841. テッド
《ネタバレ》 字幕版を映画館で観ていたが、TV放送を機に再見。際どい下ネタや台詞の数々があるとは言え、ビックリするほどファミリー映画のプロットを踏襲している。ダメ人間のジョンと彼の裏切り行為でも捨て切れないモリー、心だけは薄汚いオッさんになったテッドを始め、見栄と自慢ばかりのモリーの上司もテッドを誘拐した親子も、ファンタジーの世界から卒業できない子供のメタファーではないか。それでも彼らを否定せず、モリーの祈りでテッドを蘇らせ、結婚式の仲介人がフラッシュ・ゴードンというあたり、忘れかけた童心を持って碌でもない現実に立ち向かおう、というファンタジーの本質を突いていると思う(考えすぎか)。随所に挟み込まれた選曲のセンスが良い。しかし、字幕版でもそうだが、アメリカでしか理解できないローカルネタやジョークだからって、"くまモン"、"ガチャピン"、"星一徹"等の単語に超訳したのは気になった。他の国ではどうだろうか? [映画館(字幕)] 7点(2015-09-06 16:01:55) |
842. ラ・ジュテ
《ネタバレ》 アイデアの勝利。今だったら動画サイトで嫌ほど見られる手法だが、一枚一枚のスチールに情感あり。30分で締めたのは正解で、飽きてきたところで動画を一瞬挟み込んだのは心憎い。利用されるだけ利用されて、撃たれた男の崩れ落ちる姿が、フランス映画らしいディストピア感があって目に焼きつく。 [DVD(字幕)] 5点(2015-09-06 15:49:13) |
843. クリムゾン・リバー
《ネタバレ》 ハリウッドとは違う、ヨーロッパらしい色彩感覚と映像美が雄大なアルプスを捉え、陰惨な猟奇殺人をも際立たせる。題材としては良いチョイスだろう。しかし、中盤の不要な格闘シーンからおかしな方向に変わっていき、荒唐無稽なアクションがサイコスリラーと溶け合わない闇鍋状態。次第には手垢付きまくった双子ネタを出してしまったときの脱力感といったら・・・せっかくだからのノリで、雪崩のスペクタクルもやらかし、平凡なサスペンスで終わった印象。まさに竜頭蛇尾。 [DVD(字幕)] 4点(2015-09-06 15:42:27) |
844. キプールの記憶
◆『フルメタル・ジャケット』以来の衝撃、というパッケージの煽り文句はあまりに誇張過ぎる。そういう意味で激しい戦闘シーンとは対極の地味さと泥臭さが逆にリアル。死臭漂う音楽が今でも終わらない不毛すぎる争いを体現していて、雑務に追われるような衛生兵の疲れ切った表情を際立たせている。◆確かにこの映画は「つまらない」。しかし、このやるせなさがハリウッドの戦争映画以上にやるせないからこそ意義がある。 [ビデオ(字幕)] 3点(2015-09-06 15:37:09) |
845. 永遠と一日
《ネタバレ》 政治的要素はあまりなく、2時間強の長さのため、アンゲロプロスの中では取っつき易い方。 それでも初見時は長回しや難解な台詞の数々でしんどかった。 エレニ・カラインドルーの音楽と時空を跳躍した撮り方が頭から離れず、数年後再見したら秀作と再評価。 妻に先立たれ、自らも死を目前にした老詩人の魂の彷徨。 アルバニア難民の少年の強かさと未来への眼差し。 交錯する生と死。 "永遠"になった過去と新しい"一日"を刻み始める現在。 難しく考える必要はない。 これは新しく生まれ変わった詩人の物語だ。 [地上波(字幕)] 8点(2015-09-06 15:33:02) |
846. アンダーグラウンド(1995)
《ネタバレ》 陽気なジプシーブラスと哀愁漂うチャールダーシュの対比、 歴史的事実に織り込まれた寓話が程よく溶け込んだ、唯一無二の世界観とグルーヴ感は一度見たら絶対に忘れられない。 ユーゴスラビアの歴史をよく知らないと厳しい部分があり、結婚式のシーンはややしんどいので2時間半でまとめられた。 あの世で踊り続ける、今は亡きユーゴスラビアの民への鎮魂歌。 この物語は終わらない。 そして、歴史の中で生き続ける。 昔々、とある国があったことを。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-06 15:23:33)(良:2票) |
847. ユリシーズの瞳
