801. イノセンス
関連作である『甲殻機動隊』をよく知らない自分にとって、ニュートラルに観賞した結果、映像美術や質感はハイクオリティで凄いが、難解すぎる長台詞に完全に撃沈させられた。流れも結末もよく覚えてないし、理解したくもない。「だから何だ」で済まされる話です。押井信者以外は見なくて結構。そんな作品。 [DVD(字幕)] 3点(2015-07-15 21:45:00) |
802. チェイサー (2008)
《ネタバレ》 重大な証拠を突き付けないと簡単に釈放させてしまう、そして行動を起こさない警察の杜撰な対応。 背景には軍事国家時代の犬だった警察への不信感があり、 異常な連続殺人もまた歪んだ過当競争で成長した韓国社会の裏返しである。 外華内貧で真の弱者が殺されても気付かれない現実に、 商品ではなく人として派遣女性を救おうと奔走する元刑事の心の動きが際立つ。 ただ、元刑事vs殺人鬼の頭脳戦を期待したためか、 序盤と後半以外何もしない殺人鬼の立ち回りをぶつけておかないとどうしても緊張感が途絶えてしまう。 実在の猟奇殺人事件がモチーフのため、救われない結末だ。 レーティング的に厳しいが、殺害シーンはオリジナル版の方が無念がより伝わったのではないか。 また、敵討ちで雪崩れ込む格闘シーンは蛇足だろう。 全てを終え、残された男と派遣女性の娘には、絶望に打ちのめされながらも前を向いて欲しいが、 生きるも地獄、死ぬのも地獄。 きっと世界中で起こっているであろう現状に、日本も他人事ではない。 [DVD(字幕)] 4点(2015-07-15 21:41:19)(良:1票) |
803. トンマッコルへようこそ
《ネタバレ》 監督はジブリが大好きなのだろう。音楽に久石譲を呼ぶくらい、ところどころにリスペクトが散りばめられている。冒頭の不時着シーンからして掴みは完璧。そして連合国軍、韓国軍、人民軍の三者三様が如何にしてトンマッコルに集まるのか興味心身だったが、対立から和解まで過程に中弛みが生じてしまうのが惜しい。しかも、後半から徐々に強引な方向に転がり込んでいき、カン・ヘジョン演じる頭の弱い村娘が観客の憎悪を煽るためだけに殺されるのはあまりにも安易。また、ある意味中立的だった連合国軍の兵士を帰して、韓国軍・人民軍の5人で村を守るために散っていくシーンはもはや自己満足の領域で気持ち悪さすら感じてしまう。無駄死にせずとも村人を避難させるだけで十分なんじゃ・・・。90分くらいに収めて、インディ・ジョーンズみたいなアドベンチャーとして描いた方がずっと楽しめた。微笑ましく素敵なシーンはあり、完成度は決して低くないのに、余計な政治的主張が強すぎる。皮肉にも近年のジブリがしている独り善がりをこの映画でもリスペクトしてしまった。評価は、4点(内容)+1点(音楽)で。 [DVD(字幕)] 5点(2015-07-15 21:33:42) |
804. 火垂るの墓(1988)
《ネタバレ》 当初は「反戦映画ではない」とジブリ側からコメントがあったように、世間知らずの裕福だった兄妹が疎開先での愚かな行動によって破滅していく姿を、作者の実体験を基に描いているに過ぎないのだと思う。妹を見殺し同然にしたのに生き永らえ、それを飯のネタにした作者の疾しさと後ろめたさが中盤の清太の亡霊を通じて伝わってくる。親戚とは折り合いが悪かったが穀潰しだとしても、恥を忍んで働くことを選べば飯と寝床はある程度提供してくれるだろう。ただ、作者にあった強かさが清太にはなかった。誰もが我先にと生きることに必死だった。恐らく兄妹ともども生きて戦後を迎えても、逞しく乗り越えられる自信はあったのだろうか。戦争でなくてもこの物語は通用する。反戦に結びつけるにはちょっと極端だ。 [地上波(邦画)] 5点(2015-07-09 19:33:23)(良:2票) |
