101. 三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船
《ネタバレ》 子供の頃に原作を読んだ。冒頭の人物紹介を兼ねたヴェネツィアのシーンからいきなり原作と関係が無く、この監督らしいなとニヤリとした。その後のダルタニアンが三銃士皆と決闘する流れになるくだりは、ああそうだったそうだったと懐かしかった。 豪華な衣装と豪華なロケ地と豪華なキャスト。三拍子揃った快作である。特に宿敵ロシュフォール役としてマッツ・ミケルセンが出てきたのは嬉しい誤算だった。リシュリュー枢機卿役のクリストフ・ヴァルツの影が比較的薄かったのは残念だが、この映画はミレディー、つまりミラ・ジョヴォヴィッチのための映画なのだからそれも仕方ない。 ダ・ヴィンチのお宝も飛行船のアイディア以外は全て失われちゃったけどそれでいいのか?とかミレディーがあんな高いところから落ちて何で死なないのか(まあ死ぬ訳ないとは思っていたが)?とか言うのは無粋。少なくともストレス解消には役立った! [映画館(字幕)] 6点(2011-11-12 21:16:42) |
102. ステキな金縛り ONCE IN A BLUE MOON
《ネタバレ》 陳腐で冗長で退屈な映画だった。この大して面白くない脚本で2時間以上持たせようというほうが無理なのだ。いくらコントが面白くても2時間観てれば飽きも来る。僕は「釣りバカ日誌」の何が面白いかさっぱり分からないが、なんだかそれを観たときと似た感覚を覚えた。西田敏行も出ているし。簡単に言うと「五月蝿い」のだ。この作品でも阿倍つくつく(市村正親)が出る必要は全くないし、更に言うとなぜ彼が主人公の部屋の外にいたのかも全く不明である。月に飛ばされるシーンなどはあまりの面白くなさ、俗っぽさにいたたまれない気持ちになった。 更に言うと無粋。他の方も仰っているように、キャプラ監督が好きなら好きで良いが、それをこういう形で提示するスノッブ根性は本当にどうかと思う。みんなキャプラなんか知らないし、知ってる人に示したいなら、こんなに御託を並べなくても、ちらっとビデオタイトルでも映しておけばよいことだ。「教育」してやろうというつもりはないにしても悪趣味である。 それにしてもいつから三谷監督はこうなってしまったのか。昔の作品はもっと上品ではなかったか?少なくとも、俳優陣の「名前」による出オチに頼り、繰り返し同じネタで笑いを取りにいくさもしさはなかったはずだ。もっとそのシーンの微妙な雰囲気を巧みに捉えて笑いに昇華させていたような気がする。「ラヂオの時間」の頃は期待していただけに心から残念だ。 以下はレビューから少し外れるが、映画館でずっと後ろのおばさん連中が笑っていたのには本当に腹が立った。製作者側が笑わせようとしているところだけで笑うなら良いのだが、三谷映画を観に来たならずっと笑っておけば良いとでも勘違いしているのだろうか。こんな笑いどころも分からないような観客が笑っている映画を作った三谷監督は、この状況をどう思うのだろうか。それでいい、そのおばさんたちこそ自分の客だと言うのなら最早何も僕が言うことはない。黙って去るのみである。最後に、深津絵里は頑張っていたと思う。 [映画館(邦画)] 3点(2011-11-12 20:44:37)(良:1票) |
103. ミッション:8ミニッツ
そんなに面白くは無かった。ストーリーが割とわかりやすいのはありがたかったし、ヒロインとの恋模様がじんと来なくもなかったのだが、同じシーンばかりだと退屈になるのも事実。全然意味が分からないのが終盤のオチ。量子論だかなんだか分からないが、急に緊張感が解けるので、前につんのめりそうになった。屁理屈をこねまわる映画も好きではないが、こういう風に完全に放棄されても困ってしまう。うんうん良かったねとしか言いようが無い。そう思うことは出来たので結果オーライなのか。 [映画館(字幕)] 6点(2011-11-04 23:29:04) |
104. スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団
