101. 乱れ雲
《ネタバレ》 司葉子ショウだー! 小津映画のときには見られなかった可憐さだと思う。とにかく美しい。 物語は、確かに、メロメロなんだけど、やはり確かな演出と役者の演技で、最後まで引きつけられた。成瀬は遺作として、彼のキャリアをまったく傷つけることのない作品を残せたんだなあ。それは、本当にすごいことなんだと思う。(某巨匠K監督の晩年とか見てるとね。) あと、成瀬には珍しいカラーだけどつつましい色合いが結構好ましかった。(下の【放浪紳士チャーリーさん】の言からすると、フィルムが色あせているせいかもしれないけど。) 意外だったのは、あの武満徹が、こんなメロメロな音楽を書いていたこと。こういう音楽も書くんだね。 そういえば、この映画と同工異曲と言えば言えなくもないのが、ルビッチの『私の殺した男』(1932)。これは、もう、涙なくしては語れない、ルビッチの隠れた名作です! [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-20 22:43:17)(良:2票) |
102. 1980(イチキューハチマル)
《ネタバレ》 まさに1980年代の狂騒ぶりがそのまま再現されている感じ。これは、体験した者しかわからないかも。今の若い人がドラム式のタイムマシンに乗ってこの光景を見たって、理解できないだろうなあ。でも、80年代、バブルの騒ぎがなければ、楽しい時代だったよ。この映画はバブルが終わってからの視点から1980年という年をうまく逆算してとらえている。自主映画作りのような60年代70年代を引きずるようなアンダーグラウンドな流れと、ともさかりえの演じる元アイドルの、頭で考えないことがだいじなんだよ、みたいな80年代ノリが共存している。この図式のうまさには関心。でも、舞台ならともかく映像としてみると、図式の解読・解明に終わってしまった感じ。惜しいなあ。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2007-03-18 23:32:44) |
103. 花とアリス〈劇場版〉
《ネタバレ》 他愛のない話なのに、というか、あまりにどうでもいい話なのに、どうしてここまで癒されてしまうのだろう。中年の親父がこの映画に感動してしまうって、かなりやばい気もする…でも、とにかく、主役二人の自然な演技は、見ていて気持ちいい。実は2度目の鑑賞なのだけど、一度目のときは、何が良いのかよくわからなかった。この違いは何? みなさん気づかれているとおり、徹底的に漫画ネタで世界が構築されている。一つ面白かったのが、高校の文化祭で演劇部が上演している劇『ジャングル大帝』が、『ライオン・キング』のパロディーだった点。ディズニーの『ライオン・キング』が公開されたとき、これは『ジャングル』のパクリだと、新聞の紙面をにぎわすほどの大騒ぎになったものだけど、ここでそれを逆手に取ったわけだね。これは笑えました。 [DVD(邦画)] 8点(2007-03-18 23:30:03) |
104. 歌行燈(1943)
芸と芸とのぶつかり合いの迫力。新派を支えた花柳章太郎と、同じく新派出身の山田五十鈴の素晴らしさ。花柳章太郎の端正な面持ちは、戦後同じ役を演じた市川雷蔵にも負けてない。彼は、同じ芸道もので溝口健二の『残菊物語』でもいい演技をしていた。戦後の衣笠貞之助版の方が20分くらい長くて、その分ドラマの展開もしっかり描き込まれているが、でもこの戦前の成瀬版も、負けず劣らず素晴らしい。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:26:21) |
105. 鶴八鶴次郎(1938)
《ネタバレ》 ある意味、ルノワールの『黄金の馬車』の対極にある映画だと思う。この映画の主人公は、相方が芸の世界に沈み込まないことが幸せだと思って自ら身をひいてしまう。『黄金の馬車』の主人公は、芸(演技)の世界の嘘に耐え切れず、現実の世界に真実を求めて芸の世界から遠ざかろうとするが、現実世界の中に自身の居場所を見出すことが出来ず、結局、虚構の中にいることが自分のアイデンティティーなんだと認識してその世界に戻っていってしまう。世界の美しさとしては、ルノワールの世界の方に軍配をあげてしまいたいのだけど、だけど現実生活に根ざしたリアルさという点では、成瀬の方だよね。でも、どうしても、あれだけの芸を持っていた鶴八が芸を捨ててしまうことが幸せには思えないのは、芸を極めることになんて縁のない世界に生きている者の見方なんだろうなあ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:24:10) |
106. 秋立ちぬ
タイトルから、「風立ちぬ」ふうの悲恋ものかな、などと勝手に想像してたけど、あけてびっくり。子供の世界の話とは。しかも珠玉のように美しい。こういう隠れた小品を発見すると本当に嬉しくなる。小津安二郎にも「おはよう」とか「生まれては見たけれど」みたいな子供映画の傑作があったけど、それとも違う味わい。下のレビュワーさんで、ネオレアリズモにたとえていた人がいたけれど、確かに、日本映画的な子供の描き方とはちょっと一線を画しているかも。描かれているのは明かにあの頃の日本なのだけど、手法は西洋的。というか題材的にはもう一歩のところでヌーヴェルヴァーグだし。ただ、1960年というと、もうヌーヴェルヴァーグが出てきてたから、当時は時代遅れと見られていたかも。でも、今の目で見ると、逆に新鮮だ。こういう丁寧な職人的な意匠を見ていると、「Always」の世界が作り事に見えてきてしまう(あれはあれでよかったけどね)。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:22:52) |
