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 > 鉄腕麗人 さん
鉄腕麗人さんのレビューページ[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 2630
性別 男性
ホームページ https://tkl21.com
年齢 43歳
メールアドレス tkl1121@gj8.so-net.ne.jp
自己紹介 「自分が好きな映画が、良い映画」だと思います。
映画の評価はあくまで主観的なもので、それ以上でもそれ以下でもないと思います。

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1081.  アガサ・クリスティー ミス・マープル2 動く指<TVM>
アガサ・クリスティー原作の人気シリーズ「ミス・マープル」。そのテレビ映画シリーズを今回初めて続けて鑑賞し、今作が3作品目。 ようやくこのシリーズの特徴として、“ミス・マープル”は決して主人公ではないということに気づいた。  様々な人間模様の中から渦巻く謎と殺人事件。その「真相」を導き出すのは、“第三者”である謎解き好きの老婦人ではなく、その人間模様の中にどっぷりと息づく当事者であることが多いようだ。  一般的な名探偵ものとは一線を画し、名探偵役のミス・マープルは、節々で観察眼の鋭さを見せるものの、その立ち位置は、我々「鑑賞者」の目線に近い。 そのかわりに、物語の中で描かれる人間関係に密接な人物が事件を解いていくことで、よりドラマ性が深化し、ただのミステリーに留まらない情感を生み出していると思った。  イングランドの田舎町で出回る怪文書を軸に、閉鎖的環境ならではの人間関係の“ひずみ”とそれに伴う“殺人”を巧みに描き出した今作も、その例に漏れず、繊細な人間ドラマと上質なミステリーを同時に味わわせてくれる。
[CS・衛星(吹替)] 7点(2010-10-15 11:00:16)
1082.  アガサ・クリスティー ミス・マープル2 親指のうずき<TVM> 《ネタバレ》 
突然死した叔母、消えた老婦人、時を越えた殺人事件……。 アガサ・クリスティらしいミステリーをミス・マープルが解き明かしていく。  浮上する「謎」の実像がなかなか見えないので、全編通して“ふわふわ”した感じてストーリーは進んでいく。 ミス・マープルと行動を共にするタペンス婦人がアル中だったりするので、余計に事件の真相が現実と妄想の狭間で見え隠れする。 それはミステリーの特徴として良いのだけれど、キーマンとなる人物の存在や見せ方もぼんやりと曖昧なので、ストーリー自体が追いづらい印象を受けた。導き出された真相と真犯人にも強引さと整合性の欠如を感じた。  独特の人間模様にはドラマ性があり、ミステリーとしての面白味は充分あるのだけれど、謎に対する真相に深みは無かったように思う。
[CS・衛星(吹替)] 6点(2010-10-15 10:59:17)(良:1票)
1083.  未知への飛行
連休最終日の深夜1時過ぎ、翌朝はいつものように早起きしなければならないというのに、どうやらなかなか眠れそうにない。 床に就く前に、物凄い映画を観てしまったからだ。  何気ない日常の中の次の瞬間、「核戦争」によって世界は滅亡するかもしれないという“危機”と“恐怖”を、これほどまでに如実に、シンプルに描いた映画を他に知らない。  1964年、「冷戦」まっただ中で製作されたこの映画には、あらゆる「制約」が溢れている。 軍事力縮小の提言、冷戦構造の批判を真っ正面から描いた今作に対し、政府及び軍からの協力は全く得られなかった。 核弾頭を積んだ爆撃機の行方を追う映画でありながら、機体の撮影許可は得られず、盗み撮りした離陸シーンを使い回している。 そして、世界滅亡の危機を追うすべての緊迫のシーンは、指令本部、国防総省、爆撃機内、ホワイトハウスの地下司令室の4つの密室劇のみで描かれる。  幾重もの制約の中で、それでも描き切った映画表現の巧さ、そしてそんな時代だからこそ製作を押し切った映画表現に対する勇気に脱帽する。   「最悪」の中の「最悪」を回避するため、大統領が下したあまりに恐ろしい最終決断。  「北東からの爆発音が聞こえます 空が明るい 光ってる」  途切れる通信。高く響く機械音……。絶望。