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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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81.  ヒューマン・トラフィック<TVM>(2005) 《ネタバレ》 
前後篇を2日に分けて見るつもりだったのですが、あまりの面白さに一気に見てしまいました。社会問題を分かりやすく提示することにおいても、また物語のエンターテイメント性においても極めて優れた作品です。もちろん楽しんで見る類の題材ではありませんが、それでもかなりハラハラさせられたのは事実であり、この辺りは劇場用映画で腕を磨いたクリスチャン・デュゲイならではの力技だったと思います。またテレビ映画だったため性や暴力の描写には相当な制限があったものの、こちらも監督の腕前で巧く乗り切っています。人身売買という題材を扱いながら女性の裸の映像は一切使用されていないし、警察組織と犯罪組織の戦いであっても血の量は最小限にとどめられています。それでも題材の衝撃度はきちんと伝わっているのですから、監督の腕前がいかに作品に貢献しているかがわかります。一方でこの手の題材を劇場用映画が扱うと、「現実から目を背けてはいけない」と言わんばかりに露悪的な表現が目立ってうんざりさせられることも多く、節度を保ったレベルに映像の刺激を抑えて多くの人が見やすい作品とした本作は、社会啓蒙のためにも効果的な作りになっていると思います。。。本作は現実の問題をよく研究して作られているようで、私が良心的だと感じたのは東南アジアパートでした。アメリカ人の子供が誘拐されてはじめて東南アジアにおける人身売買が注目されるという設定は、現実の醜さをうまく捉えています。途上国の子供たちが酷い目に遭っていても、私たちは「へぇ、大変なんですね」としか思わない。もしアメリカ人少女が誘拐されていなければ、サウジアラビアに売られようとしていた子供達は救われていなかったはずなのです。この辺りのシビアさ、見ている人間を安易に正義の側に立たせない作りは、社会派作品として見事なものだと思います。
[地上波(吹替)] 8点(2010-07-05 17:54:58)(良:1票)
82.  マイアミ・バイス
テレビシリーズは未見なのですが、この映画版は刑事アクションのひとつの究極形とも言える仕上がりとなっています。フェラーリを乗り回し、「ちょっと飲みに行く」と言って自前の高速艇でキューバのバーまで行き、プロのパイロット以上の腕前で飛行機を操縦するというありえない刑事達が、海外にまで出張して大活躍という無茶苦茶な話なのですが、これを徹底的にカッコよく、バカっぽくなく作ってみせています。「バッド・ボーイズ」や「リーサル・ウェポン」の下地を持ちながら、これを「ヒート」や「コラテラル」のような印象の作品に変えてしまっており、荒唐無稽な刑事アクションを極限まで煮詰めた結果が本作だと言えます。プロの男達を描かせればいつもながらのマイケル・マン節全開で、少ない言葉で状況を理解し、グダグダ悩まず即座に物事を決断するカッコいい男達で溢れています。主演のコリン・ファレル、ジェイミー・フォックスはもちろんのこと(コリンはやたら太っている場面がいくつかあったのが気になりましたが)、敵キャラも状況判断に優れていて、生きるか死ぬかの世界で勝ち抜いてきた男達にきちんと見えています。さらには、コリンとジェイミーの上司にあたる小林亜星みたいな太ったおっさんまでがカッコいいのですから、相変わらずマイケル・マンはプロの男を描かせると最高の仕事をします。銃火器へのこだわり、銃撃シーンでのリアリティの追求も相変わらずで、麻薬取引の現場では後方にスナイパーを待機させておき、いざ撃ち合いになった場合には圧倒的優位をとるという犯罪組織側の戦略はなかなか合理的。さらに、スナイパーがバカでかい口径の銃を撃ち込むと、弾が当たった人間はバラバラに砕け散るという現実的な描写もあり、過去の作品以上に銃の描写にはこだわりが見られます。おまけに俳優達は全員銃の構え方が様になっていて、わかってる監督が撮るとアクションはここまで引き締まるものかと感心します。脚本の練り込み方も良く、テレビシリーズと同様の構成にするためかアクションをラストの銃撃戦のみに絞っていて映画としては見せ場に欠けるのですが、見せ場を分散させなかったおかげで物語がラストの銃撃戦に向けて一直線に進んでおり、チームメンバーが誘拐されたところから一気に話のテンションが上がっていく辺りの高揚感はなかなかのものでした。ラストに至る物語もよく作り込んであって退屈させません。
[DVD(吹替)] 8点(2010-03-12 20:37:12)
83.  プルーフ・オブ・ライフ
映画の展開そのままに、撮影現場でラッセル・クロウとメグ・ライアンが本当に不倫をしてしまい、ゴシップの種にはなったものの映画としてまともに鑑賞されなかった気の毒な作品ですが、実はかなりよく出来ています。トニー・ギルロイの脚本は相変わらずキレがよく、プロの男を描かせるとこの人は最高の仕事をします。要件をビシっと述べるソーンの話し方は本当にかっこよく、現場を知り尽くしたプロという設定に負けないキャラクターがちゃんと構築されています。このソーン役にクロウを配置できたことは幸運で、スーツを着て粘り強く交渉する知的な姿も、迷彩服を着て敵地に乗り込む元特殊部隊としての姿も両方完璧にハマっており、「この人に任せておけば安心だ」という安心感も漂わせています。筋肉隆々でありながら知性を感じさせ、おまけにラブシーンをやれる色気を持った役者はハリウッドでもかなり希少であり、クロウでなければ演じられなかったキャラクターだったと思います。彼に対するメグ・ライアンもなかなかのものでした。