805. フード
《ネタバレ》 食べるという行為は、生きるために他の生物の命を頂くことである。 これが"美食"とくれば、ファッション感覚のグロテスクなものに変貌していく。 お互いのゲロを食い合うも当然な"朝食"、 弱肉強食の本質を暴いた"昼食"、 等価交換を究極的に誇張した"夕食" よくこんなことを思いついたものである。 それでも食べていくために動植物を殺し続けなければならないのが人間であり、業そのものだ。 [DVD(字幕)] 8点(2015-07-09 19:23:43) |
806. 星を追う子ども
露骨なまでにジブリに影響を受けているのは別に構わない。ただ、動きに躍動感がなく、抜け殻のようにキャラが生きている感じがしない。相変わらず青臭いジュブナイルものの枠から抜け出せていない、ワクワク感皆無の退屈な冒険活劇。成長したと言えば、心理描写をナレーションで被せるような安易な演出がなかったことくらいか。もう短編とCMだけに専念した方が良いのではないか? [DVD(邦画)] 3点(2015-07-09 19:19:18) |
807. 雲のむこう、約束の場所
《ネタバレ》 「新海誠は長編に向いてないな」とよく分かった。心理描写を繊細なナレーションで済ませるのは長編ではクドいとしか言いようがない。ストーリーは散漫であり、全てを放棄したラストを映像美と主題歌で誤魔化すのは無責任としか。他の方が仰っているように、同人誌の延長&セカイ系なのは仕方ないけどさ、もう少し工夫しましょうよ。確かに美術は文句なしで素晴らしいが、私が見たいのはアニメであって、動きに精彩がなければイラスト集で事足りてしまう。 [DVD(邦画)] 4点(2015-07-09 19:10:50) |
808. ほしのこえ
ほとんど一人で制作してこのクオリティなら上出来。背景美術のディテール及び繊細な雰囲気は言うまでもなく、セカイ系にありがちな中途半端さや投げやり感も短編なら許容範囲。今後は個性を活かしながらも共同脚本で自己陶酔に逃げなければ、大人の鑑賞にも堪えられると思うんだけどね。誰に向けた映画なのか今でも分からない。 [DVD(邦画)] 5点(2015-07-09 19:03:57) |
809. 秒速5センチメートル(2007)
《ネタバレ》 映像の美しさは特筆ものであくまで"プロモーションビデオ"として見れば、山崎まさよしの楽曲で逃げてもだいたい許されるのではないだろうか。主人公の心情をひたすら詩のようなナレーションで被せ、中二病みたいな青春時代から一転、夢破れた現在を一層際立たせ、「振られました、悲しいです」と自己憐憫に耽っている男の自慰行為を見ているよう。初恋の相手の幻影を求めて彷徨う未練たらたらの男性と、過去は過去として別の男と結婚する女性が相容れない平行線上にいるように、セカイ系の生臭さと気持ち悪さが先行し、評価が分かれるのは納得。最初に見た新海誠であるからか映像と雰囲気には感嘆したので、"プロモーションビデオ"として見るなら8点。連作短編だからこそ成立する演出であって、これが長編だったらシャレになっていないだろう。 [DVD(字幕)] 8点(2015-07-09 19:00:08) |
810. 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
《ネタバレ》 冒頭、デジタル撮影されたTVの再現VTRのような安っぽさで「これで3時間大丈夫なのか?」と不安げに見ていた。しかし、山岳ベースに入ってからその空気は引き締まったものになっていく。物質主義と癒着にまみれた世界を変えるための崇高な理念が次第に手段になっていき、"総括"と称した反乱分子への私刑に移り変わっていくのでは本末転倒だろう。体制側から描いた『突入せよ! あさま山荘事件』を見ていたので、赤軍側の視点は興味深かったが、ラストの監督の主張がやり過ぎなのは御愛嬌と見るべきか。荒削りならではのエネルギッシュさがある反面、大人のアプローチが欲しい。 [DVD(邦画)] 8点(2015-07-09 18:52:52) |