発想は悪くないのだが、何というかカタルシスがないのがつらい。一つ一つのシーンは悪くないのだが、筋に捻りがあるわけでもなく、何となく終わってしまう。スコットもモテモテだから自己同一化できないし。主役カップルに特に思い入れは抱けなかったが、ドラマーの女の子キムは個人的に大好きだ。 [DVD(字幕)] 5点(2011-11-03 17:49:12) |
105. イヴ・サンローラン(2010)
イヴ・サンローランについては、ブランドのロゴ以外全く知識が無いまま鑑賞。ドキュメンタリーなので、派手な脚本があるわけではないが、膨大な写真や動画で在りし日の彼の姿を存分に楽しむことが出来た。映画のつくりとしては、イヴ・サンローランが亡くなり、パートナーであるピエール・ベルジェがその遺品(同時にヴェルジェの持ち物でもあるが)をオークションにかけるまでの日々をベースにイヴ・サンローランの歩んだ栄光の日々を振り返る構成になっている。オークションが一種のクライマックスとして最後に位置づけられており、全く筋が無いわけではないので、退屈することは無かった。 でも、この映画で観るべきところはそこではなく、彼とベルジェの集めた芸術品のコレクションやマラケシュの宝石のように美しい別荘の映像である。特に二人が蒐集した大量の芸術作品(別荘も含む)一つ一つに関して、ベルジェが購入場面を回想する一連のシーンが強く印象に残った。彼らの「美しいもの」に対する偏愛が露骨に感じられるシーンで、「芸術家というのはこういうものか、いや、こうあらねばならない!」と思った。そして何よりもイヴ・サンローランの魅力に痺れた。彼が写っている写真はいちいち「絵」になっているのである。天才というのは滲み出るものだと感じた。さりげないポーズを取っていても、その佇まいはどれも美しく繊細で妖しい。自分はゲイではないが、ベルジェが夢中になるのももっともだと思った。そのポーズやスタイルを真似すると大火傷は確実なので決して真似は出来ないが、彼のセンス溢れるポーズ取りや服の着こなし方にはため息が出た。彼のほうがモデルよりもモデルっぽかった。 余談だが、同性の後輩と鑑賞に行ったのだが、服の柄がかぶっていたため、これ、確実にゲイと思われるだろうなあと思い、なんだか可笑しかった。 [映画館(字幕)] 7点(2011-11-03 17:18:42) |
106. カウボーイ&エイリアン
徹底的にアクションの爽快感を追求するのか、それとも観客に「考えさせる」社会派を気取るのか。UFOに飛び移るような痛快なシーンを撮りたいのか、それとも人間が協力して宇宙人をやっつける頭脳戦を描きたいのか。全部やりたくて、どれも中途半端に終わっている。西部劇の舞台に宇宙人が突然来襲するというその破天荒さを生かしたストーリー展開があってよかった。ダニエル・クレイグとハリソン・フォードというキャストにも期待したし、2人とも力演したが、この脚本の前では刀折れ矢尽きた。最後に致命的なのが宇宙人のしょぼい造形とその無能さ。どっかで観たことのある何か。こんなのじゃ全然ドキドキできないぞ! [映画館(字幕)] 5点(2011-10-30 10:42:17) |
107. キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー
2Dで鑑賞。事前情報が無い状態で鑑賞したが、主人公に共感できないままあれよあれよという間に映画が終わってしまった。まあ、原作がコミックだから少々設定に難があっても許すべきだとは思うが、アースキン博士の機械が作りなおせないというのはどうしても納得がいかない。あの機械、膨大な電力を使うらしいが、その納得感も無い。そしてプシューってドアが開いて、ムキムキのキャプテン・アメリカが出てきた瞬間のイタさ。まさに失笑ものである。散々手垢をつけられてきたネタだからこそもう少し見せ方に工夫があっても良かったのではないか。 主人公の強くなりたいという願望があっさり叶うのも物足りない。強くなって国に貢献したい⇒人体実験⇒ムキムキという単純すぎる話の流れには乗りきれない。ふうん良かったねくらいの感想しか出ない。スティーブが何となくいい奴だということは分かったが、これだけでは好きにはなれない。キャプテン・アメリカに変身後、実際の戦闘に加われないジレンマに悩む姿は良かったが、加わってからはただのアクションの羅列に終始してしまう。 駄目なパターンのヒーロー映画だった。 [映画館(字幕)] 4点(2011-10-21 13:18:37) |
