921. 大脱走
《ネタバレ》 第二次大戦末期。 「史上最大の作戦」と言われたノルマンディー上陸作戦。その裏で行われた「史上最大の大脱走劇」! 前半2時間の“大脱走”をするまでの工程を積み重ねていく楽しさ・個性豊かな面々が脱走の一瞬に命を賭ける熱さ・ノルマンディーで戦う何万という仲間のため・一人のために体を張って叫んで、走って、戦い抜く魂! それをもう1時間も追走劇の緊張と興奮を味あわせてくれるんだもんなー。お腹一杯ですよ。 人物の描写や脱走までの工程がとにかく丁寧。捕虜収容所の複雑な関係も面白い。みんな個性があってよく描けてる。 実際に戦争に言った強者どもがひしめく。みんな良い顔してるぜ。脱走のシーンも、少しずつ慎重にいって、そして一気に弾け飛ぶ。 特にヒルツの生き様はカッコイイ。 仲間のために何度でも逃げ、何度でも戻ってくる。かならず生きて。盗んだバイクでのチェイスも凄い。いつも浮かべる不敵な笑みが良いね。 ラストはとても悲しいけど、最後にヒルツが戻ってくるシーンを見るだけでも「また見たいな」と何回も思ってしまうのです。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 11:06:46)(良:1票) |
922. 激突!<TVM>
《ネタバレ》 これは現代の「西部劇」とも言える。 西部劇が馬なら現代は鉄の馬同士の一騎打ち! 物語はどこまでも単純、どこまでもシンプル。 アメリカのだだっ広いハイウェイに車が一台。 そこに突然現れた巨大なトラック。 ノロノロで追い越させ、追い越させたと思ったら猛スピードで突進して来る。 借金の取立てが命の取立てになってしまった。 ブザーを鳴らす愉快犯かと思いきや、故障したバスを押してやったりと実は優しいのか? いや、やっぱり主人公の車を付け狙う愉快犯か。 カフェの外で不気味にたたずむあのトラック。 主人公の心も恐怖と怒りでピークだ。 ともかくトラックの運転手は正体不明のまま。声も顔も出ない、不気味な二の腕だけが主人公を挑発する。 フロントバンパーに貼られた無数のナンバーは何を語ろうとしているのか。 トラック野郎にあるのは狂気だけなのか。 正体が解らないという恐怖。 スピードが出すぎ車が止まらないとう恐怖。 日常に溢れた恐怖を最高潮に引き立てるスピルバーグの妙技。 後の「ジョーズ」はかなりヒロイックな展開がされたが、この「激突!」はひたすら追いかけっこ。 だがそんな主人公も我慢の限界。 上等だテメエ!“決闘”だよバカヤロウ! 壮絶な二台の追走劇。 「車のエンジンが中々かからない」の始祖だが、これは衝突でエンジン部分がひしゃげたからこそ起こるだろうという現象であり、普通の車がそんな欠陥品なら会社なんか潰れてる。後の奴らは何か勘違いしてんだよな。 ラストのトラックと向き合い、車で迎え撃とうという様子はバスター・キートンの「セブン・チャンス」を思い出す。 迫る岩の大群、逃げるのをやめて「あえて」正面から避ける事にしたキートンの勇気と発想。 もしスピルバーグがこのキートンの傑作を見ていたとしたら、俺はもっと尊敬するぜ。 少くともカフェでのやり取りは黒澤明の「野良犬」が元らしい。 つうか主人公は何回車上で振り返るんだよ。 主人公がいつ余所見で事故るかそっちの方がよっぽどハラハラするわ。 バックミラー涙目。 教習所涙目。 ラストの夕陽のシーンがキレイだった・・・。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 11:05:00)(良:2票) |
923. ワイルドバンチ
《ネタバレ》 セルジオ・レオーネやセルジオ・コルブッチのマカロニウエスタンが可愛く見えるほどの生々しさを誇るヴァイオレンス西部劇。 俺個人はペキンパーといえば「戦争のはらわた」や「昼下りの決斗」だが、この作品はペキンパーの最高傑作に相応しい“破壊力”に満ちている。 6台のカメラを使って極限まで磨かれた銃撃戦の迫力! 冒頭の襲撃への緊張を高める場面と凄惨な銃撃戦は今までの西部劇に無い、 中盤は西部劇の伝統に沿った追跡劇と橋を爆破するまでのスリル、 そしてクライマックスを飾る4人対軍隊によるガン・ファイト!!! ファーストシーン、ガンファイト、人間ドラマ、ラストシーンと揃った作品だ。 しかしこの映画が「俺たちに明日はない」といった作品同様の批判を受ける理由が解らない。 そりゃあ執拗なクローズ・アップや過剰なスローモーション演出には反吐が出るが、そんな事は問題じゃあない。 西部劇を血の海にした事が許せないのか? それとも単に残酷な描写が許せないのか。 お門違いも甚だしい。 残酷描写というだけなら「戦艦ポチョムキン」や「椿三十郎」だって血の海だ。 血の海になって終わる映画ならエイゼン・シュテインの「ストライキ」だってそうである。 「アンダルシアの犬」なんか眼球チョンパだぜ? そんなこっちゃあ無いんだよ。 大体、西部劇を神格化しすぎなんだよ。 この作品の西部劇は「爽やかな風と巨悪を撃つ正義のアウトロー」を描いわけでも、 「過酷な西部に生きる力強い民衆」でも無い。 エドウィン・S・ポーターの「大列車強盗」のような「暴力によって滅ぶ暴力者」の映画なんだ。 蠍がなぶり殺しにされる弱肉強食の“暴力”に始まり、メキシコ革命を影で支えた人間たちを皆殺す“暴力”に終わる。 