781. アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン
《ネタバレ》 予告編を見ると、日韓米を代表するスターの競演に、特殊能力を持つ男を巡るワールドワイドなアクション・スリラー大作だと思うだろう。しかし、内容は自分自身に酔っているナルシスト3人を延々と映し出しただけ。映像美は圧巻だが、全然救えていない。まるでマリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』ばりの予告編詐欺。映画館で観ていたら激怒ものだろう。現代のキリストを象徴するシタオの名前はゴーダマ・シッダールタから来ているらしく、西洋のキリスト教と東洋の仏教の交差を観念的に描いたと解釈できるが、「だから何だ?」で済まされる話。トラン・アン・ユン監督は、脚本書かないで、演出だけやっていればまだマシな映画を撮れる気がする。 [DVD(字幕)] 2点(2015-11-26 23:25:02) |
782. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
《ネタバレ》 アメリカンドリームは呪いみたいなものだ。夢が現実に変わった瞬間、現状維持のための不安と金に群がるハイエナ達に怯え続けなければならない。都合良く利用した養子に疚しさを感じ、弟と名乗る男に裏切られたのなら尚更。性的不能の主人公にとって、ひたすら石油(=血筋)を求めることでしか生き甲斐がない悲しさと虚しさを感じた。荒野ばかりの背景がほとんどで退屈なシーンは少なくないが、そのためにあるような軽快な結末は、誰も見たことのない映画を撮るP.T.アンダーソン監督の真骨頂。「ブラックコメディか!?」と言わんばかりに、牧師に落とし前を付けさせるべく、子供のような振る舞いで復讐を果たした彼の破滅がむしろ安堵と解放感に満ち溢れているのは気のせいか。ダニエル・デイ=ルイスの怪演は言わずもがなだが、名優のパワーに応えた監督の手腕は好き嫌いを別にしても凄い。今のアメリカは主人公と同じ結末を辿って再起を図ってもきっと同じことを繰り返すだろう。国家もまた、利害という感情で動く生き物なのだから。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-21 18:34:00)(良:1票) |
783. パシフィック・リム
《ネタバレ》 日本の特撮及びロボットアニメを想起させるような、巨大ロボットvs怪獣のガチンコバトルに興奮できる人には大傑作だろう。自分には合わなかった。ストーリーを気にしたら負けだけど、中国及びロシアの扱いが酷く、やはりドラマ部分がお粗末なのがどうしても看過できない。わざとかは知らないが、日本の描写は如何なものかと。主役に魅力を感じないのが痛い。搭乗者のシンクロ要素(上手く使えれば・・・)とキスシーンに走らなかった結末は評価しよう。 [映画館(吹替)] 5点(2015-11-21 18:12:53) |
784. フルートベール駅で
《ネタバレ》 客観的に見ようとするならば、主人公は前科持ちで因果応報と見られても仕方ないだろう。ただ、そういうことをされるほど決して極悪人ではなく、弱きものを虐げることをしない家族思いの青年だったかもしれない。もし電車で因縁を付けられなかったら、正月を無事に過ごせたかもしれない。もし黒人でなかったら、確保されても解放されたかもしれない。今度こそ更生するかもしれない・・・しかし、その"もしかしたら"にもう意味はなく、彼の明日は二度とやってこない。真相は謎のままだ。未来はどう訪れるか誰も分かりはしない。ただ、無責任と思いながらも防げた部分はあったのではないか。近い将来、日本でも移民の受け入れが現実味を帯びるだろう。「他人事と思えない」と現状を改善するには、この映画のような事件が日本でも起こらないと分からないかもしれない。 [DVD(字幕)] 8点(2015-11-09 22:26:40) |
785. 思い出のマーニー
