101. 太平洋の地獄
三船敏郎のファンがディスカウント・ストアで4ドル(400円弱)で売られていたこのDVDに遭遇したら・・・飛びつくのは当たり前、ましてやDVDの字幕でスペイン語とフランス語を勉強しようと欲ばっているわたしとしては天にも上る気持ち・・・と言いたいところですが、後者の期待は裏切られ、「うるさい!」とか「こんちくしょう!」といった表現ばかりを学ぶこととなりました。美しい南太平洋の島を舞台にくりひろげられる、敵対する国の軍人としての威信と生存をかけての壮絶な戦いと協力の顛末を描く重厚な作品で、言葉が通じない二人の登場人物間で交わされる台詞はほとんど重要ではないのです。三船でなければできない演技に魅了されっぱなしの本作品は三船以外の俳優が主演していたらBC級の作品になっていたことはまちがいありません。「三船敏郎の後継者と目されている某氏は首から下は演技をしていないよ。」という俳優志望の人の指摘を聞いたことがありますが、それからというもの、三船敏郎出演の映画を見るたびに彼は世界の演劇史でも稀にみる名優だとつくづく思います。米人役がちょっと軽いかったり、三船には超エリート海軍中佐の風格が十分なのに簡単な英語も話せなかったりするのが不自然ですが見ごたえは十分でした。ディスカウント・ストアさん、これからは20ドル以上でこのDVDを売ってください。それだけの価値があります。 BGMがジャズもありクラシックもありでおもしろかったです。 [DVD(字幕)] 8点(2009-03-21 13:30:58) |
102. 怒りの葡萄
虚飾を廃したドキュメンタリー・タッチで淡々と描かれている作品。主演のヘンリー・フォンダの演技も控えめといおうか、特筆するようなものもなく、本来こういった作品は7点どまりなのに9点を奮発するのはやはり、今の経済情勢がこの映画の時代の大恐慌の再現だと言われているからです。今の世界では誰もが共産主義の末路を知っていて、共産主義に活路を見出すことはないので、どうすればいいのか考えさせられます。過去の先輩から私たちへのメッセージとして鑑賞すべき作品。 [DVD(字幕)] 9点(2009-03-08 03:00:12) |
103. 天井桟敷の人々
邦題から貴族のお話しかと思ったらさにあらず。Disk2を先に見るというまぬけな不運のためにDisk2を見ているあいだ中、ガランスは貴族か金持ちで俳優のバティストとの身分違いの恋の悲劇だと思っていた馬鹿さかげん・・・。でも、Disk1の冒頭でガランスの正体はあきらかで、しかもコメンタリーつきの版が借りられたのでドジを補って余りある収穫がありました。高得点をつけた人でも昼メロ風とおっしゃっていますが、この作品はそんな甘いものではありません。ナチス当局の検閲をかいくぐり、かいくぐり・・・スタッフの一人がユダヤ系だったせいもあり、製作者一同、英仏連合軍の進行状況を見ながら、「この頃にフランスは解放される。」と予測された頃にユダヤ系スタッフの名前をクレジットに入れて封切ることに決めたそうです。フランス人(被占領者)にしかわからない抵抗のメッセージを占領者のナチスの検閲官にはわからないようにオブラートに包んでメロドラマにしたわけです。もちろん、ユダヤ系の人のクレジットなしで解放前に封切ってもフランス人には受けたでしょうが、そこは巨額な費用を投じた作品・・・商業的な計算もあって当然でしょう。コメンタリーの全てをここで書くわけにはいきませんが、言葉で語りかけようとする俳優フレデリック以上に雄弁でガランスを救ったバティストの無言劇がヒントです。すばらしい作品だとは思いますが、どうのこうの言ってもやはり、解放後に作られた単刀直入な作品(たとえばHiroshima Mon Amour、邦題は「二十四時間の愛」)のほうがわかりやすいので満点マイナス1点にします。 [DVD(字幕)] 9点(2009-02-28 13:22:19)(良:2票) |
