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141.  受取人不明
これは凄い。10点つけさせてもらう。たいていのほかの映画が甘っちょろく思えてしまう。70年代の韓国と現代の韓国とでは、時代のきびしさが違うということなのだろうが、『サマリア』とは時代が違うのだ。最初、この監督の絵の作り方や作品の感じが、北野武と似たところがあるなと思ったが、これに比べると北野武ものもずいぶんと甘い。ところで、この監督はエリック・サティーが好きらしい。
[DVD(字幕)] 10点(2006-10-22 06:07:02)
142.  スターマン/愛・宇宙はるかに
ジョン・カーペンター にしては甘いラブストーリーだが、「宇宙人」対「地球人」の関係は、かつての「宣教師」対「未開人」に該当し、しかもこの野蛮な未開人にもいいところがある、というジョン・カーペンターの視点がミソだ。こうした視点はほかのカーペンター作品にも通底している。
[DVD(字幕)] 8点(2006-10-01 04:56:43)
143.  ゼイリブ 《ネタバレ》 
第二次大戦中の日本でも、街のいたるところに「ぜいたくは敵だ」とか「欲しがりません勝つまでは」といった標語が掲げられていたという。「産めよ殖やせよ」といったスローガンもあった。この映画のように、巧妙に人々の潜在意識下にスローガンを刷り込ませているような政策が、ひょっとするとわれわれの知らないだけで、すでに国家によって実施されているかもしれない。異星人による侵略、というのは、話を面白くみせる「B級映画」の手法なだけで、権力側の操作による国民のひそかな支配というテーマは現実味がある。ところどころ遊び心もあって(たとえば、プロレス出身の役者によるプロレス流格闘シーン)、ジョン・カーペンターでは一番好きな作品。ブルース調の音楽がいい。
[DVD(字幕)] 9点(2006-10-01 04:54:34)
144.  ゴースト・オブ・マーズ
「文明」対「野蛮」。しかし「野蛮」側から見れば、自分たちが「先住者」であり、「文明」側が「侵略者」なのだという視点を欠かさない。ということは、未来の火星を舞台にしていながら、実は批判的西部劇だ、これは。あるいは、「大航海時代」に東南アジアあたりの島で実際に起きた事件とまるでそっくりではないか。原住民に襲撃され、殺害されるヨーロッパ人商人と宣教師。ここでほうほうのていで脱出する列車は、かつてのガレオン船だ。これまでのカーペンター作品同様、主人公は「スレイヤーズ」側で、敵をやたらめったら殺しまくるが、やられる「魔物」側はというと、そう単純に悪一辺倒でもなく、その主導者は影の主人公といっていい。そして、真のヒーローはきまってアウトローだ。ジョン・カーペンターの視点は、これまでと変わらない。それはともかく、いつもながら音楽が理屈抜きにかっこいい。
[DVD(字幕)] 7点(2006-09-26 05:11:51)(良:2票)
145.  ニューヨーク1997 《ネタバレ》 
 もうこれはこの手の映画の第一級の古典といっていいのでしょう。日本もこれから凶悪犯罪者が激増して、刑務所が満杯でもたなくなれば、どこかの島をこんなふうにあてて、「島流し」を政府は検討し出すかもしれない。まんざら荒唐無稽ばかりでない近未来。それはそうと、ラストでまんまと当局にいっぱいくわせつつ、署長の再雇用の提案にも見向きもせず、飄然と立ち去ってゆくスネークの反権力ぶりが素敵だった。
[ビデオ(字幕)] 9点(2006-09-24 04:41:14)
146.  ヴァンパイア/最期の聖戦
 これをたんなるスプラッターと見てはいけない。ヴァンパイアとカトリックとの間のあいまいな相関関係に、これぞ「B級映画」の手法をもって、鋭く斬り込んだ傑作。
[DVD(字幕)] 10点(2006-09-24 04:20:48)
147.  容疑者 室井慎次