《ネタバレ》 近年のジブリ作品では佳作の域。地味で内省的であることには変わらないが、「普通でありたい」と願った自己肯定感の低い主人公が自分らしさを受け入れるまでの過程を丁寧に掬い取る。マーニーは杏奈の理想であり、逆もまた然り。足りない部分を補い合うように共鳴する。話の噛み合わなさが気になったが、伏線だったのか。マーニーとの別れは、鬱屈した過去からの解放であり、前向きに歩んでいこうとするきっかけなのだろう(監督のジブリ離脱と重なったりして)。それほど大きな変化ではないのが逆にリアルで良かった。 [地上波(邦画)] 7点(2015-11-09 22:07:32)(良:1票) |
786. るろうに剣心
原作漫画既読。漫画の実写化はいつになく警戒するが、ハードルを下げたせいか許容範囲(フォローとして映画版を基にしたコミカライズあり)。意外にも佐藤建の剣心はハマり役で違和感はほとんどなく、激しいアクションは邦画としては見られるレベルになっていた。逆にそれ以外の役者陣は微妙かな。実写ものとしてはまずまず。 [ブルーレイ(邦画)] 6点(2015-11-05 18:45:44) |
787. トゥルー・ロマンス
《ネタバレ》 今やオスカー女優のパトリシア・アークエットの代表作ということで、芯の通った強いヒロインにタランティーノ作品に通じる名残を感じさせる。トニー・スコットの演出は冴え渡っており、過激な暴力描写を一歩手前で押しとどめ、タランティーノの個性を殺さず、万人向けに見られる娯楽作に仕上げるあたりは流石。偶然手に入れた大量の麻薬を売り捌こうとしている地点でバッドエンドに転がり込んでも仕方ないけど、大集結した警察・マフィアが全滅って疫病神なカップルだな(父さん殺されたし)。その大きい代償を経て、ラストのハッピーエンドの平穏さが愛おしく堪らない。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-05 18:40:51) |
788. 未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~
当時、某人気映画ネタバレレビューが面白かったので逆に見てみたくなった。名曲のためにストーリーや演技がいくら破綻しようが、ある意味、最後まで貫いたスタッフの信念に感嘆を覚える。逆に言えば、そのレビューが映画本編よりも目茶苦茶面白かっただけだが。ドリカム・マトリックス(笑) [DVD(字幕)] 2点(2015-10-18 23:32:49) |
789. インヒアレント・ヴァイス
話が複雑でついていけない、と思いながらも、筋が破綻しない程度に70年当時のロサンゼルスのゆるくて猥雑な空気を堪能する映画なのでしょう。だから見ても何も残らない(笑)。ポール・トーマス・アンダーソン監督だからこそ期待した部分が大きいのも一因か。ホアキン・フェニックスのどっぷり浸かったヒッピーぶりが物語をさらに可笑しな混沌に拍車をかけていてハマり役だった。 [DVD(字幕)] 5点(2015-10-18 23:22:18) |
790. 神秘の法
《ネタバレ》 地方局で偶然放送されていたため、冷やかし目的に録画。気持ち悪い。ただただ気持ち悪い。見せかけの愛国や保守で誤魔化しているだけで、していることは仮想敵国のゴラム帝国(=中国)と変わらない。前作の『仏陀再誕』はネタとして見れた部分はあったが、これは宗教やトンデモSF絡みの説明で割いている部分がほとんどのため退屈極まりない。仏陀の生まれ変わりとして選ばれた主人公(=大川隆法)の活躍はほとんどなく、ラストの洗脳スピーチに集約されるため、イライラは頂点に達した。偽善と綺麗事で楽に利益が入ってくる大川隆法本人そのもののようだ。相変わらずの自画自賛だけは一流。CGだけは前作よりマシになっていたため(それでも中の下だが)、1点で。 [地上波(邦画)] 1点(2015-10-17 14:25:49) |
791. モンスターズ・インク