本作以降は急激に衰えるものの、少なくとも2000年当時はハリウッドのトップにいた女優さんだけあって、華があるし演技も悪くありません。「♪恋する女はキレイさ~」とヒロミ郷も歌ってましたが、全出演作中もっとも美しく撮られているのが本作でもあります。なぜか常にノーブラでしたが、あれには何か理由でもあったんでしょうか?胸の垂れ具合は正直さみしかったです。。。作品の評価に戻りますが、監督も良い仕事をしています。ヘタに見せ場を入れず交渉の緊迫感だけで上映時間の大部分を引っ張っているのは監督の手腕によるところが大きいし、なんといってもラストのアクションがあまりに見事で驚いてしまいました。この監督さんはアクションを撮るイメージがなかったのですが、正直そこいらのアクション監督よりも腕前は遥かに上です。連絡を常にとりながら機動的に動く特殊部隊のアクションのかっこいいこと!ミッション物のアクションでは、本作のラストを超える映画を見たことがありません。ここでもクロウは大活躍で、銃を持った姿が本当に様になっています。彼が銃を撃つ映画は本作以外では「クィック&デッド」と「アメリカン・ギャングスター」くらいしかありませんが、銃がかなり似合う俳優さんなので、もっとアクションをやればいいのにと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2010-02-07 21:04:12)
84.  ジュラシック・パークIII
世評に逆らってひねくれた点数をつけているわけではないのですが、シリーズで一番面白かったと思います。「1」は理屈っぽい部分の掘り下げが中途半端だったし、「2」における安直な動物愛護精神は意味不明でした。だったら大仰な主張は潔く切り捨ててしまい、ついでに登場人物の数も絞り込んでコンパクトに仕上げた本作が、映画として一番まとまりが良いのです。コンパクトと言っても勢いだけで押し切る短絡的な作品というわけではなく、キャラクターや見せ場は作り込んであります。典型的な大作を得意とするデビッド・コープからドラマ畑のアレクサンダー・ペインに脚本家を変更し、情けない中年おやじ達の成長物語を横軸に持ってきたことで、前作、前々作よりもすんなりと登場人物に感情移入ができるようになっています。グラント博士の登場シーンからしてよく出来ており、エリーと幸せな家庭を築いたと思わせておいて、実は別の旦那と結婚していたサトラー家に遊びに来ていただけという導入部分は最高でした。エリーの子供からは恐竜おじちゃんと呼ばれる始末で、好きなことだけやって歳を重ねるとこうなってしまうという哀愁が漂っています。「1」の時は気鋭の古生物学者だったグラント博士も現在は冴えない中堅の学者で、研究資金も底をついているという切ない状態。そんな彼を再びサバイバルに引き込むのがウィリアム・H・メイシーですが、情けない中年をやらせると右に出る者のいないメイシーは、やっぱり本作でもハマっています。温厚なグラント博士に殴られ、妻からはギャンギャン怒鳴られ、何か言っても誰にも聞いてもらえないダメ親父ぶりをいかんなく発揮。そんな枯れかけの二人が、若かった頃のような自信とバイタリティを取り戻す物語は、定番だけどやっぱりグッとくるものがあります。。。見せ場にも工夫が見られます。「1」「2」とT-REXとラプターを見せ場の中心にしてきましたが、さすがに三度目はないと今回はスピノサウルスとプテラノドンを中心に持ってきた判断は正解でした。知名度の低いスピノサウルスには鮮烈な登場場面を準備し、他の恐竜に比べて攻撃力の弱いプテラノドンには霧に包まれた鳥かごを生かした見せ場を作ることで、T-REX、ラプターに負けない悪役ぶりを披露させています。また、笑いとスリルも絶妙なバランスで調和させており、この監督はなかなか巧いなと感心しました。
[映画館(字幕)] 8点(2009-12-31 01:49:17)
85.  アポカリプト
冒頭から驚きました。独特のメイクにケツ丸出しファッション、女性方はおっぱい丸出し(エキストラのみならず、ジャガーパウの奥さんのような重要な役柄に至るまで)、NHKスペシャルで見るようなジャングルの村がまんま再現されているではありませんか。これを演じているのはプロの役者さんなのですが、ジャングルで生活している人たちにしか見えません。映画であるからにはある程度綺麗に撮ろうとするものですよ、普通。おっぱいぐらいは隠すだろうし、少なくとも主人公にはかっこいいメイクをさせるものです。しかし本作はそのような映画的な修正を可能な限り排除し、徹底的にリアルに作り込んでいます。ここまで再現してくるとは思いませんでした。マヤの都市の作り込みも凄まじいものがあります。実物大セットとCGを見事に組み合わせた(実写とCGの継ぎ目がまったく分からないという完璧な完成度)都市の再現力は、私が見てきた時代劇の中でもトップクラスです。そこに生きる人々の描写も丁寧で、エキストラひとりひとりに至るまで衣装やメイクに手抜きがなく、画面に映る全員に対してきちんと演出が施されています。これ見よがしに巨大建造物を映し出す時代劇は多くありますが、そこに生活する人々を含め、都市の全体像を提示する映画はほとんど見たことがありません。しかも本作の舞台はマヤ文明。古代エジプトやローマのようにしばしば映画の題材になるような時代ならともかく、満足に映像化されたのは恐らく本作がはじめてです。そんな、参照すべき過去の作品もロクにない状態で、ここまでの完成度で過去の文明を描写してみせたことは驚異的と言えます。メル・ギブソンの監督としての才能と、優秀なスタッフを山ほど動員してきたプロデューサーとしての能力、どちらも大いに評価すべきでしょう。こうしてマヤの世界にどっぷり馴染んだところでいよいよ猛烈なアクションがスタートしますが、ここからはメル・ギブソンの才能がフルスロットル。ジャガーパウがゼロウルフの息子を殺した瞬間、「マジかよ」と場の空気が一瞬止まり、一呼吸置いてから追跡部隊が猛スピードで走り出すところからして燃えます。槍を持ってジャングルを走り回るだけのアクションをここまで面白く撮れるものかと、燃えっぱなし、驚きっぱなしでした。追跡者の動きを俯瞰で見せるカメラワーク等、ここでも優秀なスタッフに支えられていることがわかります。
