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 > Сакурай Тосио さん
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プロフィール
コメント数 250
性別 男性
自己紹介 サンボリズムとリアリズムのバランスのとれた作品が好きです。
評価はもちろん主観です。
評価基準 各2点ずつで計10点
1.物語の内容・映像にリアリティを感じるか?
2.視覚的に何かを象徴できているか?
3.プロットの構成は適切か?
4.画面に映る動き・台詞や音にリズム感があるか?
5.作品のテーマに普遍性はあるか?

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121.  街の灯(1931)
哀しいですけれど現代が舞台だとマッチングアプリでプロフィール盛ってましたみたいなペーソスもへったくれもない話になっちゃいそうですね(笑)。物語も技法も素朴すぎるのは否めませんが、サイレント映画という古びてしまった形式が却っておとぎ話のようなストーリーに説得力を持たせているとも言えます。既にこの映画の製作時にはトーキーへ主流が移りつつあったのでチャップリンもある程度自覚して生まれた時点で古典でもあるような作品を目指したのではないでしょうか。完璧な映画だとは思いません。観客を飽きさせない工夫としてロマンスやコメディだけでなくボクシング映画やギャング映画の要素まで取り込んだ盛りだくさんの内容になっているのは悪くないのですが、個々のギャグはナンセンスというだけでそれが物語の進行上意味のあるものではなく不要と感じてしまうところも多いです。金持ちの男と何度も遭遇するのも偶然にしてはできすぎていて不自然です。黒人のボクサーがカットによって起き上がっていたり倒れていたりするシーンは明らかに編集ミスです。それでもこの映画のラスト5分間はここだけのためにでも見てよかったと思わせるものです。複雑な心理を描くことに成功した切ないクライマックスです。このラストシーンには台詞を一つ加えることも削ることもできません。
[DVD(字幕)] 7点(2023-07-08 23:26:56)(良:1票)
122.  火垂るの墓(1988)
高畑勲監督の戦時下の日本の描き方は冷徹です。清太たちが追い詰められた一番の原因は米軍の空襲によるものなのに、いつしかその米軍の空襲にさえ快哉を叫ぶようになってしまうという皮肉。投げ捨てられるドロップ缶の遺骨、蛆が湧く母親の死体、米に換えられる母の着物(桜の花びらと米がオーバーラップする演出もえげつない)、最後の頼みの綱だった父親の連合艦隊の壊滅も大した事件でもないかのように吐き捨てられてしまいます。ここで描かれているのは自分が生きていくためには死んだ人間のことにいちいち構っていられないという状況に置かれた人間の姿です。なぜ戦時下の死が悲惨かというとこのようにまともに弔われることも哀しまれることもなく死んでいった人間がたくさんいるからです。だからこそその弔いとなるような作品が必要なのだと思います。
[DVD(邦画)] 10点(2023-07-07 23:54:26)(笑:1票) (良:3票)
123.  
知る人は知っているインド映画の伝説的大ヒット作です。英語版Wikipediaによると公開当時インドの大衆に支持されながらも批評家には酷評されているみたいなのですがそれには納得ですね。長いしダラダラしてるので全編夢中になって楽しむのは難しいですが、案外インド人もそんなに集中せずに面白いシーンが来るのを待ちながら楽しんだりしてるのかもしれません。そういう昔の大ヒット映画って日本や欧米でもありますよね。西部劇というより日活無国籍アクションみたいなムードです。ヒトラーみたいな所長と馬車ひきの娘のキャラは印象的です。明るい話と思ってたら陰惨な復讐劇の部分もあります。というかこの頃から既に香港カンフー映画っぽいところがあるんですね。現在U-NEXTで配信されているのは2014年に公開された3D版のようで、不自然にデジタル合成が施されたシーンがあります。
[インターネット(字幕)] 5点(2023-07-06 21:00:44)