暴力によってしか生きられなくなった男たちの哀しき物語。 そこには正義も悪も無い。 ただ彼らがいかに笑い、いかに哀しみ、いかに戦い死んでいったか。それだけなのさ。 パイクたち、 パイクを裏切ったソーントン、 マパッチの軍隊、 そして押し寄せる時代の波・・・四つ巴の死闘。西部を駆けるアウトローたちが生きた最後の時代。 俺たちに明日はない。だが、今日がある。 そう願ってがむしゃらに引き金を引いて死んでいく・・・それは、最後の最後に血ではなく、満面の笑みで観客に別れの“挨拶”をする男たちの姿からもそう思えてしょうがないんだ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 11:00:50)(良:1票) |
924. JAWS/ジョーズ
《ネタバレ》 ハワード・ホークスの傑作「リオ・ブラボー」の換骨奪胎、そして「虎鮫(Tiger Shark)」やクリスティアン・ナイビイと組んだ「遊星よりの物体X」といった作品へのオマージュも散見されるパニック・サスペンスの傑作。 日本で言う虎鮫(Cloudy catshark)は小さい鮫だが、アメリカの虎鮫・・・いやイタチザメ(Tiger Shark)は巨大な顎で人間を食いちぎるモンスター。 日が落ちた海岸の闇、恋人と戯れる水着の女性は海原に飛び込む。何も知らない彼女は、水中で優雅に脚を動かしている。海の底から獲物めがけて徐々に浮上する“捕食者”の視線。ジョン・ウィリアムズの不気味な音楽が恐怖を最大限に盛り上げる・・・イーゴリ・ストラヴィンスキーの「春の祭典」は、“捕食者”が奏でる夏の悪夢へと変わる。 前半は恐怖から逃げる事しか出来なかった人々。それを、鮫に因縁を持つクイントの一撃がこの映画の流れを変えてしまう。 「ジョーズ」は、身近な海に潜むサメの恐怖を描いたパニック映画だが、ただ人がギャーギャー叫ぶだけの映画ではない。 その恐怖に屈するか、サメに勝つか。そんな人間の愚かさや葛藤のある人間ドラマが一番の見所だね。 後半のガラッと変わる展開も面白い。 サメとの因縁が深いクイント。討伐組を引っ張る頼もしい男だが、次第にサメとの因縁や過去の哀しみを語る姿・・・最後の最期まで誇りを持って戦ったカッコいいオッチャンだ。 本編ではカットされてしまったが、店で子供と戯れるシーンとか、見れば見るほど好きになる人だ。 ジョーズは、魅力的な登場人物が多くて何度見ても飽きません。 それにサメが近づく度に緊張を極限まで高めるジョン・ウィリアムズの音楽!あの音楽を聞くためだけでもまた見たくなってしまう。 終盤はいよいよその恐怖の的との真っ向勝負! これ以上、誰も死なせたくない。人間の意地、サメにもサメの生き方を通さなきゃならない意地、こっちにも生きるための理由がある。だから戦う! 壮絶な決着の後に訪れる、静かなラスト・・・怖いけど、良い映画。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:58:35)(良:2票) |
925. となりのトトロ
《ネタバレ》 田舎の原風景がアニメの中に生きる「トトロ」。 宮崎駿の数ある傑作の中で、「トトロ」はもっとものびのびと、もっとも自然豊かな映画ではないだろうか。 説教臭い部分もほとんど無いし、とにかく広い大地を走り、飛び回るような解放感がある。 そこに日本家屋の居心地の良さ、夏のほどよい暑さ、水の冷たさ・・・そういう無機質なCGでは味わえないぬくもりが映像の中に溢れているんだよなあ。劇中に流れるノスタルジックな音楽と共に。 「さんぽ」の音楽と共にメイたちの行進が始まるオープニング。 劇中のメイたちはオープニングから歩いて走って叫んで飛びまくる。 メイと小さなトトロたちの追いかけっこ、惚れた女に傘を黙って渡し去っていく男気、夜空に傘で舞う巨躯、母のために泣き叫びそれに応えるトトロと猫バスの爆走振り。 のどかな田舎に引っ越してきたサツキたち、サツキたちを案内する清太との出会い。清太はこの時、既にサツキに恋に似た感情を抱いていたのだろうか。 普通ボロ家だと苦い顔をする人もいるだろうけど、サツキたちは「これから自分達の家にするんだー」とワクワクした表情で家の探検にでる。大声は威嚇、恐怖を薄れさせるための自分への鼓舞。 ボロボロの柱も、二人にとっては自分達を迎えてくれる遊び相手になってしまう。 まっくろくろすけは群れをなしてサツキたちに住処を“譲って”行く。 だって「出ないと目玉をほじくるぞー♪」なんて言われたら逃げたくもなるわww 手足の“すすわたり”は子供にも大人にも「夢だけど、夢じゃない」。 雨の中バスを待つシーンはちょっとホラー。 眠りそうになるメイをおぶり、サツキは独りきりで父を待つ。そんな時にいきなり巨大な爪を持った怪物が横に現れるのだ。その怪物が数分の傘のお礼に雨を「どしんっ」と止めてくれたりサツキを助けてくれるのだから素敵じゃないですか。傘を開く瞬間にビクッとなるトトロが可愛い。 “めい”目掛けて電線や田園を風のように駆け抜ける猫バスの疾走感!愛情のこもった「ばか」の一言、直接母親に会う“楽しみ”を待つ事にするサツキとメイの成長もちょっぴり描かれる・・・夏にもう一度“不思議な出会い”をしたくなる映画です。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:56:31)(良:1票) |
