101. パッドマン 5億人の女性を救った男
《ネタバレ》 インドはカースト制のため、あまたの差別・偏見があり、それを乗り越えるような題材の映画も最近増えてきて良作が多いのですが、これも非常に良い作品でした(「P.K.」「ダンガル」など)。 主人公は、妻のためを思って、ひたすらパッド(ナプキン)制作に奔走しますが、そこには、こんなにもたくさんの偏見と障害があったとは。 主人公がイケメンでいいやつで、とにかく愛妻家で、観ててハラハラしながらも応援したくなります。 インド映画なので例によってダンスシーンがあって楽しいです。 上映時間も例によって長めで「インターミッション」なんて久しぶりに見ました(「きっとうまくいく」以来か)。 製品開発だけにとどまらず、それをどのように展開していくか? というところが今風ビジネスの先駆けにもなってて非常に面白かったです。 映画「バーフバリ王の凱旋(完全版)」で、民の生活を良くするために自動機械を開発するエピソードがあって、発想は面白いけど現実的にはどうだろう? と疑問に思ってたのですが、この映画を観ると、それって本当にできるし、下手に高額な機械を作るよりも、手作業でできるごく安価なちょっとした装置を作った方が、意外とコスト削減になる――特に、この映画の件では、人の生活・人生を激変させるほどまでに劇的に――という辺りが目から鱗でした。 [映画館(字幕)] 7点(2018-12-08 08:48:07)(良:2票) |
102. ボヘミアン・ラプソディ
《ネタバレ》 正直、洋楽というものはほとんど聴かない、わからないし、QUEENという存在にまったく何の思い入れもない、コンサートやライブにまともに行ったことは一度もない……けど、有名曲を聴けば、聴いたことある曲もあるなあという人間の感想なので、あまり参考にならないかもしれません。 とにかく、ミュージックが素晴らしく、特に最後のコンサート場面は、演奏・パフォーマンス・音響とも最高に素晴らしいと思いました。ぜひ音響の良いアトモス上映とかIMAXとかで聴かれるのがよろしいかと。絶叫上映をやる? という話もあるので、好きな方は参加されてみるといいかもですね。 今だと現代アートやゲームなどでインタラクティブな表現をするのが1手法として確立してますが、音楽の世界で、観客と一体になってインタラクティブ歌う、しかも現代アートなどではなく一般人を相手に……というスタイルを確立したのがQUEENなのでしょうか。そこは先駆者としてすごいなと思いました。 話の方は、伝記なので事象は事実に基づいてるのでしょうが、この手の話の展開としては割と生ぬるいというか、特に葛藤もなく、とんとん拍子にスターになっていくだけですし、妻との軋轢も主人公の善良さで、ほとんど衝突もなくスルーされますし、セクシャルマイノリティの話にしても「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」のような、この戦いに勝利せねば女性という部族の誇りが未来永劫棄損される。絶対に負けることは許されない!!! みたいな世紀の歴史的転換点というような盛り上げ方もあまりなく、ぬるい演出で(ネタ的には、そういう盛り上げもできそうだったけど)……、という感じに、最近ありがちな話の要点は押さえてるけどどこにも振り切れず無難に押さえた感じかなあと、感じました。 それより、音楽とか、出演者の伝説のアーティストの再現を優先したということでしょうか。 劇場では、泣いてる人もいて、上映後拍手も起こったりしましたが、上記のように個人的にまったく思い入れがなかったので、私にはそこまで深いレベルの感傷は、この話については、わからんなーという疎外感を割と覚えたりしました。 というわけで、音楽映画としては素晴らしく、QUEENに思い入れのある方には極上の映画かと思いますが、Not for meだったかなあと、そんな映画でした。 [映画館(字幕)] 6点(2018-11-15 07:06:44) |
103. GODZILLA 星を喰う者
