81. スキャナーズ
スキャナーズと言えば頭が爆発する映画ですが、その肝心の頭が爆発するシーンは序盤に1回あるのみです。それで頭が爆発する以外は何をやっているかというと超能力要素を交えたスパイアクションという趣です。それではわかりやすいエンターテインメントになっているかというとそうでもなく、音楽の使用も最低限に抑えられた良く言えば静謐で上品、悪く言えば地味で退屈な展開です。超能力者が現実の人種差別や科学による人間の能力の拡張のような暗喩になっているかというと別にそうでもなく、当時はなぜか超能力がフィクションで取り扱う題材として流行っていたので適当にスパイもので一本エンタメを作ってみようという程度しか創作のモチベーションが見えてきません。結局見終わった後に頭が爆発するシーンのインパクト以上のものが残らないのも無理はないかなという感じです。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-08-17 22:46:23) |
82. スターリングラード 史上最大の市街戦
ロシア映画初のIMAX・3D映画でありロシア映画史上最大のヒット作らしいです。監督のフョードル・ボンダルチュクは名前からわかる通りあのセルゲイ・ボンダルチュクの息子さんらしく親子揃って超大作を任されるポジションにいるみたいです。序盤から水面を歩く兵士だったり火だるまになりながら突撃する兵士だったりリアリティよりも幻想的な絵作りを志向しているのかなという感じです。屋外のシーンでは終始灰が降り続け、屋内では部屋の隅々まで灰が積もっています。爆撃を受けた後は確かにこうなるのでしょうが、数日経過しているはずなのにいつまでも灰が降り続けているので逆に不自然で絵として映えるから作り込んだだけなのかなと思ってしまいます。戦闘シーンではスローモーションが多用され銃を持ってるのにやたら接近して殴りかかっていくので正直馬鹿っぽく見えます。紀里谷和明やザック・スナイダーが戦争映画を撮るとこうなりそうです。5人のソ連の兵士が一軒のアパートを守るために奮闘するというお話ですが、説明不足なところが多くロシア人でないと正直よくわからない部分が多いです。スターリングラード攻防戦の激戦区となったパヴロフの家という史実をベースにしたフィクションのようですが、舞台がほぼアパート一軒のみで進むので単にスケールが小さいだけに感じてしまいます。主人公たちのバックボーンは直接映像としては出てこずナレーションのみで語られるのも不満点です。ロシア人女性を愛人に持つドイツ軍将校はハリウッド映画にも出演するドイツ人俳優トーマス・クレッチマンが演じており、ロシア側だけでなく彼の登場する場面にも結構な尺が割かれております。冒頭がなぜか東日本大震災の際にロシア人がドイツ人の被災者を救出する場面で始まるのも含めてロシア人のドイツ人に対する何らかの感情が描かれてそうですがそこもはっきりとは伝わってこないです。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-08-16 22:32:48) |
83. リング(1998)
お話自体は取り立てて優れているとは思えず、結構演出が大袈裟に感じられる部分もあります。あのフラッシュバック等何の説明もなく唐突に出てくるので違和感しかありません。しかし作品公開から既に20年以上の月日が流れていることも影響しているのですが、今見直すと妙に映される光景に懐かしさを感じられて嫌いにはなれないですね。今見ても本気で怖いというよりは薄暗い部屋や電話の着信音、画質の悪いビデオ映像、こういったものが確かに子供の頃は怖かったなあという、これらが恐ろしくて仕方なかった頃の記憶を呼び覚まされる郷愁混じりの怖さを味わえると言いますか。VHSも消え去って中田秀夫監督もジャパニーズホラーというジャンルも何だか半分冗談みたいな作品ばかりになってしまった昨今、これは確かにあの頃は本当に怖かったんだという思い出は大事にしたいのです。 [インターネット(邦画)] 6点(2023-08-15 23:38:51) |
84. 十三人の刺客(2010)
