1321. テレフォン
《ネタバレ》 ジョン・フランケンハイマー監督作「影なき狙撃者」を思い出すプロットですが、「影なき狙撃者」のような重苦しさはなく、その分緊張感は薄いですが見やすさのあるスパイ・サスペンスです。 アメリカに任務のため乗り込んだKGB少佐(ブロンソン)と手引きするKGBエージェントのアメリカ人の女。この女の背後にあるものも凝っていますが、男と女だけにこの結末は予測できる。この女の背後と真の任務もあり、この結末に向けての2人の葛藤や心理戦があるはずですが、そこが抜け落ちて何事も無かったかのように仲良くラストを迎えるのが惜しい。 ブロンソンvsドナルド・プレザンスの攻防戦も薄い。もっと一刻を争うサスペンスに出来たはずだと思うし、ドナルド・プレザンス演じるテロを誘発する男の冷酷さ、あるいは悲哀などの思いをもうちょっと感じさせて欲しかったです。 [DVD(字幕)] 4点(2011-09-21 20:10:13) |
1322. 恋愛小説家
《ネタバレ》 偏屈で人間嫌いの男が次第に優しさや素直さを取り戻していくまでを演じるジャック・ニコルソンの名演技を堪能しました。 冒頭からこの男の偏屈さをたっぷりと見せる。隣人に悪態をつき、人との触れ合いを避ける事の象徴のような外食でのマイフォーク・マイナイフに人混みの中「私に触るな!」・・・。しかし様々な事情を抱えた人と触れ合うことで、本来誰の心の中にもある素直な部分や優しさを取り戻していく。人間の優しさを感じさせてくれるいい映画でした。 人生の上手くいっていない一時期を生きる隣人の画家、ニコルソンが密かに思いを寄せるキャロル、更に冒頭から最後まで隣人の飼っている犬までも見事に登場人物?として機能しています。この3人が互いに影響しあい、男同士の友情や男と女の愛が芽生えるまでを見事に描いた、ブルックス監督らしい落ち着いた味わいのあるコメディです。 2時間越えの長い作品ですが、後半のロードムービーへの展開も作品に動きがついて良かった。本作でニコルソンとアカデミー賞をダブル受賞することになるヘレン・ハントもまた良かった。この人の20代の頃の作品も見ていますが、30代、そして今40代と女優としての魅力が次第に増しているように思います。 [DVD(字幕)] 8点(2011-09-19 19:40:02)(良:1票) |
1323. カリフォルニア・ドールス
成功を夢見て奮闘する、スマートでも器用でもない下積みの人間模様。これはかなり自分好みのジャンルの作品。かなりツボにはまりました。本作はアルドリッチ監督の遺作になるんですね。男臭い反骨の映画職人というイメージの人ですが、最後の作品は女子プロタッグチームの2人に、中年マネージャー、3人の戦友がオンボロ車で町から町へ、場末のリングを転戦し、辛苦の果てにベルトを掴むまでの戦いを描いた奮闘記。これもアルドリッチらしい作品じゃないかと思います。 序盤から3人が宿賃やガソリン代にも苦労する描写がかなり長く続きますが、3人の戦友ぶりがいいし、ピーター・フォークが飽きさせない。哀愁が漂いつつも人間味あふれる中年マネージャー。このキャラにピーター・フォークが見事にはまっていました。よくぞコロンボ警部をこの役に持ってきたことと思います。勿論、ピーター・フォークとの掛け合いも、試合も、ドールズの2人も素晴らしかった! [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-09-18 16:21:56) |
1324. ジョンとメリー
ダスティン・ホフマンとミア・ファロー。2人ともメジャーになってまだ間が無い頃の作品。しかしこの2人、本当に演技が上手いと思う。ミア・ファローは好きな女優さんですが、本作は特に彼女の可愛らしさがよく出ています。回想シーンを除くとほとんどマンションの中の2人芝居の作品。演じる役は共感しづらいキャラであり、面白い話でもないですが、心の声を台詞にするという手法が作品に程よいユーモアをもたらせています。回想シーンが多用されますが、心の機微を表現する室内の2人の演技をもっと見ていたかったという思いもあります。 [DVD(字幕)] 6点(2011-09-18 16:12:52) |
1325. 雨に濡れた欲情