104. ハムレット(1996)
《ネタバレ》 古典中の古典で今まで何回も映画化されてるシェクスピアのハムレットとなれば他の作品と比べての出演者の演技と演出だけで点数をつけざるを得ないので点数は辛めです。冒頭の王宮シーンから「これはバッキンバムかベルサイユか?」といった感じで原作が想定していた中世デンマークではないのは明らかで衣装なんかが19世紀風なのにはすぐ慣れましたが、頻繁に挿入される回想シーン(王の殺人シーンからオフィーリアのベッドシーンまで!!)には辟易させられました。先王の幽霊が現れるシーンなんかはまるでホラーでした。ハムレットを初めて映画化したローレンス・オリビエが独白シーンをナレーションにして(今の私たちには斬新でさえありませんが)センセーションを巻き起こしましたが、これではちょっとやりすぎです。ブラナーの演技はまあまあでしたが、コメディーのほうがあっているかもしれません。貴公子のローレンス・オリビエと道化師に徹したメル・ギブソンの真ん中で中途半端という感じ。19世紀の上流社会の舞台設定にパッチワークのような手法が合わなくて変でした。王国の話ではなく現代ニューヨークのコーポレート・エリートの話に変えてしまったイーサン・ホーク主演のバ-ジョンほうが好きです。 [DVD(字幕)] 5点(2009-02-14 11:41:54) |
105. 戦場のアリア
みなさん評価が高いのですが、私には鑑賞後にあまり心に残るものはありませんでした。たしかに鑑賞中には感激していたのですが・・・。第二次世界大戦の映画が多く作られ、第一次世界大戦は何か歴史のかなたに忘れられようとしているような感じがぬぐえませんでした。第一次世界大戦は人類史上初めて、飛行機や戦車などを駆使した大規模な世界戦争だったのにその観点が抜けていて、だからどうだという視点が抜け落ちているからかもしれません。この点はデカプリオ主演の「アビエーター」の冒頭の主人公の執着(人類初の空中戦の映画化)のほうが如実に第一次世界大戦を語っています。どうのこうの言ってもクリスマス停戦はこの先第一次世界大戦の終結するまで(1918年、第一次大戦中の最後のクリスマスは1917年)そして、クリスマス停戦自体は第二次世界大戦中もあっただろうけれど、停戦中に敵味方でサッカーをするなんていうのはおそらくこれが最初で最後だったことがストーリーから明白で、「初めての世界大戦で兵士たちもうぶだったのね。」という感想しかありませんでした。そして、一番決定的だったのは敵味方双方がキリスト教徒だということ・・・。全面戦争が局地戦闘にスケールダウンされている感じがしました。現在世界で起きている戦争ではユダヤ教対イスラム原理主義だったり、戦争の理由はいろいろでも敵味方の宗教が違うということが多いのです。以上のような理由で、本作品は第一次世界大戦を描いたあまり多いとは言えない映画の中でも無名の兵士に焦点を当てた「西部戦線異状なし」やスーパースターを中心に据えて現在にも連なる異文化圏アラブの心を描こうとした「アラビアのロレンス」に及ばないのです。 [DVD(字幕)] 5点(2009-02-04 04:54:12) |
106. 宮廷画家ゴヤは見た
原題「ゴヤの幽霊」とは一体何なのか、悲喜こもごもの80年の人生を全うした天才画家がなんで「うらめしや・・・。」と化けて出たのか(笑)と不思議に思いつつ手にしたDVDで実は幽霊とは・・・。ネタばれにチェックしたくないのでかって勝手な決めつけ書きませんが、「ゴヤは見た」という邦題が期せずして原題よりも内容をよく語っているかもしれません。(こういうケースはまれです。)DVDのケースの裏の説明が褒めちぎっていたハビエル・バルデムの役柄はタイトル・ロールではなくロレンツォ神父でした。僧衣をまとったいやらしいおじさんからフランス革命かぶれでフランスのファッションをまとってナポレオン傀儡政権の手先となるまで迫真の演技でした。ゴヤもよかったけれども、こちらはあくまでも「見る人」に徹していました。