1261. パターソン
《ネタバレ》 いけませんねコレは。羨ましすぎるじゃないですか。平穏。ひたすらな平穏だからこそ、むしろ些細な出来事がみな愛おしく見えてゆく。この生き方には確かにひとつの真理が在る様に感じられるし、大袈裟かもしれませんが一種、人のあるべき最善の姿の様にも思われます(ちょっと大袈裟ですね)。それこそ、種々の宗教において定義される「隠者」の要素を、多分に、かつ現代的に持ち合わせている様な、とでも言いますでしょうか。 また、彼の仕事がバス運転手だというのも如何にも洒落込んでいるじゃあないですか。世の喧騒を離れて静謐に暮らしつつも、日々バスに乗っては降りていく数多の人々は必ず何かしらな葛藤を抱えて彼の傍を通り過ぎてゆく。そこから彼は確実にインスピレーションを拾い得て、自分の世界をより深化させていくのだと。 駄目ですね。人が皆この生き方を選べる訳ではないし、仮に自分はそれを選べたとして、選ぶべきなのか。人と人が欺き合い、出し抜き合う混沌の現実から逃避することは許されるのか。 精神もまた、老いるものだと思います。この映画から抗い難い魅力を感じ取れるように為ったということ自体が、自分の精神的老化を示しているように思えて仕方が無いのです。何とも複雑な気分にさせられる映画体験でしたね。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-06-14 02:39:23)(良:1票) |
1262. ハッピー・クリスマス
《ネタバレ》 いちおう、監督のジョー・スワンバーグという人は、いわゆるマンブルコアの主要人物の一人で、今作に先立つそのテイストの作品『ドリンキング・バディーズ』でもアナケン嬢を主要キャストに起用し、そこそこの評判を得たのだ。その意味では、今作は監督にとってもアナ嬢にとっても、謂わば「二匹目の泥鰌」なのだろうとも思われる。 そんな本作、ここにもしテーマ的なものが在るとしたら、それは「ダメ女のダメダメ生活」を描いたコメディ、ということにしかならないだろう。とにかく今作のアナ嬢は、頭は悪いわ常識は無いわ自分勝手なことは極まりないわで、見ように依ってはかなり不愉快な人物である。こんな彼女の有様からいかに魅力、は無理としても滑稽さを汲み取り、ユルーくノンビリ半笑いで観れるか、という作品だとも思われるが、個人的にはそれでもそこそこ面白く観ることが出来た(アナ嬢は、誤解を恐れずに言えば、賢しげなキャラよりこっちの方が絶対向いてると思う)。 マンブルコアならではの自然で面白げな会話シーンとしては、数回のガールズトーク(後半は猥談気味)に関しては、その中身についてどこがどういう理屈で面白いのかは男の私には皆目分からないが、とにかくなんか楽しそうだな、というのは重々伝わってくる。 [インターネット(字幕)] 6点(2020-06-14 00:40:57)(良:1票) |
1263. ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
《ネタバレ》 教養が無いのがホントに恥なのだが、『若草物語』って原作は未読で、このグレタ・ガーウィグ版を鑑賞するにあたって大急ぎでマーヴィン・ルロイ版を鑑賞しておいたのである。今作は、その最大の特徴が時系列・エピソードの複雑な入替え、ということもあり、事前に話の内容を理解しておいたことは結果的に大正解であった。 今作、この時系列の入替えにより、ダレる部分や不自然な部分をつくることなく巧みに各エピソードをスリム化し、そして削った分更にエピソードを追加して描写の厚みを増す、という高度な構成をとっている(まあ普通につくったら単なるリメイクに為りかねない訳だし)。その結果、全体的に極めて密度が高くてハイテンポな仕上りとなっており、やや長尺ながら正に一気に駆け抜けた、といった後味が得られた。描写の厚みにしても、特にジョー・ローリー・エイミーの関係性をより複雑に表現することに成功している点が印象的であった(これには、シアーシャは毎度の素晴らしさながら、同レベルと言ってよい程にフローレンス・ピューが出色だったことが大いに寄与している)。