[映画館(字幕)] 8点(2009-12-26 18:51:52)(良:2票)
86.  チェンジリング(2008)
イーストウッド作品は時に冗長になりすぎる傾向がありますが、本作は娯楽作顔負けの勢いで物語が進行し、監督作中もっとも面白い作品となっています(楽しんで見るような題材ではありませんが、ここはあえて「面白い」と言います)。ここのところのイーストウッドといえば、人生を知り尽くした御大が、まるで仙人のように淡々と哲学を語る作品が多くなっていますが、本作は観客の感情を刺激するダイナミックなドラマ作品として製作されています。イーストウッドのストーリーテリングは神業の域に達しており、呼吸をするかの如く的確な演出を披露します。わずかな時間でコリンズ親子の強い絆を描き、観客にこの親子を好きにならせる冒頭からして光っています。またアンジーの元にやってきた謎の少年や、臭いものに蓋をすることしか考えないLAPDのイヤらしさときたら見事なもので、見ている間中はらわたが煮えくりかえる思いがしました。それに対するブリーグレブ牧師は、西部劇のヒーローか、ダーティハリーかと言わんばかりの頼りになる男で、「この人が来たからには正義がなされるはずだ」という安心感は抜群。戦うことに迷ったり、弱かったりするここ最近の正義の味方には欠けている魅力を放っています。彼が現れるタイミングも絶妙で、クリスティンが追い込まれて追い込まれてもうダメかという時にやってきて、悪事をなしていた者を黙らせる展開にはアクション映画以上のカタルシスがありました。この辺りは、娯楽作も多く手掛けてきたイーストウッドならではの巧さでしょう。。。子を失った親の物語としては「ミスティック・リバー」と共通していますが、「ミスティック~」に描かれる父親のリアクションが怒りと復讐心を中心としているのに対し、本作に描かれる母親のリアクションは、ひたすらにわが子の生存を願い、その他のことは(憎むべき犯人や、自分を傷つけた警察すら)ほとんど目に入っていないというものでした。権力との戦いはブリーグレブ牧師に任せ、クリスティンがとる行動は全て息子の方へ向いたものとした構成上の判断は的確。普通の監督が撮れば犯人への憤りや警察への復讐を描いてしまうところですが、そうはしなかったイーストウッドはやはり仙人の域に達しているようです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2009-12-25 15:31:16)(良:2票)
87.  ミリオンダラー・ベイビー 《ネタバレ》 
「許されざる者」「ミスティック・リバー」と比較すると、かなりわかりやすい作品となっています。マギーの家族や対戦相手ははっきり悪人として描かれており、善悪の区別を意図的に避けてきた前述の作品達とは傾向がガラっと変わっています。またマギーが全身麻痺となる原因についても、原作では試合中のアクシンデントだったものを映画では対戦相手の明らかな反則行為に変更していることからも、よりわかりやすい形で観客の感情を刺激しようとする意図が感じられます。そう、これは観客の感情に訴える純粋なドラマ作品であり、イーストウッド流の哲学や死生観を語ってきたそれまでの作品とは別物と考えるべきでしょう。あの結末もイーストウッドの個人的な思想が反映されたものではなく、フランキーとマギーの物語の終着点があの形だったと考えるのが妥当です。。。二人の関係は、師弟であり、親子であり、友人であり、そして恋人であるという、人間が持ちうるすべての関係性が凝縮されたものでした。その相手が真剣に死を望み、ほとんど動けない体で可能な限り自分を傷つけはじめ、生きることが最大の苦痛となっている状態で、それでも枕元で「生きることが大事だ」なんて言い続けられるのか?ボクシングに生き、家族に恵まれなかったフランキーにとってマギーはただの恋人ではなく、長い人生の果てに残ったすべてと言っても過言ではありません。世界でもっともマギーの生を望んでいるのはフランキーなのです。しかしそのマギーは真剣に死を望み、一方で自身の意思を実行する手段をすべて奪われてしまった。医学も宗教も「生きることが大事だ」と定番のお題目を唱えるだけで力を貸してくれない。マギーの訴えに耳を傾け、それを実行してやれるのは世界で自分だけとなったフランキーの苦悩は、想像するだけで恐ろしくなります。泣きの演技をほとんど見せないイーストウッドが、ここではついに涙を見せ、迷いを口にします。ひたすらに強い男だったイーストウッドですら抱えきれないほどの絶望。尊厳死が社会一般で認められるべきかどうかは分かりませんが、少なくともマギーとフランキーの間においては、死以外の選択肢はなかったと思います。マギーに対するフランキーの思いは、医者と一緒になって「とりあえず生きろ」と言っていられる程度の軽いものではなかったのですから。
[DVD(吹替)] 8点(2009-12-23 18:21:00)(良:4票)
88.  プレッジ 《ネタバレ》 
