81. blue(2018)
《ネタバレ》 屋外なのか室内なのか分からない夜の静寂の中、虫の音、犬の遠吠えが遠くに聴こえ、 景色の描かれた垂れ幕が巻き上げと巻き戻しを繰り返す。 やがて女性の眠るベッドには燃え盛る炎が重なるように映し出され、映像と環境音がレイヤーのように連なって映画は完成される。 いつまでも眠れない熱帯夜に見る白昼夢を表現しているようだった。 この緩慢さが眠りに誘い、映画と同化していくことが監督の狙いかもしれない。 アピチャッポン・ウィーラセタクンの長編を覗きたければ、この短編を見て自らふるいにかければいい。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-06-12 23:25:01) |
82. レイダース/失われたアーク《聖櫃》
《ネタバレ》 完結作を控えるシリーズながら一作目は今から42年前の製作で、もはや冒険活劇の"古典"の仲間入りと言ったところ。 ハリソン・フォードの魅力に、見せたいものを惜しげもなく見せてくれるスピルバーグの演出にワクワク。 特殊効果の数々は当時はアナログながら、画面の粗さと相まって味のあるものに感じられるし、 アークの呪いで敵の顔が溶けるクライマックスは、子供にトラウマを刻み付けるほどの強烈なインパクトを放つ。 宝探しのロマンとユーモアを掛け合わせた見事なエンターテイメント性は『ハムナプトラ』に影響を与えるほど、 コンテンツとして完璧としか言いようがない。 [地上波(字幕)] 7点(2023-06-08 22:41:20) |
83. シン・仮面ライダー
劇場公開最終日に見てきました。 「仮面ライダーファンのための映画」というより、「仮面ライダーファンが作った映画」という表現がピッタリ。 それも筋金入りの。 原典へのリスペクトを散りばめるように、古臭さを残す特撮やアクションのカット割りといい、郷愁へ誘うこだわりを感じた。 反面、令和だからこその現代的解釈が空回りしており、政府関係者を出す意味が感じられず、 基本人気のいないところでの撮影ばかりでスケールがこじんまりとした印象を受けてしまった。 これでは令和の時代に甦らせる意義が弱い。 あとは庵野監督の悪い部分が終盤はもう剝き出しで、内省的な展開がひたすら続く最終決戦はもういいやと思ってしまう。 全編説明不足で新規の仮面ライダーファンでも終始置いてけぼりではないか。 これは彼のサポートを務めていた樋口真嗣が不在で、誰も止められない暴走状態であったことが目に浮かぶ。 「熱量は感じられるが、思い入れが強すぎて客観視できず、明後日の方向へ全力で走っていった二次創作」というイメージ。 シン・シリーズ完結後、庵野監督はどこへ走っていくのだろう。 [映画館(邦画)] 5点(2023-06-04 22:36:00)(良:2票) |
84. わたしは最悪。
《ネタバレ》 何者にもなれない30歳女性の惑い。 自分がどうしたいのか分からず、やりたいことも付き合っている男もとっかえひっかえで長続きしない。 確かに原題通り、リアルに付き合ったら面倒臭い"最悪な人"なのだろう。 とは言え、昔と違って女性の自由も選択肢も広がり、 元カノの風刺漫画家に「女を侮蔑している」と意識高い系のフェミニストが発言できるくらい、 ヒロインの悩みがあまりにも贅沢になってしまったように感じる。 清潔感たっぷりなオスロの街ではなく、発展途上国が舞台だったらこうも行かないだろう。 元カノの漫画家が別れる際に「君はいつか後悔する」と発言し、事実、彼はガンに侵され死ぬことになった。 自分はこのまま何者になれず母親に落ち着いてしまって良いのだろうかと悩んでいるうちに、 足に地をつけなかった不安定な心を救ってくれる人がいることに気付いていれば、 きっとガンの早期発見はあったかもしれない。 その一方で新しい恋人との妊娠にすぐ向き合っていれば、たとえ流産でも破局はなかったかもしれない。 人生とは後悔の連続で、選択の積み重ねでもある。 主役にもなれない取り留めのない人生だとしても、何かを掴んだ彼女の人生は今日も続いていく。 レナーテ・レインスヴェが多彩な表情で痛々しくも呆れながらも好演していたのが性的シーンの下品さを和らげていた。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-06-04 01:51:27) |
85. ファウスト(1994)
