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1081.  タンデム
狂王と従僕もの、というか、ドンキホーテ的な流れ芸人ものというか。とにかく、男の心にしか興味のない監督ではある。男の純情。とりわけ運転手リプト君において。局からの番組打ち切りの通知をロシュフォールに届けさせないように逃げ回っている旅。胃もぼろぼろ。赤い犬、放り落とされる自転車など、不安のイメージがまといついてきて滅びの予感が漂う。車の故障で道端の人で済ませてしまう中継(打ち切りになるラジオのクイズ番組の老司会者の話なの)。男の友情の話というより、どこか傷口をナメあっているような感じがあり、対象と監督の視線との間に冷たい距離が微妙にある。もっぱらラストを洒落て決めるフランス映画にしては、終盤ちょっとズルズルしたか。
[映画館(字幕)] 7点(2011-03-28 09:54:19)
1082.  逃走迷路 《ネタバレ》 
分類すれば戦時下のプロパガンダ映画。「敵のスパイに気をつけよう」。でも同時期の日本の同じような映画、『第五列の恐怖』なんかと比べると、メッセージを映画として膨らませている。舞台はアメリカのいろいろな層を巡り、アメリカの歴史を巡っているようにも見える。開拓時代の森の小屋みたいなところもあれば、カウボーイ時代の牧場、ソーダ工業の跡地から摩天楼の時代へと、情景として、アメリカの自信が見えてくる。上流人士にもスパイはたくさんいるんだぞ、と引き締めの警告を発し、なにしろ敵の計略が成功して軍艦が横倒しになってしまうとこまで描いて、しかしラスト「自由の女神」のシンボルにプロパガンダのメッセージを絞り込む(冷戦末期の『北北西…』のラシュモアより、政治的意味の込め具合はこっちのほうが濃いだろう)。各エピソードのつながりには、ちょっと無理を感じるところもあるが、見せ場は適度に配置されているので現在でもプロパガンダを越えて楽しめる。ヒロインが主人公の手錠をハンドルに引っ掛けるとこ、この二人の疑心暗鬼がドラマの展開に補助線を引いていて、疑いゆえの行為が二人の顔を引き寄せるなんてのが憎い。そのあとの手錠切断とヒロインの車呼び止めとの切迫。パーティ会場での緩い包囲の緊張、などなど、本筋と補助線とがもっと有機的に絡み合えればいいんだけど、それぞれで勝手に展開し、しかしそれぞれの見せ場は作っている。自由の女神のクライマックスでは音楽を入れず、高空の風の音を十分に聞かせている演出を、最近の監督は学んでほしい。ヒッチコックにおける悪の組織って独特の雰囲気があるな。つまんないチンピラのような手下ってのはあんまりいなくて、けっこうみんな有能・まじめそうな感じが漂っている。敵の描写に侮りを入れて弱めてしまうと、闘争のドラマそのものが弱まってしまうことを熟知しているからだろう。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2011-03-27 09:53:20)
1083.  十階のモスキート
内田裕也の魅力のひとつに、声を張り上げると上ずっちゃって軽くなり、ドスが効かなくなる、ってところがある。悪役専門だったら致命的な欠点なはずなんだけど、この人の場合、それを独特の滑稽味として持ち味にしてしまった。彼自身も意識してるんだと思う。絶対に普通の人じゃないという目つき・顔つきと、おどおどした感じを含む卑小な声とのアンバランスによるおかしみ、それがいつも気を張って生きている現代人にとって、けっこう普遍的な共感を呼ぶことになったわけだ。ラストの強盗シーンで、そのアンバランスは十分活用された。話は、しだいに借金地獄になってくとこにリアリティ。競艇で一発で決めてしまいたいと思う心理なんか、分かるもんなあ。十階へ階段を使って常に上っていくのがタイトルの意味。