108. オテサーネク 妄想の子供
《ネタバレ》 嬉々とした変態映画。本当はもっと変態な映画を撮る人らしいが、もうこれで十分。おなかいっぱいだ。 ただごはんを食べているだけのシーンが悉く不快。狙いすましている。下ネタ映画以上に飲食しながら観たくない映画だ。「物を食べる」という行為をテーマにここまで嫌らしい映画が作れることに感動した。他の動物の命を奪う「食」は確かに原罪だ。動物性の食べ物ではなく、キャベツを食べて死ぬという御伽噺も象徴的である。 [DVD(字幕)] 7点(2011-10-21 12:46:21) |
109. 抱きたいカンケイ
《ネタバレ》 むしゃくしゃした。 [DVD(字幕)] 3点(2011-10-15 21:25:34) |
110. すべて彼女のために
《ネタバレ》 実話かと疑ってしまうほど真実味のある映画だった。ジュリアンは大学の先生で何となくおじさん臭い男。妻のリザはジャーナリズム関連の仕事をしており、若くて美人。まずこの配役がうまい。ジュリアンにとってリザは明らかに身に余る妻なのだ。二人の間にはオスカルというまだ幼い息子がいる。ラブラブで何一つ不満の無い幸せな日々を送っていたある日、突然リザが殺人罪で逮捕されてしまう。凶器の指紋という物証もある上、運悪く状況証拠も揃っており、有罪の判決が下る。残されたジュリアンにとってはまさに青天の霹靂であり、状況の打開を試みるべく、彼は妻の脱獄計画を練り始める。 この映画のテーマはズバリ愛である。ジュリアンは一切妻を疑わない。この設定が映画の面白みを殺ぐという意見もあるかもしれないが、これは映画のテーマ上、仕方が無いことであろう。私にとっては、この設定だけでかなり心を打たれるものがあった。美しい最愛の妻を取り返すためなら、全てを擲っても良いと開き直るジュリアンの姿はとてもかっこいい。私も将来結婚するなら、そこまで深く妻を愛したいものだ。 当然ながら、ジュリアンは犯罪にはど素人なのだが、その彼が脱獄計画を練る様も興味深い。着実に少しずつ決行に向けて準備を進める描写にはリアリティがあった。時には悪党に騙されながらも、妻を助けたい一心で決してあきらめず何度もチャレンジする彼を観ていると思わず応援したくなってくる。それだけにいよいよ決行に移る終盤では、思わず手に汗握ってしまった。 ただし、上映時間が短いだけに、粗い部分があるのも確か。ジュリアンとその父母兄弟との関係については、もっと設定を作りこめるし、リザがいなくなった後にジュリアンが公園で出会う女性との間にももう少しドラマがあって良い。そのあたりをきちんと修正してくるであろうハギス監督によるリメイク版も楽しみだ。 [DVD(字幕)] 7点(2011-10-10 20:05:08) |
111. 猿の惑星:創世記(ジェネシス)
《ネタバレ》 流れるようなカメラワークや猿達の表情を巧みに映し出したCGの素晴らしさという切り口だけでも十分に評価されるべき作品ではあるが、私はこの映画の「人間に対する徹底した幻滅感」が最も面白いと感じた。 この映画のヒーローはシーザーという猿であり、人類は脇役に過ぎない。どうやって猿が人間に対立する種に育つのかを追った作品であり、一種の建国伝説と言うこともできる。そのため、観客はシーザーの成長やその他の猿達の覚醒を見守り、それが達成されるはずのラストに向けて彼らを応援することになる。結果的に人間と猿の両種が相争うことになるのだから、その相手方を応援するというのは何とも不思議なことであり、一見、興行的にうまく行かなさそうな演出である。しかし、これがうまく行ったのだ。アメリカでは、この作品は製作費の倍近くを稼ぐスマッシュヒットとなった。 「キングコング」は人類が異種族に対する寛容さを持つべきと問題提起した。「アバター」は人類と異種族でお互いの理解が進むことが重要と説いた。しかし、この映画はそこからもう一歩先に進んでいる。異種族である猿の側を全面的に肯定し、人類の醜さや独善性を浮き彫りにしている。