決意。   その展開がそのままリアルであるとは言えない。 ただ、たった一つの“エラー”で、世界は終わってしまうかもしれないという「事実」と「恐怖」は、紛れもない「現実」であり、圧倒的な緊張感から導き出された顛末に、大袈裟でなく背筋が凍る思いだった。  言い得て妙だが、この陰影際立つモノクロームの映画世界は、決して色褪せることは無いだろう。 それは、人類とこの世界が、今日この日においても1964年当時と同じ「恐怖」を抱えているからに他ならない。  突然途切れるような真っ白い画面、それが次の瞬間起こらないなんてことを誰も断言できない。  「大傑作」と断言できる映画に対する「尊敬」と、愚かしさを否定できない人類に対する「侮蔑」を同時に感じずにはいられなかった。
[DVD(字幕)] 10点(2010-10-12 01:23:37)(良:2票)
1084.  コララインとボタンの魔女
「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の監督が新たに描き出した独特のアニメーションが印象的な作品だった。 ストーリーは極めてオーソドックスで、特に新しさや興味深いものは無い。が、それを充分に補って余りあるアニーメーションのクオリティーの高さを堪能できる映画だと思う。  外国映画を鑑賞する際、言語が理解できないのであれば、基本的に字幕で観るべきだと思っている。 ただし、アニメ映画の場合は、必ずしもそうするべきではないと思う。 特に、今作のように細やかに作り込まれたアニメーションそのものに魅力がある作品では、日本語字幕を追うことで世界観を堪能し切れなくなる。 声優経験が少ない俳優を吹替え版キャストに起用することには難色を感じるが、アニメのキャラクターたちの見せる言動をそのまま“感じる”ことが重要だと思う。  今作の場合、主人公の声を演じた榮倉奈々のパフォーマンスには、新鮮味と同時に多少たどたどしさを感じたけれど、主人公の母親&魔女役を演じた戸田恵子の声優としての技量が安定して発揮されているので、映画として安定して観られたと思う。  ティム・バートンが絡んでいないので、「ナイトメアー~」や「コープス・ブライド」のような世界観の圧倒的な深みはない。 その部分でやや物足りなさは感じたけれど、卓越したセンスに裏打ちされた完成度の高いアニメ世界を見せてくれる映画だとは思う。
[DVD(吹替)] 6点(2010-10-11 19:06:11)
1085.  ボーイズ・オン・ザ・ラン
無様な男と、無様な女、そのありのままの「無様さ」を“綺麗ごと”なんて完全無視して描きつけた“ヘン”な青春映画だった。  主人公は玩具メーカーのうだつが上がらない29歳の営業マン。援交相手の醜女に逆切れされ、憧れの同僚とはいい感じになりつつも、肝心なところで大失態を繰り返し、挙げ句ライバル営業マンに寝取られる始末……。 最初から最後まで汚れまくりで、良いことなんてほとんどない。  実は、自分自身29歳の営業マン。仕事の合間にネクタイを締めたままこの映画を観ていた。 “イタイ”主人公の姿に笑いつつ、キワドいリアリティが突き刺さってきた。  自分がものに出来なかった女の仇を討つため、軟弱な主人公は“ブチ切れ”、鍛え上げ、「タクシードライバー」のトラヴィスと化す。  普通の青春映画であれば、主人公の「達成」をもって爽快感を導き出すのだろうけれど、普通の青春映画ではない今作は、それすらも許さない。 主人公が終始「無様」なまま、この映画は終焉する。  映画を観終わり、再び仕事に戻るため、土砂降りの中を営業車で走った。 けれど、僕の心は何故か晴れ晴れとしていた。 それは、この映画が無様で阿呆でしょうもないけれど、確かな「勇気」に溢れているからだと思う。  主人公は何も達成しない。ただただ己の小さな自分の人生を走る。その様は決して格好良くないし、転びまくる。でもその目を背けたくなる程に痛々しい等身大の姿は、問答無用に胸に迫る。
[DVD(邦画)] 8点(2010-10-10 02:03:50)(良:3票)
1086.  アガサ・クリスティー ミス・マープル2 スリーピング・マーダー<TVM>