 『交渉人 真下正義』が知的犯罪vs.捜査官の丁々発止のせめぎあい、それもハリウッド風のパッパラパーの陽性だったのに対し、こちらは犯罪そのものは全然ショボい。そのかわり、この国の警察と司法の救いがたい有様に中心を移している。その分、このシリーズのなかでは最も陰性でシリアスだ。けれども、警察庁と警視庁、検察庁に弁護士軍団、刑事警察と公安警察などといった体制のことを、多少ともお勉強しておかないと、なにがなにやらわからない。高村薫の合田雄一郎ものサスペンス小説あたりでも読んでおかないと、この複雑でストレスのたまる非人間的世界が、われわれ一般庶民には想像がつかない。この室井慎次は、はめられて失脚の憂き目にあって、ようやく失っていた人間性を回復した、というところか。本当はきっと、こんなの一人もいないんだろうなあ。こんなのが一人ぐらいいてほしい、という作者の願望と主張なのだ。社会派ドラマというやつで、それなりに面白かった。
[DVD(邦画)] 7点(2006-07-24 07:00:23)
148.  マークスの山
 はっきり言って、崔洋一という人の映像は悪趣味だ。悪趣味な猟奇的場面の映像がいくつか強く印象づけられて、それだけが観た後に残った。何年か前に観た時そうだった。このたび原作を読んだので、もう一度観てみたが、やはり同じだった。わかったことは、原作ではこのように猟奇的シーンが強調されているわけではないということだ。たしかに事件は凄惨だし、警察内部のややこしい対立につきあわされるけれども、それでも高村薫の文章には不思議とさわやかなものに裏打ちされているところがある。ところが、この映画にはそうした隠れた清涼感がまるごと抜け落ちて、かわりに悪趣味なシーンがこれでもかと加えられている。話も二時間強にまとめるためだろう、適当に削除、単純化してあるのはしかたがないとは思うが、長い年月のあいだの複数の平行する出来事がひとつに結びついてゆく感興はなくて、ただやたらと人が死んでゆく話になってしまった。
[ビデオ(邦画)] 3点(2006-07-23 04:56:01)(良:1票)
149.  電車男 《ネタバレ》 
内気な人間なら誰でも一度は抱いたことがあるような、妄想を描いた映画。観る者に身もだえさせるほど、気恥ずかしくも美しい妄想。しかし、あまりに夢物語のストーリーに、作り手自身が気恥ずかしくなったのか、お話は妄想でしかありませんでした、という最後のオチは、「そうだろうな、そんなわけないわな」と現実に引き戻す。ところで、これは主人公の妄想でした、という無茶などんでん返しは『カリガリ博士』か。いや、電車の中で定期券を拾う一瞬に見た妄想だということならば、これは中国の古典『邯鄲の夢』か。どうせなら、とってつけたようなオチでがっかりさせるようなことはやめて、とことん妄想で終わってほしかった。どうせ映画は映画で、現実でないのだから。妄想でもいい、皆が幸せな気分で元気になるなら。作者もそこがねらい目ではなかったか。
[DVD(邦画)] 7点(2006-07-16 08:24:29)
150.  宇宙戦争(2005)
特撮・特殊効果、すばらしい。一方、おはなし、なんともオソマツ。観客をなめとんのかい? そんなところで、つまりたんなる見世物興行の映画でした。それから、あの二人のガキ。うっとうしい、ただただイラつく。父親の稼ぎであんないい暮らしさせてもらっておきながら、あの態度はなんだ。私なら、まず最初に宇宙人に差し出します。あれが現代の家族の一典型なのでしょうか。それに群衆。アメリカ人というのは身勝手な野獣の集まりか。こわいですねえ。というわけで、一般にこの手の映画は、宇宙人というより、むしろ人間のこわさ恐ろしさが出るものですね。 
[DVD(吹替)] 2点(2006-07-04 15:08:16)(良:1票)
151.  ヴィタール
この映画作家のものは以前『鉄男』をざっと観て流したほかは、『双生児』を一度観ただけだけれども、この人の素材への偏執狂的ともいえる熱中とこだわりには感服いたしました。無機質の鉄から有機質の人体へ。それも生きた身体でなく死体解剖へ。「記憶」ですら有機質に残された構造であって、生命とは持続する有機質の構造にすぎず、死者も誰か生者の有機質の構造に持続している限り生きている......。岸部一徳と國村隼は私の好きな俳優で、本作でも期待にたがわず光っておりました。浅野忠信もいつもの自然な演技を越えて、たんなる有機質の演技の域へと進み出ていて、よろしゅうございました。