この映画をはじめて見たのは学生の時でしたが、当時は「淡々とした展開でオチも決まらない中途半端なサスペンス」という印象で、鑑賞したこともすぐに忘れてしまいました。しかし社会に出て人生経験もそれなりに積んでから再度観賞すると、人生というものを鋭く描いた生涯忘れられない作品となります。努力は美しいことである、正しい行為は正しい結末へつながっているというハリウッド的な思考回路を完全否定、いかに正しい目的のためであっても、いくら愚直に頑張っても報われないことはある、それが裏目に出ることだってあるという情け容赦のない、しかしリアリティのある物語です。 もし主人公ジェリーが浮かれ気分のままパーティーに留まりあの現場に行っていなければ、もし被害者家族に対して口先だけで対応し約束(プレッジ)などその場限りで忘れるような人物であれば、定年後の余生は順調に送れていたことでしょう。しかしジェリーはあの現場に立ち会い、被害者家族と話すという誰もが躊躇した役を引き受け、そして家族との約束を忘れない正しい警察官でした。そんな、正しくあることが最悪の結末をもたらすというこの皮肉。 また、ジェリーが個人としての幸せに身を寄せようとする時、事件の名残が彼の前に現れ、約束を思い出させます。念願だったメキシコ湾へのフィッシングへ旅立とうとする時、好みの雑貨屋を手に入れ穏やかな余生を目の前にした時、ロリ・クリーシー親子と疑似的な家族関係を築き幸福な家庭を手にしようとした時、ジェリーは事件の残像と遭遇して、幸福を掴む寸前で事件へと戻っていきます。通常の映画であればこうした残像は目的を忘れた主人公に正しい行動を取らせるための「サイン」なのですが、本作では主人公の人生を狂わせることとなります。 結末は衝撃的ですが、ただ観客にショックを与えて終わりではなく、人生の真理のようなものを突き付けているところに、他の映画にはない深さがあります。また、先述した「サイン」の扱いなど普通の映画であれば主人公が報われるような流れを示しておきながら、観客の先読みを利用してこれを裏切る脚本の巧さにも感心しました。 
[DVD(字幕)] 8点(2009-12-16 12:58:31)
89.  ロック・スター 《ネタバレ》 
さほど話題になった映画でもなく、名高いスタッフが関わっているわけでもないので「多分つまんないんだろうな」と思っていたのですが、これがなかなか面白くて感心しました。やっぱり映画は見るまでわかりませんね。直球勝負のタイトルからも察しがつくように内容的には何のひねりもなく、スターを目指す音楽青年が成功をつかむものの、浮世離れしたスターの生活で大事なものを失い元の音楽好きに戻るという、似たような話ならいくらでもありそうなストレートなものです。最初から最後まで本当に思った通りに話が進んでいくのですが、手を抜いて作られているわけではないのでこの予定調和が快感にすらなります。ボンクラ青年が憧れのスターから直々に呼び出しを受け、最初のステージに立つまでの展開などは、ベタながら最高に盛り上がります。オーディションではガチガチに緊張してミスを連発、「もうダメか」と思わせながら、いざ歌唱力を披露すると聞いている全員の顔色が変わるという定番中の定番のようなシーンも、本作は見事なまでにバチっと決めてきます。こういう王道の話を作らせると、ハリウッドは本当に良い仕事をするものです。。。役者については、マーク・ウォルバーグのロン毛はやはり厳しいものがありましたが、さすがは元ミュージシャンだけあって音楽への過剰な愛に生きる姿には妙な説得力があったし、ステージ上のパフォーマンスも板についたものでした(てっきり本人が歌ってると思っていたので、このサイトで口パクであることを知った時には軽くショックでした)。ジェニファー・アニストンについても、撮影当時すでに30代のアニストンが音楽青年の彼女という役柄ですから最初はかなり厳しい印象だったのですが、見ているうちに違和感は消えていき、中盤以降はかなり良かったと思います。彼女はテレビ出身なので映画に出演するとどうしても華が足りないように感じるのですが、本作ではショービズの世界に相対する普通の世界の恋人という役柄だったので、華の足りない彼女にはうってつけでした(誉めてます)。テンポを大事にするためか、クリスと家族の関係や、他のロックメンバーとの絡みは相当削られているように思いましたが、そんな中で最初はイヤな業界人として登場しつつ、ラストにかけてクリスの心境に影響を与えるマネージャーのマッツは良い味を出しており、構成要素の取捨選択も的確です。
[DVD(字幕)] 8点(2009-10-12 20:46:06)(良:1票)
90.  ウォッチメン
原作既読です。コミックの枠を超え、アメリカ文学史上の傑作とすら言われる作品なのですが、これが実に338ページに及び、コマの中で一瞬うつる雑誌や貼り紙にも意味があり、さらに各章の最後には世界観を補足するためのこってりとした資料まで付属という凄まじい情報量。こんなものを2時間40分で処理できるのかと思ったのですが(原作者も、最初に映画化を試みたテリー・ギリアムも、一本の映画にまとめることは不可能と語っていた)、驚いたことに原作にあった要素はほとんど捨てておらず、かと言って駆け足感もなくて原作と同じようなテンポを再現しています(退屈だという意見もありますが、当の原作がこのテンポであり、そこまで忠実に作られているのです)。また、登場するキャラクターの印象も原作を読んだ時のまんま、ロールシャッハは相変わらずかっこよく、ナイトオウルは相変わらずのヘタレで、Dr.マンハッタンは相変わらずフルチンです。ミニッツメンとウォッチメンという新旧2つのヒーロー組織が登場し、それぞれのヒーローは本名とヒーロー名の両方で呼ばれるため非常に複雑、原作は何度も前のページに戻りながら読んだのですが、映画版はこの辺りの交通整理をうまくこなしており、はじめて見る人でも混乱しないように作られています。こうした秀逸な脚色の上に、監督のビジュアルセンスが炸裂。「ゾンビ」のリメイクでガンコな旧作ファンを返り討ちにしたツワモノだけあって、本作でも驚異的な仕事をしています。原作のカットを忠実に再現しつつ、実写ならではのアップグレードも加味。格闘時のロールシャッハの素早い身のこなしは原作を超えるかっこよさだし、火星に現れる楼閣の美しさは芸術的ですらあります。役者もよく選んできています。全員原作のイメージ通りであり、特にロールシャッハは、正義に執着することで生きている精神異常者で、背の低いブ男なのにマスクをかぶると猛烈にかっこいいという難役であったにも関わらず、これにハマる俳優を選んできているのが凄いです。以上、「ウォッチメン」の映画化としては完璧な仕上がりだと言えます。ただ、ここまで忠実だとどうしても原作ありきになってしまうので、さまざまな工夫がなされているとは言え未読の方にとっては苦しい出来なのも確か。一本の映画としてどう評価すべきかは難しいところです。とりあえず私は気に入ったので、高得点を付けておきます。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2009-09-17 19:00:41)(良:3票)
