1381. リンダ リンダ リンダ
素晴らしい。この人(監督)の映画を観るのは初めてだけれど、なんて奥ゆきのある映像、そして映画を紡ぎ出す監督だろうか。校舎の間から見える青空、誰もいない靴箱、何気ない学校の風景に、無限の広がりと感情を感じた。 その映画世界に息づく文字通り等身大の少女たち。決して「言い過ぎない」彼女たちの言動は、だからこそ素晴らしい“若さ”をリアルに表現している。 彼女たちは、「言葉」だけでコミュニケーションをしない。良くも悪くも、自らのあらゆる「感受性」をもって繋がっていくのだ。 この映画は、そういうことをさらりと、気持ち良く伝えてくれる。 [DVD(字幕)] 9点(2006-03-28 01:59:33)(良:1票) |
1382. イーオン・フラックス(2005)
革新的な映像世界には“センスの良さ”が溢れているハズなのに、結果として“センスの悪い映画”になってしまっている。 未来世界を描いた映画に多々ありがちなことではあるが、未来世界(映像世界)のビジュアル自体は素晴らしいのに、それが流れる時間のテンポが悪く、映画として単純で退屈に感じる。凝った映像に対して、あまりにありふれたキャラクターとストーリー展開も、それを助長したと思う。 となると、アカデミー女優の“超美貌”アクションに望みを託したいところ。だが、全体的に違和感たっぷりのアクション演出も手伝って、あえなく不発。キャラクター自体にそれほど魅力が無いということもあるが、シーャリーズ・セロンはアクション映画には向いてないと判断するには充分かもしれない。 [映画館(字幕)] 3点(2006-03-21 00:50:20) |
1383. シリアナ
世界をえぐる問題作としてあちらこちらから評価の高さを聞いていたので、かなり期待度は高かったのだけれど、いまひとつ「入り込めない」感じが最後まで拭えなかった。 おそらくそれは、この映画自体が問題なのではなく、僕自身が中東を中心にした世界情勢のディープな部分について無知だったからだろうと思う。 ノンフィクションの「証言」を元にしているだけに、必要以上にドラマティックでないところが、尚更に知識が無い者にとっては取っ付き辛い要因だったかもしれない。 ただそれでも、ある部分では複雑に、ある部分では愚かに絡まりあう「思惑」の実情には、文字通りリアルな緊張感が滲み出ている。 それにしても、オスカーを取ったジョージ・クルーニーは「助演」なのだろうか?じゃあ誰が「主演」? [映画館(字幕)] 5点(2006-03-21 00:31:32) |
1384. ハサミ男
確かに、映画をある程度見慣れている人ならば、この映画が抱える“要素”は容易に感づく事ができ、その点においてはこの種類の映画としては、あまり巧いとは言えない。全体的に画づくりが稚拙なのも頂けない部分ではある。 ただやはり、このストーリーが持つ元々の面白さというものに、随分助けられていると思う。散々描かれつくされてきた感もあるサイコサスペンスというジャンルにおいて、しっかりとこの物語独自のオリジナリティは携えており、その部分において見応えは確実にある。原作は未読だが、このストーリーをどう文章で構築し描いているのか、とても興味深い。 展開としては、クライマックスの顛末まで良かったのだけれど、最後のエピローグが若干しつこくて間延びしてしまった。あそこまでクドクドと語らなくても、そこまでの流れで充分に“真意”は伝わったと思う。ラストを簡潔にまとめ余韻を残す勇気がほしかった。そういう部分においても、物語の秀逸さの反面、映画としての未熟さが垣間見えることが惜しい。 [DVD(字幕)] 7点(2006-03-12 03:10:57) |
1385. メゾン・ド・ヒミコ
ゲイのための老人ホーム“メゾン・ド・ヒミコ”。それはとても、映画で描くにふさわしい素材ではないかと思う。独特の楽天性、普遍的に抱える劣等感や哀しみ、そういうゲイならではの感情が、「老人」という要素の介入によって殊更に、切なく広がってくる。 そしてそのベースの上に、主要キャラクター3人の複雑な人間関係が、巧みに入り混じり、今までにない一風変わった人間ドラマを構築している。 物語の中心である、柴咲コウ、オダギリジョー、田中泯の演技がそれぞれ良く、各々が難しいキャラクターを違和感なく息づかせていると思う。 とりまく空気は、どこまでも淋しげで、哀しいのに、なぜかじんわりと温かくなる映画だ。 [DVD(字幕)] 9点(2006-03-03 03:38:00) |