《ネタバレ》 子供の頃から親から嫌ほど聞かされたことがあるはずだ。「言うことをきかない悪い子は怪物に食べられちゃうぞ」と、勝手に空想して震えて、親の言うことに従ったものである。しかし、成長すれば怪物は現実にはいない空想上の存在だと分かり、怪物がドアからやってきて非現実の世界に誘うこともなかった。ブーが体験した大冒険も、成長したらいつしかただの夢として捉えられ、記憶の隅に追いやられていくだろう。大人になれば見えなくなっていく幽霊や妖怪のように。かつてブーだった大人達に捧げる、いつか訪れる子供時代の終わりを描いた、ありし日の通過儀礼の物語。ブーとサリーの別れと再会は、笑顔と切なさで満ち足りて、懐かしさで涙がこぼれる。「ただいま、また会えたね」と声をかけたくなる。 [DVD(字幕)] 9点(2015-09-24 00:28:04) |
792. 戦場のピアニスト
《ネタバレ》 感動よりも重苦しさと疲労が上回る。人道のために何かを成し遂げたわけではなく、単にピアニストとしての芸があっただけで偶然助けられたに過ぎない。当事者であったポランスキーはそういう部分を熟知していたに違いない。極限状態の中で自分のことで手一杯で、狡猾でしたたかに生き延びること。ヒロイズムを排してこそ炙り出される人間の本性がそこにある。後ろめたさはあれど、何もしてあげることが出来ず、表情は硬く凍りついたまま。それ故に、甘美で情緒的なショパンの楽曲が生の歓喜として表現され、演奏を一層際立たせる。そのための疲労であるならば、追体験としては成功しているのではないか。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-24 00:24:34) |
793. シンドラーのリスト
《ネタバレ》 派手にやられていくハリウッド映画において、淡々と行われる銃殺の描写に初めて衝撃を受けた。糸が切れたように崩れる人々、色の失われた世界で唯一着色された赤い服の少女、タイプライターで明記された名前、そこにはいつ零れ落ちるか分からない"命"が眼前に横たわっている。シンドラーは金儲けしか考えていない俗物だったが、だからと言って普通の人々が何の疑問を持たずに虐殺に手を貸す、その違いはどこにあったのか。見返りも一切なく、裏切り者として殺されるかもしれない、"偽善"と呼ばれても自分は救えるのかと聞かれると自信はない。ただ、結果的に1100人を救ったのは事実で、そこには打算などない。「お金があればもっと救えたのに」とシンドラーの懺悔とも言える台詞が最も胸に迫る。このシーンからの展開は、今思えば感動に走ってやり過ぎと感じなくもないが。暗いトンネルから抜け出したような青い空があまりにも眩しくて、鮮烈だ。 [DVD(字幕)] 9点(2015-09-24 00:20:44) |
794. タクシードライバー(1976)
歪んだ承認欲求を満たすために最悪な行動を起こした男の物語。貧困と無縁社会が顕著になった現在となっては、努力しても報われないことが多く、孤独からネットでも満たすことすら難しい時代だからこそ、その危うさが切実に伝わってくる。社会から認められないと嘆く主人公は他者からの見返りばかり求めていて、優越感に浸りたいだけで人に愛情を与えたり感謝しようとはしない。言わば自己愛の塊だ。劣等感と自己否定の裏返しである。彼は鏡に映る自分の醜悪さを受け入れたくないまま、自己崩壊していくのだろう。時代が追い付いたからこそ、「承認欲求を捨てなさい」と勧めるアドラー心理学が流行るのは分かる気がする。他人からの承認ではなく、惨めでも自分自身を認めてあげられない自己愛性人格障害の悲劇。レビューで【良】投票を貰いたい下心は誰にでもあるんじゃないかな。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-17 21:25:49) |
795. ボーイズ・ドント・クライ
《ネタバレ》 冒頭から地味でつまらない映画だと思っていたが、後半・・・ごめんなさい、甘く見てましたとしか言いようがありません。「見なければ良かった」と思う一方で、こういう偏見と差別が今でもあるのだろう。製作年から6年前に起こったばかりの事件なのが衝撃。現在、トランスジェンダーや同性愛が大半に理解され、同性婚が認められた国が増え始めたのは救いだと思うが、行き過ぎれば逆差別になり、閉鎖的で保守的な地域とその人々とは永遠に相容れることはないだろう。従兄の警告を聞き入れ、サンフランシスコやニューヨークといった大都会に出ていれば、別の結末もあったかもしれない。ヒラリー・スワンクは男性的で命を燃やすような役柄が似合っているね。 [DVD(字幕)] 8点(2015-09-12 20:00:21) |
