1181. まぼろし
《ネタバレ》 「あなた軽いのよ」スゴく好きな台詞ですね。何とも艶かしいですし、含蓄が深いというか。軽いヴァンサンに対して、重いのは、躰そのものであり、それこそ愛でもあり、共に過ごした人生でもあり。今や「まぼろし」となった彼の存在を軽いヴァンサンを抱くことで逆に実感した喜びも含めて、二度のこの台詞には様々な感情を垣間見ることが出来ます。映画全体としても、マリーが実際、何をどのように考えて(捉えて)いるのかが少し判然としない(まぼろしを見る程に夫を今だ愛していながら、ヴァンサンと情事に耽ることも含めて)ことも、比較的単純な話に奥行きを与えている様に思われます。その意味では、本作のランプリングで一番良いなあと思ったのは、名状しがたい「有無を言わさない」感、だったかと思います(何とゆーか、細身なんですけど実に「凄み」のある系統の美人ですよね)。 ラストも、これ私大好きなヤツですね。ジャンにも見える人影を過ぎ越してゆく彼女には、我々とは違うものが見えているのでしょう。彼女は、もう戻らない。そう感じます。 [DVD(字幕)] 8点(2020-08-19 19:09:03) |
1182. レミング
《ネタバレ》 「模範的」と作中で称される主人公夫婦(リュカとゲンズブール)にせよ、夫の雇い主の社長(デュソリエ)にせよ、当初はごくマトモな大人に見えるのだ。その一方で、社長の妻(ランプリング)だけがド初っ端から場違いにトチ狂っている様に見える。しかし、ランプリングの自殺に始まるストーリーが展開するにつれ、彼らが誰しも少しばかり「正常」でないことが分かってくる。そのややもすると自己破滅的、とも言える様な有様を、集団自殺をするという「レミング」に擬えよう、というのが本作の意図であろう。そして、彼らの根底に共通するものは、シンプルに嫉妬である。その意味では本作、比較的単純なテーマを有するサイコロジカル・サスペンスであるとも言えるだろう。 特に、男2人の描かれ方は非常に単純である。色気狂いな社長と、そこまででは無いが、ふと誘惑されれば少しだけ心動かされてしまう様なごく「健全な」夫。この2人に嫉妬し、アンビヴァレントな感情を抱きつつも常軌を逸した行動を取っていく女2人。率直に、この2人の醸し出す「女の怖さ」というものは、かなり上質であった。特に、ゲンズブールのさり気なく奥ゆかしい怖さは非常に素晴らしかった。より分かり易いおっかなさを纏ったランプリングも、やはり美人はキレてる時が美しい、という感じでもありこれも中々良かった。 ゲンズブールは何故、夫に社長を殺させたのだろう。自分を裏切った夫に対する試練か、禊のつもりでもあるのか。それとも、夫に対する嫉妬に狂う中で、同じ様な境遇で結果的に死を選んだランプリングに対する逆説的な共感が芽生えたのか。もし後者だとして、ランプリングの狙いが最初からそこにあったとしたらどうだろうか(やや穿ち過ぎだとは思うけれども)。ああ、女というのは(怒らせると)実に恐ろしいのだ。 [DVD(字幕)] 7点(2020-08-18 23:30:12) |
1183. バッドボーイズ フォー・ライフ
《ネタバレ》 17年越しの続編となった今作、割と世評が高かったので、大して面白いと思わなかった前作・前々作を再見してからの鑑賞に相成ったワケだが、果たしてそれが吉と出るか凶と出るか… そもそも本シリーズというのは、そのコンセプトが秘めるポテンシャルを(マイケル・ベイ御大の大味な製作方針の所為で)生かし切れていなかったと思うのですよね。ヒップホップな型破り黒人デカのしかもバディものを、名優ウィル・スミスが演じて面白くならない訳がないじゃないですか。その意味では、今作は非常に正統派で「チャンとした」バディものアクションに(初めて)仕上げられている、と思いました。恐らく、これが本来の『バッド・ボーイズ』だったのではないか、とも個人的には感じます。 