124.  インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
まともに動けない俳優を主演にアクション超大作を撮るというほとんど暴挙に近い作品です。ハリソン・フォードがスタントどころかろくにダッシュすらできないのは見ていて悲しくなります。昔のハリウッドのスクリーンプロセスへのオマージュかと思うほどチェイスシーンの背景は合成丸出しで全然迫力がないです。もうここまでCGを使うならもっと非現実的なぐらい派手なアクションにしてくれた方がいいぐらいです。多くのシーンが狭く暗いセットの中でアップ主体なので画面が見づらいことこの上ない、潜水シーンなんかほんと誰が何をやってるかよくわからないです。このシリーズにはあまり思い入れがないのもあるのですが、それ以上の問題として役者は悪くないのにろくに登場人物のキャラも関係も構築する気がなく出てきては消えるだけのドラマ部分には心が動かされようもありません。
[映画館(吹替)] 3点(2023-07-05 23:33:29)
125.  ヤクザと家族 The Family
うーんテンポが悪い、オープニングクレジットが入るのに20分、ここまで丸々カットしても普通に話が理解できそうです。藤井道人監督の薄暗い映像は好きじゃないですねー、安っぽく感じてしまいます。煙を吐き出す工場のショットが何度も挿入されますが、別にヤクザのしのぎとも関係ないようですし単にかっこいい画を挿入したいだけなんでしょうか。90年代の時点で義理とか人情を謳うヤクザは絶滅危惧種になってそうなんですが、まるでそれが未だに生きてるような不思議な世界で物語が展開します。同じ綾野剛主演のヤクザ映画なら白石和彌監督の日本で一番悪い奴らという作品もありますが、頭の中だけでお話を作らずあちらのように実在の人物への取材に基づいたリアリティのある人物造形をするべきではないでしょうか。当時の風俗をしのばせる要素も出てこないので1999年、2005年、2019年という数字には何の意味もないです。時代は変わったという旨の台詞が何度も出てくる(本当に何度も出てくる!)のはまともに時代を再現して変化を演出するつもりがないからでしょう。ヤクザというか舘ひろしの役は理想的な親父として美化しすぎていると思います。ヤクザと社会の関係を描く作品のはずなのに基本的にヤクザの身内の中の人間しか描かれません。彼らを追い詰める暴力団関係の条例も抽象的で具体的にどんなものなのかすらよくわかりません。これではヤクザ同士が延々と傷の舐め合いをしている甘ったるいメロドラマという感じです。半径5mの世界しか描かれないダメな日本映画そのものですよこれ。余命10年はてっきり売れるために嫌々撮ったのかと思ってましたが、実は泣けるラブロマンスというジャンルこそこの監督の資質に一番適した仕事なのかもしれません。
[DVD(邦画)] 2点(2023-07-04 22:58:33)
126.  37セカンズ
佳山明のか細い声は彼女の性格と今までの人生が伝わってくるような印象を与えます。ミニチュアのように見えるかのように撮られた空撮シーンがリアリズムから離れた感覚を覚えさせます。子どものように小さく振舞わざるを得なかった彼女の世界を垣間見ているようです。良い意味で普通の作品です。このぐらいの作品が特別な傑作扱いではなく毎年1、2本は作られる状況になるのが理想だと思います。世界レベルの映像作品に必要なのは何も精密なCGや派手なアクションではなく、タブーを恐れない題材の選択と役に合った自然なキャスティング、そしてテンポの良い編集があれば十分なのです。ただ全体としてドラマ性が希薄で各シーンの関連が見えづらいゆるい構成は一般的な日本映画の脚本から大きく逸脱しておらず、障害者も普通の人と変わらないことや37セカンズというタイトルの由来を言葉で説明してしまう台詞への依存度の高さはちょっとダメな日本映画らしさを感じてしまいました。技術的な面や題材の選択という点では優れていても構成力の弱さがこの作品に限らない現代の日本映画の課題とは言えます。
[DVD(邦画)] 7点(2023-07-03 23:58:04)
127.  aftersun/アフターサン