107. おかあさん(1952)
《ネタバレ》 田中絹代の耐え忍ぶ演技もさることながら、娘役の香川京子や妹役、甥っ子役の子役たちの演技の豊かなこと。全体的にウェットになりがちな話がそうなるのをギリギリで回避できている。これぞ職人業。例えば、長男の死。重病の長男が病院を抜け出して、母に「どうして抜け出したの?」と聞かれて、「かあちゃんと寝たかったからだよ」と答える。その次のシーンがもう葬式が済んで何日か過ぎたところとなる。みんなが淡々と、葬式のこと、死んだ長男のことを語っている。ああ、この省略の絶妙なこと。しかも、その語り口ゆえに、つい涙腺が緩んでしまう。成瀬映画で思わず涙してしまうとは! (もう一つ、香川京子の、花嫁モデルの試着の場面の可憐なことも強調しておこう。こんな香川京子なら男はみんな惚れてしまうよ。間違いない。) [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:20:25) |
108. 浮雲(1955)
《ネタバレ》 本当に、久しぶりに見なおしてみて成瀬の映画の持つ不思議な吸引力にただひたすら感心しています。暗くてじめじめしがちな話なのに、引き込まれてしまう。高峰秀子の微妙な表情の使い分けの妙。高峰と比べると割を食らってるのが岡田茉莉子だね。彼女は、まだ後の時代の表現力を獲得しておらず、それだけがちょっと残念。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:19:16) |
109. 放浪記(1962)
《ネタバレ》 暗いけど不思議とじめっとしていない。高峰秀子のキャラクター造形が素晴らしいからなんだろうな。そして、また、主人公の心理をえぐるように画面にさらけ出す成瀬の演出術。名人芸というよりない。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:18:14) |
110. 丹下左膳(1953)
《ネタバレ》 何なんだろう、このディープでダークな精神世界は。『丹下左膳』って、痛快娯楽時代劇じゃなかったの? 戦前、ずっと丹下左膳を撮ってきた伊藤大輔が、何だってこんな暗い世界を脚本にしたててしまったのだろう。確かにこの虚無的世界は、机龍之助の世界に入ってしまってる気がする。ただ、脚本的にはあまり整理されていなくてどうなっているのかいまいち理解できないのだけれど、なぜか目が離せない。破滅に向かっての大スペクタクル。話に置いてけぼりを食らっても、しっかり最後まで見てしまった。決して面白いとか痛快だとか言えないけれど、無視できない不思議な作品。しかし、当時のお客さんは、これ、どう受け取ったのだろうか。すごく興味ある。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-03-18 23:17:20) |
111. ひき裂かれた盛装
《ネタバレ》 期待していなかったけど、拾いもんだった。いろいろな意味で意外な作品。(TVドラマはともかく)映画の世界ではいつもしぶい脇役だった成田三樹男が、ここでは何と主役に。だからと言って悪役キャラは変わってない。相変わらずのクールさ。こういう成田が見たかったんだ。田中徳三監督と言うと、『兵隊やくざ』シリーズとか『悪名』シリーズとか、大映の中でも非常に骨太の作品群のイメージが強かったのに、ここではしっかりと女心を描ききっている。これもホント意外。藤村志保と安田道代の火花散る女の葛藤も、丁寧な演出のおかげでおどろおどろしい世界に落ち込まずに、きれいに描き出されている。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-03-18 23:14:16) |
112. 新・兵隊やくざ 火線
《ネタバレ》 『兵隊やくざ』シリーズは、大映のシリーズものの中でも私の一番のお気に入り。特に第一作の増村保造演出は、それはそれは何度見てもほれぼれする出来栄えだった。確か大映で8本作られて、第一作には及ばないながらも、また、出来不出来は多少はあるけれども、全体的にはまずまずの統一を保っている、シリーズとしても優等生だったと思う。大映が倒産した後、東宝でさらに最終作が作られていたことを知ったのはずっと後からのこと。しかも、それが第一作の増村保造によるものだというじゃないか。これは見たい! でも、もちろん版権が違うからDVDのセットには入らないし、ビデオが流通している形跡もない。どうにか見られないものかなあ、とずっと思っていた。そして、やっと見ることができた。日本映画専門チャンネルが、何と、『兵隊やくざ』シリーズ全作品一挙放送などという、酔狂な企画をやってくれたのだ。狂気乱舞! やった、やっと見られる! この興奮! しかし! まず巻頭。タイトルに東宝と出た。ああ、あたりまえだけど、違和感を感じるなあ。やっぱり大映印で始まらないとなあ。この違和感がそのまま本編の展開を予見していた。とにかく全体的に違和感だらけ。こんなの『兵隊やくざ』じゃないよお。冒頭。シリーズ全体を通して、常に冷静だ田村高広の有田上等兵が、いきなり信じられないくらい冷静さを欠き、敵に囲まれて自暴自棄になってしまう。ええ? こんな有田上等兵なんて! 全体のイニシアチブがなぜか勝新の大宮の方に移っている。何で? 逆でしょう? 音楽が、なんだかプロコル・ハルムみたい。というか、完全パクリ? 女は一度抱いた男には素直に従う、って理屈が通ってしまうのがわけわからん。あれだけ巧みに女心を描き出した増村の書いたせりふとは、とても思えないよ。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2007-03-18 23:11:17) |