職人(=商人)の息子ゴヤは芸術家といっても結構計算高くて肖像画を描きまくって金儲けでも成功したことで有名ですが、一方で真実を描こうとする芸術的欲求も強くて、生活の糧としての活動と芸術的活動をうまく組み合わせていたようです。私たちはこういう生活態度をロレンツォのような偽善者といっしょにはしません。でも、そのロレンツォに「おまえは金のためなら何でも描く。」ととっちめられたりして・・・。ゴヤが(確か)5人の子持ちでありながら次々と子供をなくし、一人しか成人させることができなかったというのも(確か「黒い服を着た女」のモデルにもなっていたはずの)イネスとゴヤとの関係を解き明かす鍵かもしれません。「確か」を二つも並べてすみません。これからご覧になる方、以上のような内容に疑問符をつけてエンドロールの最後の最後までしっかり鑑賞してください。 なお、スペイン語のタイトル「時代の肖像画(Retrato de epoca)」が何となく一番作品に合った題だと思います。 [DVD(字幕)] 8点(2009-02-03 15:33:15) |
107. 王妃の紋章
セットの豪華なことは一目みれば誰にでもわかります。チャン・イーモウ監督のスクリーン美学が如何なく発揮された作品です。でも、「紅夢」や「菊豆」にあったようなおどろおどろしさとか、人間の本質に迫ったり中国の家族制度を暗に批判したりする哲学性はいったいどこに行ったのでしょうか?中国の経済が豊かになって、監督自身も国際的に有名になって、大掛かりなセットや華やかな衣装をまとったエクストラに出資してくれるようなスポンサーができたからといって、資金不足だったころのハングリー精神や表現欲を忘れないでほしいです。皇帝の風格や個性を出していた三王子の演技は満点。皇后役のコン・リーの演技も満点近いのですが、私の趣味としては若い皇太子とのどろどろした愛欲におぼれるのは「サンセット大通り」の往年の大女優グロリア・スワンソンみたいな、皺だらけの顔を厚化粧で塗りたくるオバサンであってほしかったです。そうすればもう少し哲学味が加味されたかもしれません。えっ、文化大革命のせいで年長の世代からは主演が張れるような女優が育っていない・・・のかもしれません。 [DVD(字幕)] 6点(2009-01-18 02:37:21)(良:1票) |
108. オテロ
最初にお侘びを・・・この作品はオペラを映画化したものなので、採用されないと思って採用されていたのにレビューを長らくほったらかしにしてしまいました。ゼフィレッリ監督の作品ということで映像が堪能できる作品です。オテロを演じているのはオペラ歌手のプラシド・ドミンゴですが、ケネス・ブラナー版のオセロのようにアクが強くなく、BBC製作のバージョンでアンソニー・ホプキンスが演じたオセロのように演技はすごくうまいのけれど白人が顔を黒塗りにしているのが見え見えというわけでもなく、ごく自然に風格のある黒人の将軍を演じていました。ミュージカルやオペラについていける方には(そうでない方にも)お勧めの作品です。以下は無駄口ですが、プラシド・ドミンゴと言えば、北京オリンピックの閉会式に駆り出されて歌っていました。でも何でまた・・・?三大テノールのホセ・カレーラスが地元バルセロナのオリンッピクで歌い、パヴァロッティがやはり地元のトリノで口パクをやって、三大テノールの中で残されたプラシド・ドミンゴはメキシコ出身だけれどメキシコではしばらくはオリンピックはなさそうで、かわいそうだからでしょうか?こういうのはやめて映画監督と組んだ仕事に専念してほしいです。 [DVD(字幕)] 8点(2009-01-16 14:43:02) |
109. ヘンリー五世(1989)
