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101.  運命じゃない人 《ネタバレ》 
Aはごく普通の青春ドラマの装いで始まる。Bの、泣き出して気味悪いですか、なんてのがいい。おごってもらって悪いからと自転車こぐのもかわいい。でもがぜん映画が動き出すのはCになってからだ。携帯電話ができてメロドラマのすれ違いが出来なくなったと後ろ向きに考えてはいけない。新しい道具もどんどん使いこなしていくように映画は舞台を提供してきていたし、これからもそうだろう。見えないところでとんでもないドラマが進行していた、という楽しみ。映画が始まったときは、ベッドの下に○○○が隠れていたりする種類の映画とは思っていなかった。表情に別の意味が与えられていく。時間ずれてドラマに裏打ちがなされていく。義憤にかられての怒りと思っていたものが、早くトンズラしたい焦りだったり、走って追いかけてくる者も、あとで読み直される。鞄を抱きかかえてた意味も。これが初見だった中村靖日、その後朝ドラの「ゲゲゲの女房」で見、今の朝ドラにも出てる。いいキャラクターなのに、便利な脇役として消費されないで欲しい。
[DVD(邦画)] 9点(2013-12-05 09:23:51)
102.  メンフィス・ベル(1990)
『Uボート』の空中版。爆撃機の中だけの狭苦しい「戦場」での青春群像もの。でも結局は「勇敢さ」に収斂されていっちゃう。ヒロイズム讃歌。「戦争は良くないけれども、いろんな階級の人が平等に触れ合えるのはいいことだった」なんて意見に導きそう。カチンときたのは、そばに病院や学校などの民間施設があって誤爆してはいけないからと旋回するとこ。そりゃこのメンフィス・ベルはそうだったのかもしれないけど、そうだとしてもそれはよほど特殊なケースでしょ。東京と違いすぎるじゃん。最近のイスラム圏でも豪快に誤爆しまくってる。フジサンケイグループが絡んでいて(冒頭に「石田ナントカに捧ぐ」と出てのけぞった)ま金を出しただけだろうが、歴史の部分を拡大して全体を美化するあそこの歴史観となら通じ合うものがあっただろう。爆撃機が離陸するときの揺れ具合やバチンバチンというトタンを叩くような音にのみリアリティが感じられた。
[映画館(字幕)] 5点(2013-12-04 09:49:19)
103.  白昼の通り魔 《ネタバレ》 
コミューンが崩壊し、インテリは自殺し男は死刑になり、女シノだけが生き残り続ける構図。「見殺しにすること」というモチーフが次の『日本春歌考』につながっていったか。理想が空回りする小山明子、ニヒリズムに落ち、村会議員になって自殺する戸浦六宏。本作から『儀式』まで、60年代後半から70年代頭への大島が一番元気がいい時代の始まりであり、常連たちが大島ワールドとしか呼べないものの構成単位となって自在に演じだす。村と東京の対比があり、それは「村から東京」というベクトルかもしれない。60年代後半は学生運動の沸騰した時代だが、『日本の夜と霧』で熱くなった気負いはこれらの作品からは感じられない。そのひとつ冷めた自省が黄金期たらしめたのだろう。コミューンが崩壊した60年代と来たる70年安保闘争を、新幹線が繋ごうとしたようでいて、その繋げない距離の存在を予告したようでもある(いまだからそう思うのかもしれないが)。
[映画館(邦画)] 7点(2013-12-03 09:44:03)
104.  逃亡者(1990)
M・ロークが何のいいところもないイヤーな悪人で(ひたすら恋人の到着を待ってるあたりに人間味を感じるべきだったのかな)ただのわがままというか、自分勝手。このイヤーな男が、イヤーな感じになってる一家に飛び込んでくる。この監督は女より男ね。女の描写は刑事も含めてつまらない。男は、ただカッカするだけの脇の役と思ってたのが、途中で異様に膨らんできたりする。リーダーと別れて自由になった途端に、バラバラと分解していっちゃう感じがある。狭いところから広すぎるところへ出て拡散しちゃうような。血だらけになってガソリンスタンドをうろつく。でも女子大生を人質にとって立て籠もろうとはしない。流れのあるところへ誘い出されていくの。もう停滞するのはこりごり。そこらへんに不思議な哀感が漂った。西部劇の時代ならもっとかっこよく死ねたのに、とか。コロラドの風景や、“保安官”というあたりに、開拓時代への・失われたものへの気分があるような。
[映画館(字幕)] 8点(2013-12-02 09:52:45)
105.  21グラム