入替え自体の効果としても、特に、過去で生還したベスが直後の現在で身罷る、といったシーンなどは中々にテクニカルだなあと思った。 全体として非常に見応えのある優れた作品なのは確かだが、あくまで個人の好みとして言わせて貰えば、一点、ちょっとキャストが「ガチ」過ぎるかなあ、と思う。シアーシャ、エマ、フローレンスはいずれも主役級で、3人の誰でも今作でジョーを立派に務められるだろう。しかし一方でメグないしエイミーのイメージにドンピシャかというと、実は3人ともそーでもない様に思う。ジョーをシアーシャにするならば、費用対効果的にメグとエイミーは他2人でなくても良かったのではないか(前述どおりフローレンスは非常に良かったのだが「妹」感的には少し微妙で、やっぱエイミーのイメージではない様に思う)。その意味では、母親がローラ・ダーンで伯母がストリープ、というのもコッテリし過ぎで胸焼けするんじゃねーかとも思ったのだが、流石にこの2人は空気を読んで脇役に徹しており、正にベテランの円熟味といった風情であった。 非常にアグレッシブかつ精密極まる作風といい、寸分の隙も無いキャスティングといい、グレタは今作、ちょっと肩に力が入り過ぎなよーにも思える。貴女の才能に議論の余地が無いことは既に全世界が知っているのだから、次回作はもっと気楽に遊んでつくっても好いかもよ?と思う。 [映画館(字幕)] 8点(2020-06-13 19:54:22)(良:1票) |
1264. 若草物語(1949)
《ネタバレ》 つまりは「貧しい乍らも楽しい我が家」なおはなし(別にそこまで困窮してるという風にも見えないけど)。仲の良い姉妹が4人も居ればそれだけでも絶対に楽しいだろうし、そんな姉妹の恋と青春、成長と自立を描いてゆくシンプルな作品。非常に普遍的なテーマであるが故に古典ながらも感情移入は容易だと思うが、後半はだいぶん駆け足になっており、要点は伝わらなくもないが深みはハッキリ欠いている。若い女優さん達はいずれも魅力的で、特にジャネット・リーが非常にキュートだが(後の旦那との初対面のシーンは少しドキッとしました)、女性としての確かな成長を豊かに表現する主人公ジューン・アリソンも中々良い演技だったと思う。 ふと思うのは、本作が普遍的な価値を持つ作品だと言いつつも、これがどこまで「変わらぬ価値」であるのか、という点である。本作のように、自分の家族、あるいは親戚や隣人といった周囲の人々と心を通わせ合い、互いの成長を喜びとして暮らしていく、ということが、現代においてどこまで普遍的であるのか。『寅さん』を観ても思うことだが、私はこのような映画をただ過去の郷愁にしてしまうことがあってはならないと思っている。本当の意味で、広い世代に観られると良い、と感じられる作品だと思う。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-06-13 13:25:36)(良:2票) |
1265. キサラギ
《ネタバレ》 これも、日本でしか撮れない映画だと思う。『十二人の怒れる男』に代表される密室推理劇が、日本のアイドル文化との奇想天外な融合によって、ごくシリアスなサスペンス要素をそのままに、若干のコミカルさとそして独特な世界観を加味した非常にユニークな方向に飛躍的進化を遂げたものである。サスペンス部分の展開運び、特にドンデン返しが目まぐるしく連続する部分の出来は率直に極めてよく出来ており、まず本作は推理劇として十二分に観る価値のある仕上りなのは言うを待たない。 その上に、中盤以降、異常なまでのテンションの高さで激高し、泣き喚き、取っ組み合いを繰り広げる様には、『十二人の怒れる男』には無かった独特のコミカルさ+また別の次元のシリアスさが生まれているが、これは、推しの為なら命を捨てることも厭わない日本のドルオタが集まった為ればこそリアリティを以て成立する演出なのであり、ここにまずオリジナリティを多分に感じ取れるのである(と言って、実はほぼ全員アイドル本人の身内なんだけれども)。 そして彼らが辿り着いた誰をも傷つける事の無い結論、特に小栗旬との「繋がり」の部分には、至誠為ればファンの想いはきっとアイドルに届く、という全日本人男子の「夢」が描き込まれている(本当に、ファンを命よりも大切にするアイドル、というのも、やはり我等の見果てぬ夢なのであろう)。正直私、ここにはちょっとホロリとしてしまった。 確かに、ラスト12、3分は丸ごとオミットしても構わない位だが、それを差し引いてもよく出来ている。必見。 [DVD(邦画)] 9点(2020-06-13 00:17:23) |