本編より予告編の方が感動できました。ビデオカメラで撮った映像は申し訳程度に挿入されるのみで大部分はフィルム撮影なので意味があったのかどうか疑問です。せいぜい90年代という時代を象徴している程度でしょうか。繊細なニュアンスで行間を読み取ることを求めているというよりは、わざと説明不足にして謎を作り出しそれへの興味で引っ張っているだけのように感じます。父親の影の側面を深読みさせるための描写を除けば基本的には父と娘の一夏のトルコ旅行が描かれるだけです。インタビューによると今作の父親像は監督個人の経験を投影している部分もあるそうなのですが、内容が本当に個人のホームビデオのようでは困ります。ただ休日の外出先での夕暮れや夜の心地よい雰囲気はよく再現されていてあくまで雰囲気に浸って楽しむ作品としては悪くないです。トルコはあの山の感じといい夏に虫の鳴き声が聞こえるところといい日本を思わせるところがあってそういう意味でも郷愁を誘うところがあります。カラオケ(めっちゃ下手でしたね)や観光客の老人の多さもなんだか日本っぽいです(笑)。父親の苦悩に着目するよりも全体的にノスタルジックな雰囲気が強すぎて最終的には好きな人とこういう旅行ができたら楽しいだろうなーぐらいの感想しか出てきませんでした。
[映画館(字幕)] 5点(2023-07-02 22:53:33)
128.  七人の侍
七人の侍というタイトルでありながらこの映画のキモはメインの侍たちにむしろ侍らしくない人物が揃っているところです。勘兵衛(志村喬)は僧に擬装した坊主頭、平八(千秋実)は初登場シーンで薪割りをしておりいざという時には人を斬らずに逃げ出すとまで公言する、勝四郎(木村功)はまだ未熟な子どもで花畑で少女のように花を摘みさえする、菊千代(三船敏郎)は勘兵衛に侍なら正気を失うほど酔いはせんと言われたそばから泥酔している、この彼らの侍らしくなさこそがむしろ時代と国を超えて多くの人間に愛される要因ではないでしょうか。まあ久蔵(宮口精二)はいかにも侍らしい侍ですけど、周囲が侍らしくない人物に囲まれているからこそかえって彼が魅力的に見えるのだと思います。しかし七人は金にも出世にもなるわけでもないのに戦う理想化された人物で彼らこそ本当の侍であるような描き方になっているため、結果としてこの映画は侍という神話を再生産する作品になってしまいました。悪役が野武士であり、農民が侍を雇うプロットを見ても本来ならば侍なんて飯を食うために仕事をしているだけで立派でもなんでもないただの人間だという侍という神話の解体がこの映画のテーマになるはずなのに、黒澤明は劇中の侍たちを人間として好きになりすぎているんですよね。いくら台詞で農民を持ち上げたところで侍側こそ真に偉大だったという印象が残ってしまいテーマと人物描写が食い違ってしまっています。そのためこの作品はキャラクターが魅力的なだけの娯楽映画以上のものになれていないと思います。そのことがこの映画の人気に繋がっているのでしょうからこれはこれで正解なのかもしれませんが、私は黒澤明監督作品を、そして映画という表現をただ面白ければいいエンターテインメントとしてのみ評価する見方はしたくないのです。
[インターネット(邦画)] 6点(2023-07-01 16:57:45)
129.  機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
昔はメカアクション目当てでしか見てなかったんですけど、改めて見直すとひえ〜こんな内容だったんですね。かいつまんで言うと自分が本当に好きな人には決して好きになってもらえないというお話です。自分を好きになってくれる人を好きになれたら幸せになれるのにそうすることができない、徹底して人と人の分かり合えなさを描いた映画です。一方が一方に勝手に理想像を投影してそれに応えようとする苦しみ、応えることができない苦しみ、応えてくれない苦しみ。「うちなんか、家族で地球にいたんだよ」クェスのこの台詞のどうしようもない寂しさ。スペースノイドの期待を背負わされながらこれでは道化だよという愚痴をこぼすシャア、ナナイもなんとか応えようとしているが本当はシャアの母親代わりをやれる強い女じゃない。アムロが人類に絶望しないのは実は人類に対して大きな期待もしていないことの裏返しではないでしょうか。
[インターネット(邦画)] 7点(2023-06-30 22:55:40)
130.  キッスで殺せ!