91.  X-MEN2
第一作公開時、よく出来てはいるが物足りなさの残る仕上がりへの批難は、娯楽作の経験のないブライアン・シンガーに集中しました。あんな生真面目なのじゃなく、面白い映画を撮れる人間に監督させるべきではなかったかと。しかしシンガー、第二作ではやってくれました。冒頭から見せ場の連続。第一作で技術的な経験を積んだことから映像表現を自在に操る術を学び、SFX満載、超能力を操るミュータント達の戦いを想像力の限りを尽くして描きます。火薬満載だが知性を感じさせる見せ場作りはさすがシンガー。他の監督ではここまでのものは作れなかったでしょう。また脚本レベルの完成度も高く、学園を襲撃されたウルヴァリンの反撃、暴力の限りを受けたマグニートーの脱獄と、虐げられるミュータントが、忍従を重ねた末にその特殊能力を発揮して反撃をするという構図のアクションには燃えに燃えましたとも。ストライカーという共通の敵の登場でX-MENとブラザーフッド(と言ってもマグニートーとミスティークの二人だけですが…)が手を組んで闘うというモロ少年マンガの展開にも、やはり燃えてしまいます。難を言えば、ブライアン・シンガーの悪い癖で後半のバトルが冗長になりすぎたことでしょうか。この人は非常に丁寧に作品を作る監督なのですが、やりすぎて観客の生理を無視してしまう傾向があります。後半ももっとコンパクトで畳み掛けるような展開にすれば充実したアクション大作になったと思うのですが、いかんせん長い。あと、X-MENのリーダーでありながら何の役にも立たないサイクロプスと、ミュータントの指導者でありながら敵の手に落ちて足を引っ張るプロフェッサーの扱いは、さすがにどうなんでしょう。「3」ではあんなことになってしまうし。「1」の後で売れっ子になったヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、イアン・マッケランの見せ場を増やすために、彼らの役回りが悪くなったようにも感じます。
[映画館(字幕)] 8点(2009-09-10 21:00:46)(良:3票)
92.  X-メン
09年現在まで続くアメコミ実写化ブームの最初の作品であり、本作の成功が後続の企画達の大きな原動力となったという意味で、かなりの重要作です。現在あらためて見返すと、公開時に感じた以上に脚本・ビジュアルともに緻密に作り込まれていることに驚かされます。コミックを実写化する上での最大の問題である、二次元のキャラなら特に問題ないが、いざ生身の役者にやらせるとおかしなことを、どこまで原作に忠実にやるべきなのか?本作に先駆ける「スーパーマン」は怒涛のSFXを売りにすることで、「バットマン」はティム・バートンの独特の世界観を提示することで、この難題からうまく逃げてきました。しかし本作はハリウッドではじめてこの課題に真正面から挑み、かつ成功させており、ある意味で後続作達のガイドライン的な役割を果たしています。ウルヴァリンをはじめとした奇妙奇天烈なルックスのキャラ達を驚くほど原作に忠実に再現。シリアスな世界観の中にあって、あの強烈なルックスのキャラ達を観客に受け入れられるようにまとめているのですから、ブライアン・シンガーは驚異的な仕事をしています。彼らの登場のタイミングや、その能力の表現が細かいところまでよく考えられていて、特に映画の冒頭をマグニートーの少年時代とし、ユダヤ人収容所での悲劇的な物語を頭に持ってきたことは、これはどういう映画であるかを観客にガン!と提示する意味でかなり効果的でした。さすがに擁護しがたいようなおかしな要素は笑いにしていて(変なニックネームのキャラ達を紹介されたウルヴァリンが、プロフェッサーXに向かって「で、あんたは"車イス"?」、コスチュームを渡されて「本当にこれで人前に出るのか?」)、脚本は非常に柔軟です。自由の女神の土産物屋を舞台としたラストのバトルにはさすがに物足りなさがありましたが、技術的にテスト段階にあった作品だけに、下手に大風呂敷広げて失敗するよりも出来る範囲で小さくおさめたことに、制作陣の真摯な姿勢がよく出ています。これについてはアクション大作となった「2」できっちり答えを出しており、シリーズ化のために作品を破綻させないことを重視した第一作の判断は、今となっては好意的に評価すべきでしょう。
[DVD(吹替)] 8点(2009-09-10 18:14:12)(良:3票)
93.  マイ・ボディガード(2004)