雰囲気面でも前2作とは異なる部分が諸所に見られますが、一番の変更点は、コメディ色をやや薄めて(全くコミカル描写が無い、という訳では無いですが)、本筋は比較的シリアス・ハードに進めていることですね。年齢的限界から引退を決意したマーカス、その彼とマイクとのバディものとしてのオーソドックスなテーマに加え、若き日のマイクに関わるシリアスなストーリーを織り交ぜたシナリオは、アクション映画としては比較的よく出来ている方ではないかと率直に感じました。 アクションそのものも手堅いですね。中盤のカーチェイス的な場面にせよ、終盤の激しい銃撃戦にせよ、これも前2作で既にやっているのと本質的には大差ありませんし、派手さで言えば前作が上回るでしょう。しかし、それなりにユニークなアイデアも無くはなく、今風の悪くないクオリティに仕上がっているのも確実で、この面の出来も十分に合格点なのではないかと思います。 結論、セオリーに従ってシリーズ一気観したのは正解だったと感じます(6点と悩みましたが、ギリ7点で)。旧作キャラは総じて前作からの俳優が続けて演じているワケですし(まさかのあの人物も再登場しますしね)。 [DVD(字幕)] 7点(2020-08-15 23:57:45) |
1184. バッドボーイズ2バッド
《ネタバレ》 なんですか、前作の中途半端さを批判されたのを根に持ってでも居たとゆーのでしょうか、大物になったマイケル・ベイが、今作では「俺は娯楽映画については巨匠だ!観客の観たいモノをとにかく沢山ブチ込んでやるぜ!」→「入れられるモノがあんまり多すぎて尺も2時間半になっちまったぜHAHAHA!」とでも言ってるかの様な御大層ぶりですね(これを観ているとつまり、前作の中途半端さは予算的なコトに依拠する、と言えるのかも知れません)。 しかし、肝心な描かれるモノというのは、ハッキリ言ってどれも低俗の極みです。下品な下ネタの数々に、アクションだってひたすらに銃撃・爆撃・カーチェイスに次ぐカーチェイス(&転がって弾けるお高いお車)。アクション映画の価値とゆーのは、使った火薬の量と壊した備品の合計金額に比例する、とでも思っているのでしょーか。 まあでも、カメラワークは流石に随所でだいぶ凝ってたり、質より量なアクションも所々はそこそこ爽快ですし、少なくとも前作よりは少ーしマシかなあ、とも思います(尺が大幅に増えてるのにはかなりイラっとしますが)。ただ、大規模予算を与えてもこんなバカなコトしかやらないのであれば、小予算で頭を捻って貰った方が(結局のトコロ誰しもが)皆もう少し幸せだったりするのかも知れない、とも思いますケド。 [DVD(字幕)] 5点(2020-08-15 23:57:43) |
1185. バッドボーイズ(1995)
《ネタバレ》 マイケル・ベイは、今作が初監督なのですね。しかし、この手堅いコンセプトに手堅いキャストで、何故にこんなに面白くないのか、ということでもあるのですが… まあ色々と、とにかく雑、ですかね。事件ものとしての展開運びなんか特に雑ですが(正直、マジメに観るに値しないレベル)、コメディにしても黒人2人にこんな感じでピーチクパーチク喋らせときゃいいんだろ、的な感じだし、アクションにしてもとりあえず爆発させときゃいいんだろ、的な感じというか。満を持したお初なハズなのに何故にこんなに気が入ってないのか(あまり伝わって来ませんが、カメラワークの方に拘りまくったが故に他が等閑になった、とかなのでしょーか)。 ただ、そうは言っても私も、アクション映画で色々と爆発し出すのを観てるとなにかホッとする、というタチなので、ラスト15分はそこそこ好きです。まあ重ねて、そこまでがつまんな過ぎるのですけれど。 [DVD(字幕)] 4点(2020-08-15 23:57:41)(良:1票) |
1186. カラスの飼育