作品のテーマとしてはおそらく封建社会や武士道の矛盾や欺瞞を暴くことを目指しているのでしょうが、結局は稲垣吾郎演ずる殿様の頭がおかしいだけで侍たちを含めた他の人間をその犠牲者以上のものとして描けているようには思えません。劇中の台詞にもあったように下が支えなければ上は成り立たないですから、その共犯関係をちゃんと描かなければ社会風刺としては不十分でしょう。伊勢谷友介演ずる山の民がもうちょっと侍社会を相対化する視座として機能すれば良かったのですが、それもコメディリリーフ程度の存在で終わってしまっています。映画としての最大の欠点は登場人物の人となりからその心情、戦略に至るまでとにかく一から十までご丁寧に全部台詞で説明してしまっているところです。一応本格時代劇の体裁を整えるよう努力はしていますが、やはりこれは当時のテレビ局製作の日本映画の限界が見えてしまっていると言わざるを得ません。そんな中松方弘樹だけはその人物像がろくに説明されないにも関わらず立ち振る舞いや顔つき、台詞の発声だけでこの人は何か違うと思わせる異様な迫力を漂わせています。何をやらせても様になっており若い頃に自分がどう動けばカメラに一番カッコよく映るか相当訓練されたんでしょうね。この映画が存在する一番の価値は松方弘樹の殺陣をある程度まともな一本の作品の中で後世に残したことでしょう。 [DVD(邦画)] 3点(2023-08-14 23:46:29)(良:1票) |
85. 日本のいちばん長い日(1967)
序盤の広島への原爆投下映像、あれ戦後の核実験の映像の流用ですよね?こういう細部でいい加減な仕事しちゃダメでしょう、原爆ならどれも同じだと思ってるんでしょうか。仁義なき戦いは静止画とはいえそんな間違いは犯しませんでしたよ。オールスターキャストゆえの名作っぽい雰囲気だけで評価されていないでしょうか。ドキュメンタリータッチといえば聞こえがいいですが事実を再現するだけで作品のテーマやメッセージがいまいち見えてきません。映画なんてのは所詮作り話なのですから何か特別な理由でもないならばそこをはっきりさせるべきです。戦争継続に固執する軍人批判にしては軍人がカッコよすぎますし、国民の犠牲と対比するならあまりにも国民側の描写が少なすぎます。三船敏郎なんか急に平和を願ういい人に変わってませんか?まさか軍人たちの苦悩に共感しろという話なんでしょうか?そんな義理は私たち一般市民にはありませんよ。やってることは見知った人間同士のほぼ馴れ合いに近い内ゲバですもの。そもそも肝心の事件の描写がしょぼすぎませんか?狭いセットの中でひたすら役者が喚いているだけで銃撃シーンは窓ガラス割るだけで終わりです。この作品が作られた時には既に日本映画黄金時代は過ぎ去っていたというのには納得です。結末がわかりきった話なのでどう展開するかハラハラしようもありません。それっぽいナレーションで締めて終わりというのもちょっと…。ただ佐藤勝のエンディングテーマは名曲です。 [DVD(邦画)] 2点(2023-08-13 22:31:21)(良:1票) |
86. GHOSTBOOK おばけずかん
サニーマックレンドン以外にも教室にはハーフっぽい子がいましたね、こういう特に題材上必要でない場合でも多人種的なキャスティングはこれからどんどん増えていくでしょうしそうあるべきですね。学校の怪談の現代版…と思わせて作品の雰囲気が一番近いのは平成モスラかもしれませんねー。内容は子供向けなんですがその辺りに映画の原体験がある方はすごく楽しめるのではないでしょうか。山崎貴監督は昭和ノスタルジー作品はずっと作ってきたのですが、この頃の懐かしさを感じさせる作品も作れたんだなと感心しました。まあデビュー作がジュブナイルですからね、ようやく初心に帰れたとも言えます。山崎貴監督はこういう作品ばっかり作っていれば誰も不幸にならずに済んだのに、こういう作品ばかり作り続けられないのが不幸な時代ですね。確かに陳腐で新鮮味のない描写だなーと思うところもありますが、劇中に出てきたカレーや麦茶が美味しそうだったり、ところどころでクスリと笑えたり終盤盛り上がるところで盛り上がってちょっと切ない感じで終わる、映画ってのはそれで十分なんです。残念ながらこの映画はあまりヒットしなかったみたいですが、去年劇場で小さなお子さんがお母さんにこの映画のグッズを買ってもらう場面を見かけました。届くべき人に届いたならそれでいいんだと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2023-08-12 18:38:56)(良:1票) |
87. THE GUILTY ギルティ(2018)