主人公が動き出す時には誘拐事件は終わっており、復讐のために闘うという変わった着眼点の作品ですが、圧倒的な殺人スキルでやりすぎなくらい暴れ回る主人公の姿には爽快感すら感じました。敵は子供の命を飯の種にし、権力を傘に法の追及を逃れるという汚い連中。こんな奴らは殺して当然、苦しみを味わわせて当然。「この事件に関わったやつ、甘い汁を吸ったやつは全員殺す」というデンゼルの処刑人宣言には燃えましたとも。この手の映画にありがちな「殺しはダメだ」などという薄甘い良識は一切なく、法で裁けない極悪人は殺すしかないという実に正直なバイオレンスとなっています。普段は人畜無害なアクション大作を撮りつつ、たまに「リベンジ」や「トゥルーロマンス」のようなウルトラバイオレンスを作ってしまうトニー・スコットの、ブラックな面がドバっと出ています。ただ血生臭いだけでなく、悪者の体内に仕込んだ爆弾のカウントダウンが画面に表示されるなど、「北斗の拳」かというような悪趣味な映像テクニック満載で飽きさせません。デンゼルの怒りに合わせてテロップの文字が変わるなど、映像でイメージを伝えることに長けたMTV出身ならではの強みも発揮。「ナチュラル・ボーン・キラーズ」でオリバー・ストーンがやろうとしていたバイオレンスと映像ギミックの融合を、スコットはより器用にやってのけています。またスコットのようなベテランが監督したことにより、直情的な話ながら丁寧に作るべき部分はきちんと作り込まれています。「心に傷を負ったボディガードと、それを癒す少女の触れ合い」というベタベタな前半部分を、安易な仕上がりにしていないのは見事なものです。俳優の動かし方もうまく、ダコタ・ファニングは出演作中最高の演技を見せており、またクリストファー・ウォーケン、ミッキー・ロークの使い方も完璧です。上映時間から予想していた長さもさほど感じず、バイオレンス映画としてはかなり上質な部類の作品だと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2009-07-18 14:06:57)
94.  ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 《ネタバレ》 
【激しくネタバレしています】 テレビシリーズにおいては、毎回使徒を殲滅する爽快なアクションや学園ものとしての明るい面が強調されたパートに当たり、またシリーズ中最大の盛り上がりとなった最強の使徒との戦闘→初号機の覚醒もあって、かなりおいしい部分に当たるのがこの「破」です。というわけで初っ端から見せ場の連続、「序」を見てしまっているのでビジュアルへの驚きは薄くなりましたが、意表を突くような使徒のデザインや(時計の針みたいなやつまで登場)、細かいところまでこだわり抜いたアクション、音楽と渾然一体となったキレのいいカットにはやはり大興奮なのです。ハリウッド大作でもここまで見せるものは少なく、日本はやはりアニメの国なんだなぁと実感しました。本作より新劇場版はオリジナルとは異なる展開となりますが、かと言ってまったく新しいことをやるのではなく、オリジナルにあったパーツを組み替えることで意味合いを変えていくという、いかにもファンを喜ばせる遊びをやっているのはさすがです。そうして中盤まではテレビ版を踏襲した作りとしていただけに、テレビとは大きく変わったクライマックスの戦闘にはかなり驚かされました。使徒がエヴァを捕食するというテレビと逆の関係になっていたり、「覚醒」が「ビーストモード」としてエヴァのオペレーションに組み込まれていたり(しかも今回はエヴァが負ける)、極めつけは旧シリーズのクライマックスだった初号機の神格化及びサードインパクトがここで発生しており、「おいおい、もうはじまっちゃったか」とかなり意表を突かれました。さらにシンジとレイの行動原理を明確にお互いへの愛情としたため、前回の気の重くなるようなサードインパクトから一転、えらく前向きで力強い意志をもったサードインパクトとなっています。今回はシンジとレイの成長が大きな鍵となっていますが、一方でシンジをレイに持って行かれ、加持さんも心の恋人ではないアスカの冷遇ぶりはお気の毒でした。また新キャラであるマイは主要な登場人物にほとんど絡んでおらず、オリジナルに比べて微妙となったアスカ、立ち位置のはっきりしないマイ、登場のタイミングが大きく変わったカヲルが今後どのような形で話に絡んでくるのか、「Q」も見逃せない終わり方となっています。今回のように2年も空けることなく、できれば半年以内にでも見せてくれれば嬉しいんですけどね。
[映画館(邦画)] 8点(2009-07-01 22:30:10)(良:2票)
95.  ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
キャラも話も見せ場も大きな変更はなく、新しいものは特にないのに、舐めるほどオリジナルを見ていた人間を納得させるだけの映画にしているのですから、エヴァという素材がいかに強力であるか、また新劇場版がいかに優れた娯楽作であるかがわかります。時間的にはかなり端折られているにも関わらず話の要点は外しておらず、また駆け足感もさほど感じない要約の絶妙さ、一方でエヴァの特徴である意味深なセリフや内面描写、「謎」への振りは、劇場での鑑賞でも消化できる程度の適度な密度に抑えていたりと、ストーリーテリングのレベルは相当なものだと思います。オリジナルを製作している時点において、監督たちのエヴァに対する理解は必ずしも統一されていなかったということですが(その混乱が、見る側にいくつもの解釈の余地を与える奥深さにつながっていましたが)、エンターテイメント志向の今回は話をまとめるつもりで作っているようで、極度に混乱させるような展開はなくなって見やすい作品となっています。編集は冴えに冴えており、ヤシマ作戦においてシンジがトリガーを引く瞬間に向けてドラマやアクションがきれいに収斂されており、実写でもここまで盛り上げる編集は滅多にないなぁと感心しました。そして、やっぱり凄いのがビジュアルの強化です。おおまかな流れは変わっていないものの、気の利いた追加や修正により驚くほどかっこよくなっています。最大の変更点は、シンジ、レイ以外にも使徒と戦っている人々の描写を充実させたことで、ヤシマ作戦に向け、大破した初号機を急ピッチで修理したり、シンジに陽電子砲を撃たせるため日本中のインフラが動員される描写が入ったことで、作戦の規模や重要性がより際立ちました。14才にしてこれだけのミッションを背負わされるのですから、「乗りたくない」というシンジの気持ちも理解できます。また要塞都市たる第三新東京市の防衛システムの描写が大幅に増えており、使途vs従来兵器は怪獣映画のようなひとつの見せ場となっています。細かい点では、エヴァ出撃シーンでのオペレーションをいくつか増やしており、ロボットものの重要な見せ場である「発進」が格段にかっこよくなっています。当初は必ずしも好意的には受け止められていなかった新劇場版ですが、公開されるや多くの人を振り向かせたパワーはさすがのものです。
