141. コマンドー
《ネタバレ》 「悪」をどんどん始末。「悪」なのかどうか不明な人たちをもどんどん始末。それにリアルに対応する事柄というのは、要するに、死刑制度容認はもちろんのこと、誤爆容認なんてことも含むだろう。こんなに政治的な映画を無批判に観るということ自体が、きわめて政治的な態度表明になってしまう。 [DVD(字幕)] 1点(2013-05-27 16:02:44)(笑:3票) |
142. 仕組まれた罠
《ネタバレ》 フリッツ・ラングのアメリカでの作品は、概して画面が妙にスッキリしていて、怖さが足りない。ドイツ時代のあの挑戦的な暗さをもう少し残しておいてもよかった。もちろんハリウッドの要請に従った結果であろうし、ゴダールが「従う人ラング」みたいなことを言ったのはこのことだろうか。「妙にスッキリ」の画面の分、主人公の理性が踏みとどまるとも見える。暴力表現を禁圧する「ヘイズコード」のもとフィルム・ノワールは暴力シーンを省略する方法に活路を見出したのであり、『仕組まれた罠』の、人を殺しに行く主人公の殺しのシーンは省略される、が、実は殺してはいない、とは、暴力シーンの省略という習わしを逆手に取る「罠」で、観客がハメられる。 [DVD(字幕)] 6点(2013-05-20 11:02:11) |
143. ファーゴ
《ネタバレ》 物象化を扱う名画の一例として『ファーゴ』はほんとうに怖い(誘拐請負人を斡旋した同僚が計画変更の不可を冷淡に告げるのは、物象化、つまり人間関係が行方不明であること、のほんの一例)。拝金的なうわついた生き方では容易に生活を失うという、これは警告の映画とすら思える。婦人警官夫妻の「人間的な」関係を挟み込む意図がちょっと甘いかもと思わせるが、物象化を浮き彫りにするためのものか。 [DVD(字幕)] 9点(2013-05-05 13:09:51) |
144. ロボコップ(1987)
《ネタバレ》 無機ロボットに襲撃されて、サイボーグ有機体である(が「人権」はない)ロボコップ危うしというとき、そこは階段で、追いかけて来た無機ロボットは階段に対応できずあえなく階段落ち。階段という繋ぎの領域で無能なのが無機的なもの。それとは逆に有機的なものは繋ぐが必ずしもその「人権」は保障されていない。ナショナリズムという冷酷な有機体主義を連想させる『ロボコップ』。 [DVD(字幕)] 6点(2013-04-29 10:28:08)(良:1票) |
145. 未来世紀ブラジル
《ネタバレ》 「出世を望まない若者たちが増えている」という。『未来世紀ブラジル』は、主人公が出世を願うかどうかが分岐点になっていて、出世コースに足を踏み入れるや冷たい競争関係など圧倒的に物象化された世界で迷子状態となる。諧謔のセンスが不条理の深刻さに厚みをもたらすのも、カフカ的なテイストだ。 [映画館(字幕)] 9点(2013-04-28 06:34:44) |
146. ブレードランナー/ファイナル・カット
《ネタバレ》 最後のぶら下がる(suspend)主人公がレプリに救出されるサスペンスの成り行きには驚く。そこで深く哀しいレプリの「奴隷」の視点が告げられる。ここしかない、この映画は。映像的に(つまり形式的に)凝った画面作りをしているので、よけいに内容的に貧しいと感じてしまう。 [DVD(字幕)] 6点(2013-04-27 11:47:58) |
147. 万事快調
《ネタバレ》 ゴダールの登場人物にありがちなカメラ目線の意味が、この作品ではなんとも判り易い、という感じ。人物たちはカメラ目線で観客に自分のモンダイを延々と(長い!)訴え、観客はずーっと聞き役、という感じ。しかしながら、撮影カメラの場所に観客は絶対にいないのだ、とはふとぞっとする事柄ではないだろうか。 つまり・・・コミュニケーションに向けるかのような人物たちのふるまいは、たんなるふるまいとして撮影カメラの前で凝固している、それだけのものにすぎない。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-25 16:02:51) |
148. めぐり逢えたら
《ネタバレ》 『ユーガットメール』同様よく出来ている。ルビッチュのようなお洒落な感じだ。二人の間にこれでもかと入る中間組織が充実している。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-17 17:15:13) |
149. 華氏451
《ネタバレ》 ナチのような「消防隊」が本を襲いまさにナチの焚書そのものであるが、ヒトラーの本『我が闘争』も焼かれるのはアイロニカルである。双方向の巨大モニターが各家庭にあり、「コンピュートピア」の息苦しさを先取りしているのは、いい。ただし要するに問題は、概念的な思考をするしないであって、現今のコンピューター・ネットワーク社会がべつに概念的な思考を禁じているわけではない(デジタル書籍もあるわけで)。要するに紙媒体が不要にされていくという現今の傾向と重なるだけだ。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-03 10:40:00) |
150. 男性・女性
《ネタバレ》 「思想では何でもできるが、感情では何もできない」。映画でそれを言うかという挑発的な言葉だが、たしかに、ゴダール映画の圧倒的に駆り立てるものは、切り分ける知性への欲求である。それはさておき、同録の雑音が台詞と同格の大きさであるのは面白い。 [DVD(字幕)] 6点(2013-02-25 15:43:37) |
151. 桐島、部活やめるってよ