《ネタバレ》 人間の顔をした"悪魔"に気を付けろ。 そこには奇跡も魔法もないんだよ。 怪しげなビラに記された地図に導かれ、満たされない日々を送る男が体験する悪夢。 欲しいものと引き換えに悪魔に魂を売り渡す契約をしたが最後、 台本通り動く操り人形の如く、地獄へと一直線。 現実と虚構が曖昧になっていく中、道化師の呪文に右往左往される悪魔が笑いのツボに入った。 どこか既視感があると思ったら、過去作の『ドン・ファン』の要素も多少入っているのだろう。 もう一度言うが、人間の顔をした"悪魔"に気を付けろ。 心の隙間に入り込み、魂を食い物にする。 序盤に主人公とすれ違って逃げた男、新聞紙に包めた身体の欠片を見るに、 奈落への入り口に我々は立っている。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-05-24 21:39:57) |
86. すずめの戸締まり
《ネタバレ》 最後の戸締まりと銘打って特別上映だったのでようやく初鑑賞した。 新海誠の通例である「ボーイ・ミーツ・ガール」+「描き込まれた映像美」=「セカイ系」には食傷気味だったものの、 『天気の子』よりはモヤモヤとフラストレーションは少なくて見やすかった。 それでもダイジンの立ち位置が不明瞭で、風呂敷を畳め切れていない点はなくはないけれど。 今回はロードムービーとしての面白さがあった。 青年の身体を取り戻すために西から東へ戸締りしながら行く先々での人々との交流。 『君の名は。』や『天気の子』でもぼかした形で描かれていたが、 やがて東日本大震災の記憶と向き合うことになる。 当事者には思い出したくない記憶と恐怖があり、奪われてしまった故郷と人生がある。 叔母の葛藤と吐露がそうだ。 それでも一人で生きていくことは不可能で、旅先を含めた誰かの支えによってヒロインの現在があり、 青年と自分自身の救済に繋がっていく。 無理に向き合わなくても希望に向けて歩くことはできる。 ただ、災いからはいつかどこかで起きて避けられないし、 そこにはかつて人の営みや時間があったことを風化しないで欲しい。 そういうメッセージを感じ取れた。 [映画館(邦画)] 8点(2023-05-23 22:19:31) |
87. TAR/ター
《ネタバレ》 天才指揮者の罪と罰。 カリスマの皮を被ったモンスターなのか、はたまた男性社会に矯正された哀れなモンスターなのか。 毅然さの裏側で脆く孤独なリディア・ターの重層的なキャラクター性をケイト・ブランシェットが的確に表現。 架空の人物とは思えない立体的な人物像で迫ってくる凄みに、3個目のオスカーを取っても誰も文句は言わないだろう。 遠い昔とは違い、カリスマだから暴挙が許される時代ではなく、ネットで拡散され一気に名声を失ってしまう恐怖。 彼女は弟子の死に向き合うことなく、その傲慢さが仇になって自滅してしまった。 歴史に残るアーティストでも人格破綻者なのは珍しくないが、その功績を重罪によってかき消す権利はあるのか。 誰もが正義という刃物を持っている自覚を持たないといけないはずだ。 彼女は東南アジアで再起を図る。 その仕事内容は人気ゲーム『モンスターハンター』のオーケストラ演奏会で、観客は皆そのコスプレをしている。 落ちぶれてもなお権力の残骸に縋り付いているのか、原点に立ち返って新たな"発見"をするかは分からないが。 しがらみから解放され、タダでは起きない芸術家としての揺るぎない自信と探求心に、 趣味で絵を描いている私にとって、その矜持に共感してしまうラストだった。 [映画館(字幕)] 7点(2023-05-19 23:20:01) |
88. ハリー・ポッターと炎のゴブレット
《ネタバレ》 原作既読済みだが、上下に分かれるほどの大長編で読むのが苦行だった気が… ヴォルデモートの復活、セドリックの死、ムーディが偽者くらいしか覚えていない。 それから10数年経って映画を見る機会があり、視覚と聴覚に物語が入ってくることの有難みを感じる。 思春期に入ったので少年少女共々面倒臭いに尽きる。 それを集中して描けば良いのに心理描写が唐突すぎて、四面楚歌からのいきなりな手のひら返しと、 ただただ話をまとめるためにローテーションをこなしているように感じた。 見ている間は退屈しないかもしれないが、全体を俯瞰すると悪い意味でゴチャゴチャしていて、 原作を読んでいた頃は気にならなくても、生徒一人殺されてダンブルドアが責任取らないのは確かにモヤモヤする。 やはり原作トレースしたダイジェスト感が否めず、TVシリーズ向きな作品だろう。 [地上波(字幕)] 5点(2023-05-18 23:13:38) |
89. さらば、愛の言葉よ
