781. エレファント
《ネタバレ》 主観で答えありきの『ボウリング・フォー・コロンバイン』とは違い、 こちらは客観的に高校生のあやふやな精神状態を切り取る。 盲人が象の一部分を蛇や木の幹と表現するように、 答えは人それぞれである意味で答えはない。 時系列を交錯させながら同じシーンが別の視点で映し出され、 平凡なはずの日常に潜むノイズが積み重なる。 だからこそ、移ろいゆく秋の風景が、流れるようなカメラワークが繊細な美しさと儚さを一層醸し出す。 誰もが悩んでいるのに周りを汲み取れない、高校が世界の全てといった視野の狭さが、 惨劇も日常として描かれる不条理を許しているようだ。 [DVD(字幕)] 6点(2015-09-01 19:40:40) |
782. 華氏911
《ネタバレ》 『荒野の七人』の合成映像だけは唯一笑えるが、流石に映像の切り貼りばかりで退屈。ムーア本人の脚で行動するシーンが少ないのも不満。当時の現職大統領を批判するセンセーショナルな題材だが、ブッシュ元大統領の再選により、ネタの鮮度的にも作品的にも価値は低い。当時としては際どい題材で挑んだチャップリンの『独裁者』やキューブリックの『博士の異常な愛情』と比べても、普遍的な部分で浅すぎるとしか言いようがない。これがパルム・ドールかぁ・・・ [映画館(字幕)] 4点(2015-09-01 19:36:33) |
783. ボウリング・フォー・コロンバイン
《ネタバレ》 堅苦しいドキュメンタリーを分かりやすくエンタメとして訴えかけたマイケル・ムーアの功績は大きい。悪く言えば、その巧みな編集でデメリットを写さず、日本のマスメディアみたいに偏った方向に誘導される危険性はあるが、銃社会アメリカの異常性を取り上げた点は支持したい。最後のチャールストン・ヘストンのアポなしインタビューに関してはやり過ぎな気はする。ニュースにならないくらい掃いて捨てるほどある悲劇を敵意剥き出しのまま問い詰めれば対応に困るし、銃を否定してもそれによる既得権益で支えられたアメリカが今更減産も規制もするはずがない。流通が行き渡った以上、強盗が銃を持って自宅に侵入したら、銃で対応せざるを得なくなる。世界の警察としてのメンツもあり、退くに退けないアメリカの泥沼っぷりが集約されていた、という意味では必要なシーンかもしれないが。いずれにしても、強力な武器も銃も民間レベルで流通されていない国は、まだマシと言えることくらいか。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-01 19:25:53) |
784. 愛、アムール
《ネタバレ》 半身不随になった妻を献身的に支える夫の姿が踊っているようにも見える。本作は過去作に比べて敷居が低く、そして容赦ない。目を背けたくなるほど衰弱していく妻を、事務的にこなす介護師を解雇し、中途半端な態度の娘をも突き返す。長年、苦楽を共にした夫の純粋さと狂気。二人以外の来訪者は聖域を侵す邪魔者でしかないのだ。今までのハネケなら妻の尊厳のために"約束"を果たして、観客を凍りつかせて終わらせるだろう。しかし、映画は愛の到達点を描きだす。二度にわたる鳩の来訪に、一度は拒んできた来訪者を抱き締める夫。鳩が妻の霊魂かは分からない。ただ、夫が綴った手紙が通じたのだろう、具現化した妻が何事もなかったかのように皿洗いをする、ハネケらしかぬ穏やかさに意表を突かれた。そして、二人はまるで散歩でもするような感覚で旅立っていく。妻の何気ない一言に涙があふれた。定冠詞のない"Amour"が象徴するように、開かれた部屋には二人の生きた証が、愛が隅々にあふれている。残された娘はどう感じるのだろう? 第三者から見れば、老々介護の悲劇にしか見えないだろう。しかし、それは悲劇か否かは当事者の二人にしか分からない。如何なる結末であれ二人は安らかに逝けたのではないだろうか。人間をよく知らなければ、このラブストーリーは絶対に撮れない。ハネケにしか撮れない嘘偽りのない純愛にただただ圧倒された。 [映画館(字幕)] 9点(2015-08-24 23:06:27) |
785. 白いリボン