斬新で思い切った構成を評価するべきなんでしょうけど、やっぱり90分間神妙な顔をしたおっさんの顔だけを眺め続けさせられるのは正直きついですね…。もちろん役者の演技に問題はないですし、撮影や美術に安っぽさも感じられず終始シリアスな雰囲気は保たれてます。それは主人公がいる部屋以外は全く映さないという選択が作品に余計なものが混ざらないすっきりした統一感を与えているおかげではあります。しかしこういう一人称的構成はやっぱり小説やラジオドラマのような媒体向きで映画は複数視点から展開するのが向いている表現だと思います。90分と短尺なのもその限界を理解しているからこその判断でしょう。同じような題材なら俗っぽく強引さも感じられる内容だとは思いますが、ザ・コール [緊急通報指令室]の方が素直に面白かったかなあと。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-08-11 23:28:39) |
88. ミナリ
アジア系の移民が主役というのも珍しいのですが、その上農業で成功を目指すというのは今まで見たことがない例です。実際この時代の韓国からの移民(に限ったこともなさそうですが)は圧倒的に都市への移民が多かったみたいで、劇中の家族は都会の韓国人を嫌っているあたりからしてもかなり珍しいパターンのようです。何の根拠もなく自身たっぷりな父親に対し現実を見据えている母親、男の子と女の子が一人ずつ、おばあちゃんがいてもおじいちゃんはいない、一昔前は日本でもよく見られたような家族像は懐かしさを感じさせますが日本人としては新鮮味も薄いです。移民の物語だからといって差別や迫害を描けば良いというわけでもなく人種を超えた友情を描いているのはこの映画の美点ではあります。しかし監督の自伝的内容とはいえ作品の焦点がどこにあるかよくわからずテーマも不明瞭で終始ぼやけている感じなのは欠点です。父親の農業への情熱、おばあちゃんへの思い、生活の中のキリスト教、どれも素っ気なく描かれるだけで作品を通して誰が主人公なのかもよくわかりません。部分部分に光るものがあっても全体としては希薄な印象しか残らないというのが正直な感想です。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-08-10 23:18:39) |
89. クルージング
ウィリアム・フリードキン監督追悼として、ああそういえばこの映画を見てなかったと思い出したので見てみました。しかしよりによってこんなので追悼かよとちょっと後悔してしまうような出来の作品でした。ゲイコミュニティを舞台にしている意味がわからないです。ちょっと調べてみたところゲイの側が警察の恰好を自ら好んでしていることで両者の境界線の曖昧さみたいなものを描こうとはしているみたいです。ゲイへの差別じゃないかという台詞もありますし別に見世物的興味だけで選んだわけではないんでしょうけど、これで作品全体として具体的にどんなメッセージを伝えたかったのかは描写が曖昧すぎてよくわかんないですね。あの突然出てくるテンガロンハットを被った裸の黒人は本当に何なんでしょうか、あれをギャグシーンとして見ないのはちょっと無理ですね(笑)。80年代初頭のアメリカの風俗の性的退廃の中で殺人鬼が次々と人を殺していく、見終わった後に残った印象はシリアスな刑事ものというよりも13日の金曜日のようなスラッシャー映画に近いです。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-08-09 23:13:58) |
90. 運命じゃない人
うーんかわいい小品ではあってもここまで評価が高いのは不思議というか、もう既に役割を終えてしまった映画というか。内田けんじが長年沈黙に近い状態なのは単純にもうこの路線だけで通用する時代ではないからかもしれません。近年脚本が優れていると評価された日本映画としてカメラを止めるな!のような作品と比べても華がなくてとにかく地味な印象を受けます。脚本が良いという評価にも複数の意味合いがあって、伏線回収が上手いとか台詞のセンスがいいとかそういうものだけでなく何より大事なのは人間を深く描けていることだと思います。たとえば初めはあくが強く共感できないと思っていた登場人物が物語の展開の中で段々人間味が感じられるようになっていく、そういう感動はこの映画にはないんです。小市民的世界から逸脱せずとにかく登場人物がみんな大人しく予想外の方向へ向いていくような驚きがないのがつまらないのです。ヤクザの組長すら妙に所帯染みていて…。まあその登場人物の大人しさゆえに反感を抱きにくいことこそがこの映画の人気の秘訣なのかもしれませんが。 [インターネット(邦画)] 4点(2023-08-08 23:05:56) |