アガサ・クリスティの「ミス・マープル」シリーズの映像作品を初めて観た。 謎を解き明かす主人公が地味な老婦人ということで、それほど興味はそそられず恐る恐る観始めたが、冒頭から繰り広げられる上質なミステリアスに途端に引き込まれた。  婚約を機にインドからイングランドへ移ってきたヒロインが、何かに導かれるように訪れた売り家にて、養生時に見た「殺人」の記憶が突然蘇ったことから、それまで眠っていた事件が目覚める。 ヒロインと事件にまつわる人々が入れ替わり立ち替わりし、複雑な人間模様があらわれてくるくだりは、アガサ・クリスティらしいストーリーテリングで、事件の真相と並行して導き出される隠された人間ドラマが秀逸だった。  ソフィア・マイルズが演じたヒロインが、蘇る記憶に苦悩しながらもアグレッシブに過去の人間関係を辿っていくので、ミス・マープルの存在性が薄く感じてしまったことは如何なものかと思う。 が、一つのミステリー作品としての完成度は極めて高く、オールドイングランドを舞台に洗練された文体の世界観を堪能できた。
[CS・衛星(吹替)] 7点(2010-10-05 13:00:01)
1087.  パーフェクト・ゲッタウェイ 《ネタバレ》 
「衝撃の結末」を売り文句をうたう映画はとても多い。そして、その売り文句に裏切られることもまたとても多い。あらゆるアイデアとストーリーが出尽くしている中、肥えに肥えた映画ファンの「眼」を超えることは極めて難しいことだと思う。  今作においても、用意されていた顛末に想像を超える程の”衝撃”があったとはとても言い難い。  ハワイの秘境にて遭遇した3組のカップル。その中の一組に殺人犯が紛れ込んでいるという情報が入り、突如としてサスペンスが渦巻く。 美しい南の楽園における疑心暗鬼に満ちた人間の心理劇は、コントラストが際立ち、舞台設定自体には一定の魅力があったと思う。  ただし、映画の展開は巧くなかった。  最大のウィークポイントだったのは、キャストのバランスが悪かったことだと思う。 スター俳優はミラ・ジョヴォヴィッチだけで、当然ながら彼女を中心に映画は展開していく。そして、結局彼女自体がストーリーの”オチ”では、どうしたって驚きは薄まる。(かといってジョヴォヴィッチの存在感が強いかというとそうでもない……) それぞれのキャストのレベルがフラットでなければ、この手の群像ミステリーは巧く機能しないと思う。  脚本自体には、確かに衝撃とそれに伴う深みがあったように感じる。けれども、それを映画として表現仕切れていない。 演出や映像感覚にもっと“巧さ”があれば、「衝撃」の確立と共に、映画として深化したと思う。 脚本家出身の監督だからこそ生じた、「脚本」と「映画」の間の“溝”を感じた。  終始ドキドキするしハラハラもする。しかし、その“方法”は粗く強引で、決してフェアではなかったと思う。
[DVD(字幕)] 5点(2010-10-04 22:35:36)
1088.  プリンセスと魔法のキス
史上初の長編アニメーション映画である「白雪姫」から始まり、“お姫様映画”は、長いディズニー映画史の“王道”であり、“伝統”だろう。 久しぶりにCGを駆使しない伝統的なこのディズニー映画には、全く新しさが無い反面、子供の頃から長年親しんだテイストに対する安心感を覚えた。  ストーリーテリングに新しさはないけれど、プリンセスもプリンスもその姿が終始”カエル”のままで繰り広げられる展開はユニークだったと思う。 登場するキャラクターたちにも、決して深みはないのだけれど、問答無用に応援したくなるような愛着があった。  アニメーションにおいてもCG全盛の現在において、たまにはこういうオールディーなアニメも楽しいし、「伝統」はしっかりと引き継いでいってほしいと思う。
[ブルーレイ(吹替)] 6点(2010-10-04 17:09:29)
1089.  ベルモンドの怪盗二十面相 《ネタバレ》 
タイトルからもっと軽快な娯楽性を期待していたのだけれど、実際の内容は、“怪盗”というよりも“詐欺師”のジャン=ポール・ベルモンドが、くるくるとキャラクターを変える様をコント調に描いたコメディだった。 ベルモンドのパフォーマンスは愉快で楽しめるけれど、延々とドタバタ劇が続くので、中だるみしてしまうことは否めない。内容の割に尺が長いので、徐々に疲れてきてしまった。 このタイトルは、明らかに映画の内容と相反していると思う。  ただし、ジャン=ポール・ベルモンドをはじめとして役者たちにはそれぞれ魅力を感じる。 ヒロインのジュヌヴィエーヴ・ビジョルドは可愛らしく、その愛らしさがラストの顛末に一層の痛快感を与えていると思う。  NHKのBSで放送がなければ、おそらく一生観ない映画だったろう。面白いということは決してないので、観られたことが幸福だったとは思わないが、数多ある映画の中から、自分が生まれる前のこのフランス映画を観たということを、一つの運命だとは思う。