《ネタバレ》 子役ってのは、ホントにすぐに大きくなっちゃいますね~『ミツバチのささやき』ではほんの子供(と言うか幼児)だったアナちゃんは、数年後の今作では紛うコト無き美少女、という感じです(別にロリコンという訳では無いんですが、やや『ミツバチ~』の時の方が好みではあります)。 映画全体としても、率直に言って『ミツバチ~』にかなり似た様な感じでもあるのですが(特にアナちゃんの使い方とか)、現代劇で主役のアナちゃんが3人姉妹で所々はだいぶ騒々しいのなんかが、まずあんまし心地良くないなあ、という感じ。あと設定がやや複雑気味で、それを登場人物に直接語らせるのが難しかったのか、大人のアナちゃんを登場させて(回想形式で)そっちに喋らせる、という構造なのですが、これも率直にちょっちダサいですよね。 話の内容自体も、全く見所が無いとまでは言いませんが、アナちゃんがネガティブ一辺倒、という意味でかなり単調、かつうっすい!ですね(正直、あまり面白くなかったです)。ただ、そもそもこの映画、コンセプト的にもアナちゃんを如何に上手く使うか、が最大の勘所なワケで、その意味では『ミツバチ~』よりも確実にアナちゃんの表情のバリエーション自体は多彩になっています。そこを楽しむことを主眼に、アナちゃんファンだけが観ればいいという映画、だと感じます。 [DVD(字幕)] 4点(2020-08-14 23:42:32) |
1187. ミツバチのささやき
《ネタバレ》 まず、雰囲気が素晴らしいですね。キュートな子役を活かした可愛くて楽し気なものや、古い時代のノスタルジックさ・牧歌的なものを多分に含みながらも、やはり奥底に暗い世相を的確に反映する打ち沈んだ様な重さを湛えた静謐なその空気は、非常に緩慢でありながらも実にエレガントで私にはとても心地良かったです。画的な部分のクオリティも見事でした。例えば、広大な農地にポツンと佇む廃屋に子供2人が向かってゆくシーン、そして、これも子供2人が線路脇に佇み、その傍を巨大な機関車が通り過ぎてゆくシーン。子供の小ささと対象物の大きさの対比というか(それは単純なスケールだけの対比のみに留まるものでもない気がしますが)、優れたコントラストがとてもグッドだと感じました。 話の内容も希薄な様でいて、ちゃんと観てゆけばそこそこ理解も容易で、かつ中々に味わい深いものだと思います。この映画の良さというものは、雰囲気であったり、芸術的・文学的な諸々であったり、その意味では確かに繊細で奥ゆかしいものだと思います。ただ、そういうものをウリにしている系統の映画としては、その各々が各々に一定以上の水準で優れていて、かつ全体としても難解すぎない、という意味で、非常にバランスが良好な作品だと思っています。オシャレな映画を観たい!(と言うかそのものズバリ、アート系を観たい!)と人に言われたら、個人的にはイの一番にオススメしたい作品ですね。 [DVD(字幕)] 8点(2020-08-14 23:42:26) |
1188. バチ当たり修道院の最期
《ネタバレ》 これは中々シュールな…訳あり女が駆け込んだ修道院は、これまた訳あり修道女の巣窟だった、という作品だが、普通に考えてこのコンセプトなら必然的に作風はコメディになって然るべき、だと言って決して過言ではないハズ。しかし、とにかく本作、全くと言ってよい程笑えないのだ。ヤク中だったり殺人犯だったり果ては尼長みずから強請り集り紛いなコトまで仕出かす、その有様から感じられるのはユーモアでは更々なくて、ただ「イタい」ないし「サムい」という感情のみである。インモラルな修道院、というのを描きたかったが、コメディに徹してしまうのは時代的にまだ憚られた、という感じなのだろうか(そんなコトも無いと思うのだけど)。ちょっと、何がしたかったのかよーわからんですわ。 一点だけ、尼僧の字名が「堕落」「溝鼠」「毒蛇」終いには「肥溜」というのは一体何事か。翻訳間違いじゃねーのか(直訳が正しいとは限らんのだぜ)。 [DVD(字幕)] 4点(2020-08-13 22:18:04) |
1189. わたしを離さないで