話をばらばらにして時間もばらばらにして、見るほうがそれを再構成していく楽しみはたしかにあるだろうが、それが映画の芯のモチーフになっているのならこちらも本腰を入れてそれを楽しめるけど、あくまで本作のはテーマを描くための手法のようで、そうなるととたんに冷めちゃう。なんか無理に向こうのゲームに付き合わされたようで。三人とも内省的な人物なので陰気。恩返しの接近が愛に変わり、それでも人生は続く、という話なのか。脇の轢いたほうの妻なんかにリアリティがあった。旦那が自首していったあとでも、一心に車の血を洗っている。隠れテーマとして「子ども」があるのか。子どもを作らせてという妻や、子どもの消滅や、いろいろ。
[DVD(字幕)] 6点(2013-12-01 15:45:38)
106.  ああ爆弾 《ネタバレ》 
私はこれが喜八で一番好きな作品。どういう組み合わせだったのか安部公房/勅使河原宏の『おとし穴』との二本立てで名画座で見た(次の週には『下町の太陽』と『気違い部落』の二本立て見てる。名画座文化の良かったのは二本立て制度で、ついでに見たもう一本で世界がどんどん広がっていったことだ)。今思っても、喜八監督のリズム感が全開した名作ではないだろうか。ドンツク・ドンツク・ポッポーなんてたまらない。砂塚秀夫や中谷一郎など常連が生き生きしており、ミュージカル合戦にもなっていて、和ものとあちらものが対決する。とりわけ和ものの使い方が秀逸で(邦楽ミュージカルってあんまりないから)、勧進帳の「毒蛇の口を逃れたる」がバキュームカーのホースになぞらえられたりする。三百万三百万と心の声が呟いたり、ドンツク・ドンドン・ツクツクに合わせて体が起きてきたり、楽団員がみな眼帯してたり、私の趣味がカタヨッていったのに、大きく影響した作品だったなあ。
[映画館(邦画)] 9点(2013-11-30 09:38:07)
107.  明りを灯す人
ほのぼのした映画の線かと思っていた。たしかにおおむねそうなのだが、政治の混乱期のドラマなのだった。アカーエフ独裁政権が崩壊したあとのキルギス。当時一応日本でも報じられていた記憶はあるが、「独裁者」の風貌がモロに日本人だなあといった感想しか持たなかった。イラクは独裁者が消えたあと、混乱に突入した。こちらは都市部ではワイワイやってるようだが本作の舞台となった村ではのどか。電気のメーターを操作した罪で捕らえられていた主人公が、政権崩壊で釈放されたくらい。と思ってると、底のほうでは動いていた。やり手の男が村を牛耳りだし、親戚のおとなしい男(妻は赤旗なびかせたトラックに乗って出奔してしまう)を次の村長に押したて、中国の土地開発団を呼んだりしている。そういった動きの気配に合わないものを感じていく主人公の困惑、といった話で「ほのぼの」では終わらない。そしてこういう「転換か否か」という話は、変革期の国では(日本の幕末維新期もそうだったが)どこでも起こってきた。主人公は子どもがみな娘で息子がいないのを気に病んでいる昔風の男、でも電気技術者である彼を尊敬しているらしい男の子がいつもそばをチョロチョロしている。電信柱に乗っているときマッチを投げ上げてくれと頼むと、中に小石を入れて風に飛ばないように工夫してくれる賢い子。後にこの子が(だと思うんだけど、顔をよく識別できない)木に上って降りられなくなり主人公が助けにいく。山の向こうを見たかったと言う少年。この地方の希望がじんわい感じられるいいシーンだった。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2013-11-29 09:04:55)
108.  男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け 《ネタバレ》 
最近『ジョーズ』を再見したら、夢がジョーズの寅があったな、ということが気になり、調べたらこれだった。逆の流れでなく、夢づたいに思い出させる力があるのが寅シリーズの強さだ。これは「芸術とは何ぞや」を軸に語った一編。のちに『あじさいの恋』でも芸術(陶芸)と金銭の関係に触れるが、これでは酔った宇野重吉がちょろちょろっと描いて7万円の愕然から始まる。名前を有り難がる芸術市場への皮肉のようでもあるが、そこまでは言えないか。ついで龍野の旅になり(この風景の美しいこと)、宇野重吉と同行することで「車先生」になるあたり、やはり「名前で尊重される社会」への皮肉で通じ合っているような。宴会の里芋コロコロ。このシリーズでは食べ物のギャグが不思議と印象に残る。芸者ぼたん。この突き抜けた明るさがいかにもコロッと騙されそうなキャラクターで、また騙されることが美質に感じられるのが大事。後半で騙されたぼたんに一緒に付いていく社長もいい。工場の宴会に来てもらった返礼になっている。名前で有り難がるのではなく、相手の実質の行為に実質で応えようとする。寅はこういう現実社会の悪にはまったく無力で、池内淳子の『寅次郎恋歌』以来いつも傍観せざるを得ない。ただし本作では最後に宇野画伯の牡丹の絵を持ってきてきれいに締める。「金銭に代えられない芸術の価値がある」と言葉にすると愛想がないが、それを軸にして一編の人情話に見事に仕立てている。