1266. 追想(1956)
《ネタバレ》 『追想』or『追憶』という映画をまとめ観していたのだけど(都合5本ほど)、何故そのまま『アナスタシア』というタイトルにしなかったのか小一時間問い詰めたい本作、舞台の映画化だそうで、ラストの唐突さはそれに由来するものなのだろう。個人的には皇太后とアナスタシアの最初の邂逅が完全にクライマックスで、そこからラストまでは余禄、と言っても過言ではない様に思う。 しかし観直して思ったが、アナスタシアが本物だと分かるまでの展開はかなり緊迫感があって意外なほどに面白かったし、何より本作、個々の演技も非常に重厚。気品に加えて熱の入った演技が実に素晴らしいイングリッドもモチロンだが、前述のシーンで皇太后の心が解ける瞬間のヘレン・ヘイズも非常に良かった(言うまでもなく、威厳ある様子などもグッド)。ユル・ブリンナーのパリッとした風貌も実にカッコいい。古典だが素直に面白い映画だと思う。 [DVD(字幕)] 7点(2020-06-12 21:26:29)(良:1票) |
1267. オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
《ネタバレ》 ヴァンパイアの日常を描いた「夜の映画」。数百年を生き抜く不死身の彼らが、その蓄えた蘊蓄を芸術に昇華させている、という設定は中々面白いと思った。ただ、これも淡々とした会話劇であり、かつその変わった設定を越えてくる中身のようなものもさほど明確に存在する訳では無く、全体としてかなりダラっと長く感じられるのも事実。正直言って少々退屈であった。 アダム、イヴ、エヴァの3人は、吸血鬼的には同世代?なのだろうが演者の世代は各々で、その意味ではティルダ・スウィントンの若々しさが目に留まった(髪色・髪形がかなりイイ雰囲気だったからなよーにも思う)。ティルダの落ち着いた雰囲気に対すべきなミア・ワシコウスカも、抑制しつつも程良く奔放・天真爛漫な演技が映画の良いアクセントになっていた。この姉妹、表情のつくり方が一瞬凄く似てるシーンが在った様な気がするんですけど、後で実際の顔立ちを見比べたら全然似てませんでした。。 [DVD(字幕)] 5点(2020-06-12 18:14:56) |
1268. 君の名前で僕を呼んで
《ネタバレ》 夏の北イタリアの透き通った情景は非常に美しく、観ているだけでも気持ち好い気分になれるホド。そんな中に繰り広げられる情熱の限りを注ぎ込んだかの様な濃厚な恋愛事象もまた、それでいて実に美しく眼に映る。ただそれは、確実にどこかに真実めいたものを秘めつつも、永遠に続くことを希われた様なものであったか、と言われればもっと淡く、儚いものであった様にも思われる。 どちらかと言えば私は、恋愛映画というよりは青春映画として本作を解釈する方が(あくまで個人的には)納得が深い様に思う。その意味では、本能の目覚め、種々の葛藤、情熱と痛み、等々、ティモシー・シャラメの演技はそのどれもを素晴らしく表現できていたと思う。恋愛要素について、ちょっと情熱的過ぎてコアな部分の描写に少しだけエグみを感じてしまった、ということと、映画としても全体的に少し尺を取り過ぎている様に感じたこと、2点を踏まえて、一応のこの評価とさせていただきたい。 [DVD(字幕)] 6点(2020-06-12 14:06:42) |
1269. テキサスの五人の仲間
