141. 天使にラブ・ソングを2
前作に比べたら明らかに質は落ちるが、それでも面白さは一定に保たれている。 やはり歌のパワーは凄いと改めて実感できる反面、ラストを描きたいがための強引でご都合主義な展開が鼻につく。 それでも描きたいなら生徒の個性や心の揺れ動きにもっとフォーカスして欲しかったと。 前作みたいに正体がバレたら生命の危機というサスペンスもなく、 デロリスことウーピーでなくてはならないというストーリーではないのが一番痛い。 [地上波(字幕)] 6点(2022-12-23 23:16:24) |
142. ギレルモ・デル・トロのピノッキオ
《ネタバレ》 原典とディズニーアニメへのリスペクトを散りばめつつ、ギレルモ・デル・トロなりの解釈を加えた、 "ピノッキオの冒険"というよりは"ピノッキオの数奇な人生"に近い。 戦争と死が身近にあったムッソリーニ政権下のイタリアで、 ピノッキオは時代に翻弄されながら権力と運命に屈せず、自分の意思で試練に立ち向かう。 しかも彼は死んでも待機時間と称して、時間が経てば何度も生き返ることができる。 つまるところ、限りある生を持った人間とは違い、永遠の命を持つことの意味を彼は知ることになる。 我々が知っているピノッキオは最後は人間になるが、本作では木の人形の少年のままだ。 ハッピーエンドになっても、いつかは死という永遠の別れが訪れ、ピノッキオ一人が残される。 冒険を通じて、様々な通過儀礼を経験した彼は新たな旅に出て、その先の物語をどのように紡いだのだろうか。 寂しげで儚い終わり方であり、逆説的に言えば、 ピノッキオではない人間はたった一度の生を如何に生きるかを問われていると言える。 国家に言われるがまま、少年兵として散っていくのか? ストップモーションによる表現力もさることながら、隅まで行き届く美術を堪能。 とは言え、友情を育んだ市長の息子の消息が不明のままで、 終盤の興行師との"再会"が偶然すぎたりと、脚本的にもう少し何とか出来たと思うが。 ユアン・マクレガーによる主題歌は必聴。 すごい歌唱力だ。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-12-10 12:07:26) |
143. 人類遺産
アマゾンプライムで配信されていたので視聴。 音楽もナレーションも説明の字幕もなく、果ては人間すら登場しない。 固定カメラでかつての人の営みがあり、やがて廃れていった建造物を切り取る。 置き去りにされ、朽ちていく建造物はあまりにも寂しげであり、かつ詩的で退廃的な美しさを醸し出す。 音楽の代わりに雨の音、風の音、波の音、動物の鳴き声が音響の要として大きく際立つ。 伝えたいメッセージがあるわけでもない。 ただ、そこに何があったのか想像をかきたてる。 原発事故で時が止まったままの福島の帰還困難区域もそう。 確実に眠気に誘われる映画かもしれないが、 映画を見る体力も残ってないときでも気軽に見れる映画でもある。 そのまま彷徨い、力尽きるまでフレームの中で旅してみたい。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-12-01 23:20:22) |
144. サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-
《ネタバレ》 ミュージシャンにとって聴力を失うということは死んだも同じで、 追体験するような音響効果が否が応でも恐怖を与える。 環境音のみでBGMは一切なく、まるでドキュメンタリーのようである。 聾者のコミュニティはたいへん興味深かった。 当事者の誰もが自分を見失い、少しずつ受け入れて、 それでもまた迷っての繰り返しだっただろう。 再起のため楽器もキャンピングカーも売り払い、高額の手術も受けたが、 機械音が混ざった音しか拾えない絶望。 そして彼は人生の全てだった音楽を捨てた。 果たして障害を持つことは不幸なのか? 他人事とは思えず、一切の甘さもない結末だが、 健常者視線のモノサシと依存からの解放でもある。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-26 01:11:31)(良:1票) |
145. アンコントロール