[CS・衛星(字幕)] 4点(2010-10-02 15:47:08)
1090.  パンドラの匣
月末の多忙さから逃避するかの如く、平日の深夜、偏頭痛を片手で押さえながら、この映画を観始めた。  この映画は、「違和感」に埋め尽くされている。 まず、明らかに作為的なアフレコの演出に大いなる違和感を感じ、戸惑った。 主人公のモノローグと映像と微妙にズレた台詞が交じり合い、違和感は更に深まり、冒頭からどこか奇妙な世界に放り込まれたような感覚に陥る。  そして、「やっとるか」「やっとるぞ」「がんばれよ」「よーしきた」と、まるで“記号”か“暗号”のように繰り返される言葉に対して、軽薄さを感じる反面、妙な居心地の良さを感じ始めた時、鑑賞前の偏頭痛はどこかに消え失せた。  太宰治の原作は未読だが、独特の繊細な心理描写を根底に敷き、彼ならではの“根暗”で、だけれども不思議な“陽気”さを携えた青春小説を、見事に映像化しているのではないかと感じた。  そもそもは、仲里依紗目当てで食指が動いた映画だった。ただ、拭いされない大いなる危惧もあった。 それは、監督が冨永昌敬という人だったからだ。彼は「パビリオン山椒魚」という映画で、結婚前のオダギリージョー&香椎由宇を主演に配し、あまりに倒錯的な酷い映画世界を見せつけてくれた監督である。  今作も、ある部分では倒錯的で、間違いなく“変てこ”な映画である。 ただし、今回はその倒錯ぶりが、太宰治の文体と絶妙に交じり合って印象的な世界観が生まれていると思う。非凡な映像センスと、独特の編集力が、純文学という創造性の中で見事に融合している。  明日はまた朝から仕事だけれど、深まる秋の夜長、こんな夜更かしも悪くはない。 そう思わせてくれる意外な秀作だと思う。
[DVD(邦画)] 8点(2010-10-01 01:33:14)
1091.  PUSH 光と闇の能力者 《ネタバレ》 
様々な超能力を持つエスパーたちが、三つ巴の攻防を繰り広げるという設定は、非常に興味をそそられた。主人公の味方チームがそれぞれの能力を生かして、相手に対抗していく展開も、個人的にツボにはまるものだった。 2005年の「宇宙戦争」以来、久しぶりに出演作品を観たダコタ・ファニングが相変わらず可愛らしく、少し大人の色香も出始めており、良かった。拳銃を両手に持つ様などには、「レオン」のナタリー・ポートマンを一瞬彷彿とさせる魅力が垣間みれた。  が、映画自体はあまり面白くない。  同じ素材でもっと面白くすることは如何様にも出来たのではないかと感じた。 先ず、娯楽映画としての派手さが無さ過ぎる。今の時代、“エスパー映画”が出来たと聞けば、最新の映像技術を駆使したスタイリッシュな映像世界を期待してしまうもの。 それなのに、映し出されるそれは「何年前の映画だ?」と思ってしまう程チープな表現に終始する。  主人公をはじめ登場するキャラクターの「性格」が今ひとつ定まっていないことも致命的だ。キャラクター性が掴めないので、言動に対する理由も終始掴み切れず、説得力に欠ける。  エスパーの能力を絡めて凝ったつもりだろうストーリーは、一定の整合性は保っているけれど、ただいたずらに複雑にした印象が強く、没頭することが出来なかった。  それなりに豪華なキャストを揃えたこの映画は、いろいろと“含み”を持たせてエンディングを迎える。 おそらくはシリーズ化も念頭に置いているのだろうが、たぶん続編は無いだろう。  もっとシンプルに単純な娯楽性を突き詰めていれば、もっと面白い映画になっていたかもしれないという要素は所々あった。久しぶりのダコタ嬢だっただけに、残念。  邦題も意味不明でダサ過ぎる。
[DVD(字幕)] 3点(2010-09-27 00:11:06)
1092.  トランスフォーマー/リベンジ