《ネタバレ》 必要なカネを借り出すための手段の意外さ、事の真相、巧みなダブルミーニングになっている優れた邦題など、種々の「トリック」の質はどれもまずまず素晴らしく、その部分の爽快さは間違い無く感じられる作品だと思う。ただ、やはりこのルールではカネをより多く積める者が勝つのであって、強力すぎる外ウマを勝負の場に引き込んだ時点で決着は付いているのだし、だから根本的な話として、本作はギャンブルを描いている様で実はギャンブルにはなっていない、とも言える。その意味では、トリックは面白かったが(ギャンブルとして観ていた私には)少々肩透かしな部分があった、とも思う。ラスト、ドンデン返しが明かされた後の描写も少しだけしつこくも感じられた。 とは言え、前述どおり仕掛けのクオリティは優れているし、緊迫感もテンポも中々で一気に観れるのもグッド。あと、前半のヘンリー・フォンダの情けないギャンブル狂の芝居(実はホントに芝居な)も、後から考えると結構に味わい深かった様にも思う。まずまず。 [DVD(字幕)] 6点(2020-06-11 23:59:38) |
1270. レスラー
《ネタバレ》 この映画に描かれるものは、主人公の過去の栄光にしても、凄惨なプロレスシーンにしても、悲哀に満ちた現在の状況にしても、とにかく非常にリアルなものに感じられた、というのが第一の感想(ドキュメンタリチックな撮り方も効果的だったと思う)。主人公の人生にそのリアリティがある分、例え身体が限界を迎えつつも彼の人生はこう生きるしか無いのだ、ということも、正に重く重く理解できた、のだが… だからこそ、その自己破壊的な生き方を乗り越えて未来を生きていくランディが観たかった、というか。正直、前半の出来があまりにも良かったせいで、ちょっと感情移入しすぎたのかも知れない。このラストは、私には少し辛過ぎた。 ミッキー・ロークとマリサ・トメイの素晴らしく魅力ある演技を含めて、極めて出来の良い映画だと思うが、上記の理由から(本来の点数から1点引いて)この評価とさせていただきたい。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-06-10 22:18:37) |
1271. ストレンジャー・ザン・パラダイス
《ネタバレ》 極めて少人数の編成、かつ基本的に普通の室内・車内ばかりで展開される会話劇で(数少ない屋外のシーンも人気の無いそこら辺が殆ど、という)、見るからに低予算である。その会話にしても、内容的にも文字数的にもこれもホントに何の変哲・含蓄も無いというか、何とも省エネな映画だと思う。 しかし、そんな中に慎み深くも表出される登場人物の感情の錯綜が率直に非常に面白い。出色は何と言ってもエヴァで、自分が「可愛い」ことを骨の髄まで知り尽くしているが為、自分が男に対しては絶対的に優位に立てることを完全に理解している、という謂わば「猫」。やはり本作、まずドレスの件が実に味わい深く感じられるし、あと面白かったのが4人が居並んだ映画館のシーン。「その並びなの?」しかしエディとウィリーは明らかにそのつもりなので、これは必然なのである。誰もなにも喋らないが、その頭上に垣間見える火花が出るほどの感情の錯綜がこれも面白い(エヴァは多分なんも考えてないだろうけど)。終盤はテンポが上がってかなりドタバタしているが、ここも笑えた(「予感」の話とかもとても好み)。 様々な無駄を削ぎ落すことで旨味だけを際立たせた様な、真に監督の力量が知れる映画だと思う。一級品の上質なコメディ。 [DVD(字幕)] 8点(2020-06-08 00:43:10) |
1272. 血を吸う薔薇
《ネタバレ》 第三弾は舞台が学園(女子大)ということで若い女の子が複数出てくるが、揃ってかなり陰惨な最期を迎えるという点でシリーズの中では序盤から比較的ハードな展開(田中邦衛もイイ味出しているが、中盤で殺されてフェードアウトしてしまうし)。また、特にラスト付近では敵方が矢鱈と腕力に頼って攻めてくるのが少ししつっこく、観ていて飽きるし、そもそも岸田森の吸血鬼の優れた風情ともややアンマッチな様に思える。数百年を生き抜く不死身の魔性、とかの設定や、驚かし系のホラー的カメラワークなどはまずまずなのだが、中盤から終盤にかけての雰囲気の盛り上げ方だとか、前述のアクションの長さだとか、少し緩急の配分に改善できる点が見られる様に思う。やや残念作気味。 [インターネット(邦画)] 4点(2020-06-08 00:21:50) |