《ネタバレ》 今までのハネケ監督の中では意外と見易い。如何にしてファシズムが小さな村から蔓延していったかを分析しながらも、教師を狂言回しにしてミステリーの体裁を装っているからか。罪を犯した子供に罰として無知の象徴である白いリボンを腕に結びつけるが、閉鎖的で抑圧された封建社会において、捌け口にされた子供の自己肥大化が進むのは当然の帰結だろう。どうしてそういうことをしたのかに大人達が真剣に向き合おうとしないし、心から信頼することもしない。子供には自分の理想通りであって欲しい押し付けと綺麗事だけが残るのが皮肉だ。二度における世界大戦は、様々な問題を先送りにした身勝手な大人達への復讐のように思える。並行的に描かれる教師の物語が救いかもしれぬが、部外者ならではの他人事と読み取れる部分もあり、我々も同じではないか。 [DVD(字幕)] 6点(2015-08-20 20:35:40) |
786. タイム・オブ・ザ・ウルフ
《ネタバレ》 ディストピアものというより、あくまでサバイバルドラマの側面が強い。別荘で父親を射殺された母子三人が次の列車が来るまで駅舎で待機する。まだ子供の姉弟は極限状況下の大人達の獣性と醜さをまざまざと見せつけられていく点はハネケらしいが、ここにきて変化球を投げつける。自分を犠牲にして醜悪な世界を救おうとする弟の行為に、見張りをしていた男が止めに入って抱きしめる。家族の前で外国人に暴力を振るった男に似合わない、今までになく優しい言葉。あまりにも無力で根拠のない希望を語りかける。ラストカットの車窓は現実か妄想かは定かではない。それでもハネケは人間を信じているのだろう。絶望ばかりを描いているわけではなく、人間の"可能性"に観客が気付いて欲しいことを。 [DVD(字幕)] 6点(2015-08-20 20:18:00) |
787. ピアニスト
《ネタバレ》 シングルマザーの承認欲求のために人生の全てをピアノに注ぎ込み、それに応えることができなかったエリカはピアノ以外に外の世界を知らない。子供の頃に抑圧された欲求が歪んだ形で浮上してきたアダルトチルドレンだ。自傷行為もまた、果てしなく自己肯定感の低いことの裏返し。しかし、彼女は悲劇のヒロインとして酔っているだけだ、とハネケは容赦なく切り捨てる。理想に思えたSMプレイは、現実では甘ったるい自分の自尊心と妄想を破壊させるには十分で、依存していたワルターに否定されることによって、エリカは自分を刺し、ピアノも母親も何もかもを捨てて夜の街に消えていく。絶望して自殺したかもしれないし、現実を受け入れて新しい人生のスタートを切ったかもしれない。見栄のために子供の代理戦争に駆り立てる親は失敗したときその責任を負えるだろうか。満たされづらくなった現代の承認欲求の病理とエゴイズムを的確に貫く。何もしないくせに他人に対して、「私を満足させて」と構ってくる地点で間違っているんだよね。 [DVD(字幕)] 6点(2015-08-20 19:53:20) |
788. フルメタル・ジャケット
《ネタバレ》 他の方が仰る通り、前半10点、後半6点の映画。言いたいことは全て語られているため、とにかく洗脳にも似た"製造過程"は凄いとしか言いようがない。戦場に参加するアメリカ兵のほとんどが貧困層であり、将来の格差の拡大・固定化で日本でも軍に志願せざるを得ない状況が作られる可能性があるだけに、ほほえみデブのような末路を迎えたくないよね。貧乏人は国家によって戦場で使い捨てにされる"消耗品"か? [DVD(字幕)] 8点(2015-08-20 19:40:37) |
789. 言の葉の庭
新海節全開の中編。新緑が映えた雨の庭園に少年と女性の魂が通い合う。なんて繊細な作品なんだろう。背景及び小道具のディテールは申し分なし。しかし、1時間にも満たない内容にも関わらず長く感じてしまう。もう少し脚本を練るべきだけど、ここまで来るともう開き直って、繊細さと青さがもはや様式美と言っても過言ではない。「ストーリーなんて考えるな、雰囲気を感じろ」系な潔さすら覚えた。これからもその路線で貫いてください。良くも悪くも。 [ブルーレイ(邦画)] 6点(2015-08-20 18:57:34) |
790. バケモノの子