警察に取り押さえられた外国ルーツの少年が亡くなったことで移民が暴徒化。 そのゲットー地区で襲撃された差別意識の強い威圧的なベテラン警官と事なかれ主義の若い警官の脱出劇。 そもそも亡くなるかもしれないあのタイミングでゲットーに入らなければ泥沼に陥らなかったが、 ベテラン警官の心の揺れ動きが印象的。 『レ・ミゼラブル』(2019)みたいにダイナミックな演出があるわけでもなく、 どちらかと言えば国家権力と移民の軋轢を描いたという意味では『デンマークの息子』に近いものがある。 この2作品からデンマークの移民問題のリアルが見えてくる。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-11-26 01:09:56) |
146. パプリカ(2006)
《ネタバレ》 気持ち悪くて気持ちいい。 リアル系のキャラクターデザインにどこか違和感が混ざり合うように、 夢と現実との境目がなくなって、混沌が肥大化していくさまが面白くアニメでしか表現できない。 夢は言語化できないもので、その願望がまとまらないからこそ、具現化するためにもがく姿が現実とリンクする。 敦子が時田を救うために、理想の自分であるパプリカから独立して現実を勝ち取るように。 ハリウッドにも影響を与え、細田や新海を超えるだろう監督の早世が惜しまれる。 [地上波(邦画)] 8点(2022-11-26 00:52:31)(良:1票) |
147. ガールズ&パンツァー 最終章 第3話
《ネタバレ》 引き続き知波単学園との長期戦に決着。 今回は奥行きのアクションが多く、如何にバリエーション豊かに描いているか、 結末を知っていても過程は見えないので緊張感がある。 知波単学園の成長は見られたが、浮かれて負けるあたり詰めが甘い。 アンツィオ高校同様、決勝まで行くにはまだ数年は掛かりそうである。 決勝戦は、エキシビジョンとは言え、一度も勝てていない聖グロリアーナになりそう。 その前に、第三回戦の継続高校の強敵ぶりに、あんこうチームが白旗を上げ、 主人公不在でさらなる緊張感が高まる引き際が良い。 最終章も折り返し地点、近づく完結に寂しさを感じる。 [映画館(邦画)] 7点(2022-11-26 00:51:35) |
148. 愛してるって言っておくね
《ネタバレ》 理不尽な形で娘を喪った夫婦。 無意識に避けてしまう現実に、娘との思い出が積み重なるほど辛くなって── 時間が元に戻ることはない。 悲しみも癒えることはない。 それでも娘のために生きていく。 遺された夫婦が立ち直る意思を持つカットが温かくも切ない。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-26 00:50:24) |
149. ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!
《ネタバレ》 タイトルからして終末もののSFコメディかと思っていた。 エドガー・ライト×サイモン・ペッグ×ニック・フロストのトリオなので、 やはり田舎町が"異端者"に支配された異色コメディだった。 『フロム・ダスク・ティル・ドーン』を彷彿とさせるムチャクチャ感はなんだかんだ言っても楽しい。 しかし、ハシゴ酒とエイリアンの組み合わせが活かされていないので、 双方とも取って付けたような消化不良さが否めない。 在庫処分的に消えていく主要キャラの使い方もイマイチ。 テーマとして、グローバル社会とテクノロジーをエイリアンが牛耳っていた風刺ものであり、 グローバル社会に適応できない主人公の逆切れにエイリアンが委縮して地球崩壊というのも安直な気がする。 便利さと引き換えに物質社会と制度に支配された人類への痛烈な皮肉。 物や制度、逃避のための酒から解放され、流れ者になった主人公が生き生きとしてて毎日が楽しそうだ。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2022-11-26 00:46:20) |
150. 復讐者に憐れみを
《ネタバレ》 聾唖の青年は"純真"だったが"無知"だった。 でなければ、こんな悲劇と報復の連鎖を招くことはなかったかもしれない。 病床の姉を想うが故の、たった一つのボタンの掛け違えが大量の死体を生む。 コーエン兄弟を思わせる底意地の悪いユーモアが、貧困を背景にした悲惨な物語を一層際立たせる。 (社長を刺し殺した男達は恐らく解雇された労働者だろう)。 次回作の『オールド・ボーイ』同様、パク・チャヌク監督の丁寧な撮影構図が光り、 幾重に折り重なった復讐劇を描いた本作の完成度は高い。 劇画タッチとは程遠いリアル志向の容赦ない暴力描写が復讐の虚しさに説得力を出しているよう。 それでもやってしまうのが人間の性だろうし、 キリストの如く全ての業を背負うように死んでいく社長は、果たした復讐に対して安らぎを得たかもしれない。 [DVD(字幕)] 8点(2022-11-26 00:32:17) |
151. ファニーゲーム U.S.A.