冒頭からいきなり繰り広げられる“トランスフォーマー”たちの怒濤の攻防。 人類の軍隊も加わって、もうどれが味方でどれが敵方なのか訳が分からなくなる程、爆発的で目まぐるしいCGシーンに興奮を通り越して、笑ってしまう。 その時点で、この映画の目的は達成されていると言っていい。  だから、その後に展開されるストーリーがどんなに稚拙だろうが、登場人物たちの安いドラマがちょくちょく挟み込まれようが、さらなる続編のための強引な伏線を見せられようが、非難するべきではない。 そういった容易に想像できるマイナス要素を安直に非難することこそ、浅はかだとさえ思う。  大の大人たちが、子供時代の「想像」を莫大な資金をもってして大真面目に具現化したこの"勢い”だけの映画を、その瞬間だけ単純に楽しめるかどうかで、人生の充実は変わってくると思ったり、思わなかったり。
[ブルーレイ(字幕)] 6点(2010-09-26 20:29:04)(良:1票)
1093.  今度は愛妻家
僕は、結婚をしてもうすぐ一年になる。特に問題はなく楽しい新婚生活を送れていると思う。 結婚をしてからというもの、「夫婦」の様を描いた映画に弱い。何気ない描写にすぐに涙腺が緩んでしまう。  なので、この映画もいつものように一人で観ようと決めていた。  タイトルと予告スポットを観ただけで、映画の大筋は読めてしまう映画だった。 だから、ストーリー展開に対する“驚き”については、端から期待はしていなかった。 ただ、もう少し巧く展開させていけたのではないかと感じ、その点は残念だった。  製作者側も”驚き”を見せたいわけではないらしく、結構映画の序盤で「真相」はほとんど明らかになる程に見え隠れする。 “驚き”に重点を置いていないのは分かるが、もう少し「真相」を隠した上で、主役となる夫婦の様を見せてくれた方が、後の感情の揺れは大きかったと思う。 更に言わせてもらうならば、“夫婦”以外の描写が多すぎる。周囲の人間模様をあまりに執拗に描き過ぎな印象を受けた。 被写体となる夫婦像に焦点が定まってきた時に、脇役のドラマがいやに細やかに描かれるため、ピントがぶれてぼやけてしまった。  ただし、“夫婦”の描写は素晴らしい。 たわいもない愚痴を言い合うシーンから、ただ手をつないで歩くシーンまで、愛おしさに溢れている。 それを成しているのは、薬師丸ひろ子の好演に他ならない。 年齢と単純な美貌を超越した“妻”の愛らしさを表現し尽くした彼女の存在が無ければ、この映画は成立していないと思う。  全体的に脚本が稚拙であることは否めず、あざとささえ感じる台詞と演技には正直なところ直視できない部分さえある。 が、薬師丸ひろ子が居て、豊川悦史との二人芝居に入った途端、目映い程の夫婦愛を描いた映画に様変わる。  完成度が高い映画とはとても言えないが、垣間見せる雰囲気には涙が溢れるという不思議な映画だった。
[DVD(邦画)] 5点(2010-09-24 12:33:58)
1094.  レポゼッション・メン 《ネタバレ》 
「レポゼッション・メン」=“回収人”というタイトルの意味を聞いただけでも、このSF映画の大体のストーリーは想像できるだろう。 “人工臓器”の販売が一般化している近未来。高額商品のため、購入者は当然の如くローン支払いとなる。支払いが滞った“滞納者”の前には、“回収人”が現れ、問答無用に臓器を回収していく。当然、臓器の回収はそのまま「死」を意味する。 一流の回収人として活躍していた主人公だったが、ある事故により一転、自分自身が人工臓器の利用者となり、回収人に追われる立場となってしまう……。  まあよくあるプロットだと思う。定石通りに、追われる立場となった主人公は、かつて勤めていた大企業に対峙し、反撃を始めるわけだ。 追っ手や企業の社員たちを次々に殺していく主人公の様は、よくあるヒーロー像に見える。  臓器を巡る独特のグロテスクさと、軽快なアクションシーンが絶妙に融合し、痛快なSFアクション映画だなと好感触を覚え始めた頃、致命的な違和感に気づく。  それは、この主人公の行動には、「正義」が伴っていないということだ。  大企業が展開する人工臓器販売はれっきとしたビジネスであり、その“回収方法”には非人道的な要素が含まれているものの、映画世界の中では、“滞納者”に対するあくまで合法的な“取り立て行為”である。 そして、主人公が置かれた危機的な立場も、あくまで“滞納者”である故の必然的な状況であり、それに真っ向から反発して企業関係者を抹殺していく様には、実は道理が無い。  その不道理を通したまま、映画は結末を迎える……。 「ああ…これは駄作だな」と諦めかけた次の瞬間、このSF映画は「真意」を見せる。  成る程。終盤にかけての強引な展開や、整合性の無さ、ジュード・ロウのおよそ彼らしくない妙に大味な演技や、フォレスト・ウィッテカーをキャスティングしている理由までが、途端に鮮明になる。  まさにSF映画らしい「転回」であり、その真相の領域がいったい何処までを含んでいるのかなどということを考えると、より一層ストーリーに深みが増してくる。  あまり過剰な先入観を持たずに、最後までシンプルな思考で観ることが出来たなら、存分に楽しめる映画だと思う。
