開が退屈極まりないです。低予算なので鮫は全然画面に出てきません。アステカの伝説にルーツを持ち幻覚を見せる超能力まで発揮してくるので鮫ではなくオリジナルのモンスター映画として製作すべき内容ではないかと思いました。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-08-21 22:17:37) |
78. 68キル
作品のテーマは股間に従って生きるのはやめろってことですかね(笑)。まあその辺りのドラマも主人公に共感できるような描き方で意外とちゃんと作られた映画だと思います。冒頭はちみつにハエが飲み込まれそうになっているショット、これが本編を象徴するようなショットになっているかと思っていたら結局あまり関係ないようでよく意味がわからないショットです。金のないカップルが強盗に走る、ホラー映画のドント・ブリーズのようなシチュエーションですがこっちはホラーでなくラブコメ調なのでそれほど緊張感はありませんがゴア表現は結構派手にあります。カメラワークは平凡ですが簡単に先が読めるような展開ではないので退屈はしません。低予算で外国への輸出はあまり意識されていない米国内向けの作品という感じですが、今時等身大のアメリカ人が見られるという点では逆に貴重な作品かもしれません。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-08-20 23:31:39) |
79. ザ・フライ
ジェフ・ゴールドブラムもジーナ・デイヴィスも微妙に正統派の美形からずれたタイプなのが作品のグロテスクな雰囲気に合っていて良いですね(失礼)。今見ると確かにスーパーヒーローものっぽい展開ですが社会の中で活躍はせずに個人の苦悩に主眼が置かれているところがジャンルの違いですね。SF設定を採用していながら物語の中心になるのはラブストーリーなわけですが、それがこの映画の美点であり物足りなさでもあります。機械に依存せざるを得ない人間の恐ろしさのようなテーマをもうちょっと掘り下げても良かったと思います。個々のイメージはエイリアンやターミネーターの二番煎じに見えるところもあります。グロテスクな表現は設定上必然性があるので単なる悪趣味にはなっていないのは良いです。この作品で主に描かれるのは蝿と人間という生物同士の融合なわけですが、ベッドの中で主人公の背中に電子部品が張り付く場面等機械と人間の肉体の融合という自身の作家性を無理やり挿入しているような印象を受けます。リメイクとして完成度の高い映画ではありますが、この監督の作家性が十分に発揮された作品とは言い難いと思います。 [DVD(字幕)] 6点(2023-08-19 23:57:44) |
80. ザ・ウォード/監禁病棟
なんでこんな映画が撮られたのだろうと不可解だったのですが、監督が当時AKB48にハマっていたと知って得心が行きました。劇中の時代設定1966年の時にはジョン・カーペンター監督は18歳、自分の青春時代を舞台に若い女の子が奮闘する姿を撮りたかった、それ以上のものは別に求めていない、そう考えるとまあこの程度のしょーもない出来になっちゃうのも納得かなと思います。学園ものを監獄ものに再構築したと見ると結構批評性があるのかもしれません(笑)。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-08-18 23:42:07) |