《ネタバレ》 エンターテイメントのツボをしっかり押さえているし、退屈はしないけれど、前半のトーンを貫いて欲しかった。いろいろ詰め込んでいる割に、終盤の展開がジブリみたいに抽象化して、こじんまりになってしまった。混乱を止めるためにバケモノ達を渋谷で大暴れさせるとか、なぜそれをしないのだろう。宮崎駿からの世代交代でプレッシャーは相当なものかもしれないが、時かけみたいに初心に帰って、数人で脚本を書く体制に戻さないと、難解で内省的になったジブリと同じ轍を踏む羽目になるだろう。 [映画館(邦画)] 6点(2015-08-08 01:18:47) |
791. おおかみこどもの雨と雪
《ネタバレ》 13年の歳月に散りばめられた行間のように、フルネームのない登場人物、テレビや携帯をわざと見せない現代の描写、非現実の中の現実が織りなす世界観のため、あくまでフィールグッドムービーとして見るのが正解だろう。悪く言えば、雰囲気重視でリアリティにおいて都合の悪い展開を誤魔化しているとも言える。後先考えず在学中におおかみこどもを産んじゃうとか、厳しい環境で村社会の強い山奥の集落でそう上手く子育てできないだろとか、気にしたら負け。それに、監督の嗜好が今作であからさまに具現化され、下卑た欲望が画面に透けて見えてしまうことが拒絶反応の強い要因ではないか。監督が女性だったらもっと違うアプローチで印象が違っていたかもしれない。それでも許容範囲だったのは、「そうきたか」と唸る演出だったり、育て上げた万感がリアルに親と重なって、こみあげるものがあったから。育ててくれた親への感謝、かつてした子育てへの郷愁。主題歌は反則すぎる。 [映画館(邦画)] 7点(2015-08-08 00:56:03) |
792. サマーウォーズ
《ネタバレ》 東映時代の『デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム』を見ている人もいるんだから、ストーリーにもう一捻り入れて欲しかった。過去作を万人向けに長編リメイクしたのが当作品であるが、ネットやSNSに疎い中高年には厳しい内容であり、逆に花札のルールを知らない自分にはその駆け引きについていけなかった。無機質なネットと古風な人との繋がりとの対比を描いているはずなのに皮肉を感じる。健二と夏希の物語にしても、陣内家の物語にしても中途半端。ただ、高い演出力とギミックの数々は見ていて飽きないし、中盤に退場するのに曽祖母の存在感が最後まで絶大で、面白いと言えば面白かっただけにそこが惜しい。原作次第では時かけのように大化けする監督だと思うので、これは擦り合わせが甘かった。 [映画館(邦画)] 7点(2015-08-08 00:53:58)(良:1票) |
793. 時をかける少女(2006)
主題歌を聴いた瞬間、絶対見てみたいと思える透徹感がこの作品にあった。現代的なリアルと些細なファンタジーが違和感なく溶け込み、それに反してもう戻れないかけがえのない時間がこの世界観を際立たせていた。本当に求めていた映画に出会えたという喜びは数年に一度かもしれない。そして、それをリアルタイムで見れたこと自体、かけがえのない時間そのものだ。こんなに青い大空と雲を見たことがない。何故か涙が溢れた。 [映画館(邦画)] 10点(2015-08-08 00:50:22)(良:1票) |
794. Dolls ドールズ(2002)
バイオレンスのない北野映画。赤い糸で繋がれた男女の物語と並行して二つの物語が展開するが、そのわざとらしい退屈なオリエンタリズムでは奥行きが出るわけでもなく、特にアイドルのパートは滅茶苦茶浮いていた。心中するラストはもうギャグにしか見えない。ただ、省略によって想起させる痛覚の向き合い方は上手い。 [地上波(邦画)] 4点(2015-08-05 21:17:34) |
795. GO(2001・行定勲監督作品)
邦画賞レースでそこまで絶賛される内容なのかな? かつてハリウッドでホロコーストものが崇められていたようなニオイを感じる。ネットの普及してない当時、"在日朝鮮人"という概念にあまりピンと来なかったとはいえ、帰属意識や自我の確立といったテーマの見せ方にとりわけ惹き付けられるものはなかった。青春映画としても印象に残らない。役者陣は好演だが。 [DVD(字幕)] 5点(2015-08-05 21:12:39) |