《ネタバレ》 一応、三部作これまで見てきたので、これも観ました。 評判が微妙なのは事前観測済みで期待せずに行きました。 話の最終的なオチは、まあ順当というか、主人公の心情的にそうするしかないわなという感じで了承。 ただ、面白くできそうなネタはいっぱいあるのにそれは全スルーして、そこに落としますかいという。 CGは、頑張っててソコソコかっこいい感じではある(ギドラの絶望感はまあまあイケてるかと)んですが、予算の都合で無難に押さえてあまりはっちゃけれてない感じでした。 前作もそうでした。 個人的な希望としては、やっぱり前作でハルオがメカゴジラと合体してゴジラ・アースとタイマン・バトルするとか、あるいは今作のテーマに沿ってハルオがあくまで人であることにこだわるのであれば、代わりに意識不明になったユウコが覚醒してメカゴジラとなって戦うとかですね(動いてほしいのは、実写のような、ちゃんと立ち上がって動く方です。メカゴジラは「レディ・プレイヤー1」のが断然動いてましたね……)、そうやってメカゴジラがメカ怪獣としてプロレスバトルできることにしておけば、本話では、地球・世界を守るため、仇敵であるゴジラと手を取り合って、しかも地球のモスラも合わせて共闘して、異次元怪獣ギドラと対決する!!! という激熱展開もできたと思うんですね。 実にもったいない;;。 あとはまあ、本作は主人公ハルオがほとんど状況に流されるまま腑抜けみたいになってるんですけど、それにしてもメトフィエス(櫻井孝宏)を筆頭に、みんなハルオを好きすぎるだろうという、ハルオおよび、豪華声優さま方を愛でる映画としては一聴の価値ありと思います。解説役の博士も超楽しそうに喋りまくってていい感じです。 というわけで、まったく万人にはお勧めできない、コンニャク問答しまくり映画ですが、マニアックな嗜好が好きな方には、ネタとして観ておかれても良いかなという、そんな感じの作品でした。 [映画館(邦画)] 6点(2018-11-15 06:44:56) |
104. ごっこ
《ネタバレ》 2016年に亡くなられてしまった、小路啓之氏の漫画「ごっこ」が原作の映画です。 引きこもりのニート(パパやん)が、幼い娘(ヨヨ子)を単身育てる、ほのぼの親子話……と見せかけて、一筋縄では行かないエグい物語を、ポップに軽妙に描く(そして泣ける)という離れ業の原作を、いかに映画化するのか? を期待して行ったのですが、観た最後には、もうボロボロ泣いてました。今年一番泣いたと思います。劇場内も、そこかしこからすすり泣きの聞こえる、心を震わされる作品でした。 個人的にすごいと思ったのは、主演の千原ジュニア(パパやん)の顔面演技です。よく、小説や何かで「鬼の形相」とかいう描写をされることがありますが、アニメや映像効果を使えばそういうのは作れるんですけど、生の人間の表情で、あんな形相をすることができるのだと、心底、震えました。「そんなわけあるか」と、声を振り絞って言う、あの形相を、私は一生忘れられないでしょう。 平尾菜々花のヨヨ子も素晴らしく、子供っぽい無邪気な姿と、時折垣間見せる大人びた雰囲気と、パパやんとの心の触れ合いが、とにかく心の通った演技でグッとくる。 周りの人たちもそれぞれ心の通った演技をしてて、それぞれみんな良いんですけど、個人的には、主人公のパパやんといつも喧嘩する近所のオッサンとだんだん仲良くなってくのが好きです。 原作漫画を見ると、いったいこのダラダラ長い話をどう映画にまとめるんだ? と思うんですが、重要なエッセンスを的確に抜き出し、1個のまとまった流れの物語にして、なおかつ原作のメインテーマもきっちり押さえる(ある意味凌駕すらするところもある)……という脚本・編集も素晴らしい仕事をされてると思います。 あと、最近の似たテーマの映画として「万引き家族」がありますが、個人的には、是枝監督の「誰も知らない」→「万引き家族」を観た上で、この「ごっこ」を最後に観ると、すべてが報われるかと思います。フィクション・夢物語の力というものを、まさに見せてくれる、素晴らしい作品と思いました。 今年は、何年かに1度くらいのすごい作品がいくつもあって、泣ける系の映画も良作が多いのですが、もうこれ以上は来ないだろうと思ってたのが、こんなダークホースが現れるとは思ってもみませんでした。 上映館が非常に少ないのが苦しいところではありますが、こういう系統の作品が好きな方にはぜひ観ていただきたいところであります。 [映画館(邦画)] 10点(2018-11-06 00:01:03) |
105. ペンギン・ハイウェイ
《ネタバレ》 森見登美彦原作の、ライトなジュヴナイル……と見せかけて、結構ガチなSF作品の映画化(SF大賞受賞作)。 原作もとても好きで、アニメになったら映像が映えるだろうなあと思ってたら、期待以上のすばらしい美しい出来栄えで、原作知ってる方にもお勧めできます。 この映画ですごいと思うのは、あの結構難解で難しい原作の「オチ」を完璧に理解した上でプラスαの演出しているところです。 原作者様に、よほどしっかりした取材をされたのかと思われて、ちょっと感動してしまいました。 興味のある方は、ぜひぜひ原作もチェックされて、その差や、映像では説明されなかった諸々の謎についても確認されると、より面白さを味わえるかと思われます。 個人的には、大好きだった原作の「ウチダ君の証明」が端折られてしまったのが残念でしたが、枝葉のエピソードなので、まあー、しょうがないかなーと、納得はしてます(メインのアクションとか素晴らしかったし)。 というわけで、平成最後の夏の終わりにふさわしい、少年期の、ひと夏の終わりの物語の哀愁感+究極のSF的ハッピーエンドのドラマをご堪能いただければ幸いかと!(熱烈宣伝) [映画館(邦画)] 8点(2018-08-28 21:55:28) |