[映画館(邦画)] 8点(2009-07-01 20:26:54)
96.  テキサス・チェーンソー ビギニング
「ビギニング」と言っても、レザーフェイスの生い立ちについては「セブン」風のタイトルバックで断片的な情報が与えられるのと、精肉工場からチェーンソーを持って帰るエピソードぐらいで、これぐらいなら誰でも想像がつきますよねという範囲のもののみです。要するに、そのルックスからいじめに遭って性根が歪んだウォーズマンみたいなやつだということです。今回レザーフェイスの出番は少なく、代わって前作でも輝いていたホイト保安官が映画を席巻します。キューブリックも惚れたリー・アーメイ先生の容赦のない罵倒、不条理を不条理とも思わない揺るぎのなさ、巨乳のお姉ちゃんがいれば躊躇せず乳を揉むストレートな人柄が炸裂。その暴れっぷりは「フルメタル・ジャケット」を完全に超えており、レクター博士やダースベイダーが物分かりの良い穏健派に思えるほどの壮絶な悪者ぶりを披露します。前作はレザーフェイスとの追っかけがメインでアクション映画のようになっており、ショックシーンの連続ではあるもののビジュアルへの偏重が恐怖の底にもなっていました。しかし本作は気の狂った人間から無茶を言われまくる不条理さが大幅に強化されたことで恐怖が底なしとなり、さらにパワーアップしたゴア描写との併せ技により、ホラー映画としては史上最高レベルに達しています。残酷慣れした私の友人も「これは怖かったなぁ」と大絶賛でした。不条理さが支配する独特の空気を作り上げ、また観客の先読みをリードして話を進めるなど、脚本はかなり練り込まれています。特にすごかったのが、一家の母さんとデブのおばちゃんが、足元に女の子が転がってるのに気にも留めず世間話をしているところ。このとんでもない世界観、被害者たちの絶望感は他にありません。そこからの逆転のカタルシスもきっちりと描いており、体に力が入りっぱなしの90分でした。
[DVD(吹替)] 8点(2009-06-19 19:03:56)(良:1票)
97.  ターミネーター4 《ネタバレ》 
物陰に隠れてレーザー光線を撃つのが精一杯のもっとチマチマした戦争をイメージしていただけに、潜水艦を司令部にし、空中戦もやってみせる人類の予想以上の健闘ぶりに燃えました。部隊と共にヘリから降り立つジョンの登場シーンでは「これは戦争映画だ!」という監督の心意気を感じ、「こういうのを待ってたんだ」となぜか涙目になる私。大小揃ったロボの充実ぶりに、巨大ロボからモトターミネーターが分離するギミック、また輸送船からHKが分離するギミックと、「ロボットの醍醐味は分離・合体である」という重要な基本を押さえた素晴らしいシーンの連続に感動しました。またマーカスという新キャラも良く考えられています。2003年までの記憶しかない彼が観客と世界観の橋渡しの役割を果たしており、彼が見聞きするものが情報として観客へ提供されるという巧い構成になっています。彼が頼もしい用心棒として大アクションを繰り広げる前半は旧3部作のアップグレード版であり、この過程で観客はマーカスに感情移入します。またジョン役にクリスチャン・ベールを得られたことも幸運で、本作の実質的な主人公はマーカスであり、相対的にジョンの出番は少なく、また一時的にマーカスを殺そうとするヒールの立場にもなるのですが、ベールの存在感によりカリスマ性ある人物にきちんと見えています。カイルとの出会いは素晴らしく、「命を捨てて母を守ってくれた偉大な父にようやく会えた」というジョンと、「憧れの指導者が目の前にいる」というカイルの視線が交錯する時の、ベールの表情が物凄く良いのです。カイルとの出会いに続いてT-800州知事モデルの登場でさらに因果な展開を迎えますが(なんでこのサプライズをCMで見せるんだ!!)、ここで脚本は残念なミスを犯します。2、3と「スペックで劣る善のターミネーターが、サラやジョンとの関わりの中でスペックを越えた力を見せ、新型を倒す」という展開で来ており、このバトルもそれを踏襲したものだと言えますが、マーカスの中身はT-800と同様のものなのか、それよりも劣る機体なのかを説明するセリフがないため、前作のような燃える展開になっていません。また、生前のマーカスが犯した罪についても言及されないため、「今度は良いことをしたい」というマーカスの行動もしっくりきません。死ぬ前にでもこれを告白させるべきでした。
[映画館(字幕)] 8点(2009-06-15 10:05:43)(良:3票)
98.  グッドナイト&グッドラック
オスカー主要部門への大量ノミネート、ベルリン映画祭主演男優賞&脚本賞受賞も納得の仕上がりでした。クルーニーとグラント・ヘスロフ(トゥルーライズ等に出てた人)による脚本が非常に秀逸で、事実ベースの淡々とした物語でありながら、エンターテイメントとして十分楽しめる作品となっています。この手の作品にありがちな過剰な煽りや一方的な主張がなく、ジャーナリズムの良心というテーマ同様、本作の制作陣の姿勢も非常に良心的なものだと言えます、事実に基づいた話を取り上げる場合、必ずしも映画が望むタイミングで山場やオチが来てくれないという大きな制約があり、これに直面した多くの作品は事実とはズレのある展開・解釈を加えることで製作者が意図する物語にしようとしますが(インサイダー、ビューティフル・マインド、シンドラーのリスト等々)、本作は脚色を極力排除し、事実を追うことを最優先にしています。また、劇中声を荒げるのは記録映像におけるマッカーシー議員のみであり、論理的なセリフの淡々とした積み重ねのみでスリリングで物語が構築されています。このように映画を盛り上げるための技術を相当放棄しながらも面白い作品にしているのですから、驚異的な仕上がりと言えます。この手の作品は冗長になりがちですが、コンパクトにまとめたのが勝因でしょうか。話をあちこちに飛ばさず局内で起こることのみに集中し、登場人物や発生するイベントを無闇に水増しするようなことをしていません。仕事とプライベートの間での悩みといったお決まりもなし、ジャーナリストとして為すべきことを為すプロの姿のみが描かれます。こうした地に足のついた描写は、ニュースキャスターを父に持つクルーニーならではの強みでしょうか。