[映画館(邦画)] 8点(2013-11-28 09:14:16)(良:2票)
109.  ハリウッドにくちづけ
『スターウォーズ』のレイア姫がメリル・ストリープで、その母『雨に唄えば』のデビー・レイノルズがシャーリー・マクレーンとなかなかイメージしにくい世界(レイア姫が、すぐ別れたとはいえポール・サイモンと結婚したのも当時は全然イメージしにくかった)。冒頭、長回しの果てにマネーとマミーと間違える。この錯誤が心理学的に説明できる仕組みになっている母と娘のドラマ。マクレーンはさすがに鬱陶しい母親やらせるといい。退院祝いの席で、母親のほうが生き生きと歌う場面が充実している。ショーの密度のほうが映画の密度より濃いっていうのも困ったものではあるが。二人の口喧嘩も濃い。母と娘が病院で入れ替わりマクレーンに化粧を施していくとことか。以上が見せ場。でもサボテンに縛られたりモーターボートで追いかけたりしている撮影中の女警官の映画のほうが面白そうだったなあ。禁断症状の苦しみにぜんぜん触れないのも中途半端。
[映画館(字幕)] 6点(2013-11-27 09:55:03)
110.  恋と涙の太陽
主人公はヘリコプター操縦士の橋幸夫、古風な漢方薬店のせがれ。家に対しては革新的な立場から文句を言っているが、女医倍賞千恵子と見合いをする段になると「女だてらに」の保守派になる。この翌年に作られた日活の『夢は夜ひらく』では横浜ドリームランドが登場したが、本作は富士急ハイランド。大型レジャー施設が客を集めようとし始めた時期だった。妹が早瀬久美(新人の但し書きつき)、芸者が山東昭子で三枚目役。恋のライバルに香山美子、これが漢方薬に通じる古風な日本舞踊の世界の人。樹海の中のわざわざ開けたところで倒れていて橋に発見される。待田京介がチョロチョロ出る悪党。味わいとしては橋がホテルで香山と話し合っていたとき突如歌いだす瞬間のときめき。出来ることならバックの楽団なりコーラスなりが慌てて登場してきて欲しかった。
[映画館(邦画)] 5点(2013-11-26 09:45:32)
111.  夢は夜ひらく 《ネタバレ》 
主役は「スパーク三人娘」のひとり、園まり(あと二人は伊東ゆかり・中尾ミエでポップス系の印象を強く残していた。園さんも最初のうちはあちらの歌を歌っていた記憶があるが、すぐに純歌謡曲路線・ムード歌謡の世界の人になった)。役名もマリで、山本陽子がヨーコで分かりやすいというか、安易というか。マリがヨーコに誘われて訪れたクラブで歌手がエスケープしちゃってて、急遽代理で歌うことになる。最初は尻込みし、歌の入りのところで間違い、すみませんもう一度お願いしますとおろおろ、ヤレヤレという表情をクラブのマネージャーがして、でも二度目の前奏で乗ってくる感じがあって「なんでもないわ」を歌うの。おーっ、と見直すマネージャー。と段取り通りに正確に進行する心地よさがあった。その前にドリフターズが歌う「涙くんさよなら」に「愛しちゃったのよ」が混ざってくるギャグもあった。一応恋の話があって、死んだやくざの兄の子分・岬さんって高橋英樹ね。大衆映画では話の骨格によく兄妹が仕組まれるのはなんでなんだろう。男女でありながら清く、家庭の記憶につながっていくからか。布施明はただステージで「霧の摩周湖」を歌い、当時の小悪魔奥村チヨはタバコの売り子から歌手へと出世していく。初めてマリが岬さんと踊るシーンは、暗い照明、呟くような園まりの歌声など、グッと来ちゃった。横浜ドリームランドの観覧車のシーンも暗かったが、これは物理的に十分照明が採れなかったのであろう。グッと来なかった。園まりの丸顔は、団令子といいあの時代の流行だったんだな。高橋英樹は横浜の港からブラジルへ去っていくのであった。監督は同年にやはり山本陽子と『大巨獣ガッパ』も手がけた野口晴康。
[映画館(邦画)] 6点(2013-11-25 09:48:59)