《ネタバレ》 臓器を提供することだけが目的ならば、その体に魂は必要なのだろうか。ある種、人間としての存在意義を全て否定された彼らが、その命をどう生きたのか、というこの話を深く考察していくことは、個人的にはこれもある種、人間の存在意義のひとつの本質に迫ろうとする非常に意味の深い行為だ、とも思える。 そして本作は、SF的な状況設定を有する物語ではあるが、その方面の深掘りや整合性はさほど重視していない、という様にも見える。とするとやはり、前述の哲学的な面に意味を持った内容になっていることを期待してしまうのは、そこまで的外れなことでもないのではないか。だからとにかく残念なのは、率直に言ってこの映画では、そういった深く深く突き詰めた様な、と言える程の含蓄は殆ど感じられない、ということであるのだ。 原作を読んでいないのでアレなのだが、他のレビュアーの方の意見を拝見するに、原作も内容としては映画と大差無いが、原作者の優れた文学的表現の方に作品としての価値を見出せる、ということの様である。ナルホド、つまり文芸映画としては、非常に難しい方の道を選んでしまった作品、ということなのかも知れない。 [DVD(字幕)] 5点(2020-08-12 22:07:09) |
1190. 最終絶叫計画
《ネタバレ》 ホラーとコメディは紙一重、とはよく言われるコトであるが、色々と聞くに、これはシーンの構造の類似性に依るものだ、ということのよーである。即ち、恐怖と笑いはどちらも「緊張の緩和」だと。観客の目をスウッと引き付けて引っ張って、最後に観客にとって「意外な」ものをバーンと出してゆく。出すものの性質によって、それは恐怖(驚愕)になるか、笑いになるか、ということらしい。加えて、エロとホラー・コメディの親和性もこの観点から説明できるようにも思う。つまり、エロが挿入されると、人間どうしてもいっときの注意を奪われてしまうのですよ(哀しきニンゲンの性、ですね)。だからそこに、恐怖や笑いを仕込むのが非常に容易い、というコトなのではないかと。 『スクリーム』なんというホラーは、極めてシンプルな前述の構造を擁する作品であり、であるからして、出すモノ&出し方を少し変えるだけでかくも簡単にコメディになってしまう、と言わんばかりの本作ですが、マジメに考察しておいて少しナンですが、観てるコッチが恥ずかしくなるくらいにクソ下らないですよねこの映画。ここまでお下劣だと、これはホラーの中でも特に低級なスラッシャー映画に対するアンチテーゼ的な風刺的意図を含むものなのかも、なんぞと思ったり。 とは言え、私は本作、それなりに笑えました(笑ったというか、嗤ったというか)。こういう映画を無性に観たくなる、というタイミングも、少なくとも私の生活時間の中には確実に存在してます。はい。 [DVD(字幕)] 5点(2020-08-10 22:19:00) |
1191. 遊星からの物体X ファーストコンタクト
《ネタバレ》 SFホラーの代表的傑作である前作の前日譚という建付けだが、特にお話の方に新たなアイデアがあったというよりは、結果的にCG全開でもっと派手にクリーチャーを暴れさせたったぜ!という方面に力点が置かれた「リメイクに近いモノ」になってしまっている。個人的には、そのクリーチャーの出来自体は別にそんなに悪くもなく十分気持ち悪く観れるとも思ったが、今どきにしてはまま無難な造形だとも思うし、その部分を全て特撮で貫いたが故に今日でも損なわれることのない優れたリアリティと普遍的な怖さを勝ち得た前作に比べれば、根本的に映画としての「格」の違いを痛感するのである。 取り分け、全体的にテンポが良「すぎる」よーに思う。そのため、じわりじわりと「物体」が皮膚を侵食してくる悍ましさや、誰が敵なのか分からないという疑心暗鬼が画面を通して確かに視聴者自身の感覚の中に広がってゆくというその前に、クリーチャーがババーン!と暴れ出しちゃってる、という風にも感じるのですよね。SF(ホラーチック)アクションとしては全体的な映画の質も確実にB級レベルを超えてくるものであるし、特に前作を観ていない、という人であれば意外な程に結構楽しめるかも、とも思われますが、私個人としては相当にイマイチでしたね。 [インターネット(字幕)] 5点(2020-08-06 21:57:13)(良:1票) |