926. ジョニーは戦場へ行った
《ネタバレ》 ダルトン・トランボ自らの小説「ジョニーは銃を取った」の映画化。 オープニングのドラムの連打。 まるで機銃を掃射するように一つ一つ叩かれる音は、機銃に斃れていく兵士の叫びでもあるのかも知れない。 トランボの戦争に対するあらゆる怒りがこの映画には詰まっている。 戦争が起こる度に原作小説を発禁にしてきたアメリカ政府の傲慢。 「人間」として殺され、消耗品の「弾丸」という兵士にされていく人々。 戦争そのものに殺されていった人々の叫びをトランボは聞いたのかも知れない。 原作は第二次大戦が勃発した1939年。 まだ第一次大戦の暗い影を引きづっているような時代に続けざまの戦争。 第一次の頃に子供だった人間が、大人になった途端に戦場に出され殺されに行く。 何処にいたって戦場だ。子供も大人もみんな無差別に焼かれる。 戦争したけりゃてめえらだけでやれ。どうしてこんな争いのために我々が殺し殺されねばならんのだ。 顔を焼かれ四肢をもがれた「ジョニー」からはそんな激しい怒りが伝わって来る。 美しき過去の「幻想」、光の届かない闇の「現実」。 戦場に行けば二度と戻れないかもしれない。だったら死ぬ前に好きな人を思いっきり抱きしめてやりたい・・・。 叫びたくても叫べない、 触りたくても触れない、 泣きたくても泣けない、 眼をつぶりたくてもつぶる眼も無い。 こんな人間を誰が作った! 「ジョニーよ、銃を取れ」と無責任に叫んだ全ての人々だ。 自分の利益のために他人の死体を踏みつけにしてきた多くの人間だ。 トランボはそんな人間への怒りを命懸けで叫んだ。 何が赤狩りだ。 何がプロパガンダだ。 ジョニーの気持ちを否定できる奴なんざこの世にいない。 何故ならジョニーの苦しみはジョニーにしか解らないのだから。 我々はジョニーのありのままを受け止め考える事しかできないのだから。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:54:28)(良:1票) |
927. 最前線物語
《ネタバレ》 アンソニー・マンの傑作「最前線」のパワーアップ版とも言える作品。 「最前線」も素晴らしい映画だが、サミュエル・フラーのリアルタッチの戦場空間はより凄味がある。 地雷に「去勢用」なんてあるのか・・・初めて知ったわ。 特に海岸での銃撃戦から一転して“抱き合う”場面・・・コイツらさっきまで殺し合いしてたんだぜ?スゲエよ。 ギラ付く太陽、泥と砂にまみれた肌、黒い“勲章”の中からギラギラ輝く眼光・・・。 「ノルマンディー」における内蔵が丸見えになった遺体のリアルさは強烈だ。 第一次大戦の戦場から始まるストーリー、二つの大戦を股にかけた男の生き様。 リー・マーヴィンの激戦をくぐり抜けて来たという面構えがカッコイイ。 こんなにカッコイイリー・マーヴィンを見たのは初めてかも。 マシンガンでも必ず生きて帰って来る不屈の精神。 その下で戦う四人の部下たちも個性のある良い面構えだ。 どんな戦場でも必ず生き残る5人の戦士たち。生き残ると予言されていても、いつ死ぬか解らないというスリルを感じられる。 鬼軍曹が率いる「第1師団」は様々な戦場を駆け抜ける。 海、砂漠、市街、平原、森・・・幾多の戦場と散っていく仲間たち・・・それでも奴らは生き残る。 戦闘の中で垣間見える人間の狂気、潜伏者と犠牲者・・・取り敢えず熟女とババアに目覚めそうになるシーンもあった。 ババア結婚してくれ。 「停戦」に始まり「停戦」で終わるストーリー・・・狂気として片付けるには引っかかるシーンも幾つかあったけど、それでもこの映画の面白さは揺るがない。 傑作。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:52:29) |
928. プライベート・ライアン
《ネタバレ》 個人的には「ザ・パシフィック」や「バンド・オブ・ブラザーズ」「シンドラーのリスト」の方が好きだが、この作品も戦闘シーンが圧巻。 ただちょっと待って欲しい。腸が飛び出ただって? 「炎628」とか「夜と霧」とか「最前線物語」とか、この映画より強烈な戦争映画はいくらでもある。 だがこの映画の戦闘描写も凄い。水中でも容赦なく飛び交う銃弾、水没する戦車、腸をぶちまけ積み上げられる死体、銃弾が飛び交う中で自分の腕を探す兵士、治療しても別の流れ弾で死ぬ兵士、戦車や揚陸舟艇の上陸を阻むべく置かれた障害物が皮肉にも盾となって銃弾から守ってくれる、火炎放射器、降伏しても撃ち殺してしまう狂気、甲子園の砂ならぬフランスの砂、銃剣とガムで作る鏡、魚まで打ち上げられる浜辺。 カメラの揺れ具合や音が消える演出も、戦場で直接戦う兵士の視点で撮られているためであろうか。だからってカメラに血潮を付ける馬鹿がいるか。 映像の生々しさは凄い部類には入るが、ストーリーのムチャクチャさはどうだろうか。 いくら愛する我が子が3人も死んでしまい、せめて末の息子だけでも助けて欲しい。母親の切なる願いは解る。 解るが1人の軍人を救うために1部隊の兵士をむざむざ死にに行かせるような作戦を認証した軍部は異常としか思えない。 