[映画館(字幕)] 7点(2010-09-23 16:47:18)
1095.  ハート・ロッカー
イラクの戦場、日々尽きることの無い爆弾処理の最前線を描いた今作が、アカデミー賞を勝ち取ったことに対して、個人的には若干穿った見方をしていた。 果たして、本当にアカデミー賞にふさわしい映画なのかどうかと。  その理由は、この数年のアカデミー賞作品賞受賞作品には、手放しで賞賛を贈れる映画があまりに少ないということ。そして、9.11以降、アメリカという国の価値観は、人間の混迷や混沌を描いた映画を安直に崇拝する傾向が強すぎる気がしてならないからだ。  もちろん、世の中の数多の「不安」に対して、それを批判したり、影響を受けた映画が作られることは必要だろう。が、それがイコール「良い映画」であるかどうかは、当然別問題だ。  なので、元夫婦対決を制し、「アバター」をかわして、キャスリン・ビグローが女性監督として史上初のアカデミー賞受賞を果たしたこの戦争映画にも、素直に期待出来ないものがあった。  映画は、最前線の爆弾処理チームの3人を中心に、仰々しい展開を廃し、ドキュメンタリータッチに淡々と展開していく。端役でレイフ・ファインズやガイ・ピアースが登場するものの、主要キャストは無名俳優ばかりで安易な盛り上がりは一切無い。  少々疲れ気味の休前日の深夜の鑑賞で、さて眠気が耐えられるかどうか。という危惧は一瞬生まれた。が、そんな危惧は即座に消え失せた。  盛り上がりも、娯楽性もほとんど無い。あるのは、あくまで淡々と過ぎていく戦場の気持ちが悪くなるほどの緊張感だった。  その緊張感は、単に“いつ死ぬか分からない”というものだけではなく、「戦争」という日常に身を置く兵士たちが、静かに静かに精神が蝕まれていくことに対する“あやうさ”のように思えた。  決して、面白味に溢れた映画ではないと思うし、観る人によっては誤解を受けやすい映画であるようにも思う。 それはこの映画が、今この瞬間の「戦争」の表面的な狂気や悲劇を描いているのではなく、まだその実態さえも検証されていないリアルタイムの“混沌”を表現しているからに他ならない。  観終わってみて、「映画」として面白かったのは断然「アバター」なので、アカデミー賞の受賞はやっぱりジェームズ・キャメロンがふさわしかったと思わなくはない。 ただし、この濃厚すぎる程の戦争映画を撮り切った女性監督の“力量”は、間違いなく半端ない。
[DVD(字幕)] 8点(2010-09-23 02:03:14)(良:1票)
1096.  名探偵ポワロ 死との約束<TVM>
遺跡発掘現場にて会した“訳ありの一族”。周囲から忌み嫌われる夫人が殺される。 アガサ・クリスティの原作のみならず、もはやミステリーそのものの大定番の舞台設定の中で、物語は展開していく。  はっきり言うと、用意された「真相」も、“定番”であることは否定できない。 並のミステリーであれば、“オチ”の正体を薄々感じさせるストーリーなど、退屈過ぎ馬鹿らしくて追っていられない。 ただこれがアガサ・クリスティの「名探偵ポワロ」である以上、“退屈”なんてものは存在しない。  何となく真相は見えつつも、デヴィッド・スーシェ扮するポワロの推理劇に身を任せることを厭わない。予定調和の中に身を置くことに、むしろ心地良ささえ感じる。  砂漠の灼熱の中で突如発生した謎が、陽炎のように大きく膨らみ、名探偵により束の間の実体を見せ、去っていく。 アガサ・クリスティらしい叙情的なミステリーに、安心して没頭させられる。   P.S.「ハムナムトラ」シリーズのジョン・ハナーが出演しており、明らかに「砂漠の遺跡発掘現場」という舞台設定を意識したキャスティングにほくそ笑んだ。