112.  モンテ・ウォルシュ 《ネタバレ》 
「西部劇の挽歌」という題の絵の額縁だけを見せられているようで、前半はノレなかった。たしかに豪壮な馬追いのシーンなどがあるにはあるんだけど、西部劇の額縁のようで、ナマに迫ってこない。ジャック・パランスの結婚式で、彼とリー・マービンが似合わぬ正装して登場するあたりからノッてきた。モンテが、過去の町をうろつくあたり(カウボーイで賑わっていた酒場の静まり、モローの小屋の荒れよう)。暴れる白馬を乗りこなすシーン。時代に取り残されていく寂寥感と焦り。こういう点では西部劇と仁侠映画はほとんど重なる。そしてパランスの死(このときのショーティの表情がいい)、モローの死と続いて、終局に流れ込んでいく。前半もうちょっとキビキビしてくれれば、西部劇の名作になっていただろう。モローがせっかく海を渡ってきたのにあんまりうまく使ってなく、あちらの女優さんが西部劇に出るってのでは、私の世代では『天国の門』のイザベル・ユペールが思い出される。原作は『シェーン』のジャック・シェーファーで、ジャック・パランスはその縁もあるか。この作家ほかにもロバート・ワイズの『悪人への貢物』(未見)など西部劇に原作を提供している。パランスと言えばのちに『シティ・スリッカーズ』で助演男優賞を貰うわけだが、あれが西部劇をナツメロとして扱っていたのに比べると、こちらはちゃんとした挽歌だ。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2013-11-24 09:25:37)
113.  座頭市喧嘩旅
大映映画はときに知らない人が多くて寂しいことがある。藤村志保と吉田義夫ぐらいだったかな。藤原礼子いう人が改心する悪女になる。道中ものというか、娘を連れての逃避行もの。「信用されてなかったのが情けない」と座頭市がいう。座頭市はけっこう心が傷つきやすく、身体障害者の心理をときどきグッと突きつけてくる。大ヒットしたシリーズなのに、なかなかテレビでは放映されなかったのは、悪役が「このドメクラがっ」などと悪態をつくからだったろう。「この目の不自由な人がっ」では日本語になってない。そういう差別の実態がなくては成り立たない作品のはずだ。「ドメクラ」という言葉に気をつかうのが面倒くさくて盲目のヒーローを放映しない「事なかれ主義」のほうが、よほど差別的だったろう。
[DVD(邦画)] 6点(2013-11-23 10:05:03)
114.  誰も知らない(2004)
友だちのような母親。暴君ではない形での損ないがある。柔らかな虐待。スーツケースから出てくる子どもたち。異常な世界が自然に語られていく。マニキュア、母の衣装の詰まった空間、ピアノ、グローブなどなど外への夢。ベランダの禁止もある。コンビニの気遣うおねえさんがいい。外へ向かって開かれそうな窓。いじめられっ子が加わってくることで弱者のコミュニティめいていくが、ごつごつした「事実」を展開したあとで単純に割り切ってしまったような気もし、ちょっと残念。
[DVD(邦画)] 7点(2013-11-22 09:26:30)
115.  ちびまる子ちゃん
映画となるとエッセイ的ではもたず、大野君・杉山君の友情物語を中心にして、まる子は語り手に退いた。背景が立体的になっているのも、スクリーン向きの配慮か。小学校の運動会を一通り描いていて、準備から各競技、夕陽の中での後片付けまで、懐かしい。小学校のときの友だちってのは、だいたい別れ別れになっちゃって、生涯の友とはならないもので、それが独特の雰囲気を持つんだ。楽園時代と言うか。クラス中が一つの夢の中に漂いだす、その仲間の感じ。少年の夢がクラスの仲間たちを巻き込んで実現していく。お別れ会はあざとくならなかった。花輪君の金に糸目を付けない手品の後で、まる子が宙に浮くお札をやる。エンディングにズラッと出てくるNTTグループの名前が凄かった。
[映画館(邦画)] 7点(2013-11-21 09:43:31)
116.  楢山節考(1958)
これ貧乏ってことがポイントだ。貧乏ゆえの掟であって、食うこと(歯)が罪悪感を伴ってくる。その実感を出すために、この歌舞伎的な様式が必要になったのだろう。リアリズムで演出したのでは、実感が出なくなってしまうということ、これ映画の手法を考える上で大事なことだ。とにかく製作者の気迫が感じられる作品で、会社を説得させるために前年に『喜びも悲しみも幾歳月』を作ってヒットさせ、やっと本作を手がけることが出来たという。村の長老たちが並んでの、山送りの作法を伝える儀式の重苦しさなど素晴らしい。監督のフィルモグラフィーを眺めると、深沢七郎による本作と『笛吹川』の二作が質感の異なる岩として浮き出て感じられる。木下のこういう深沢七郎の残酷と共鳴する部分をどう捉えるか、ってのが監督について考えるとき避けては通れない気がする。