《ネタバレ》 濃厚なメロドラマを思わせるような邦題ですが、全然そういう映画ではありませんでした。アメリカ軍が駐留する南海の小島に船の乗り継ぎのため滞在する事になったあまりにも自由奔放な女セイディ(リタ・ヘイワース)が島にもたらす騒動を描いた作品。 前半は若い女のいない島にこんなにイイ女がやってきたものだから兵隊達は大騒ぎ。そんな様子をコミカルに見せますが、真っ赤なドレスで酒場で歌い踊るリタ・ヘイワースが魅せてくれます。 ここまでは楽しいのですが、島の風紀が乱れる」とそんな様子を苦々しく見つめる神父が登場してから雰囲気が一変。セイディと神父の対決、と思いきや、セイディが改心。と思いきや、今度は神父が豹変。その果てに極端な行動に出る。 登場人物の心変わりに何で?と思うことが多く、最後は何事もなかったようにあっけらかんと明るいハッピーエンド。これでいいのかな?この頃のリタの作品は初めて見たので少しお年は感じましたが、それでもやっぱり彼女が魅力的だったからこれでもいいのかな? [DVD(字幕)] 4点(2011-09-18 16:05:28) |
1326. 花様年華
《ネタバレ》 トニー・レオンとマギー・チャン。見るからに狭く暑苦しいアパートに似つかわしくない2人。互いの妻と夫の顔を徹底的に見せない。それぞれの住む部屋の間取りも見せない。 しかし狭い廊下で何度となくすれ違う2人が印象的です。「最近ご主人を見かけないね」「海外に出張よ」「最近奥さんを見かけないわね」「親の看病で実家にいる」互いの結婚相手の不倫、孤独ということ以外私生活が見えない。赤みがかったクリストファー・ドイルの映像の中の2人は熱っぽくもありますが、一線を踏み越えない2人の関係にはリアリティも感じられます。 暗がりで一人ふかす煙草、一人の夕食、人気の無い夜のオフィスの残業、雨の夜。描かれる孤独な人間模様に、平凡な生活の中にある幸せについて考えてしまった。ただ、まったりとした展開から急激に時の流れが加速する終盤からラストは色んな事を簡略化しすぎている気がします。 [DVD(字幕)] 7点(2011-09-15 20:20:28) |
1327. 幸せの始まりは
これまでにも自身で脚本を手掛け良質の人間ドラマを撮ってきたジェームズ・L・ブルックスの久々の新作。期待していたんですがねえ・・・。この三角関係、登場人物が出揃った時点で勝負はついている物語ですが、ラブコメというジャンルにおいてそれはよくある事なので問題は無い。その見えている結論に向けて共感できる筋書き、展開があればそれでいいと思うし、ヒロインは見ていて素直に応援できるようなキャラであればいいのですが、本作は残念ながらそういうものが感じられませんでした。ブルックスはそうした展開の組み立てや、登場人物の心の機微を描き出していくのが巧い人なんですが、本作は脚本にもそんな彼らしさが感じられませんでした。 [DVD(吹替)] 4点(2011-09-11 17:11:14) |
1328. 踊る結婚式
《ネタバレ》 フレッド・アステアはジンジャー・ロジャースとのコンビ時代、「艦隊を追って」では水兵さん、伝記モノ「カッスル夫妻」では空軍に、そして本作では陸軍に入隊します。アステアの全盛期の時代は戦争の時代だったんだな、と改めて思わされます。 本作のアステアのパートナーはリタ・ヘイワース。彼女も筋金入りのダンサー。やはりリタ・ヘイワースといえばミュージカル!ですね。アステアとは本作の翌年にもコンビを組んでいます。アステアのパートナーと言えばジンジャー・ロジャースの名が真っ先に出てきますが、リタ・ヘイワースも華があるしやはりスターのオーラがある人です。 お話の方は基本的にこれまでの作品とやってることは同じです。途中はリタ・ヘイワースに誤解されつつも最後は結ばれハッピーエンド。全く邦題の通りですがそれでもいい。アステアのコミカルな演技に素晴らしいダンスと歌、美しいパートナーとの華麗なダンスを見ることが出来れば・・・。ラストの”踊る結婚式”はもっとたっぷりと見せて欲しかったですが、それでもアステアが好きな方にはまず楽しんでいただける映画です。 [DVD(字幕)] 6点(2011-09-11 00:38:07)(良:1票) |
1329. 正義のゆくえ/I.C.E.特別捜査官