1386. シムソンズ
こう映画になってみて言うのはズルイ気もするが、“カーリング”はとても映画の素材としてふさわしいスポーツだと思う。見た目の地味さと、隠れた奥深さが、物語として人間を描いていく上で、雄弁に引き付ける。 そしてスポーツとしてのその特異な性質が、スポーツ映画特有の役者が演じる上での“素人っぽさ”や“無理っぽさ”を軽減させる。もちろん本当に競技をしている人達から見れば、細かい部分での違和感はあるのだろう。が、こんなこと言うと失礼かもしれないが、先のトリノ五輪でのカーリング中継を見ても感じるように、カーリング選手にはいわゆる“アスリートっぽさ”がないのだ。加藤ローサのような駆け出しカーラーも、大泉洋のような元一流カーラーも決していてもおかしくないという印象を持たせる。 そういう様々な面において、“カーリングの映画化”は正解だと思う。 “カーリング”という素材意外ではこれといった目新しさはない。が、それこそ青春スポーツ映画の「王道」であり、不足は無い。決して派手さはない「素材」と「演出」に彩られ、北の大地を舞台にこの映画は、時に熱く、時に温かく、不思議な形の一石を投じる。 [映画館(字幕)] 7点(2006-02-27 18:44:03)(良:2票) |
1387. ニライカナイからの手紙
「手紙」には、とてもあたたかく、切ない“チカラ”があると思う。時間を超え、人々の元に留まり続けることができる。 現代人の範疇にもれず、僕も滅多に手紙なんて書かない。でも、たまたま今日、手紙を書く機会があった。口頭では伝えきれない心の中心の想いに、どうしようもなく胸が熱くなる。書き進める度に涙が溢れる。 手紙はその存在価値を見失われようとしている。しかし、やはり手紙はなくならないだろう。人間に“本当に伝えたい想い”がある限り、その素晴らしい伝達方法として、在り続けるだろう。 タイトルからストーリーについてのおおよその予想はつくと思う。そして、予想の通りの映画であろう。ただだからと言って、この映画が伝えるまっすぐなあたたかい想いが色あせることは決してないだろう。 [DVD(字幕)] 6点(2006-02-22 14:55:38) |
1388. 乱歩地獄
“乱歩地獄”と銘打ったこの映画が、もはや“まとも”な映画であるわけもなく、予想以上の錯乱ぶりが凄まじい。改めて、「乱歩」以外「乱歩」を評する言葉を持つものはいないと思う。 オムニバスの4作品すべてでパフォーマンスを見せた浅野忠信の存在感は、似合いすぎるほど乱歩ワールドにマッチして圧巻。 恐らく、江戸川乱歩映画が好きな人も、嫌いな人も、見たことがない人も、それぞれがある種の「地獄」を見るだろう作品だと思う。 [映画館(字幕)] 7点(2006-02-20 16:46:44) |
1389. ジャーヘッド
戦場現地の奥地で王国を築いたり、悲痛な戦場の惨劇の中で“生死”に対する感覚が麻痺しまっていくというような、仰々しいことだけが“戦争の狂気”ではないということを、この映画は雄弁に語る。 言うならば、「戦争」そのものが「狂気」であり、そこにそれ以外のものは無いのではないか?だからこそ、誰も死ななくても、誰も殺さなくても、“狂気”は生まれ、そこにいる者たちを急速に蝕んでいく。 ライトなテンポで敢えて感情的にならずに、主人公たちの心情の起伏を描き出すあたりに、サム・メンデスの流石の演出力が冴える。 テーマ性としては、映画によって散々描かれてきているもののようにも見えるが、「戦争」という「狂気」の“普遍性”とでも言うべき“何気なさ”を描いたこの映画は、非常に独特だと思う。 [映画館(字幕)] 8点(2006-02-16 23:53:08)(良:1票) |
1390. ミュンヘン
きっと、“祖国を失うという喪失感”そして“祖国が存在しないという虚無感”なんて微塵も感じたことがない僕たちは、この映画の本当の「感情」なんて分かるわけがないのだろう。でも、だからこそ、客観的に冷静に見れる要因になるのかもしれない。おそらく、この「事実」に対して何らかの関わりを持つ民族の人たちにとっては、今作で描かれるものは非常にデリケートで、ある部分では大いに「反感」をかうのだと思う。 ただ、もし「客観視」が許されるのなら、やはりこの映画は素晴らしい。もちろんこの物語を客観的に観たままに終わってはならない。これは人間の歴史をそのまま形どっていると言っても決して過言ではない“憎しみの螺旋”の紛れも無い一端だからだ。 悲しいけれど、この“螺旋”は、人間が存在する限りいつまでもつきまとう“業”なのかもしれない。 非常に重く、繊細で難しいテーマ性と現実を孕んだ物語にも関わらず、その長尺をまるで感じさせないスピルバーグの映画術は流石だ。 ラストカット、彼方に見える貿易センタービルが、とても悲しく、感慨深い。“螺旋”はどこまでも続いている。 [映画館(字幕)] 9点(2006-02-11 00:06:06)(良:2票) |