106. バトル・オブ・ザ・セクシーズ
「リトル・ミス・サンシャイン」の監督コンビの新作です。 1970年代の女性解放運動の流れの中で、全米女子テニスチャンピオンのビリー・ジーン・キングが男子元チャンピオンのボビー・リッグスと世紀の対決します。 男女格差を扱った、社会派の、当時の時代の変わり目をよくとらえた秀作と思いました。 さて、あれから40年以上経ちましたが、今の日本はどんな状況でしょうか? などと思ったり。 [映画館(字幕)] 7点(2018-08-13 16:20:10) |
107. ダンサー・イン・ザ・ダーク
《ネタバレ》 この映画を劇場で観たとき、リアルの仕事環境が酷くて死にそうな状況だったのですが「どんな酷い状況でもミュージカルさえあれば魂は救われる」というテーマに、すごい救われたのを覚えています。 西欧の悲劇的話でよく、現実の主人公は肉体的に死んでしまうけれども、魂は神の御許に行って天国で幸せになるみたいな落ちの話がよくあるんですけど、キリスト教など信じてない人間からすると「そんなの信じられるかよ」「現実でうまく行ってる人が酷い死を迎えた人に対する罪悪感を晴らすためのごまかしでしょう」としか思えなくて、感情移入できたことが一度もなかったのですが、この作品では、確かに神(音楽の神様?)がいた。そのように感じられた、私にとって初めての作品でした。 DVDライナーノートの監督インタビューなんか見ると「ネタバレするな」的なことが書かれているので、ここでは明確には書けないのですが、この作品は、本当は、劇場で観る(聴く)のが良いと思います。 劇場版では冒頭の音楽の場面がずっと真っ暗でした(3分くらい?)。 DVD版だと抽象画のような映像が表示されて、元々の作品の意図が分かりづらくなってると思います。 で、最期の場面なんですが、劇場だとすごい良くわかるんですけど、家などの環境だと何が何だかわからないまま見過ごしてしまう(作品テーマ的には「聴き過ごしてしまう」)可能性が非常に高くて、ヘッドホンで、周りの雑音をすべてシャットアウトした上で観る(聴く)ことをお勧めします。 入門編として、工場のプレス機のSEをしっかり聴いてみて、そこで何が起こってるかがわかると良いかと。 以上、そんなところです。 [映画館(字幕)] 10点(2018-07-29 12:18:52) |
108. 万引き家族
《ネタバレ》 個人的に、同監督作品の「誰も知らない」の続きと思って観てしまってたのですが、そう思って観ると終盤の少年の行動は当然そうするでしょう! と共感しました。 あと、是枝監督作品にしてはかなりエンターテインメントしていて(一般的には全くエンタメしてないかのように見えるでしょうが)、話のエンドはともかく、『救い』が多く描かれ、それらを描くために各役者の演技を極限まで引き出す演出、編集がされてて非常に良い出来で、これでパルム・ドール受賞は、それは取るでしょう、という充実した作品だったと思います。 実のところこの話のモチーフって、とても古めかしい、子供を拾ってきて居ついてしまいましたよとか、育ての親と生みの親のどちらが子供にとって良いのか? というコテコテの人情噺で、前世紀だとハッピーエンドで終わって、いい話だったねと終わるところが、今世紀では、それは単純に犯罪になってしまうし、法律によって生みの親に子供を託すのが何だか知らんけど社会的に正しいことだとされている(各種フィクションでそんなことねーよ! と指摘はそこらじゅうでされてますが)という風に、世間の方の価値観が変わってしまってることに対して、今のおまえたちはどう想像するんだこの結末を、と叩きつけるようなエンドになってるのが、視聴者に対する挑戦なのかなあと思ったりなんかしました。 例えば、主人公の親父と少年がわかれて最後に親父が追っかけたところで、映画の中ではカットされた、バスが止まって少年と親父が抱き合う場面が視聴者であるあなたは想像できますか? とか、女の子の最後のベランダの場面は、話の冒頭にあえて戻した演出をしてるんですけど、あそこで、「万引き家族」と言われて主人公の家族は違法とわかってるけれども助けることを選んだ。