1273. デッド・ドント・ダイ
《ネタバレ》 完全にアイデア倒れな映画。ジム・ジャームッシュwithゾンビ、というその魅力は大いに認めるが、今作はそこから一歩たりとも前に進んでおらず、何が言いたいのかも伝わらないし、具体的にゾンビ+ジャームッシュでどんなシーンを撮りたかったのかもイマイチ分かんないしで、これじゃあジャームッシュファンにとっては至極微妙なジャームッシュ映画、ゾンビファンにとっては最早スカタンでしかない。 ネタの枯渇、というゾンビ映画側の事情と、言っても未だにキャッチーなその題材特性からしても、今後もこの手の企画はワンサカ登場し続けるであろう。しかし、ゾンビというのは食べるラー油では無いのである。何に入れても美味しくなるなどとゆーことは無いのであって、どういう味に纏めるのかをもう少し考えてから使って欲しい。 ひとり、ティルダ・スウィントンは奇妙なそのキャラクターの表現も中々に優れていたが、こんな下らない映画を撮るために明らかに刀の取扱いを相当に訓練した様子が垣間見えて、やっぱ一流は違うなと思った。もうひとり、ダイナーの店員役で『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のエスター・バリントが出てたんですね(相変わらずなんか可愛かったです)。 [映画館(字幕)] 4点(2020-06-07 18:15:11) |
1274. 幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形
《ネタバレ》 「血を吸う」シリーズの嚆矢だが、別に血を吸う訳ではなく、殺すだけである。犯人も、人形ではなく人形みたいな娘(のゾンビ?)だし、幽霊も出て来ないので幽霊屋敷でもない(かなりいい加減なタイトルの付け方である)。話の内容も非常にコンパクトな尺そのままという感じのお手軽だし、意外な、とゆーよりは取って付けが過ぎる無理繰りな黒幕も含めて、よく言って可も無く不可も無く程度の出来かと思う。 ただ、あくまでホラーの小品ながら役者は地味にちゃんとした人で固めているうえ、個々の演技も中々に上質であった。まず主演の松尾嘉代は、美形というよりは愛嬌といった顔立ちながら恐怖の表情が中々に真に迫っており恐怖映画の主役としては上々。母親役の南風洋子も戦前風の瀟洒な女性を雰囲気たっぷりに演じて陰鬱なムードを盛り上げる。実は黒幕の医師を演じた宇佐美淳は、中盤の怪談じみた語りのシーンがなんかイイ味出してるなと思ったらこれがラスボスで、見た目にも貫禄と(かつての二枚目を彷彿とさせる)品を兼ね備えていてグッド。下男のジジイ役の高品格も何とも不気味な雰囲気でこれが結構怖い(彼は次作にも登場しますね)。 何より、肝心の娘役の小林夕岐子は(どっかで見た顔だと思ったら『ウルトラセブン』に出てたんですね)確かに日本風の人形にも見える美貌に加えて、黄色い目をしてニタリと笑う顔がかなり不気味で実に素晴らしい。総じて、日本のゴシック・ホラーと言うべきレトロでジットリ湿った雰囲気が、現代に至って観たときに意外に優れたホラーの質感を醸し出しており、個人的にはとても好印象。地味に結構オススメ。 [インターネット(邦画)] 6点(2020-06-07 01:41:11) |
1275. アップグレード