[映画館(邦画)] 6点(2011-03-26 09:57:36)
1084.  新ドイツ零年
『パッション』以降の作品に言えるんだけど、メランコリーの度が強くなってるんだよね。それまで諧謔で隠されていたものが、剥き出しになってきたというか。室内撮影はもちろんそうなんだけど、風景の寒々しさといったら。ヨーロッパのメランコリーの源流はドイツにあるのだろうか。フランス・イタリアといったいわばヨーロッパ文化の中軸的なものに対して、ドイツ的なものを置くとヨーロッパに奥行きが見えてくる。たとえば音楽はイタリアやフランスで花開いたのに、いつのまにかメランコリックなドイツに中軸が移っていった。光に対する影のようなドイツの存在。そういえばこの映画では(というよりこの人の映画では常に)音楽・音に対して鋭敏にさせられるな。ピアノの打撃音まで。スピードを操作されてビデオで再現される過去の映画、その中の人物はすべて悲劇的に見えてくる。なにかすべてが憂愁へと向かっていく。憂い顔の騎士は、自らそのイメージの陳腐さに追い立てられるように、掘削機へ向かっていく。
[映画館(字幕)] 6点(2011-03-25 12:14:20)
1085.  薄化粧 《ネタバレ》 
川谷拓三も、取り調べられる側から取り調べる側になったんだなあ。で、この犯人像、いかにも緒形拳的で、もひとつ驚きがない。そういう自分専用の像を作ってしまったってことは、役者としてすごいことではある。蛇のような男と近所で言われて・補償金ぶとりで・女の喧嘩にはオロオロし・すぐカッとなり・長いトンネルを掘って脱獄し・女好きで(「ね、しよ、しよ」)・石に子どもの名前を書き付け・竹中直人にはいい人であり・小娘には馬鹿にされ・少女に化粧してやり…、といったキャラクター。緒形拳が演じてしまうことで、こっちがそういう型に分類して見てしまってるのかも知れないが。最初のうちは時代がよく分からなかったが、しだいに歌謡曲で絞られていった。昭和24年。ラジオの時代。駅の便所で化粧する緒形と、あと追ってくことを決めて化粧する藤真利子とがカッとバックされるあたりに、短編小説の佳篇的味わい。
[映画館(邦画)] 6点(2011-03-24 12:20:18)
1086.  リフ・ラフ 《ネタバレ》 
建設労働者たちの悪口の言い合いとジョークとが、生き生きとした言葉の渦を作っていくところが魅力(ヒロインとの恋愛はあんまり面白くない)。そういったユーモア的な場面が、一転「深刻」に傾くところが怖く、感電する電気ドリルを抗議してあっさりクビになったりする。哄笑と罵倒が混ざったようなヒステリックな雰囲気への傾斜。現場監督の携帯電話で故郷のお袋に電話しちゃうユーモアも一転して、暴行逮捕にころげ、アフリカの夢は転落事故に傾く。そしてラストの放火が導かれる。管理人の犬が管理人に噛みついて放火の二人を逃がすあたりで、もう話は象徴の世界にドドッとなだれ込んだ。英国ドキュメンタリーの伝統を感じさせるタッチだったのが、この映画全体の「傾斜」を生かしている。ヒロインは「人生を複雑にしたくないの」と最初言ったな。主人公は「欝は中産階級の病気さ」と言う。労働者たちは、単純に笑うか怒るかしろ、っていう希望を言ってるのか。欝に沈むな、って。
[映画館(字幕)] 7点(2011-03-23 10:24:43)
1087.  妖婆・死棺の呪い 《ネタバレ》 