《ネタバレ》 アマゾンプライムで視聴。 配信側の不具合なのか、16:9を4:3に押し込んだ画面比率をどうにかして欲しいと思ったものの、 それがどうでも良くなるくらい、結婚するのかしないのか、産むのか産まないのかという男女の痴話喧嘩を 哲学的な台詞と表現で煙に巻いているだけのようにも見えなくない。 そこに挟み込まれる血と暴力と死のイメージ、ホームビデオの世界に押し込まれる犬の存在。 如何なる映像美があっても、ただただ空疎に見えてしまう。 高齢にも関わらず3D撮影にも初挑戦して、新たな表現に挑み続ける姿勢とずば抜けた感性は賞賛されるべきだろう。 ただし、面白いかは別問題であり、ゴダールというネームバリューで見ている人が圧倒的に多いのではないか。 無名の監督が同様の映画を撮っても全く相手にされないと思う。 映画とはなんだろうね… それで締め括ろうなら映画というものを浅はかに見てると言われるかもしれないが。 [インターネット(字幕)] 2点(2023-05-07 22:39:18) |
90. サクラメント 死の楽園
タイトルの『サクラメント』は、"キリスト教における神の恩恵を信徒に授ける儀式"のこと。 その名に因んだカリフォルニア州の都市が舞台というわけでもなく、もちろん桜とも関係ない。 かつて実在したカルト教団の凶行をモチーフに、 某国奥地の教区を訪れた取材班が体験する恐怖の20時間をPOVで描く。 予告編通りの内容でそれ以上の衝撃展開があるわけでもなく、実録よりショボく感じる。 グロは控えめでクライマックスもあっさりなので、ホラーが苦手でも見れるのではないか(退屈だけど)。 信者が教祖に惹かれる理由に説得力が足りないのでもっと踏み込んで欲しかった気がする。 ただ、元ネタになった教団が大きくなった背景に、 貧困と差別と家庭問題でどこにも居場所がない人で溢れていたというのもある。 孤立したその人の弱みに付けこんで、食い物にしてきたのはいつの時代も変わらない。 "貧困ビジネス"の雛形であるが、本作に求める内容ではないのでここまでにしておく。 【5/18追記】 取材したデジタルメディア・VICEは実在するが、2023年5月16日に破産申請した。 本作が製作されて10年、メディアをめぐる需要の変化を感じる。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-05-07 22:10:19) |
91. アルゼンチン1985 〜歴史を変えた裁判〜
《ネタバレ》 1976年から1983年にわたり、アルゼンチンで発足した軍事独裁政権による国民への熾烈な弾圧が行われ、数万人もの犠牲者が出た。 政権が倒れたあと、当時の首謀者を裁くべく、正義を以て戦う検事と若き法律家を描いた実録法廷ドラマ。 堅苦しい映画ではあるが、小難しい内容にはなっておらず、知らない人にも分かりやすいエンタメ作品に仕上がっていた。 法廷シーンに移行してからはずっと引き込まれ、暴力描写に満ちた回想シーンを一切用いらなくても、 証言が雄弁に真実を語る力強さに圧倒され、脅迫されても何事もなく振る舞う家族のタフさに驚かされる。 検事とタッグを組む副検事が政権を握っていた軍を全否定しないように、 人間という矛盾した存在ながらも、人の尊厳を保つこと、いかなる組織でも罪は罪であることを認識させることの重要さを説く。 民主主義と社会正義を強く訴える検事の最終論告も実際の映像を交えながら力強い光を放つ。 ここで終わってくれたら完璧だったんだけどね、その後の展開が蛇足になってしまった感がある。 とは言え、再現VTRに墜ちておらず、映画としてはなかなかの良作。 ゴールデングローブ賞で受けたのも、言語を超えた普遍的なメッセージ性と時折挟み込まれるコミカルさによる敷居の低さかな。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-05-01 23:59:09) |
92. スパイダーマン(2002)
子供の頃、リアルタイムで映画館で観たことがあったが、3億ドルかけた割にどこが良いのかさっぱりだった。 ただ、久しぶりに三度目を視聴した結果、 「大いなる力には大いなる責任を伴う」が社会人になって身近に感じるようになった。 後天的に授けられた能力が羨ましくある半面、それが誰にも言えない秘密だったらという苦悩が 等身大のヒーローとして胸に響くものがある。 一方で内なる願望が歪んだ形で表面化し、ある意味で精神の自由を得たグリーンゴブリンとの対比が、 力を持つことの意味を際立たせていた。 その後、様々なスパイダーマン映画が役者を変えて監督を変えて繰り返されてきたが、 ハリウッド初の長編映画化という意味で原点にして頂点。 下手に改変しまくるよりは正攻法で安心して楽しみたいという時点で歳を食ってしまったと感じる。 [地上波(字幕)] 6点(2023-04-30 23:45:59) |
93. ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
映画が終わり、ホールが明るくなると子供たちの声が聞こえてくる。 「あーたのしかった♪」 米批評サイト・ロッテントマトで、観客と批評家で評価が二分している本作。 メッセージ性も深みもなく、ストーリーに捻りがあるわけでもない。 批評家受けの"そういう造り"にできないわけでもないが、ゲームの世界観が壊れるリスクもある。 監督の思想が入って、大炎上した名作ゲームの映画化が近年あったからだ。 「保守的すぎる」「幼稚」と言われようが元の世界観を大事にし、王道エンタメに全振りしているわけだから、 深みや捻り、ましてやポリコレ配慮を求めるのはナンセンス。 その答えが記録的大ヒットに繋がっている。 ただただ御託は並べず、童心に帰って子供たちと一緒に遊園地のアトラクション感覚で 「あーたのしかった♪」 と一言述べて終わるレビューがあっても良いだろう。 それこそ観客が本来求めている映画のあるべき姿であり、それ以上は要らない。 いっそのこと、アカデミー賞で作品賞を取ったら面白いかもね。 だって、「その年で一番、最も大衆に支持された映画」なのだから。 [3D(吹替)] 8点(2023-04-30 20:56:01)(良:3票) |
94. イメージの本
2022年9月13日、91歳の生涯を閉じたゴダールの遺作。 彼の初期作品を数本見た程度であるが、本作を見れば初期作品が如何に映画としての原型も、 エンタメ性も残っているのかよく分かる。 商業映画から決別し、映画の新たな可能性を模索しているのは確かだろう。 新撮が含まれているとはいえ、既存の記録映画と劇映画のコラージュに難解で哲学的なナレーションが重なる。 映画という概念を解体して、再構築した結果、仙人にならないと理解できない代物になってしまった。 普通の人が見たら映画ではなく、ただの睡眠導入剤だ。 10回見ようが、100回見ようが、きっとゴダールが見た真理には辿り着けないし、 この時間を別のことに使った方が有意義だろう。 哲学的に考え抜いた先にあるのが厭世であり、病苦による尊厳死だとしたら虚しい。 ただ、それも彼の選択である。 [インターネット(字幕)] 1点(2023-04-27 23:56:04) |
95. オテサーネク 妄想の子供
《ネタバレ》 2時間強とやや長めだが、切株の人形に命が宿ったあたりからジェットコースタームービーの如く引き込まれた。 シュヴァンクマイエル監督の映画を幾分見ていたのもあり、比較的分かりやすくエンタメ寄り。 ご丁寧にも元ネタの民話を説明してくれる。 「食べることは相手の命を奪うこと」。 そのグロテスクさを否応なしに突き付け、子供ができない夫婦のエゴイストぶりと重なる。 嘘を付き続けて、ますます引き返せなくて、増えていく犠牲者たち。 夫婦の秘密を知った隣人の少女はそれを分かっていながら、オテサーネクとの絆を選ぶ。 秘密を持つことにワクワクしながらも自身の所有物として見ている感じの子供の残酷さが際立つシーンだ。 短編『地下室の怪』(1983)のセルフオマージュ感あり。 キャベツ畑を荒らされた管理人の老婆が民話通りオテサーネク討伐を仄めかして映画は終わるが、 そう問屋は卸さない気がする。 期待通りの気色悪さ、堪能させて頂きました。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-04-27 23:32:42) |
96. ピーターラビット2 バーナバスの誘惑
《ネタバレ》 意外とレビュー数が少なすぎて驚いた。 前作の仁義なき戦いに比べると過激さは控えめ。 自分の立ち位置に悩む悪童・ピーターが かつての天敵・トーマスと街の悪党ウサギ・バーナバスのどちらを選ぶのか。 本編でもディケンズが取り上げられていたけど、『オリバー・ツイスト』を下敷きにしているね。 オリジナルの世界観を尊重せず、金のためなら原作破壊も厭わないメディアへの風刺は、 ポリコレだらけのディズニーに向けてだろうか。 並行的に展開されるそのパートを本筋へと合流させつつも、 風刺先のメディアが企画したスパイアクションみたいなことをバンバンやっちゃっているし。 製作者自身がそれに陥ってしまっているのは自虐なのか、ただ鈍感なだけなのか。 「安易に人を信じるな」という道徳的な教訓に行きつき、ピーターたちは本来の場所に帰るわけだが、 全体を俯瞰してみれば方向性が定まらず、別にピーター・ラビットでなくても成立してしまう。 つまらなくはないが、メタ発言していたように無理に続編にしなくても良かった。 [地上波(字幕)] 5点(2023-04-16 10:37:55) |