《ネタバレ》 採点不能に近い。 ハリウッド俳優のハーベイ・カイテルを主演に据えているものの、 3時間近い上映時間に長回しと政治的要素が強いため、映画館で観ていたら確実に寝ていただろう。 本来のアンゲロプロスの作風が純度100%詰まっている。 しかし、映像に目を見張るものがあるのは事実で、 白黒からカラーに移り変わる際に現れる青い船、ワンカットで捉えた数年に亘る元旦のパーティー、 運河を渡る巨大なレーニン像、雪のサラエボ市街の交響曲と霧の中の虐殺が目に焼きつく。 映画の歴史とは常に真実の記録と表現の闘いの歴史であって、 かつて独裁国家であったギリシャや旧ユーゴとは無関係ではないはず。 1995年のカンヌ映画祭では、クストリッツァの『アンダーグラウンド』が最高賞、 本作が次点であると見るに、当時の旧ユーゴ内戦の関心度の高さが伺える。 [ビデオ(字幕)] 5点(2015-09-01 20:32:13)(良:1票) |
848. 明日、君がいない
《ネタバレ》 不謹慎ながら6人の誰が死ぬのか興味を持って見てしまった。しかし、それはミスリードで、誰にも見向きされなかった孤独な少女の自殺が、他者への無関心という根の深さを物語っている。大人になればつまらないことだと思える学生時代でも、目の前の世界が重大事項で自分のことばかりだった。ある種の孤独を抱えた6人と自殺した少女の違いは程度の差があれ、いつまでも分からない。ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』の影響をかなり受けているだろう。脆くて壊れそうな日常という点で共通しており、あちらが『エリーゼのために』ならこちらは『ジムノぺティ』で対抗する。ピアノの調べが鎮魂歌として、淡く儚く降り積もる。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-01 20:26:45) |
849. エレファント
《ネタバレ》 主観で答えありきの『ボウリング・フォー・コロンバイン』とは違い、 こちらは客観的に高校生のあやふやな精神状態を切り取る。 盲人が象の一部分を蛇や木の幹と表現するように、 答えは人それぞれである意味で答えはない。 時系列を交錯させながら同じシーンが別の視点で映し出され、 平凡なはずの日常に潜むノイズが積み重なる。 だからこそ、移ろいゆく秋の風景が、流れるようなカメラワークが繊細な美しさと儚さを一層醸し出す。 誰もが悩んでいるのに周りを汲み取れない、高校が世界の全てといった視野の狭さが、 惨劇も日常として描かれる不条理を許しているようだ。 [DVD(字幕)] 6点(2015-09-01 19:40:40) |
850. 華氏911
《ネタバレ》 『荒野の七人』の合成映像だけは唯一笑えるが、流石に映像の切り貼りばかりで退屈。ムーア本人の脚で行動するシーンが少ないのも不満。当時の現職大統領を批判するセンセーショナルな題材だが、ブッシュ元大統領の再選により、ネタの鮮度的にも作品的にも価値は低い。当時としては際どい題材で挑んだチャップリンの『独裁者』やキューブリックの『博士の異常な愛情』と比べても、普遍的な部分で浅すぎるとしか言いようがない。これがパルム・ドールかぁ・・・ [映画館(字幕)] 4点(2015-09-01 19:36:33) |
851. ボウリング・フォー・コロンバイン
《ネタバレ》 堅苦しいドキュメンタリーを分かりやすくエンタメとして訴えかけたマイケル・ムーアの功績は大きい。 悪く言えば、その巧みな編集でデメリットを写さず、日本のマスメディアみたいに偏った方向に誘導される危険性はあるが、 銃社会アメリカの異常性を取り上げた点は支持したい。 最後のチャールストン・ヘストンのアポなしインタビューに関してはやり過ぎな気はする。 ニュースにならないくらい掃いて捨てるほどある悲劇を敵意剥き出しのまま問い詰めれば対応に困るし、 銃を否定してもそれによる既得権益で支えられたアメリカが今更減産も規制もするはずがない。 流通が行き渡った以上、広大すぎる土地故に警察はすぐには来ないし、 強盗が銃を持って自宅に侵入したら銃で対応せざるを得なくなる。 世界の警察としてのメンツもあり、退くに退けないアメリカの泥沼っぷりが集約されていた、 という意味では必要なシーンかもしれないが。 いずれにしても、強力な武器も銃も民間レベルで流通されていない国はまだマシと言えることくらいか。 [DVD(字幕)] 7点(2015-09-01 19:25:53) |