ロシアの香り。ホラーは土地の香りが大事。と言ってもこれは「ホラー」ってより「民話」だな。話はグリム童話にもよくある三晩妖怪と戦うってのだけど、主人公の髪形見ただけでもういかにもロシアの農奴。婆さんに乗っかられてフワーッと倒れ、またフワーッと置き上がるあの感じ。回転台の上を走ってるこのセットの感じ。全体にフワフワ感。メカじゃなく手作りの感触。涙がふっと赤くなり、起き上がった魔女がスーッと滑るように下りてくる感じ。どってことないことやってるんだけど、特撮でキラキラやるよりよっぽどハッとさせる。ロシアの土の匂いと、どこかでちゃんとつながってる。そして魔群の登場。湧いてくる感じがよく、壁面をいざるように降りてきたり、板の間からボタボタ落ちてきたり、手だけが出てきたり。本の中から烏が出てきたのは、二晩目だったっけ。
[映画館(字幕)] 8点(2011-03-22 09:57:16)
1088.  女の中にいる他人
降り続く雨で、湿っぽいトーンが決定される。室内の陰影の味わいは横からの光が主になっているのだが、全体がモワーンとなにやらタレコメてる感じ。つまり湿っぽいのだ。フェイドアウトの多用も、その湿度上昇に関与してるか。あと顔が二つ以上、向きを変えて画面を埋める構図。妻と小林君。焼き場で草笛光子と小林君が何となく気になりあうシーンなど、いわゆるサスペンスの興奮とは微妙に違うような、でもやはりサスペンスの一種なのか、いい。停電の最中に告白しちゃうシーンもあったな。顔を合わせたがらない人々。まず観客はこの男と事件の関係をいろいろ想像するサスペンスがあり、次にそれがバレるかどうかというサスペンスがある。このつながり具合が、も一つうまくいってなかったようにも思う。それに題名がちょっと喋りすぎてる。輪郭線がにじむような画像処理など珍しいこともやっており、花火の夜の風景はストレートに美しかった。花火の音の効果もよろしい。次の『ひき逃げ』とともにこれは珍しいサスペンスものだが、気の弱い男としっかり女、という基本線は成瀬の本道だったわけだ。
[映画館(邦画)] 7点(2011-03-21 10:09:01)
1089.  トゥルー・ロマンス 《ネタバレ》 
感情のおもむくままに走っていくシナリオ。とてもホット。それでいて部分的にはネットリしているのがおかしい。正義と悪の対決というより、ホットな二人とクールな世間の対決。G・オールドマンが電灯を揺らしながらC・スレーターをからかうとことか、それからもちろん、C・ウォーケンとD・ホッパーの向かい合いとか(それにしても豪華なキャスティングだ。D・ホッパーをいいお父さんにするなんて憎いね)。エルビスの啓示を受けて揉め事に入り、エルビスの啓示で救われる。お得意の三すくみはあるが、でもシナリオが書かれたのは『レザボア・ドッグス』よりこっちが先だったらしい。問題はラストのファミリーシーンだ。もしかするとこれ、平穏な若夫婦の・しがないコミックブック店員夫婦の、こうありたかった妄想なのかとも思えてくる。「トゥルー・ロマンス」って、何かそんな皮肉みたいな題じゃん。この二人以外は、世間はみんな死んでしまって。ひたすら夢としての冒険、ホットでありたいいう気持ちがここまで妄想を暴走させたのだとしたら、つまりそれだけクールに浸されてしまった時代だってことなんだろう。
[映画館(字幕)] 8点(2011-03-20 09:56:17)
1090.  スリー・リバーズ 《ネタバレ》 
カーチェイスは食傷気味だし、サイコ系も食傷気味だと思っていたが、でも基本的に嫌いじゃないのね、サイコもの。金や権力の悪より、ついヒイキしてしまう。なにかの「手段」になってるんじゃなく、目的とストレートにつながってる潔さがある。サイコ的、少年時代、川、なんてのが作品のトーンを決めていた。舟は車ほどアクションでの応用が利かない。小さな堰を飛び越えるぐらい。ただ利点は、波しぶきが立って派手になること。スピードが出ると先っぽが上がるのもかっこいい。猛々しさが出る。たまには目先が変わって、舟もよろしい。一番の警官にならねば、いうコンプレックスの話。母も川で死んでいるという隠し味。おもちゃのパトカーが怖い。