誰もまともに内容を理解できないおかげで傑作扱いされているという恐るべき映画。しかし好意的なこじつけなしではとてもじゃないが評価できる代物とは思えません。批評家の深読みをひとまず無視して純粋に作品内のみからまともに内容を読み取ろうとすると、神話の時代からパンドラのような愚かな女のせいで人類に不幸がもたらされた、核戦争の引き金を引くのも女だろうというオチ、男に従順だった女は生き延びられる、凄まじい女性蔑視作品である、こういう読み解き方も可能なわけです。原作が元々マッチョイズム全開の作品だったようなので全部が全部映画スタッフの責任とは言えないまでも、あのトランク関係は明らかに映画版で追加した要素ですからね。マンハッタン計画に台詞で言及しているだけでそれへの批判になるというのも無理があります、ただ煽情的なテーマを軽々しく扱ってるだけです。マッカーシズムへの批判だという監督の発言は後出しじゃんけんとしか思えません。当時はただ仕事で興味のない原作をいやいや映画化した結果珍妙なものが出来上がったというのが真相だったりはしないでしょうか。今は公開当時の米国での酷評こそ実は正しいのかもしれないという再々評価が必要な作品かもしれません。
[DVD(字幕)] 0点(2023-06-29 23:39:54)
131.  悪魔の毒々モンスター
意外とちゃんと構成されている映画だと思います。主人公が清掃員という社会の汚れを綺麗にする役職であることはそのまま全体のストーリーにリンクしてます。一方では産業廃棄物を垂れ流しながら自分たちはスポーツジムで美しい姿になろうという人間たちに対抗するのがその廃棄物によって生まれた醜い姿のヒーローというのは象徴的です。社会派というほどの志は絶対ないでしょうけれど、ロイド・カウフマンは少なくとも悪趣味でしかない内容を正当化できる最低限のテーマは設定しようとしています。むしろ下手な説教臭さがなくほのぼのした雰囲気であるのがこの映画の強みではありますね。グロテスクな描写があっても最後には悪人が一掃されて善人だけが残るラストは気持ちのいい余韻を残します。まあ普通の映画として見たらいい加減な作りで退屈なシーンも多いのであんまり高い評価は付けられませんが、たまにはこういう作品も見ると癒されて良いです。
[インターネット(字幕)] 4点(2023-06-28 23:15:24)
132.  炎のデス・ポリス
言うほど炎のデス・ポリス感はなく、真面目に作られているアクション・スリラー映画です。邦題のイメージ通り奇天烈なキャラクターを揃えたコメディに振り切ってくれたらもうちょっと楽しめたと思います。クエンティン・タランティーノ監督作品風のだらだら会話劇が続きますがセンスがない人がやると本当にだらだら退屈なシーンが続くだけという感じです。黒人女性のアレクシス・ラウダーが主役という点以外にジャンルとして斬新といえる要素はないです。人物の掘り下げもあまり行われないので魅力的なキャラクターといえばサイコパスの爺さん(トビー・ハス)ぐらいなもので、彼が登場しアレクシス・ラウダーを追撃する中盤が一番盛り上がります。防弾ガラスにマシンガンを撃ちこみ破片が飛び散る描写は新鮮で良かったです。それにしても最近はなぜかやたら西部劇風の映画が作られてるような気がします。
[インターネット(字幕)] 5点(2023-06-27 22:32:07)
133.  風と共に去りぬ
おお今見直してみるとフェイブルマンズで語られていた地平線が上にあると面白い絵になる、地平線が下にあっても面白い絵になる、その考え方を忠実に守って撮られているんですよね。あれはジョン・フォード監督秘伝の奥義というよりもハリウッドで広く伝わっていた教えだったことがよくわかります。当時のハリウッドの最高の技術のすべてが注ぎ込まれたカラー撮影と美術と衣装、ほとんどオーパーツみたいな作品です。スカーレット・オハラの堅苦しい風習に縛られない自由なキャラクターは今でも古びていません。何せこの時代に自分で事業まで始めちゃうバイタリティーです。しかしその割りに異様に土地に執着しているのが歪ではあります。軍隊や戦争が美化されているわけではないあたり、なおさら一番正当化したいのは奴隷制そのものだったという考えが見えてきます。逞しく自由に生きようとする理想と他者を踏みにじってでも利益を得ようとする貪欲さ、まあ良くも悪くもアメリカという国そのものを描いている映画だと思います。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-06-26 23:57:42)