《ネタバレ》 オリジナル版視聴済。 ストーリー、カット割り、カメラワークはほぼ同じなため、 逆にリメイク版から見た人にとっては結局不愉快なだけで手玉を取られることになる。 しかし、オリジナルを見た以上、どうしても比較せざるを得ないのも事実。 慣れなのか、オリジナルほどの不快感がなく、ナオミ・ワッツ、ティム・ロスといった有名俳優の起用、 生活感のない洗練された映像、ハリウッド特有のドライさがあってか、フィクション色がさらに強まり、 かえって陰惨な感じが薄まってしまった。 一線を超えた何かがこの映画には感じられなかった。 いっそのこと、ラストにもう一つ付け加えた方が良かったかもしれない。 暴力ゲーム(つまり本編)をクリアした子供とそれに無関心な親の会話を挿入するなりして。 アメリカへの嫌がらせのために焼き直しした割に全然効果なかったね、ハネケさん。 [DVD(字幕)] 5点(2022-11-19 00:29:18) |
152. 夜と霧
《ネタバレ》 32分で人生に影響を与えるかもしれない映像体験。 カラーで描かれる青空と緑の平野と対比するように、かつてここが強制収容所だったこと、 そして虐殺があったことをモノクロの映像で淡々と綴っていく。 死体の山をブルドーザーでかき集めていく有名な映像がかつてテレビでも放映されたが、 生首と人皮の工芸品のくだりは実際にあったのかと思考する余裕を与えないほどの"生々しい非現実さ"があった。 終戦からわずか10年で虐殺に向き合った事実に本作の真価があるだろう。 現在までに世界中で虐殺が繰り返され、他方で他人事のように見て見ぬふりをする我々もまた共犯者だろう。 [DVD(字幕)] 9点(2022-11-19 00:23:45) |
153. 月世界旅行
着色版で視聴。 約120年前の月への憧れがこういうものだと思うと興味深い。 最初から最後まで荒唐無稽ながら、舞台ではできない演出に当時の人たちは驚いたのだろう。 歴史的価値を考えれば甘めの評価になるかもしれないが、短い上映時間で今見ても楽しめる。 SF映画の原点ですね。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-19 00:22:09) |
154. トラフィック(2000)
麻薬戦争の現実をただ描いたと言えばそれまで。 それは麻薬とは無縁の生活を送っている人間にとってあまりにも非日常すぎるからかもしれない。 多くの登場人物が複雑に入り乱れるが、舞台ごとに色使いを分け、 主要三人を絡ませないことで比較的分かりやすくはなった。 今日でも耳にする麻薬撲滅を掲げ惨殺された現地要人のニュースに、 永遠に終わることのない本作の泥沼の戦いを思い起こさせた。 [映画館(字幕)] 6点(2022-11-19 00:03:13) |
155. 華麗なる晩餐
《ネタバレ》 人の欲望に底はない。 絶滅危惧種の動物を使ったあらゆる肉料理を汚く貪る富裕層。 床の底が抜けて埃まみれになっても貪り、 理性が崩壊して料理を奪い合い、幾度も底が抜けてどこまでも落ちていく。 彼らをもてなす給仕係不在の世界に何が待っているのか… 「それはあなたが御存知なのでは?」と見透かしたように眼で語る給仕長。 食卓に並ぶ肉でさえ、誰かが屠り捌かないといけない。 上に立つ人ほど謙虚さを持ち、限られた資源を上手く活かしていく。 ただ、痛烈な風刺ほど上の人には届いていないようだ。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-18 23:56:22) |
156. グッバイ、レーニン!
《ネタバレ》 息子が母のためにつき続けた"優しい嘘"。 外から見れば、東西統一のドイツは希望と共栄の象徴のように見えるが、 東側の当事者からしたら社会システムが大幅に変わり、職を失い、落ちぶれた人もいた。 反体制寄りの息子が気付けば東ドイツに肩入れしている様は皮肉とも言える。 2020年代、氾濫し押し付けてくるSNSのプロパガンダにうんざりしつつも、 片や本作における当時ならではのアナログな手法で誤魔化す辺りは可笑しくも切ない。 歴史の真実も息子の嘘も知りつつも、母は"こうあって欲しかった歴史"を受け入れていく。 「見たいものしか見ない」という分断が現代社会の陰影を濃くさせていく。 ただ、一番必要なのは巨大な存在に身を委ねない個人の器の大きさそのものだろう。 母の死により家族ははじめて一つの時代の終わりを迎えられた。 東ドイツ時代の郷愁を胸に、山積みだらけの問題を抱えながらも彼らは新しい時代を生きていく。 タイムスリップしたかのように『マトリックス』のTシャツを友人が着ているサービス精神といい、 『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』を見てると楽しめる小ネタあり。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-14 20:33:24) |
157. キャメラを止めるな!