811. 突入せよ! あさま山荘事件
可もなく不可もなくといったところ。リアルタイムで事件を体験した世代でもないため、如何にして事件を解決していったかを分かりやすく手堅くまとめていた。感動的に盛り上げるような場違いなBGMがなければ、もう1点差し上げたかったのに。 [映画館(邦画)] 6点(2015-07-09 18:48:26) |
812. 惑星ソラリス
《ネタバレ》 全編を通して、不思議な不安感に包まれる。バッハのコラール「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる」、ブリューゲルの「雪中の狩人」、生前の妻とロシアの雪原を捉えたフィルム映像、神に等しい存在の父親・・・幾度かフォーカスされるそれは、過去に囚われた主人公の郷愁と願望とリンクしていく。無重力に委ねるが如く、死んだ妻の幻影を抱く未練残りし男性の弱さを象徴しているようだ。妻が二度と現れなくなり、過去は過去として受け止め、立ち直って再出発すると思っていた。しかし、物質主義との折り合いが付けられず、仮想現実の中に閉じこもってしまう結末に、心の拠り所がなく、希望の持てない現代社会と重なる。精神主義を訴えるタルコフスキーは"厭世主義者"の片鱗もあったのではないか。 [DVD(字幕)] 6点(2015-06-30 20:31:42)(良:1票) |
813. 映画 けいおん!
原作漫画及びアニメ版ノータッチ。そのような一見さんにはこの映画を語る資格はないだろう。逆にアニメだけでも触れている人にとっては、いろんな感情がないまぜになった青春アニメの傑作だろう。ロンドンに卒業旅行する以外は、特に何てことのないストレスフリーな軽音部の日常。女性目線で描かれた、友情とは違う絆を匂わせながらも、平穏な空気のまま終始していくのが良い。ネガティブな要素を一切拒絶した"理想郷"にいろいろ言いたくもなるものの、最後まで割り切った作風は潔くすら感じる。自分は「別に映画でやらなくても、OVAやテレビの特番でも十分では?」と思ってしまったが。 [DVD(邦画)] 5点(2015-06-30 20:24:04) |
814. 耳をすませば(1995)
一本の映画としては素晴らしいのに心にしこりが残る。恐らく小説家志望の少女とヴァイオリン職人を目指す少年の甘くてロマンティックな恋愛模様が、それすら叶わなかった凡庸な大人達に現実を突き付けるからだと思う。ある意味で『火垂るの墓』に並ぶ鬱映画では、と勘繰ってしまうが、夢が叶っても破れても、ひたむきに走った二人にとっての貴重な経験を否定することはできない。貴重な後継者を失ったジブリの責任は非常に大きい。 [地上波(邦画)] 8点(2015-06-30 19:38:38)(良:2票) |
815. シェフ 三ツ星フードトラック始めました
《ネタバレ》 ジョン・ファブローって聞いたことのある名前だな、と思ったら『アイアンマン1&2』の監督だったとは。 3を蹴って、独立系映画で原点に立ち返る姿は主人公の姿と重なる。 監督・主演と聞くとどうしても独り善がりになるけれど、 嫌みには感じず、むしろ周りに好かれるあたり、監督の人徳が感じられる。 (でなければ、名優&大スターのカメオ出演など実現しない)。 邦題からロードムービーだと思っていただけに、フードトラックに至るまでの道のりはやや退屈で、 そのシーンも尺足らずなのでちょっと肩透かし。 もっといろんなところで、たくさんの人々と交流する姿を見ていたかった。 観賞後、無性にホットサンドを作りたくなったのは言うまでもない。 [DVD(字幕)] 6点(2015-06-30 19:24:14)(良:1票) |