134.  ザ・フラッシュ
う〜ん、まあジャスティス・リーグよりはマシなだけって感じですかね。アクションシーンも冒頭のカーチェイスは最高でしたがそれ以上はものは出てきません、なんかところどころCGもしょぼいし…。もはや最近のDCEUの楽しみ方はワンダーウーマンのテーマが流れるのを待つだけになりつつあります。残念ながらこの映画ではそれが冒頭に当たりますのでそれ以降ずっと退屈でした。序盤で現行のジャスティス・リーグのメンバーの魅力を再認識しちゃったので新キャストにもあまり乗れなくなってしまったんですよね。マイケル・キートンのバットマンが登場するといっても本人が演じているというだけで現代風のハイテク装備で登場するものですからティム・バートン版を連想させる要素が希薄です。80年代オマージュ満載ですがギャグセンスも80年代みたいで寒いです。大人の事情を知らないと楽しめない要素を持ち込みすぎです。BvSのマーサをみずからネタにするとかプライドはないんですかと言いたくなります。それにスパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームでも感じたことなんですが同じ敵とまた戦うのってうんざりしませんか?新しい敵の方がワクワクするに決まってるじゃないですか。敵がそのままなのに味方が弱くなりすぎてがっかりするだけでしたよ。お話自体が今までのDCの迷走の自己正当化と以降の展開の都合のためでしかないので真面目に見る気が失せます。母親に対する思いへ向き合う成長物語としてもシャザムの方がよっぽど丁寧に描けてたと思いますよ。
[映画館(字幕)] 4点(2023-06-25 19:27:03)(良:1票)
135.  鶴は翔んでゆく
戦争と貞操というかつての邦題は意外と内容を忠実に表現しています。戦場に向かった恋人への貞操を守るか守らないかというお話です。当時は戦争に傷つく個人に向き合った反戦ドラマとしても見ることができたのでしょうが、現代の視点では保守的な恋愛・結婚観という印象を受けてしまう物語です。縦横無尽と言えるカメラワークは確かに今見ても飽きさせないものはありますが、長回しはやはりリアリズムや個人の心情に寄り添うものではなくそのシーンを絵巻物のようなスペクタクルとして見せるための演出ではないでしょうか。爆撃の明滅の中での告白シーンなんかは演出過剰すぎです。戦争の恐ろしさを伝えるにしても不自然な描写です。ヒロインのタチアナ・サモイロワは美人なので古いメロドラマであることは前提の上で楽しむ分には悪くない作品です。それと当時のソ連への偏見を払拭するためには役立つかもしれません。
[DVD(字幕)] 5点(2023-06-24 17:11:47)
136.  怪物(2023)
近藤龍人の撮影は素晴らしいです。安藤サクラと永山瑛太が豪雨の中窓の泥を拭いとる様子を電車の内側から見せるショットはまるで墨絵のように見える効果があり斬新な造形だと思いました。直接関係はないかもしれませんが黒澤明が七人の侍で雨に墨汁を混ぜたというエピソードを思い出しました。しかし結局のところその撮影もただ美しい画というだけで何かの象徴として効果的に使われているわけではありません。湖だけを映したショットが何度か挿入されますが、場面の区切りとして機能しているだけです。湖の近くの町と学校という舞台設定には美しくそしてノスタルジックでもあること以上の意味がありません。作品のテーマは善意としての行動が結果として他者を追い詰めることにもなり得ること、それが必ずしも個人だけの罪というわけではなく置かれた立場や組織の論理によるものではないかと気づかせることです。しかし星川父(中村獅童)のみ別の側面を見せずに単純な悪人として描いています。それはこういう人物だけは絶対に許せないという作り手の主張といえなくもないでしょうが、安易な悪役の記号を寄せ集めた安っぽいキャラのようにも見えてしまいます。ラストも劇中で提示された多くの要素を一つにまとめ上げるテーマやメッセージを投げ捨ててありがちなメロドラマ的エンディングでお茶を濁したようにしか見えず納得がいきません。それこそ黒澤明の羅生門は最後には人間不信を拭い去ろうとする一筋の希望を提示してみせました。この映画もまたそうするべきではなかったでしょうか。
[映画館(邦画)] 5点(2023-06-23 22:37:17)
137.  マルケータ・ラザロヴァー