[DVD(邦画)] 8点(2006-07-03 19:37:18)
152.  レディ・ジョーカー 《ネタバレ》 
 映画を観て、よくわからなかったので、さっそく原作を買って読んだ。それからもう一度観た。なるほど、切れるところはばっさり切り、詰めるところは詰め、はしょりにはしょって2時間におさめてある。これは脚本家の技といってよく、そうとう練り上げた苦労がうかがわれた。そのうえ映画的効果も加味してある(たとえば、ワゴン車張り込みのシーンの雨天、カップルを襲う際の馬の仮面、置き去りにされたレディに与える笛・クリスマスケーキなど......)。ただ、社長の孫娘をより悲劇のヒロインに仕立てる意図なのか、そもそもの事件の発端を「わたしが駆け落ちしようと言ったから」と別の形で押し出してあるのは、かえって恋人の事故死の原因を弱くし、あいまいにしてしまって、いただけない。また、四人が犯行にいたる過程と、最後のあたりの超スピードのはしょりすぎは否めず、全体にもう少しじっくり描いて、最低3時間50分ぐらいはかけてほしかった。演出と撮影はしっかりしていたし、役者陣では社長と副社長の長塚京三・岸部一徳のほか、とくにヨウちゃんの加藤晴彦と半田の吉川晃司がはまっていたように思う。とにかく、もしディレクターズカットの完全版があるなら、再公開してみてもらいたいものだ。原作は文句なく凄いのだから。
[DVD(邦画)] 7点(2006-06-28 01:35:54)
153.  理由(2004)
 のっけから能書きが長すぎだった。これはいかんのちがうか、と思うと、案の定、映画になっていなかった。能書きと字幕と台詞によりかからなければ伝えられない。これはつまり脚本段階で消化不良、それをそのまま撮るのは監督の指導責任。それもこんなに早口で台詞をこなさなければならんようなものは、はっきりいって映画とちがう。この監督は映画とはなにか、本当にわかっているのか、疑問に感じないわけにはゆかなかった。『青春デンデケデケデケ』はたしかに良かった。おそらくこの映画作家は、身近で身近な領域を描くのに才能ある作家で、そこから一歩出ると、とたんに駄作を連発する作家なのだ。  インタビュー形式の構成は、まず往年の名作『市民ケーン』だが、一方、これは観客を置いてきぼりにするだけ。形式も演出しだい、ということを教えてもらった。  いや、これはインタビュー形式というより、むしろワイドショー形式というべきか。音楽も、うすっぺらな調子のものが始終流れる。タイトルはMJQ風ジャズ、はじめはサスペンス調、途中ヒューマンドラマ調をしばしばはさんで、後半はもっぱらお涙もの調。安易で軽すぎる。それならそれで、もっとするどくワイドショーそのもので描いたほうが現代的だった。 
[DVD(邦画)] 2点(2006-06-14 22:08:57)(良:1票)
154.  ゼブラーマン
 変にリアルなところと、チャチでお馬鹿な荒唐無稽が混在する、大人の絵本。それも現40代あたりの世代のためのおとぎ話か。私はこんなん嫌いじゃないですなあ。弱ったらしい、周りから見下げられる主人公が、ひょんなことでヒーローに変身するという大筋は、『悪魔の毒々』の路線。あれは若者向けでしたが、これは中年向け。しかし、よくまあこんなん制作サイドが作るのゆるしましたなあ。それを讃えて、8点。 
[DVD(字幕)] 8点(2006-05-31 15:16:34)
155.  我が家の楽園
 黒澤明がジョン・フォードから影響を受けたことは知られているが、フランク・キャプラからも影響を受けた。これを観ると、あの『生きる』の原典のひとつがここにあることがわかる。話に多少無理があるとはいえ、これがフランク・キャプラ調だといっていい雰囲気に観る者は包まれる。1930年代のアメリカが舞台だけれども、日本のバブル期や、現代の「勝ち組-負け組」の二分法で人生をみる風潮にもかかわってくるような、普遍的なテーマ性がフランク・キャプラ作品にはあった。 