《ネタバレ》 SFアクションの佳作。アクション面は少し『寄生獣』の様な質感と言うか、人間離れしたスマートな格闘が中々に優れたSF感を醸しており(少し『マトリックス』ぽいけどそれより更にAI的、とでも言うか)、かつ切れ味も上々でかなり面白い。 SF的ストーリー面でも、意外さを狙ったラストは個人的にはそこそこ意表を突いてもらえた感じで面白かった。ただ確かに、ステムがエロンを支配しているという状況の不自然さや、ラストのあんな差し迫った場面でグレイの支配を完全に奪えるなら回り諄いことせずに最初から人格奪っちゃえばいいジャン!とか、ツッコもうと思えば盛大にツッコめるとも言える。そもそも、もう少し尺を取ってキチンとつくり込んだ方がSFとしてはクオリティを改善できた様にも思う。 ただ本作は、そこら辺の整合性をある点で犠牲にしてもスピード感と勢いで乗り切ってしまおう、という映画に思える。そしてその意味では、その「狙い」は十分に成功していると感じる。結果的にサックリ観れるし、観て損することも決して無いかと。普通にオススメ。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-06-06 23:14:08) |
1276. タッカー
《ネタバレ》 カネを儲けたい!だから良いモノを創る。至極当然ながら大事なことだと思うし、純粋にそれを夢みるタッカーは、相当に破天荒・エキセントリックかつ少しばかり胡散臭い人物ながらも、今作は彼を全力で応援しながら観れる映画になっていると思う。翻って、ただ自分たちの権力を守ることしか考えない敵方には率直に反吐が出そうな程の不快感を覚えるのだし、結局この映画、最終的にタッカーが勝利する訳では無いのが最初から分かっている(結果的には一太刀浴びせ返すとは言え)、という意味で、最後に笑うだろう敵方がのさばっている描写の感じが少し不快に過ぎる、かも知れないと思ったりする(私は正直、そこら辺りは観ていてかなりテンションが下がってしまった)。 しかし前述どおり、最後は見事に反撃が決まってそのまま終幕、という点では痛快だし、何より更に痛快なのは、トラブルも妨害もものともせず、細かいことも気にせずにひたすら無頓着に目標に向かって猪突猛進突っ走るタッカーの推進力の凄まじさである。彼同様、奥さんも子供も実にあっけらかんと暢気でポジティブ(似たもの夫婦とDNAの為せる業か)、仲間も(ランドー以外は)実に楽しそうだし、映画自体もノリの良い音楽&優れたテンポで観ていて相当に楽しかった。なにかにチャレンジしようと思ってる人には、とてもオススメな良作。 [映画館(字幕)] 8点(2020-06-06 15:14:04) |
1277. ルース・エドガー
《ネタバレ》 まずまず込み入った話であると同時に、100%の明確な真相が描かれるということも無い、少しモヤっと感が残る様な作品である。ただ、幾つかの状況証拠と、そして母親が隠した花火が無くなっていたという点を鑑みて、一連の事件はルースがウィルソン教師を陥れるために行ったものだ、という前提で話を進めたい(とは言え、だとしてもどこからどこまでが企みであったのかという点に関しては、私もはっきりとは分からなかった部分が多いのだが)。 しかし、そういった些末な部分が不明瞭なこと以上に、とにかく本作、ルースという人間が何を考えているのか、彼が何者なのか、というのが全くと言ってよい程に明らかにならないのがより深刻なのである。恐らく、彼が真実に感情を吐露しているのは終盤のウィルソンとのやり取りくらいで、他は、これも終盤の母親に魚を贈るシーンでさえ、彼が実際に何を意図しているのかなど分かったものではない。彼が為した所業、そして最終的に勝ち得た状況を鑑みるに、率直に本作、確かにかなり「恐ろしい」映画であるとも言える様に思う。 そんな本作だが、これが完全なサイコ・ホラーになってはいないのは、むしろ彼の周囲の大人達が率直に極めて「醜い」ということにある様に感じられる(それがエクスキューズになっている、というか)。所詮は彼を「貰い子」としか見ていない父親も相当に酷いと思ったが、私がより問題に感じるのは母親の方である。終盤、彼に確信的な疑いを抱きつつも、彼の言い分を信じる様に見せかけて、彼女は問題をただ棚上げしてしまう。もし彼が犯罪を犯したのならば、それを社会に罰させるかどうかは家族として考慮の余地があるかも知れないが、少なくとも真実を最後まで追求するのが親としての最低限の義務ではなかったか。