[映画館(字幕)] 6点(2011-03-19 10:16:43)
1091.  ロビン・フッド/キング・オブ・タイツ
クスグリばかりの弛緩した笑いの世界であったなあ。ギャグのほとんどが中世に現代を入れ込むパターンで、それに笑えないと悲惨。城の宴会でのどんちゃん騒ぎでこそ、映画ならではの笑いを引き出せるはずなのに不発。シャンデリアのロープを切ると、自分の上に落ちてきちゃうとか(メル・ブルックスでロープと言うと『サイレント・ムービー』が懐かしく思い出され)。ぐるっと360度回転のドミノ倒しはまあまあ。ミュージカルに入るあたりも、もっと何か出来そうなのに、ただの「ミュージカル・パロディ」の枠内に留まってしまう。
[映画館(字幕)] 5点(2011-03-18 09:49:28)
1092.  そして船は行く 《ネタバレ》 
一番良かったのは、カマタキのとこで歌手たちが歌声を競い合うくだり。顔顔顔。フェリーニ健在なり。狙いは面白いがあんまり成功してなかったのは、食堂での鶏催眠術。もっと盛り上がってもいいのは、ジプシーたちの踊りシーン。一瞬の美しさで言えば、心霊術に登場する歌手。上流人士の世界に下の世界が土足で踏み込んでくる、いうタッチは、どちらかというとヴィスコンティのお得意なのだが。ああそうなの、本作はヴィスコンティ的「滅び」が前面に出てくる。フェリーニは「衰え」は好んで描いたが、こういう「滅び」とはいつもちょっと軸をずらしていたように思う。ま、どちらも「懐かしさ」という陰翳を引きずってはいるんだけど。合唱とともに沈んでいくあたりはやはり圧巻。滑り出すピアノやテーブル、廊下に漂い出すトランクになぜか蝶が二匹。最後の映写をしている心酔者、あれは余計だったんじゃないか。すぐボートで大西洋を漂うサイにつなけてよ良かったんじゃないかな。
[映画館(字幕)] 7点(2011-03-17 10:17:44)
1093.  白い町で
積極的に無為であろうと試みる男の冒険、とでも言うか(本人は怠惰とは違うと思っている)。だから、特に前半は、ほとんどセリフがない。それがつまり白のイメージなんでしょうね。ギリシャの輝く白と違って、ポルトガルはリスボンの白は、汚れくすんでいるの。光も後半にいくにつれて曇ってくる。これ結局、男の意思に関わらず、清潔な無為のつもりが、しだいに濁らされていってしまう過程に歩調を合わせてるわけ。ピュアな孤絶のなかからローザとの出会いがあって、セリフが湧いてくる。ローザを失って8ミリの映像からは「私」が、そして人間が消えていってしまう。ラストはまた次の漂流を暗示しているようでもあり。妻と男との関係が、やがて男とローザとの関係に重なっていく、いう趣向もあった。とにかくくすんだ白い町の描写が素晴らしい。あの狭いとこを走る路面電車には興奮した。私、夢によく学校の廊下とかデパートの中とか狭いところを走る路面電車っての出てくるんだけど、現実ってよりそっちに近い。あと、男が去ったと思い込んだローザがベッドの上で丸くなるところ。夜の赤い月の下をゆっくり進んでいく船の照明。働く女性の捉え方には『ジョナスは2000年に25才になる』と共通するものを感じた。
[映画館(字幕)] 7点(2011-03-16 12:28:37)
1094.  社長漫遊記 《ネタバレ》 