796. パンチドランク・ラブ
《ネタバレ》 何の脈絡もなくトレーラーが横転し、勤務先の前に小さなピアノが置かれる。アクリルで塗られたような鮮やかな抽象画が効果的に挟まれる。物語に重要な意味はなく、ただそこにあるだけで普通のラブストーリーではないことを悟らせる。何せ監督がポール・トーマス・アンダーソンである。でなければ、コメディなアダム・サンドラーとシリアスなエミリー・ワトソンという不釣り合いな二人を共演させないだろう。監督作の中では軽く作られた小品であるが、アクの強さでは一際浮き立つ。テレフォン・セックスの甘い誘いからタカられるしょうもないサイドストーリーを絡めながら、怒らせたら業者の手下をまとめて瞬殺してしまうサンドラーと、驕った態度の割に超ヘタレなボスのフィリップ・シーモア・ホフマンが滑稽。アメリカの現代アートを劇映画にしたらこうなるという一例。 [DVD(字幕)] 5点(2015-08-05 21:10:18) |
797. マグノリア
《ネタバレ》 PTAの早熟なまでのキャリアの頂点と言える。冒頭で語られる3つの"思いがけない出来事"を象徴するが如く、「こんなはずじゃなかった・・・」と上手くいかず、途方に暮れて、誰かが口ずさんでいるかもしれない歌により一つの物語に紡がれていく。これは映画でしかできない希有な体験だった。そろそろ飽きてきたときに、"思いがけない出来事"をガツンとぶつけられたときの衝撃は計り知れない。アレに出会ったことによって、新しく自分を始められるきっかけになるかもしれないし、変化もなく堂々巡りで終わるのかもしれない。たとえ意見が割れる結果になったとしても、そのワンダーは登場人物と同じく現実のものとして記憶に残る。 [DVD(字幕)] 8点(2015-08-05 21:06:47) |
798. ブギーナイツ
《ネタバレ》 弱冠26歳でハードコア・ポルノを題材としながらも濃密な人間ドラマを撮り上げたP.T.アンダーソン監督は凄い。 幾度となく多用される長回しは技巧をひけらかすような幼稚なものではなく、 登場人物の背景と当時の空気を的確に捉えている。 業界で成功するも驕り高ぶる青年、作品の質を重視したい職人肌の監督、 親権を奪われドラッグに溺れる女優、家族に愛されなかったウェイトレス… 表社会から偏見にさらされ、その世界から抜け出せられなかった彼らは疑似家族として、 傷を舐め合うようにかつての栄光を演じ続ける。 一時的に楽しまれては忘れ去られていく消耗品。 それでも必要とされていた時代があったことに想いを馳せる。 絶対的な自信はあったかは知らないが、もう少し短くできた。 [DVD(字幕)] 6点(2015-08-05 21:04:32) |
799. ドン・ファン(1970)
《ネタバレ》 『ドン・ジョバンニ』との違いがよく分からない(男が悪行の果てに地獄落ちするのは共通するが)。オーソドックスな人形劇だが、屋外で撮影したり、ゴアシーンがあったり、要所にコマ撮りアニメが挿入されたりと、型にハマらないシュヴァンクマイエムらしい片鱗が随所に見られる。不意に挿入される「死ね」「えーいっ」のテロップが恐い。終盤で「子供たちよ、俺のようになるな」とメタ演出が入るあたり、子供向けだろうなと思うけど、あの表現の数々を見るに冗談がきつい(笑)。もっともホラー映画なんて当時は規制なしで見られた時代なのかもしれないが、子供には良いショック療法だったに違いない。 [インターネット(字幕)] 6点(2015-07-15 21:55:43) |
800. 立喰師列伝
写真をコラージュして紙人形劇アニメーションにした実験的な手法以前に、やはり意味ありげな無いような難解な台詞回しがひたすら最後まで続き、退屈で早く終わって欲しいと何度思ったことか。おまけに悪ふざけの極致と言える演出に怒りを通り越して呆れてしまった。押井信者の中のさらに押井信者向け。 [DVD(字幕)] 1点(2015-07-15 21:47:06) |