101. ブラザーフッド(2004)
《ネタバレ》 全体にリアリズムを志向している中で、いちばんリアリティがないのは、ウォンビンの顔だろう。チャン・ドンゴンも、そりゃふつうにはありえない二枚目だが、顔のタイプとしては、この手の韓国人はいないことはないと思う。だが、ウォンビンの顔立ちって、この時代の韓国人にはまったく見えない。まあ、夢も希望もない話なので、せめてハンサムな俳優が演じていたほうが、多少は救いになるというものだ。ここは、ソル・ギョングやソン・ガンホじゃなくてよかったのである。 チャン・ドンゴン演じる兄は、韓国軍で勇猛な働きをして英雄になった後、今度は北朝鮮軍に寝返り、しかも最後は、弟を援護するため味方であるはずの北の兵士を機関銃でなぎ払う。もうめちゃくちゃである。要するに彼にとっては、弟を無事に家に帰すというのが闘う目的であり、思想も何も関係ないのである。ここまで極端でないにしても、大方の兵士は、なんとか生き延びて無事に家に帰るために闘ったのであり、資本主義だとか共産主義だとかそんなこと知るか、というのが実際のところだっただろう。だが本人たちが知ろうと知るまいと、兵士だけでなく一般の民衆もまた、空襲で、双方の軍の襲撃で、また粛清によって命を落とした。 「兄弟愛に感動する」というのが、この映画の正しい見方なのかもしれないが、どうもこのパターナリズム丸出しの兄ちゃんを見ていると、無償の愛なのか、保護欲なのか、はたまた、残された家族のための計算か、と余分なことを考えてしまう。 自分が帰るよりも、できのよい弟を家に帰したほうが、いずれ出世して、家族を楽にさせてくれる可能性が大きい。一族の若者だれかひとりが科挙に受かって出世すれば、一族郎党すべてそこにぶらさがる、という李朝以来の伝統をそこに見出すのは、あまりに酷というものだろうか。 家族の情でくるまれていても、自分の生き方が外側から規定されようとしていることに変わりはない。ともに生き残った戦友が「残されたほかの家族のことを考えろ」と必死で説得する声を無視して、再び戦場に戻る弟の心の奥底には、愛する兄を探し出したい、という気持ちと、自分の意思を無視する兄の意のままにはならないぞ、という気持ちがせめぎあっていたのではないだろうか。 チャン・ドンゴンの婚約者役のイ・ウンジュも、印象的な演技である。しかし、ほんとに死ぬ役が多いなぁ、この人は。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-22 18:31:25) |
102. ホリデイ
めっちゃ都合のいい話だが、まあそのへんは、「おとぎ話」と受け取っておこう。 ジャック・ブラックを見に行ったのだが、やっぱり出番が少なく、結果的にはジュード・ロウの二枚目ぶりと表情の豊かさを大画面で堪能するということになった。 キャメロン・ディアスにだけ、ときどき現れる妄想が、ちょっと中途半端かな。 デート映画としては、よくできてます。 [映画館(字幕)] 7点(2007-07-22 17:51:45) |
103. 父親たちの星条旗
《ネタバレ》 戦争映画は苦手なので、行こうかどうしようか迷ったのだが、ここのところイーストウッド作品はあたりばっかりだったので、思い切って行ってみた。 思い切り彩度を落とし、グレーに塗りつぶされたような硫黄島。無造作に「消耗」される兵士たち。故国に戻り、ヒーローとして扱われていても、その映像がおんぶおばけのように3人の兵の背中にぺったり張り付いている。 ネイティブ・アメリカンの青年が、3人の中でいちばん欺瞞から受けるダメージが大きく、いちばんみじめな運命をたどる、というのも、現実的なんだが、索漠とした思いが残る。 よくできているが、それゆえに疲れる映画である。 [映画館(字幕)] 7点(2007-07-22 17:45:43)(良:1票) |
104. 王の男