今まで10人、100人、1000人以上の味方ために死ぬのがせめてもの救いだったのに、それが今度はたった1人のために1部隊みんな死んで来いときたもんだ。 観客にとっても冒頭から墓参り→20分以上も地獄を見せられた上にそれ。 罰を受けた兵士なら解るが、何もミスをしていないバリバリに動ける兵士にそのような任務を課す。こっちの方がよっぽど残酷極まりない。 まして探す対象は士官や重罪人ならともかく名も無いに等しいたった1人の雑兵。 自分の吹っ飛んだ腕や飛び出た腸を探している兵士はまだ幸せだ。 ミラー大尉たちは、ジェームズ・フランシス・ライアンを見つけるまで四肢が吹き飛ぼうが肉体が木端微塵になろうが任務を続けなければならないのだから。 ライアンは悪くない。こんな作戦を指示できる上層部がクソなんだ。それに逆らえず選ばれた以上、戦うしかない兵士たちのやり場のない怒り。 その鬱憤をライアンにぶちまけるまでは死ねるかよと、死力を尽くしてノルマンディーの戦場を突き進む。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:50:24)(良:1票) |
929. 2001年宇宙の旅
《ネタバレ》 アーサー・C・クラークとタッグを組んで作り上げた超迷作。 「迷える名作」を撮らせたらアメリカ無双のキューブリック渾身の作品。 これは子供にこそ見せたい映画だね。 子供は何の抵抗もなく、取り敢えずありのままを受け入れようとする。 感受性の豊かな子供は何を思うのか。 そして大人になって再び見る・・・この映画はそれだけ難解でもあり、至極単純な映画でもある。 何者かが知識を得て何かに目覚め、それを繰り返して心理に迫る。ただそれだけ。 その過程が問題だ。 類人猿が「モノリス」に触れて知識に目覚めるファーストシーン。 動きだけで伝えるその世界観は流石。 アフリカの荒涼とした大地と類人猿を「創造」したその美術。 これ役者が演じてんだぜ? メイクと俳優たちは人間国宝になっていいよ。 猿が放った「武器」は、近未来では宇宙を駆ける「武器」となった。 現代の宇宙時代の描写も中々。 宇宙船が音もなく飛び交う宇宙。 この頃は既に「宇宙は暗黒」って認識があっただろうけど、やっぱり絵的に見栄えが悪いよな。 実際こんなに光ってたら怖いわ。 超巨大恒星がどんだけ密集してんだってくらい。 宇宙空間における描写も、今見ると科学的交渉が食い違った部分も多いが、上下の無い宇宙空間、何処までも見渡せる広大な空間、無音の世界観の表現は今観ても凄い。 月の裏側の描写がほぼ完璧ってのが凄い。 だって公開当時は誰も月の裏側に行ってなかったんだぜ?やっぱキューブリックは宇宙人だわ。 月面のモノリスでの騒動、ちょっと長く感じた。 どうせなら「HAL」と木星星団の掘り下げに時間を割いて欲しかったなー。あるいわ上記の部分を削るか。 本作は何といっても「HAL」の反乱。 虚空の宇宙は言わば「密室」。 鬱憤が溜まるのは人間だけじゃない。 機械もいずれは「オーバーヒート」がやって来る。 まして人工知能の発達したコンピューターだ。 自分を排除する=船全体の危機と結びつけちゃうんだろうな。 プログラムに忠実だったのか、それとも本当に心が宿ったのか。 あの真っ赤なランプで、無言で語りかけるような感じが怖かった。 キューブリックは本当こういう「怖さ」を描かせたら天才。 ラストは多種多様な解釈が出来るだろう。 [DVD(字幕)] 8点(2014-01-31 10:48:51) |
930. キル・ビル Vol.1(日本版)
《ネタバレ》 残虐? 無茶苦茶? 主人公補正が酷え? 頭のネジが足らんティーノ? 細けぇこたぁいいんだよぉ!! それがスーパーヴァイオレンスギャグ映画「キル・ビル」である。 復讐に生きる女ターミネーターことブラック・マンバの「ピー(自主規制)」。 女として散々に「殺され」、身一つで組織に乗り込み復讐と壊滅を誓う。 殴る、蹴る、叩っ斬る! もう馬鹿みてぇにチャンチャンバラバラ死体の海だ。 何ぃ?脚が動かねえ? そんな時は沖縄で武者修行よぉ! そんなわけで、座頭市も用心棒も文太の兄貴もビックリな「出血多量大サービスのお姉チャンバラ」を見たい奴にはオススメの映画。 [DVD(字幕)] 8点(2014-01-31 10:40:22) |
931. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
《ネタバレ》 当時の冷戦に右往左往する人間を皮肉ったブラック・コメディの傑作。 原爆や水爆を狂信的に作る「博士の異常な愛情」が時代を後押しする。 物語はミサイル攻撃を巡ってそれを阻止する者、実行する者の対立をシリアスかつコミカルに描く。 生きるか死ぬかの瀬戸際にコカコーラからのクレームを気にするような人間ばっかりだ。 いざ戦争になれば秩序も道徳も崩壊する。 会議場に集まる高官どもに、外で戦う人間の苦しみなんざ解るわけがない。 気にかけるだけで労いの言葉一つ送れない。 隅々まで届かない命令に何の意味も無い。 そんな人間が人々の上に立てばどうなるか? 無意味な実験や虐殺だけが繰り返されていくだけなのさ。 ラストシーンもまた印象深い。 敵の本拠を目の前にして投下装置が故障。 それを命懸けで外しに行き、爆弾もろとも基地にダイブしていくパイロット。 その時のソイツの顔は、黒い笑みで歪んでいた。 戦争の狂気がとり憑いた結果だ。 それを人々はどう思うのか? 英雄として見るか? 戦争を引き起こした愚か者と見るか? 答えは戦争を勝ち抜いた勝者か、後世に生き残った民衆のみぞ知る所だ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:34:30)(良:2票) |