1192. パンとバスと2度目のハツコイ
《ネタバレ》 う~ん、ユルいというか、ハッキリしないというか。とりわけてフワフワとしているのが、主人公の女子。美大まで行ったのに絵を描くのも止めてしまった、彼氏からのプロポーズも断っちゃった、どちらも正直よく分からない理由で、という。それでも、なにか上手いこと社会の中には嵌っていて、つくねんと落着いちゃってて特に慌ててもいない(自分の人生をまるで突き詰められていない、というのに)。とは言え、もう一人の男の方も結婚経験があって子供が居るってだけで盛大に迷いまくってるし、伊藤沙莉だって、昔女の子を好きだった、という点を重く見れば、まだ「揺らぐ」余地を残しているのかも知れない。 でも、最近の25才って皆こんなもんじゃないでしょーかね。人の精神年齢は時代を経るに連れて「低下」していく一方だと聞きますし、私自身も25才の時に彼らより「チャンとしてた」などと言うつもりは毛頭無いです。そもそも、言い訳がましくもなりますが、こうなっていることの原因は、若者だけでなく社会の側にも確実に在る、と言いたいのです。ここん所の社会変革の流れとして、人は、自分自身の在り方や自分の幸せのかたちをそれぞれ独自に探し当てなさい、というのがメインストリームになって来ましたと。それは更なる多様性(=それがもたらすパラダイムシフト)を必要としていた資本主義社会の希求でもあった、と思っているのですが、果たしてそれが本当に「良い」ことであったのかと。自分でそれを見つけられる(=それだけの能力と時間とカネの有る)人にとっては、良いことでしょう。しかし、もしかしたら大多数の人々は、それを見つけることが出来ない(出来なかった)のかも知れない。そして、そんなものを探すよりも一般常識や宗教的価値観といった「長いもの」に巻かれてしまった方が、結局のところ幸せだったのではないか、と(殊に、今なお日増しに複雑化・高度化していく現代社会において、こそ)。 私自身は、彼らには非常に共感できるのですよね。それは、今作がこの「惑う」人々を、とても的確に描きつつも、同時にとても温かく描いている、からだと思われます。今作で一番好きなのは、主人公が「自分は孤独が好きなのではないか」と呟くシーン。正直私自身も、こんなふうに思う時期が確実にありました。でもだからこそ、そんな「答え」を出してしまうのはまだ早い、と彼女には言ってあげたい。それを結論付けられるような段階(そして結論付けなければいけない段階)に、色々な意味で君はまだ至ってないと思うよ、と。 深川麻衣の演技は、実に素晴らしかったと思います。彼女の中にあるのは本当にフワフワしたもので(孤独であり、不安であり、希望もあり)、それを表現するのは極めて難しい作業であったハズ。今後が楽しみですね。 [インターネット(邦画)] 8点(2020-08-05 21:58:44) |
1193. けっこう仮面
《ネタバレ》 結構しょっちゅう映像化されている題材だが、今作は長嶺高文氏が監督した4部作の第1弾である。舞台となる学園がアナウンサーの養成学校に変更されているが、これは主に、教育にかこつけて女子になんかエロい地名(レマン湖とかバリ島キンタマーニとか)言わせて辱めよう、というのが目的である様に思われる。 けっこう仮面は設定どおり全裸で最初からオッパイも全開だが、首のスカーフを前後に垂らしてそれぞれ股間に固定する、という手法であまり下半身は映らない様に工夫している。といっても鉄壁という訳でもなく、チラチラ捲れて見える場面も無くはないが、その場合は白い光のエフェクトで雑に隠している。こだわりの感じられない、適当な仕事だと思う。 話の内容も原作どおりで、罰を装って地下の仕置き部屋に連れ込んだ女子をあの手この手で辱めるという展開が続くが、この責め方が全体的にかなり珍妙であった。