この映画の中では、猿のほうが人間よりも賢いし「人道的」なのである。 この映画がヒットした理由もそこにあるのではないだろうか。この作品はテロリズムの跋扈や環境破壊の進行など、人類に対する信頼感が揺らいでいる時代をうまく捉えた。人類が人類らしさを失っていると感じている人が増えているのではないか。そういう意味で、この作品は現在の人類世界(マクロからミクロまであらゆる意味で)に満足していない多くの人に受け入れられた。 自分も猿側に立って快哉を叫んだクチだ。まあ、元祖「猿の惑星」の猿のモデルは日本人であり、日本人の僕が猿の勝利を祝っているのはアメリカ人から見たら当然かもしれないが。 [映画館(字幕)] 8点(2011-10-09 22:15:41) |
112. モテキ
《ネタバレ》 もう全然駄目なやつなんですよ、こいつ。普通に出会っても絶対に友達にならないし、職場で一緒だったら数日でありとあらゆる匙を投げ尽くし、完全に放置して飲みにも誘わないような奴。外見だけはなんだかうまいこと取り繕ってるけど、一皮剥けば現実との付き合い方が全く分かっていない引きこもりオタクと同等。いや、潔く現実世界から身を引いて、細々とネットだけで活動している毒にも薬にもならないようなオタクのほうがまだマシかもしれない。こいつの場合は下手に他人とコミュニケーションを取るものだから、更に周囲の人たちにとっての厄介者と化しているわけです。コミュニケーションはほぼ完全に受身なので、ネタにされなきゃ生きていけない。その癖、やたらと自意識はデカくて、いじられることに耐えられない。勝手に悶々としやがっては、ツイッターとやらに余計なことを書き散らす。 ほとんど童貞で恋愛のことなんかまるで分かってない。本命に対する思いをもち続けるのは上等だが、思いが強ければいつかかなうなんていう呑気な考えから抜け出せない。結局、自分が大好きだから、「純愛を貫く俺、どうよ」という気持ちの悪い自己満足で恋愛を完結させようとする。相手を幸せにして(そして自分も幸せになって)、初めて恋愛の意味があるというもの。更に悪いのは、性欲だけは人一倍なので好きでもなんでもない女とやっちゃう。更にはそれを本命に言っちゃう。おまえはばかか?トチ狂ってんじゃねえか?好きな人を傷つけてどうすんだよ?もう、本当に最悪。愛想も尽き果てる。そして、お定まりの自己嫌悪。落ち込むなら言うな! と書いていると、こういうダラダラした文章も含め、自分が彼と似たもの同士であることにはっと気づく、というオチ。 でもラストは甘い。甘すぎる。これだけは譲れない。長澤まさみに張り倒されて、刺されて以降が全て夢だったことに気づくくらいのブラックさがほしかった。こんな奴(=自分)を肯定しては駄目なんだ。こういう奴に甘くすると付け上がることを俺は良く知っている。 [映画館(邦画)] 7点(2011-10-09 20:42:45)(良:3票) |
113. くまのプーさん(2011)
《ネタバレ》 くまのプーさんの世界というのは恐ろしくて魅力的だと感じた。 まずは、この作品のキャラクターたち。非常に親しみを持てるキャラクター達であるが、その誰もが著しく過剰な一面を持っている。カンガとルーは比較的まともだが、プーさん、イーヨー、ピグレット、アウル、ラビット、ティガーはいずれも妙にリアルな恐さを持っている。これを実写かつ人間でやられたら、少し精神を病んでいるのではないかと心配になってしまう人物のオンパレードだろう。こういう濁った目で無邪気なディズニーアニメを見てはいけないと思いつつも、ついついこう感じてしまう。イーヨーはうつ気質、ピグレットは異常なほどの怖がり、アウルは傍若無人な知ったかぶり、ラビットは神経質なしきりたがり、そしてティガーは常に躁状態である。実際、クリストファーのモデルであるミルンの子クリストファーは、この物語のキャラクターのイメージと自分自身の比較に生涯苦しめられたという。何とも後味の悪い話ではあるが、この異様なほどに「身近」に感じられるキャラクターこそがこの作品の魅力ではないか。人間の特性を細かに分割し、無邪気なビジュアルを持つぬいぐるみ由来のキャラクターに付与するという行為のアンバランスさ、不自然さ。