852. 愛、アムール
《ネタバレ》 半身不随になった妻を献身的に支える夫の姿が踊っているようにも見える。 本作は過去作に比べて敷居が低く、そして容赦ない。 目を背けたくなるほど衰弱していく妻を、事務的にこなす介護師を解雇し、中途半端な態度の娘をも突き返す。 長年、苦楽を共にした夫の純粋さと狂気。 二人以外の来訪者は聖域を侵す邪魔者でしかない。 今までのハネケなら妻の尊厳のために"約束"を果たして、観客を凍りつかせて終わらせるだろう。 しかし、映画は愛の到達点を描きだす。 二度にわたる鳩の来訪に、一度は拒んできた来訪者を抱き締める夫。 鳩が妻の霊魂かは分からない。 ただ、夫が綴った手紙が通じたのだろう、具現化した妻が何事もなかったかのように皿洗いをする、 ハネケらしかぬ穏やかさに意表を突かれた。 そして、二人はまるで散歩でもするような感覚で旅立っていく。 妻の何気ない一言に涙があふれた。 定冠詞のない"Amour"が象徴するように、開かれた部屋には二人の生きた証が、愛が隅々にあふれている。 一人残された娘はどう感じるのだろう? 第三者から見れば、老々介護の悲劇でしかない。 しかし、それは悲劇か否かは当事者の二人にしか分からない。 如何なる結末であれ二人は安らかに逝けたのではないだろうか。 人間をよく知らなければ、このラブストーリーは絶対に撮れない。 ハネケにしか撮れない嘘偽りのない純愛にただただ圧倒された。 [映画館(字幕)] 9点(2015-08-24 23:06:27)(良:1票) |
853. 白いリボン
《ネタバレ》 今までのハネケ監督の中では意外と見易い。如何にしてファシズムが小さな村から蔓延していったかを分析しながらも、教師を狂言回しにしてミステリーの体裁を装っているからか。罪を犯した子供に罰として無知の象徴である白いリボンを腕に結びつけるが、閉鎖的で抑圧された封建社会において、捌け口にされた子供の自己肥大化が進むのは当然の帰結だろう。どうしてそういうことをしたのかに大人達が真剣に向き合おうとしないし、心から信頼することもしない。子供には自分の理想通りであって欲しい押し付けと綺麗事だけが残るのが皮肉だ。二度における世界大戦は、様々な問題を先送りにした身勝手な大人達への復讐のように思える。並行的に描かれる教師の物語が救いかもしれぬが、部外者ならではの他人事と読み取れる部分もあり、我々も同じではないか。 [DVD(字幕)] 6点(2015-08-20 20:35:40) |
854. タイム・オブ・ザ・ウルフ
《ネタバレ》 ディストピアものというより、あくまでサバイバルドラマの側面が強い。別荘で父親を射殺された母子三人が次の列車が来るまで駅舎で待機する。まだ子供の姉弟は極限状況下の大人達の獣性と醜さをまざまざと見せつけられていく点はハネケらしいが、ここにきて変化球を投げつける。自分を犠牲にして醜悪な世界を救おうとする弟の行為に、見張りをしていた男が止めに入って抱きしめる。家族の前で外国人に暴力を振るった男に似合わない、今までになく優しい言葉。あまりにも無力で根拠のない希望を語りかける。ラストカットの車窓は現実か妄想かは定かではない。それでもハネケは人間を信じているのだろう。絶望ばかりを描いているわけではなく、人間の"可能性"に観客が気付いて欲しいことを。 [DVD(字幕)] 6点(2015-08-20 20:18:00) |
855. ピアニスト
《ネタバレ》 シングルマザーの承認欲求のために人生の全てをピアノに注ぎ込み、それに応えることができなかったエリカはピアノ以外に外の世界を知らない。子供の頃に抑圧された欲求が歪んだ形で浮上してきたアダルトチルドレンだ。自傷行為もまた、果てしなく自己肯定感の低いことの裏返し。しかし、彼女は悲劇のヒロインとして酔っているだけだ、とハネケは容赦なく切り捨てる。理想に思えたSMプレイは、現実では甘ったるい自分の自尊心と妄想を破壊させるには十分で、依存していたワルターに否定されることによって、エリカは自分を刺し、ピアノも母親も何もかもを捨てて夜の街に消えていく。絶望して自殺したかもしれないし、現実を受け入れて新しい人生のスタートを切ったかもしれない。見栄のために子供の代理戦争に駆り立てる親は失敗したときその責任を負えるだろうか。満たされづらくなった現代の承認欲求の病理とエゴイズムを的確に貫く。何もしないくせに他人に対して、「私を満足させて」と構ってくる地点で間違っているんだよね。 [DVD(字幕)] 6点(2015-08-20 19:53:20) |