[CS・衛星(吹替)] 7点(2010-09-21 13:28:21)
1097.  母なる証明 《ネタバレ》 
 休日の深夜、この映画を観て就寝した。 すると、この映画に満ち溢れる「不安」を如実に反映した夢を見て、非常に目覚めの悪いウィークデーの始まりの朝を迎えてしまった。今も、どこか気怠く、眠い。  韓国映画には、その善し悪しは別として、ねっとりとまとわりつくような「不安」に溢れた作品が多い。それは映画のジャンルに関わらず、ドラマ、アクション、サスペンス、ラブストーリー、更にはコメディにまで至り、映画を生み出すそもそもの“根底”に備わっている要素のように思える。 何本もの韓国映画を観ていると、時にその“厭な雰囲気”に対して、嫌悪感を抱いてしまうことも多々ある。 しかし、もはやそれは韓国という国が発する文化性であり、外国の映画を鑑賞する以上、否定できないことだとも思う。 そして、その“厭な雰囲気”を包み隠さずぶつけてくるエネルギーがこの国の映画にはあり、それこそが韓国映画の魅力だと思う。  そのエネルギッシュな韓国映画界において、トップランナーであり続けているのが、今作のポン・ジュノ監督だろう。 力強く、美しい映像世界の中に、人間の滑稽さと愚かさを上質な情感をもって表現する術に秀でた彼の最新作は、“母親”が息子を愛する揺るぎない「本質」を生々しく、辛辣に描いた問題作だった。  殺人の容疑がかけられた息子を救い出すために、母親は雨の中昼夜を問わず奔走する。 そうして辿り着く真相、真相に対する母親と息子の言動……。  泥々としたミステリアスな展開の中で、ストーリーは二転三転する。 意外な展開に対してその都度息を呑むが、これがポン・ジュノの映画である以上、安直なカタルシスは得られない。  映画は、母親が無表情で踊り狂う様で、始まり終わる。  その様を、どういう心境で見られるか?この映画は、“厭な雰囲気”の中で、問答無用に問いかけてくる。
[DVD(字幕)] 8点(2010-09-21 11:08:50)
1098.  スター・トレック(2009)
必ずしも映画に限ったことではないかもしれないが、優れたエンターテイメントに不可欠なものは、何を置いても“手際の良さ”だと思う。 作品の規模が巨大になり、ブロックバスター化する程、その要素を制したクリエイターのみが娯楽性を制し、ヒット作を連発するのだと思う。 その素養を今最も備え“エンターテイメント”においてもはや「スピルバーグの後継者」とまで言わしめる存在になったのが、今作の監督J・J・エイブラムスだ。 彼の手掛けた映画をもう何作も観てきたが、どの作品にも感じることこそがその“手際の良さ”であり、それは即ち「娯楽」を創造する巧さだと思う。  世代的な乖離もあり、この作品を観るまで「スター・トレック」というSFエンターテイメントの一大ブランドに全く触れたことがなかった。 壮大なスペースオペラシリーズとして、しばしば「スター・ウォーズ」と比較されるが、世界的にファン層の広い「スター・ウォーズ」に対して「スター・トレック」はよりマニアックな印象を受け、何となく踏み込めない“領域”だった。  しかし、そういった観客が持つある種の「障壁」も、J・J・エイブラムスは持ち前の“手際の良さ”で見事に乗り越えてみせている。 エンディングタイトルが表示された瞬間、思わず「素晴らしい」と言いたくなる。 それくらい想像以上に充実したSF世界を見せてくれる。  何よりも素晴らしいのは、「無音」の表現だ。 「スター・ウォーズ」をはじめとして、宇宙空間の中での激しい戦闘を描いた映画は多々ある。 しかし、激しい戦闘シーンにおいて、“静寂”を挟み込み、宇宙空間の本質である「無音」と「闇」を観る者に意識させる映画は余り無い。 エンターテイメント映画である以上、シーンが激しくなればなるほど、大迫力の戦闘音は映画の表現として不可欠なものだろうが、実際の宇宙空間においてはどれほど激しい戦闘が繰り広げられようとも決して「音」は生まれない。  そういう「宇宙」そのものの基本的概念をこの映画はしっかりと意識し、その上に卓越したエンターテイメントを構築している。 おそらくそれは、この有名なスペースオペラのシリーズを通じて引き継がれてきた要素なのだろう。  「宇宙」に対する崇高なまでの美意識、それに裏打ちされた圧倒的に魅力的な世界観に、突如生まれた“ブラックホール”の如く吸い込まれそうになる。        