932. フルメタル・ジャケット
《ネタバレ》 「突撃」に並ぶキューブリックによる戦争映画の傑作。 初見には重い戦争映画、二度目は「博士の異常な愛情」に通じるブラック・ユーモア。ハートマン軍曹とのやり取りは面白いし、戦場の報道部にはスヌーピーだわPT&ミッキーマウスでマーチ(行進)だわ。 彼らにとって訓練から既に戦争が始まる。 海兵隊訓練所における狂気、戦場での狂気。 冒頭は軍隊に入る兵士達が頭を刈る“儀式”から始まる。みんな憂鬱そうな表情で自分の髪とさようなら。 そこからハートマン軍曹による愛ある?薫陶(罵詈雑言)。「親のファ●クでシーツに残ったシミが貴様ら」だなんて言われたらヘコむ。このシーンで爆笑できるようになった人は立派なキューブリックファンです。俺も2回目見た時は爆笑し通しだったわ。あそこまで言われたらもう笑うしかねえww 「マスターピース」を暴言に出来るのはハートマン軍曹だけだと思う。 微笑みデブ(アーニーパイル)も黙りこむ。ジョーカーだけが彼を本名のレナードで呼ぶ良心。ハートマン軍曹は厳しくも彼を見捨てなかったが、ソレが他の訓練兵に憎悪を抱かせレナードに向けられ、微笑みデブは徐々にキリング・マシーンへと変わっていく。 後半のヴェトナムの戦場。「プラトーン」は密林、この作品は市街戦。 上司が次々に死にまくり、異教徒を殺すように機銃を撃つ輸送ヘリのドア・ガンナー、死体にパーティー、見えざる敵と戦う市街戦という名のコンクリート・ジャングル。そんな地獄で戦う彼らにインタビューする報道者たちは何を思うのか。 クライマックスを飾る狙撃者との息詰まる攻防。狙撃者の視点から語られる孤独な戦い、ジョーカーたちも倒れた仲間のために敵の根城に突っ込み“お礼参り”。ビルの中には他に誰かいるかも知れない・・・その緊張が最後まで持続するから凄い。 闇夜のミッキーマウスマーチ。彼らにとっては終わりが迫る喜びの歌、だが原作小説では彼らの戦い、いや地獄はまだ続く。まったく戦争は地獄だぜ。 その後にローリング・ストーンズの「黒くぬれ(Paint It, Black)」を聞くともの凄く切なくなるんです。 昔のキューブリックだったら腰振りのマネだけじゃなく本当に狙撃兵に死姦をかますとかヤッてたかもね。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:31:48)(笑:1票) (良:1票) |
933. 時計じかけのオレンジ
《ネタバレ》 人間好きなものは、嫌いなものは一生好きになれないのが性というものらしい。 もちろんキューブリックは好きな監督だよ。キューブリックの戦争映画にハズレはないって思っているし、犯罪映画でも初期の「現金に体を張れ」や後年の「シャイニング」は大好きだ。 でも「時計じかけ」だけはマジで勘弁して下さい。もう一度あの狂気に満ちた世界を見ろだなんて俺にとっては拷問といってもいい。ダメなものはダメなんです。途中出てくるルドヴィコ治療法の映像だって俺には怖すぎる。 同じSFで人間の狂気を描く作品なら、俺は「博士の異常な愛情」を選ぶだろう。 でもこの映画がすごいという事は認める。認めざる負えないよ。 近未来的で不思議な世界観、そこを闊歩する若者たちの狂気、狂気、狂気!女が服を破られおっぱい丸出しでレイプされる寸前、変態どもが乱入して縄張り争い。老人をなぶり、車を猛スピードで飛ばして次から次へと悪事を重ねていく。仲間ですら腹に杖を撃ち付け川に叩き落し「上下関係」をハッキリさせ、支配しようとする。強盗、強姦、虐待、何だってやる。ルイス・ブニュエルの「忘れられた人々」を思い出す強烈さ。 だが彼らに罪悪感なんて欠片もない。何故なら「楽しい」から。自分たちが同じ目に遭うなんて考える気もない。今しか奴らは見えていない。 いつの時代も若者は時代を逆走する。「世界を変えられるのは俺たちだけだ!」それが巧を奏せば“英雄”にされる。だが大抵は“愚か者”となって自分の愚かさを思い知らされていく。 主人公なんか正にそう。怖いものなんて何も無い。いや怖いものを「まったく知らない」から。止める人間がいなければ何処までも奴は突っ走る。ソイツに共感する奴もいると思う。 俺?俺の場合は共感どころか「クソ野郎がブッ殺してやりたい」と素直に思ったね。この映画の後に「雨に唄えば」を見たからこそ言っておきたい。誰かアレックスをジャック・ニコルソンの斧でブッ殺せるゲーム作ってくれマジで(嘘ですゴメンナサイ殺さないで下さい)。 偽善者?そう思いたい奴はそう思え。ただ主人公を見てムカツかない奴も俺はどうかと思うぞ。 なんせアイツが好きな音楽も聞けない、悪事も出来ずに仲間にも裏切られていく様子は不覚にも同情しちまいそうになった。犯した女が筋肉モリモリマッチョマンの眼鏡になっているわ、美味そうなスパゲッティ喰いながら失神するわ、部屋に監禁されて好きな音楽に“殺され”そうになるわ。 「こんな奴に同情するなんて・・・」でもこれが人間だと思う。 でこのまま死ぬのが普通の映画だろ?ところがどっこい、重傷負って死ぬどころかピンピンしてら。オマケに開き直って女とヤリまくり、いつも通りの主人公だ。見事に「免疫」が出来ちまった。 ただただ「(゜д゜) 」だったよ。 殺意も同情も呆れ果てて失せた。 馬鹿は死んでも治らない奴っていんだな・・・。 [DVD(字幕)] 8点(2014-01-31 10:27:33)(良:2票) |