特に2人めのシーン、台に縛り付けた女子の周りをトマトで埋め尽くし、それをチェーンソーで切り刻んでいく、というのは全くもって意味不明である(女子はいったい何が辛いのか)。 もう一点、本シリーズには何故か石丸謙二郎が皆勤賞なのだが、女子を電動歯ブラシ責めにしたり(といっても、これも普通に歯を磨くだけという意味不明な折檻だが)、女子のオッパイを吸い取って男子につくり替えてスパイに仕立てるなど、極めて変な役柄をこれまた何故かノリノリの全力全開で演じ切っており、総じて凡庸な演技面でのアクセントとなっているのみならず、色々とかなり好印象だった。 [DVD(邦画)] 3点(2020-08-02 22:18:45) |
1194. 首だけ女の恐怖
《ネタバレ》 珍品である。が、映画としての質はどう控えめに言っても低レベルで、演技経験があるのか非常に疑わしい主演陣に加え、無駄が多くて冗長な展開運び、特撮も極めてチャチだし、特撮シーンになると8mmビデオの様な超絶低画質に切り替わるなど、あまり他の映画では見かけない様なチープさが全編に行き渡っている。もう一点、私の購入したDVDは英語吹替版で、この吹替の質も非常に低いと言わざるを得ない(声の質感が映像とまるでアンマッチで完全に浮いている)。 展開運びで特に酷いのが終盤で、主役(男)の別れた恋人が唐突に登場して憤死したり、絶体絶命のピンチ!にこれまた唐突に大戦士ギデオカなるエセ月光仮面(顔出し)が出て来たり、ゴタゴタと戦っていたのに朝日が出たら黒魔術師(ラスボス)はギャー!と溶けてしまったり(時計見といてよ)、主役(女)は結局助かったのかどうかも定かではなかったり、結構頑張って観てきたのにこんな終い方?感がハンパではない。 ただし、こういうゲテモノとも捉えられかねない現地の伝承をこーまでド直球に映像化したという点については、それでも非常に好感が持てるのである。こーいうのこそが独自文化なのであり、文化的レガシーなのだと。その物珍しさは、こうしてこんな映画が世界中で観られるほどにきっと価値のあるものなのだし、そうした伝承を次世代に伝えていくという意味でも、本作は価値のあるものにきっとなっている筈だ、と思う。 [DVD(字幕)] 5点(2020-08-02 11:36:44) |
1195. フェリーニのアマルコルド
《ネタバレ》 基本的にはコメディ風に、種々のユーモラスなエピソードをテンポも台詞回しも小気味好く、音楽も楽しげに綴ってゆく、その様子が、実に心地良いノスタルジックを醸している。映像も美しく、実際のそれよりも一層、色彩豊かで色鮮やかに目に映るかの様にも思われる(よく観ると、別にそんなに彩ってるという感じでもない風景なのだけど)。前述どおりの軽快さもあり、決して2時間が退屈だということも無いと思うが、ここに特段の話の内容がある訳では無いのもまた確定的な事実(その意味では私の嫌いな「2時間になっている必然性が感じられない」映画だとも言えるケド)。登場人物も率直に、揃って実にしょーも無いことばっかやってるし。 何と言うか、押しも押されもせぬ巨匠になったフェリーニは、いつもただただノホホンとやりたい放題やってるなあ、という印象が強い。それはそれで構わんが、にしても、もう少し格好をつけてキッチリカッチリしたこともやって欲しい、と思うのである。 グラディスカ役のマガリ・ノエルは、ずっと『8 1/2』のサンドラ・ミーロだと思って観てました(見事に勘違いでしたが)。こういう見た目が、フェリーニの趣味なのでしょうかね(まあ、子供の時からそうですよ、という様な内容の本作ではありますが)。 [DVD(字幕)] 7点(2020-08-01 15:35:01) |
1196. 怒りの荒野