816. ハウルの動く城
《ネタバレ》 原作既読。"ハウル"と言ったら、宮崎アニメのことを思い出してしまうくらい、悪い意味で原作との剥離が激しい。後半からオリジナル展開でも面白いならまだしも、老人介護や疑似家族、戦争をクローズアップしながらも崇高だと煙に巻いて、無理矢理大団円にしてしまう無責任さだけが残った。躍動感あふれる演出と音楽の相乗効果が素晴らしいだけに大幅減点は避けられない。話題性だけで倍賞とキムタクを利用する意味はあったのか? [DVD(邦画)] 4点(2015-06-30 19:18:49) |
817. サクリファイス
《ネタバレ》 『ノスタルジア』の延長線上にあたる作品なのかな、と思う。長いワンシーン・ワンカットの流麗なカメラワークと映像美は素晴らしく、核戦争を揺れだけで表現するあたりは鮮烈。行きすぎた文明社会が根底から覆される時代に突入する寸前、父親は全てを捨てる代わりに、神に救済を求める。家政婦マリアは聖母マリアの暗喩のように思えるし、陰陽魚太極図のロゴが彫られた黒いバスローブを身に纏い、尺八のBGMをバックに家を燃やし尽くすシーンは、東洋の僧の出家を想起させる。精神的な殉教という意味で前述した『ノスタルジア』に通じるものがあった。過去という虚栄を築き上げた自分勝手な大人を全て否定したことで、はじめて息子は言葉を発する。これからの世界はその時代の人間が作り上げるものであり、老醜を晒す前世代が口を出す権利はない、とタルコフスキーは次世代の子供たちにメッセージを発しているようだ。 [DVD(字幕)] 6点(2015-06-21 10:46:20) |
818. ノスタルジア
《ネタバレ》 下宿先の部屋の陰影、 廃墟に広がる雨音、 滴り落ちて広がる波紋、 霧と雪で覆われた故郷、 焼身自殺を図った男を纏う炎… ただならぬ雰囲気はある。 しかし、世界の終わりを待つ宗教狂いの男が民衆に精神主義を訴えて殉教しようが、 彼の代わりに余命いくばくもない詩人がロウソクを持って世界を救おうが、誰にも理解できないし、 ただの自慰行為で世界が良い方向に変われたらどれだけ幸せだろうか。 そう思えてしまう自分は、物質社会に逆らえない常識に染まった凡人なんだな、と再確認。 作りものの故郷に沈んでいく『惑星ソラリス』に似た結末に、 祖国に戻れないタルコフスキーの心情と覚悟が重なる。 [DVD(字幕)] 5点(2015-06-20 01:43:46) |
819. 世界にひとつのプレイブック
精神疾患を抱えた男女のロマコメというキワモノ的な題材の割に、案外普通の映画で褒める部分が何もない。いや、キワモノを普通に描けたからこそ絶賛されたのかな、という感じです。これが主演女優賞だなんて信じられない。 [ブルーレイ(字幕)] 4点(2015-06-20 01:09:19) |
820. ゼロ・ダーク・サーティ
《ネタバレ》 『ハート・ロッカー』の姉妹作として位置付けられている気もしないでもない。 ドラマ性を排除し、ヒロインの成長物語するような愚かさも切り捨て、 妄執や狂気と言っても過言ではない焦燥感が伝わってくる。 主人公が女性であることとビンラディンが如何にして殺害されたかという点で本作の強みにはなっているが、 2時間半はちょっと長いし事実だけを提示して何かしらの主張がないのは前作同様不満である。 今でもビンラディンが死んだという実感が湧かない。 彼女が涙を流すラストに、一時的な安堵感と終わりのない負の連鎖が起こる虚脱感を覚えた。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2015-06-20 01:04:07)(良:1票) |