《ネタバレ》 丹念に作った名品という感じである。「桐島」なるマクガフィンが引き起こす運動と細部がいちいち面白いのが身上で、「別の視点からの別の見え方」という造りは本気のねらいではなさそうだ、が、これをもっとねらってもよかったかも(『運命じゃない人』みたいに)。恋人にするならアスリートかアーティストかという古典的な二者択一がとっくに無意味のはず(アスリートの圧勝)なのに、まだ、アーティストのルサンチマン(ゾンビに化ける)は生きていた、というのが面白い。 [DVD(邦画)] 9点(2013-02-25 15:36:42)(良:1票) |
152. 君と別れて
もっと早く見たかった美しい映画。哀しい話の濁流となるところを映像のきらめきが凌ぐ。見ることができて本当に良かった。「振り返り」において水久保澄子が回る、吉川満子も回る、人物たちがことごとく「見る」から「伏目」に移行する、二階の部屋の雨戸をカップルが開けるのを「外側から」撮るのがなまめかしい(内・外のカットバック)、平熱の病床・・・というふうに、成瀬の諸特徴はすでに際立っている。「チョコレートガール」の水久保澄子が大きなチョコレートを抱いている(『チョコレートガール』も観たいなあ)。 [インターネット(邦画)] 9点(2013-01-24 12:26:47) |
153. ボローニャの夕暮れ
《ネタバレ》 かつてのイタリア・ネオリアリズムの末裔という感じの、卑近な物語だ。何のためにこんな映画があるのか、誰かの特殊な人生を見守るために映画はあるのか、などと元も子もないことを考えてしまうところだが、そこに時代を絡ませる。ただし「時代」が少々とってつけたような感じになるのもやむをえないか。母と娘の確執の本質究明がほぼ放置され、結局は父親の視点・了解の領域で打ち止めとなるのもそれはそれでリアルなのである。 [ビデオ(字幕)] 6点(2013-01-02 10:53:53) |
154. 八月の鯨
《ネタバレ》 老年のリリアン・ギッシュをなんとか確認できるが、ベティ・デイヴィスにいたっては全く同定不可能である、しかし、それはベティ・デイヴィスの知ったことではない。ひとはせっかく長年に渡って対世間用に作り上げたペルソナを老いとともに失っていくというのではなく、老いという名の熟成の時間が「あらためて自分のために深く生きる」顔へと作り直していくのだ(と思いたい)。それは絶対的で神秘的な時間だ。二人の往年の大女優に失礼のない美しい撮影である。 [DVD(字幕)] 7点(2012-12-20 11:43:46)(良:1票) |
155. 落第はしたけれど
《ネタバレ》 斎藤達雄の長い手足のコミカルな身振りが印象的である!小道具の数々がきわめて豊かな表情をみせる、なかでも自害するかにみせて足の爪を切るに切り替えるハサミ、そう万事、行き詰ったら切り替えが必要。もういちいち挙げる必要もない、最高傑作だ。 [映画館(邦画)] 10点(2012-11-28 22:01:40) |
156. バーレスク
《ネタバレ》 かつてヘイズコードは、セクシーな踊りや声を抑圧し爽やかなミュージカルに変えたと言われるが、そういう事情が飲み込める作品だ。迫力ヴォイスのセクシーな主役に実力があるのは明瞭だが、映画としては物足りないのは仕方がない。 [DVD(字幕)] 4点(2012-11-26 20:34:53) |
157. アメリカン・ラプソディ
《ネタバレ》 産みの親と育ての親の間で悩む娘という構成では足りないからと冷戦による不幸(「自由の国アメリカ」はやはり強調される)を絡ませるが、凄く退屈である。映画の前提部にすぎない設定から映画が結局ほとんど動いていない。スジ不足。 [DVD(字幕)] 4点(2012-11-19 10:40:09) |
158. 彼女について私が知っている二、三の事柄
《ネタバレ》 こういうエッセイ調の映画は、当然ながらスジの緊張感がない、流れがない、そういう「流れ」の楽しみをゴダールが意図的に拒否するのだからもう仕方がない、のだが、 「流れ」が遮断されるからこそ随所にドキッとするような生々しさが滲み出る。物語に奪取されない生々しさが。 [DVD(字幕)] 7点(2012-11-08 18:26:59) |
159. できごと
《ネタバレ》 緑青い画面が、しっとりと、ジェラシーの顛末を包む。とにかくしっとりと。こういう「負け組の内面性」が万人受けするとすれば、万人が負け組の心情に通じる? [ビデオ(字幕)] 8点(2012-11-05 20:42:30) |
160. 引き裂かれたカーテン
《ネタバレ》 冷戦に勝利するという「大義名分」のあるところ命は軽い、にも拘らず人を一人殺すことがどんなに大変なことかを、なまなましく見せる。これを見れば、趣味のように「軽やかに」人を殺す『ナイト&デイ』みたいな映画は、やはり百害あって・・・とあらためて思う。ヒッチコックという人の政治的な機能をどうこう言うのは野暮な感じだ。彼は堂々と安全なポジションを取り続けた。対ナチスドイツの戦争の文脈でアメリカ入りした英国人としてまず『海外特派員』(反ナチ映画)を撮り、やがて『汚名』を撮ったときにはすでに反ナチ(自由の星としてのFBIの描き方はヒッチコック自身の「汚名」かもしれない)が時代遅れであったし、今度は共産圏に対抗する映画へと移行することになる。東ドイツの警察がちょっとナチのようなテイストで描かれている。要するに彼はベタなまでに開き直って安全地帯で(赤狩りの危険だってあったわけだから)娯楽映画作りに専念したということか。 [DVD(字幕)] 7点(2012-11-05 11:31:05) |