796. 素晴らしき哉、人生!(1946)
《ネタバレ》 公開当時、過剰にセンチメンタルで楽観的な演出に"キャプラコーン"と揶揄されて監督は干されてしまった。しかし、25年後のベトナム戦争で疲弊した兵士によって再評価された名作である。確かに溜めに溜めたクライマックスの爆発力は凄いが、時代が変われば評価も変わる。社会に出れば、どう足掻いても変わらない理不尽な現実に捻くれて、素直に感動することが出来ない人も少なくないのではないか。自己肯定感が低く、不幸を嘆くジョージはハンサムで家庭があるだけまだマシだ。ただ、今は貧困格差固定で結婚も子育てもできる余裕もなく少子高齢化、自殺や孤独死が顕著になった無縁社会で、現実逃避するようにネットでクリエイターぶって他者から承認欲求を満たそうとしても飽和して見向きもされない、もはや"代わりはいくらでもいる"時代である。努力しても報われるとは限らないことを誰もが理解しているし、食い繋ぐための非正規雇用で心身消耗して死を待つだけの下流中高年が見ても、当たり前のことが出来なかった自分にむしろ絶望してしまいそう。そういう意味では、感動的な大団円には歯痒さを感じてしまうのである。既存の価値観が崩壊していく現在、21世紀の『素早らしき哉、人生!』を撮れる監督はもう現れないかもしれない。 [DVD(字幕)] 5点(2015-09-11 19:03:11) |
797. テッド
《ネタバレ》 字幕版を映画館で観ていたが、TV放送を機に再見。際どい下ネタや台詞の数々があるとは言え、ビックリするほどファミリー映画のプロットを踏襲している。ダメ人間のジョンと彼の裏切り行為でも捨て切れないモリー、心だけは薄汚いオッさんになったテッドを始め、見栄と自慢ばかりのモリーの上司もテッドを誘拐した親子も、ファンタジーの世界から卒業できない子供のメタファーではないか。それでも彼らを否定せず、モリーの祈りでテッドを蘇らせ、結婚式の仲介人がフラッシュ・ゴードンというあたり、忘れかけた童心を持って碌でもない現実に立ち向かおう、というファンタジーの本質を突いていると思う(考えすぎか)。随所に挟み込まれた選曲のセンスが良い。しかし、字幕版でもそうだが、アメリカでしか理解できないローカルネタやジョークだからって、"くまモン"、"ガチャピン"、"星一徹"等の単語に超訳したのは気になった。他の国ではどうだろうか? [映画館(字幕)] 7点(2015-09-06 16:01:55) |
798. ラ・ジュテ
《ネタバレ》 アイデアの勝利。今だったら動画サイトで嫌ほど見られる手法だが、一枚一枚のスチールに情感あり。30分で締めたのは正解で、飽きてきたところで動画を一瞬挟み込んだのは心憎い。利用されるだけ利用されて、撃たれた男の崩れ落ちる姿が、フランス映画らしいディストピア感があって目に焼きつく。 [DVD(字幕)] 5点(2015-09-06 15:49:13) |
799. クリムゾン・リバー
《ネタバレ》 ハリウッドとは違う、ヨーロッパらしい色彩感覚と映像美が雄大なアルプスを捉え、陰惨な猟奇殺人をも際立たせる。題材としては良いチョイスだろう。しかし、中盤の不要な格闘シーンからおかしな方向に変わっていき、荒唐無稽なアクションがサイコスリラーと溶け合わない闇鍋状態。次第には手垢付きまくった双子ネタを出してしまったときの脱力感といったら・・・せっかくだからのノリで、雪崩のスペクタクルもやらかし、平凡なサスペンスで終わった印象。まさに竜頭蛇尾。 [DVD(字幕)] 4点(2015-09-06 15:42:27) |
800. キプールの記憶
◆『フルメタル・ジャケット』以来の衝撃、というパッケージの煽り文句はあまりに誇張過ぎる。そういう意味で激しい戦闘シーンとは対極の地味さと泥臭さが逆にリアル。死臭漂う音楽が今でも終わらない不毛すぎる争いを体現していて、雑務に追われるような衛生兵の疲れ切った表情を際立たせている。◆確かにこの映画は「つまらない」。しかし、このやるせなさがハリウッドの戦争映画以上にやるせないからこそ意義がある。 [ビデオ(字幕)] 3点(2015-09-06 15:37:09) |