《ネタバレ》 とある青年ガンマンの人間的成長を描くという西部劇。その彼をジュリアーノ・ジェンマが演じていますが、序盤~中盤の彼の甘さ・若さというのがイマイチ心地良く観てゆけなかったというか、率直にちょっと情けなさ過ぎ or 色々と甘すぎじゃない?という感じというか。他方、リー・ヴァン・クリーフも見た目とかは今作でも最高にシブいのですが、ジェンマのヌルさに引っ張られてキャラ造形にはややキレが無い、という様にも思われます(あくまでレオーネ作品と比べたら、ですが)。 中でも、序盤はジェンマにとっての恩人であるクリーフが、後半では極悪人になる、という部分の盛上げ・葛藤が弱い。それは、クリーフが蹂躙する街の人々というのが、序盤でジェンマを苛め抜いていたしょーもない輩共だ、というのが痛恨の要因だとも思われます。老保安官とジェンマの絆とかは序盤でもっと強調するべきだと思いますし、クリーフにも後半、もっと単純に悪辣なコトをさせちゃった方が良かった様にも思われます。 しかし、肝心のジェンマの成長ぶりについては、中盤でいっとき思い上がる様子なんかにも人間らしさを感じますし、終盤は、序盤あんなに観てられなかった彼がこんなにカッコ好くなるか、というぐらいクリーフにも負けじと立派なガンマンに大変貌してくれます。ガンマン十ヶ条というのも中々良かったですね(ラストでも上手く使っていると思いました)。 [DVD(字幕)] 7点(2020-08-01 00:50:55) |
1197. 降霊<TVM>(1999)
《ネタバレ》 比較的シンプルな話にも思えますが、こういう分かり易い因果応報で怨念な話って、如何にも日本のホラーという感じがして個人的にはかなり好みですね。その意味では、ありえへんホドに愚かしくて超絶に胸糞悪い主人公夫婦のキャラ設定も、やややり過ぎ感はありますが確実にその面では効果的だったと思います。 全体の薄暗くて陰湿な雰囲気の中に、それを壊さない様にそっと置いていかれるかの様な奥ゆかしい恐怖描写も、どれも中々に巧みで率直に結構怖かったです。役者の演技もどれもこの映画全体の雰囲気に対して適切なテンションで、監督はやはり腕があるなあ、と思いました(ラストの交霊の場面の草彅クン&きたろう親父なんかも、どっちも実に良い演技でしたよね)。 [DVD(邦画)] 7点(2020-07-31 00:14:27) |
1198. 男と女 人生最良の日々
《ネタバレ》 アヌーク・エーメ、トランティニャン、共に90歳近いにも関わらず、なんと若々しく、そして素敵な齢の重ね方をしていることか。これは決して「つくりもの」では無く、実際に2人がこーいう感じに「イカしてた」が故に撮ることになったという映画なのだろう。 永い人生を健気に生きていくと、いつしか種々の柵は全て融けて、本当に美しかったものだけが残る、とでもいう様な。それが真実の愛であり、その人のその人たる純粋な美しさ、なのであろうか。この2人の様に年齢を重ねてみたいものだと思う。 [映画館(字幕)] 8点(2020-07-30 21:10:43)(良:1票) |
1199. I am Sam アイ・アム・サム
《ネタバレ》 良きにせよ悪しきにせよ、色々と多々、思わせるトコロのある映画である。ネガティブな話をすれば、まずそもそも状況が不自然すぎないか。サムが6歳までルーシーを育てられたなら(このことがそもそも不自然なのかも知れないが)、それが7歳になると急に問題になるということにあまり説得力が感じられない。あと、結局私はどうしたって、サムにルーシーを単独で育てる能力があるとは最初から思えなかった(なので、物語の大半を占める裁判部分にはあまり感情移入していけなかった)。しかし、だからと言ってあの裁判は一体何なのか。サムの資質が問われているとは言え、社会的弱者に対してあれ程までに配慮に欠けた裁判が行われるというのがあり得るのか。もう一点、サムに親として不足があったとしても、親に必要なのは決して知的水準だけではあるまい。社会にはそれこそ親として相応しくない輩がゴロゴロしてるのにも関わらず、それを野放しにしてこんな茶番を行うことにどこまで正義があるのか、と、少し大人気ないことも考えてしまった。