《ネタバレ》 日本でのこの映画の売りは、イ・ジュンギの妖しい美貌、カム・ウソンとの同性愛的関係、で、そこにさらに王様がからむ、というところだろうか。「それより奥は、見てはならない」というコピーも、ほんとに映画見て作ったんか、と言いたくなるほど、的はずれ。売り方が悪いとしかいいようがない。 DVD(韓国版)で見たときは、確かにわたしもイ・ジュンギの魅力に目を奪われたし、劇場でも、ふっくらした唇を見て、本人の美しさだけではなく、メイク・照明・撮影などの技術も、こりゃたいしたもんだなぁ、と感心した。しかし、暗い劇場で画面とむきあって物語の中に入り込むと、一番印象に残ったのは、暴君として歴史に名を残す燕山君を、実に人間的に生き生きと演じた、チョン・ジニョンの様々な表情である。うまい役者なのはわかっていたが、この映画での彼の演技はほんとうにすばらしい。 ほかの3人も、それぞれ自分の仕事をきちんと果たした、ということだろう。とくにカム・ウソンは、いままでわりと都会的なイメージだったので、こういうマッチョな役は、ちょっと冒険だったんじゃないかな。体格もイ・ジュンギのほうが大きいようだし、筋肉質だし。でも、配役通りの剛と柔をきちんと印象づけたのは、彼らの演技力と監督の演出だろう。もともとの話は舞台劇なので、シナリオが破綻なくまとまっていた、ということも大きいと思う。 低予算で、セットや衣装もいまいち、という話なのだが、カン・ソンヨンの着る衣装のデザインはよかったなぁ。伝統的な韓服の枠の中で、国王の寵姫という権高さをよく見せていた。 字幕はおなじみ根本理恵なのだが、「広大 광대」という言葉が、すべて「芸人」と訳されているのは、ちょっとうーんという感じだった。これだと、ラストのセリフの感動が、字幕だけで理解している人に、伝わるんだろうか? 劇中で何度も「身分が低い」ということが出てくるので、まあそこで説明済み、ということなのかもしれないが、王や重臣たちに比べれば「身分が低い」というのは、当たり前っちゃあ当たり前で「賤民」であるということは、映画を見ただけでは、はっきりわからないような気がする。 かといって字数制限の中で、どう訳せば伝わるのかは、わたしもよくわからない。むずかしいものである。 [映画館(字幕)] 8点(2007-07-22 17:42:16) |
105. ディパーテッド
ディカプリオにもマット・デイモンにもあまり興味がなくて、ジャック・ニコルソンを見に行ったのだが、えらい迫力の悪魔面は健在で、その点では満足できた。しかし、けっこう長いので、その間ずっと神経がちりちりするようなディカプリオのテンパリぶりにつきあうのは疲れる。もっとも、これはそれだけ彼の演技がよかったということでもあるのだが。 ふたりの間にはさまれる女性医師が、なぜディカプリオにひかれたのか、そのへんの描写がないので、「話の都合でそうなった方がおもしろいから」という風に見えてしまう。 『インファナル・アフェア』は見ていないので、比較はできないが、アメリカに舞台を移したことで、民族的な対立などの要素が、うまく話にからんでいたと思う。 [映画館(字幕)] 6点(2007-07-22 17:26:07) |
106. モンスター(2003)
シャーリーズ・セロンは、体重を増やして肌と歯並びを汚くすれば醜い中年女になるけど、そのへんのおばさんがダイエットして、肌の手入れをし、歯をきれいに直しても、美人女優にはならんわな、などとしょうもないことを考える。 無教養で粗暴で身勝手な主人公を見ていると「トラッシュ」と呼ばれる所以がよくわかる。しかし、同じ境遇なら、だれでもこうなるかもしれない、という可能性も同時に見えるように作られているので、正直、あまりのイタさにへこむ。とくに、事務職に就職しようと奔走するあたりなど、コメディすれすれである。 