歴史劇なのにチェコ・ヌーヴェルヴァーグとは?と違和感がありましたが実際に見てよくわかりました。とにかくわかりにくい構成と演出です。チェコでは有名な原作とのことですので、製作者も観客があらかじめストーリーを把握していることを前提にこの構成にしているのかもしれませんが、やはりそうでない人間が楽しむには難しい作品です。時系列もぐちゃぐちゃに見えます、回想かと思ってたら普通に話が進んでいたりします。曇天や屋内の暗いシーンが続いているところに突然ピーカンの明るいシーンが挿入される演出の意図は何でしょうか。主人公が誰かもよくわかりません。作品全体でもそうなのですが一つのシーンだけを見ても誰が喋っているのかよくわからない状態です。タイトルにも名前がある少女のマルケータはほとんど台詞もなく特に自分から行動することもなく人形のようです。性と暴力についての話なのでしょうが、60年代後半あたりの作品では珍しいテーマでもなく食傷気味です。カメラワークはマカロニ・ウエスタンみたいなところもあります。それもセルジオ・レオーネというよりセルジオ・コルブッチ寄りで安っぽく感じます。処女の泉やアンドレイ・ルブリョフの偉大さを再確認することはできました。
[インターネット(字幕)] 5点(2023-06-22 22:57:01)
138.  いつかの君にもわかること
久しぶりにいい邦題だと思います。もちろん泣ける映画なわけですが全体として抑制された演出に理知的で丁寧な構成で感心しました。子どもは全く演技を感じさせません。台詞は少なく、鑑賞者の想像の余地が多くあります。父親の死の原因が何かも明示されません。BGMはほぼ全編で廃され唯一音楽が流される場面では無音演出となります。窓拭き清掃員のシングルファーザーが主人公のこの映画は当然、窓と手作業を映すことになる映画です。窓越しに映されるのは多様な人生の姿です。それはある時は目に見えても手の届かない光景です。手作業は息子とのかけがえのない時間を刻むためにあります。息子の髪を梳いてあげたり、ブドウの皮を剥いてあげたり、誕生日ケーキに刺すロウソク、思い出ボックスに残す手紙も手書きで大切にしまわれるまでを映します。ワンちゃんがほしいという言葉にも最後に気の利いた返答があります。最後に選ばれる里親にはおそらく多くの人が納得できると思います。
[インターネット(字幕)] 8点(2023-06-21 23:54:32)
139.  アルジェの戦い
意外とハラハラドキドキするエンターテインメントとしても見れてしまう映画です。それもそのはずでこの映画は社会背景の説明や人物の心理描写はほとんど省かれていて中心となるのはフランス軍とアルジェリアの民族解放戦線、両者の攻防だからです。演出はリアリズムですが銃撃や爆破シーンは最大限盛り上がるように構成されています。走行中の自動車からの銃乱射シーンなどはまるでギャング映画みたいです。いやほんと背景知識を抜きにして見ると仁義なき戦いみたいな実録抗争映画っぽさがあるんですよ。劇中の銃声はちゃっかりマカロニ・ウエスタンと同じものを使用しています(笑)。空挺師団のマチュー中佐がまた理知的で冷静に状況に対処でき、ナチスへのレジスタンスとして戦った過去があるという皮肉な側面も含めて魅力のあるキャラクターなんですよね。ラストの群衆シーンは確かに本物にしか見えない迫力はあるのですが、終わり方も含めて唐突な印象を受けてしまいます。冒頭でかすかにバッハのマタイ受難曲が流れていますが、イスラム教徒のアルジェリア人の受難をキリストになぞらえるのが正しいのかは疑問です。
[DVD(字幕)] 6点(2023-06-20 23:36:30)
140.  ソナチネ(1993)
乾いた静かな世界に垂れ流される久石譲のウェットで大袈裟な音楽がうるさいのなんのって。わかったようなわからんような評価しかされてませんが、人気があるのは結局男のロマンを描いた作品だからなんでしょうね。女に好かれたまま美しい場所で死にたいという願望を満たす、死の哲学なんて全部嘘っぱちでただ現実逃避を続けているだけの映画です。例えば同じ沖縄を舞台にしたヤクザ映画として崔洋一監督の友よ、静かに瞑れと比較すると、何も社会派の方が偉いとまでは言いませんが子供の遊び程度の内容でしかないのです。さすがに暴力シーンの演出の斬新さではこちらの方が上ですけどね。部分部分の演出で褒めるところがあっても大まかなプロットは普通のヤクザ映画と変わらないので退屈です。この内容なら予告編をリピートしてるだけで十分ですよ。
[DVD(邦画)] 4点(2023-06-19 22:14:35)
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