《ネタバレ》 シェークスピアの作品の中ではマイナーかもしれない作品をよくまとめた秀作だと思います。まあ、リチャード二世からヘンリー八世に至るシェークスピアの歴史ものはわたしたちが「東京裁判」とか「シンドラーのリスト」とか「ヒトラー最後の・・・」なんかを見て歴史に対する理解を深めるのと同じで、当時の人たちについ最近(?)の歴史を理解させるために書かれたわけで、わたしたちからすると時間的にも地理的にも遠い感じがします。それにもかかわらず、この作品に心に触れるものがあるのはやはり演出と二十台前半の青年王を堂々と演じたブラナーの演技力のなせる業のようです。戦いの場はあくまでも凄惨ですが、シャルル六世の娘カトリーヌへの求婚シーンはあくまでも甘く、「あなたは敵の妻になるのではありません。友人の妻になるのです。」という終わり近くの言葉からは血気にはやって戦争を始めたものの、反省して平和を求める青年王の感性が伝わってきて印象的でした。現代の世の中でも血みどろの戦いの後でも誰か一人のこういう言葉で全てが丸く収まったりするといいのですが、民主主義の世の中ではもはやありえないでしょうね。 [DVD(字幕)] 8点(2009-01-16 14:16:48) |
110. 恋愛適齢期
《ネタバレ》 中年過ぎて初恋なんてちょっとありえない設定についていけなかったです。若さだけがセックス・アピールではないといいたいのか・・・でもバ×××ラ飲まなければいけない、しかもちょっと興奮すると胸痛で救急車を呼ばなければいけないおじさんにはいくら年いった女性でも(少なくとも生理的といおうか生物学的には)惹かれないんじゃないかな・・・よくわかんないです。ただしキアヌを含めた三人の演技はすばらしいし、特にたまたま「アニー・ホール」と続けて見ることになったダイアン・キートンはすばらしいコメディー女優だと思いました。 [DVD(字幕)] 5点(2008-12-19 14:16:57) |
111. マディソン郡の橋
どんなに熱烈な恋の結果であっても、結婚して子供が成長したころには過去の情熱はどこへやら・・・日常のマンネリから脱却するための中年のお二人の恋!!!これだけの内容にしては豪華すぎるお二人でした。 [DVD(字幕)] 5点(2008-12-18 09:54:03) |
112. 敬愛なるベートーヴェン
《ネタバレ》 音楽家の偉人を描いたものとしては上出来なんじゃないかと思います。過去に見たモノクロ映画の「未完成交響曲(シューベルト・・・いいのは音楽だけ)」と「別れの曲(ショパン・・・冗談にもほどがある)」とつい比較してしまったので点数は甘い目です。エド・ハリスの風格のある演技につきる映画でエドのファンなら必見でしょう。ただわからないのは女性作曲家を目指すアンナ(ダイアン・クルーガー)との関係・・・。ベートーベンは女性にほれ込んでも家庭はもてないタイプだったようなので、こんな話があってもいいかもしれないけれど、いっそ(音楽家ではないけれど)アカデミー賞を総なめにしたガンジーの伝記映画のように色気全くなしにしてもおもしろい作品になったような気がします。時代考証とかもちゃんとしていそうだし、ベートーベンのおちゃらけにも私はベートーベンを尊敬しているわりには抵抗なく見られたし、俳優さんの演技と音楽が特にすばらしいのですが、脚本が今ひとつかな・・・。ラスト・シーンですが、「恋に落ちたシェイクスピア」と全く同じじゃないですか・・・。偉人にほれた女は一人荒野を行くしかないのでしょうか? [DVD(字幕)] 7点(2008-08-21 08:55:09) |
113. ゴーストバスターズ(1984)