《ネタバレ》 ミシェル・アザナヴィシウス監督はかつて007のパロディ映画を撮ったり、 サイレント映画へのオマージュ『アーティスト』でアカデミー賞を受賞するなど、 映画についての映画を描いてきたのに、リメイク版ではそれが上手く活かされていない。 思うに保守的で思い切りの良さに欠けている、オリジナリティがなかったことが露呈されている。 オリジナルを見ている人は仕掛けを知っているわけで、 「日本でヒットしたゾンビ映画(劇中劇)のリメイクを撮る」というコンセプトの中で新しい仕掛けを期待していたはず。 やっていることはオリジナルの設定と物語をなぞっているだけで、リメイク版で変更・追加した部分が空回りしていた。 これが作品のテンポと切れ味を鈍くしている。 家族ドラマとしても希薄だ。 仏実写版『シティーハンター』のスタッフだったら、オリジナルを尊重しつつも革新さを出せたかと思うと残念。 いっそのこと、韓国リメイクやハリウッドリメイクも作って、 シリーズに登場してきた俳優たちが一堂に会する展開くらいは欲しい。 [インターネット(字幕)] 4点(2022-11-14 20:32:38) |
158. 羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来
《ネタバレ》 5話構成で分割されたテレビ放送で視聴。 日本アニメの下請けで鍛えられただけあって、 道中で移り変わる中国の原風景がジブリテイストだったり、 ドラゴンボールやマーベル映画を彷彿とさせる市街戦が繰り広げられる。 キャラデザも言わなければ日本アニメと勘違いしてしまうくらいの親和性がある。 日本アニメと中華文化の良いとこ取りがプラスに働いた形だ(悪く言えば、オリジナリティは低い)。 当初、シャオヘイを家族のように受け入れたフーシーは、 その力を反逆に利用するヒールとしての側面があるが、 シャオヘイに対する愛情は本物であり、絶対的な悪ではない魅力があった。 一方、残されたシャオヘイを無理くりに連れ出し、一見ヒールに見えた執行者のムゲンも 不愛想ながらコミカルさが表れてきて、敵対関係が次第に疑似親子的な師弟関係になっていく。 シャオヘイはどちらの未来を選ぶのか。 言わば、壮大なスケールで描かれる親権争いである。 単純に映画としては面白いが、プロパガンダ的な側面が微かに感じられる。 人間と自然の共存も、執行者の設定と活躍も、 現代の中国社会ならではの、どこか後ろめたい暗喩を感じてしまう。 (そんなこと言ったら、日本のテレビ時代劇もほとんどが権力者側が主役である)。 今後、2本の劇場版が作られるがどうなっていくか注視したい。 [地上波(吹替)] 7点(2022-11-05 01:14:08) |
159. るろうに剣心 最終章 The Beginning
《ネタバレ》 最後まで雑に終わったThe Finalと比べると、別の映画みたいにテイストが真逆でしっとりとした印象を受ける。 殺人マシーンだった剣心と仇を愛してしまった巴が人間性を取り戻す過程は良いものの、 無駄な台詞が多い、勿体ぶった描き方で2時間強は長すぎた。 最後まで回想(倒幕まで)に絞った構成、巴役は好演だっただけに、 シリーズ全体に言えることだが、なぜ無駄な贅肉をつけすぎてしまうのか。 改めて一作目は不満はあれど、それなりにブレークスルーしてたんだな。 [地上波(邦画)] 5点(2022-10-30 22:11:53) |
160. るろうに剣心 最終章 The Final
《ネタバレ》 一本調子だった伝説の最期編と比べればアクションは頑張っていると思うが、 相変わらずストーリーとキャラの描き方が雑すぎる、そして「もっと削れたよね?」と展開引き延ばしすぎ。 原作でも突っ込まれていた薫のフェイク死体のくだりは要らないし、 原作の人誅編には登場しなかった宗次郎が唐突にサービス出演(その過程を描くべきでは)、 下敷きになってそのまま退場した蒼紫をはじめ、レギュラー陣のエンディングはほぼ触れられず。 最後まで消化不良のまま終わってしまった。 [インターネット(邦画)] 4点(2022-10-30 22:07:52) |