97. 最後にして最初の人類
《ネタバレ》 評価しづらい… 『ラ・ジュテ』と『人類遺産』がミックスしたような映画だった。 いや、映画というより、打ち棄てられた旧共産圏のモニュメントを背景にした朗読劇、現代アートの類。 20億年後の未来人が視聴者に語り掛ける形式で、これからの宇宙と人類の終焉を語っていく。 助けても欲しいと言いながらも、自らの運命を悟って自己完結しているあたり、 哲学的に考えた末の結論だろうか、現代人との価値観の剥離を感じる。 英語が聞き取れること前提であり、字幕についていくことで手一杯ならば、 視覚と音楽に身を委ねる没入感とは程遠い。 映画でしかできない相乗効果とは思えず、ラジオで流しても問題ないような気がする。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-04-15 00:17:09) |
98. プーと大人になった僕
《ネタバレ》 ネタ切れのディズニーらしい実写化というより、『不思議の国のアリス』みたいな後日談的立ち位置が強い。 子供時代の記憶が遠くに追いやられ、家族との時間も持てず、仕事に追われるクリストファー・ロビンの物語。 再会したプーたちとの哲学的で空気の読めない言動にイライラさせられるのは、 「現実はそう甘くないし、責任とか身動きできないことで雁字搦めになっている」自分自身であることに気付く。 誰だって楽になりたいし、何もしたくないのは分かるけど、どうにもならないときもある。 大人になったクリストファー・ロビンはどうやって折り合いをつけるのか。 …というドラマは希薄で、イマジナリーフレンドのイメージが強かったプー達は現実の存在として描かれる。 そこから力技で問題解決、妻と娘も100エーカーの森にご招待というディズニーらしい強引な大団円。 「子供心を取り戻そう」「ワーク・ライフ・バランスは大事」というメッセージは分かるが、 それ以上の何かが感じられないあたりに限界が見える。 CG技術の進歩と中盤のユアン・マクレガーの一人芝居に+1点。 [地上波(字幕)] 5点(2023-04-08 14:10:43)(良:1票) |
99. ザ・ホエール
《ネタバレ》 窮屈なアパートと272キロの肥満体に押し込められた孤独な魂。 全編9割が室内で展開され、4:3の画面比率が閉塞感を強調する。 彼のもとを訪れる宣教師の青年、理解者の看護師、絶縁状態で素行不良の娘は、 彼を救おうとしながら、呆れて突き放しながら、虚飾の皮を剥ぎ、魂を剝き出しにさせる。 聖書で、信仰で魂が救われることはなく、逆に不幸になってしまった登場人物たち。 肥満体をピザ配達員に晒してしまい拒絶されたことから、彼は暴食でさらなる破滅へ突き進む。 同性の恋人を選んだ身勝手さ、恋人の死をきっかけに変貌した救いようのないおぞましく醜い姿、 それでも本当の姿で、本音で誰かを救いたいという深い切望と信念。 オンライン講座でもついに痛々しい姿を晒し、退路を断った彼は、 自分の足で『白鯨』のエッセイを読む娘のもとへ一歩ずつ踏み出す。 「語り手は自らの暗い物語を先送りする」。 悔いを残さない最期にするために、自分自身に、娘に、後悔だらけの過去に本気で向き合うために。 そして"エイハブ船長"だった娘は"白鯨"の父に赦しを与える。 薄暗い室内が際立たせる、光り溢れるシーンはあまりに神々しかった。 ブレンダン・フレイザーは『ハムナプトラ』シリーズのアクションスターで有名だが、 セクハラ被害、離婚、鬱病、引きこもり、過食症で追い詰められた経緯があり、その経験が本作に活かされている。 まさにこの映画で演じるために今があったのではないか。 ダーレン・アロノフスキーらしい難解でホラー映画さながらのスリリングな演出も健在で、 感情移入を超越し、心をかき乱された怒涛の2時間だった。 [映画館(字幕)] 8点(2023-04-08 00:25:37)(良:1票) |
100. ファイナル・デスティネーション
運命を乗り越えた7人に仕掛ける、死へのピタゴラスイッチのやりすぎ感に死神の焦りが感じられて良い。 普通に見るだけなら面白い映画だが、明日トラックに轢かれそうなリアルな恐さが初代にはあった気がする。 [地上波(吹替)] 5点(2023-03-31 23:58:24) |