[DVD(字幕)] 9点(2006-05-25 06:09:46)
156.  雲の中で散歩 《ネタバレ》 
筋が浅すぎという批判はごもっともで、私もそう思うが、この際素直に鑑賞するだけにとどめることにいたしましょう。第一に、悪人が出てこないところがよかった。撮影のエマニュエル・ルベッキの映像がよかった。なんといっても、アンソニー・クインがアンソニー・クインでよかった。ラストもよかった、よかった......。 アンソニー・クインの魅力をさらに味わいたい方は、名作『その男ゾルバ』にお進みなされるとよい。
[地上波(吹替)] 7点(2006-05-24 04:43:06)
157.  犬神家の一族(1976)
 封切りで観て以来、金田一シリーズものでは、結局これが一番好きだし、繰り返し観て楽しめるのも、結局これだ。市川崑監督からすると、おそらく不十分なところ、意に染まないところもあったかもしれない。たとえば、警察の刑事役という端役とはいえ、角川春樹を起用したのはあきらかにこの映画の傷で、あのようなドシロウトの演技を挿入したのは失敗だった。しかし、この傷を除けば、全体に見どころや雰囲気のある映像が適宜配置されているし、小沢榮太郎はじめ加藤武など役者陣も結構で、よくできた作品だと私は思う。それに大野雄二の音楽が抜群だった。なによりこの映画の雰囲気が私は好きなのだ。
[ビデオ(字幕)] 9点(2006-04-19 16:27:06)
158.  亡国のイージス
もっと硬派な映画かと期待したところが、ちゃちで御都合主義のアクション、女剣劇師の登場、お涙の親子の葛藤パターン......、意外とガキ向け(失礼)でした。『ローレライ』といい、この原作者ものはどうしたものか。むしろ『機動戦士ガンダム』のほうが、大人の鑑賞に十分堪えました。
[DVD(字幕)] 3点(2006-04-01 04:21:48)
159.  CASSHERN
私は原作のアニメを観ていないし、CGものSF映画のファンでもないが、そういうサラな観客の一人として言わせてもらうと、現代風死と再生の神話ファンタジーとして観ることができて、結構よろしいのではないでしょうか。なんといっても映像がみごとだった。近未来と古風な19世紀的近代初期の機械装置が合体しているような映像、あるいは未来のお話なのに第二次大戦中に戻ってしまったような画面は、ひょっとするとこの手のもののひとつのパターンなのかもしれないけれども、神話的な雰囲気をかもしだしていて、結構でした。それから、これも『ガンダム』あたりからの路線かもしれないが、善と悪とが単純にわりきれないところがよろしい。それに、寺尾聰、小日向文世、大滝秀治といった渋めの演技陣がいいし、これが最後の出演作品となってしまった今は亡き三橋達也の登場がうれしい。そんなわけで、けっこう良い点数を投票しておきます。 ところで、制作者の念頭にはキャシャーンというよりも、往年の傑作『ブレード・ランナー』があったのではないだろうか。
[DVD(字幕)] 8点(2006-02-19 05:41:40)(良:2票)
160.  ドッペルゲンガー 《ネタバレ》 
前半はお得意の不気味さも少々あるが、後半は軽めのスラップスティックなロードムービー。他の作品のような難渋さはないかわりに、逆に食い足らなさが残った。ドッペルゲンガーというより、ジキルとハイド。それに、ドッペルゲンガーを見た者はまもなく死ぬ、という法則が消えてしまった。主人公にはハッピーエンドより死んでほしかった。ただ、ところどころブラックな笑いがあるのは楽しめた。一度黒澤さんには、全編ブラックな笑いに満ちた作品を撮ってみてもらいたいものだ。
[DVD(字幕)] 6点(2006-02-13 04:34:43)
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