91. オーディション(2000)
今見直すとなんとなくドライブ・マイ・カーに似ていますね。村上春樹と村上龍原作ですし、こういう作品が海外受け良かったりするんでしょうか。三池崇史監督作品にしてはくだらないギャグがないので見やすい方ではあります。この作品の一番面白いところって序盤の男同士のコイバナ(?)のゲスい部分も含めた楽しさだと思いますね。そのゲスくていやらしい部分を中和してバランスを取るために痛いしっぺ返しを食らう展開が用意されているわけですが、男同士の会話の生っぽさに比して後半のホラーパートになると一気に台詞も演出も現実味に欠けた陳腐なものになってしまいます。男側の丁寧で共感もできる心理描写に対し女側はこんな女現実にはいないだろうという大袈裟な表現になってしまっているのがつまらないんですよね。 [インターネット(邦画)] 5点(2023-08-07 23:16:00) |
92. TAR/ター
西洋の伝統的な芸術文化は女性をはじめとして異文化の人間を取り込んで延命を図ってきたがそれも段々綻びが見えて来ていてそのうち滅びる悲劇的な運命にある、みたいな感じの内容でしょうか。でも実際画面に出てくるのは毎日仕事場と家を往復してたまに子供の学校や観光地に行って社会との繋がりはSNSぐらいしかない、そういうしょーもない現代人の姿だけのように見えます。とっくの昔に生活が芸術とかけ離れたものに変わってしまっている現実から目を背けて天才芸術家みたいな古臭い世界観に浸ってるナルシシズムに辟易します。現代を描く映画ならばこのラストシーンで終わるのではなくむしろラストシーンから物語が始まるべきではないでしょうか。アジアで暮らしたことなんて絶対なさそうで、作り手がそういう狭い世界に生きてる人間だということが透けて見えるので白けてしまいます。個人的に役者が熱演するような作品は好みではなく、作品から浮かない自然な演技の方が正しいと思うタイプなのでケイト・ブランシェットの演技もわざとらしいようにしか感じられず褒める気になれません。それにしても序盤の貧乏ゆすりの青年の件が終盤になってようやく回収されて劇的な展開に繋がるわけで、その間は同性愛だのナチスだのそれっぽいキーワードを散りばめてお茶を濁す構成もひどいと思います。アンドレイ・タルコフスキーだかアピチャッポン・ウィーラセタクンだかのオマージュのようなシーンも必要なんでしょうか。監督・脚本は男性なわけですが結局男の主張を女に代弁させているようにしか見えません。それこそ見栄えがするからこっちを選択したんでしょうかねと皮肉も言いたくなります。作品を作者の性別で評価するべきでないなんてただの自己弁護としか思えませんよ。 [DVD(字幕)] 2点(2023-08-06 21:56:38)(良:1票) |
93. 地球防衛軍
こういう映画を劇場で見て思うのは現代の設備の整った映画館で見るには画質の方は何とかなっても音響面が結構きついということです。冒頭の東宝マークに流れる伊福部昭の音楽からして音割れしているような印象すら受けます、家で見た時の方がずっと印象がいいです。皮肉な話ですが音響という面から考えると日本映画黄金時代の作品は現代では映画館の大画面で鑑賞する価値が薄れてしまっている側面があります。とはいえやはり4Kリマスターの恩恵は十分にあったとは思いました。特撮場面はこの時代にしてはという但し書き付きではありますがかなり丁寧に作られていることがよくわかります。序盤の自衛隊によるモゲラの火炎放射器攻撃場面ではカメラをパンさせたように編集することでワンカットで両者を捉えるように見せているところが努力を感じさせます。物語の面では平田昭彦演ずる白石は劇中の描写だけだとああいう行動に至った動機がよくわかりません。兄妹・婚約者設定も物語上特に活かされていないので不必要に感じます。無理難題を押し付ける怪異が若い娘を差し出せと要求する姿はSFというより土俗的な民話を思わせます。やや危ういと感じたのは放射能によって身体に異常が生じたミステリアンが地球人との結婚を求めそれを拒絶されるのは現実の被爆者の婚姻差別を連想させるところです。まあその辺を深く考えずおおらかな時代のSF戦記を楽しめばよいのでしょうが、その場合でも戦闘シーンが結構単調ですね。伊福部昭の音楽を垂れ流しにして画面のリズムを意識することなくミサイルや砲撃が淡々と繰り返されるだけです。まあ伊福部昭の音楽自体が同じモチーフを何度も繰り返す傾向があるので合っているといえば合ってるのでしょうが。マーカライトファープがなぜミステリアンに有効なのかもよくわかりませんね、無粋ながら脚を狙えば終わりではないかと(笑)。 [映画館(邦画)] 5点(2023-08-05 19:50:41) |