《ネタバレ》 火事と喧嘩を掛け合わせたらテロ。火事と喧嘩が江戸の華ならテロはニューヨークの・・・などと言うつもりはありませんが、警官と消防士が他の街ではないほど尊敬され、お互いに縄張り争いで反目しあっているニューヨークを舞台に、警官と消防士を足して二で割ったような格好をして、霊柩車を改造したパトカーまがいの緊急車両を乗り回す。幽霊の出没に対してカソリックやユダヤ教の聖職者がそれぞれのやり方で悪魔払いみたいなことをやるし、大仰なモーターバイクの警官が先導する隊列が走っているのは慣れ親しんでいる大通り、三人の主人公が元勤めていた大学はニューヨーク市が誇るアイビーリーグのコロンビア大学(ホンマに同校のキャンパスでロケをしています)ということで日本出身のニューヨーカ-なら抱腹絶倒ものの昔なつかしい怪獣映画であります。実は、続編のほうを先に、アメリカに来る前に見てとても面白いと思い、こちらはニューヨークだからということで笑えました。ニューヨークに来る前に両方見たという日本人はこちらのほうが面白いと言っていました。個人的にB級映画につけることにしている最高点をつけるしかないのかな・・・ [DVD(字幕)] 7点(2008-05-27 13:06:39) |
114. フリーダ
主演の女優さんがとても個性的で印象に残りましたが、どちらかというと演技より顔だち(本人、すなわち自画像にそっくり)の魅力のせいのようです。メキシコ情緒と極彩色の絵は楽しめますが、芸術家の生涯を描くのだからもう少し深みがあってもよかったのではないかという気がしますが、絵と人生が渾然一体となっていた感じはあまりしませんでした。どこをどうすればいいのかははっきり言えないのですが・・・。ジェフリー・ラッシュがトロツキの役やったの・・・へー・・・、で、アントニオ・バンデラスはどこに・・・?といった感じです。 [DVD(字幕)] 6点(2008-05-26 09:43:27) |
115. 硫黄島からの手紙
硫黄島二部作のアメリカ篇「父親たちの星条旗」を見てからだいぶたって本篇を始めて見ました。やはり多くの方がおっしゃるようにこちらのほうが上だと思います。「父親」のほうの点数を一つ下げて8点にしてこちらを9点にしようとも思いましたがお互いに相補う作品だということで、同じ点をつけておきます。満点ではない理由は外国部門のアカデミー賞にノミネートされず、多分そのせいでオスカーを逃したこととか、たいしたことではありません。当時のアメリカ人にとって、日本兵はわけのわからない怪物だったと思いますが軍部の無謀な暴走が硫黄島などの前線で戦った人々をどう変えてしまったか、この作品を見るとよくわかります。二宮和也のしゃべり方が現代風すぎるという意見も聞きましたが、さほど気にならず、時代考証にも結構念が入っていると思います。暗い画面と米国R指定(日本の18禁?)もしかたのない残虐シーンが続きながら、監督のイーストウッドが作曲した癒し系のBGMと時折入る手紙の朗読に心が和む思いがします。確かに、「父親」よりもこちらのほうが極限状態における個人と国家の関係などについて真剣に考えさせる作品だと思います。 [DVD(字幕)] 9点(2008-05-12 11:00:38)(良:1票) |
116. セブン・イヤーズ・イン・チベット
2008年春現在、非常にホットな作品で地元の図書館連合でほとんどが借りられていて、リクエストをかけてやっと鑑賞することができました。私たちはチベットについてもっと知るべきなので、その観点から是非お勧めする作品です。主人公ハラーがチベットに旅立った時、彼の祖国オーストリアは世界大恐慌やヒトラーの台頭のどさくさに紛れてドイツの一部になっていましたが、1951年に彼が帰還した時にはドイツとは別の国でした。言葉も習慣もほとんど同じながら、歴史が異なるドイツとオーストリアは決して一緒にはなりません。だったら、 言葉・習慣・宗教など全ての面で異なる中国とは異なるチベットがなぜ中国の一部にならなければならないのでしょうか?少年ダライ・ラマの人柄にも感銘を受けました。インドに亡命して相当な月日を経たダライ・ラマも聡明で気さくなおじいちゃんのようですが、作品中でも聡明ながら暖かい性格の少年でした。ダライ・ラマが英語を話すのに違和感を覚えたというコメントがありますが、そもそもダライ・ラマというのは先代ダライ・ラマが指定した方角から幼稚園に入るより少し前くらいの年齢で並外れた知能を備えた男の子を「先代の生まれ変わり」と認定して連れてきて英才教育をほどこして一人前の宗教指導者に育てるので、素質も環境も十分なのです。