1391. ケイゾク/特別篇 PHANTOM ~死を契約する呪いの木~<TVM>
《ネタバレ》 監督の性格、シリーズのテンション、テレビシリーズ最終回の終わり方から、どこか“お決まり的”な感じがするこの「特別篇」。まあ「全然面白くない」なんてことはなくて、元々キャラクターが良いのでそれなりに楽しめれる。 だが、やはり賛否の対象は「朝倉」の存在位置だと思う。どんどんキャラクター性が“悪魔的”になってくるのはいかがなものか?神がかり的に見せかけた犯罪を主人公が見破っていくというのが、このシリーズの主題だと思う。なのに、最終的な事件の主犯が、あれほど人間離れしていては、どうにも納得がいかない。 「朝倉」を、この特別篇、そして「映画」にまで引っ張る必要はなかったと思う。 [DVD(字幕)] 2点(2006-02-06 00:13:51)(良:1票) |
1392. ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer
最近初めてテレビシリーズを全編観たので、「特別篇」に続いてこの「映画」を観た。 まあ、テレビシリーズの終盤から感じてきたことだけれど、「謎」を引っ張るだけ引っ張っておいて、結局、悪魔的な要素で半ば強引に結論付けてしまうのはどうかと思う。 決してその要素自体が悪いのではなくて、シリーズ通して、「呪いにみせかけた殺人」や「犯人が仕掛けた意外なトリック」を主人公が見破っていくという主旨であるはずなのに、シリーズ全体のクライマックスでサイキックな精神闘争を見せられても納得できるはずがない。 主人公らのキャラクター性や、個別に見たストーリーは面白いのに、全体的なまとまりが激しく欠如している。製作サイドのあまりにいい加減で幼稚な“構想”が見えてくる。際どい部分ではあるが、こういうのは「ノリがいい」というのとは違うと思う。 ただ、中谷美紀はこのシリーズでかなりスキになった。 [DVD(字幕)] 1点(2006-02-02 19:23:55)(良:2票) |
1393. ロード・オブ・ウォー
実在の武器商人の半生をシニカルに描きつつ、根本として示されたテーマは、もはや「悪」ではなく、この世界の「常識」となってしまった武器流通の実情だった。 “戦争王”と呼ばれた彼の生き方は、決して肯定されるべきものではない。だが、この世界の現状を示されれば、彼の言い分に対して一方的に否定はできない。それが、世界の現実であり、絡みついた蜘蛛の糸のように決して容易に逃れることができない人間全体の問題だと思う。 絶対に否定すべきだが安易に否定できないものを、ひとりの男の人生を通して、彼自信に肯定させることで、強く否定してみせた挑戦的な映画だった。 [映画館(字幕)] 7点(2006-02-02 19:09:41) |
1394. フライトプラン
《ネタバレ》 序盤から中盤までの映像から溢れるサスペンスフルな雰囲気は、観客を引き込むに充分なものがあったと思う。ストーリー自体も、常に「疑惑」がつきまとった良い展開を見せていたと思う。だが、クライマックスにかけて、荒唐無稽なアクション映画に転じてしまったのはどうかと思う。「母は強し」と言ってしまえばそれまでだけれど、いくらなんでもフォスターママが強すぎる。せっかく「航空機デザイナー」という面白味のあるキャラクター設定なのだから、もう少し理にかなったトラブルへの“対処”がストーリーとして用意できたのではないか?「真相」の設定も少々安易すぎるように思う。 テンポは悪くないので、ダレることなく終始見られたが、段々と粗が垣間見えてくる映画だった。 [映画館(字幕)] 5点(2006-02-02 18:18:14) |
1395. THE 有頂天ホテル