オリンピックの前年いうことで、社長のアメリカかぶれはもっと生々しい皮肉になってたのかも知れない。役者のちょっとした仕種なんかにくすぐられるところが多い。これ小林桂樹のトーク付きで観たんだけど(成瀬巳喜男の『女のなかの他人』と、筧正典の『新しい背広』ってほのぼの小品と、小林桂樹が出てるという以外共通点を見つけづらい風変わりな三本立てだった)、かなりアドリブ的に入れたところがあると言ってた。一番光ってたのはやはり三木のり平で、ときにすごく残忍な表情を浮かべながら、それを全体の喜劇トーンにうまく溶かし込んでいる。社長と刺々しくやりあったり、ちょっとした独のあるセリフを付け加えたりするのが、わさび的に絶妙。森繁も、無理にフォークでそばを食べるとこなんか、わざとらしさの極致なんだけど、笑ってしまう。尊大さと、ふっとした卑小さとをくるくる交換するおかしさ。フランキー堺の三世(?)言葉のおかしさ、こんな程度のことで笑ってはいけないと思いつつ、これも笑ってしまう。チームワークの良さで、場そのものが生き生きしてるってことなんだろう。池内淳子の消防芸者ってのは、火事があると野次馬で見に走り出してしまうっての。
[映画館(邦画)] 6点(2011-03-15 12:28:23)
1095.  レイニング・ストーンズ
微苦笑の世界をゆっくり引っ張っていって、ラストになってカチッと怒りを結晶させるのがこの人の構図。まるで仁侠映画の型。「生活」することの大変さがほとんどドキュメンタリーのタッチで綴られていく。願いは娘の晴れ姿。羊肉売り、下水掃除、ディスコの見回り、妻のほうは下手なミシン掛け、とこの家族と十分親しくなったところで、高利貸しが闖入してくる。生々しい怒りが映画を観ているものに自然に湧き上がる。たとえば新聞などでひどい高利貸しの記事を読んだときなどに起こるだろう傍観者としての怒りではなく、当事者としての怒りを擬似体験できる。これ映画の強み(怖さでもあるが)。そのあとの神父との対話がいい。家族を守ろうとするのは罪ではない。怒りをそのまま屈折させずに肯定する。さらにラストで警官をうろつかせた後で、バンを主人公に返すというオマケも嬉しい。町を怒鳴って歩いているヤク中の少女のカット。友人の娘がバイ人になっていることを友人に言えない。その友人は娘から貰った金で泣いている。こういう循環。中で語られたジョーク。「小児麻痺の子どもを車椅子ごとクレーンで吊って奇跡の泉に漬けたところ、少年の脚はそのままで車椅子のタイヤが新品になってた」。象徴的ですなあ。
[映画館(字幕)] 8点(2011-03-14 10:41:54)
1096.  から騒ぎ
いちおう「字幕あり」だが、前の席の人物のためにその半分が読めなかった場合も、これでいいんだろうな。冒頭の、男の帰還によって沸き立つ雰囲気が基本。身だしなみを整えること。どうのこうの言ってもパリッとして男と女が会うのは気の沸き立つものだ。そういう晴れ晴れしい気分に映画を満たしていく。噴水のまわりをぐるりと回る歌の場の長い移動。ラストの家の中を通り抜けてから高く高く昇っていくとこ。このブラナー君のいわゆるシェイクスピア役者臭は(とりわけ独白)どうも苦手で、噂話をしてる後ろを駆けつける一瞬のエマ・トンプソンのちゃんとした映画演技を見習ってほしい。悪役キアヌ・リーヴス、警保官マイケル・キートンのキャスティングは正しい。警保官のアナーキーさには、注目すべきものがある。
[映画館(字幕)] 6点(2011-03-13 12:25:39)
1097.  メリー・ポピンズ 《ネタバレ》 
これ私が人生で一番最初に観たミュージカル映画(邦画なら東宝特撮・洋画ならディズニーとだいたい決まってた)。そのせいか今でも自転車こいでると「凧を揚げよう」をしばしば口ずさんでいる。まだ脳が固まってないときに沁み込んだものは、基底部に固着してしまうのだ。子どもにタップの至芸見せたってしょうがないから、ダンスでは煙突掃除人の群舞に見どころを集中させ、あとはトリック撮影で興味をつないでるのも正解。風や煙や凧や、あるいは子どもたちと探検するロンドンの屋根屋根が、ポピンズの浮遊のイメージを補強し、その浮遊が「笑い」にもつながっていく。