94. 皮膚を売った男
アートについての映画ではあってもアート映画ではなく内容はどちらかというとエンタメ寄りです。シリア情勢に詳しくなくても理解できるぐらいわかりやすい内容で、それは表向き西洋のアラブ人への偏見を批判しているようで西洋から見た無難なアラブ人の姿しか描けていないとも感じます。序盤、恋に舞い上がった主人公が「革命だ!自由だ!」と叫んだりそれが原因で不当逮捕された上にそこからあっさり脱走して国外逃亡までしてしまうのがほんとにこんなことあり得るのかと疑いの目で見てしまうのですが実際どうなのでしょう。アート業界側の人間はいかにも俗物という人物造形で浅く感じますが主人公の側もそれをうまく利用して立ち回っている様子も描かれており一辺倒ではない含蓄のある内容になっているとは思います。演出として意図したものかはわかりませんが、ビデオ通話の時差による映像のずれがコミカルな効果を上げていて良いです。一方頻出する鏡越しの画は特に意味があるとは思えませんでした。エピローグは結局作中で提示された問題を放り投げてるような安易な展開になってしまったのが残念ですが、自由に対する皮肉めいた視点を提示しているのは面白いと思います。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-08-04 23:59:06) |
95. ブレット・トレイン
アクション映画の主人公までがセラピーを受けるとは世知辛い時代ですな。まあ主人公と言ってもブラッド・ピットは災難に巻き込まれただけで物語の重要な部分は真田広之が持って行ってますけどね。よくこんな映画に出たとも思いますが現場は楽しかったかもしれませんので余計な心配はしないことにしましょう。日本が舞台となるわけですがおそらくロケーション撮影は全くされておらずほぼセットとCGで再現された新幹線内のみでストーリーが進行します。夜や夕焼けを表現した照明のカラフルでノスタルジーも感じさせる雰囲気は悪くなくリアリティを無視したいい加減な内容ですがこのアプローチは一応成功しているとは言えます。とにかくステレオタイプな描写とそれをおちょくったようなシーンしか出てきませんのでクエンティン・タランティーノというよりそれを真似ただけのダメな日本映画を見ているような気分にすらなります。まあ伊坂幸太郎自体がそういうところありますので逆輸入という形にはなるんでしょうね。ジョーイ・キングや福原かれんがかわいかったのでとりあえず見て損したとまでは思いませんでした。 [インターネット(吹替)] 5点(2023-08-03 23:58:15) |
96. 忘れられた人々
盲目の老人の人物造形がすごいですね、障害者でありながらとにかく傲慢なクズという描き方でインパクトがあります。ただそれは結局見世物的な魅力であってそれが現実の社会へ何らかのメッセージを伝えるものになっているとは思えません。少女のエロティックな見せ方、障害者や動物への暴力シーン等も当時は斬新だったのでしょうが、時代を下ればシリアスな社会派映画だけでなく低俗なホラー映画でも頻繁に採用されるような描写でしかないです。物語性が希薄で誰が主人公かもよくわからない構成ですが、かと言って既にイタリアン・ネオレアリズモが存在したことを考えると当時の劇映画から大きく逸脱したような内容でもありません。ルイス・ブニュエル監督らしいシュールレアリスティックな夢のシーンはこの映画でも見られますが、結局そういうシーンが一番魅力的であり逆にこういうリアリズムを基調とした社会派映画のような作品はあまり向いていないことを強調しているとすら感じました。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-08-02 23:20:30) |
97. 明日は来らず