デカダンスすら感じるのは私だけだろうか? また、この作品でのハチミツという物質のもつ強烈な存在感も印象的である。ハチミツに飢えたプーさんは恐ろしい幻覚に苛まれながらも、ハチミツを手に入れるためにデスパレートな努力をささげ続ける。カエルがハチミツ入りのポットに見えるシーンやハチミツを手に入れたと錯覚したプーさんが泥の中を転げ回るシーンは異様な迫力に満ちていた。最終的にハチミツよりも友人を取ったことをクリストファーに褒められるプーさんを見て、思わず薬物の更生施設でのワンシーンを連想した私のほうが病んでいるのだろうか? 奇抜な不思議の国のアリスよりも、親子連れが客席の大半を占めるこの映画のほうがよっぽどヤバい作品を観た気持ちになった。「時計じかけのオレンジ」の「雨に唄えば」のような狂気を感じた。 [映画館(吹替)] 7点(2011-10-05 22:41:19)(良:1票) |
114. パラダイス・ナウ
パレスチナの自爆テロのニュースを見るたびに、なぜなぜと思い続けていたが、この映画を観て少し分かったが気がした。あくまでも分かった気がするだけで実際は違うのかもしれないが、実行犯の彼らの気持ちに共感できた。 あっさりと自爆テロに協力しようとする彼らの気持ちが理解できないという意見もあるが、私は比較的すんなり理解できた。彼らはあらゆる未来を閉ざされている。特にサイードは物事を考える能力に恵まれているのに、大学などは夢物語で自動車の修理工しか職が無い。イスラエルに膝を屈して就労ビザを取ってもたいした職につけないのは目に見えている。自分の能力を生かせないのは本当につらいことだ。「やってられない」という思いが強いだろう。まして、彼は父親がイスラエルに対する協力者とみなされ処刑されている。汚辱を晴らすためにも実行犯に応募するのは無理が無い。 インテリ役の女性(スーハ)を登場させたのも効果的だった。イスラエルによる占領という軍事的暴力に自爆テロという暴力で対応することの不毛を説く彼女の主張は分からないでもないが、対立の現場であるヨルダン川西岸地区(ナブルス)で生まれ育ってきたサイードたちには通じないのは自明のことだ。いわゆる「暴力の連鎖」。その哀しさを盛り込むことで、ストーリーはぐっと深みを増した。 実際にテロを実行するに当たって、ハーレドやサイードの心の動きの過程が分かりにくいのが難点だが、作られた価値は十分にある。もっとこういう映画が日本にも入ってきて欲しいと思う。DVD特典映像の監督インタビューも一見の価値あり。 [DVD(字幕)] 6点(2011-09-26 00:42:55) |
115. 光のほうへ
《ネタバレ》 デンマークを舞台に、どん底を生きる兄弟を描く。兄は傷害罪で監獄に入った犯罪者で弟はヤク中。北国の白く乾いた色調を背景に、カメラは生きるため(生きる意味を見つけるため)の彼らの苦闘を見つめる。 昔、彼らには年が離れた弟がいた。アル中の母親に代わり、彼らは彼らなりに一生懸命その弟の世話をした。しかし、その赤ん坊は死んでしまった。彼らはずっとその思い出を胸に生きている。「心の傷」と言い切るには、もっと複雑なしこりのような物が彼らの胸の中には残っている。親子の関係、ひいては弱者と強者の関係がこの映画の底流にある。 兄は恋人にふられ、自暴自棄となって人を殴り、ようやく出所したところだ。その背景には恋人の中絶があった。弟は交通事故で妻を亡くして、息子と二人暮らしなのだが、クスリにおぼれる日々を送っていた。彼らが母親の葬儀で出会い、物語は動き始める。 守るべき者を見つけることで人は強くなる。守るべき者を守れなかったことで人は絶望する。兄弟の生活上のエピソードを通じて、「守る」という意識や行動がその人間のその後に与える影響の大きさが描かれる。後悔や怒りや口惜しさで、彼らの精神は傷つけられ鍛え上げられていく。 主人公の兄弟が私と同性だったこともあるのかもしれないが、とても考えさせられる作品だった。僕は見境無く人を殴りつけたり、クスリをやったりはしない。しかし、僕は彼らに自分自身を投影することができた。彼らの苦しさやつらさに心を抉られた。 終盤まで苦しく切ない物語が続くが、一条の光が射し込むようなラストに救われた。口当たりは辛いが、最後に不思議な酩酊感が残る作品。珍しく邦題が良い。 [映画館(字幕)] 8点(2011-09-25 18:19:22) |