今でこそ数々の映像作品にその活躍の場が広い三谷幸喜だが、やはりホームは舞台劇。ステージ上で展開されるような限られた空間を生かし描いた喜劇にこそ、彼の「笑い」に対する創造性が生かされることはもはや周知の事実であろう。そう一般に言う「グランドホテル形式」こそ三谷幸喜の独壇場なわけだ。ならば、その言葉自体を生んだ名作「グランドホテル」そのものをパロディ化した今作はが面白くないわけがない。 盛りに盛られた三谷流の“笑い”の伏線の数々に、問答無用に“豪華”なキャスト陣がそれぞれ絡み合い、爆笑を通り越してもはや「見事」と言うほか無い。 年越しを目前にして、様々なタイプの人間たちが集い、それぞれの悩みや葛藤を解消していく。笑いと同時に、素晴らしいドラマ性も含んだ映画世界は、愛すべき幸福に溢れていると思う。 ただ残念なのは、この年の瀬を描いた映画が、年明けの二週間後に公開となったこと。やはり、数日でも年末を含んで公開して欲しかったと思う。そして、リアルな年の瀬、もしくは正月に観たかった。 [映画館(字幕)] 8点(2006-01-17 00:23:17) |
1396. トニー滝谷
素晴らしかったと思う。小説の映画化作品というものは多々あるけど、この映画ほど、小説の世界観が直接に伝わってくる作品は無かったと思う。まるで映像の中に、文体とそれが伝えるものが、うっすらと浮かんでくるようだった。 市川準監督らしい、淡々としたカメラワークの中で、二人の素晴らしい俳優が、これが映画であるということを忘れさせるくらいに、静かに、確実に、息づいていた。 [DVD(字幕)] 9点(2006-01-16 02:08:15) |
1397. dot the i ドット・ジ・アイ
《ネタバレ》 スリラーなのか、ラブストーリーなのか、序盤から中盤に至るまでなかなか作品の“真意”というかテンション自体が掴みきれない。もしかしたら、ものすごく中途半端な駄作なのではと思ってしまうほどに。しかし、まさにその掴みきれない曖昧さこそが、この映画の意図するものだったわけで。完璧に納得のいく設定だとまでは言えないけど、この作品が試みたアイデアと映画の展開性は、挑戦的だし小気味いい。 「演技」の借りは「演技」で返すという、ラストの顛末も映画のテンションにふさわしく小憎らしさがあって良し。 [DVD(字幕)] 8点(2006-01-12 02:21:58) |
1398. セックスと嘘とビデオテープ
掻い摘んで言ってしまえば、セックスレスの夫婦がいて、夫は妻の妹と浮気していて、それを薄々気付いている妻がふいに現れた不思議な男に惹かれ、夫との別れを決意し、夫は妻も愛人も失い、妻はその男と結ばれるという、なんとも平凡な「昼ドラ」である。だけれど、そこに、各人のとても繊細な心理と動揺を独自の目線で描きつける。 俊英スティーブン・ソダバーグのデビュー作にふさわしい奥深さがそこにはある……のだと思う。ただ24歳の僕には少々そのテーマ自体を、まだまだ捉えきれないところがある。登場人物たちのセックスに対する微妙な感情をそのままに汲むには、経験が無さ過ぎるのが事実。 でも、今作を撮ったソダバーグ、若干26歳。……うーむ、すごいなあ。 [DVD(字幕)] 7点(2006-01-10 01:38:21) |
1399. ビッグ・リボウスキ
《ネタバレ》 破天荒な人間たちによる、破天荒な人間模様。一筋縄ではいかないドミノ倒しのようなストーリーは、形があってないようなもので、一歩間違えば映画の体裁を保てないようなところを、きっちりまとめ上げるあたりが、映画人コーエンブラザーズの妙だろう。 メチャクチャなキャラクターを(ある意味)きっちりと演じきる俳優たちがそれぞれ素晴らしい。特に、グッドマン、ブシェミ、タトゥーロらは、コーエン作品の常連らしい映画世界の空気に合った息遣いを見せてくれる。 この映画は、特異なブラックユーモアに包まれた大人の寓話だと思う。 [DVD(字幕)] 5点(2006-01-08 02:58:36) |
1400. 皇帝ペンギン
自然界の動物の生態を指して、「親子愛」だとかそういう擬人的な価値観を押しつけることは出来ない。そんなのは、紛れも無い人間のエゴだ。そういう意味では、この作品のスタンスは少し過剰だとも思う。ただ、映し出されるペンギンたちの姿は、どうやったって「本物」なわけで、そのひとつの“生命”としての“生き様”には、純粋で力強い感動が生まれる。 もし、彼らの姿にどうしても、「愛」というフレーズをもって表現したいなら、それは、生命としての本能としての愛、すなわち「生命愛」であろう。 [DVD(字幕)] 7点(2006-01-07 02:49:24)(良:1票) |