856. フルメタル・ジャケット
《ネタバレ》 他の方が仰る通り、前半10点、後半6点の映画。言いたいことは全て語られているため、とにかく洗脳にも似た"製造過程"は凄いとしか言いようがない。戦場に参加するアメリカ兵のほとんどが貧困層であり、将来の格差の拡大・固定化で日本でも軍に志願せざるを得ない状況が作られる可能性があるだけに、ほほえみデブのような末路を迎えたくないよね。貧乏人は国家によって戦場で使い捨てにされる"消耗品"か? [DVD(字幕)] 8点(2015-08-20 19:40:37) |
857. 言の葉の庭
新海節全開の中編。新緑が映えた雨の庭園に少年と女性の魂が通い合う。なんて繊細な作品なんだろう。背景及び小道具のディテールは申し分なし。しかし、1時間にも満たない内容にも関わらず長く感じてしまう。もう少し脚本を練るべきだけど、ここまで来るともう開き直って、繊細さと青さがもはや様式美と言っても過言ではない。「ストーリーなんて考えるな、雰囲気を感じろ」系な潔さすら覚えた。これからもその路線で貫いてください。良くも悪くも。 [ブルーレイ(邦画)] 6点(2015-08-20 18:57:34) |
858. バケモノの子
《ネタバレ》 エンターテイメントのツボをしっかり押さえているし、退屈はしないけれど、前半のトーンを貫いて欲しかった。いろいろ詰め込んでいる割に、終盤の展開がジブリみたいに抽象化して、こじんまりになってしまった。混乱を止めるためにバケモノ達を渋谷で大暴れさせるとか、なぜそれをしないのだろう。宮崎駿からの世代交代でプレッシャーは相当なものかもしれないが、時かけみたいに初心に帰って、数人で脚本を書く体制に戻さないと、難解で内省的になったジブリと同じ轍を踏む羽目になるだろう。 [映画館(邦画)] 6点(2015-08-08 01:18:47) |
859. おおかみこどもの雨と雪
《ネタバレ》 13年の歳月に散りばめられた行間のように、フルネームのない登場人物、テレビや携帯をわざと見せない現代の描写、非現実の中の現実が織りなす世界観のため、あくまでフィールグッドムービーとして見るのが正解だろう。悪く言えば、雰囲気重視でリアリティにおいて都合の悪い展開を誤魔化しているとも言える。後先考えず在学中におおかみこどもを産んじゃうとか、厳しい環境で村社会の強い山奥の集落でそう上手く子育てできないだろとか、気にしたら負け。それに、監督の嗜好が今作であからさまに具現化され、下卑た欲望が画面に透けて見えてしまうことが拒絶反応の強い要因ではないか。監督が女性だったらもっと違うアプローチで印象が違っていたかもしれない。それでも許容範囲だったのは、「そうきたか」と唸る演出だったり、育て上げた万感がリアルに親と重なって、こみあげるものがあったから。育ててくれた親への感謝、かつてした子育てへの郷愁。主題歌は反則すぎる。 [映画館(邦画)] 7点(2015-08-08 00:56:03) |
860. サマーウォーズ
《ネタバレ》 東映時代の『デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム』を見ている人もいるんだから、ストーリーにもう一捻り入れて欲しかった。過去作を万人向けに長編リメイクしたのが当作品であるが、ネットやSNSに疎い中高年には厳しい内容であり、逆に花札のルールを知らない自分にはその駆け引きについていけなかった。無機質なネットと古風な人との繋がりとの対比を描いているはずなのに皮肉を感じる。健二と夏希の物語にしても、陣内家の物語にしても中途半端。ただ、高い演出力とギミックの数々は見ていて飽きないし、中盤に退場するのに曽祖母の存在感が最後まで絶大で、面白いと言えば面白かっただけにそこが惜しい。原作次第では時かけのように大化けする監督だと思うので、これは擦り合わせが甘かった。 [映画館(邦画)] 7点(2015-08-08 00:53:58)(良:1票) |