934. ワイルド・アパッチ
《ネタバレ》 「ワイルドバンチ」と「アパッチ」をクソ味噌にして混ぜたような紛らわしい邦題。 どうして素直に「ウルザナス・レイド」というタイトルを付けられなかったのか疑問である。 タイトルはともかく、内容はアパッチと騎兵隊の死闘を描いたアルドリッチらしい作品。 女っ気の無い、かといってマカロニ・ウェスタンほど凄惨でも無い(血だるまが出てくるくらいだ)、アルドリッチが描く男のドラマ。 実際に起きたウルザナの襲撃をリアルなタッチで描いた骨太な作風。 暴力に直面した時の人間の恐怖と憎悪が生々しい。 一見すると典型的なインディアン掃討物に映るかも知れないが、西部開拓時代の終わり、インディアンたちの反撃の終焉、騎兵隊の戦いの終結・・・様々な終わりの足音が聞こえてくる。 インディアンと白人の問題に深々と迫った内容でもあり、異なった立場の駆け引き、同じ人間として向き合おうとしたマッキントッシュの生き様が特徴的だ。 冒頭15分間の「嵐の前の静けさ」、 そこを過ぎてからの残虐さと残酷な殺し合い。 周囲が見えない小屋の中で聞くラッパの音が怖かった。 中盤の馬上での追撃、 終盤の谷間での銃撃戦など充実した内容。 特に危険と解っていて、あえて谷間に突き進んだ「賭け」の場面。 長年インディアンと戦ってきたマッキントッシュは引退した後の実りのない老後、壮絶に散るインディアンたちへの憧れに似た気持ち、とにかく死に場所を求めていたのかもな。 「ヴェラクルス」で初々しかったバート・ランカスターも今では老骨に鞭くれる老将として登場する。 ラストのランカスターが何とも言えない。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:12:20) |
935. リバティ・バランスを射った男
《ネタバレ》 ジョン・フォードとジョン・ウェインが組んだ最後の西部劇にして最高傑作。 冒頭14分間の「現代」、そしておよそ1時間46分にかけて「過去」の出来事を紐解いてゆく形式、ジョン・フォードの豊かな人間ドラマ、白黒だからこそ出せる映像の美しさ。 「捜索者」や「駅馬車」が広大な大地を馬で駆け抜け続ける激しさならば、本作は回想形式で中盤の決闘に至る経緯をサスペンスフルに紐解く。 しかし、最初この冒頭のシーンを見た者は少し退屈に感じるかも知れない。 それを最初から最後の幕切れまで通して見ると、もう一度冒頭の語りを見たくなる。そしてもう一度冒頭に触れれば、そこに退屈さは無い。 あるのは過ぎ去りし日への追憶と寂しさ。一角の大物議員が何故名も無き男の葬儀に訪れたのか・・・。 駅馬車強盗とともに始まる回想、法律とともにやって来た男がもたらす時代の終焉と始まり、街中で銃を乱射する無法者、ユニークな選挙活動、投げ縄、射撃訓練と怒りの鉄拳、抜き打ちには拳で返答、暗殺、燃え盛る家、サボテンの花。 保安官でもガンマンでもない普通の人間が、無謀と解っていても恩人の仇を討つべく決闘の場に向かっていく姿、立場や人種を超えた一撃! 白黒ウェインの風格とカッコ良さ。レストランにおけるガンマンたちと対峙するウェインの頼もしさ! ただの優等生では終わらない強さを持つジェームズ・ステュアート、調理場の元気な娘ヴェラ・マイルズ。ウェイン、ステュアート、ヴェラの奇妙な三角関係も注目だ。 太ったビビリの保安官アンディ・ディヴァインは「駅馬車」でもウェインと共演。ユーモア溢れるキャラを演じていた。他にもジョン・キャラダインといったウェインの相棒的俳優も脇を固める。 リー・マーヴィンの強烈な悪役振りも良い。 無法者だが牧場主の手先として暴力を振るう鉄砲玉。元々老け顔のウェインと堂々と渡り合える老け振り。一体どんな修羅場潜って来たんだ・・・。酒場でブッ飛ばされるリー・ヴァン・クリーフの存在も面白い。 州に昇格しようと躍起になっている町での政権争い。 食堂での軽妙なやりとり、派手な選挙戦や事務所の襲撃事件、酒場近くの決闘と見所も多い。何といってもその決闘こそ本作最大の山場!黒のコントラストが最高。 かくしてストーリーは再び現代へと戻ってくる。 棺桶に咲いたサボテンの花。 死者の鎮魂を祈る花をドア越しに見つめる一人の男、その後ろにたたずむ背を向けた女性。 列車が駅に入る瞬間から始まり、その疾走によってすべてが終わる光景はフォードを敬愛したセルジオ・レオーネ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト(ウエスタン)」でも繰り返される。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 11:05:13) |
936. 明日に向って撃て!