9.11以降、不法移民・不法就労の取締りが厳しくなったというアメリカ。このテーマに取り組んだ作品としては「扉をたたく人」が記憶に新しい。 アメリカへの扉を開けようとする人の人間ドラマとしては登場人物を絞ってアメリカ人と不法移民の心の交流を描いた「扉をたたく人」の方が僕は好きです。一方本作はグリーンカード取得に絡む不正や、テロ対策の問題点、人権、宗教や犯罪の問題を絡め、心温まるエピソードの挿入は排しシリアスに多角的にこの問題に挑もうとしています。 主演ハリソンがアメリカへの扉を開けようとする人々の群像劇の中でうまく機能していなかったことが惜しいですが、この問題の根深さを伝えようとする作者の意思は十分に伝わってくる作品です。 [DVD(吹替)] 6点(2011-09-09 23:39:46)(良:1票) |
1330. ロスト・イン・トランスレーション
今年の春公開されたソフィア・コッポラの最新作とは状況は異なるが、寂しさの中出会った、或いは再会した2人が次第に心を通わせていくといった共通点のある作品。 言葉が通じない異国の地。普段の生活より時間的なゆとりもある。疎外感や寂しさもあるが、そんな時だからこそ冷静に普段の自分の生活や人生を見つめることができるというのはあると思う。僕たちの知っている東京ではなく、外人の目に映るTOKYOが面白かったけど、やはり日本人としてはツッコミ所や違和感がありすぎました。 どうでもいい話ですが、折角ビル・マーレイが日本に来てるんだから、出演したトーク番組がマシュー南のベストヒットTVというのはショボすぎませんか?「徹子の部屋」か、無理なら「いいとも!」くらいには出してあげましょうよ! [DVD(字幕)] 5点(2011-09-09 23:31:37) |
1331. 黄色い星の子供たち
《ネタバレ》 史実に基づくこの題材のヨーロッパ映画だけに見る前から覚悟はしていましたが、重い映画でした。しかし、いい映画でした。見てよかったと思います。 妥協せず歴史を伝えようという意思が感じられる厳しい演出だったと思います。それは本来は市民を守るべき存在である筈のフランス警察の描写ついても。少しずつ顔や服が汚れていき、やつれていく。列車に乗せられ、二度と戻ってこなかった人々を演じた全ての俳優、子どもたちが素晴らしい演技でした。そして以前から綺麗な女優さんだと思っていましたが、メラニー・ロラン、いい女優さんだと思いました。 フランス国内では全ての人が知っているのであろう、ナチス占領下の仏国内で1942年に行われた1万人以上に上るユダヤ人の一斉検挙。そのほとんどが生還できなかったという。僕は本作を通してこの史実を知り、記憶に刻み込まれることになった。これも映画の持つ大きなチカラなんだと思う。 [映画館(字幕)] 9点(2011-09-08 18:28:17)(良:1票) |
1332. テルマ&ルイーズ
《ネタバレ》 途中は現代の女2人版「俺たちに明日はない」の”ボニー&クライド”のようであり、最後は「明日に向って撃て!」の”ブッチ&サンダンス”のようでしたね。そして本作の2人は”テルマ&ルイーズ”。 しかし本作の2人はこれらのようにならず者じゃないし気晴らしのバカンスの旅に出ただけなのになあ・・・。その旅で前向きに感情を爆発させ、いい出会いもあって、もっと心の底から笑い合って開放されていく2人の姿が見たかった。残念ながらまだまだ人生を再出発できる2人を無理やり破滅に向わせているだけに感じました。 ロードムービーとしての出来は旅のテンポもよく上手くいっていたし、主演の2人も、ハーヴェイ・カイテルの人情刑事ぶりも非常によかった。強烈に印象に残るラストでしたがやりきれない思いだけが残りました・・・。どうしてもニューシネマが撮りたかったのなら仕方がないですけどね。 [DVD(字幕)] 5点(2011-09-06 00:18:48) |
1333. オンリー・ユー(1994)
《ネタバレ》 ノーマン・ジュイソンがこんな甘~いラブコメ撮ってたんですねえ・・・。 アメリカからイタリアにやって来た女性の前に誰もがイメージする典型的イタリア男が登場のお約束の展開。ついでに空港の職員も待たされるパイロットもみ~んないい人でしたが、こういうのは好きだなあ。 イタリアでの二転三転する”デーモンを探せ!”も楽しかったです。ラブコメの主人公は絶対幸せになれなければならないのですが、その代わりに誰かが可哀相なことになって複雑な思いが残るよりは、ヒネリとかは無くていいのでみんな幸せハッピーエンドがいいんじゃないでしょうか。 よって本作の場合はお姉さんとご主人の現実的だけど幸せそうなラストの姿の方に「良かったね」と感じてしまうのでした。 [DVD(吹替)] 6点(2011-09-04 18:18:14) |