視聴者であるあなたの目の前に全く同じ状況が映画のエンドで提示される。そこで、あなただったら助けますか? とかいうところです。 この作品で描かれる貧困はリアルなようでありながらわりとファンタジー(そんなに悪い人は出てこない)という認識なんですが、この世間の想像力の欠如に対する訴えかけについて、 「他に教えられる事がなかったんですよ」 と、主人公が金を稼ぐために万引きしか教えられなかったことについて、教育もなく追い詰められて困窮した人だったら、それは仕様がないないよね、ととらえられるか、そんなのあり得ないだろうと拒絶するしかできないか、というようなところも問うてるかなあと思います。ホームレスなどの困窮者が表向き見えるところから排除されたことで(今はむしろ格差拡大で増えてさえしているかもと想像しますが)、そんなもの想像もできなくなってるだろうなあとか、自己責任論とか、あるいは裁判員裁判でそういった想像力の欠如があるので、困窮者でアル中まがいの状況になってる人がそんなつじつまの合ったまともな証言などできないだろう、ということに対して、裁判員に選ばれた人が驚くほど冷酷な反応をするとか、そんな話を伝え聞いたりしてると、こういう話に共感しがたい人も増えてるかなあと思ったりなんかもしました。 [映画館(邦画)] 8点(2018-07-22 18:39:58)(良:1票) |
109. 皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
《ネタバレ》 主人公があまりに孤独すぎて、目が死んでて、それが正義に目覚める瞬間に魂が震えました。 悪役が、とにかくチャラくて、メチャクチャで、しぶとくて、とことんゲスなのが良い。 ヒロインのアレッシアはそんなに奇麗というほどでもないんですけど、観てるうちにどんどん美しく見えてきます。 アクションは、低予算ながらきっちりポイントは押さえててがんばってる感じですが、「スーパー・パワー対スーパー・パワーは、単純に素手で殴り合ってるのと変わらない」というのが、目から鱗で面白かったです。 あと、観覧車は何度観ても泣けてしまいます。 [DVD(字幕)] 8点(2018-07-19 00:55:16) |
110. 映画 聲の形
《ネタバレ》 原作を読んで、映画館で観て、DVD購入してそれも観ました。 原作から好きで、映画版は、原作で好きだった映画作成のエピソードが削られてるのが非常に残念でしたが、尺を考えるとやむなしかなあ、それでも、うまくまとめられたなあ、という感想です。 原作を観てたので、そもそもエンタメ的な、楽しく心なごむような話は全く期待しておらず(そういうのを期待する人には全くお勧めできない)、いじめという繊細かつ深刻な問題を、いかに逃げずに真摯に描いてくれるかを観に行き、おおむねよくできていたように感じました。いじめをした人間はもちろん悪いのですが、それを目の前でやられてるにも限らず傍観するのも問題あるかもしれないし、これはタブー視される問題ですが、いじめられる方にも問題があるのかもしれない(声をあげろ)というところまで踏み込んでいる作品はそうないかと。 かなりしんどい内容なので、あれですが、この作品の内容を深くまで理解して観ようとするのであれば、2回以上観ることをお勧めします。2回目以降ですと、小学生期のヒロインの手話や、発言が、実際何を言おうとしていたのかがほとんど理解できるようになっています。ヒロインが一体何を訴えて、それがまったく周りに通じず、どんな残酷なことになっているか。大変良くわかって精神的に再起不能になれます(しくしく)。 あと、原作で一番疑問だったのは、何故ヒロインは主人公のことが好きになるんだろう?(あんなひどい目にあわされたのに)という点で、原作の時は少年漫画誌補正で何だか知らないけどヒロインは主人公を好きになるお約束? と流してたのが映画版で解消されることを期待して観てました。そして、その回答は映画版できちんと描かれていた、と思います。ただ、主人公は最後までそのことに気づかずに終わってしまうので、主人公は理解して救われたように思ってるけど実は何もわかってない残酷な終わりにも見えます。ただ、気付いてしまっていると主人公の死は免れ得ず心中物語にでもなってしまってたかと思われるので、そこまでにしなかったのは、製作者さまの優しさかなあと思いました(この辺はあくまで自己解釈です)。 そんなところで。 [DVD(邦画)] 8点(2018-07-17 21:50:52) |