《ネタバレ》 ファーストシーン、ガンファイト、人間ドラマ。全部揃っているのに西部劇らしくない西部劇。だが実に映画らしい映画だ。ジョージ・ロイ・ヒルは「スティング」も面白かったけど、俺はコッチの方が好きだ(女の子もこの映画の方が可愛くて魅力的だ)。 冒頭からエドウィン・S・ポーターの「大列車強盗」を彷彿とさせる列車の襲撃→駆けつけた騎馬隊から逃げ去るスタートダッシュ。 酒場でのポーカーから振り向き様のガンファイア、見ず知らずの美女を強姦するゲス野郎なのかと思いきや、実は馴染みの女性に対するちょっとした挨拶(イタズラ)だったという。「やーね脅かさないでよ」と笑って済ませてくれる仲の良さ。ちょっとした三角関係も“さわり”で終わるぐらい絆が深いともいえる。 仲良く逃避行、断崖ダイブ、強盗、銃を持った者が避けられぬ殺し合いの連鎖。 犯罪に生き急いでしまった者たちの束の間の安らぎ、叶わぬ願い、結局は元の殺し合いの世界に戻ってしまう虚しさ・・・それを独特の静寂が包み込む。その何とも言えない雰囲気を好きになってしまった。 サイレント映画の「アクション」で魅せる事にこだわった造り込みと呼吸、音のない静けさの中からいかに“音が聞こえてくる”ような映像を撮るか。 まるで古いアルバムをめくるような・・・。そういう心意気に溢れた映画だ。アメリカン・ニューシネマ特有のアクの強さは余り無いけども、抜き撃ちや幻想的とも言える映像は見応えがある。 機関砲といった武器ではなく、自転車で時代の波に追われるガンマンたちを表現するのが良い。 殺伐した世界の中で、一瞬の平和なひと時に流れる「雨にぬれても」は印象的。 サム・ペキンパーが“動”のワイルドバンチなら、この映画は“静”のワイルドバンチ。 ラストの「奴らは死んだのか生き残ったのか!?」というテンションが上がったまま終わるクライマックスも最高。 [DVD(字幕)] 10点(2014-01-30 11:00:14)(良:2票) |
937. ウエスタン
《ネタバレ》 再評価に到ったのは、二度目以降、いや見る度にどんどん魅せられる西部劇だという事に気付いたからだ。 冒頭の長く、長く、なっがああああああい回しで溜めに溜めて溜めて放つ一撃必殺の破壊力・・・! 他のレオーネ作品と比べると断トツに退屈で、ゆったりとした、そのバネが産み出す破壊力に魅せられる。 二回目以降は、退屈に感じない心地良さ、もしくわ退屈な空気を一気に張り詰めさせ、爆発させるような長回しに痺れている自分がいた。 ベルナルド・ベルトルッチの壮大なスケール感と“女”の匂い、 ダリオ・アルジェントの“血”の匂い、 トニーノ・デリ・コリの雄大さを感じさせるキャメラワーク、 そしてセルジオ・レオーネの破破壊力と“土”、“漢”の匂い。 「リオ・ブラボー」や「大砂塵」といった往年の西部劇に対するオマージュに溢れた原点回帰。 それに、西部開拓時代の無法者を現在的なギャングとして捉えた視点。 登場人物たちも善悪で片付けられる者ばかりでなく、時代の流れに翻弄されて荒れた複雑な人物も少なくない。 男だけでなく、クラウディア・カルディナーレ演じる未亡人ジル。 自立し気丈に生きる女の強さと弱さをレオーネは正面から描き出した。 マカロニウエスタンには無かった女っ気と母性。コレはカルディナーレの女性らしさ、そしてベルトルッチの原案も手伝って成し遂げた描写だと俺は思う。 「プロフェッショナル」もエロか(ry ドラマだけでなく、冒頭の銃撃をはじめ劇中のアクションは決まる度に痛快。 列車での工夫を凝らした銃撃戦、 クライマックスの一騎打ち、 クラウディア・カルディナーレが人の良いおじさんを誘惑している様にしか見えない絡みのシーン、 ラストの死に場所を求めてさ迷うそれぞれの顛末、やるせなさ、虚しさ。 ホークス、アルドリッチたちから受け継がれてきた破壊力、ジョン・フォードのドラマ性、アンソニー・マン等のリアリズム。 ジェイソン・ロバーズの人間臭さ、 チャールズ・ブロンソンの徐々に明かされる復讐劇、 悪役を貫いたヘンリー・フォンダも見事。 西部劇を飾ったヒーローが悪役として振舞う…しかし、その男も時代の流れに翻弄され荒れた一人の人間でしか無かった。 列車に始まり列車に終わる・・・ジョン・フォードの「リバティ・バランスを射った男」を思い出す締めくくりだ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:55:29)(良:1票) |
938. 続・夕陽のガンマン/地獄の決斗