完全セット撮影は、トリックしやすいってこともあっただろうが、いかにもミュージカル世界の「作り物」にふさわしい。…なんて書いてくとすごく冷静に再見してたみたいでしょ。ところが…。最初のほう、ドアの前に並んだ家庭教師応募人たちが風で吹き散らされていくところで、なぜかハラハラと泣き出してしまったんだな。その後も要所要所、いや特別要所とも思われないとこでも、滂沱。ラストのバンクス氏の会社復帰が告げられるご都合主義きわまる場面まで、何度も感きわまってしまった。脳の基底部から揺り動かされてくるような異様な過感情状態になっていた。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2011-03-12 12:39:20)(良:1票)
1098.  ベルエポック(1992) 《ネタバレ》 
おとぎ話的な構図。上の三姉妹にもてあそばれた後に、末娘と結婚し幸せに暮らしましたとさ、って。生き生きする女性どもと、憂い顔の男どもの対比。ふらりと姉妹に惹かれて汽車から戻ったものの、姉妹のペットになっていくような。女性陣の勝利が決定的になるのは母親の帰還シーン、一番いいとこ。庭からの歌声、窓が開く姉妹、屋根裏の主人公も。ベルエポックって、どこか幼年期志向と重なるとこがあるかもしれんね。母性的なるものってことか。王政派も共和制派もけっこうなごやかに暮らしているスモールヴィレッジの雰囲気。二人の警察隊員の死と、神父の死の間に挟まっているベルエポック。二つの男の自殺に挟まれた女の時代、と言ったほうがいいか。軍服の次女に怪しい魅力。あちら本場の人の「タバコ」という発音のアクセント、たいして日本人と違わなかった。
[映画館(字幕)] 6点(2011-03-11 12:20:38)
1099.  天国の日々
映像は美しいですなあ。揺れるようなサン・サーンスの「水族館」に乗せられて、陰影の多い自然光。なんでも旧約聖書が下敷きになってるそうだが、そういった「語られたお話」という印象の濃いストーリー。社会派ではない。ただ映画としての流れがも一つうねってくれなかった。ジワジワと破局に向って進んではいるんだけど、こういう映画はこれでいいのかな、もう少し細工が欲しかった、ってこと。イナゴから火事へのシーンは迫力。けっきょくみんな、良くなろう・浮き上がろう・寂しくなくなろう、として不幸を呼び寄せていってしまう。それを憐れむ者の視点ね。ああ、やっぱり聖書なんだ。
[映画館(字幕)] 7点(2011-03-10 12:19:03)
1100.  危険な年 《ネタバレ》 
白人が無力にアジアから退場していって幕になるってところが、この作品の眼目でしょうな。もう自分の正義を振り回せない。西洋人がアジアを見るときの戸惑いが、そのままフィルムに定着しているようなところがある。変にビクビクしてしまうところ。昔の西洋映画のアジア観とは、ずいぶん違ってきた(といってもオーストラリアってのが微妙な位置にある西洋人社会で)。しかしなんといってもビリーね。あのキャラクターの印象は強烈。いい意味での憂国家なの。俺はここで生きるしかないんだ、という切実さがある。記者仲間のドローンとゆるみきった雰囲気、ベトナムへ行きたがっているわけ。よその「もっと面白いところ」へ行ける連中。けっきょくそれは帰る安全な場所があるからなわけで。群衆デモシーンに迫力があった。共産地区の田舎の風景と不安が重なるあたりのうまみ。メル・ギブソンが友情のために走ってくるが間に合わない、っつうのは出世作のラストと同じ。友情を描く作家なんだなあ。
[映画館(字幕)] 7点(2011-03-09 12:28:02)
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