116. アジョシ
《ネタバレ》 「レオン」の激甘ストーリーを忠実に踏襲しつつも韓国映画お得意の残虐バイオレンスを加味することで、何とか救われた印象。ウォンビンの「母なる証明」もキム・セロンの「冬の小鳥」も大好きなので、キャストの演技に集中し、ストーリーにはある程度目をつぶろうと思って鑑賞したが、あまりにも「レオン」の轍を踏みまくるのでちょっと食傷した。主演2人の演技も前作の方がよかった気がする。特にキム・セロンはクサい台詞が多くて、ちょっとかわいそうだった。あの台詞なら自然に言う方が難しい。素性を隠すキャラということで、ウォンビンも大半が鬼太郎風の髪型なので、ちょっとぱっとしない。肉体美は凄いが。 一方で、めっけものだったのは脇役陣のキャラ。マンシク兄弟をはじめとして、なかなか見応えのあるワルどもが勢ぞろいである。「レオン」でもゲイリー・オールドマンはド変態だったが、それがいっぱい出てきたらさぞ面白かろう。そんな感じ。特にマンシク兄の不気味さは出色。一見、普通のヤクザなのにあの異常者ぶりは好みだ。三枚目担当の麻薬課の刑事の役者も良かった。韓国映画は、いつもきちんと脇を固めていて、俳優の層の厚さに感心する。 一方で、本編は韓流好きのおば様たちには受け入れがたかろうと心配になる出血量を誇っていたが、劇場ではすすり泣きも漏れていた。けっこう一般ウケもするのかもしれない。少し意外だったが、さすがあれだけ「レオン」がヒットするお国柄だけのことはある。こういう作品は日本人の琴線に触れやすいのだろう。 [映画館(字幕)] 6点(2011-09-19 20:44:49)(良:1票) |
117. 水曜日のエミリア
《ネタバレ》 後妻が主人公というのは、家族モノの中でも比較的珍しいと思う。テーマに興味を感じて鑑賞した。 愛を貫いての結婚だったはずなのに、なぜか万事がうまくいかないと感じる主人公のもどかしさには共感できた。一筋縄ではいかない先妻の子供、ヒステリックな態度を取る先妻、いつも子供の側に立って自分を詰る夫。それらの存在の集積が彼女を苛む。なぜ自分の努力が報われないのか?そう感じて周囲に攻撃的な態度を取ることで、更に孤立していく彼女の姿は観ていて痛々しかった。そして、その焦燥感の根っこにあるのは、生後数日で亡くなった彼女自身の娘の存在である。彼女の死を乗り越えられず、常に後ろ向きの思考をしてしまうから、周囲との関係もうまく行かないのだ。地味だが、俳優陣の演技や丁寧な脚本に救われ、なかなか見応えのある展開である。 ただし、先妻の協力により贖罪が果たされる終盤の展開はやや安易に感じた。主役のエミリア自身が努力することで壁を超える展開の方が、もっと感動的だったような気がする。主演のナタリー・ポートマン自身が製作に関与しており、キャストも好演している力作ではあるが、エンターテイメント性やストーリーの奥深さの点でやや劣ると感じた。 [映画館(字幕)] 6点(2011-09-19 19:45:32) |
118. ヒート
《ネタバレ》 特濃男汁が飛び散る男による男のための映画。アル・パチーノが刑事になって過剰かつオラオラな演技を披露すれば、デ・ニーロは例のキメ顔を惜しみなくさらしながら盗賊団の首領を熱演する。これが3時間続くのは正直少ししんどいんだよなあ。初鑑賞は中学生の頃だったと思うが、その頃から比べると評価は落さざるを得ない。僕も年をとりました。 この映画のテーマは「仕事と女(家族)」なんだということも今回鑑賞して気づいた。刑事にしても盗賊についてもみんな女のことで悩んでる。女って奴は何でこうも分からず屋かねえ。ジャスティンにしてもシャリーンにしても旦那の足を引っ張ってばかりじゃないか。男ってのは忙しいんだから家のことはお前らがきちんとやれよ。という男の目線には納得できるところもあれば納得できないところもある。ただし、この映画は設定からして、男の味方をしやすく作られているのだ。この映画に出てくる女達は弱すぎる。何だかんだで男におんぶに抱っこなのだ。これじゃ男たちが上に立とうとするのも無理は無い。現代から見ればそういう設定が少し時代遅れに見えてしまう。 でも、この映画が良いのはそんな小難しいところじゃない。とにかくこの映画のアクションシーンの迫力は圧倒的だ。特に銀行強盗のシーンとラストの空港での追跡シーンは白眉である。色々と欠点はあるけど、憎めない作品だ。 [DVD(字幕)] 7点(2011-09-19 00:37:19)(良:1票) |
119. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 - スペシャル・エクステンデッド・エディション -
《ネタバレ》 観終わった!いや、やっぱ長いよ、これは。長すぎて、結局何が言いたいのかよく分からない話だったが、アラゴルンがかっこいいのはよく分かった。アルウェン命なのがニクい。正直、ガラドリエルも狙えると思う。アルウェンは幸せ者だ。一方で、エオウィンが意外とあっさりファラミアになびいたのにはびっくりした。おいおいって感じなのだが、そのポジティブな態度には好感も持てた。あと、この作品ではガンダルフがわりとまともでがっかり。この人の魅力は周りを一切顧みない暴走にあると思うのに。前の二編に比べて、少し話が分かる人になっていて、がっかりした。どうせなら鬼の形相でサルマンさんをやっつけに塔をよじ登って欲しかった。それにしても、前編から応援しているサルマンさんは最後までサウロンに忠誠を誓って偉い。グリマの奴がサルマンさんの活躍の場を奪ったのは許せない。メリーかピピンを血祭りに上げるか何かで、最後に一矢報いて欲しかったところ。 指輪を捨てに行く三人のシーンはスメアゴルの独壇場。最優秀男優賞をあげたいくらい魅力に溢れている。欲しくてたまらないものを手に入れるため四苦八苦する様子は最高にキュートである。一方で、フロドから帰れといわれて帰ろうとするサムには正直どうかと思った。外に立ってろと言われても、普通ならちゃんと授業を受けようとするでしょうに。フロドご主人の意志の弱さも相変わらず。火山で駄々をこねるシーンには、思わず失笑してしまった。ここまで来てそれか! 結局この映画は、世の中には色々な人がいて、みんな弱点を持ってるけど頑張って生きていこうねって言いたかったのだろうか。金、権力、愛。欲の対象は様々だが、僕もあんまり執着せずに生きていきたい。 [DVD(字幕)] 6点(2011-09-18 21:24:00) |
120. 未来を生きる君たちへ
《ネタバレ》 母性的な優しさで登場人物を見守るビア監督の眼差しは健在だが、この作品は彼女の作品にしては珍しい「社会派」映画だった。政治的なスタンスや道徳のあり方といった問題は比較的少なく、家族や愛をテーマにした物語に重点を置いてきたこれまでの作品と異なり、この作品は「復讐」(流行の言葉で言えば「暴力の連鎖」)という倫理的に難しいテーマに多方面からアプローチした意欲作だ。デンマークのとある町での出来事とアフリカの難民キャンプでの出来事をうまく対比させながら、コミュニティの力学(公)と個人の感情(私)の二つのレベルで「復讐」というテーマを取り扱っており、これだけでは難しく聞こえるかもしれないが、結論から言うとよく出来ている。 まず、この複雑なテーマとあらすじの絡め方が絶妙で、押し付けがましくないので、いつの間にか作品の中に引き込まれてしまう。きちんとストーリーを通じて、観客に訴えかけているから、途中で飽きることもない。高度に観念的な映画になると観客を選ぶが、この作品はそんなことは無く、一般人の視点に立つことを忘れない優しい映画である。シリアスなテーマだけに、かなり監督が気を使った様子が見て取れる。 また、登場人物の造形も確かで非常に丁寧である。純粋(=世間知らず)な子供という存在を効果的に活用し、抽象的なテーマをわかりやすく提示できている。この監督の登場人物の心情描写には以前から感心していたが、今回はそれを目的ではなく、手段として上手に使ったという印象を受けた。 打ちのめされるような感動は無いかもしれないが、手際の良い職人芸を見るような映画で、こういう映画がもっと広く映画ファンの目に触れるようになることを願って止まない。 [映画館(字幕)] 8点(2011-09-16 21:46:43) |