[ブルーレイ(字幕)] 9点(2010-09-19 01:40:02)(良:1票)
1099.  96時間 《ネタバレ》 
元CIAの父親が、人身売買組織にさらわれた愛娘を救出するために、死闘を繰り広げるというストーリー。 ストーリー設定にそれ以上の膨らみはなく、設定だけをみれば何ともチープな映画である。 リーアム・ニーソンが体を張って繰り広げるアクションシーンは、それなりにスタイリッシュに表現されているが、アクション映画として特筆するほどのものではない。  9割以上の要素は、はっきり言って「凡庸」に尽きる。 ただし、残りの1割の要素が、この映画のオリジナリティをある意味”強引”に高めている。  それは即ち、「娘を溺愛する父親の容赦なさ」だ。  娘をさらった悪党に対して、電話口できっぱり「処刑宣告」をしたかと思えば、カリフォルニアから海を越え数時間後には事件が発生したパリへ。 単身で悪の組織本体に乗り込み、暴れまわり、ほぼ壊滅状態に追い込む。 更には、古い友人らしいフランス当局の幹部の自宅に“お邪魔”し、実は悪と通じていたその友人の妻の腕を問答無用に撃ち抜き、情報提供を強制する始末。  とにかく娘の救出に対して「障害」となるものは、何であろうと蹴散らし、悪党は容赦なく残虐なまでに皆殺しにしていく。  映画の冒頭、主人公は別れた妻から、その神経質な性格に対して「異常だ」と苦言を呈される。 その時は主人公に対して同情が生まれたが、映画が展開していくにつれ、「ああ、確かにこの父親は異常だ」と納得させれるほどに、主人公の行動力は常軌を逸している。  主人公のその尋常でない怒りっぷりは、“唖然”を通り越し、感じたことのない爽快感に繋がっていく。 その尋常でなさが、絶体絶命の愛娘のピンチを非常識に救っていく。  決して物語としてクオリティの高い映画ではないが、この“容赦なさ”は評価に値する。劇中何度も「親父怖え~」と呟いてしまった。
[ブルーレイ(字幕)] 7点(2010-09-18 15:40:58)(良:2票)
1100.  アパートメント(1996) 《ネタバレ》 
人間の情愛というものは、必ずしも綺麗ごとで済まされるものではない。愛するという行為はこの世界において最も美しいことだが、その行為は往々にしてすれ違い、報われない想いが時に悲劇を生む。  久しぶりに観たフランス映画は、まさにフランス映画らしいねっとりと絡み付くような情感と、各々の情愛が絡み合う類い稀なサスペンスに溢れた隠れた傑作だった。  映画の冒頭、先ず若かりしヴァンサン・カッセルの風貌と、彼の安い演技に対して思わずきょとんとしてしまう。 「これは駄作を引いてしまったか?」と懸念を大いに抱いた反面、何故だか妙に画面に惹き付けられていた。  何も起こっていない安い演技と演出の中に、何かが起こり得る要素はすでに含まれていて、それは巧みに隠されると同時に、絶妙な塩梅によるほのかな香りとして印象付けられていたのだと思う。  他人との何気ない“すれ違い”の中で、すでに情愛のもつれは始まっていた。目の前に居る人間の言動は、自分が知る由もない思惑を孕んでいる。 真実をすべて知った時、辿り着けるものは、真の愛か幻想か……。  どうも言葉で飾るほど、この映画の本質はぼやけてしまい、よろしくないようだ。 正直、うまく説明することが出来ない。  それは、この映画が、人間の根本的な愚かさを表しているからだと思う。  序盤、安い演技を見せていたヴァンサン・カッセルは、映画の展開と共に雰囲気が一変する。 ラストシーン、婚約者と抱き合いつつ、別の女性を見つめるその眼には、男の艶やかさが満ち溢れている。そこには愚かさを超え、狂気すら感じる。圧巻。   P.S.この作品を経て結ばれたのであろうヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチ。ヨーロッパを代表するこのセクシーな夫婦が、離婚なんて必然的とさえ言えるあの世界において、今尚「夫婦」を保っていることが、物凄く奇跡的なことに思えてならない。世界一格好良い夫婦なんじゃないかとさえ思う。
[DVD(字幕)] 9点(2010-09-18 02:15:21)
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