そのものズバリ、彼を自分の考える「箱」に押し込んでいることを隠そうともしない(問題外な)ウィルソン教師を含めて、彼の周囲の大人に共通するのは、彼が真にどういう人間であるかを理解・受容しようとしないことだ。だから彼が思いの丈をウィルソンにぶちまけるシーンは、実は私が本作で唯一感情移入することが出来た場面だと言える。 一見は、アメリカにおける黒人差別をテーマとするごくごく普通に社会派な作品にも見えるのだが、実は本作のテーマははっきりと、より幾らかの「普遍性」を含む様に思う。その意味では類似する内容の他の作品よりも、少し高度でやや文学的とも言える様な優れた見応えがあったかとも思われる(もちろん、単純にサスペンスとして結構よく出来ている作品だということも重々あるのだけれど)。 [映画館(字幕)] 9点(2020-06-05 23:19:55)(良:1票) |
1278. 別離(2011)
《ネタバレ》 2組の夫婦、計4人のうち、誰か一人でももう少し思慮深く(肝心の場面でより適切に)行動していれば、起こり得なかった悲劇だと思われる。しかし、誰もがある意味スネに瑕持つ身であるが故に(かつ誰もがそれぞれ言い分・言い訳も抱えているという複雑ぶり)、却って皆が冷静になる機会を失い、傷口を致命的に広げてしまった、という輪をかけて悲惨な話である。とは言え、感情に任せて妊婦に手荒な真似を働くようなナデルと、働きもせず身重の妻に食い扶持を稼がせていたというラジエーの旦那は、私個人としては到底許し難い(結局、私はこの話、忍耐強く敬虔なラジエーに一番感情移入して観ていたということだろう)。 メインの内容は確実に普遍的な価値を有する作品だと言えるが、で在りながら、随所に描き込まれるイラン社会の描写もまた非常に興味深い。個人的に面白かったのは、弁護士も何も出て来ずに双方が言いたいことを言いたいだけまくしたて、それを判事がジャッジするという凄まじい裁判風景である(私が判事なら、3日で発狂すると思う)。 本作のラスト、結論を出さない描写については、この話、全員が敗者だ、という点を強調したかったのではないかと感じた。それは結局、両親の離婚を止められなかった娘も含めて、である(中盤、この娘に嘘をつかせたのも、娘までをもこの地獄巡りの当事者に引きずり込むための仕掛けだった、と勘繰るのは、やや穿ち過ぎであろうか)。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-06-04 00:37:11) |
1279. 呪いの館 血を吸う眼
《ネタバレ》 とにかく、吸血鬼の岸田森の迫力たるや、その一点に尽きる作品である。今作の吸血鬼は古典的な設定どおり血を吸った人間を眷属として従えることができるという凶悪な能力なのだが、その割にはやってることがまどろっこしく、ごく終盤まであまり展開がヒートアップせず少し平坦だとも言える。しかし、ラスト付近は流石にやや盛り上がるし、オーラスの断末魔などは実におぞましく、意外な程に見応えがあった。岸田森の登場シーン(+αとして、どちらもかなり可愛い犠牲者姉妹の2人)を目当てに観てゆけば、決して損はしないだろう。 [インターネット(邦画)] 6点(2020-06-02 23:25:42) |
1280. エスケープ・ルーム(2019)
《ネタバレ》 謎の招待状で集められた6人の男女、ミッションはただひとつ「部屋からの脱出」、失敗すれば、死… というのはまま月並な(どっかで聞いたことあるとも言える)一種のテンプレートだと思うが、各部屋の仕掛け・ギミックはそこそこ面白いし(逆さ吊りビリヤード部屋は率直に色々と中々グッド)、全編通してコンパクトにテンポ良く纏められて緊迫感・スリルはかなり濃密、映画アトラクションなジェットコースター感を楽しめたと思う。B級っぽいが全体のつくりもまずまずソリッドで、チープさはほぼ感じない。いくらでも続編がつくれそうな(つくりたそうな)感じだが、ホントにできて来たらまた観ちゃうかも。 [映画館(字幕)] 7点(2020-06-02 12:45:25) |