1334. ゾンビランド
いい年したオジサンのくせにやたら怖がりだし血を見るのも苦手な僕はホラーやゾンビ映画の類は怖くて見ることが出来ません。でも、何となく本作は面白そうだと思い、ゾンビファンの皆さんから見れば物足りなさを感じるかもしれない本作ですら、借りてきたDVDを意を決して恐る恐るプレーヤーに挿入・・・。 前置きが長くなりましたが、楽しかったです。僕はシートベルトが嫌いで何度もシートベルト違反で捕まってますが、いつ何があるか分からないし、ちゃんとシートベルトしめるか・・・。と思わせてくれたことにも感謝?でしょうか。 ビル・マーレイを出す大技からちょっとした台詞の小技に至るまで笑いドコロ十分なところもコメディ好きにはたまらないです。特に僕が大好きなマーレイさん!死んじゃったのに「ツボに入っちゃった」と笑ってしまった姉。これ、分かるなあ・・・。マーレイさんらしいギャグのような死にザマ。最高でした。あっという間に出番は終わりましたがマーレイさんも満足だったんじゃないかな。アイゼンバーグがチラッとフェイスブックを語るところも笑ってしまいました。 人と親しくしたくないから名前を名乗りたくないと言うタラハシー、「人を信用するな」という姉妹、そして数々の己に課した誓いで生き抜いてきた人間嫌いのコロンバス。人との関わりを避けていた彼らが誰もいなくなってしまった世界で人の温もりや人は一人では生きてはいけないことに気付いていくストーリーもいい。愛する人を守るためにストイックに守ってきた誓いを破り、ラストで人間臭さを見せてくれたコロンバス。素敵じゃないか。 [DVD(吹替)] 8点(2011-09-03 10:50:14)(良:3票) |
1335. ボン・ヴォヤージュ
《ネタバレ》 ナチス進攻によるパリ陥落を背景に描かれる2つのドラマ。殺人犯と殺人犯に間違われた男、恋人と愛人とをユーモアを交えて見せるドラマと、「ある物」をナチスの手から守りイギリスへ脱出しなければならない老教授一行のシリアスなドラマ。この2つのドラマを登場人物が行き来する。事情は色々だし共感できる生き方ばかりでもないですが、共通するのは自由への脱出口を求める人々のドラマということでしょうか。作品としては2つのドラマを行ったり来たりで忙しすぎる気がするけど、ナチスの抑圧の時代を生きる様々な人間模様を重くならずに2時間以内によく纏めた作品だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-09-01 23:40:19) |
1336. シャンハイ(2010)
《ネタバレ》 日米中の豪華競演の中でも僕はコン・リーがお目当てでしたが、この人の年齢と共に増す妖艶さは一体何なのでしょか・・・?と言うほど本作でもお綺麗で、胸元に脚に・・・と衣装も素敵でした。 メインとなる太平洋戦争開戦前夜の上海で繰り広げられる、日本人、アメリカ人、中国人が絡み合うロマンスとミステリ&サスペンスは様々な関係が描かれるもどの関係も結局深みが感じられず、特に意外な真相のようなものも無かった。特にジョン・キューザック演じるポール、コン・リー演じるアンナ、謙さん演じるタナカのそれぞれと絡み合う、ある意味本作のキーともなるべきスミコの扱いが薄く、立ち位置が不明瞭すぎた。終盤に再会するタナカとの関係もそれまでが説明不足なので謎のまま終わってしまいました。 しかし当時の上海の下町や、華やかな西洋の租界を舞台に抗日組織、日本軍、西洋の諜報機関が入り混じり暗躍する太平洋戦争開戦前夜の混沌とした上海の雰囲気や、豪華キャストの熱き好演は見応えのある作品です。 [映画館(字幕)] 5点(2011-09-01 17:40:56) |
1337. ロング・グッドバイ