[映画館(邦画)] 8点(2013-11-20 09:47:50)
117.  艦隊を追って
見どころとしては水兵を整列させてアステアがタップで号令をかけるあたり。水兵らの足踏みをバックにタップで乱舞。ラストはいつものようにステージになる、燕尾服になる。軍律をコケにしてもダンスを謳歌する。あっちの人は整列している軍隊を見ると、まずそこにそれを乱すタップダンスを投げ込みたいと発想し、こっちは群衆を見るとまずキチンと整列させたく発想する。根本的に日本では作れなかった種類の映画だろうな。ロジャースの衣装も含め。と思い製作年を見ると、226の年だ。けっきょくああまなじり決して悲憤慷慨したりしてた軍隊が、踊ってる軍隊に勝てなかった歴史があったことは覚えておいていいだろう。
[DVD(字幕)] 7点(2013-11-19 09:29:09)(良:1票)
118.  蛇イチゴ
大谷直子がいい。亭主の失業知って荒れてると、娘に「どうしてそんなにイキイキしてるの」と言われる。家族は登場人物でありながら、互いの批評家にもなって、反射し合う。対角線を引き合う多角形。義父が倒れて風呂掃除に没頭するワーッって感じもリアル。忙しかったから気づかなかったのよ、って。ああいう逃避行動、そう罪のない似たことならやってません? 家族それぞれのドラマがラストに至って急に兄妹にズームアップする。いや、本当はずっとそうだったのかもしれないけど、私にとっては終盤からだった。いい加減な兄と真面目過ぎる妹、合わないきょうだい、そういうカップルが次作につながったか。
[DVD(邦画)] 6点(2013-11-18 12:23:04)
119.  犬神家の一族(1976)
推理小説の映画化は、どうしても言葉に頼る部分が多くなり成功しづらいのだが、崑さんはそれを逆手にとって会話の場面で面白がらせる。前作『吾輩は猫である』がそうだった。いわばサロンの仲間うちの会話で成り立っているような原作から、会話のリズムと画面を顔で埋める映像で楽しめる映画にしてしまった。その延長にこの金田一シリーズが出来たのだろう。解決篇の部分が推理ものにとっては鬼門で、どうしても説明になってしまう。そこが本シリーズでは面白い。事件のフラッシュバックを挿入する勘どころ、言い募りあう人物を時間を少しずつずらして短いカットでつないでいく緊迫、顔の部分アップを折り込んだり、コラージュを楽しんで作っている。そして崑の終生のモチーフである女のドラマにもなっていた。本シリーズは『男はつらいよ』とは別のスタイルで、当時の大女優名鑑になった。シリーズを通しての脇役チームとなる俳優たちの顔を見るのも楽しく(本シリーズの坂口良子は忘れがたい)、それにしてもつい最近の映画と思っていたのにずいぶん多くの役者が故人になってしまっているものだ。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2013-11-17 09:34:15)
120.  5時から7時までのクレオ
不吉な占いのとこのみがカラーで、あとは白黒。病気の検査結果を待つ女性新人歌手の2時間の物語。最初のうちは何でそんな辛気臭いのに付き合わなくちゃいけないんだ、と思ってたんだけど、この不安感が人生の凝縮された状態なんでしょうな。普通の町並みや普通に暮らしている他人たちが、とてもよそよそしく見えてきてしまう。これがロメールの『緑の光線』のように、ある男との出会いによって一つ脱皮できるまでのドラマ。不安が解消されるわけではなく、こうやって生きていくという決意に至るわけ。決意と言うとちょっと大袈裟になってしまうんだけど。それがドキュメントタッチで実物大と言うか、実感そのままみたいに伝わってくるのが、手法の勝利。夏至のパリって陽が長く、全然夕方の感じがない。少し露出過度気味のカメラが不安を通して見た街ってことなのか。あれで日本的な夕方だったら、情緒が出すぎてしまったところ。いちいち細かく時間経過が画面の下に表示される。
[映画館(字幕)] 7点(2013-11-16 09:57:11)(良:1票)
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