クリスティーナ・リッチも、セロンほどじゃないにしろ、役のためにかなり太めになっていて、ぱっとしない田舎のおねえちゃんを演じている。相手が同じ女性だから依存心の固まりみたいに見えるが、これが男女のカップルだったら、小娘のずるさや身勝手さも、あまり目立たないような気がする。 主人公が刑務所から恋人に電話するシーンで、女優の本来の美貌がかいま見えたように思えるのは、見ている側が愛というものに幻想を抱いているせいかも。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-22 17:23:29)(良:1票) |
107. エド・ウッド
軽薄で挙動不審なデップが最高。ビル・マーレイもよかったし。 [DVD(字幕)] 7点(2007-07-22 17:20:41) |
108. 春が来れば
お約束通りの展開だが、田舎の中学校の生徒達がかわいかったので、個人的には楽しめた。 [DVD(字幕)] 5点(2007-07-22 17:18:46) |
109. セックス イズ ゼロ
ありきたりな青春ものだが、なにせ、汚い描写が多くてうんざり。 原題は「色即是空」で、これもわかるようなわからないようなタイトルだが、おかしな英語タイトルをそのまま邦題にしちゃったものだから、なおさらわけがわからない。ちなみに、韓国語では、数字の「0」をよく「空(コン)」と読む。 [DVD(字幕)] 5点(2007-07-22 16:50:37) |
110. 耳に残るは君の歌声
《ネタバレ》 切り詰められたセリフ、1時間30分という短さで、断ち切られるような唐突なラストシーン。だが、過剰に感傷を排除するくらいでちょうどいいのだ。歴史を描く一大叙事詩ではなく、あくまでもひとりの女性を押し流していった運命を描いているのだから。 最初のシーンは1927年、ロシアの寒村である。晩秋の底冷えする空気を感じさせるような青みがかった映像。枯れ草も人々の服装も鈍くくすんだ色合いである。だが、父といる限り、この世に不足なことは何もない。少女の笑顔がそれを物語っている。その父が出稼ぎのために、アメリカに旅立っていく。父の手にしがみつく娘。泣き叫ぶでもなく、ただその手にすがっているだけ。祖母がやさしくさとして、娘の手をほどかせる。そして、父もまた、無言で、何度もふりかえりながら歩き去る。もうこのシーンで完全にやられてしまった。 祖母との別れ、イギリスでの養父母との別れのシーンでも、さよならの言葉をかわす様子は描かれない。パリのアパートの大家で、同じユダヤ人だと知って娘をかわいがってくれた老婦人との別れも、車に押し込められて去っていく顔がちらりと映るだけである。 そして、パリから脱出するため、寝ている恋人を起こさないように、そっと支度をして主人公が出て行き、ドアを閉めた音がしたその瞬間、男の目がぱっと開く。もちろん、寝てなどいなかったのだ。ジョニー・デップのエキゾチックな美貌がひきたつラブシーンもいくつもあったが、この場面の表情がいちばん胸に残った。 陽気で現実的な美しいダンサー、主人公の親友を演じたケイト・ブランシェット。ほとんど無表情な、ふきげんなキューピーさん、クリスティーナ・リッチと好対照を成し、ストーリーを動かす狂言回しの役どころでもあった。ふだんは、よくしゃべり、笑う、華やかな表情を見せているが、恋人のオペラ歌手がパリに入城してきたドイツ軍人に、主人公がユダヤ人だとばらしてしまうのを、車の中で固まって聞いているシーンが、圧巻だった。 登場人物の話す英語は、ロシアなまり、イタリアなまり、イギリス風アクセントなどさまざまで、その響きの違いがこの物語の通奏低音になっている。最後にやっと巡り合えた父が娘に語りかける言葉が、故郷で話していたイディッシュではなく、英語だったというところが、なんとも切ない。 [DVD(字幕)] 9点(2007-07-22 15:08:25)(良:2票) |