113. 脂のしたたり
《ネタバレ》 会社ののっとりをめぐる攻防戦を繰り広げる株式市場の裏社会が舞台。何か今時の世相を予感させるような展開なんだけど、具体的な実例を経験してしまった現在の目から見ると残念ながら、その攻防戦そのものは掘り下げ不足。富士真奈美がなんと言ってもすばらしい。今のような怪物女優になるとは想像もつかない妖しい魅力。田宮二郎も成田三樹夫も良い感じ。後半のサスペンスはなかなかだった。ただ、展開として、特に前半、もう少し求心力が欲しいかったなあ。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-03-18 23:08:50) |
114. 白子屋駒子
衣笠貞之助の脚本がややありきたりな展開なのだけれども、三隅研次の相変わらずの映像美がすべてを補っている。最初のカットからもう目がくぎ付け。特に俯瞰の構図の美しさ。泣き乱れた山本富士子も、とにかく美しい。セットに衣装、細かな所まで手を抜かない大映京都スタジオの職人気質が十分に堪能できます。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2007-03-18 23:07:43) |
115. 女の中にいる他人
《ネタバレ》 よく出来たサスペンス。でも、苦悩する小林桂樹の姿はあんまり美しくない。成瀬には苦悩する女の姿がよく似合うけど、男はちょっと。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-03-09 23:58:02) |
116. 続・丹下左膳
《ネタバレ》 何なんだろう、このディープでダークな精神世界は。言ってみれば、破滅に向かっての大スペクタクル。『丹下左膳』って、痛快娯楽時代劇じゃなかったの? 戦前、ずっと丹下左膳を撮ってきた伊藤大輔が、何だってこんな暗い世界を脚本にしたててしまったのだろう。【馬鹿王子】さんも言っておられるとおり、確かにこの虚無的世界は机龍之助の世界に入ってしまってる気がする。脚本的にはあまり整理されていなくて、展開がいまいち理解できないのだけれど目が離せない。決して面白いとか痛快だとか言えないけれど、話に置いてけぼりを食らっても、なぜか、しっかり最後まで見てしまった。不思議な作品。しかし、当時のお客さんは、これ、どう受け取ったのだろうか。すごく興味ある。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2007-03-09 23:16:30) |
117. しびれくらげ
『でんきくらげ』とみごとに同工異曲。テレビ東京の放映順にだまされてたけど、こっちが先なんだね。渥美まりに関しては、ファッショモデルという設定だけあって、こちらの方が洗練されている感じ。話は、要は、駄目な男には気をつけなさいっていう教訓なんだけど、それにしても のお父さんは、あんまりにも同情できないキャラだね。あまりに馬鹿すぎて、笑えるけど、でも、この手の駄目父さん、案外実在するんだよね。終わり方の後味は、どろどろしていた話の割に悪くない。 [地上波(邦画)] 6点(2007-03-09 23:12:08) |
118. グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち
なかなかいい出だし。でも、ロビン・ウィリアムズが出てきた時点で先が読めてしまった…丁寧な描き方をしているいいドラマだと思うけど、もうひとひねりほしかった。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2007-03-09 23:10:58) |
119. 愛と死をみつめて
《ネタバレ》 実在の主人公たちの真摯な生き方には心打たれるが、ドラマの持っていき方が私の好みにはあわなかった。いや、個人的に吉永小百合が苦手なのかも。それでも、最後の、吉永小百合と浜田光夫の、空想の信州登山の場面は、二人の迫真の演技もあいまって、ほろっと来てしまったけど。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2007-03-05 22:14:24) |
120. 砂の女
タルコフスキーの描く水に匹敵する砂の美しさ。すばらしい。原作・脚本・演出・演技・音楽……すべての要素ががっぷりと四つに組んだかのようにしっかりと相乗効果を生んでいる。前衛的といえば前衛的だけど、例えばゴダールのように、映像の文法を完全に解体したりはしない。あくまでリニアーな物語り展開は崩壊していない。だけれども、描き出された世界のシュールさときたら。永遠に色あせない戦後日本映画の代表作の一つだと思う。高校のとき、現代文の先生がこの作品をなぜか取り上げた。当然、大半の生徒はついていけなかったみたいだけれど、私はとっても面白かった。みんな睡眠に落ちてたけど、私にとっては黄金の午後でした。その直後にNHKで映画が放映された。高校生の未熟な頭脳でも、この映像は衝撃だった。そして、いまだにこの映像は私にとって衝撃的でありつづけている。たぶん、何十年かしてまた見なおしても、この衝撃は色あせないだろうな。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-03-02 22:05:23)(良:1票) |