全体的に今作、やや荒唐無稽にも思われる箇所が目立ち、特にこの手のマジメな題材の映画としては少しばかりリアリティを欠き「過ぎる」ようにも思われる。 ただ同時に、優れた点も多々含まれる映画だとも思う。やはりまず演技の質の高さ。総じて主要キャストは誰しも素晴らしいが、特にショーン・ペンの演技は役づくりの部分で実に卓越した仕事だったと思う。その優れた演技の力もあって、サムがルーシーを愛しているという最も肝心な部分には、十分に観客の心を動かすだけの力があったし、私はその部分には十分に感動できた。 ただただ観ていてスッキリと気持ちがいい、とかいう映画では決してないが、そういう映画も偶にはイイかも、という意味ではややお勧めできる。 [インターネット(字幕)] 6点(2020-07-28 13:30:43) |
1200. サイレン FORBIDDEN SIREN
《ネタバレ》 元ネタのゲームとゆーのは『バイオハザード』『サイレントヒル』と並ぶ日本産ホラーゲームの世界的スーパーメジャーで、かつ、その「怖さ」とゆーのが最も「日本的」である作品だと思われる。他2作品は映画化もある程度成功しており(まあ『バイオ』の映画化はホラーじゃねーけど)、その意味でも今作に掛かる期待というのは、決して小さく無かった筈だと思われる(しかも今作は邦画な訳だし)。 元ネタというのは、禍々しく呪われた土地を舞台に、そこに住まう怪しげな人々が織りなす陰謀を解き明かしていくというミステリー要素を多分に含むものだったと思われる。翻ってこの映画では、その前半1時間近くを使って、とりあえずその不気味な舞台設定の方をある程度しっかり説明してくれる。そこで説明される設定自体(人魚伝説と不老不死の住民とやら)は、そこそこ元ネタの雰囲気も醸しているし、率直に別にそんなに悪くはない様にも感じられる。 しかし、そこから先はと言うと、これがひたすら怪物と化した住民が襲ってくるだけ、という単純極まりないホラーになってしまう。「何故」彼らが、しかも「このタイミングで」襲ってくるのか、という部分が全く謎であり、加えてどうもそれを説明する気もまるで無いよーな感じなのだ。なので正直、ホラー展開開始から最終盤までは、これは「お話が成立していない」と思って観ていた。 そこで、あの妄想オチだ。確かに「お話が成立していない」ことについてはこれで説明がつく。罪深いのは、ここで何から何まで全部妄想でしたあ(=舞台設定も全部ウソでしたあ)、としてしまったことだ。正直、これでは『SIREN』でも何でもないではないか。これは、元ネタの外皮を纏った極めてレベルの低いサバイバル・ホラーだ。何故「極めてレベルが低い」かと言えば、サバイバル・ホラーとしてすらもお話に整合性を付けることを放棄して妄想オチにしてしまっているからだ(加えて、何故そんな妄想を抱くに至ったかという理由の部分も極めていい加減だからだ)。これはリメイク以前の問題だし、リメイクとしても前述どおりリメイクと呼ぶのが憚られる様な有様だ。雑で手抜きで魂の入っていない、酷い映画だ。 ※実は、どうもラストに少し仕掛けがあるようなのだが、とにかく主人公の妄想設定がご都合主義すぎて、そういう仕掛けを施せる様な整合性が物語に存在しないので取って付け感が甚だしい。ラストでそんなこと言われても、残りほぼ全部のつくりの悪さは挽回できねーよ、という感じ。 例えそんな今作でも、多少なりとも「怖い」なら、ホラーとしては存在価値が無いとは言えない。しかし、これが全く怖くない。目から血ィ出した人間がワラワラ襲ってくるだけで、今どき何が怖いというのか。そのうち一人は何故かココリコ田中だし(お笑い芸人がやったらそれはコントでしょ、と)。そもそも、何で原作準拠の禍々しいクリーチャーを出そうという努力すらしないのか。原作の「日本的な」怖さを実現する、とかいう以前のレベルで、つくづく魂が込められてないのだよね。。 [インターネット(邦画)] 2点(2020-07-26 22:44:33) |