《ネタバレ》 本作「The Good, the Bad and the Ugly 」の主題は善玉、悪玉、卑劣漢。 え? 善玉? そんな奴この映画にいねーよ。とてもセンスのあるジョークだわ。 「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」の名でも知られる本作。 エンニオ・モリコーネの最高の音楽、前半のスピーディーな展開は前作よりも好きだ。 最初10分、会話がほとんど無いのに見るものを惹きつける面白さ。 主人公ブロンディ(イーストウッド)が捕まる場面だって仲間通しのイザコザという感じで違和感はあまり無い。 前作で味方だったエンジェルが敵として立ちはだかるのも面白い。 相変わらず同じような格好のイーストウッドもまた。 トゥーコ(イーライ・ウォラック)が銃をバラしたり組んだりして試し撃ちをするシーンはマニアをくすぐる面白い場面。 南北戦争時代の銃器のこだわり振り。この時代考証は完璧だね。 とにかくイーライ・ウォラックの悪どいキャラクターが最高だった。 見た目は太めのオッサン、中身がガッチリ凄腕のガンマン。 悪党だと思ったら意外と人に優しかったりする。 最初は金が目的だったが、次第に情が芽生える場面は熱い。 そしてまた逃げられ「バカヤロ~!」素晴らしい腐れ縁。 ただ,中盤の長回しのシーンが長いこと長いこと。 トゥーコが駅馬車を発見しなかったら俺も寝るとこだった(「アラビアのロレンス」もそれで寝そうになった)。 でも、そこからのドラマ展開が面白い。 ブロンディは情報を知っているから殺されない、トゥーコは金が欲しいから殺せない。 二人が南軍や北軍に潜り込んでアレコレ騒ぎを起こす場面は面白かった。 脱線だけど良い脱線。 敵となったり味方となったりするデコボココンビなブロンディとトゥーコのやり取りは見ていて楽しい。 最高だったのが風呂場での銃撃。 「喋ってないで撃たなきゃ」。聞いてるか007の馬鹿な殺し屋ども(それが007の魅力です)。 ラストの決闘がこれまた長い長いなっげー。 モリコーネの音楽が最高すぎて笑ってしまったのは俺だけじゃ無いだろう?・・・多分。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:44:44)(良:1票) |
939. アウトロー(1976)
《ネタバレ》 アメリカ建国200年記念の名にふさわしい堂々とした西部劇。 フォレスト・カーターの原作に、イーストウッドの西部劇に対する愛情と野心を詰め込んだ傑作。 「許されざる者」や「ペイルライダー」も良いが、やはり俺は二挺拳銃の唸りが熱い本作を推す。 強烈なファーストシーン、カスタマイズ銃やガトリングの唸りなどガンファイトに富んだ血のたぎる作り込み。 時代のうねりによって復讐者と化す「ジョージー・ウェールズ」の波乱の旅を描く。 アメリカの豊かな自然、 西部の厳しき大地、 大地に生きる人間の生活感溢れる力強さ、 染み渡る日本的情緒、 カッコいいオッサン・・・! 主人公は最初普通の開拓民で、家族を殺された事で復讐の旅を続ける無敵の唾吐きガンマンになっていく過程が面白い。おまえは何回ツバを吐くんだ(笑)また主人公も仲間に助けられながら窮地を脱する場面もかなりあった。仲間あって無敵が本作の魅力でしょう。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:38:26)(良:1票) |
940. ペイルライダー
《ネタバレ》 「シェーン」やイーストウッド主演の「荒野のストレンジャー」を融合させた王道西部劇。 金の採掘を続ける二つの村同士の対立が主軸。 金を掘るには鉱脈がある山場に住居を構える必要性、水の豊富な場所の確保が重要となる。 水の重要性がここにも描かれる。 人を殺せば州法で罰せられるが、村荒らしや家畜殺し、度重なるストレスや心臓発作による“自然死”は見逃されている。 西部に生きる者にとって家畜は家族同然。 見逃される罪にも限界が来る。 そこに現れた“ペイルライダー(死神)”の牧師。 助けてくれと願えば来るし、居ると思ったらいないし、居ないと思ったら居る。 幽霊みたいに神出鬼没な男だ。 ガンマンというよりは騎士道精神のような男。 「シェーン」では最初主人公は受け入れられないが、牧師は村の者を助けた事で歓迎される。 第一印象って大事だなと思い出す。 牧師が主人公というのも面白い(“捜索者”は牧師が警備隊の隊長やってたね)。 人を殺さないという理由も“犯せば州法で裁かれる”という理由付けが成されていて良い。 牧師が訪れた村は中々金が取れずに経済的に窮地に有り、夢も希望も諦めかけていた。 牧師がひたすら岩に槌を下ろす力強い姿を見て、村人も次第に心の強さと誇りを取り戻していく。 イーストウッドはこういうくどいくらいの人間ドラマが良い。 そこに殺しを合法として許された保安官が買収されてやってくる。 街を守るはずの者が金で動く・・・彼らも一人の人間でしかない。 この保安官が「許されざる者」になると、独裁者のように容赦なく恐怖政治を展開する。 牧師は村人を見捨てて逃げても良かった。 ただ、牧師は義侠心や博愛主義で戦ったのではない。 成り行きとはいえ助けた者への義理、世話になった恩、牧師自身のケジメのために戦った。 保安官たちはやってはいけない最大の過ちを犯した。 “無抵抗の人間を殺した”から? 違うね、“恩人を殺しやがった”から。それだけ。 その人間の死は村人の結束を強固にし、牧師は世話になった者たちのために戦う覚悟を決める。 後の「許されざる者」もそうだが、イーストウッド扮するガンマンはいつも他人のために引き金を引く。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:33:27)(良:1票) |