[DVD(吹替)] 8点(2009-06-05 22:49:34)
99.  リトル・チルドレン 《ネタバレ》 
大学院まで出たのに今は郊外で退屈に暮らす主婦と、ロースクールを卒業して華々しい人生を送るつもりが司法試験に合格できない主夫の不倫を通して、普通の人たちの抱える心の隙間、満たされないモヤモヤがうまく描かれた作品でした。豪邸に住んでるんだからいいじゃないか、美男美女の夫婦でうらやましい、世間的には満たされているように見えても、当の本人は満足していません。それは今の生活への不満ではなく、「ほどほど」で落ち着こうとしている今の自分を認めたくない、自分には何か可能性があるのだと信じ続けたいという欲求でしょうか。大人になるのは切ないことで、若い頃には持つことができた漠然とした希望を捨てねばならない、自分には何ができて何ができないのかを悟らされるため、広がった自我と限られた現実を突き合わせないといけない。そのギャップに悩まされるのが20代後半から30代前半という主人公達の年齢に当たります。反発すべき明確な対象もなく、努力すべき目標も見つからない(サラはただ退屈に日々を送り、ブラッドは司法試験に合格できないことを悟っているものの、他にやるべきことがありません)、しかし今の自分は自分ではないのだと思いたいという自我のみが存在する。その隙間を埋めるために見つけたのがフットボールであり不倫なのでしょう。本作の不倫は独特で、普通不倫といえば生活感ありすぎの奥さんから派手なものへ魅かれていくのですが、ここではスーパー美人のジェニファー・コネリーを捨て、主婦丸出しのケイト・ウィンスレットと駆け落ちしようとします。サラもブラッドも人生を賭けていいほど相手に魅かれているのではなく、このままでは認めざるをえない現実を否定するための幻想として不倫をしているのです。ラスト、サラは自分が守るべきものを再認識し、ブラッドはスケボー(!)で満足感を味わうことで、あっけなく駆け落ちを思いとどまります。ラストがつまらんという意見もありますが、このあっけなさこそが大事でした。もしここが劇的であると、映画の主張しようとすることが見えなくなります。また不評のナレーションも曲者で、状況説明や上っ面の心情描写はするものの、映画の主題に当たる部分については一切語らず、そこは見る者に投げています。小説のように行間を読むことを観客に要求してきており、そのため文学作品に近い質感を作るべく無機質なナレーションを挿入したのでしょう。
[DVD(吹替)] 8点(2009-05-30 17:49:35)(良:1票)
100.  007/慰めの報酬 《ネタバレ》 
カジノ・ロワイアルの緻密な完成度と比較すると007らしい大味さが気になる面もありましたが、ブロスナン時代のようにバカに突き進むこともなく締めるべきところはきっちり締まり、硬派な空気が全編に渡って維持されています。やたら向いのベランダに飛び移る逃走劇や高速の編集でジェイソン・ボーン状態となったアクション、外交上のしがらみから捜査にストップがかかり、現場が単独行動せざるをえなくなるジャック・バウアー状態の展開とよそ様のおいしい面をいただきつつも、007らしい面白さもキープ。突飛な展開が入っても観客から許容されることが老舗007の強みですが、本作においてはそのブランド力がうまく活用されています。スペクターのような世界的な闇組織を登場させることにまんまと成功しているのです。M:iシリーズが悪役を作ることに苦労し、3作すべて局内の裏切り者になってしまったことを考えると、この時代に世界的な悪の組織が登場するアクション大作を楽しめるのは007だけ。突如スカイアクションがはじまっても違和感なく楽しめるのは007だけ。砂漠のド真ん中に要塞のような建物が「ホテルです」と言って登場しても、特におかしく感じないのは007だけ。50年で培われた暗黙の了解とは大きいのです。ダニエル・クレイグも確実にボンドをモノにしてきています。ひたすらストイックで一本気であればよかった前作と比べると、終始クールな中でもボンドらしいくだらないジョークを口にし、男のフェロモンで女性を骨抜きにする砕けた面も求められた本作はバランスが難しかったはずですが、これらをうまくこなしていて感心しました。表面的には反目しあいながらも硬い信頼で結ばれているMとの関係性もうまく描かれており、オスカー脚本家とドラマ畑の監督、演技のできる俳優が揃ったおかげで良い作品になっています。ラストも秀逸で、ジェームズ・ボンド個人の感情とエージェント007の職務というふたつの物語が余韻を残して締め括られており、新シリーズのドラマ性の高さがここでも味わえます。惚れた女が付き合ってたのがクソ男だったと知った時の憤りは、男性ならみなさんわかりますよね。良い女はなぜクソ男と付き合うのか。しかし私怨に走らず、山ほどある感情を口にせず、007としてやるべきことを優先したボンド。Mも含め「そいつなんか殺しちゃってもいいよ」という状況でも職務を優先した男の背中こそが最高の見せ場でした。
[映画館(字幕)] 8点(2009-02-02 01:36:28)
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