数々の名優が演じてきたフィリップ・マーロウですが、エリオット・グールドのマーロウもいいですねえ・・・。見事に本作のマーロウ像を提示する、深夜にキャットフードを買いに行くユーモアを交えた冒頭が素晴らしく、夜の街に、煙草に酒、そして音楽。アルトマンが徹底的に気だるい世界観を演出する。そこにくわえ煙草のエリオット・グールドのマーロウの佇まいがピタリとはまる。事件に関係する男を演じたマーク・ライデル(結構お気に入りの監督さんでもあります)やスターリング・ヘイドンのアクの強い存在感も印象に残ります。一般的なハードボイルドのイメージとは一線を画し、最後の”ハリウッド万歳”の使い方にもいかにもというアルトマンらしさが感じられました。 [DVD(字幕)] 8点(2011-08-28 22:03:40) |
1338. ギルダ
40年代ハリウッドのセックスシンボル、リタ・ヘイワースが全編にわたり妖艶なオーラを発散しまくる。タイトルも彼女が演じる役名「ギルダ」であり、漂わす雰囲気も、声も、衣装も、これはもう完全に彼女の映画ですね。特に終盤、彼女が歌い踊る姿を見ていると、もう話の筋に戻らなくてもいいとさえ思えてきます。また、本作はかのショーシャンク刑務所で上映されていたことでも有名になりました。リタ・ヘイワースが登場し、ドーンとアップになる、あのシーンです。その瞬間、ショーシャンク刑務所に歓声があがる。あのショーシャンクの男たちのリアクションもまた、本作のリタ・ヘイワースの魅力と当時の彼女の人気を見事に表現しています。 [DVD(字幕)] 6点(2011-08-27 16:27:06) |
1339. オペレーション・ワルキューレ<TVM>
《ネタバレ》 どうしてもブライアン・シンガー監督作「ワルキューレ」と比較しながらの鑑賞となりました。 ブライアン・シンガー版は原題も「ワルキューレ」で本作の原題は「シュタウフェンベルグ」となっています。「ワルキューレ」はシュタウフェンベルグ大佐を中心としたワルキューレ作戦を描き、本作はワルキューレ作戦の中心にいたシュタウフェンベルグ大佐に軸が置かれていたように思います。 TV用に作られ予算的制約もある本作とスーパースター、トム・クルーズを起用した大作「ワルキューレ」。どうしても一つ一つのシーンの迫力は「ワルキューレ」に軍配が上がる。しかし、「ワルキューレ」ではよく分からなかったシュタウフェンベルク大佐の上官であるフロム大将の微妙な立ち位置などは興味深い所でした。また、計画が破綻して以降、最期の時までの数時間の迫力ある人間模様の描写は本作に軍配が上がると感じました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-08-23 21:11:20) |
1340. サンザシの樹の下で
楽しみにしていたチャン・イーモウの新作。ようやく僕が住む街でも公開されたのですが、お客さんは5人程度。ちょっと寂しかったですが・・・。いい映画でした。 ”しあわせ3部作”の頃のチャン・イーモウが帰ってきてくれたような作品でした。中国の農村を舞台にした、今時あまり見かけなくなった、時には見ていて恥ずかしくなるほどのこれでもかっ!というほどの純愛映画です。 ヒロインの女優さんは新人さんのようですが、かつてチャン監督が発掘したチャン・ツィイーのようなハッとする美貌というわけでもなく、どちらかと言うと今時の女優さんにしては地味な印象なのですが、独特の存在感、透明感を感じます。 チャン監督は感情を吐露する一言をあまり彼女に台詞で言わせないんですね。その代わりにこれでもかと言うほど彼女の表情を捉え続けます。恥じらい、嬉しさ、困惑、悲しみ・・・こうした人間の感情を演じる彼女の見せる様々な表情が印象に残りました。チャン監督、彼女に相当惚れ込んだのではないでしょうか。 本作はチャン監督がこれまでの作品でも描いてきた文化大革命の時代に再び取り組んだ作品でもあります。これまでにもチャン監督が見せてきた批判精神が随所に見られますが、この実話の舞台となった「サンザシの樹」も今はダムの底に沈んでしまったという。多くの人々に犠牲を強いたかつての中国の過ちだけでなく、最後にそっとその事実を字幕で告げるのですが、ここには経済発展のためなら待ったナシという現代中国のあり方に対するチャン監督の思いが垣間見えた気がしました。 [映画館(字幕)] 8点(2011-08-22 21:00:32) |