多国語に通じていてすでに聖職者としての実績がある人間を選挙で選んで最高指導者の地位に据えた後でヒトラー・ユーゲントにいたことがあるとかないとかが問題になったりするカトリックのローマ法王よりもっと完璧な宗教指導者になるわけです。選ばれる本人に選択の余地がないからかわいそうかもしれませんが、私たちの中で完璧に人生を選択できる人間がどれだけいるのか・・・?幼いダライ・ラマが唯一与えられたおもちゃのオルゴールの音楽がドビッシーの「月の光」だったのがなぜか非常に印象に残っています。 [DVD(字幕)] 9点(2008-04-06 14:29:18) |
117. 市民ケーン
つい最近デカプリオ主演でハワード・ヒューズの人生が「アビエーター」として製作されましたが、アメリカン・ドリームという言葉まで作りながら、その中身、あるいは人生の意味に鋭く問いかけるアメリカの映画界全体、そしてこの映画を優れたアメリカ映画ナンバー・ワンに指名し続けてきたアメリカの映画ファンに脱帽します。監督・主演のウェルズが製作時にまだ20代半ばだったというから正に驚異的です。確かに「薔薇の蕾」の一言でもって作品全体をミステリー仕立にしようとしたのはちょっといきすぎだという気もしますが、内容が重厚なので高い点数を献上します。(この次はビル・ゲイツじゃないかな?) [DVD(字幕)] 9点(2008-04-05 10:42:58) |
118. U・ボート ディレクターズ・カット版
閉鎖された空間で計器類だけを頼りにドンパチが展開する前半から怖かったです。ちょっとしたホラー映画でした。作品終了までまだ二時間近くあるからどうせ死にはしない・・・と鷹をくくれるのが唯一の救いでした。野戦と違って一人ずつ死ぬということはありませんしね・・・。しかし、どうせ戦争で死ぬのなら潜水艦の中にいて撃沈されるより野戦で頭をぶち抜かれるほうがよほどまし・・・同じ理屈で東京大空襲でじりじりと焼け死んだ人(10万人)より原爆で一瞬のうちに蒸発した人(広島7万、長崎4万+後遺症でじりじりと死んだ人は数知れず)のどちらがいいか・・・あまり中身のある議論ではありません。ところで当時のドイツ軍にはレーダーがなかったのですね。実際はアメリカで開発中だったのです。ゼロ戦飛来の探知と並ぶ画期的な応用としてパラシュートに搭載された原子爆弾開が地上から一定距離に達するまで爆発しないようにしたしかけがあります。当時、オランダからアメリカに移住した生え抜きの原子物理学者ハウスミットは英語を含むヨーロッパの4カ国語を話せるという理由で原子爆弾開発計画からはずされて、本人もわけがわからないままレーダーの開発に従事させられました。その理由は・・・ドイツ原子爆弾開発計画の全容を探る諜報部員にするためにとっておかれたのです。(彼は後に実際に活躍し、ドイツの原子爆弾開発計画は連合国のよりもはるかに遅れていたということを報告しました。)余計なおしゃべりを書きこみましたが、二十世紀の二回にわたる世界大戦は汲めどもつきない映画ネタの源泉で、私たちの曽祖父母の時代の馬鹿さ加減を後世に伝えるためにも、CGなどが発達し、戦争経験者がまだ生きている今のうちに優れた映画を多く作ってほしいものです。映画史の観点から評価はしますが個人的にドンパチとホラーは嫌いだし、いかにもドイツ的な唐突な終わり方も興ざめなので、平均点をあまり変えないような点数を献上します。 [DVD(字幕)] 8点(2008-03-31 12:18:10) |
119. レナードの朝