東京物語の元ネタということで見てみましたが、基本的なプロットが似ているだけでほぼ別物という感じですね。やはり東京物語に比べると当時のアメリカの事情に疎いこともあってか感情移入することが難しく他人事のように眺めることしかできませんでした。親子関係より夫婦の愛を強調したような内容なのは日米の文化の違いですね。そのためか親を受け入れる子も含めた複数の視点からではなく老夫婦の世界が物語の中心になっているのも共感しにくいところです。古きものが去るというテーマにおいても戦争を経験し高度経済成長へと向かう時代を舞台にした東京物語と比べると狭い世界を描いただけのスケールの小さなものと感じてしまいます。姥捨て山のようなエピソードには意外と普遍性があるということを発見できたのは一つの収穫でした。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-08-01 23:07:53) |
98. カード・カウンター
若者がグーグルアースを得意げに説明するシーンを見たとき、ああこれはおじいちゃんが脚本を書いた映画なんだなと思ってしまいました。熱いギャンブラー同士の対決が見たい方にはオススメできません。カードゲームの場面はすべて淡々としており娯楽性はほぼありません。前作魂のゆくえは環境問題という現代的なテーマで一本筋が通っていたのでわかりやすかったのですが今作はその辺りがあやふやです。一応米軍の闇のようなものが描かれていますがそれが主人公の稼業と何の関係があるのかよくわかりません。ウクライナ出身のミスターUSAという意味ありげな人物が登場しますがそれを深読みする気になるだけの強固な芯がこの映画には欠けています。魂のゆくえに引き続き主人公がノートに何かを書き記しながらモノローグで語る構成を採用していますが、同じような演出を二度採用するのは焼き直しと感じてしまいます。ただ捕虜収容所の魚眼レンズで撮影したような映像の感覚は新鮮で良かったです。結局この映画はザ・ヤクザの脚本家がまた日本の任侠映画のような作品をやりたかっただけのように思えます。主人公が博徒であるのはそれ以上の意味があるとは思えません。 [映画館(字幕)] 5点(2023-07-31 23:16:30)(良:1票) |
99. ファミリア
日本社会における移民に関する物語を描くこと自体は何も間違っていませんしこういう題材を扱ったオリジナル脚本の映画はもっと増えるべきだと思います。しかし安易に悪役を設定したり最終的に家族愛に帰着するならば社会派や人間ドラマとして売り出すのではなくもうちょっと娯楽性のある内容にした方が良いのではないでしょうか。この映画特有の強みというのが日本映画としては扱う題材が希少であるという点だけで、人物造形や演出・構成の新規性があまり見られないのが苦しいところです。内容としてはグラン・トリノをやりたかったのかなとは思いますが、そのために何を描くべきかよくわかっておらず焦点がぼやけている印象を受けます。主人公の家業としての焼き物とブラジル移民の苦境、そしてアルジェリアの紛争が並行して描かれますが各要素がバラバラなままで進行し、伝えたいテーマやメッセージがよくわからなくなっております。無駄に複数の要素を投入するよりも重要な要素を一つだけピックアップして丁寧に掘り下げた方がまとまりのある良い映画になったと思います。 [DVD(邦画)] 4点(2023-07-30 23:35:40) |
100. ベネデッタ
さすがにご高齢ともなると直球のエログロエンターテインメントはきつくなったので文芸風味の体裁を整えてみましたというところでしょうか。結局できあがったのはただのエログロ娯楽映画でキリスト教批判や同性愛の要素は具体的なメッセージというより単に下品な場面を見せるための口実としてしか機能しておらず、熱心なキリスト教徒でもなければこの程度の描写に心を揺さぶられるとも思えません。物語を語る上で不必要なほどの暴力やヌードに濡れ場、それも往年ほどの過激さはなく現代ではもはやありふれた大人しい描写でしかありません。中世は性的な抑圧や不当な暴力に溢れていたなんて今時誰でも知ってますしそこにテーマとしての目新しさもありません。歴史物として衣装や美術はちゃんとしていることが却って内容の平凡さを際立たせているとすら言えます。この程度の内容ならば80年代に作ることも可能だったでしょうし、その時代ならばより挑発的で意義深い作品になったでしょう。ここに見られるのは成熟というよりも老衰と言わざるを得ません。 [DVD(字幕)] 4点(2023-07-29 23:08:24)(良:1票) |