《ネタバレ》 原作者で脳神経科医のサックスの本を読んで、そのヒューメインな姿勢と科学者としてのするどい観察眼に感動し、しかもロビン・ウィリアムズの大ファンとして私にとっては絶対に見なければいけない一作でした。デ・ニーロの演技(投薬によるチック症や一時的な統合失調症?)は「レインマン」で自閉症を演じたダスティン・ホフマンや「ア・ビューティフル・マインド」で正真正銘の統合失調症を演じたラッセル・クロウに並ぶと思いますが、この三つの役柄の中では一番衝撃的に感じました。神経の情報伝達物質ドパーミンが少なければパーキンソン病、多すぎればチックなどの困った症状が出て、分泌され方がめちゃくちゃになれば統合失調症、もしかしたら運動選手やアーティストでは、関連の運動神経系や知覚神経系でのドパーミンが分泌が他の人より多いのかもしれません。こういったメカニズムが完全に解明された暁には、脳神経関連の病気が根絶されるだけではなく、局所への薬の注入によって誰でも天才になることが可能になるのかもしれませんが、そんなことができる世の中にいなくて本当に良かったと思います。随意運動はできたほうがいいからとりあえず画期的な新薬をためしてみようというセイヤー医師の神に挑戦するかのような試みの顛末が語られていて、サックスの本を読んだ時と同じ感動に視覚効果が伴いました。レナードの副作用の攻撃性は統合失調症、チックはドパーミン過剰症の典型のようですが、デ・ニーロが演じたレナード以外の患者でそれっぽくない人もいたのでちょっと減点しようかな、といったところです。原作者のサックスも本作品の製作に関わったようですが、映画監督じゃないからそこまで注文はつけなかったのでしょう。ロビン・ウィリアムズのセイヤー医師の演技はアカデミー助演男優賞を獲得した”Goodwill Hunting”の精神分析医の演技よりもいいと思います。 [DVD(字幕)] 8点(2008-03-20 11:11:36) |
120. フランケンシュタイン(1994)
点数をつけにくい作品。ホラー・ファンには不評のようですが、ブラナーのフランケンシュタイン博士は彼にぴったりだし、デ・ニーロは顔をぐちゃぐちゃにされて気の毒だけれど、元モーツアルト(「アマデウス」の主人公)、トム・ハルスが演じる博士の親友の凡才が登場する度になぜか心が和むし、ボナム・カーターは人形のようなきれいな顔をしているから終わりのほうの・・・これ以上書くとネタばれをオンにしなければいけないのでやめておきます。出演の俳優さんがそれぞれ個性を発揮したいい演技をしています。他の方のレビューの中で「中世は苦手」とかいうコメントがあったので一言。冒頭のテロップで簡単に触れられていますが、時代背景は19世紀始め、フランスは大革命を経験し、イギリスでは議会政治が成熟して産業革命が進行中、ジェンナーが始めた予防接種の科学的根拠が議論され、蒸気機関や電気も応用まであと一歩というところで、当時の知識人の科学に対する信頼と希望は現代人のそれを上回っていたのです。原作者メアリー・シェリーが後に夫となる詩人のP.B.シェリーと駆け落ちしてスイスに滞在していた時、P.B.シェリーがあまりに科学を信じていることに疑問を感じて書いた作品です。人造人間だのクローンだのはとても一人の科学者が達成できるものではなく、例えば遺伝子(DNA)の解明などといった関連の業績がある度にノーベル賞が奮発され、臓器移植にからむ脳死だのが倫理的に取りざたされてきたということを現在のわたしたちは知っていますが、人間による生命解明に対するわたしたちのこういった姿勢も、メアリー・シェリーが科学万能の考え方にいち早く疑問を投げかけてこのような作品を書いたからこそ生まれたのかもしれません。本作品はそこまで深くは考えさせませんが、原作は文学史上で不朽の地位を確立しているし、映像は美しいし映画化の価値は十分に認められてよい作品です。 原作では博士の弟を殺した罪でのジャスティンの裁判がしっかり書かれていました。この経緯が省略され、民主制の当時のスイスではまさかのような唐突な絞首刑のシーンがあって時代背景を中世だと思わせてしまう一因となっていますが、この減点は大きいです。 [DVD(字幕)] 6点(2008-03-18 14:47:28) |